2019年2月23日 (土)

今週の読書は経済の学術書から小説まで計8冊!!!

今週は、いろいろあって、時間的な余裕があり、テキストや学術書をはじめとする経済書など、小説まで含めて、以下の8冊を読んでしまいました。来週はもう少しペースダウンし、その先、3月になればもっと読書は絞り込んでいきたいと考えています。

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まず、大垣昌夫・田中沙織『行動経済学』(有斐閣) です。2014年の初版に続いて、増補改訂版ということで新版としての出版です。著者のうち大垣教授は慶應義塾大学経済学部の、まさに、行動経済学の研究者であり、田中女史はニューロエコノミクスの専門家のようです。ということで、大学の学部後期の学生を大将にした行動経済学のテキストです。もちろん、大学や大学院のレベルによっては、大学院修士課程でも使えそうな気がします。どうでもいいことながら、私が地方大学の経済学部に出向していた折には、「経済財政白書」を学部3~4年生向けの副読本に指定していたんですが、教員によっては大学院修士課程や博士前期課程のテキストとして用いている場合もあると指摘された記憶があります。行動経済学に戻って、本書では、行動経済学について合理的な経済人を前提としない経済学、のように定義していますが、本書の著者も認めているように、合理的と経済人は同義反復であり、循環的な定義である気もします。まあ、それな目をつぶるとしても、合理的でない経済活動、あるいは、それを現実の実験で確かめる経済学ですから、かなりの程度に確率的な経済行動を前提とする点は、本書で何ら明記されていませんが忘れるべきではありません。本書では、支払い意志を表すWTPと放棄する代償価格を表すWTAの概念から始めて、もちろん、アレのパラドックス、ツベルスキー=カーネマンのプロスペクト理論、セイラーの心理会計、時間割引の指数性と双極性などに議論を進めつつ、プロスペクト理論の参照点の決まり方やシフトの可能性などについての疑問点も明らかにしています。そして、行動経済学の応用分野として幸福の経済学に言及しているんですが、私の常々の主張として、主観的な幸福度は経済政策の目標とすべきではないと、改めて強調しておきたいと思います。本書でもニューロエコノミクスの観点から、幸福度と脳内分泌物質、よく覚えていないんですが、ドーパミンとか、セロトニンとか、オキシトシンとか、の関係が分析されていますが、主観的な幸福度が経済政策の目標になってしまうと、こういった脳内分泌物を促進する薬物を配布するのが経済政策の目標になりかねません。ですから、この観点から主観的な幸福度を政策目標とするにはまだ議論が成熟していないと私は考えます。もう1点、本書の著者の1人はニューロエコノミクスの専門家なんですが、選択理論や幸福度の脳内反応を考える必要がどこまであるかについて、私はまだ疑問が大きいと感じています。別の表現をすれば、脳内活動がブラックボックスのままでも選択理論や幸福度を分析できるんではないか、と私は考えています。まあ、科学者の常として、可能な範囲ですべてを明らかにしたい、という欲求は理解しますが、神の視点は場合によりけりであって、人間の視点からはブラックボックスのままでも十分な分析に耐える場合が少なくないと私は達観しています。

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次に、佐々田博教『農業保護政策の起源』(勁草書房) です。著者は北海道大学の政治学の研究者です。タイトル通りに、明治以来の農業政策を振り返り、現在のような農業保護政策の起源を探っています。その「起源」という場合、著者は明示していませんが、私には2種類の「起源」を探求している気がしています。すなわち、歴史上の起源と農業保護政策の依って立つ理論上の起源、すなわち、本書の用語でいえば、合理的選択論か構造主義制度論か、ということになります。本書では理論上の「起源」というか、根拠については前者の合理的選択論は、役所の直接的なグリップによる政策を実行していないことを論拠に否定的な見方を示しています。そして、本書のスコープは第2時世界大戦までで、そこで少し前までの食料乖離制度が確立した、ということになっていますが、基本的に、第6章でも明らかにしているように、戦前と戦後は連続説に近い見方が示されています。私のようなエコノミストの目から見て奇異に感じたのは、本書の議論はもっぱら政策決定過程だけに着目していて、そのバックグラウンド、すなわち、農業政策に関していえば、食料需給やその価格、あるいは、輸出入と貿易収支などです。私の直感では、戦前は「糸を売って米を買う」貿易でしたし、戦後の現在まで「車を売って油を買う」貿易です。ですから、貿易による輸出入は見逃してはならない視点ですし、需給に従い価格の動きも忘れるべきではありません。わずかにそれに目が届いているのが第4章冒頭の米価に関する部分です。そして、結論としては、小農主義と協同主義が結合して、徳川期までほぼ自給自足だった農業ないし農村に資本主義の波が押し寄せ、農業ないし農村が搾取され疲弊していることから、優秀な軍人の調達にも絡めて、農業ないし農村における資本主義を改造しようという試みではなかったか、との議論を展開しています。しかし、本書でもさすがに何度も繰り返されている通り、農村の疲弊の大きな要因のひとつであった不在地主による寄生的な地主制度については、一向に農政としては手がつけられず、結局、敗戦とGHQによる農地改革を待たねばならなかったわけですから、大きな視点が見逃されている気がします。そして、農政に限らず、例えば、間接金融とメインバンク制とか、長期雇用と年功賃金とかの労働慣行、などは戦後の高度成長期に取り入れられ確立された制度ないし慣行であって、戦前まではバリバリの直接金融でしたし、雇用システムは解雇が容易な現在の米国に近かったようですから、農政についても戦後の鉄の三角形、すなわち、与党=自民党vs農林省vs農協という三すくみの構図が出来上がったのも、本書のスコープ外の戦技高度成長期なんではないか、という気がしないでもありません。

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次に、久保田進彦・澁谷覚『そのクチコミは効くのか』(有斐閣) です。著者は青山学院大学と学習院大学のマーケティング論の研究者です。コンパクトながら、本書はほぼほぼ完全な学術書と考えるべきで、科研費ではないものの、研究と出版の助成を受けています。特に、クチコミの中でも、伝統的なフェイス・ツー・フェイスの伝達ではなく、インターネットの掲示板やSNSなどを介した情報の拡散に焦点を当てており、架空のオンライン英会話レッスンのクチコミを設定して、実験を行った結果得られたデータを解析しています。何分、実際の市場に投入されるサービスを基にしたマーケティングに関する実験ですので、モデルの設定がとても判りやすく、Rhatで1.1かつトレースプロットにドリフトの非定常性が見られないことをもって収束とするなど、常識的な分析を行っています。まあ、当然といえば当然です。分析結果も常識的であり、従来から確認されている正負のバランス効果、すなわち、多数意見に同調しやすく、自らの意見が多数派であることを確認できればその態度が強化されるという点は確認され、次いで、プラットフォーム効果、すなわち、クチコミは広告よりも信頼度が高く、また、プロモーション型のプラットフォームよりもソーシャルなプラットフォームの方に信頼感を覚える、というのも当然です。この研究のオリジナルな点は、疑念効果を確認できたことだと著者は主張しています。すなわち、100%肯定的なクチコミに比較して、50%肯定的なクチコミは、むしろ、否定的なクチコミを抑えて、あるいは、隠しているのではないか、という疑念を起こさせる、という仮説であり、それが実証されています。とても興味深い点です。コマーシャルなどでは、対象となる商品ないしサービスが何らかの、あるいは、絶大なる効果があった、という体験消費者のクチコミを伴う場合、例えば、オンラインECサイトのレビューなどで、否定的なクチコミが交じると、実はもっと否定的な口コミがあって、隠されているんではないか、という疑念を生じる可能性です。しかも、この疑念効果は教育程度の高い人ほど生じやすい、とも分析されています。そうかもしれません。最後に、定量分析ならぬ私の実感ながら、我が国のマーケティング、というか、宣伝広告はまだ未熟な面があり、典型的にはその昔の「霊感商法」的に消費者の恐怖、とまでいわないにしても、何らかの不都合な意識を呼び覚まして売りつけようと試みる場合が、いまだに散見されます。特に健康関係では、血圧が高いとか、コレステロールがどうとか、何らかの消費者の持つ不都合な点を改善するような効果を持つ商品やサービスを宣伝広告することが少なくないように実感します。クチコミを含めて、何らかのネガティブな状態を回避するためではなく、ポジな広告宣伝を私は求めたいと思います。

