2025年12月13日 (土)

今週の読書は来年度の1-2年生向け授業を意識し計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。来年度に1-2年生向け授業を担当しますので、それを意識した計5冊となります。
まず、一橋大学経済学部[編]『新・教養としての経済学』(有斐閣)では、一橋大学経済学部の教授・准教授陣が、大学経済学部の初学者、あるいは、相当にアドバンスな意識の高い高校生を対象に、経済学とはどういう学問かをやさしく解説しています。宮田庸一・阿部俊弘『実践のための統計学』(アイ・ケイ コーポレーション)では、章別に、1変数=ユニバリエイト、2変数=バイバリエイト、単回帰、重回帰、と順を追って解説が加えられた後、本格的に確率や統計の方に展開し、確率分布、標本分布、統計的推計、仮説検定などと統計学の学習を進めます。川本真哉・齋藤隆志・水落正明『データ分析を使ったレポート・論文ハンドブック』(中央経済社)は、データ分析を用いた論文やリポートの内のデータ分析部分だけではなく、そもそものテーマの探し方などから始めて、最後の論文の内容や体裁などまで、詳細なガイドブックとなっています。青柳碧人『乱歩と千畝』(新潮社)では、タイトルから容易に想像されるように主人公は江戸川乱歩と杉原千畝です。その主人公2人のパーソナル・ヒストリーを追い、2人の人生に邂逅する横溝正史や松岡洋右、あるいは、ほかにも名の知られた数多くの小説家や政治家・外交官が登場します。似鳥鶏『みんなで決めた真実』(講談社)では、近未来の日本を舞台に、刑事事件、特に殺人事件については情報公開が進んで、いわばエンタメ化してテレビ放送として裁判が実況中継され、その裁判では名探偵が登場してテレビ局のシナリオに沿ってトリックを暴いて謎解きを披露する、というCase Documentar=CDが一般化しています。
今年2025年の新刊書読書は1~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って先週の6冊も含めて299さつ、今週の5冊を加えると合計で304冊となります。昨年に続いて、今年も年間で300冊に達しています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、一橋大学経済学部[編]『新・教養としての経済学』(有斐閣)を読みました。編者については、今さら私ごときが言及する必要はないと思います。本書は2013年に出版された『教養としての経済学』の改訂版であり、大学経済学部の初学者、あるいは、相当にアドバンスな意識の高い高校生を対象に、経済学とはどういう学問かをやさしく解説しています。私も、一応、経済学部生ではなく他学部生のしかも1年生を相手にする授業がいくつかあり、そもそも経済学とはなにか、についても必要に応じて教えています。最適化や均衡といったいくつかのキーワードを基に、新たな価値が付加されたり、あるいは、保存されたりし、最後に、使い尽くされる財やサービスを労働や資本を用いて生産し、分配し、輸送したりする経済活動をシステムとして理解し、あるいは、解明しようと試みる学問である、と教えています。まあ、判ったような、判らないような定義です。本書では、第Ⅰ部で日本・世界経済の現状を概観した後、環境問題、データ分析、理論モデル、マクロ経済と金融、歴史、数学と統計学を各部で詳述しています。私自身はマクロ経済学が専門なのですが、本書では、マクロ経済についてはほとんど言及なく、マクロ経済とは景気循環や財政ではなく金融が大きな部分を占める、といわんばかりの扱いになっているのは少し残念です。GDP統計や成長とか、失業とか、もう少しマクロ経済のトピックが欲しかった気もします。極めて多数の教員や研究者が執筆に当たっていますので、精粗まちまちで、難易度もまちまち、参考文献も大量にあったりなかったり、というのは仕方ないものと考えるべきですが、いずれにせよ、こういった試みはそれほど多くないので、大いに参考になります。

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次に、宮田庸一・阿部俊弘『実践のための統計学』(アイ・ケイ コーポレーション)を読みました。著者は、高崎経済大学経済学部の准教授と法政大学経済学部の教授です。どちらも経済系の研究者と考えてよさそうです。章別に、1変数=ユニバリエイト、2変数=バイバリエイト、単回帰、重回帰、と順を追って解説が加えられた後、本格的に確率や統計の方に展開し、確率分布、標本分布、統計的推計、仮説検定などと統計学の学習を進めます。基本的には、経済系のデータを分析するのに必要かつ十分な内容であり、ほかにも心理学、社会学、医学薬学なんかにも役立ちそうです。ただ、あくまで統計学であって、計量経済学とは違います。ですから、私なんかが決定的に不足していると考えるのは時系列データの分析です。すなわち、おそらく、マクロ経済学だけだという気はしますが、経済データは多くの場合、時系列で並んでいます。GDPは四半期で分析したり、年データとして扱ったり、失業率や物価指数は毎月発表される、といった具合です。年々や月々の変動を問題にするわけで、その変動は、GDPだと成長率、物価指数だとインフレ率、などと呼ばれるわけです。失業率が上昇するか、低下するかで、内閣支持率も上がったり下がったりする可能性があるわけです。そのあたりの、マクロ経済データを時系列として扱う分には少し不満が残ります。でも、統計学のテキストとしては、繰り返しになりますが、必要にして十分な内容となっていると感じました。ただし、私大文系の学生にはややもすれば欠ける要素として、高校レベルの数学的な素養が必要です。すなわち、数式は詳細に展開されており、実際の数値例も豊富に収録しています。微積分や三角関数、ましてや、虚数なんてのは出てきませんが、繰返しになりますが、高校レベルの数学力は必要です。しかも、これも繰返しになりますが、私の経験では、この「高校レベルの数学力」を十分身につけている経済学部生は決して多くありません。

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次に、川本真哉・齋藤隆志・水落正明『データ分析を使ったレポート・論文ハンドブック』(中央経済社)を読みました。著者は、立教大学経済学部教授、明治学院大学経済学部教授、関西大学経済学部教授です。すなわち、すべて経済学部の教員であり、本書も経済系の内容と考えてよさそうです。データ分析を用いた論文やリポートの内のデータ分析部分だけではなく、そもそものテーマの探し方などから始めて、最後の論文の内容や体裁などまで、詳細なガイドブックとなっています。ただ、私の勝手な感想ながら、私自身が探しているのが1-2年生向けのデータ分析の解説書でしたので、やや難易度が高い気がします。私の勤務校である立命館大学のように、卒業論文を提出する必要のある4年生向け、ないし、大学院修士課程初年度性向けとしての用途なのではないか、という気もします。ただ、義務教育段階とは違って、大学まで至ればレベルは千差万別であって、本書のレベルは1-2年生向けと考える大学もあるのかもしれません。

