2022年11月26日 (土)

今週の読書は国際交渉でのケインズの活躍を収録した経済書ほか計5冊

今週の読書感想文は以下の通り計5冊です。
まず、平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』(上智大学出版)は、欧州諸国を相手に回して、戦間期においてケインズ卿がワンマンIMFの働きを見せる姿が活写されています。道尾秀介『いけない II』(文藝春秋)では、第1作の蝦蟇暮倉市から箕氷市に舞台を替えて、不気味な出来事が連作短編の形で4話収録されています。重田園江『ホモ・エコノミクス』(ちくま新書)では、経済学で前提される合理的な個人について政治社会思想史の観点から跡づけています。渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)では、物価に関する我が国第1人者のエコノミストが、日本の慢性デフレと急性インフレについて分析を試みています。最後に、ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』(創元推理文庫)では米国東海岸を舞台に殺人事件の謎解きがなされます。最後に、読み通したわけではなく、辞書的に座右においてあるだけで、読書感想文の5冊の外数ですが、ジョン・モーリー『アカデミック・フレーズバンク』(講談社)を買い求めて活用に励んでいます。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10月には25冊、11月に入って先週までで13冊で今週は5冊ですので、今年に入ってから215冊となりました。

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まず、平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』(上智大学出版)です。著者は、上智大学名誉教授であり、ケインズ学会会長ですから、我が国のケインズ研究の大御所といえます。そして、特筆すべきはタイトルであり、まさに、ヴェルサイユ体制にたった1人で孤軍奮闘して立ち向かったケインズ卿の姿が分析対象となっています。もちろん、若き日のケインズから始まって、ケンブリッジでの生まれ育ちやブルームズベリー・グループにも言及されていますが、「平和の経済的帰結」からのあまりにも有名なケインズ卿の慧眼に焦点が当てられています。本書の図コープとしては、対ヴェルサイユ体制であって、第2次世界対戦の後処理である世銀・IMFの創設までは含まれていませんが、ヴェルサイユ体制を相手に回してのケインズ卿の1人国際機関としての活躍が余すところなく活写されています。そうです。まさに、ケインズ卿1人で国際機関の役割を果たしていたといえます。私は劇画の「ゴルゴ13」が好きで、まさに、ゴルゴ13がワンマンアーミーとして20-30人の軍を相手に立ち回るシーンを何回か見てきましたが、本書でのケインズ卿は、現時点での国際機関になぞらえれば「ワンマンIMF」であり、国際金融制度を1人で背負って立っています。対独報復的なフランスの過剰な賠償要求に対して、キチンとした経済計算に基づいて反論し、債務返済の現代流にいえばヘアカットの必要性につき分析しているのがケインズ卿です。歴史がその正しさを立証していて、ヴェルサイユ体制がナチスにつながったのは明らかといえます。しかも、私も経済学者=エコノミストの端くれとして驚愕するのは、戦間期にこういった国際金融制度の中で大きな役割を果たすと同時に、『雇用、利子及び貨幣の一般理論』によりマクロ経済学を確立し、米国のニューディール政策の理論的基礎を打ち立てている点です。私なんぞは、キャリアの国家公務員として経済政策策定の最前線に60歳の定年までいながら、政策策定の実務上も、もちろん、理論展開上も、何らの目立った貢献も出来ませでしたが、まるでモノが違います。国際金融交渉の場におけるワンマンIMFとしての活躍、さらに、マクロ経済学樹立のアカデミックな活躍に加えて、おそらく、ケインズ卿は母国である英国に何らかの有利な方向性も模索していたのだろうと私は想像しています。ただ、そういった英国の国益追求という面は、本書では強調されていません。最後に、出来うべくんば、平井先生に本書の続編を書いていただき、第2次世界対戦の戦後処理のうち、世銀・IMFの創設、特に有名な英国のケインズ案と米国のホワイト案の議論なども取り上げていただきたい、と切に願っております。

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次に、道尾秀介『いけない II』(文藝春秋)です。著者は、中堅どころのミステリ作家であり、やや暗い作風ながら、私の好きな作家の1人です。本書の前編の位置づけであろう『いけない』は海岸沿いの蝦蟇倉市から、本作品では箕氷市に舞台を移します。海は出てこずに山が舞台となる作品がいくつか収録されています。牡丹農家も多いようです。4編の短編を収録しています。第1話「明神の滝に祈ってはいけない」では、1年前に忽然と姿を消した姉のSNS裏アカを発見した妹が、姉が最後に訪れたとみられる明神の滝に向かい、同じように失踪してしまいます。その明神の滝には願い事をかなえてくれる代わりに、大事なものを失うという言い伝えがあったりします。第2話「首なし男を助けてはいけない」では、小学5年生の少年が主人公となり、引きこもりで首吊り人形を作り続けている伯父さんに、ちょっとエバッた同級生に肝試しでいたずらを仕かける人形の工作の相談に行くところから始まります。収録された4編の小説の中では、ストーリーとしては一番怖い気がします。第3話「その映像を調べてはいけない」では、家庭内暴力を振るう子供を殺したと老夫婦が警察に自首するところから始まります。しかし、この第3話の中心は、いかにも怪しい老夫婦の自主内容ながら、その怪しさは次の第4話で謎解きされます。第4話「祈りの声を繋いではいけない」では、第3話の謎解きを中心に、それまでのすべての謎が明らかにされます。ストーリー、というか、小説で語られる事実としては、第2話が一番怖い気がしますが、第1話とこの最終第4話は、ともに、子供を失った、あるいは、亡くした両親の心理描写がとても狂気にあふれるとまではいいませんが、かなり不気味で、このあたりに道尾秀介のミステリ作家としての本来的な能力を感じます。そして、各短編が終了した最後のページに写真が示されています。第3話の写真なんか、ネットでの謎解きを見るまで、感性も頭の回転も鈍い私には理解が進まなかったのですが、第2話の最後の写真は、すぐに理解できました。とても不気味な事実を示唆しています。合わせて、感じるものがある、あるいは、怖がることができたりすれば、さらに本書の、あるいは、道尾作品の読書の楽しみが増えそうな気がします。