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次に、笹原和俊『フェイクニュースを科学する』(同人選書) です。著者は名古屋大学の研究者で、専門分野は計算社会学だそうです。タイトル通りに、コンパクトなファイクニュースの拡散に関する入門書となっています。おそらく、伝統的な新聞やテレビ・ラジオなどのメディアには、従来はとても少なかったと考えられるフェイクニュースについて、特に、インターネット上に出回る虚偽情報を騙そうとする意図の強弱によって分類したりしつつ、虚偽情報と一般的な科学情報の拡散の確率密度関数を時間とともに積分したりと、分析手法を展開し、さらに、最終的にはそのフェイクニュースへの対応方法について、メディアリテラシーやファクトチェックによる対抗手段なども議論しています。基本は、私の知る限り、ダンカン・ワッツ教授などの「スモール・ワールド」的なマーケティング手法を政治的なものも含む形で応用させたんだろうという気がしますが、もちろん、伝統的な人は見たいものしか見ないバイアスとか、確証バイアスとか、ネット上の虚偽情報とは関係なく、昔からの人間の心理学上のバイアスはもちろんある一方で、特にネット上で加速・増幅されるチェンバーエコーやフィルターバブルなどのお馴染みの現象も取り上げられています。すなわち、こういったフェイクニュースが広がる現象を、情報の生産者と消費者がさまざまな利害関係の中で、デジタルテクノロジーによって複雑につながりあったネットワーク、つまり、情報生態系(Information Ecosystem)の問題として捉え、その仕組みについて紐解いています。これら中で、私がやや怖いと感じたのは、事実よりも虚偽情報の拡散の方が早く、広く、深い、という実証的な結果です。SNSから得られるビッグデータを用いて、いわゆるビッグファイブの神経症的傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性が会う程度予測される、というのは私の理解の範囲だったような気がしますが、本書の著者が指摘するように、ボットや人工知能を逆に国家が悪用して民主主義が破壊される可能性までは想像していませんでした。情報が過多となり、情報折もむしろ人間のアテンションの方が希少になるアテンション・エコノミーがこれから先進むと考えられる中で、消費における購買活動は企業に操作され、投票などの政治的な参加行為も国家に左右されるとなれば、我々一般ピープルは何を根拠に行動すればいいのでしょうか。とても、ブラックな将来が待っているとは思いませんが、本書では何ら言及されていませんでしたが、単に情報に操られるだけではなく、主体的な判断を下すために、いわゆる「健全な常識」というものの重要性を改めて感じました。

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次に、マーク・フォーサイズ『酔っぱらいの歴史』(青土社) です。著者は、ジャーナリストないしライターという感じの経歴です。上の表紙画像に見られる通り、英語の原題も A Short History of Drunke であり、日本語タイトルはほぼほぼ直訳で、2017年の出版です。有史以前の酔っぱらいから始まって、インドを除く世界の古代文明、すなわち、メソポタミア、エジプト、中国における飲酒と酔っ払い、もちろん、古典古代のギリシアやローマにおける饗宴、さらに、中性的な暗黒時代を経て近代にいたり、米国の禁酒法までの酔っぱらいや飲酒の歴史を概観しています。歴史的にはワインやエールのような醸造酒から始まって、ブランデーやウィスキーのような蒸留酒、もちろん、忘れてならないのはジンとウォッカですが、お酒の種類も豊富に取り上げられています。ただ、西洋中心史観であるのは否めず、登用についてはインドはスッポリと抜け落ちていますし、中国も古代文明のころの飲酒だけで、日本や日本酒は見向きもされていません。イスラムの飲酒については、そもそも飲酒が禁止されるまでの経緯を簡単にあとづけた後、飲酒が禁止されてからのさまざまな抜け道を示したりしています。基本的には、そういった井戸端会議でのトピック的な内容がギッシリと詰まっています。例えば、ギリシアの饗宴は名目的なホスト役は置くものの、参加者がそれぞれに平等だったが、ローマの饗宴はハッキリと順序序列が定められており、酒や食べ物にも差があった、とか、英国の名誉革命において君主がオランダから輸入されるとともにジンもオランダから英国に入ったとか、などなどです。また、著者は明記していませんが、私の理解によれば、エールにホップを入れてビールにするのは、ちょうど時代背景などから、肉に香辛料をふりかけるようなものだと実感していまいました。米国における禁酒法の制定・施行は、飲酒に対する嫌悪感からではなく、サルーンにおける男性中心主義的な飲酒慣行や家庭内暴力などに対して反旗を翻していたのである、といわれれば、そうかもしれないと感じてしまいました。私自身はそれほど酒飲みではありませんが、それなりに飲酒の楽しさも知っているつもりですので、とても話題性豊かな読書だった気がします。

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次に、A.R.ホックシールド『壁の向こうの住人たち』(岩波書店) です。著者は、カリフォルニア大学の旗艦校であるバークレー校の名誉教授であり、フェミニズム社会学を専門としてます。ファーストネームがイニシャルだけなので判りにくいんですが、女性です。そして、ついてながら、UCバークレイは少し前の我が母校の京都大学のように、米国の中でもリベラル左派の研究者が多く集結する大学である、と目されています。本書でも、右寄りの人から「ヒッピーの大学ね」といった発言を受けたりしています。ということで、英語の原題は Strangers in Their Own Land であり、2016年の出版です。フィールドワークに5年ほどかけているようですので、2016年の大統領選でトランプ大統領が当選したこととは直接の関係はないのではなかろうかと私は推測していますが、随所にトランプ大統領の当選と関連付けた記述が見られます。やや、便乗商法の匂いがするかもしれません。ですから、トランプ大統領の当選の基盤となったのは、中西部のいわゆるラストベルトなんですが、本書のフィールドワークの舞台はディープサウスのルイジアナ州です。まあ、それでも、いくつか米国にける右派の台頭に関しては妥当な分析結果も多く示されており、例えば、左右の分極化は左派がもっと左に行ったのではなく、右派がもっと右に行った結果であるとされています。私もそのとおりと考えます。現在では「オルタナ右翼」ないしオルト・ライトという用語が確立していますが、そのオルト・ライトの源流を探ろうとしています。そして、オルト・ライトの人々は、リベラルよりもむしろ、学歴が低く、従って、所得も低く、あるいは、シングル・マザーも多く、ゆえに、社会保障をより必要としていて政府の援助を求めて当然なのにもかかわらず、それでも大きなsウィフに反対するというパラドックスが存在すると指摘し、その背景のディープストーリーを探ろうと試みます。ひとつには、左派の上から目線で軽蔑されていると感じた右派の人々が、右翼的なラジオのパーソナリティや教会の聖職者に親近感を覚えたりするルートを上げています。自分たちはお行儀よく列に並んで順番を待っているにもかかわらず、オバマ大統領や左派リベラルの人たちは移民や黒人や女性が列に割り込むように仕向けている、と感じているのかもしれない、と著者は主張します。繰り返しになりますが、トランプ大統領当選の直接の要因を探ろうとした調査分析ではありませんが、南部を中心とするオルト・ライトのバックグラウンドを知るための詳細なルポルタージュとして評価されるべき書だと私は思います。何といっても、直接選挙なんですから。