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次に、青柳碧人『乱歩と千畝』(新潮社)を読みました。著者は、エンタメ小説家であり、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』で第17回本屋大賞にノミネートされ、『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』などのヒット作があります。本書は、大正期から昭和の戦争を挟んだ時期というかなり長いタイムスパンを持つ小説であり、タイトルから容易に想像されるように主人公は江戸川乱歩と杉原千畝です。小説ですので、あくまでフィクションであり、どこまで歴史的な事実に基づいているのかは別にして、主人公2人は5歳違いで同じ愛知5中と早稲田の同窓であり、著者も早大ご出身ではなかったかと思います。早稲田近くの食堂でカツ丼を食べる際に主人公2人がいっしょになったあたりから小説が始まります。後は、極めて有名な2人ですので、江戸川乱歩は「二銭銅貨」でデビューしてミステリ作家になり、杉原千畝は外交官となります。その主人公2人のパーソナル・ヒストリーを追い、2人の人生に邂逅するミステリの編集者・作家である横溝正史や戦前期に外務大臣を務めた松岡洋右、あるいは、ほかにも名の知られた数多くの小説家や政治家・外交官が登場します。終戦後に江戸川乱歩は明智小五郎シリーズ、特に、少年探偵団のラジオドラマなどで有名になりましたし、世界大戦中に杉原千畝は本省の意向に沿わない形で、ヒトラーのドイツを逃れたユダヤ人に日本の通過ビザを出して、多くのユダヤ人を救っています。互いの人生が交差してラストに進みます。

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次に、似鳥鶏『みんなで決めた真実』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、2006年に『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選してデビューしています。アンソロジーに収録されている短編を別にすれば、単行本や文庫本としては初読の作家さんかもしれません。本書はミステリであり、最後は謎解きや事件真相の解明となりますが、舞台は近未来の日本であり、刑事事件、特に殺人事件については情報公開が進んで、いわばエンタメ化してテレビ放送として裁判が実況中継され、その裁判では名探偵が登場してテレビ局のシナリオに沿ってトリックを暴いて謎解きを披露する、というCase Documentar=CDが一般化しています。ですので、犯人は適当にしつらえられて役割が割り振られ、無実であるにもかかわらず有罪を宣告されたりしてしまいます。しかし、そこはエンタメ化しているため、執行猶予のついた判決を得て、逆に、犯人としての立場からCDの放送でコメンテータを務めたり、本を出版したりするようになっています。そして、本書の主人公は法学部に通う大学生の貞末悠人であり、主人公がたびたび訪れる介護施設に入居している芳川昭は、すでに引退していますが、血縁でもない主人公から「じっちゃん」と呼ばれて慕われており、かつての名探偵で現在のCDで名探偵が披露する謎解きの間違いを指摘します。そして、同じ施設の老女の孫がJAXAの宇宙飛行士を目指して2次選考まで通過していながら、CDで犯人にされてしまいます。この裁判でじっちゃんの芳川昭が真実を解明して、しかも、徹底的にCDエンタメを根底から成り立たないような活躍をします。

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2025年12月12日 (金)

12月調査の日銀短観はほぼ横ばい圏内の動きか?

来週12月15日の公表を控えて、各シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2025年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+14
+34
<+8.4>
n.a.
日本総研+15
+35
<+9.2%>
先行きは、全規模・全産業で12月調査から▲4%ポイントの低下を予想。非製造業では、日中関係の悪化に伴う訪日中国人旅行者の落ち込みに対する懸念が業況を下押し。もっとも、① エネルギー安によるコスト削減圧力、② 物価の鈍化を受けた消費回復への期待、が業況を押し上げ。12月調査からの下振れ幅は、従来の傾向と比較して小幅となる見通し。
大和総研+13
+36
<+8.0%>
12月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+14%pt(最近からの変化幅: +1%pt)、 同非製造業は+35%pt(同: ▲1%pt)を予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+15
+34
<+9.5%>
景況感の改善は緩やかなペースにとどまるとみている。自動車の輸出数量が回復に転じている要因のひとつとして、輸出価格の引き下げが挙げられる。米国側の輸入企業が支払う追加関税コストを、事実上、日本の自動車メーカーが一部負担している格好だ。こうした企業行動は限界利益率の低下を通じて経常利益を大幅に下押ししている。そうしたもとで、2025年度の業績については自動車産業など、米国の輸入関税率が大きく引き上げられた業種を中心に悪化が見込まれる。米国市場で過度に価格を引き上げれば売上数量に下押し圧力がかかるため、安易な価格転嫁は難しい。こうした事情を踏まえると、自動車産業では当面関税コスト負担が継続する可能性が高い。その他の製造業においても15%の追加関税が適用されているが、関税上昇分のフル転嫁は当面難しいだろう。
ニッセイ基礎研+16
+34
<+8.5%>
先行きの景況感は総じて悪化が示されると予想。製造業では、高関税が続くことや関税が再び引き上げられるリスクへの警戒感が燻るだろう。非製造業では、長引く物価高による消費の腰折れや人手不足への懸念のほか、円安による原材料費増加や日中関係悪化に伴うインバウンド需要減少への警戒が台頭し、先行きの景況感の悪化として現れると見ている。
第一生命経済研+15
+33
<大企業製造業14.3%>
設備投資の勢いは、たとえ日銀が+0.25%程度の利上げをしたとしても揺るぎはしないであろう。そうした腰の強さも、日銀が円安是正を主眼にして追加利上げをするときの自信につながるだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+16
+34
<大企業全産業+11.0%>
(大企業製造業) 先行きは、海外経済の下振れ警戒感などから、業況判断DI(先行き)は2ポイント悪化の14と慎重な見通しとなるであろう。
(大企業非製造業) 人手不足の深刻化、日中関係の悪化への警戒感などから、業況判断DI(先行き)は4ポイント悪化の30と慎重な見通しになるだろう。
農林中金総研+15
+33
<8.0%>
先行きに関して、製造業ではトランプ関税による悪影響は今後も浸み出すと予想され、懸念は払拭できないだろう。非製造業については足元でみられる消費マインド改善は業績や景況を下支えするものの、日中関係の悪化に伴うインバウンド需要減少への懸念が反映されるとみられる。また、人件費増が業績圧迫につながることへの警戒感、人手不足が深刻な業種では業務を順調にこなせないことへの不安も根強いとみられる。以上から、製造業では大企業が12、中小企業が▲1と、今回予測からそれぞれ▲3ポイント、▲2ポイントと予想する。非製造業では大企業が27、中小企業が6と、今回予測からいずれも▲6ポイントと予想する。

