2024年2月21日 (水)

再び赤字になった1月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+11.9%増の7兆3326億円に対して、輸入額は▲9.6%減の9兆909億円、差引き貿易収支は▲1兆7583億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

1月の貿易収支1兆7583億円の赤字 輸出の伸び鈍く
財務省が21日公表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆7583億円の赤字だった。赤字幅は前年同月に比べて49.9%縮小した。2カ月ぶりに貿易赤字となった。
全体の輸入額は9兆909億円で、9.6%減った。減少は10カ月連続だ。輸出額は7兆3326億円で11.9%増え、2カ月連続で増加した。
輸入は資源関連が全体を押し下げた。原油が9162億円で9.2%減、液化天然ガス(LNG)が6224億円で28.8%減、石炭が4299億円で43.2%減となった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり85.8ドルと前年同月から2.9%下がった。円安傾向となった影響で、円建て価格は1キロリットルあたり7万7647円と5.9%上がった。
地域別では米国が1兆83億円で6.0%増、アジアが4兆4820億円で7.0%減だった。
輸出は鉱物性燃料が1220億円と32.7%減った。米国向けの自動車や中国向けIC製造用など半導体等製造装置は増えた。地域別にみると米国向けが1兆4233億円で15.6%増え、アジア向けが3兆8964億円で13.5%の増加となった。
1月の貿易収支は季節調整値でみると2352億円の黒字となった。輸入が前月比で10.5%減の8兆5299億円、輸出が3.6%減の8兆7652億円だった。

長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1.85兆円ほど貿易赤字が見込まれていましたので、大きなサプライズはありませんでした。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額が伸びていないわけではなのですが、それよりも輸入額の減少が現状の貿易統計の大きな特徴です。報じられているように、季節調整していない原系列の統計ではまだ貿易収支は赤字ですが、引用した記事にもある通り、季節調整済みの系列では2021年5月以来久々の黒字、+2000億円余りを記録しています。ただし、中華圏の春節のカレンダーがイレギュラーになっていて、昨年2023年は1月22日から春節が始まった一方で、今年2024年は2月10日からとなっています。ですから、季節調整がどこまでこういった中華圏の春節要因を除去できているか、私には少し疑問です。ひょっとしたら、昨年と今年のそれぞれの1-2月を合計して、というか、平均して見る必要があるのかもしれません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
1月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲14.2%減、金額ベースで▲9.2%減となっています。数量ベースと金額ベースで大きな差がないというわけですから、価格低下に歯止めがかかりつつあると考えるべきです。LNGについても同様で、数量ベースでは▲10.5%減、金額ベースでは▲28.8%減となっています。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲5.6%減となっている一方で、金額ベースでは▲11.0%減と単価が低下を始めていることがうかがえます。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数で+16.1%増、金額ベースでも+31.6%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械+5.1%増、電気機器+7.6%増と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーも輸出額を伸ばしています。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国経済の需要要因とともに、円安の価格要因も寄与していると考えられます。すなわち、円・ドルの東京インターバンクの為替相場、スポット中心相場の月中平均で見て、2023年1月の\/$130.20から2024年1月には\/$146.57と12%を超える円安となっています。

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2024年2月20日 (火)

やっぱり2021年からのインフレは供給ショックだったのか?

先週2月15日、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のブログで Supply shocks were the most important source of inflation in 2021-23, but raising rates to curb demand was still appropriate と題する記事が明らかにされています。
何が分析されているのかといえば、米国でのインフレは供給サイドを起点に生じたものであることは確かである一方で、需要サイドの寄与がどうだったかを考えています。すなわち、供給サイドだけの要因であれば、金融政策によって需要を引き締める必要は決して大きくなかったのですが、需要のインフレへの寄与がそれなりにあったとすれば、金融政策による需要引締め策が必要であったということになります。

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まず、上のグラフはピーターソン国際経済研究所のサイトから Figure 1 Deviations from forecast can be shown as demand and supply shocks を引用しています。誰もが経済学と聞いて思い浮かべるであろう需要曲線と供給曲線でもって均衡が決まり、その均衡から供給曲線がシフトした結果を考えようと試みています。見れば明らかな通り、供給ショックであるとすれば、価格が上昇し、すなわち、インフレとなり、産出は減少します。

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続いて、上のグラフはピーターソン国際経済研究所のサイトから Figure 2 Shocks differ across major economies in 2020-21 and 2022-23 を引用しています。需要曲線や供給曲線は描けませんから、その交点の均衡、というか、均衡のシフトのみ示してあります。主要4地域、すなわち、米国、欧州、日本、英国です。2022年2月末のロシアによるウクライナ侵攻の前後で分割しており、左のパネルはウクライナ侵攻前の2021年10~12月期まで、右が侵攻後の2021年10~12月期以降となります。侵攻以前の日本が異常な動きを示していて、明らかに供給曲線に沿って需要曲線がシフトしている可能性が伺えます。そして、侵攻前については、少なくとも米国では需要がプラスの方向のシフトしており、"The results presented here suggest that supply shocks were the main culprit but that demand probably played a supporting role, especially in the United States." この結果は供給ショックが主な原因であるが、特に米国では需要がおそらく補助的な役割を果たしたことを示唆している、と結論しています。ですので、金融政策による需要の引締めは必要であった、ということになります。

という結論を見ると、現状でインフレが低下しつつあり、特に、日本の場合は需要がインフレに対して補助的な役割すら果たさなかったと思うのですが、いかがなものでしょうか?

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2024年2月19日 (月)

2023年12月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2023年12月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+0.7%増の8587億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注23年10-12月1.0%減 3四半期連続マイナス
内閣府が19日発表した2023年10~12月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比1.0%減の2兆5142億円だった。マイナスは3四半期連続。製造業の発注が減少した。
製造業は2.3%減で、2四半期連続のマイナスとなった。船舶と電力を除く非製造業は2.5%増で3四半期ぶりのプラスを確保した。
23年通年は製造業の減少が響き、全体で前年比3.6%減だった。マイナスは20年以来3年ぶりとなる。
内閣府は実績を見通しで割った「達成率」を公表しており23年10~12月期は93.2%だった。達成率は23年7~9月期の94.6%から低下した。
発注した業種ごとにみると、「化学工業」が26.0%減った。化学機械でまとまった受注があった23年7~9月期の反動が出た。「汎用・生産用機械」も9.1%減少した。クレーンやコンベヤーなどの運搬機械のマイナスが響いた。
船舶と電力を除く非製造業では通信業が18.1%増えた。11月に大型案件があった通信業が全体を押し上げた。卸売業・小売業も汎用コンピューターなどの電子計算機が増えてプラスに寄与した。
23年12月末時点の1~3月期の受注額見通しは前期比4.6%増だった。見込み通りなら4四半期ぶりのプラスとなる。製造業が11.7%増で全体をけん引する。モーターや電子・通信機械などの発注が増えると見込む。
23年12月単月の民需は前月比2.7%増の8388億円だった。プラスは2カ月ぶりとなる。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.5%増だった。内閣府は全体の基調判断を1年2カ月連続で「足踏みがみられる」とした。
製造業が10.1%増と2カ月ぶりにプラスだった。業種別では「化学」や「情報通信機械」が押し上げた。
船舶と電力を除く非製造業は2.2%減った。マイナスは2カ月連続。運輸業・郵便業や通信業が減少した一方、電子計算機が増えて金融業・保険業はプラスだった。