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次に、バンディ・リー[編]『ドナルド・トランプの危険な兆候』(岩波書店) です。編者と各チャプターの著者の多くは精神科の医師であり、タイトル通りに、米国のトランプ大統領に関して精神科医師としてコメントを明らかにしている書物です。核ミサイルの発射ボタンに対する独占的・排他的かつ圧倒的な権能を有し、そのた、各種の巨大な権力を手中に収めた米国大統領として、広い意味での適格性では決してなく、精神科医としての見解を明らかにしています。軽く想像される通り、その結果は、ソシオパス=社会病質という診断結果から始まって、病的ナルシシズムや刹那的快楽主義者など各種の精神病質のオンパレードになっています。ということで、本書は、リフトン博士やハーマン博士などの海外でも著名な専門家を筆頭に、全米から精神科医・心理学者たちが、アイビーリーグの名門イェール大学で行われたコンファレンスで交換された意見を基に編集されています。しかし、医師が患者の病状を明らかにするのは、当然に、守秘義務違反であることは先進国で共通とは思いますが、米国の精神医学会では、加えて、ゴールドウォータールールとして、直接診断していない有名人に対して精神科医がコメントを出してはいけないという倫理規定があるそうで、それに明確に反している可能性も本書では繰り返し指摘しつつも、それでもその職業倫理規定に反してでも警告を発することが必要であり、より「大きな利益」につながる、と確信して本書は公刊されています。もちろん、臨床的にトランプ大統領を専門家として診断した精神科医はいないでしょうから、テレビなどの動画や新聞などのテキストで収録された発言などから、精神状態やひいてはかなり人格に近い部分まで推測を交えつつも断定的な結論を得ようとしています。ゴールドウォータールールとは、本書にもあるように、ジョンソン大統領との選挙戦において共和党のゴールドウォーター候補が、ソレントの冷戦下で核兵器の使用を是認する発言を繰り返したのをもって、パラノイアもしくは妄想型統合失調症の診断を下した何人かの精神科医の意見を収録した雑誌が裁判で敗訴した事件に起因します。ですから、核兵器を持っていながら使わないのは意味がないとの旨の発言をしたトランプ大統領もご同様の診断を下される可能性はあるわけです。私自身の見方としては、ゴールドウォータールールと職業倫理との関係については見識ないものの、トランプ大統領ご本人というよりも、当選者は選挙民の民度を反映するわけですから、トランプ大統領を当選させた米国国民こそ何らかの精神医の診断が必要ではないか、という気がします。

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最後に、上田早夕里『破滅の王』(双葉社) です。作者は、私の好きなSF作家なんですが、イタリア料理店を舞台にした短編もありますし、この作品はで戦時下の上海を舞台に細菌兵器のドキュメンタリに近い小説に取り組んでいて、この作品は直木賞候補になったような記憶があります。ということで、1948年、上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本を主人公とし、陸軍の特殊工作部隊に属し大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐をサブに、灰塚から宮本が日本総領事館に呼び出され、総領事代理の菱科とともに、重要機密文書の精査を依頼されるんですが、その内容は驚くべき内容で、R2v=キングと暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだったうえに、ほかのパーツが他国の公館にも送付されていたりしました。宮本は治療薬の開発を任されるものの、それは自国の兵士が安全に散布できるという意味で、取りも直さず、細菌兵器を完成させるということを意味していたわけです。もちろん、背景には人道にもとる人体実験を繰り返していた満州の石井部隊があり、ご本人もこの小説に登場します。そして、実在の石井にも負けないくらいのマッド・サイエンティストが登場し、灰塚は情報を追ってベルリンまで行ったりもします。そして、ベルリンにもマッド・サイエンティストがいたりするわけです。この作者の作品では、SF小説とイタリア料理店ものしか読んだことのない私なんですが、作者の新境地かもしれません。なかなか、力の入った大作なんですが、それだけに、逆にスピード感が足りない気もしました。歴史的事実とフィクション、というか、小説の境目を意図的にぼかしている気もしますが、それはそれで、功罪相半ば、という気もします。直木賞候補作ながら、受賞に至らなかったのも理由があるのかもしれません。

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2019年2月22日 (金)

1月統計で上昇幅を拡大した消費者物価(CPI)の今後の見通しやいかに?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から上昇幅をやや拡大して+0.8%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の全国消費者物価、0.8%上昇 宿泊料など押し上げ
総務省が22日発表した1月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は生鮮食品を除く総合が101.2と前年同月比0.8%上昇した。上昇は25カ月連続。伸び率は18年12月(0.7%上昇)に比べて拡大した。電気代や都市ガス代などエネルギー関連が押し上げた。宿泊料や自動車保険料も上昇に寄与した。
QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.8%上昇だった。生鮮食品を除く総合では全体の52%にあたる272品目が上昇した。下落は185品目、横ばいは66品目だった。総務省は「緩やかな上昇傾向で推移している」との見方を示した。
生鮮食品を除く総合を季節調整して前月と比べると0.2%上昇した。エネルギー構成品目の寄与度はガソリンや灯油価格の伸び悩みを背景に前月に比べて縮小した。
生鮮食品とエネルギーを除く総合は101.1と前年同月比0.4%上昇した。正月休みの延長で休暇をとる人が多く、宿泊料が高かった。値上げの影響で自動車保険料(任意)や新聞代も上昇した。
生鮮食品を含む総合は101.5と0.2%上昇した。伸び率は前月(0.3%)に比べて縮小した。キャベツやレタスなど葉物野菜が昨年に高騰した反動で下落した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いも私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。

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前年同月比上昇率で見て、生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)の+0.8%の上昇に比べて、ヘッドラインCPIは+0.2%の上昇にとどまりましたので、額は小さいながらも購入頻度も必需度も高い生鮮食品の上昇率が低かった、というか、下落しているわけです。その分、国民が感じる物価上昇のインパクトは小さかったかもしれません。そして、注目すべきは国際商品市況における石油価格との連動性であり、2月13日に取り上げた企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の上昇幅の大きな縮小と比較して、消費者物価(CPI)はそれほどの縮小を見せていません。もちろん、石油価格変化の波及のラグはPPIよりのCPIの方が長いでしょうから、これからその影響が表れると考えるべきなのかもしれませんが、より川下の消費者に近いところで需給がひっ迫しているという見方を示すエコノミストも少なくありません。1月統計では、引用した記事にもある通り、宿泊料などが上げられていますが、一般的に、人手不足の影響などから、品目別に詳しく見て、パック旅行費、テーマパーク入場料、運送料、外食、介護料などのサービス料金の上昇が指摘されています。ただ、今後のCPI上昇率については、このまま1%前後で推移するとは私は見込んでいません。まず、石油価格の動向です。石油価格が足元のの現状を維持するとしても、今年年央くらいにはCPI上昇率はかなり低下する見込みです。年央から年後半にかけて、コアCPI上昇率はゼロ近傍まで落ちる可能性が高いと私は考えています。加えて、政策的な要請も含めて、携帯電話通信料が引き下げられる可能性が高く、さらに、幼児教育などの教育無償化の影響も無視できません。当然ながら、CPIの引き下げ要因となります。もちろん、日銀の物価目標の達成は別の観点ですし、デフレを悪化させないという見込みを基に、こういった要請がなされたり、政策措置が講じられるわけですから、この点は忘れるべきではありません。また、10月から消費税率が2%ポイント引き上げられますので、単純に+1%ポイントくらいの物価上昇圧力になるものと考えられ、消費増税の影響を除くベースで物価動向を見る必要がありそうです。

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2019年2月21日 (木)

帝国データバンク「2019年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果やいかに?