見ての通りで、大企業製造業・非製造業ともに景況感についてはほぼ横ばい圏内の動きと私は考えています。製造業に関しては米国の関税政策がマイナス要因である一方で、プラス要因としては、特に、高市内閣になってからの円安の進行が輸出に追い風となり、AI関連需要も盛上がりを見せています。非製造業に関しては、製造業よりもややネガな印象で、何といってもインフレ高進による消費者マインドの悪化に加えて、日中関係の悪化に伴うインバウンド消費にも警戒が必要な段階に達していると私は考えています。ただ、いずれも、決定的に大きな動きをもたらすものではなく、総じて見れば製造業・非製造業ともに横ばい圏内、ということなのだろうと思います。設備投資についても同様で、上のテーブルを見ても、9月調査からの上方改定を見込むシンクタンクもあれば、下方修正を予測するケースもあります。私自身は小幅な下方修正と考えています。
最後に、下のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから引用しています。

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2025年12月11日 (木)

景況感の回復続く10-12月期の法人企業景気予測調査(BSI)

本日、財務省から10~12月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は足元の10~12月期は+4.9、先行き2026年1~3月期には+3.7、4~6月期には+1.6と、景況感は改善が続くと見込まれています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

大企業の10-12月景況感、2四半期連続のプラス 米関税懸念和らぐ
内閣府と財務省が11日発表した10~12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス4.9だった。製造業、非製造業のいずれも改善し、2四半期連続のプラスとなった。
指数は自社の景況が前の四半期より「上昇」と答えた企業の割合から「下降」の割合を引く。前回の7~9月期はプラス4.7だった。調査時点は11月15日。
トランプ米政権による関税措置の発動を受け、製造業を中心に業績悪化の懸念があった4~6月期にマイナスとなって以降は改善が続いた。製造業はプラス4.7で2四半期連続のプラスだった。
特に米関税の影響が大きかった自動車・同付属品製造業はプラス6.5と2四半期連続のプラスとなった。化学工業で自動車向け製品や医薬品の需要増加があったほか、食料品製造業は価格転嫁が進んだ効果があった。
非製造業もプラス5.1と2四半期連続のプラスだった。金融業・保険業で貸出金利の上昇や株価の上昇による収益の改善があった。サービス業は宿泊や飲食で客数や客単価の上昇がプラスに寄与した。
大企業の先行きは全産業ベースで2026年1~3月期はプラス3.7、4~6月はプラス1.6だった。製造業、非製造業ともにプラスで米国の関税政策による不透明感が和らぎ、改善が続く見通しだ。
中堅企業の全産業はプラス4.7で2四半期連続のプラスとなった一方、中小企業の全産業はマイナス3.7と悪化が続いている。

かなり長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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繰返しになりますが、統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラスを継続していて、したがって、景況感は順調に改善を続けると考えるべきです。ただ、大企業においては、製造業・非製造業とも似通った動きで、ついでながら、中堅企業も同じなのですが、中小企業については足元の10~12月期がそもそも▲3.7とマイナスであり、先行き2026年1~3月期は▲6.6とマイナス幅が拡大し、4~6月期も▲3.4とマイナスが続く、という結果が示されています。自動車工業が典型なのですが、米国の関税引上げに対して価格がそれほど柔軟に対応せず、いわば、自動車メーカーや仲介商社が価格転嫁をせずに輸出数量=自動車台数を維持している部分がありますので、まさか、とは思いますが、トランプ関税のしわ寄せを規模の小さな下請けが背負わされている可能性はゼロではありません。また、引用した記事にはありませんが、雇用人員は引き続き大きな「不足気味」超を示しており、大企業全産業で見て12月末時点で+28.0の不足超、中堅企業では+37.4の不足超、中小企業でも+31.4の不足超と大きな人手不足が続く見通しです。設備投資計画は今年度2025年度に全規模全産業で+6.6%増が見込まれています。期待していいのではないかと思いますが、まだ、機械受注の統計やGDPに明確に反映されるまで至っていませんので、私自身は計画倒れになる可能性も否定できないと認識しています。

果たして、来週12月15日公表予定の12月調査の日銀短観やいかに?

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2025年12月10日 (水)

依然として高い上昇率が続く11月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.7%の上昇となり、先月10月統計と変わらず横ばいです。依然として高い伸びが続いています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、11月2.7%上昇 伸び率は横ばい
日銀が10日発表した11月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は128.0と前年同月と比べて2.7%上昇した。伸び率は10月(2.7%上昇)から横ばいだった。民間予測の中央値(2.7%上昇)と同じだった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
農林水産物は30.1%上昇した。伸び率は10月(31.1%上昇)から鈍化したものの、コメ価格の高止まりを背景に高水準が続いている。
非鉄金属は14.9%上昇し、伸び率は10月(11.9%上昇)から3.0ポイント拡大した。銅などの価格高騰が影響した。
鉄鋼は6.8%下落した。中国による過剰生産で鉄鋼価格が下落したことが響いた。電力・都市ガス・水道は1.0%下落した。
日銀が公表している515品目のうち、価格が上昇したのは366品目、下落したのは121品目だった。28品目では価格が変わらなかった。

インフレ動向が注目される中で、長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下のパネルは国内物価指数そのものを、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、引用した記事には民間予測の中央値が+2.5%とありますが、私の見た範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.7%でした。実績の+2.7%はジャストミートしましたが、引き続き、日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることは事実です。国内物価が上昇率が高止まりしている要因は、引用した記事の3パラ目にもあるように、農林水産物とそれに連動した飲食料品の価格上昇です。引き続き、コメなどが高い上昇率を示しています。また、対ドル為替相場は、高市内閣の成立により円安が進んでおり、10月+2.2%の円安に続いて11月も+2.6&の円安となり、平均で対ドルレートは150円台半ばを記録しています。さらに、私はエネルギー価格動向に詳しくないので、日本総研「原油市場展望」(2025年11月)を参考として見ておくと、10月のWTI原油先物価格は、上旬に50ドル台後半に下落、中旬には50ドル台後半で一進一退の後、10月下旬から11月にかけては60ドル前後に反発しています。そして、「原油価格は、来年にかけて50ドル台後半に下落する見通し」とされています。ただ、円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年2025年5~7月には2ケタの下落を続けていましたが、11月には△1.8%と下落幅を縮小させています。いずれにせよ、国内物価の上昇は原油価格ではなく国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、引用した記事にもある通り、農林水産物は10月の+31.1%からやや減速したとはいえ、11月も+30.1%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も11月は+4.9%と、前月10月と同じ上昇率となっています。電力・都市ガス・水道は10月の▲0.6%から、11月は▲1.0%と下落幅を少し拡大しています。引用した記事にもある非鉄金属は10月の+11.9%から11月には+14.9%と上昇幅が拡大しています。

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2025年12月 9日 (火)

やっぱり関税は物価を上昇させるのか?