四半期統計中心でとても長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+2.5%増でした。予想レンジがかなり広かったとはいえ、下限は+0.1%増でしたので、実績の+2.7%増は大きなサプライズなかったと私は受け止めています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。1年2か月連続の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドで見れば、明らかに下向きとなっています。事実、昨年2023年中、4~6月期▲3.2%減の2兆5855億円に続いて、7~9月期▲1.8%減の2兆5385億円、10~12月期▲1.0%減の2兆5142億円と、3四半期連続で減少しています。ただ、受注水準としてはまだ何とか月次で8,000億円を上回っており決して低くはありませんし、足元の2024年1~3月期の受注見通しは+4.6%増の2兆6294億円と見込まれています。ただし、製造業が2ケタ増と見込まれている一方で、船舶と電力を除く非製造業は▲1.8%減と予想されていて、やや業種でばらつきが見られます。ただ、先行きに関しては、今年2024年1~3月期の受注増見込みはやや慎重に見ておく必要があります。すなわち、引用した記事にもあるように、受注の達成率が低下してきているからです。2023年7~9月期94.6%から10~12月期には93.2%でした。エコノミストの経験的な通説として、この達成率が90%を下回ると景気後退局面入りのひとつのサインとみなされています。私は、先日の2023年10~12月期のGDP養鶏速報1次QEなどを見ても、ひょっとしたら、すでに景気後退局面に入っているかの末芋ゼロではない、と考えていますし、この先、防衛費や子育予算などで国民負担が増加すると本格的な景気後退に入る可能性がさらに高まると考えています。

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2024年2月18日 (日)

Bill Evans の最後の録音 Consecration から You and the Night and the Music

もう説明の必要もありません。
Bill Evans の生前の最後の録音であるアルバム Consecration からアルバム冒頭に収録されている You and the Night and the Music です。

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2024年2月17日 (土)

今週の読書は教育に関する学術書をはじめとして計7冊

今週の読書感想文は教育に関する学術書をはじめとして計7冊、以下の通りです。
まず、経済協力開発機構(OECD)[編著]『教育の経済価値』(明石書店)は先進国が加盟する国際機関が人的資本形成に重要な役割を果たす教育について分析しています。中西啓喜『教育政策をめぐるエビデンス』(勁草書房)は、教育学の観点から少規模学級による学力格差是正効果などの定量的な分析を試みています。万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)は、第170回直木賞受賞作品であり、8月の猛暑の京都の御所グラウンドにおける草野球のリーグ戦に参加した不思議な選手についてのストーリーです。東野圭吾『魔女と過ごした七日間』(角川書店)は、ラプラスの魔女こと羽原円華が知り合った中学生の父親が殺された殺人事件の謎の解明に挑みます。伊藤宣広『ケインズ』(岩波新書)は、戦間期におけるケインズの活動について、対ドイツ賠償問題と英国の金本位制復帰に焦点を当てて議論しています。阿部恭子『高学歴難民』(講談社現代新書)は、博士課程に進んだり海外留学を経験して、高学歴でありながら低所得に甘んじている「難民」について実例を引きつつ考察しています。西村京太郎『石北本線 殺人の記憶』(文春文庫)では、何と、20年間の人工睡眠から目覚めた主人公がバブル期の北海道経済界で注目されていた若手財界人殺害の事件に遭遇します。
ということで、今年の新刊書読書は1月に21冊、2月第2週までに11冊の後、今週ポストする7冊を合わせて39冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。

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まず、経済協力開発機構(OECD)[編著]『教育の経済価値』(明石書店)を読みました。著者は、いわずと知れたパリに本部を置く国際機関であり、日本や欧米をはじめとする先進国が加盟しています。慶應義塾大学の赤林教授が監訳者となっていて、巻末の解説を書いています。かなり学術書に近いのですが、一般の教育関係者やビジネスパーソンにも十分有用な内容です。本書は5章構成となっていて、経済的に人的資本が重要であることを第1章で論じた後、第2章では経済に限定せずに、教育が広範な社会的な成果をもたらす点を指摘し、そして、第3章から第5章は学校教育の実践編となり、財政や予算配分などについて分析しています。私も大学の教員ながら、学校運営についてはシロートですし、ましてや学校財政や予算運営については大した見識があるわけではありませんから、主として、第1章と第2章を中心にレビューしておきたいと思います。まず、本書ではなぜかほとんど言及がないのですが、経済学的には生産関数という理論があり、生産要素、すなわち、資本ストックと労働をインプットして付加価値が生み出される、と考えます。この付加価値の一定期間の合計がGDPなわけで、GDPの伸び率を成長率というわけです。そして、本書でも言及あるように、資本ストックはともかく、もうひとつの生産要素である労働についてはシカゴ大学のベッカー教授の人体資本理論が教育を考える際の経済学の中心となります。人的資本は知識や経験をはじめとするスキルの限定的なストックであるとみなされていました。これはすなわち短期的な成長への寄与を中心に考えられていたことを意味します。しかし、ローマー教授などの内生的成長理論あたりから、人的資本はイノベーションへの貢献や普及を通じて長期的な成長にも寄与する部分が大きいと考えられるようになっています。日本でも「教育は国家100年の大計」といわれるように、人的資本形成に長期的な視点は欠かせません。ただ、2020年以降のコロナ禍の中で財政制約が厳しくなるとともに、目の前の命を救う医療や社会保障に比較して、教育に割り当てられる予算を見直す必要が生じたことも事実です。その上、コロナの前から格差問題がクローズアップされており、教育が経済的な格差にどのような影響を及ぼしてきているのか、といった分析も不可欠になっています。おそらく、教育にはスキル向上を通じた人的資本蓄積に寄与するのはもちろん、それ以上に、経済学的には外部性が大きいという特徴があります。例えば、感染症のパンデミックのケースを考えても、議論の絶えないマスク着用やワクチン接種の問題を差し置いても、衛生状態や栄養摂取の改善などについては、それなりの教育を受けて意識の高い人間が増加すれば、かなりの程度に解決される可能性があります。統計的なエビデンスは必ずしも十分には示せませんが、私の直感では明らかに学歴と喫煙習慣は逆相関しています。また、これも議論が分かれるかもしれませんが、2016年の英国のEU離脱の国民投票では、学歴とremainは正の相関があったと報告されています。加えて、本書では、メンタルヘルスの問題なども教育水準の向上とともに改善される可能性があると示唆しています。ただ、他方で、教育については普遍性と先進性の間にトレードオフがあるのも事実です。日本でいうところの「読み書き算盤」といった基礎的なスキルは義務教育で国民の多くが普遍的に身につける必要がある一方で、高等教育をどこまで普及させるべきかの観点は議論が分かれます。