少し旧聞に属する話題ながら、先週木曜日の2月14日に帝国データバンクから「2019年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。もちろん、サイトにはpdfの全文リポートもアップされています。景気局面と人で不足の現状、また、デフレ脱却とも併せて賃金動向は気にかかるところです。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 2019年度の賃金改善が「ある」と見込む企業は55.5%と、3年連続で5割を超えた。賃金改善について「ある」が「ない」を9年連続で上回ると同時に、その差も36.4ポイントと非常に大きな状態が続いており、2019年度の賃金動向は概ね改善傾向にある
  2. 賃金改善の具体的内容は、ベースアップが45.6%(前年度比0.2ポイント増)、賞与(一時金)が30.3%(同1.5ポイント減)。ベアは3年連続で4割台の高水準、賞与(一時金)も前年に続き3割台で推移
  3. 賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が初の8割台となる80.4%で過去最高を更新。人材の定着・確保のために賃上げを実施する傾向は一段と強まっている。「自社の業績拡大」(40.9%)が前年から大きく下回った一方、「消費税率引き上げ」は7.0ポイント上回った。改善しない理由は、「自社の業績低迷」(52.6%)が4年連続で低下。「人的投資の増強」(22.0%)が過去最高を更新し、「消費税率引き上げ」(17.5%)が8.0ポイント増
  4. 2019年度の総人件費は平均3.02%増加すると見込まれ、人件費伸び率は前年度よりやや上昇すると予想される。そのうち、従業員の給与や賞与は総額で約4.1兆円(平均2.82%)増加すると試算される

調査概要というよりも、かなりの程度に網羅的な報告だという気がします。私は元々が雇用をとても重視するエコノミストですし、大学教員に出向して学生諸君の就活にも接して、その思いがますます大きくなり、しかも、繰り返しになりますが、最近ではデフレとの関係で賃金動向はとりわけ重要です。ということで、リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、2019年度の企業の賃金動向についての質問の回答は、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む 企業は55.5%と、3年連続で5割を超えています。ただし、前回調査(2018年1月)における2018年度見込み(56.5%)と比較すると、賃金改善を見込む企業は1.0%ポイント減少しています。2019年度の賃金動向は概ね改善傾向にあるといえますが、昨年ほどではないかもしれません。これは、いわゆる「官製春闘」の終了と何か関係があるのでしょうか、ないのでしょうか。そして、その2019年度の正社員における賃金改善の具体的内容をリポートから引用すると、上のグラフの通りです。「ベースアップ」が45.6%、「賞与(一時金)」は30.3%に上っています。前回調査(2018年度 見込み)と比べると、「賞与 (一時金)」は1.5%ポイント減少した一方で、「ベースアップ」はほぼ横ばいとなっています。

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企業にとって賃金はコストかもしれませんが、その賃金を改善する具体的理由につき、今年度の賃金改善が「ある」と回答した企業に複数回答で問うた結果をリポートから引用すると、上のグラフの通りです。「労働力の定着・確保」(80.4%)が初めて8割台となり、過去最高を更新し た(複数回答、以下同)。人手不足を半数超の企業で感じるなど深刻度が増すなか、人材の定着・確保のために賃上げを実施する傾向は一段と強まっており、2015年度以降5年連続で 前年を上回っています。

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2019年度の自社の総人件費は、2018年度と比較してどの程度変動すると見込んでいるか問うた結果をリポートから引用すると、上のグラフの通りです。2019年度の総人件費は前年度比で平均3.02%増加すると見込まれ、金額では総額約5.2兆円、そのうち、従業員への給与や賞与は約4.1兆円(平均2.82%)増加すると帝国データバンクでは試算しています。「増加」と回答した企業は70.5%と2年連続で7割を超えた一方で、「減少」は6.7%にとどまり、総じて企業は人件費が増加すると見込んでいることが伺われます。企業にはコストでも、従業員のサイドから見れば購買力であり、個人消費を押し上げる原資でもあります。

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2019年2月20日 (水)

春節の影響で対中国輸出が大幅減となり貿易統計は4か月連続の赤字!

本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲8.4%減の5兆5742億円、輸入額は▲0.6%減の6兆9895億円、差引き貿易収支は▱兆4152億円の赤字を計上しています。原系列の貿易統計での赤字は4か月連続です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の貿易統計、対中輸出17%減 電機・半導体関連落ち込む
財務省が20日発表した1月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆4152億円の赤字だった。赤字は4カ月連続。輸出入ともに減少したが、中国向けの低迷などを背景に輸出減の影響が上回った。中国向け輸出は電気機器や半導体関連が落ち込み前年同月比17.4%減少した。
輸出額は前年同月比8.4%減の5兆5742億円だった。減少は2カ月連続。パナマ向け船舶や韓国向け半導体等製造装置、中国向け鉄鋼が全体を押し下げた。
国・地域別では、中国向け輸出額が9581億円と17.4%減少した。減少は2カ月連続で、2017年1月以来の低水準となった。電気回路等の機器やプラスチック、半導体等製造装置といった品目が減少した。財務省関税局は「中国向け輸出は春節(旧正月)日程の影響がでた」と説明した。
輸入額は0.6%減の6兆9895億円。10カ月ぶりに減少した。原油安を背景に原粗油や石油製品が落ち込んだ。1月の原粗油の円建て輸入単価は5.6%下落した。
対米国の貿易収支は3674億円の黒字で、黒字額は5.1%増加した。増加は7カ月ぶり。自動車や医薬品がけん引し、米国向け輸出は全体で6.8%増加した。輸入は原粗油などの増加で7.7%増となった。
1月の為替レート(税関長公示レート)は1ドル=109円47銭。前年同月に比べて2.7%円高・ドル安に振れた。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは▲1兆109億円の貿易赤字でしたので、4か月連続の貿易赤字も、▲1兆円超えの赤字額も、どちらも大きなサプライズではありません。国際商品市況における石油価格が、ピークを過ぎたとはいえ、まだ高い状況が続いていますし、2月上旬の中華圏の春節に合わせて、1月の生産調整が実施された結果です。また、原系列の統計では4か月連続の貿易赤字ですが、トレンドを見た季節調整済の系列では昨年2018年年央の7月から半年余りの間貿易赤字が続いています。ただ、上のグラフにも見える通り、輸出入ともに減少しての貿易赤字が続いています。なお、輸入額のピークは国際商品市況の動向にほぼ対応して、昨年2018年10月でした。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、現時点での輸出を見る際の注意点は、中国の景気が上向いているにもかかわらず、まだOECD先行指数が前年同月比でマイナスのままですので、我が国からの輸出が減少を続けていて、先進国加盟国の集合体であるOECDの先行指数は前年同月比マイナス、かつ、下り坂でマイナス幅が拡大していますので、我が国の輸出にとっては中国向けと先進国向けのいずれも需要サイドで減少要因となっており、さらに、引用した記事にもある通り、為替がやや円高に触れていますので、価格サイドも減少要因となっていて、どちらも輸出には逆風です。3月統計を見て、中華圏の春節が終了した後の世界経済を見据える必要があるかもしれません。

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2019年2月19日 (火)

最近の各社プレスリリースから興味深い画像を収集する!