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次に、重田園江『ホモ・エコノミクス』(ちくま新書)です。著者は、明治大学の研究者であり、専門は現代思想・政治思想史のようで、フーコー研究者です。ですから、本書の副題は『「利己的人間」の思想史』とされており、経済学的な合理性や限定合理性とか経済哲学的な観点は希薄になっていて、歴史的に経済学がホモ・エコノミクスを前提にする前から、政治社会的な部分も含めての思想史をひも解いています。ですから、逆に、一般ビジネスパーソンには読みやすくなっている気もします。3部構成であり、第1部は富と徳に焦点を当てて、この両者が必ずしも両立せず、古代・中世などの前近代においては、決して「金儲け」が徳ある行為とみなされずに、やや蔑まれていた事実を指摘しています。第2部ではホモ・エコノミクスの経済学を取り上げて、スミスらの古典派経済学から現在までの主流派経済学の中核をなしている新古典派的な限界革命を経て、経済活動だけではなくホモ・エコノミクスが広範な領域に進出し、自己利益の追求が「背徳」的な行為ではなくなって、普遍的な価値観として受け入れられる時代を概観します。そして、最終の第3部ではホモ・エコノミクスの席捲として、シカゴ学派のベッカー教授の経済学帝国主義的な視点などを取り上げています。私の方から、2点だけ指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、本書冒頭で取り上げている公正世界仮説が心理学の学問領域でどこまで認識されているかについて、私は不勉強にしてよく知りませんが、ほかの学問領域は別としても、少なくとも、経済学においてはホモ・エコノミクスを経済モデルの前提にするのは第1次アプローチ=接近としては、十分に合理的であろう、と私は考えています。このホモ・エコノミクスのモデルから、現実に合わせる形でモデルの修正がなされればいいわけです。ただ、従来から指摘している通り、経済学の未熟な点として、モデルを現実に合わせるのではなく、現実の方をモデルに合わせてしまうという欠点は忘れるべきではありません。ですから、ホモ・エコノミクスの合理性のうち、何らかの前提を緩めるという作業が必要なわけです。合理性で前提される完備性、推移性、独立性のうち、ツベルスキー-カーネマンのプロスペクト理論では独立性の前提を緩めているわけですし、そもそも、個人レベルではなく社会レベルではアローの不可能性定理により推移律が成り立たない点は証明されています。限定合理性を含めたモデル化も進んでいます。第2に、ホモ・エコノミクスとは、本書でも指摘しているように、私利私欲を基にした強欲な個人的利益追求主体であるというわけではなく、何らかの効用関数に則って合理的に行動する経済主体と考えるべきです。ですから、「強欲」とかのネガなイメージは効用関数に含まれる説明変数とその偏微係数の大きさによります。かなり説明を端折りますが、結論として、現在、「行動経済学」としてもてはやされているインセンティブによる個人の選択行動へのパターナリスティックな「介入」には、私は大きな疑問を持っています。場合によっては、そういったインセンティブによるナッジなんてものに影響をまったく受けないホモ・エコノミクスの方が、まあ、強くいえば、私には好ましい存在にすら見える場合があります。ひょっとしたら、暗黙裡にそういうホモ・エコノミクスを私自身は目指しているのかもしれません。