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次に、中西啓喜『教育政策をめぐるエビデンス』(勁草書房)を読みました。著者は、桃山学院大学の研究者であり、専門は経済学ではなく教育社会学のようです。本書はほぼほぼ学術書と考えていいと思いますが、教育関係者にも配慮しているような気もします。例えば、経済学の学術書であれば、本書第1章の「科学的エビデンスとは何か」なんて議論はすっ飛ばしているような気がします。一般の教育関係者に配慮しているのか、それとも、教育学や教育社会学のエビデンスに対する考え方がまだこのレベルなのかは、私にはよく判りません。そして、本書では科学的エビデンスとは因果関係のことであると見なしています。いつも、私の主張のように、時系列分析の観点からは因果関係とともに相関見解も十分重要だと私は考えているのですが、そこは経済学との違いなのかもしれません。ただ、教育学や教育社会学と経済学で共通する観点、すなわち、実証的な分析と規範的な分析についてはキチンと押さえられています。例えば、本書でも少人数学級の有効性について分析をしているのですが、少人数学級が学習到達度の観点から有効であるかどうかと少人数学級を普及させるべきかどうか、の点は異なる観点から考えられるべき、ということです。経済学も同じで、例えば、財政支出拡大が成長に寄与るるかどうかは実証的に分析できますが、それでは、財政支出を拡大してまで成長を加速させるべきかどうかは別問題です。こういった実証と規範を考えた上で、いくつかの教育に関する論点をフォーマルな定量分析で実証的に明らかにしようと試みています。結論をいくつか抽出すると、まず、少規模学級による学力格差是正効果は小さいものの、その効果は本書では認められています。私のやや古い認識によると、週人数教育は学習到達度にはそれほど有効ではない、というのがこの世界の常識だったような気がしますが、学習到達度ではなく学力格差に着目すると効果あるという結論です。私自身としては一定の留保はつけておきたいと思います。大学のゼミナールが典型なのですが、少人数教育を尊ぶ考えについて、私自身は疑問を持っています。少人数教育ではそれだけ学習に対する圧力、まさに日本的な「圧力」、教師から、あるいは同じ生徒や学生間のプレッシャーがあるので学力への効果があると考えられますが、勉強するしないはそんなことで決まるものではありませんし、とくに、上級校になるに従って学校での学習の比率よりも家庭、というか、自分自身で学習すべき比率が高まりますから、私自身は少人数教育の効果には疑問を持っています。私の直感では、小学校の教員は少人数学級に好意的で、大学の教員はそうでもなさそうな気がします。しおれは、学校での学習と自分自身でやる学習の比率の差であろうと私は考えています。ただ、2点注意すべきなのは、まず、少人数学級ほど教員の負担が小さいことは事実だろうと思います。ですから、本書の分析結果のように、教師のサイドからすれば職務多忙の解消と学級規模の縮小が求められています。そして、従来からの定量分析結果に示されているように、学級規模を縮小させて15~20人くらいを境に学習効果が高まるのは事実だろうとおもいます。ギャクニ、コロナ禍の中で学級規模を40人から35人にしたくらいではほとんど効果はない可能性があると認識すべきです。そして、本書の分析結果として興味深かったのは、日本国民の間では、従来から教育は私的な活動であって、教育の便益は個人に帰属する可能性が高いことから、私的に費用を負担すべきものという感覚が先進各国と比べても高かったと私は認識しているのですが、その意識はかなり変化してきており、公的な支出をより増加させる機運が高まっている、との分析結果が示されています。よく主張される点ですが、日本位の先進国で高等教育機関である大学の無償化が進んでいないのは米国を別にすれば日本くらい、というのがあります。私自身は、大学学費がここまで高いのは雇用慣行の年功賃金が関係していると考えています。すなわち、雇用者の賃金が若年期に生産性より低い賃金しか支給されない一方で、中年以降の子育て期に生産性を上回るので教育費が負担できてしまう、という構図があります。大学の学費を政府が無償にするのではなく、企業に負担させているわけです。もうひとつは、少なくとも1950年代生まれの私くらいまでは、国公立大学は実質的に無償に近かった、という事実があります。私の京都大学の学費は年間36,000円だったと記憶しています。この額であれば、決して私の親は高給取りではありませんでしたが、かなり無償に近い印象でした。ただ、最近時点では国立大学でも年間50万円を大きく上回る学費が必要ですし、公的支出を拡大する機運が高まっているのは、ある意味で、当然かもしれません。

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次に、万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)を読みました。著者は、私の後輩の京都大学ご出身の小説家です。私はこの作者の作品はかなり大量に読んでいると自負しています。そして、この作品は、いわずと知れた第170回直木賞受賞作品です。作者の『鴨川ホルモー』のデビューから16年ぶりの京都を舞台にした青春小説です。本書は2部構成、2本立て、というか、順に短編ないし中編の「十二月の都大路上下る」と表題作の「八月の御所グラウンド」を収録しています。両者は密接にリンクしている連作なのですが、独立して読んでも十分楽しめます。ということで、前者の「十二月の都大路上下る」は全国高校駅伝で京都市内を走る県代表の女子高生が主人公です。この主人公JKは1年生なのですが、前日になって先輩の2年生JKが体調不良で交代で出場することになります。主人公JKは極度の方向音痴の上に、雪が舞う最悪のコンディションで、右に曲がるか左なのかのコースを間違えそうになるところ、よく見かける歩道を並走する人たちにコースを教えてもらいます。しかし、この野次馬の並走者が現在には決してマッチしない服装であり、駅伝翌日の買い物で主人公がそれに気づく、というストーリーです。「八月の御所グラウンド」は主人公が、いかにも京都大学を思わせる工学部の男子大学生になります。自堕落な生活を送ってきた学生なのですが、いよいよ卒業が近づいて卒論単位の条件に指導教員から、何と、夏の暑い真っ盛りの8月の御所グラウンドで開催される「たまひで杯」の野球リーグ戦に優勝するとの条件を示されます。京都の8月という極めて悪条件な天候の中で、野球をするための9人を集めるのに苦労し、中国人の大学院留学生の女性に加わってもらったりしていたのですが、とても不思議な3人組も出場することになります。そして、中国人の大学院留学生が調べたところ、確かに、大学に学籍はあったが、卒業も中退もしていない学徒出陣した学生だったことが明らかになり、さらにさらにで、あの伝説の名投手がピッチャーをしていたのではないか、と示唆されます。そして、中国人の大学院留学生は中国にいたころの経験からトトロを持ち出して、正体が明らかになるともう現れない、と主張しますが、彼らは野球に参加し続けます。はい、いい作品でした。ただ最後に、すごく最近の『ヒトコブラクダ層ゼット』あるいは、文庫化の際にタイトル変更して『ヒトコブラクダ層戦争』は別としても、私はこの作者の割合と初期の作品、特に、関西を舞台にした作品が好きです。すなわち、デビュー作の『鴨川ホルモー』、そして、『鹿男あをによし』、『偉大なる、しゅららぼん』、『プリンセス・トヨトミ』の4作です。順に、京都、奈良、滋賀(琵琶湖)、大阪を舞台にしています。これら4作品と本作品を合わせて5作のうちで、この作品『八月の御所グラウンド』が突出した大傑作、という気もしません。むしろ、5作品の中では『プリンセス・トヨトミ』が1番ではないのか、という気すらします。ですから、決してこの直木賞受賞作品をディスるつもりはありませんが、こういった一連の作品を合わせて合せ技1本で直木賞、ということなのではないか、と考える次第です。