最近は、定年退職間際で時間的な余裕もでき、いろんなサイトを見て回ったりしているんですが、今日は2つほど興味深い画像をお示ししたいと思います。

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まず、2月4日に明らかにされた総合旅行プラットフォームのエアトリのリポートから、春休みの学生人気急上昇海外旅行先ランキングは上の通りです。ランキングは2種類あって、上のテーブルは旅行先のランキングであり、もうひとつ、引用はしませんが、昨年比で人気急上昇のランキングもあります。人気急上昇の1位は直行便が開通したミラノ(イタリア)、2位はトルコのイスタンブールと渋いところが上がっています。実は、我が家の上の倅はこの3月に大学を卒業して就職しますので、まさに学生最後の春休みです。私の仕事の都合で海外帰国子女であり、最初に入学した小学校はジャカルタ日本人学校だったりしますので、今までも大学に入学してから海外旅行に行ったこともあったりします。

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次に、1月31日に明らかにされたプレスリリースから、フリマ・アプリの大手メルカリの2018年の利用動向は上の通りです。性別年代別の月間1人当り売上額です。購入額も知りたいところですが、明らかにされていません。メルカリなどのフリマ・アプリは中年女性の利用者が多い、と私なんぞは勝手に思い込んでいたわけで、とても意外だったんですが、各年代とも売上額は男性の方が多い結果が示されています。
年代・性別ごとに売上額が高いカテゴリーについては、10~20代の男性はトレーディングカードやテレビゲームなどの売上額が高く、30~40代ではアパレルの中でも比較的高値のジャケットやアウターを売却しており、また、50代以上になるとさらに単価の高い時計やPCやタブレット、またゴルフといった趣味に関するグッズをメルカリに出品しているようです。他方、10~20代の女性はタレントグッズやおもちゃなどを売却しているほか、10~30代の女性は子供のおもちゃを多く現金化しており、また、30~50代はバッグやアクセサリーなどの装飾品を、さらに60代以上になると着物や食器といった家に眠っている物の出品が増加しているようです。
昨年、IPOに成功したメルカリはIRの方も熱心なようです。

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2019年2月18日 (月)

2か月連続で前月比マイナスを記録した機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2019年12月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て、前月比▲0.1%減の8626億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

18年12月の機械受注、前月比0.1%減 19年1-3月期見通しは1.8%減
内閣府が18日発表した2018年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比0.1%減の8626億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.1%減だった。
うち製造業は8.5%減、非製造業は6.8%増だった。
内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」に変更した。
10~12月期の四半期ベースは前期比4.2%減だった。19年1~3月期は1.8%減の見通し。
あわせて発表した18年の船舶・民需を除いた民需の受注額は前年比3.6%増の10兆5091億円だった。製造業は8.9%増、非製造業は0.5%減だった。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスであるコア機械受注の季節調整済の前月比▲1.1%減は上回ったものの、2か月連続でわずかながら前月比マイナスを続けた上に、四半期で見て昨年2018年101~12月期の実績が前期比で▲4.2%減、さらに、今年2019年1~3月期の見通しが▲1.8%減ですから、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏み」からハッキリと「足踏み」に半ノッチ下方修正しています。特に、非製造業は人で不足や来年の東京オリンピック・パラリンピックを控えているせいか、それなりの増加を示しているんですが、製造業でマイナスを記録しており、米中貿易摩擦や、まだ、統計に影響が現れているとは思えないものの、例のメキシコ国境の壁を巡っての米国トランプ大統領の「非常事態宣言」などの海外要因が重しとなっているように私は見ています。1~3月期の見通しでも、非製造業は前期比プラスが見込まれている一方で、製造業は▲2.2%のマイナスが予想されています。足元から目先にかけて、引き続き、製造業では世界経済の動向に従って横ばいないし減少傾向が続く一方で、人手不足などから非製造業では堅調に推移するものと私は考えています。ただ、方向性ではなく、受注の水準としてはかなり高い状態が続いていることは忘れるべきではありません。

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2019年2月17日 (日)

日本気象協会による花粉飛散予測やいかに?

少し旧聞に属する話題ですが、2月14日に日本気象協会から「花粉飛散予測(第4報)」が明らかにされています。すでに、東海や中国、四国の一部や東京都などで花粉の飛散開始が確認されています。簡単に取り上げておきます。

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上の日本地図は2019年今年のスギ花粉前線です。日本気象協会のサイトから引用しています。東京都をはじめとして、関東はほぼ花粉飛散が始まっています。

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上の日本地図は2019年今年の花粉の飛ぶ量を、上は例年比で、下は昨シーズン比で、それぞれ都道府県別に色分けしています。これも、日本気象協会のサイトから引用しています。我が住まいのある東京都は、昨年比でも、昨シーズン比でも、いずれも「並」ということのようです。ただ、先週日曜日2月11日に取り上げたウェザーニュースの「速報・第3回花粉飛散傾向」では、関東地方は平年比2倍近い飛散量と予想されていましたので、「関東」と「東京」の違いはあるにせよ、1週間で予想がそれほど大きく変わるわけでもないでしょうし、どちらが正確な予想のか、やや疑問が残ります。

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2019年2月16日 (土)

今週の読書は特に印象的な『NEW POWER』をはじめとして計7冊!

今週の読書は、通常通りの数冊、経済書からウィルス論まで、以下の7冊です。ただ、その中で、ジェレミー・ハイマンズ & ヘンリー・ティムズ『NEW POWER』(ダイヤモンド社) がとても印象的でした。まだ2月半ばながら、今年のマイベストかもしれません。なお、今週は小説はありませんが、来週は小説も読みたいと予定しています。