米国サンフランシスコ連銀のワーキングペーパー "What Is a Tariff Shock? Insights from 150 years of Tariff Policy" では150年の歴史的回顧で関税率の引上げが物価の下落につながったと指摘していましたが、全米経済調査会(NBER)のワーキングペーパー "Tracking the Short-Run Price Impact of U.S. Tariffs" は短期には関税が物価を引き上げたとの分析結果を示しています。まず、論文の引用情報は下の通りです。

つづいて、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると下の通りです。

ABSTRACT
We use high-frequency retail microdata to measure the short-run impact of the 2025 U.S. tariffs on consumer prices. By matching daily prices from major U.S. retailers to product-level tariff rates and countries of origin, we construct price indices that isolate the direct effects of tariff changes across goods and trading partners. Prices began rising immediately after the broader tariff measures announced in early March and continued to increase gradually over subsequent months, with imported goods rising roughly twice as much as domestic ones. Our estimated retail tariff pass-through is 20 percent, with a cumulative contribution of about 0.7 percentage points to the all-items Consumer Price Index by September 2025. Our results show that tariff costs were gradually but steadily transmitted to U.S. consumers, with additional spillovers to domestic goods.

要するに、トランプ関税の適用された2025年3月から消費者物価が上昇を始め、輸入品は国産品の2倍の上昇を示し、関税転嫁率は20%、2025年9月までの消費者物価指数への累積寄与度は0.7%と推計しています。当然、輸入品の直接的な影響だけでなく、国産品にも波及効果があったと分析しています。かなり頻度の高いデータを用いているようです。論文から Figure 3: U.S. Retail Price Indices in Affected and Unaffected Categories を引用すると下の通りです。

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グラフは3本の折れ線であり、輸入品、影響を受ける国産品、影響を受けない国産品となっています。2025年3月初旬に輸入品と影響を受ける国産品の価格指数が上昇を始めた一方で、輸入品価格指数が5月に影響を受ける国産品価格指数を上回るようになり、他方で、影響を受けない国産品価格指数も7月下旬から価格上昇が波及し、最新時点では影響を受ける国産品価格指数と肩を並べるくらいまでになっています。やっぱり、少なくとも短期的には、関税率の引上げは物価上昇をもたらす、といえそうです。

最後に、それにしても短期的とはいえ価格転嫁率が20%にとどまっているのは、日本からの自動車輸出と同じで、中国の製造業者ないし仲介商社が、需要への影響を考慮して価格転嫁を抑えている、と見るべきなのかもしれません。

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2025年12月 8日 (月)

下方修正されマイナス幅が大きくなった7-9月期GDP統計速報2次QE

本日、内閣府から7~9月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比▲0.6%減、年率換算で▲2.3%減のマイナス成長を記録しています。1次QEから下方改定されており、マイナス成長は6四半期連続ぶりです。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.4%、国内需要デフレータも+2.8%に達しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP2.3%減に下方修正 7-9月改定値、設備投資マイナスに
内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.6%減、年率換算で2.3%減だった。11月発表の速報値(前期比0.4%減、年率1.8%減)から下方修正した。最新の経済指標を反映した結果、設備投資などが下振れした。
1次速報時と同様に、実質ベースでは6四半期ぶりにマイナスに転じた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値(前期比0.5%減、年率2.0%減)を下回った。民間予測の幅は年率1.6%減~2.4%減だった。
設備投資が速報値の前期比1.0%増から0.2%減とマイナスに転じた。減少となるのは3四半期ぶり。12月発表の法人企業統計など各種統計を反映した。ソフトウエア投資の伸びは速報時の想定より低くなった。
GDPの過半を占める個人消費は0.2%増と速報値から0.1ポイント伸びが高まった。外食など飲食サービスがプラスに寄与し、小幅ながら3四半期連続でのプラスを維持した。
1次速報と同様に住宅投資と輸出が全体を下押しした。
住宅投資は8.2%減だった。4月から住宅の省エネルギー基準が厳しくなり、3月に生じた駆け込み需要の反動減があった。速報値の9.4%減からは上方修正となった。
輸出は速報値と変わらず1.2%減となった。米国による一連の関税引き上げの影響が自動車産業などに表れ、2四半期ぶりのマイナスとなった。
民間在庫は成長率に対して0.1ポイントのマイナス寄与だった。速報値からは0.1ポイント上向きに修正した。
政府消費は0.5%増から0.2%増に見直した。公共投資は速報値の0.1%増から1.1%減とマイナスに転じた。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇した。1次速報時の2.8%上昇から上振れした。
5年に1度実施する基準改定の影響でGDPの実額は上方修正となった。7~9月期は年換算で名目値が665兆97億円となった。1次速報の635兆8225億円から上振れした。ソフトウエア開発などについて調査対象となる会社が広がったことなどが影響した。
実質は年換算で590兆1411億円だった。1次速報では561兆7653億円だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、雇用者報酬については2種類のデフレータで実質化されていてる計数が公表されていますが、このテーブルでは「家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化」されている方を取っています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2024/7-92024/10-122025/1-32025/4-62025/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.7+0.3+0.4+0.5▲0.4▲0.6
民間消費+0.5▲0.0+0.7+0.3+0.1+0.2
民間住宅+0.8+0.4▲0.0+0.4▲9.4▲8.2
民間設備+0.6▲0.2+0.2+1.3+1.0▲0.2
民間在庫 *(+0.4)(▲0.4)(+0.6)(▲0.0)(▲0.2)(▲0.1)
公的需要+0.2▲0.2▲0.2+0.2+1.0▲0.2
内需寄与度 *(+0.9)(▲0.5)(+0.9)(+0.4)(▲0.2)(▲0.4)
外需寄与度 *(▲0.2)(+0.8)(▲0.6)(+0.1)(▲0.2)(▲0.2)
輸出+2.2+1.7▲0.1+1.9▲0.3▲0.3
輸入+3.0▲1.9+2.4+1.4▲0.1▲0.4
国内総所得 (GDI)+0.7+0.4+0.1+1.1▲0.3▲0.5
国民総所得 (GNI)+0.6+0.0+0.5+0.7+0.5+0.3
名目GDP+1.1+1.1+0.9+2.1+0.1▲0.1
雇用者報酬+0.3+0.2▲0.7+0.7+0.5+0.2
GDPデフレータ+2.7+3.0+3.6+3.3+2.8+3.4
内需デフレータ+2.4+2.5+3.1+2.6+2.2+2.8