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次に、東野圭吾『魔女と過ごした七日間』(角川書店)を読みました。著者は、日本でもっとも人気あるミステリ作家の1人ではないかと思います。この作品は「ラプラスの魔女」シリーズの長編ミステリであり、『ラプラスの魔女』の続編となります。従って、シリーズ作品を時系列的に順に並べると、『魔女の胎動』、『ラプラスの魔女』、そして本作品『魔女と過ごした七日間』となります。本作品は『ラプラスの魔女』から数年を経ていますが、このシリーズを通じて時代設定は近未来、ということになります。ですので、AIが広範に活用されていたりします。主人公は、まあ、シリーズに共通して羽原円華なわけですが、この作品では中学3年生の月沢陸真ともいえます。そして、羽原円華の「ラプラスの魔所」としての特殊な能力については特に本作品では解説なしで始まります。すなわち、羽原円華が糸のないけん玉を操るのを月沢陸真が目撃したりするわけです。羽原円華は独立行政法人数理学研究所で働いており、そこには特殊な能力を持ったエクスチェッドの解明を試みています。といったプロローグにに続いてストーリーが本格的に始まります。月沢陸真の母親は早くに亡くなっていて、その上、本書冒頭で父親の月沢克司が他殺死体となって多摩川で発見されます。父親を亡くした月沢陸真を気づかい、中学校の友人の宮前純也が家に誘い、自動車修理工場を経営する宮前純也の親も優しく接してくれたりします。月沢陸真の父親の月沢克司は警備会社に勤務していたのですが、その前には見当たり捜査員として町中を流しては指名手配犯を見つけ出す、という刑事をしていました。その月沢克司が他殺死体となって発見されたのですから、当然、警察の捜査が始まります。そして、羽原円華が「ラプラスの魔女」としてその特殊な能力を活かして闇カジノにルーレットのディーラーとして潜入したりするわけです。まあ、ミステリなのであらすじはここまでとします。本書で大きな焦点を当てられているのがDNAを活用した警察の捜査、あるいは、DNAのデータベースです。この作者の作品で、私が読んだ範囲では『プラチナデータ』と同じです。小説そのものは10年以上も前の作品ですが、時代設定は本作品と同じ近未来となります。ただ、極めて記憶容量のキャパに制限大きい私の記憶ながら、重複する、というか、同じ登場人物はいないと思います。最後に、DNAの活用に加えて、AIに対しても作者はかなり明確に否定的な態度を示していると私は受け止めました。例えば、AIによる顔認証や顔貌の識別よりも人間のプロである見当たり捜査員の優秀生を持ち上げたりしているわけです。そのあたりは、私はニュートラルなのですが、読者によっては好みが分かれるのではないかと思います。

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次に、伊藤宣広『ケインズ』(岩波新書)を読みました。著者は、高崎経済大学の研究者であり、専門は現代経済思想史だそうです。本書冒頭に、ケインズ卿はマーシャル以来のケンブリッジ大学の経済学の正当なる継承者であって、断絶を認めるに近いケインズ「革命」があったかどうかは言葉の問題、と指摘しています。まあ、そうなのかもしれません。本書では、第1次世界大戦後の対独賠償の問題を中心に据えて、第2次世界大戦後のブレトン-ウッズ体制については言及がほとんどありません。ケインズについては、2022年11月に平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』をレビューして、戦間期におけるワンマンIMFとしてのケインズの活動を実に見事に捉えていただけに、ブレトン-ウッズ体制構築時の交渉のの欠落や新書という媒体のボリュームの小ささも含めて、本書はやや物足りない気がします。でも、ケインズの「平和の経済的帰結」は極めて重要かつ高名なパンフレットですし、本書でも、ケインズの的確な賠償積算の正しさをあとづけています。この点は、その後にドイツが戦後賠償の過酷さに耐えかねてナチスの独裁を許してしまったという歴史的事実でもって、圧倒的にケインズの見方の正しさが証明されている、と考えるべきです。そういった国際舞台でのケインズの活躍とともに、本書で焦点を当てているのは英国国内の経済問題におけるケインズの考え方と活動です。大きな商店は戦間期の金本位制復帰です。いろんな観点があって、英国は旧平価でもって金本位制に復帰したのは歴史的事実です。そして、我が日本も英国と同じで旧平価で金本位制に復帰しています。ただ、この範囲では同じような経済政策に見えるのですが、本書では、旧平価での金本位制復帰は、ロンドンの国際金融市場としての活力の維持、あるいは、米国ニューヨークに国際金融活動の中心が移行しないような配慮、という観点で考えられた政策です。他方で、ケインズは平価を減価させた水準での金本位制復帰、ないし、金本位制の放棄を念頭に置いていたのですが、これは、国内の経済活動、特に製造業の国際競争力の観点から主張されています。ムリにポンド高の為替レートでもって金本位制に復帰すれば、国内経済はデフレに陥り、製造業の国際競争力は低下します。そして、英国の政策決定はケインズの減価政策を取らずに、旧平価での金本位制復帰を決めたわけです。そのあたりは、私は国内均衡を重視し、現時点からの後知恵とはいえ、国内均衡の重視や国際競争力の維持という観点が、当時は、希薄であったことにやや驚きます。ただ、日本が英国と同じように旧平価で金本位制に復帰したのは、国際金融市場としてのロンドンの地位の維持という政策目標が日本にはないわけですから、単なる誤解というか、経済政策に対する無理解から生じた悲劇であった、と考えるべきです。そして、こういった経済政策に対する無理解から国民生活を苦境に陥れる政策決定は、何と、今でも行われている、と考えられる例が少なくない、と私は指摘しておきたいと思います。

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次に、阿部恭子『高学歴難民』(講談社現代新書)を読みました。著者は、東北大学の大学院修士課程に進み、修士学位を取得した後、犯罪加害者の家族への支援組織を立ち上げて活動しています。間違えてはいけません。犯罪被害者ではなく、犯罪加害者の家族への支援です。本書では、実例に基づきつつ、ということはかなり極端な例である可能性があるわけですが、高学歴者の苦境を分析しています。本書での高学歴者難民とは、博士課程難民、法曹難民、海外留学帰国難民、にカテゴライズされ、いくつか実例を上げつつ、後半の章で家族からのヒアリングや社会構造的な解明を試みています。冒頭に強烈な例を持ってきています。すなわち、博士課程まで大学院を進みながら、結局、安定した職がなくて闇バイトで逮捕されたり、万引きを繰り返したりといった例です。繰り返しになりますが、かなり極端な例ですので、どこまで一般化して考えるかは読者の想定に委ねられている部分が大きいと私は考えます。ただ、おそらく、実例としてはあり得るのだろうと思います。また、法曹難民については、当然ながら、司法試験に合格しなかった人です。合格してしまえば何の問題もないのでしょうが、合格しなければ生活が成り立たない例はあるものと容易に想像されます。ほか、海外留学からの帰国者も含めて、私の実体験からしても、永遠に学生や院生、あるいは、資格試験挑戦者を続けて就職しない、ないし、出来ない人はいることはいます。ある意味で、高学歴難民といえるかもしれません。ただ、本書の著者のように犯罪加害者を身近に接していると、やっぱり、高学歴難民よりも低学歴であるがゆえに低所得の犯罪加害者が割合としては多いのではないか、と私は直感的に考えます。もちろん、高学歴であれば犯罪加害者になる可能性が低いと考える人が多いでしょうから、その反例を持ち出すことには意味があります。他方で、高学歴を目指すこと自体を疑問視するべきではないと私は考えます。私は高学歴そのものは否定されるべきではないと考えますが、博士課程まで終了して博士学位を取得しても、研究職への就職が容易ではないという現実があります。