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まず、橘木俊詔『定年後の経済学』(PHP研究所) です。著者はご存じ京都大学を定年退職したエコノミストであり、専門は労働経済学などのマイクロな経済分析です。私は少しだけながら面識があることから、きっと、もっと仕事がしたいというワーカホリックな著者の意向を強く反映して、定年制に対する著者ご本人の否定的な見解が満載されているのではないかと想像していたのですが、決してそうではありませんでした。書き出しこそ、海外では日本のような定年制は年齢による差別と受け取られる、とかで始まっているものの、定年制攻撃はなされていません。もっとも、上の表紙画像の帯に見られるような従来からの主張である格差論を展開しているわけでもなく、最終第6章を別にすれば、むしろ、淡々とタイトル通りの定年後の生活や諸制度を経済学を援用しつつ分析ないし解説しています。ただし、マクロもミクロも経済制度や経済現象を単独で取り出しても仕方ないところがあり、定年制についても雇用制度全体の中で考える必要があります。その点で、本書はやや私とは視点が異なり、通常の理解のように、終身雇用ないし長期雇用の中で若年期間は生産性を下回る賃金が支給され、逆に、中高年齢層には生産性を上回る生活給的な賃金が支払われる、という高度成長期に確立した我が国特有の雇用慣行と併せて考える必要があります。すなわち、長期雇用慣行の下では、どこかで賃金上昇をストップさせるか、そうでなければ、雇用そのものをストップするしかないわけです。本書では、退職金が長期雇用や生産性に比較した賃金支払と関連付けて論じられていますが、タイトルである定年制とは関係する議論はありません。本書でも引用されているラジアー教授による、我が国長期雇用との関連の仮説は、退職金ではなく定年制とリンクしていると考えるべきです。加えて、我が国の労働市場や社会保障制度において、かなり常軌を逸して恒例世代に有利で若年世代に不利な制度や慣行が成立してしまっています。先ほどの生産性と賃金の関係もそうですし、政治的な力関係で決まりかねない社会保障についてはもっとそうで、高齢世代をやたらと優遇する制度設計になっています。それを断ち切って若年世代の雇用を促進するため、私は年齢による差別であっても定年制の存在意義はあるものと考えています。ただ、平均的な日本国民と比較しても勤労意欲が決して高くない私ですら働き続け8日と考えざるを得ない背景には所得を得ねばならないという悲しい現実があります。その視点も本書では希薄ではなかろうかという気がします。

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次に、要藤正任『ソーシャル・キャピタルの経済分析』(慶応義塾大学出版会) です。著者は、国土交通総研の研究者であり、出版社からしても、かなりの程度に学術書に近いと考えるべきです。ということで、定義が今ひとつはっきりしないながら、『孤独なボウリング』で有名なパットナム教授による集合行為問題、すなわち、相互の信頼性とか、互酬性とかの人と人とのつながりを肯定的に捉えようとする姿勢、その集合体としてのソーシャル・キャピタルについて、定義と定量化を考え、また、いかに形成されるか、あるいは、世代間で継承・共有されるか、地域社会に有意義なフィードバックが及ぶか、などなどにつき、国際機関などでの研究をサーベイしつつ、また、可能な範囲でフォーマルな定量分析を試みています。伝統的な経済学では、企業は利潤を極大化しようとすますし、個人または家計は効用を最大化しようとします。そして、古典派経済学ではスミスのいうような神の見えざる手により、個々人が慈悲心ではなく利己的な効用最大化を図ることにより、社会的な分業体制のもとで市場が最適な資源配分の基礎となる、ということになっています。でも、ケインズがそのマクロ経済学で明らかにしたように、景気循環は市場経済では緩和されませんし、ナッシュやゲーム理論化が明らかにしたように、何らかの協力の下でゲーム参加者互いの効用をもっと公平に、あるいは、大きくすることも可能です。本書では、伝統的な経済学から外れはするものの、ソーシャル・キャピタルについて地域経済との関係を主に分析を進めています。ただ、まだ未成熟な研究分野ですので、やや勇み足のように先走った分析も見られます。例えば、幸福阻止表のようにGDPを否定する、とまでいわないものの、一定の代替性を認めておきながら、ソーシャル・キャピタルと1人当りGDPで代理した豊かさを回帰分析しようと試みたりしています。でも、一昨年ノーベル経済学賞が授賞された行動経済学や実験経済学などのように、合理性豊かな経済活動を前提にするのではなく、より根源的な人間性に根ざした経済分析として、まや、幸福度指標などとともに、国際機関での研究も盛んですし、今後の注目株かもしれません。

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次に、ジェレミー・ハイマンズ & ヘンリー・ティムズ『NEW POWER』(ダイヤモンド社) です。著者は、本書の著者は、amazonのサイトでは「ハーバード大、マッキンゼー、オックスフォード大などを経て、現在は、ニューヨークから世界中に21世紀型ムーブメントを展開しているハイマンズと、約100か国を巻き込み、1億ドル以上の資金収集に成功したムーブメントの仕掛け人であり、スタンフォード大でも活躍するティムズ。」と紹介されています。判る人には判るんでしょうが、ニューパワーとは縁遠い公務員の世界に長らく働く私にはよく判りませんでした。ということで、パワーをバートランド・ラッセルに基づいて「意図した効果を生み出し能力」と定義し、統制型からシェア型へ、競争からコラボへ、また、プロからアマへ、などなど、BREXITのレファレンダムやトランプ米国大統領の当選などのあった2016年あたりを境にして、ここ2~3年で大きく変化した新しい世界のルール、法則を解明しようと試みています。オールド・パワーとニュー・パワーを対比させていますが、前者が非効率とか、あるいは広い意味でよくないとか、また、前者から後者にこれからシフトする、とかの単純な構図ではなく、両者のベストミックスの追求も含めて、いろんなパワーや影響力の行使のあり方を考えています。いろんな読み方の出来る本だという気がしますが、私のようなエコノミストからすれば、あるいは、そうでなくても広く一般的にビジネス・パーソンなどは、企業における組織や企業行動のあり方とか、イノベーションを生み出す源泉とか、経済活動について古典派経済学的な家計の効用最大化や企業の利潤極大化に代わる経済社会の新たなあり方、などの方向付けとして読まれそうな気がします。強くします。繰り返しになりますが、今年に入ってまだわずかに1か月半ながら、ひょっとしたら、今年もマイベストかもしれません。長々と私ごときが論評するよりも、ハーバード・ビジネス・レビューのサイトに原書の解説で "Understanding 'New Power'" と題して掲載されている記事から2つの図表、邦訳書ではp.51とp.65の本書のキモとなる図表2つを引用しておきます。これで十分ではないかと思います。

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邦訳書にはないんですが、下の図表には、執務室のオバマ大統領はオールドパワーのモデルとオールドパワーの価値観に基づいていたのに対して、選挙活動中のオバマ大統領はニューパワーのモデルとニューパワーの価値観に立脚していた、とされる点です。また、邦訳書でもフォーカスされていますが、アップルはiPhoneなどを出しているにもかかわらず、オールドパワーのモデルとオールドパワーの価値観に基づいて企業活動を行っていると著者は理解しているようです。どちらも、そうかもしれません。

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次に、小路田泰直・田中希生[編]『明治維新とは何か?』(東京堂出版) です。著者は、私の専門外でよく判らないんですが、どちらも奈良女子大学の研究者です。基本は、歴史学の視点から、明治維新150周年を記念して奈良女子大学で開催された公開セミナーの講演録となっています。ただ、歴史学だけでなく、政治学の視点も大いに入っているような気がします。ということで、編者の1人による冒頭の「刊行にあたって」では、明確に明治維新に対する講座派的な見方が否定されています。その上で、本書が皇国史観に基づいているとは決して思えませんが、本居宣長や平田篤胤などのいわゆる国学に則った見方が引用されたり、神話にさかのぼった天皇観が示されたりと、私にはとても違和感ある明治維新観の書となっている気がします。私は大学のころには西洋経済史のゼミに属していましたが、いわゆる労農派的なブルジョワ民主主義革命でなく、明確に講座派的な見方が明治維新については成り立つと考えています。すなわち、特に、私の見方では、土地所有制度と農業経営において、英国的な借地と地代支払いに基づく資本主義的な農業経営ではなく、さすがに土地緊縛や領地裁判権はないとしても、封建制の残滓を大いに残した前近代的な特徴を持った不完全な資本主義制度の成立であったことは明らかです。ですからこそ、戦後のGHQによる大きな改革の中に農地開放と労働民主化が含まれていた、と考えるべきです。まあ、そのひとつの結論として二段階革命論というのがあるわけですが、それはともかく、我が国経済史学界で最大の影響力を持つ大塚史学でも日本の民主主義の担い手として自由で独立した市民社会が形成されていたとは見なされておらず、少なくとも、経済史の分野では、明治維新が不徹底なブルジョワ民主化であったという評価は、かなりの程度に確立された見方だという気がします。神話や国学にさかのぼった解釈が主を占める本書が、その明治維新の本質をどこまで解明できたのか、私には大きな疑問が残ります。