上のテーブルに加えて、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期のGDP統計速報2次QEの最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、赤の民間消費のみがわずかにプラス寄与していますが、緑色の民間住宅や黒の純輸出が大きなマイナスの寄与度を示しているのが見て取れます。なお、今回から最近時点での見やすさを重視したスケールに変更しています。コロナ期の大きな振幅を無視していて、カットされる部分もあります。

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先月11月15日に公表された1次QEでは季節調整済みの系列で前期比▲0.4%減、前期比年率で▲1.8%減のマイナスの成長であったところ、繰り返しになりますが、本日の2次QEではそれぞれ▲0.6%減、▲2.3%減に下方修正されています。内需のうち、民間消費と民間住宅が上方修正された一方で、民間設備が大きく下方修正されています。加えて、昨年公表された産業連関表に従って、基準年次が2020年に変更されており、これに従って過去にさかのぼって、かなり大きな改定がなされています。いずれにせよ、内需・外需(純輸出)ともマイナス寄与であり、輸出とそれに起因する民間設備の停滞がマイナス成長の大きな要因となっています。ですから、やっぱり、トランプ関税の影響は大きかった、と私は考えています。加えて、先行きに関しても、米国の自動車関税が15%に設定されますので、その影響はジワジワと出てくると考えるべきです。今年上半期においては、メーカーや商社が関税によるコストアップを価格引下げで応じた結果であり、この対応はいかにも日本的といえますが、決してサステイナブルではありません。ですので、この先には自動車輸出の数量が停滞する局面が待っている可能性は否定できません。ただし、米国がこのままソフトランディングに成功して、景気後退にならなければ、日本も早々景気後退に陥ることはない、と私は楽観しています。いずれにせよ、景気後退ともなれば雇用をはじめとして急激な景気の悪化が見られるのが通常であり、それ故に景気後退については回避できれるのであれば回避すべきという考えがエコノミストの間では強いのですが、直前のリーマン証券破綻後の金融危機とか、コロナのパンデミックとか、きわめて厳しい景気の悪化に比べれば、今回の景気後退局面はそれほどではない可能性もあるのではないか、と私は考えています。要するに、景気後退に陥る可能性は低く、加えて、従来タイプの深刻な景気後退ではない可能性もある、といったところです。

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また、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが公表されています。統計のヘッドラインを見ると、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.4ポイント低下の48.7で7か月ぶりの低下となり、先行き判断DIも▲2.8ポイント低下の50.3を記録しています。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」で据え置いています。

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さらに、本日、財務省から10月の経常収支が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、季節調整していない原系列の統計で+2兆8335億円の黒字の黒字を計上しています。7か月連続の黒字です。

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今日は上の倅の誕生日

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今日は、上の倅の誕生日です。
そろそろ、30歳も近くなりましたが、いっこうに結婚する様子がありません。もっとも、親の方も両親とも30を超えて、私は30も半ばに達しての結婚でしたので、大きなことは言えません。静かに見守るだけです。

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2025年12月 7日 (日)

上原ひろみによる Blue Giant のサウンドトラックを聞く

上原ひろみによる映画 Blue Giant のサウンドトラックです。映画は2023年に封切られています。出だしはコルトレーンの Impressions から始まって、最後の2度目のテーマまで。とても短い曲が29曲収録されています。私は不調法者で、『ビッグコミック』のマンガも、映画も見てはいません。でも、上原ひろみですので、音楽だけは聞いておきたいと思います。

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2025年12月 6日 (土)

今週の読書は経済書2冊のほか計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ケネス・ロゴフ『ドル覇権が終わる時』(日経BP)では、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストも務めた著者が、ドル覇権の歴史を振り返りつつ、将来の米ドルの地位に対するチャレンジとして、対抗する国の通貨ではなく、米国自身のインフレや政府債務の積み上がりを指摘しています。井手英策『令和ファシズム論』(筑摩書房)では、昭和初期の高橋財政を評価しつつ、ファシズムを防止するため、国民生活を圧迫する緊縮財政も、債務を積み上げる放漫財政も排して、中庸な財政運営を提唱していますが、逆に、本書のような中道がファシズムへの道となりかねない点が危惧されます。伏尾美紀『最悪の相棒』(講談社)では、犯罪被害者家族心理分析班なる新組織が警視庁の捜査一課に新設され、子どものころからの因縁ある広中承子と潮田格の2人の刑事が相棒となって、交番の警官とともに花園団地の事件の解明と解決に当たります。江原慶『資本主義はなぜ限界なのか』(ちくま新書)は、マルクス経済学の視点をもって、蓄積をストップする脱成長市場経済から蓄積も利潤もストップさせる脱成長コミュニズムを展望しています。マルクス経済学に何ら見識ない私には、経済学というよりも歴史発展の観点で疑問が残りました。稲村悠『謀略の技術』(中公新書ラクレ)では、諜報のひとつの形態である人的情報源からの情報収集、すなわち、ヒュミントのさまざまな手法や実例などを収録し、まさに、米国のCIAや英国のMI6、あるいは、旧ソ連のKGBといったスパイ組織の活動について映画を見ているようでした。藤井敏嗣『富士山噴火』(岩波新書)では、富士山はいつ噴火してもおかしくないとの認識のもと、火山噴火の基礎知識から富士山の歴史に残る噴火の事実など、さまざまな観点から富士山の噴火、さらに、噴火に備えた火山政策などについて幅広く解説を加えています。
今年2025年の新刊書読書は1~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って今週の6冊を加えると合計で299冊となります。今年も年間で300冊に達するのはほぼほぼ確実と受け止めています。また、これらの新刊書読書のほかに、桃野雑派『星くずの殺人』と続編の『蝋燭は燃えているか』(講談社)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、ケネス・ロゴフ『ドル覇権が終わる時』(日経BP)を読みました。著者は、米国ハーバード大学教授であり、ご専門はマクロ経済学、金融経済学です。今世紀初頭の2001-03年に国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストも務めています。私の予想ではノーベル経済学賞にもっとも近いトップテンに入るエコノミストの1人だと思います。本書の英語の原題は Our Dollar, Your Problem であり、今年2025年の出版です。英語の原題も日本語タイトルも、いずれも定義がややあいまいな「基軸通貨」という用語を用いていない点は少し注意して読み進んだ方がいいと思います。本書の中でも必要に応じて「基軸通貨」と表現していますが、本書の趣旨はあくまで日本語タイトルに正確に表されている「ドル覇権」なのだろうと私は思います。思い起こすべきは、フランスのジスカール・デスタン大統領に由来する「とてつもない特権」="exorbitant privilege" ではないかと思います。本書では軽く、調達金利が低い点だけが印象的ですが、米ドルにはほかにも特権がいっぱいあります。そういった国際金融の歴史を冷戦期から振り返っています。しかも、英語タイトルにも日本語タイトルにもあるように、著者は国際金融史のインサイダーであり、著名なエコノミストとして、そして、もちろん、IMFのチーフエコノミストとして、私のような並のエコノミストでは接することが出来ない情報にもアクセスしてきています。米ドルの覇権については本書第1章序論にあるように、現時点で世界のGDPの25%を占める米国の通貨である米ドルは、外貨準備の60%、原油取引の80%、商品貿易の40%が、それぞれドル建てとなっていることに現れています。広く知られているように、米ドルの前の覇権は英国のポンドだったったわけですが、20世紀初頭の第1次世界大戦を経て通貨覇権は米ドルに移行しています。ですから、本書でも米ドルの覇権は永遠ではないと指摘し、その背景となる条件ほかについて分析しています。主要には私は2点読み取りました。軍事力と金融市場の発達です。いずれも、前の通貨覇権国である英国も裏付けとして十分な軍事力と発達した金融市場を持っていたことはいうまでもありません。そして、これまた、ドル覇権に対するチャレンジは、決して中国の人民元や欧州のユーロ、もちろん、絶対に日本円ではなく、そういった海外からのチャレンジではなく、むしろ、米国自身のインフレによる低金利の終焉、政府債務、そして、その政府債務に対するアカデミズムの軽視、があると強調しています。すなわち、サマーズ教授なんかが主張し始めた "secular stagnation"=長期停滞は永遠に続くわけではなく、AIの活用などにより成長率が上昇する可能性があって、成長率が上昇して低金利の時代が終わる可能性を指摘しています。そして、現代貨幣理論(MMT)などをはじめとしたアカデミズムの「政府債務はフリーランチ」という志向や政治面でのバイアスからインフレが高進する可能性も指摘しています。はい、そうかもしれません。最後に、私は40年前のバブル経済期であれば、米国に取って替わる勢いのあった日本経済を背景に、ドル覇権の終了は日本経済にはひょっとしたらチャンスになるかもしれない、と考えた可能性がありますが、現時点ではドル覇権が終了に至らないまでも、もしも弱体化したりすれば、日本経済は米国とともに沈んでいく可能性の方を憂慮すべきか、と考えています。最後の最後に、さすがにロゴフ教授も70歳を超えて自分のパーソナル・ヒストリーを振り返ると、かなり自慢話が多くなっている印象を受けました。意識的に避ける努力をしなければ、私もたぶん自慢話が多くなるんだろうと思います。