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最後に、西村京太郎『石北本線 殺人の記憶』(文春文庫)を読みました。著者は、我が国でももっとも多作なミステリ作家の1人です。本書も、この著者の代表作である十津川警部シリーズのトラベルミステリです。本書はややSFがかったミステリで、20年間の人口睡眠から主人公が目覚めるところからストーリーが始まります。その主人公は、父親から受け継いだ銀行経営者であり、バブル期に思い切った融資を実行して、北海道経済界の若手6人衆の1人とされながら、1990年代後半の金融危機で銀行が破綻し、背任容疑で逮捕されて実刑判決を受け、1年半を刑務所で過ごす羽目になってしまいます。そして、刑務所を出所した後、米国NASAの技術に基づく「20年の眠り」に入ったわけですが、20年後の2月に目覚めてみると時代はコロナのパンデミックに入っていたわけです。そして、主人公が目覚めるとともに、連続殺人事件が発生します。バブル期にもてはやされた北韓道の6人衆のうち、主人公を除く経済界の財界人が次々を殺されます。主人公は20年を経て現在でも忠実な女性の秘書と行動をともにし、もう1人の男性秘書がJR石北本線特急オホーツク1号で主人公から目撃されたことから、犯人の可能性があると追跡を始めます。当然、東京でも殺人が発覚し、十津川警部も捜査にあたるわけです。タイトル通りに、北海道内のJR石北本線特急オホーツクでの移動に基づくアリバイトリックがあり、また、北海道にとどまらず、東京や京都でも主人公は出向きます。ただ、最後はややモヤッとした結末です。私には殺人までする動機の強さが理解できなかったのですが、それは、読んでいただくしかありません。小説の中のキャラがそれほど際立っているわけではなく、ハッキリいえば明確ではなく、逆に、ドラマ化はしやすいんではないか、と、ついつい、どうでもよくていらないことを考えてしまいました。

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2024年2月16日 (金)

海外からの国内送金はフィリピンの成長にどのくらい寄与しているのか?

2月1日に、アジア開発銀行(ADB)から "Measuring the Contribution of International Remittances to Household Expenditures and Economic Output" と題するワーキングペーパーが公表されています。引用情報は以下の通りです。

まず、ペーパーからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
The macroeconomic studies that assess the contribution of international remittances to the origin countries of migrants use a different definition of remittances than the microeconomic literature that examines the impact at the household and community levels. This study overcomes this difference in definition by integrating household expenditure data into the input-output analysis. Using the 2018 Family Income and Expenditure Surveys (FIES) of the Philippines, we find that remittance-financed household consumption and investment totaled ₱742.2 billion ($14.1 billion) and contributed 3.5% of the country's total output, 3.4% of gross domestic product (GDP), and 3.7% of total employment in 2018. We note that the largest value added is accruing to the manufacturing sector as it accounts for more than a third of remittance recipients' spending basket followed by the trade and agriculture, forestry, and fisheries sectors, which are closely linked to the manufacturing industry. The international remittances income reported by households is less than half (43.8%) of the ₱1.7 trillion ($32.2 billion) aggregate international remittances reported by the central bank in the same year based on the balance of payments definition.

私は前任校の長崎大学経済学部のころ、国際協力機構(JICA)研究所の特別研究員をしていて、共同研究の成果として紀要論文 "An Essay on Remittances Effects to Economic Development: A Survey" を取りまとめたことがあります。その際に、本国送金が経済成長へどのような影響を及ぼすかについては、外国為替需給に影響を及ぼして、いわゆる「オランダ病」として為替の増価を招く可能性がある一方で、資金アベイラビリティを高めて、また、金融サービスの質の改善も相まって国内の消費や投資が活性化される可能性も否定できない、としつつ、でも結論としては、数十年にわたる民間の所得移転、つまり、海外からの送金(remittances)は、受取国の経済成長にほとんど貢献しておらず、一部の国では成長を遅らせている可能性さえある "decades of private income transfers - remittances - have contributed little to economic growth in remittance-receiving economies and may have even retarded growth in some." としておきました。でも、フィリピンの場合はそれなりのインパクトあるようです。

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まず、上のグラフはペーパー p.11 Figure 1: Philippine Households by Receipt of and Dependence on International Remittances and Income Quintile, 2018 を引用しています。海外からの送金(remittances)を受け取っている家計ほど所得分位5階級で豊かな階級に分類されています。この論文では産業連関表に基づく試算を行っていて、ここではあくまで相関関係ですが、下のテーブルで詳細に論じます。

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次に、上のテーブルはペーパー p.26 Table 5: Estimated Impact of a 10% Increase in Remittance Income by Sector, 2018 を引用しています。テーブルのタイトル通りに、海外からの送金(remittances)が増加するインパクトを産業ごとに見ています。もちろん、農林水産業や鉱業もインパクト大きいのですが、このリポートでは建設業(Construction)、不動産業(Real estate and ownership of dwellings)への誘発効果を強調しています。そして、同時に、宿泊・飲食サービス(Accommodation and food service activities)が次いで大きな誘発効果を示しています。要するに、サービス部門での影響が大きいと結論しています。

最後に、このペーパーでは、海外からの送金(remittances)による家計消費と投資は、2018年にフィリピンの総生産の3.5%(244億ドル)、国内総生産(GDP)の3.4%(119億ドル)、総雇用の3.7%(150万人)に貢献したとの試算結果を示し、シミュレーション分析に基づいて、海外からの送金(remittances)による収入が10%(14億ドルに相当)増加すると、国のGDPがベースライン(2018年の約12億ドル)を0.34%上回る増加につながる "Remittance-financed household consumption and investment contributed to 3.5% of the country's total gross output ($24.4 billion), 3.4% ($11.9 billion) of gross domestic product (GDP), and 3.7% (1.5 million individuals) of total employment in 2018. In our simulation, a general increase in international remittance income of 10% (equivalent to $1.4 billion) leads to an increase in the country's GDP of 0.34 percentage points over the baseline, i.e., about $1.2 billion in 2018." と結論しています。私の紀要論文の結論は、決して間違っていないと思っていたのですが、フィリピンにおける海外からの送金(remittances)の経済的インパクトはかなり大きいのかも知れません。

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2024年2月15日 (木)