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次に、浅古泰史『ゲーム理論で考える政治学』(有斐閣) です。著者は早稲田大学の研究者であり、タイトルは政治学となっていますが、実は、著者のアカデミック・コースは一貫して経済学分野だったりします。それはともかく、読んでいるわけではないものの私が知る限り、政治学に関するゲーム理論のテキストはジェイムズ・モローによる『政治学のためのゲーム理論』(勁草書房)であり、邦訳書は割合と最近ここ2~3年の出版ですが、原書が1990年代なかばとかなり古く、ゲーム理論の最近の伸展を見るにつけ、本書のような数式でキチンと表現されたフォーマルなモデルを扱うテキストも必要という気がします。ただし、ゲーム論のモデルとしてそれほど数学表現されておらず、どこまで有効なのかは専門外ながら、はなはだ心もとない気もします。すなわち、単なる仮の数字を当てはめての確率計算に終止している気もしないでもありません。それから、著者の元のホームグラウンドが経済学ですので、かなり集合的なモデル表現になっている気がします。すなわち、経済学のモデルでは、一方で、企業部門ではたったひとつの企業がすべての財を生産し、かつ、すべての労働を需要しつつ、他方で、家計部門は代表的なたったひとつの家計がすべての財を購入・消費しつつ、かつ、すべての労働を供給する、と考えればそれでこと足りる気もしますが、政治学ではそれなムチャに単純化しすぎたモデルだろうと私は考えます。すなわち、本書冒頭の選挙についても、単純化されたモデルとはいえ、投票先として与党と野党、投票する国民というか、有権者としてコアな与党支持者とコアな野党支持者と浮動票、くらいの分類は必要ではないか、と考えるのは私のようなシロートだけなんでしょうか。加えて、政治学では何らかの利益・不利益の分配に関する調整が行われる過程を分析する場合も多そうな気がするところ、そういったモデルは扱われていない気がします。まあ何と申しましょうかで、物理学を数少ない例外として、こういった専門の経済学以外の学問分野のモデル分析を勉強するにつけ、私のようなエコノミストから見てもモデルの欠陥が目につくんですから、他の分野の専門家が経済学のモデルを見ると、いい加減で現実適用性が低い、と受け止めているんだろうなあ、という気がしてしまい、我と我が学問分野を振り返って反省しきりとなってしまいます。

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次に、稲田雅洋『総選挙はこのようにして始まった』(有志舎) です。著者は社会学の研究者であり、かなりのご年配です。第6章まである構成をお考えだったようで、議会と立憲政治をテーマにしたかったようですが、年齢や体調との関係で4章構成の第1回総選挙に的を絞ったようです。そして、本書もまた、コミンテルンの32年テーゼを基とする講座派的な第1回総選挙やその結果として成立した議会=衆議院を「地主の議会」とする従来からの支配的な見方に対するチャレンジと志しています。ということで、まず、おさらいですが、1890年の第1回総選挙、すなわち、衆議院議員選挙は25歳以上成年男子が選挙権と非選挙権をもつんですが、制限選挙であり、直接国税15円以上の多額納税者に選挙権も被選挙権も限定されていました。それも地租なら1年、所得税なら3年の継続期間が必要でした。衆議院議員がほとんど地主とされる根拠のひとつですが、著者はこれを否定します。すなわち、第1章では候補者に焦点を当てて、特に民権派議員の中にとても地主とは思えない中江兆民とかが入っており、その背景に、こういった民権派活動家などを議会に送り出したい人々が土地の名義や税金支払人の名義を書き換えて、これらの民権派活動家などを財産家に仕立て上げた、という点を第1章で強調しています。候補者ご本人が議員になりたかった場合をwin-win型と命名し、そうでない場合を勝手連型と本書では名付けています。そうかもしれません。その上で、第2章では、選挙の有権者にスポットを当てて、今でいうところの「1票の格差」を取り上げ、確かに、地方では地主が有権者が多くを占めていたものの、1票の格差からそれほど多くの議員を選べず、地主が少なかった都市部の1票の重みの方が10倍近い格差でもって議員を選ぶウェイトがあった、と結論づけています。さらに、第3章では当選人の分類を試み、第4章では民権派の圧勝に終わった栃木県と、逆に、民権派がほとんど当選しなかった愛知県をケーススタディとして取り上げています。まあ、いろんな考えから、コミンテルン32年テーゼに従った講座派的な歴史観に異を唱えるのは判らないでもないですが、本書で明記しているように、ソ連の崩壊をもってコミンテルンのテーゼがすべて無効になったとする考え方には私は同意できません。明治維新に対する歴史観も含めて、明治期の土地所有制が半封建的な寄生地主であったことは明白ですし、第1回総選挙の結果の衆議院議員が地主でなくても、講座派の歴史観を否定することにはつながらないような気がします。

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最後に、山内一也『ウイルスの意味論』(みすず書房) です。著者は獣医学が基本ながら、北里研究所や東大で研究者を務めたウイルスの専門家です。ただ、90歳近い年齢ですから、現役ではないのかもしれません。本書は月刊「みすず」の連載を単行本化したものです。ということで、単なるウイスルに関する書物ではなく、なかなかに難解な「意味論」がついています。ただ、私は専門外ですので、どこまで理解したかは自信がありませんが、「意味論」の部分は関係なくウイルスに関して現時点で、どこまで科学的な解明がなされているかを明快に取りまとめています。まず、本書でもひとつのテーマとなっているんですが、ウイルスは生命あるいは生物であるのかどうか、NASAの地球外生命探査計画で定義された「ダーウィン進化が可能な自立した化学システム」も援用しつつ、私の理解した範囲では、細胞内にあるときはウイルスは生命・生物であり、細胞外にあるときは無生物、ということになりそうです。もちろん、この生物・無生物の定義の他にも、根絶された天然痘ウイルス、まだ根絶されていないものの、かなり抑え込まれた麻疹ウイルス、などの人間界から閉め出されつつあるウイルス、もちろん、逆に、人間だけでなく昆虫などと共生し何らかの利益をもたらすウイルス、さらに、海中などの水の中に多数存在するウイルスなどなど、私のようなシロートにもそれなりに判りやすいウイルスのうんちく話を詰め込んでいます。通常の理解では、ウイルス=病気、怖くて予防すべき、と考えがちで、おおむね、その通りなんでしょうが、そうでない例外も少なくない点を含めて、いろんなトピックがいろいろと盛り込まれています。まあ、専門外の読書でしたので簡単に切り上げておきます。

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2019年2月15日 (金)

日本経済研究センター(JCER)研究員報告書「貿易戦争のCGEモデル分析」はやっぱり米中貿易戦争の我が国への影響は軽微と分析!