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次に、渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)です。著者は、日銀ご出身の東京大学の研究者であり、物価の研究に関しては我が国の第1人者と見なされています。本書では、現在の世界的なインフレは、従来型の需要の超過によるディマンドプルのインフレではなく、供給サイドに起因するインフレであると結論つけています。そんなことは判りきっていえるというエコノミストも多いかと思いますが、単純にコストプッシュだと分析しているのではなく、供給が不足もしくはミスマッチしており、その背景には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに起因する消費者や労働者や企業の行動変容があると指摘しています。すなわち、サービス経済化の逆回転が生じて、旅行や外食やといったサービス需要から、巣ごもり需要のモノに消費者の支出がシフトし、労働者は密な職場に帰りたがらず、在宅勤務できる職種に転職したり、あるいは、縁辺労働者は非労働力化したりし、最後に、企業活動ではグローバル化の逆回転が生じ始めている、といったところです。その上で、世界インフレから日本国内の経済とインフレに目を転じて、日本では慢性デフレと急性インフレが共存していると指摘しています。そして、かつての物価上昇期における賃金-物価のスパイラル、すなわち、企業が製品価格引上げ⇒生計費上昇分の賃上げ要求⇒賃金引上げ⇒コストアップ分の価格転嫁⇒製品価格引上げ、のサイクルが、現在の日本ではまったく同じメカニズムにより製品価格と賃金がともに上昇率ゼロで「凍結」されている、と指摘しています。そして、この「凍結」を賃金を起点に「賃金解凍」する条件として3点上げています。第1にインフレ期待の醸成、第2に賃上げ部分が価格転嫁できるという期待の醸成、そして、第3に労働需給の逼迫、となります。細かい論旨は本書を読むしかありませんが、とても注目すべき分析です。もっとも、私が感銘したのは、世界のインフレと日本国内の「慢性デフレに「急性インフレ」を切り分けて分析を進めている点です。世界が利上げしているのだから円安が進み、円安抑制のために日本も利上げすべき、といった乱暴は議論とは大きく異なります。ただ、金融政策の役割に関して疑問点があり、2点だけ上げておきたいと思います。第1に、現在の世界的なインフレをほぼほぼ実物の需給だけで理解しようと試みていますので、金融政策のインフレに果たした役割がスッポリと抜け落ちています。現在のインフレは大きく緩和されていた2022年初頭までの金融政策が、フリードマン教授のようにすべての原因、とまで私は考えませんが、ひとつの無視できない要因だと考えています。すなわち、あくまで一般論ながら、金融緩和の下で大きく増加した通貨供給は中央銀行の準備預金として「ブタ積み」される部分もありますが、一定の購買力となってフローの財・サービスとストックの資産に向かいます。前者の財・サービスに向かえばインフレとなりますし、後者の資産に向かえば、すぐではないとしても、行き過ぎればバブルになります。そして、今回の世界インフレの元凶であるエネルギー価格の高騰は、おそらく、ドル通貨の過剰供給が資産としての石油に向かったのが一因です。金とか、その昔のゴルフ会員権とか、有名画家の絵画、などであれば実物経済への影響はそれほど大きくありませんが、石油価格は実物経済への影響はかなり大きいと考えるべきです。ですから、商品市況で金などの貴金属、あるいは、非鉄金属や穀物といった商品=コモディティという資産として石油が価格高騰し、その資産価格の高騰がフローの財・サービスに影響を及ぼしている可能性を忘れるべきではありません。ですから、米国の金融引締めによってドル供給が縮小すれば石油価格は落ち着きを取り戻すと考えられます。おそらく数四半期、すなわち、1年から、早ければ来年半ばにも事実として観察されるものと私は考えています。第2に、金融政策は需要のみの管理にとどまる政策ではありません。このあたりは、中央銀行と政府の政策のタイムスパンの考え方の違いで、すなわち、私の理解によれば、中央銀行では景気循環の1循環、すなわち、数年をタイムスパンとして金融政策を考えているのに対して、政府では、極端な例としては「教育は国家100年の計」なんてのがありますが、もっと長いスパンで政策を考えます。景気循環1循環では、確かに、金融政策は供給サイドに大きな影響を及ぼすことは難しそうですが、もっと長いタイムスパンで考えれば、利子率が設備投資に影響し生産や供給に何らかのインパクトを持つことは明らかです。まあ、第2の点は大したことではないかもしれませんが、第1の点の緩和的な金融政策が現在の世界インフレをもたらしたひとつの要因であるという事実を本書ではほぼほぼ無視しており、私の目にはこの点がとても奇異に感じます。ですから、現在の米国における金融引締めは、単に米国の国内需要を下押しするだけでなく、資産価格としての石油の価格を引き下げる効果も十分持っていますし、この米国の金融引締めに日本はフリーライドして、棚ぼたの利益を受ける可能性がある、と私は期待していたりします。

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最後に、ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』(創元推理文庫)です。著者は、米国のミステリ作家であり、私はこの作者の『そしてミランダを殺す』も読んでいます。実は、この作者の作品としては、本書と『そしてミランダを殺す』の間に『ケイトが恐れるすべて』という作品があるのですが、これは未読です。英語の原題は All the Beautiful Lies であり、ハードカバーもペーパーバックもともに2018年の出版です。まあ、この英語の原題と邦訳のタイトルを考え合わせると、いかにも、アリス=主人公の継母が嘘をつきまくっている、あるいは、重要な事実を隠しているのだろうという想像ができてしまいますが、ここまでは読まなくてもタイトルだけから感じ取れる範囲ですので、何らネタバレではなくOKと考えます。2部構成となっていて、第2部に入るとガラッと景色が変わり、謎の解明が大きく進展します。ということで、主人公は稀覯本書店を経営する父親を持ち、大学を卒業する直前の大学生です。舞台はメイン州、典型的なニューイングランド、米国の東海岸です。そして、卒業式を数日後に控えた主人公に父親が海岸から転落死したという知らせが入り、卒業式を欠席して大学から実家に戻ります。稀覯本書店を経営していた父の後妻がアリスなわけです。後に警察の調べが進んで、転落による事故死ではなく殺人の線が浮かび上がります。邦訳本で10ページ前後からなる各章が交互に、厳密ではありませんが交互に、現在の主人公の実家周辺と過去、主として、アリスの過去にスポットを当ててストーリーが進行します。まあ、有り体にいえば、現在の捜査の進展とともに、アリスの暗い過去が明らかにされるわけです。その暗い過去の中には、首を絞めたり銃で射殺したりといった明確な殺人ではありませんが、ミステリでいうところの「プロバビリティーの犯罪」あるいは「可能性の殺人」にアリスが関わっていた事実が含まれます。これ以上はネタバレになりかねませんので、最後に2点指摘しておきたいと思います。第1に、途中で名前を変える登場人物がいます。ノックスの十戒の10番目に "Twin brothers, and doubles generally, must not appear unless we have been duly prepared for them." というのがあり、双子はこの作品に登場しますし、途中で名前を変えるというのは「1人2役」のような気もします。でも、作者が "duly prepared" だと認識している可能性がゼロではありません。第2に、この作品はイヤミスです。欧米ミステリ界でカテゴリとして確立しているのかどうかは、不勉強にして私は知りませんが、明らかに日本でいうところのイヤミスです。したがって、読者によっては読後感が悪いかもしれません。