2四半期連続でマイナス成長となった10-12月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から昨年2023年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.1%、前期比年率で▲0.4%と2四半期連続のマイナス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.8%に達し、5四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率0.4%減で2期連続マイナス 10-12月、消費不振
内閣府が15日発表した2023年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.1%減、年率換算で0.4%減だった。2四半期連続のマイナス成長となった。個人消費と設備投資を中心に内需が軒並み落ち込んだ。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率1.0%増で、大きく下回った。前期比年率の寄与度は、内需がマイナス1.1ポイント、外需がプラス0.7ポイントとなり、内需の弱さが目立つ。
GDPの過半を占める個人消費は前期比0.2%減で、3四半期連続のマイナスだった。暖冬の影響で衣料品が振るわず、新型コロナウイルス禍からの回復が一服し、外食も落ち込んだ。物価高も響き、アルコール飲料や野菜、ガソリンなどの消費が減った。
消費に次ぐ民間の柱である設備投資も前期比0.1%減で、3四半期連続のマイナスとなった。設備投資は航空機用の発動機部品や通信ネットワークなどに使われるデジタル伝送装置が下押し圧力となった。
企業の設備投資意欲は旺盛だが、人手不足による工場の建設の遅れなど供給面での制約も響いたとみられる。世界的な半導体市場の低迷が底を打ち、半導体製造装置は堅調だった。省力化に向けた受注ソフトウエア投資も伸びた。
民間住宅は前期比1.0%減と2四半期連続のマイナスだった。インフレによる住宅資材の高騰で着工が弱含み、人件費も上昇して出来高に影響が出ているとの見方がある。民間在庫変動の寄与度はマイナス0.0ポイントだった。
公共投資は前期比0.7%減で、2四半期連続のマイナスとなった。22年度の補正予算による押し上げ効果が一巡したとみられる。政府最終消費支出は医療費の減少などで0.1%減った。2四半期ぶりのマイナスとなる。
輸出は前期比2.6%増で、3四半期連続のプラスだった。とくにサービスの輸出が前期比11.3%伸び、全体を押し上げた。大手製薬会社が新型抗がん剤の開発で提携した米国企業から知的財産関連の使用料を受け取った一時的な要因が大きい。
計算上は輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)の日本国内での消費は前期比14.1%増となり、押し上げ要因となった。
輸入は前期比1.7%増で2四半期連続のプラスだった。原油や液化天然ガス(LNG)などの鉱物性燃料の輸入が増えた。輸入はGDPの計算から控除する項目のため、増加は全体を押し下げる。
名目GDPは前期比0.3%増、年率換算で1.2%増と2四半期ぶりのプラスだった。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比で3.8%上昇し、5四半期連続のプラスとなった。
23年の実質GDPは前年比1.9%増、名目は5.7%増でともに3年連続のプラスだった。暦年ではコロナ禍からの経済回復が緩やかに進んでいる。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/10-122022/1-32023/4-62023/7-92023/10-12
国内総生産GDP+0.4+1.1+1.0▲0.8▲0.1
民間消費+0.2+0.8▲0.7▲0.3▲0.2
民間住宅+0.7+0.3+1.8▲0.6▲1.0
民間設備▲0.5+1.6▲1.4▲0.6▲0.1
民間在庫 *(▲0.2)(+0.6)(▲0.2)(▲0.5)(▲0.0)
公的需要+0.8+0.4+0.2+0.0▲0.2
内需寄与度 *(▲0.0)(+1.5)(▲0.7)(▲0.8)(▲0.3)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.4)(▲0.4)(+1.7)(▲0.0)(+0.2)
輸出+1.4▲3.5+3.8+0.9+2.6
輸入▲0.8▲1.6▲3.6+1.0+1.7
国内総所得 (GDI)+0.8+1.8+1.6▲0.6▲0.2
国民総所得 (GNI)+1.3+0.4+2.1▲0.7+0.0
名目GDP+1.9+2.3+2.5▲0.1+0.3
雇用者報酬 (実質)+0.1▲1.5+0.4▲1.0+0.1
GDPデフレータ+1.4+2.3+3.7+5.2+3.8
国内需要デフレータ+3.6+3.2+2.7+2.5+2.0

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10~12月期の最新データでは、前期比成長率がわずかながらマイナス成長を示し、黒い外需のプラス寄与のほかは、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+1%ほどでしたから、実績の年率▲0.4%はやや下ぶれした印象です。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが大きく鈍化して、3四半期連続の前期比マイナスです。3四半期連続のマイナスという符号条件は民間設備投資もまったく同じです。従って、内需寄与度は昨年2023年4~6月期から、これまた、3四半期連続してマイナス寄与となっています。他方で、純輸出の外需は10~12月期にはプラス寄与に転じています。また、報道ではほとんど注目されていないのですが、公的需要が7~9月期の伸びがゼロな上に、10~12月期にはとうとう前期比でマイナスになっています。公的需要の中でも、特に、公的固定資本形成、すなわち、公共投資は7~9月期の前期比マイナスに続いて、10~12月期も2四半期連続でマイナスとなっていて、政府は公共投資によって景気を下支えする気はないように見受けられます。ひょっとしたら、財政再建の方に重点を置き始めている可能性が示唆されているのかも知れません。

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上のグラフは、」上のパネルが雇用者報酬、下のパネルが非居住者家計の購入、すなわち、インバウンド消費のそれぞれの推移をプロットしています。特に、先行き日本経済を考える場合、物価上昇の影響を受ける消費については、実質雇用者報酬の動向が懸念されます。すなわち、少し長い目で見て、2019年10月の消費税率引上げにより、消費者の購買力が低下した後、さらに追い打ちをかけるように、雇用者報酬が傾向的に低下を続けています。上のグラフは実質値でプロットしていますので、物価上昇の影響も含まれているとはいえ、これだけ雇用者報酬が低下すれば消費が振るわないのは当然です。今年の春闘はかなり大幅な賃上げ要求が出そろっているとはいえ、賃上げによる雇用者報酬の増加が着実に進まないと、インフレによるダメージをカバーできずに消費への影響はさらに大きくなる可能性もあります。いずれにせよ、日本経済の大きな課題は賃上げがインフレに追いつくかどうか、と私は受け止めています。そうです。物価を抑えるよりも賃上げの方に重点を置くべきです。他方で、下のパネルのインバウンド消費はコロナの分類変更とともに、実に短期間であっさりと過去最高を記録し年率換算では5兆円を突破しています。内外の経済の差がクッキリと現れています。企業の賃上げ動向が政府の政策とともに注目されるところです。

最後に2点指摘しておきたいと思います。まず第1に、朝日新聞「23年の名目GDPは591兆円、ドイツに抜かれ世界4位に転落」日経新聞「名目GDP、ドイツに抜かれ4位 23年4兆2106億ドル」NHK「日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退」などで盛んに報じられているように、2023年中の我が国GDPは米ドル換算でドイツを下回り、世界で米国、中国、ドイツについで4番目の位置に交代したようです。私はGDPで計測した経済規模はそれなりに重要だと考えています。でも、現時点での計測は為替レートに大きく依存していますので、それほど意味があるとは考えていません。さらに付け加えると、世界で5番目はインドですから、インドにはあっさりと抜かれる可能性が十分あります。第2に、本日公表されたGDP統計は2四半期連続のマイナス成長でしたので、テクニカルな見方だけでなく、実際に景気後退局面入りしている可能性が十分あると考えるべきです。私が見た範囲のリポートでも、ニッセイ基礎研究所みずほリサーチ&テクノロジーズ第一生命経済研究所などでは、今年2024年1~3月期の成長率をゼロないしマイナスと見込んでいるシンクタンクも少なくありません。3月末に政府予算案が国会で可決されれば議論が本格化する可能性が高いと思います。でも、4月には日本銀行がマイナス金利を解除するという見方があります。景気後退局面に入っているにもかかわらず、金融政策が引き締め方向に変更されるのでしょうか。その意味で、政府と日銀で景気認識は一致しているのでしょうか。とても不思議です。

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2024年2月14日 (水)

昨年2023年10-12月期GDP統計速報1次QEの予想は2四半期ぶりのプラス成長か?