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次に、井手英策『令和ファシズム論』(筑摩書房)を読みました。著者は、慶應義塾大学経済学部の教授であり、ご専門は財政社会学です。本書は、かなり過激なタイトルですが、タモリの「新しい戦前」におそらく触発されて、現在の日本の経済社会をおおっている薄らぼんやりとした不安の背景を解明すべく、そして、ファシズムに行き着くことなく日本の自由と民主主義を守るという目的で書かれているようです。ただ、その目的は明らかに失敗しています。その失敗は最後に振り返るとして、取りあえず、本書の構成を見ておくと、冒頭4章までで日本とドイツの第1次世界大戦後の財政史を後づけて、財政史の観点からいかに両国がファシズムと戦争に行き着いてしまったかを概観しています。それらは8点に取りまとめられて、終章のpp.300-304にリストアップされています。私が重要と考えるポイントについては、要するに、(1) 生活不安がありながらも、(2) 社会保障が不十分で、(3) 中央銀行に国債を引き受けさせ政府債務を発行することに経済政策運営が頼り、ひとつ飛ばして、(5) 雇用創出から軍備拡張に政策が変化し、(6) 予算が議会による民主的な統制から外れ、以下2点省略、ということになります。日本では、井上蔵相による旧平価での金解禁に高橋財政が対比されつつ、でも、高橋財政では財政赤字は放置されることなく、好況期には増税により赤字削減が図られた点が、本書では強調されています。そして、5章で現在のトピックに重点が置かれるようになり、財政規律が緩んで政府債務に依存した経済運営になっている点が批判的に取り上げられています。その矛先は政府与党だけでなく、「日本財政の大きな不幸は、共産党や社会党が徹底して『反消費税』路線をとってきたことである。」(p.274)と、野党左派にも及んでいます。そして、最後には終章のタイトルは「エクストリーミズムをのりこえる」となっていて、エクストリーミズム=極端主義ではなく中道の財政、すなわち、財政収支の均衡を目指した緊縮財政ではなく、かといって、政府債務に依存した経済運営のような放漫財政でもなく、分断を回避するような中庸の政策の必要性を主張しています。まず、本書では用語としては現れませんが、おそらく、ハーベイロードの前提=Harvey Road presumption が強く認識されているように感じました。ただ、議会による民主的な財政/予算の策定も強く主張されています。でも、国民の要求に沿った財政運営は、ともすれば、ポピュリズムとラベリングして批判的な見方を示していますし、どちらかといえば、ハーベイロードの前提の方が背景としては強力に意識されている印象です。まあ、やや誇張すれば、ポピュリズムを排して賢人が予算を策定して運営すれば、財政が大きな赤字を出すことはない、という見方なんだろうと思います。賛否は分かれるでしょう。次に、極端を避け、ファシズムに行き着くことなく日本の自由と民主主義を守るという本書の目的は明らかに失敗しています。本書は、分断を乗り越える「中道」と自称しつつも、また、エクストリーミズムを排するといいつつも、実は、先日読んだ酒井隆史・山下雄大[編著]『エキストリーム・センター』(以文社)の格好の例となっています。すなわち、「左右両極のポピュリズムを排するといった志向から、実は、エキストリーム・センターは極右に甘く、場合によっては共謀すらしかねない存在」とは、まさに、本書のような主張であると考えるべきです。