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ホントの最後の最後に、ジョン・モーリー『アカデミック・フレーズバンク』(講談社)です。著者は、英国マンチェスター大学の研究者です。本書は、最初の1ページから始めて最後まで読み通す、といった通常の読書には馴染まないタイプの本で、それこそ、座右において「辞書的に」必要に応じて参照するという使い方だろうと思います。でも、アマゾンのレビューがやたらと高かったので研究費で買ってみました。私は、今の大学に再就職して毎年1本の論文を書くことを自分に課しているのですが、最初の2020年は日本語で仕上げて、その後、昨年2021年と今年2022年はともに英語で執筆しています。しかも、大学院生の修士論文指導を別にしても、通常の授業で年間2コマは英語の授業を受け持っていたりします。従って、本書のようにアカデミックなフレーズを多数収録した参考文献はとても助かります。論文を書く際には、リサーチなんて英語そのままの用語もある一方で、私は explore とか examine なんて、外来語にすら認定されていない用語もいっぱい使うわけですから、用例や用法について豊富に収録されているようで参考になりそうです。ただ、パンクチュエーションはさすがに通り一遍です。私自身の感触としては、mダッシュとnダッシュの使い分けなんて、ネイティブでも相当に教養なければ難しいと感じていますが、本書では、「一般論としては、フォーマルな学術文書の場合には使用を避け、代わりに、コロン、セミコロン、括弧などを適宜使用すること。」とされています。私でも、コロンとセミコロンの使い分けはなんとか初歩的なレベルながら理解しています。

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2022年11月25日 (金)

20か月連続の上昇を続ける10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.8%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、20カ月連続上昇 10月1.8%
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.4と、前年同月比1.8%上昇した。20カ月連続のプラスで、指数は2001年3月以来の高水準。上昇幅は前月から0.3ポイント縮小した。運輸・郵便で昨年の燃料費上昇の反動が出た。リース・レンタルや保険は上昇した。
宿泊サービスは10月に始まった政府の観光促進策「全国旅行支援」による割引がマイナスに効いた。出張などビジネス向けの宿泊も対象になったことが影響した。日銀は宿泊サービスの価格について「割引の影響を除けば、支援策を背景にした稼働率の高まりもあり堅調に推移していると考えられる」としている。
調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは93品目、下落したのは18品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年3月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+0.7%の上昇となった後、2021年4月には+1.1%に上昇率が高まり、本日公表された今年2022年9月統計まで、19か月連続の前年同期比プラス、18か月連続で+1%以上の上昇率を続けていて、6月統計以降では4か月連続で+2%以上となっています。上昇率がグングン加速するというわけではありませんが、高止まりしている印象です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく10月統計のヘッドライン上昇率+1.8%への寄与度で見ると、土木建築サービスや宿泊サービスや機械修理などの諸サービスが+0.57%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送や国際航空貨物輸送や内航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.59%、リース・レンタルが+0.39%、テレビ広告やインターネット広告や新聞広告など景気に敏感な広告が+0.14%、損害保険や金融手数料などの金融・保険が+0.13%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+3.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、運輸・郵便の9月の上昇率は+4.2%でしたから、やや上昇率は縮小を示しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+5.2%、広告の+2.9%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

最後に、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)東京都区部11月中旬速報値が公表されています。生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率で見て、9月の+2.8%から、10月には+3.4%と+3%台に達した後、11月も+3.6%とさらにインフレが高進しています。ヘッドライン上昇率では+3.8%に達しています。+6.1%の上昇だった外食のヘッドライン上昇率への寄与度が+0.32%、上昇率+6.4%だった調理食品の寄与度も+0.22%など、電気代や都市ガス代などのエネルギーの上昇率+24.4%、寄与度+1.23%とともに、食料の価格上昇がじわじわと広がっている印象です。

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2022年11月24日 (木)

リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日11月29日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、今年2022年8月+2.3%増、9月+2.8%増の後、10月も+3.0%増と順調に伸びています。足元で伸びを高めているとはいうものの、2020年1~4月のコロナ直前ないし初期には+3%を超える伸びを示したこともありましたので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は今年2022年8月+3.4%増、9月+1.4%増の後、10月も+1.6%増と、着実な伸びを示しています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、10月には前年同月より3.0%、+34円増加の1,151円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.3%)、「専門職系」(+64円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+38円、+3.4%)、「販売・サービス系」(+19円、+1.7%)、「事務系」(+20円、+1.6%)、「営業系」(+10円、+0.8%)、とすべて職種で増加を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、10月には前年同月より+1.6%、+25円増加の1,604円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+63円、+3.5%)、「製造・物流・清掃系」(+45円、+3.5%)、「医療介護・教育系」(+18円、+1.3%)、「営業・販売・サービス系」(+14円、+1.0%)、「IT・技術系」(+12円、+0.6%)、「オフィスワーク系」(+9円、+0.6%)、とすべてプラスとなっています。派遣スタッフの6つのカテゴリを詳しく見ると、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高くなっていて、全体と比べて伸びが小さくなっています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調であり、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向が不透明で、第8波に入ったともいわれていますが、全国旅行支援も10月20日には東京都でも始まって全国すべての都道府県で実施されており、同時に、インバウンド観光客の制約も大きく緩和されています。非正規雇用の比率の高い業種をはじめとして、最近までの順調な景気回復に伴う人手不足の広がりを感じさせる内容となっています。ただ、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては不透明であり、まだ下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。

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2022年11月23日 (水)

「OECD経済見通し」やいかに?

日本時間の昨日、経済協力開発機構(OECD)から「OECD経済見通し」OECD Economic Outlook, November 2022 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。副題は Confronting the Crisis とされてます。まあ、そうなんでしょう。
国際機関のリポートに着目するのは、この私のブログのひとつの特徴となっています。いくつか、プレスリリース資料から図表を引用しつつ、見通しを中心に簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはプレスリリース資料から Global growth is projected to slow を引用しています。世界の経済成長見通しとその地域別寄与度です。見れば明らかな通り、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの後、2021年はリバウンドによる+6%近い高成長を記録し、2022年も+3.1%成長でしたが、来年2023年にはインフレ高進により成長率が+2.2%にさらに鈍化すると見込まれています。そして、さ来年2024年の成長率も+2.7%と小幅にしかリバウンドしないと予想されています。地域別寄与度については、2021年から2022年、さらに、2023年と、アジアの成長寄与度はそれほど変化していないのですが、特に、来年2023年には欧州や北米の世界経済の成長率への寄与がかなり小さくなると見込まれています。これは、高緯度地域における暖房需要も含めたエネルギー支出が大きいという要因に基づいています。

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続いて、上のテーブル2枚はプレスリリース資料から G20とNon-G20のそれぞれの Real GDP growth projections と Inflation projections を結合して引用しています。成長率見通しの上方改定と下方改定は前回2022年6月の「経済見通し」からの乖離であり、±0.3%ポイントを超える修正がある国です。世界経済の成長率見通しは2022年の+3.1%から来年2023年には+2.2%に大きく減速すると見込んでいます。もちろん、インフレ抑制のための金融引締めによる成長失速です。ただ、日本では他の欧米先進国と比較してインフレの影響が小さくなっています。まあ、長年続いたデフレのひとつの効果なのかもしれません。期待インフレ率が極めて低い水準でアンカーされている、ということなのだろうと思います。加えて、欧州などと比べれば、それほどの高緯度に位置しているわけではなく、エネルギー支出がそれほどかさまない、という点も成長率がそれほど大きく鈍化しない要因のひとつと考えるべきです。

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続いて、上のグラフはプレスリリース資料から The world is coping with a large energy price shock を引用しています。GDPのうちエネルギーの最終消費に費やされる比率を50年ほどのスパンでプロットしています。最近時点では、GDPのうちの18%ほどをエネルギー支出に充てなければならず、逆にいえば、エネルギーへの支出がかさんで、ほかに振り向ける支出が相対的に減少していることになります。特に、このエネルギー支出の増加は高緯度の欧州諸国で厳しい負担増となっています。

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最後に、上の画像はプレスリリース資料から Summing up を引用しています。政策指針として、読めばその通りなのですが、(1) 金融政策は、インフレ抑制のために引き続き引締めを継続し、(2) 財政政策は、サステイナビリティに配慮して、優先順位を絞った支援を行い、さらに、(3) 安全保障に配慮したエネルギー政策、(4) 構造政策としては、①国際貿易の開放性の維持、②女性の労働参加の促進、③COVID-19パンデミックからの回復のためのスキルの再構築、などを重視しています。

繰り返しになりますが、期待インフレ率が極めて低い水準でアンカーされ、また、高緯度の欧州諸国と違ってエネルギー支出の増加が大きな負担にもならない、という要因から日本の成長率は、ほかの先進各国ほどは大きく下方修正されていません。しかし、日本の成長率は先進国の中ではまだまだ低くなっています。もう少し長い目で見て、この成長率をどのように引き上げるかが大きな政策目標となります。ヒントは、最後に引用した画像の貿易の開放性の維持、女性の労働参加の促進、雇用者のスキルの再構築、ということで、ほかの先進各国と大きくは違わない、と私は考えています。

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2022年11月22日 (火)

東京商工リサーチ「想定為替レート」調査の結果やいかに?