やや旧聞に属する話題ながら、1月31日付けで日本経済研究センター(JCER)から研究員報告書「貿易戦争のCGEモデル分析」が明らかにされています。サイトには英文要旨のpdfファイルもアップロードされています。タイトル通りに、CGEモデルによる分析結果が示されており、すでに発動されている鉄鋼・アルミニウムに対する関税(シナリオ1)、すでに明らかにされている米国による総額2,500憶ドル相当の中国輸入品への課税(米中関税第1弾から第3弾、シナリオ2)、さらに、検討されている政策として、米中第4弾(シナリオ3)、自動車・自動車部品関税(シナリオ4)、のそれぞれについて推計されており、シミュレーションの結果、シナリオ1から4がすべて実施された場合、世界のGDPは▲0.2%減少し、米国は▲0.8%、中国は▲0.7%減少する一方で、日本への影響は▲0.1%に達しない限定的な影響との結論を得ています。このブログでも、昨年2018年7月24日付けで大和総研から明らかにされた2本のリポートを引用して、「日本経済へのマイナスの影響は決して大きくない」との結論を紹介しています。以下に、日本経済研究センターの研究員報告書から、CGEモデル分析結果のグラフを引用しておきます。

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2019年2月14日 (木)

2018年10-12月期GDP統計1次QEは潜在成長率近傍で力強さに欠ける成長!

本日、内閣府から昨年2018年10~12月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.3%、年率では+1.4%を記録しました。マイナス成長だった7~9月期から2四半期振りのプラス成長でしたが、リバウンドの高成長ではなく潜在成長率近傍の成長率でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP実質1.4%増、10-12月年率 2期ぶりプラス
内閣府が14日発表した2018年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%増だった。年率換算では1.4%増。年率2.6%減だった7~9月期から、2四半期ぶりのプラスとなった。18年夏の自然災害による個人消費の落ち込みが解消され、内需が全体の成長率押し上げに寄与した。
前期比0.3%増の成長率のうち、0.6%分は国内需要を表す内需が寄与した。内訳をみると、GDPの5割超を占める個人消費が前期比0.6%増と、7~9月期の0.2%減から回復。飲食や宿泊、航空などレジャー関連の回復が目立った。自然災害が個人消費を下押ししていたが10~12月期は回復。自動車販売も堅調だった。
住宅投資は1.1%増。2四半期連続でプラスを確保した。住宅投資は工事の進捗状況に応じてGDPに計上しており、4~6月期以降の着工の伸びが寄与した。民間の設備投資も2.4%増と全体を押し上げた。生産用機械の伸びが寄与した。
一方、外需は0.3%分、成長率を押し下げた。中国経済の鈍化により情報関連財の輸出が伸びず、輸出全体の伸びを抑えた。輸入は堅調な内需を背景に増加。外需の寄与度は、輸出の寄与度から輸入の寄与度を引いて算出する。前期からの伸び率は輸入が輸出を上回り、全体に対する外需の寄与度はマイナスとなった。
18年10~12月期のGDP成長率は名目で見ると0.3%増。年率換算では1.1%増だった。名目値は実質値に物価分を上乗せして算出するため、物価が上がれば名目値は上がる仕組みだ。10~12月期は物価上昇率が鈍く、名目の成長率が実質を下回った。
収入の動きを示す雇用者報酬は名目の前年同期比で3.2%増。7~9月期の2.6%増から伸び率が拡大した。
18年暦年の成長率は実質0.7%増、名目で0.6%増。いずれも12年以降、7年連続のプラス成長となった。成長率はともに17年を下回った。18年の名目GDPは548兆円と17年の545兆円を上回り、過去最高を更新した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2017/10-122018/1-32018/4-62018/7-92018/10-12
国内総生産GDP+0.5▲0.2+0.6▲0.7+0.3
民間消費+0.5▲0.2+0.6▲0.2+0.6
民間住宅▲3.2▲2.0▲2.0+0.5+1.1
民間設備+0.8+1.0+2.5▲2.7+2.4
民間在庫 *(+0.2)(▲0.3)(+0.0)(+0.1)(▲0.2)
公的需要▲0.0+0.0▲0.1▲0.3+0.4
内需寄与度 *(+0.5)(▲0.3)(+0.7)(▲0.5)(+0.7)
外需寄与度 *(+0.0)(+0.1)(▲0.1)(▲0.1)(▲0.3)
輸出+2.2+0.4+0.4▲1.4+0.9
輸入+2.3+0.0+1.3▲0.7+2.7
国内総所得 (GDI)+0.1▲0.5+0.5▲0.9+0.2
国民総所得 (GNI)+0.1▲0.7+0.8▲1.0+0.3
名目GDP+0.3▲0.4+0.5▲0.6+0.3
雇用者報酬 (実質)▲0.0+0.7+1.5▲0.4+0.7
GDPデフレータ+0.1+0.5▲0.1▲0.4▲0.3
内需デフレータ+0.6+0.9+0.5+0.6+0.5

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2018年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラスに回帰し、赤い消費と水色の設備投資がプラスの寄与を示している一方で、灰色の在庫と黒の外需(純輸出)がマイナス寄与となっているのが見て取れます。

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ということで、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも前期比年率による予想レンジは+0.3~+1.2%となっており、予測のレンジ上限を超えたとはいえ、ほぼほぼ上限という印象です。ただし、季節調整済の前期比で見て、2018年7~9月期の▲0.7%のマイナス成長に比べて、10~12月期の+0.3%は+1%強と見なされている潜在成長率近傍とはいえ、自然災害による個人消費の落ち込みが解消されたリバウンドを含めれば、やや物足りない数字と受け取る向きエコノミストも多そうです。他方、仕上がりの数字は前期比+0.3%、前期比年率+1.4%ながら、前期比の内外需別内訳は内需寄与度+0.7%、外需(純輸出)▲0.3%ですから、内需主導型の成長であったことは確かです。ただ、先行きリスクとしては、米中間の貿易戦争に代表されるような通商摩擦が筆頭に上げられる場合が多く、我が国輸出の今後の行方が懸念されますが、貿易摩擦の我が国への影響は大きくなく限定的、という分析結果もチラホラと目にします。

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上のグラフは、価格の変動を取り除いた実質ベースの雇用者報酬及び非居住者家計の購入額の推移をプロットしています。内需主導の成長を裏付けているのは設備投資とともに消費が上げられるわけですが、上のグラフに見られる通り、その背景には順調な増加を続ける雇用者報酬があります。1人当たり雇用者所得と雇用者数の掛け算で増えています。インバウンド消費も順調な拡大を続けており、まだまだ拡大の余地はあると考えられるものの、かつて「爆買い」と称されたほどの爆発的な拡大はそろそろ安定化に向かっている印象ですし、国内労働市場の人手不足に伴う正規雇用の増加や賃金上昇により、毎月勤労統計などの統計が信頼性低い恐れはあるものの、雇用者報酬が順調な伸びを示しています。まだ、景気ウォッチャーや消費者態度指数といった消費者マインドは改善の兆しを見せないものの、人手不足は省力化・合理化投資を誘発して設備投資にも増加圧力となっており、内需主導の成長をバックアップしていると考えるべきです。

最後に、いくつかのシンクタンクから、この1次QEのリポートが出されていて、私が見た以下の3機関の範囲では、足元から目先の日本経済について、「力強さに欠ける」とか「低空飛行」といったフレーズが並んでいた気がします。順不同で、ご参考まで。

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