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次に、伏尾美紀『最悪の相棒』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家なのですが、2021年に第67回江戸川乱歩賞を受賞した『北緯43度のコールドケース』でデビューしています。博士号を持つ異色の警察官の沢村依理子を主人公とするデビュー作のシリーズには続編として『数学の女王』があり、私はどちらも読んでいます。加えて、最新刊の『百年の時効』が話題になって読んでみて、改めて、さかのぼって本書を読んでみた次第です。博士号を持つ沢村依理子のシリーズ2作は札幌が舞台でしたが、本書と次作の『百年の時効』は東京の警視庁が舞台となっています。本書では、警察官を父に持つ警視庁刑事の広中承子が主人公です。相棒となるのは潮崎格となりますが、2人には深い因縁があります。すなわち、2人が知り合ったのは子どものころであり、潮崎の姉がストーカーに殺害されたときに、犯罪被害者支援室に勤務していた広中の父がケアしていました。しかし、弘中の父は潮崎に対する異常な心遣いから、燃え尽き症候群のように体調を崩し、病気になって死に至ります。少なくとも、広中の記憶ではそうなっていて、したがって、潮崎は父の死に責任ある恨みの対象ということです。潮崎の方は仕事仲間から「犯罪被害者家族心理分析官」とまで呼ばれていて、犯罪被害者に強く寄り添う姿勢を持っています。ですので、犯罪被害者家族心理分析班なる新組織が警視庁の捜査一課に新設され、そこで2人がコンビを組むことになります。こういった過去の振返りは別として、ストーリー上では、現在の事件は都内の花園団地で起こります。私の知る限りでは、「限界団地」という表現もあったように記憶していますし、足立区の花畑がイメージされます。本庁の相棒2人に加えて、所轄署の交番勤務の警察官も事件解明に加わります。自宅で子ども2人をビニールプールで遊ばせていたところ、当時3歳の弟の方が溺死した事案で、5歳の兄の目撃証言を基にした再捜査など、いくつか事件が起こるのですが、最大のハイライトは団地に住む母子家庭の母娘殺害事件です。捜査当初は、DVで離婚した母娘の元夫・父親である競技自転車の選手が容疑者として浮かびますが、広中と潮田のコンビが、というよりも、潮田が交番勤務の警察官の協力も得つつ、事件の全容解明を行います。相変わらず、デビュー作の『北緯43度のコールドケース』と同じで、いろんな物を詰込み過ぎの印象です。『百年の時効』では、その詰込み過ぎが好評だったのだろうと思いますが、この作品ではそれほど評価できるとは思えません。この作家には、『百年の時効』のように、時間的に超長期か、地理的にだだっ広い範囲を取り込むようなミステリが適している気がします。

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次に、江原慶『資本主義はなぜ限界なのか』(ちくま新書)を読みました。著者は、立命館大学経済学部の准教授であり、ご専門は社会経済学、マルクス経済学です。はい。ですから、私の同僚ということになります。今年4月の採用ではないかと思います。「宇野派のホープ」とか、「宇野派のプリンス」と呼ばれるやに聞き及んだことがありますが、私には詳細は不明です。私は長い人生で「ホープ」とか、ましてや「プリンス」なんて呼ばれたことがありません。面識はありませんでしたが、キャンパスにある研究棟で、本書の最後にある著者近影と同じ人相風体の人と出くわしたので、「ちくま新書を読みました」とご挨拶しておきました。自分でもミーハーだと思います。それはさておき、本書では、表紙画像の副題にも見られる通り、脱成長の経済学をマルクス経済学の観点から展開しています。ですので、斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)と同じ主張なのだろうと思います。本書冒頭では、ごく簡単に経済学説史をひも解いた後、近代経済になって資本蓄積が始まって成長が当然視されるようになった歴史を振り返ります。地球環境や気候変動について概観し、私も授業で取り上げている Planetary Boundaries の議論にも言及しつつ、脱成長の基本構造について解説を加えています。その上で、現在の資本主義が継続される脱成長市場経済は蓄積を止めるだけである一方で、脱成長コミュニズムは利潤と蓄積の両方をストップするということらしく、二段階の脱成長を論じています。私はマルクス経済学については、大学時代にしか接したことがありませんので、50年近い時間を経過して大きな発展を遂げていることとは思います。でも、私の知る限り、宇野派はかつての労農派の一段階革命論ではなかったか、と記憶している一方で、講座派的な二段階脱成長論が本書では論じられています。マルクス主義の深さを実感します。それはさておき、私自身は経済学は別としても、マルクス主義的な歴史観、唯物史観については相当の信頼を置いています。ですので、資本主義の次には社会主義ないし前期共産主義が来て、さらにその次には共産主義ないし後期共産主義が来る、可能性は十分あると思います。要するに、現在の資本主義が永遠に続くわけではないというのは明らかです。ただ、その歴史を動かす主要な要因は生産力と生産関係の矛盾であり、資本主義的な生産関係のままでは生産力の限界があるので資本主義が終わる、すなわち、私の雑な理解では成長を続けるために資本主義を終えて社会主義になり、ゆくゆくは共産主義では生産力が超絶すごいことになって希少性が失われて、希少性に応じた価格付けを基礎とする市場が成り立たなくなる、というのが私の歴史感です。その私の雑な歴史観に大きく反して、マルクス主義こそが脱成長、という結論には少し違和感を覚えます。それから、共産主義というのはソ連や中国で悪いイメージを持つ人が多いので、コミュニズムと表現する方がファッショナブルなのかもしれませんが、逆の印象を持つ読者もいるような気がするのは私だけでしょうか。

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次に、稲村悠『謀略の技術』(中公新書ラクレ)を読みました。著者は、警視庁にて公安部捜査官として諜報活動の捜査に従事した経験を持ち、現在は日本カウンターインテリジェンス協会代表理事です。諜報活動やサイバー攻撃に関する警鐘活動に従事している、とのことです。本書では、いわゆる諜報活動を5種類に分類していて、p.28にある通りです。どうしても、オープンソースから情報を得るオシントが、ベリング・ザ・キャット=Belling the Catの活動などから注目されやすいのですが、本書でも指摘しているように、ヒュミント、あるいは、ヒューミントと呼ばれる対人接触を基に人的情報源から得る情報というのが、たぶん、もっとも価値あるんだろうという気がします。一般に、情報収集は専門家しかやっていないわけではなく、多くの人が何らかの情報収集活動を行っていると思います。ただ、本格的な諜報活動となれば、人には知られたくない情報を取得しようと試みるわけですので、私なんかが経済統計をウォッチしているのとは違います。もちろん、私も長らく公務員でしたし大使館勤務の経験がありますから、まずは公開情報から初めて、場合によっては先方政府の情報源に当たって情報を入手する、というヒュミントの活動をする場合もあります。本書では、私がやっていた経済情報などの収集というチャチい情報収集活動ではなく、米国のCIA、英国のMI6、あるいは、旧ソ連のKGBのスパイ、いかにも映画に出てきそうなスパイがやっている諜報活動について、多くの事例を上げて警鐘を鳴らしています。ただ、一般的な出版物などからのヒュミントの例ですので、政策的なセキュリティ・クリアランスといった生臭いお話は、それほど多いわけでは決してなく、むしろ、読み物的に実例を豊富に収録している印象です。ただ、そうとはいっても、私なんぞの一般ピープルには知り得ない内容が多く含まれていることは確かですから、警鐘活動には十分です。最後に3点、私の感想です。繰り返しになりますが、第1に、ホントのインテリジェンス活動、諜報活動というのは、こういった一般向けの出版物には収録できないのだろうと考えるべきです。その意味で、諜報活動には、特に本書で着目しているようなヒュミントには、もっと奥深いものがいっぱいなんだろうと思います。第2に、本書で着目しているのは情報を入手する諜報活動なのですが、それと同等にその背後で情報を分析する活動というのも重要だと私は考えています。決して秘匿されていない、どころか、新聞にデカデカと掲載される「長期金利1.9%」の数字から何を読み取るのかがエコノミストの能力だと考えるのと同じです。第3に、最後に、私自身深く自覚しているところですが、本書で取り上げられているヒュミントの手法のうち、私はたぶんハニートラップに弱いと思います。まあ、そんな誘惑を受けたことはありませんが、たぶん、イチコロだと思って用心しています。