一時は1ドル150円を超えるような水準まで進んだ円安が、ようやく11月に入って一段落していますが、東京商工リサーチから2023年3月期下半期の「想定為替レート」調査の結果が明らかにされています。調査対象は上場メーカーですので、輸出や工場などの海外進出をしている企業が多いと考えられます。図表を引用しつつ、簡単に調査結果を見ておきたいと思います。

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まず、東京商工リサーチのサイトから 対ドル想定為替レートの推移 のグラフを引用すると上の通りです。東京商工リサーチが調査を開始したのは2011年3月期なのですが、昨年2021年までの10年間では以降では、2016年3月期初の想定レート1ドル115.8円がもっとも円安な水準でした。しかし、今年に入って、2023年3月期の期初には1ドル119.1円と、この最安値を上回る円安水準の結果となり、さらに、今回調査による2022年3月期下半期には平均1ドル135.3円で、2023年3月期の期初からさらに+16.2円の円安設定だった、との結果が示されています。

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次に、東京商工リサーチのサイトから 対ドル想定為替レート分布 のグラフを引用すると上の通りです。2022年3月期下半期の想定レートは、1ドル135円が28社(26.4%)ともっとも多く、次いで、1ドル140円が27社(25.4%)、1ドル130円が13社(12.2%)となっています。レンジ別では、1ドル130円台が最も多く58社(54.7%)、140円台以上が38社(35.8%)、同120円台以下が10社(9.4%)との結果です。

ものすごく単純化していえば、製造業=メーカーは輸出や海外工場の売上は円安が進めば収益を拡大させる効果を持ちます。もちろん、原材料や燃料の輸入価格は円安により上昇しますが、それ以上に円安メリットが大きいと考えるべきです。ですから、保守的な為替レート想定を前提にすれば、実勢レートよりもやや円高の水準で想定するケースが少なくありません。他方で、非製造業では製造業と違って、原材料や燃料の輸入コストの上昇の方が大きく、円安は収益圧迫要因となります。ですから、実勢レートよりも円安の想定を持って事業計画を立てるケースがよく見られます。本日取り上げた東京商工リサーチの調査結果は、メーカー=製造業だけを調査対象としていますので、ひょっとしたら、円高バイアスがある可能性があります。でも、いずれにせよ、最近にない円安の想定であることは確かだろうと思います。

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2022年11月21日 (月)

今年の年末ボーナスの予想やいかに?

今月11月に入って、例年のシンクタンク4社から今年2022年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研38.8万円
(+1.8%)
63.9万円
(▲2.0%)
賞与の企業間格差が鮮明に。海外展開している大企業では円安の進行により為替差益が発生する一方、中小企業では円安・資源高による原材料コスト増が収益を圧迫。既に今夏の賞与も事業所規模100人以上の企業では前年から増加する一方、100人未満はほぼ横ばいにとどまる状況。7~9月期以降も円安・資源高が中小企業の業績を下押ししているとみられ、今冬の賞与では企業規模間の格差がさらに広がる可能性。
みずほリサーチ&テクノロジーズ38.6万円
(+1.2%)
74.1万円
(+1.1%)
物価高は消費回復の重石になる。原材料価格の高騰等を背景に、値上げの動きは当面続く見込みである。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、10~12月期の消費者物価(生鮮食品を除く)を前年比+3.4%、2023年1~3月期を同+2.4%と予想しており、冬のボーナスが増えても、物価高の影響で家計の実質的な所得は前年対比で減少する計算になる。2022年10~12月期、2023年1~3月期の個人消費はサービス消費を中心に回復が見込まれるものの、物価高が下押し要因となり緩慢な伸びにとどまるだろう。
第一生命経済研n.a.
(+2.6%)
n.a.物価上昇も懸念材料だ。足元で物価上昇は加速しており、22年10-12月期の消費者物価指数の上昇率は前年比で+3%台半ば~後半に達する見込みである。今冬のボーナスが比較的高い伸びになるとみられることは好材料ではあるが、それでも賃金の増加ペースが物価上昇に追い付かない状況には変わりがない。今冬のボーナス増加が個人消費の活性化に繋がる可能性は低いだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング39.0万円
(+2.5%)
65.1万円
(▲0.1%)
コロナ禍での業績悪化で支給を取りやめていた事業所での支給が続々と再開され、支給労働者割合は83.4%(前年差+0.9%ポイント)と上昇しよう。同割合はコロナ前の2019年の水準には届かないものの、雇用者数の増加が続く中で、ボーナスを支給する事業所で働く労働者の数は4,291万人(前年比+1.5%)まで増加し、コロナ前を上回る見込みである。

テーブルから明らかな通り、今年の冬のボーナスはそこそこ上がる期待が持てます。ただし、注意すべき点が2点あります。第1に、ボーナスの増加が物価上昇に追いつかなおそれです。日本総研以外のみずほリサーチ&テクノロジーズ、第一生命経済研究所、三菱UFJリサーチ&コンサルティングにヘッドラインで引用しておきました。おそらく、ボーナス増は物価上昇で相殺され、というか、物価上昇がボーナス増を上回って、実質所得の増加はほぼほぼ見込めません。ただ、名目の貨幣賃金が増加しますので、一定の消費促進効果はあるものと私は期待しています。第2に、日本総研のリポートで強調されているところで、ボーナスの企業間格差が大きくなる可能性にも注意すべきです。上のテーブルで取り上げた4シンクタンクのうち、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2機関のリポートでは民間企業を製造業と非製造業に分けて示しています。日本総研では製造業が+6.3%増の53.4万円に対して、非製造業が+0.9%増の36.2万円、また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでも製造業が+5.5%増の53.0万円に対して、非製造業が+1.9%増の36.4万円、と、伸び率でも額でも製造業と非製造業の格差が大きくなっている点が明らかにされています。海外展開が進んでいる大企業では、特に製造業では円安の進行によって為替差益が享受できる一方で、中小企業では円安は資源高とともにコスト増をもたらして収益を圧迫する要因となると考えられます。日本ではもともと企業の規模による格差が大きく、大企業は中小企業と比較して給与水準が高い上に、財務体質などの経営の安定性もあり、学生諸君はこぞって大企業への就職を希望するのですが、今年の円安や資源高はこの企業規模による格差を拡大している可能性が大きく、特に、年末ボーナスにはその影響が現れている、と私は考えています。最後に、地域限定ながら、浜銀総研から「2022年冬の神奈川県民ボーナスの見通し」が明らかにされています。民間企業は+1.4%増、公務員は+7.6%増と予想しています。
最後の最後に、下のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから引用しています。