少し前の商業販売統計や家計調査をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日2月15日に昨年2023年10~12月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である昨年2023年10~12月期ではなく、足元の1~3月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。そのため、大和総研やみずほリサーチ&テクノロジーズの引用がやたらと長くなっています。いつもは適当に端折るのですが、まあ、今回は長々と引用してみました。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.6%
(+2.5%)
2024年1~3月期の実質GDPも、プラス成長が続く見通し。好調な企業収益が積極的な賃上げや設備投資の拡大につながり、わが国景気は内需主導で緩やかな回復が続く見込み。能登半島地震による影響は限定的と判断。
大和総研+0.2%
(+0.7%)
2024年1-3月期の日本経済は横ばい圏で推移する見込みだ。経済活動の正常化や所得環境の改善などを受けて内需の持ち直しが進むとみられる一方、外需は輸出の反動減によりマイナス寄与に転じよう。
個人消費はインフレ率の低下や賃金上昇による所得環境の改善などを背景に、小幅に増加すると予想する。サービス消費はコロナ禍からの回復余地が依然として大きいこともあり、2023年10-12月期の停滞は一時的とみられる。2024年1-3月期には再び増加に転じよう。財消費のうち、耐久財では自動車の挽回生産が下支えするとみている。
住宅投資は横ばい圏で推移しよう。住宅価格の高騰が続く中、持家を中心に軟調な推移が続くとみられる。
設備投資は増加に転じよう。企業が先送りしてきた更新投資や工場の新設などを含む能力増強投資、人手不足に対応するための省人化投資などが増加すると見込む。デジタル化、グリーン化に関連したソフトウェア投資や研究開発投資も底堅く推移しよう。
公共投資は増加しよう。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするとみられるが、人手不足により回復ペースは緩やかなものになりそうだ。政府消費は、前述のワクチン接種にかかる押し上げ効果が剥落する一方、医療費の増加が全体を押し上げるとみられる。
輸出はサービスにおける反動減が下押し要因となって減少に転じよう。中国経済が回復する一方で米欧経済の減速が見込まれることで、財輸出は伸び悩むとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.6%
(+2.4%)
1~3月期成長率はマイナスに転じる可能性が高いと予測する。サービス輸出の反動減が見込まれることに加え、欧米を中心とした海外経済の減速が外需の重石になるほか、国内で生じた一時的な要因による下押し影響も重なることが経済活動を抑制するだろう。
米国については、10~12月の実質GDP成長率が前期比年率+3.3%と、個人消費を中心に想定を大きく上回る伸びを維持している。移民やプライム層の労働供給が増加することで、雇用の増加と労働需給の緩和が同時に進展し、景気の強さと賃金・物価の減速が両立している状況にある。これまで大幅な利上げが行われた一方で、金融コンディションの緩和や企業債務の減少、株価上昇に伴う家計の資産効果、地方政府による支出の継続などが国内需要の下支えとなり、雇用の深刻な悪化には至らず「ソフトランディング」の可能性が高まったとみている。しかしそれでも、これまでの金融引き締めの影響が企業部門を中心に顕在化することで、2024年前半にかけて景気は減速基調で推移すると予想している。
欧州についても、金融引き締め効果が次第に顕在化し、2023年末から2024年前半にかけて小幅な景気後退に陥ると予想している。利上げの影響等から消費者マインドは低水準が続いており、消費は当面弱含みが続く公算が大きい。需要の弱さを背景にPMIは8カ月連続で50(好不況の節目)割れとなっている。生産も輸送機械や資本財等の減産、化学等のエネルギー多消費業種の低迷が下押し要因になり、減少傾向が継続している状況だ。中東情勢緊迫化による物流網混乱が経済に影響を与えるリスクにも注意が必要だろう。
中国は、サービス消費のリベンジ需要がはく落するほか、不動産部門の調整が長期化する下で景気減速感が強まる展開となるだろう(不動産については、販売低迷により在庫調整のペースが鈍っており、過剰在庫の調整完了時期は2025年以降にずれ込む公算が大きい)。国債1兆元増発によるインフラ投資が先行きの景気下支え要因になる一方、政府は大幅な財政赤字を伴う巨額の景気刺激策に慎重なスタンスであり、成長率鈍化は避けられないとみている。
半導体については、メモリ価格の下げ止まり・ロジック価格の上昇を受けて単価が上昇しており、シリコンサイクルは好転している。一方、上記のとおり当面は米国の景気減速などが最終需要を下押しすると見込まれることから、本格回復はスマホの買い替え等が進む2024年後半以降になる可能性が高いだろう。
以上を踏まえると、1~3月期の財輸出は伸び悩む可能性が高い。インバウンド需要も、中国については国内志向や航空便制約が影響して春節休暇(2/10~17)も大幅な伸びは見込みにくいほか、ASEANや欧州の繰り越し需要も一巡すると予想され、訪日客数はいったん減速が見込まれる。1~3月期の外需に景気のけん引役は期待できないだろう
一方、内需も緩やかな回復にとどまる見通しだ。実質賃金の前年比マイナス幅の縮小ペースが緩やかな中で、当面の個人消費は緩やかな回復にとどまる可能性が高い(消費者物価指数の前年比については、2月に政府の電気・ガス代価格抑制策による押し下げ寄与が剥落することで上昇率が高まる点に留意が必要である)。設備投資も、前述した供給制約が引き続き下押し要因となることで増加ペースが抑制されるだろう。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)をみると、10~11月平均は7~9月平均対比で▲ 1.0%と減少傾向での推移が継続しており、製造業を中心に機械投資の伸び悩みを示唆している。半導体関連産業の在庫調整の進展等を背景に、先行きの設備投資は回復基調を維持するとみているが、急速な回復は期待しにくいだろう。
さらに、1~3月期は令和6年能登半島地震や一部自動車メーカーの生産停止が一時的な下押し要因になるだろう。1月に発生した令和6年能登半島地震の被害状況について、内閣府は住宅・社会インフラ等の資本ストック棄損額を1.1~2.6兆円程度と試算している。2016年の熊本地震について内閣府が資本ストック棄損額を2.4~4.6兆円程度、フローへの影響としてGDP損失額を900~1,270億円程度と推計している点を踏まえて機械的に計算すると、今回の令和6年能登半島地震におけるGDPへの影響は1,000億円程度となる可能性がある。ただし、現時点で被害状況の全容が見えているわけではなく、引き続き状況を注視する必要がある。全国の製造業の付加価値に占める主要被災地域(石川県・新潟県・富山県)のシェアは4%程度であるが、繊維工業(同8%)、生産用機械工業(同7%)、電子部品・デバイス工業(同7%)のシェアがやや大きく、部品等の生産停止が長引けば関連サプライチェーンに悪影響が拡大する可能性があるだろう(実際、足元で一部の自動車メーカーが部品不足により減産を余儀なくされるといった動きが出ている)。地震発生に伴う風評リスクがインバウンド需要の抑制につながる懸念もある。政府には、一日でも早い復旧・復興に向けた取組みが求められる。
一部自動車メーカーの生産停止については、(代替生産・代替需要の動きも出るとみられるものの)生産停止が長引いた場合の影響は相応に大きなものになる可能性がある(報道によると少なくとも2月までは当該メーカーの生産回復は期待しにくい模様である)。経済産業省が本日公表した製造工業生産予測指数をみると、1月の輸送機械工業の計画前月比は▲10.6%(2月は同+0.8%)となっているが、下振れリスクも大きい。
こうした一時的な要因の影響については不確実性が大きいが、現時点では、上記の令和6年能登半島地震や一部自動車メーカーの生産停止により1~3月期のGDPが▲0.4%程度(年率▲1%台後半程度)下押しされると想定している。前述したとおりサービス輸出の反動減が生じることが見込まれる点も踏まえ、1~3月期は2期ぶりのマイナス成長になると予測している。
ニッセイ基礎研+0.2%
(+0.9%)
2023年10-12月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、7-9月期の落ち込みを取り戻すには至らず、景気の回復ペースは依然として緩やかなものにとどまっている。2024年1-3月期は、海外経済の減速を背景に輸出が低迷し、民間消費、設備投資などの国内民間需要も低い伸びにとどまることから、現時点では前期比年率ゼロ%台の低成長を予想している。
第一生命経済研±0.0%
(±0.0%)
先行きについても、牽引役不在のなか、景気の回復ペースは緩慢なものにとどまるだろう。米国景気は足元で依然堅調に推移しているが、方向としては先行き減速していくとみるのが妥当だろう。欧州や中国経済にも多くは望めず、輸出が景気の牽引役となることは期待薄だ。内需についても、コロナ禍からのリバウンドの動きが一巡するなかで引き続き物価高が消費回復の頭を押さえる。景気は今後も停滞感が残るだろう。なお、24年1-3月期については、内需の回復が限定的ななか、サービス輸出で反動減が生じることから、マイナス成長となる可能性が高いと予想している。
伊藤忠総研+0.5%
(+2.0%)
続く2024年1~3月期については、輸出が海外景気の減速により伸び悩むものの、個人消費や設備投資の拡大傾向は維持され、基本的にはプラス成長が見込まれるが、一部自動車メーカーの生産・出荷停止により個人消費や設備投資、在庫投資が落ち込み、実質GDP成長率が大きく押し下げられる恐れがある点に留意が必要であろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.3%
(+1.4%)
2023年10~12月期の実質GDP成長率は、前期比+0.3%(前期比年率換算+1.4%)とプラス成長に転じる見込みである。しかし回復力は力強さに欠け、7~9月期の同-0.7%(同-2.9%)の落ち込みを取り戻すには至らない。
三菱総研+0.6%
(+2.3%)
2023年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.6%(年率+2.3%)と、プラス成長を予測する。
明治安田総研+0.5%
(+2.2%)
先行きについて、まず個人消費は、春闘における高めの賃上げ率が期待できることに加え、物価上昇率の鈍化に伴う実質所得の増加が下支え要因となるため、回復傾向で推移すると予想する。一方、設備投資は、日銀短観など各種調査で見られるとおり計画自体は強いものの、当面は人手不足や資材不足が足枷になるとみられ、緩やかな回復にとどまると見込む。外需にも景気の牽引役は期待しづらい。財輸出に関しては、中国景気の停滞が長引くほか、欧米景気も減速に向かう可能性が高いことから、年の前半を中心に低迷が続くと予想される。インバウンドは引き続き景気の下支え要因になるとみられるが、訪日外客数はすでにコロナ禍前の水準まで戻っており、今後は需要拡大ペースの鈍化が見込まれる。こうした点を踏まえると、2024年の日本景気の回復ペースは緩やかなものにとどまると予想する。