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次に、藤井敏嗣『富士山噴火』(岩波新書)を読みました。著者は、東京大学の名誉教授であり、東京大学地震研究所の所長もご経験されています。ご専門はマグマ学、火山学、火山防災政策だそうです。タイトル通りの本であり、冒頭で、富士山は最近の休止期間が異常に長く、いつ噴火してもおかしくない、という警告から始まります。もちろん、富士山に限らず、火山一般についての解説も豊富に収録されています。噴火の規模の表し方にVEIというのがあり、たぶん、Volcanic Explosion Index あたりではないかと思うのですが、これは噴火の際に噴出する軽石や火山灰などの噴出物=テフラの量に基づいて決定されるので、テフラが少なくて溶岩流ばっかりの噴火の場合には過小評価される可能性を指摘しています。そういった火山に関する一般的な基礎知識を基に富士山噴火を考え、特に、歴史的には3大噴火があるそうで、800-802年の延暦噴火、864-866年の貞観噴火、1707年の宝永噴火を概観しています。貞観噴火は2018年ハワイのキラウエア火山の噴火と酷似しているらしいです。もちろん、古い時代の史料には限界があり、科学的とはとても思えないような記述も紹介されています。火山がどうして噴火するかといえば、私のようなシロートでも理解しているように、地下に溜まったマグマが何らかの原因で地上に爆発的に噴出するわけです。火山学の専門家でなくても、「マグマが溜まる」というのは、マグマ=フラストレーションの意味で比喩的に使うことはあると思います。ただ、富士山の場合はマグマ溜まりが地下20キロ以上と深く、現在の観測技術ではマグマ溜まりの膨張などに基づく噴火予知は出来ない、という結論だそうです。私の専門分野である経済学では、経済見通しや予測が当たらないという世間一般の評価なのですが、たぶん、気象や地震予知、あるいは、火山の噴火予知なんかも経済の先行き見通しと、正確性の点に関して大きな差はないのではないか、と思っていしまいました。いずれにせよ、富士山が噴火したりすれば、テフラは東の方に飛ぶ、というか、流れるわけで、噴火の規模によっては首都圏が被災する可能性が十分あります。首都圏直下型地震とともに、東京を首都のままにして大丈夫かという疑問は残ります。さりとて、維新が与党に加わって注目されている大阪か、というのも、さまざまなな意見がありそうです。最後に本筋を離れますが、私の感想を2点上げておくと、富士山は日本でもっとも高いという標高だけでなく、その姿かたちの美しさからも評価されているわけで、美術的に宝永噴火で生じた宝永火口や宝永山を無視した富士山を描くことがあるそうです。例えば、横山大観先生は宝永山は絵に描く必要はないとの説だったと紹介されています。第2に、富士山火山のハザードマップの作成が風評被害を懸念する周辺市町村や観光協会の反対意見で中断された経緯を取り上げています。まあ、そういった意見も出るかもしれません。

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2025年12月 5日 (金)

2か月連続で上昇した10月の景気動向指数CI一致指数

本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+1.8ポイント上昇の110.0を示した一方で、CI一致指数も+0.5ポイント上昇の115.4を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数10月は0.5ポイント上昇、生産寄与し2カ月連続改善=内閣府
内閣府が5日公表した景気動向指数速報(2020年=100)は、足元の景気を示す一致指数が前月比0.5ポイント上昇の115.4と2カ月連続で改善した。基調判断は「下げ止まりを示している」で据え置いた。
一致指数を構成する各指標のうち、耐久消費財出荷指数や鉱工業生産指数、小売販売額などのプラス寄与が大きかった。乗用車の輸出向け出荷増や国内乗用車の販売増のほか、リチウムイオン電池や自動車部品の出荷増などが要因。一方、有効求人倍率などは指数を押し下げた。
先行指数も前月比1.8ポイント上昇の110.0と6カ月連続で改善した。鉱工業用生産財在庫率指数や新設住宅着工床面積、日経商品指数などが押し上げた。電子部品の在庫減が寄与したほか、4月の省エネ基準厳格化で駆け込み需要の反動減が続いていた新設住宅着工の回復もプラス要因だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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10月統計のCI一致指数は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月から+0.4ポイントの改善が見込まれていましたので、実績の+0.5ポイントの上昇はやや上振れた印象です。また、内閣府の記者発表によれば、3か月後方移動平均は4か月ぶり上昇で前月から+0.37ポイント上昇した一方で、7か月後方移動平均は前月から▲0.05ポイント下降し、こちらは4か月連続の下降となっています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、5月統計から「下げ止まり」に下方修正されましたが、今月10月統計でも「下げ止まり」に据え置かれています。私はいろいろと紆余曲折を経つつも、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはない、と考えています。ただし、米国経済でも日本経済でもまだまだインフレが高止まりしており、特に、日本ではすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。加えて、長期金利が2%に近づいている中で、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めは景気を下押しすることが明らかであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、耐久消費財出荷指数が+0.36ポイントがもっとも大きく、次いで、生産指数(鉱工業)の+0.23ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)が+0.19ポイント、などが上昇の方向で寄与しています。マイナス寄与は、と有効求人倍率(除学卒)が▲0.38ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が▲0.17ポイント、などとなっています。ついでに、前月差+1.8ポイントと上昇したCI先行指数の上昇要因も数字を上げておくと、鉱工業用生産財在庫率指数が+0.69ポイント、新設住宅着工床面積が+0.62ポイント、日経商品指数(42種総合)が+0.23ポイントなどとなっています。

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