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2022年11月20日 (日)

今年のベスト経済書のアンケートに回答する

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ある経済週刊誌から寄せられていた今年のベスト経済書アンケートですが、結局、マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)をトップに上げて回答しておきました。政府が後景に退いて企業の自由な活動を前面に押し出すネオリベラルな資本主義ではなく、政府と企業がミッションを軸にコラボ=共同作業を行う経済の重要性を指摘している経済書です。ネオリベな資本主義に対するアンチテーゼとして推しておきました。もちろん、政府と企業とのコラボ=共同作業の有力な候補はSDGsの推進です。17のゴールすべてというわけにいかないとすれば、何といっても重視されるべきは人類の生存をかけた気候変動=地球温暖化の防止のために温室効果ガス排出削減、いっぱい言い換えがありますが、カーボンニュートラルだけ上げておきます。イノベーションの重視はもちろん必要なのですが、ネオリベな経済観に基づく「スタートアップ信仰」、すなわち、スタートアップがイノベーションを担うという考えは、ハッキリいって、もう過去のものであり、現在では打破されるべきと私は考えています。そして、SDGsのもうひとつとしてはジェンダー平等が経済学的に重要だと私は考えています。実証的に示すことは出来ませんし、定量的な把握は不可能ですが、女性管理職比率を無理やりでも30%に引き上げれば、我が国企業の生産性は大きく向上すると思います。

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また、昨年のアンケートにこういう項目があったかどうか失念してしまったのですが、日本の進路に重要な指針を与える経済書・経営書というのがあり、大門実紀史『やさしく強い経済』(新日本出版社)を強く推しておきました。冷たい=格差拡大、弱い=成長できない、から、結局、岸田内閣が腰砕けになってしまった分配の重視、ないし、成長から分配への経済の流れを戻す試みがいくつか提案されています。賃上げと社会保障の充実による所得の底上げ、また、環境重視の気候変動抑止や、ジェンダー平等の達成による成長力の強化といった方向が明確に示されています。『ミッション・エコノミー』の繰り返しになりますが、気候変動=地球温暖化の防止を政府と企業とのコラボに基づき、特殊日本の財政状況だけかもしれませんが、財源がないなら国債を発行しまくってでも、カーボンニュートラルのための技術開発を進めることによりイノベーションが大いに促進されます。そして、民間企業に強力なインセンティブを与えてでも、あるいは法的に強制してでも、ジェンダー平等に基づいて女性管理職比率を飛躍的に引き上げることができれば、我が国企業の生産性は大きく向上します。生産性が向上すれば、雇用者の賃金引上げも進むことになります。現在の岸田内閣は、企業の内部留保に着目して、外生的に賃上げを促進しようとしており、それはそれで一案と私は考えていますが、もしも、ホントに賃上げが内閣の重要課題であるなら、企業の内部留保に課税すべきです。そうではなく、まあ、何と申しましょうかで、女性の管理職比率を障害者の雇用比率と同列に論じるのは適当ではないかもしれませんが、何らかの法制度により女性の管理職比率を引き上げる制度的な改革がなされることから始め、それによる生産性引上げを賃上げに結びつける、というのも十分に実現可能性があると思います。

経済書アンケートにかこつけて、私自身の経済観、政策観を展開していしまいましたが、現在のネオリベな経済政策を打破するために、引き続き、いろんな主張を繰り返したいと思います。

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2022年11月19日 (土)

今週の読書はウェルビーイングに関する経済書のほか計5冊

今週の読書感想文は以下の通りウェルビーイングに関する経済書2冊と明治史に関する新書、そして、ミステリ小説2冊の計5冊です。
まず、山田鋭夫『ウェルビーイングの経済』(藤原書店)は、あまりウェルビーイングとは関係なく、レギュラシオン学派の観点から資本主義の先行きや調整について論じています。草郷孝好『ウェルビーイングな社会をつくる』(明石書店)は、やや「ユートピア的」なウェルビーイングの考え方ではないかと思えるほどですが、成長モデルからウェルビイングのモデルへの転換について論じています。瀧井一博[編]『明治史講義【グローバル研究篇】』(ちくま新書)は、明治期の日本の歴史についてグローバル・ヒストリーの視点から、黒船来航という外圧による開国、そして、アジア各国が明治期日本を参照するという歴史をひも解いています。ネヴ・マーチ『ボンベイのシャーロック』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY)は、1880年代の大英帝国の植民地であったインドを舞台にしたミステリです。最後に、ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』(新潮文庫)は、ポール・オースターの別名義によるハードボイルドなミステリです。ニューヨークを舞台にしています。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10月には25冊、11月に入って先々週と先週で8冊で今週は5冊ですので、今年に入ってから210冊となりました。