ということで、現在の最新の前期比年率のデータで考えて、2022年10~12月期+1.0%、2023年1~3月期+5.0%、4~6月期+3.6%と、3四半期連続のプラス成長の後、7~9月期に▲2.9%のマイナス成長に陥りましたが、上のテーブルに見る多くのシンクタンクの予想では、10~12月期にはプラス成長に回帰するとの見込みとなっています。ただ、その成長率にはかなり開きが見られるのも事実です。例えば、第一生命経済研究所のゼロ成長もあれば、+2%台半ばの高成長を予測するシンクタンクも少なくありません。基本は、純輸出=外需の見方で違いが生じているのではないか、と私は考えています。私は米国をはじめとして欧米先進国についてはソフトランディングのシナリオが当てはまる一方で、中国の見方が分かれている気がします。そういった中で、単純に平均を取っている日経・QUICKの事前コンセンサスでは+1.1%という数字が明らかにされています。まあ、単純平均であればそうなのかもしれません。ただ、こういった見方の違いにもかかわらず、先行きについては押しなべて停滞ないし横ばい圏内から、見方によってはマイナス成長と、2024年も日本経済の先行きがそれほど明るくないという事実が示されています。大雑把に考えて、昨年2023年10~12月期に高成長を予測するエコノミストは反動を考慮して、今年2024年1~3月期の横ばいないしマイナス成長を見込んでいる気がします。まあ、当然です。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。前期比年率で+2%前後の高成長で純輸出の寄与が大きい、という私の感覚によく合致しています。

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2024年2月13日 (火)

3か月連続で0%台の上昇となった1月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から1月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で保合いとなり、上昇率は12か月連続で鈍化しています。したがって、次の2月統計ではマイナス圏に舞い戻るという可能性もありそうです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業物価、0.2%上昇 3カ月連続0%台
日銀が13日発表した1月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は120.1と、前年同月比で0.2%上昇した。23年12月(0.2%上昇)から横ばいで、3カ月連続で上昇率が0%台となった。政府の補助金が電気・ガスの価格を押し下げたが、飲食料品などの幅広い分野で原材料コストを販売価格に反映する動きがみられた。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。1月の上昇率は民間予測の中央値(0.0%)を0.2ポイント上回った。公表している515品目のうち406品目が値上がりした。
内訳をみると、電力・都市ガス・水道が前年同月比で27.7%下落した。燃料費の下落や政府による電力・ガスの価格抑制策がマイナスに寄与した。日銀の試算によると、抑制策は企業物価指数全体の上昇率を約0.3ポイント押し下げている。
一方、飲食料品は前年同月比で4.4%上昇した。原材料や包装資材のコスト上昇分を販売価格に転嫁する動きが続いている。金属製品も4.1%上昇した。飲料用のアルミニウム製の缶では原材料高のほか、人件費上昇が価格に与える影響もみられたという。
輸入物価は円ベースで前年同月比0.2%下落し、10カ月連続でマイナス圏となった。23年12月(マイナス4.9%)より下落幅が縮小した。

注目の指標のひとつですから、ついつい長くなりますが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の上昇率は前年同月から保合いの±0.0%と見込まれていましたので、実績の+0.2%はやや上振れした印象かもしれません。特に、円ベースの輸入物価は4月統計から前年同月比でマイナスに転じ、1時は2桁マイナスでしたが、1月統計では▲0.2%の下落まで縮小しています。本日公表の企業物価指数(PPI)にはサービスが含まれませんが、他方で、企業向けサービス価格指数(SPPI)は8~12月の統計では5か月連続で前年同月比+2%台を記録しています。しかも、やや上昇率は加速気味だったりしますので、資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及が、同時に、モノからサービスの価格上昇がインフレの主役となる局面に入る可能性がある、と私は考えています。したがって、日米金利差にもとづく円安の是正については、最近では1ドル150円弱の水準で安定していることも事実であり、経済政策として取り組む必要性や緊急性はそれほど大きくなくなった、と考えるべきです。消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。まあ、それが「迷惑」だという見方も否定はしません。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇・下落率で少し詳しく見ると、引用した記事にもある通り、電力・都市ガス・水道が▲27.7%と下落幅を拡大しています。農林水産物もとうとう▲0.6%の下落に転じましたが、他方、飲食料品は+4.4%の高い上昇率が続いています。ほかに、窯業・土石製品+10.9%、パルプ・紙・同製品+7.1%、石油・石炭製品+6.6%、生産用機器+5.5%、繊維製品+5.0%、などが+5%以上の上昇率を示しています。ただ、ここで上げたカテゴリーをはじめとして多くの品目でジワジワと上昇率が低下してきています。もちろん、上昇率が鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格水準としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決して物価による国民生活へのダメージを軽視することはできません。特に、農林水産物の価格上昇はストップしたものの、農産物を原料とする飲食料品についてはまだ高い上昇率を続けています。生活に不可欠な品目ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように石油元売会社や電力会社のような大企業に対して選別的に補助金を交付するよりは、消費税率の引下げとかで市場メカニズムを活かしつつ、国民向けに普遍的な政策を取る方が望ましい、と私は考えています。

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2024年2月12日 (月)

今年の桜開花予想やいかに?

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とても旧聞に属する話題ながら、2月1日にウェザーニュースから2024年 第2回桜開花予想が明らかにされています。上の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。
ウェザーニュースの予想に従えば、ソメイヨシノの開花トップは東京の3月20日で、翌3月21日に福岡が続くと見込みまれています。関東以北では平年より早いものの、関西をはじめとして東海以西では平年並となる予想が示されています。紅葉とともに桜のお花見の名所でもある京都嵐山の開花は3月28日と予想されています。

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