 

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まず、山田鋭夫『ウェルビーイングの経済』(藤原書店)です。著者は、名古屋大学を退縮された研究者です。本書では、レギュラシオン学派の調整理論に基づきつつ、大量生産・大量消費といったフォーディズムがどのように将来にわたってウェルビーイングな価値を重視しつつ、資本主義の調整がなされるか、に焦点を当てています。本書の構成は前編と後編にそれぞれ4章ずつを収録し、前編では内田義彦らの市民社会概念を紹介しつつ、ウェルビーイングの観点からの資本主義像を論じています。中国などの権威主義的な経済社会と市民社会が対象的に議論されます。特に、現在の岸田総理が持ち出した「新しい資本主義」については、分配が後景に退いて成長重視に回帰するとともに、賃上げや「所得倍増」ではなく試算所得の倍増に化けたのではないか、と批判しています。ただ、私の理解不足により、物質代謝については十分には判りませんでした。後編では、レギュラシオン理論に基づく資本主義の調整をテーマとしています。すなわち、資本-労働の関係では、テイラー・システムに基づく科学的管理を労働者が受け入れる一方で、労働需給による賃金決定ではなく生産性に基づく賃金が労働者に支給され、結果として、大量生産-大量消費というフォーディズムが資本主義に好循環をもたらした、というのがおそらく、1970年代の石油危機やニクソン・ショックまでのブレトン-ウッズを支えていました。それが、アマーブルのいうような多様性に富む資本主義がウェルビーイングの概念を軸に、いかに資本主義の新たな方向性として目指されるのか、について議論を展開しています。おそらく、私の目から見て、次の草郷孝好『ウェルビーイングな社会をつくる』と同じで、自由かつ格差が小さいという意味での平等が実現され、さらに、ウェルビーイングな経済社会を、少なくとも短期間で構築することは、ユートピア的・空想的であって、それほど現実性は大きくないと考えるべきです。他方で、こういった大きな方向性について、多様な資本主義の累計を念頭に置きつつ議論することは、単なる「頭の体操」を超えて、現在の日本経済を始めとするいわゆる「閉塞感」、あるいは、欧米経済学のコンテクストでいえば、「長期不況」secular stagnationからの方向転換を考える上でとても重要です。ただ、難点をいえば、内容が難しいです。やや専門外であるとはいえ、私には「物質代謝」を含めて、理解が及ばない点がいくつかありました。一般ビジネスパーソンには難解に過ぎる可能性は指摘しておく必要がありそうです。

 

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次に、草郷孝好『ウェルビーイングな社会をつくる』(明石書店)です。著者は、関西大学の社会学部の教授です。本書では、国連のSDGsなどを引用しつつ、p.40で示した利益拡大の競争社会である経済成長モデル、現在のモデルから、p.115で示している循環型共生社会であるウェルビーイングモデルへの転換について考えています。基本的な方向性としては私は大賛成であって、まったく異論ありません。ただ、2点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、一時期にせよ成功していたように見える経済成長モデルがどうしてダメになったのかについては説明を要します。経済成長モデルが経済的格差を構造的に生じさせ、社会的な分断をもたらし、現時点でこのままではよろしくない、というのは、百歩譲っていいとしても、高度成長期の1950-60年代くらいまではこの経済成長モデルで日本だけでなく多くの先進国が成功してきたわけであり、21世紀に入った現時点で、どうしてダメになったのかについては、こういったステレオタイプの紋切り型ではなく、もう少していねいな説明がほしい気がします。第2に、ではウェルビーイングモデルをどう実現するか、については水俣市と長久手市の例が示されているだけで、どこまで一般性あるのか、はなはだ疑問です。当事者主体の地域協働を醸成するための6つのポイントがp.172に上げられていますが、後に、リーダーの存在の必要性などが述べられているとしても、はなはだ不親切であると私の目に映ります。ウェルビーイングについては所得と幸福度の関係についてイースタリンのパラドックスを展開したり、あるいは、センやヌスバウムらの潜在能力アプローチ、あるいは、ヘリウェル-サックスなどの幸福度に関する計測の研究、などなど、しっかりとした理論的な基礎があるだけに、方法論があまりにも貧弱と感じてしまいます。まあ、マルクス主義的な暴力革命からプロレタリアート独裁というのも乱暴な方法論だと大学生のころに感じた記憶はあるものの、本書はどうも科学的な観点が少し不足する「ユートピア的あるいは空想的ウェルビーイング理論」のような気がします。もっとも、現状の幸福度やウェルビーイングの研究はほぼほぼすべてこういった水準にとどまっているのも事実です。ひょっとしたら、経済学以上に未熟な科学なのかもしれません。逆に、私自身はウェルビーイングなモデルを大いに支持していますので、今後の学術的、科学的な発展を期待します。大いに期待します。

 

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次に、瀧井一博[編]『明治史講義【グローバル研究篇】』(ちくま新書)です。編者は、国際日本文化研究センター(日文研)の研究者です。本書は、2018年に明治維新150年を記に開催されたシンポジウムの報告から構成されています。なお、同様の出版物として、同じちくま新書から【テーマ篇】と【人物篇】はシンポジウム直後の2018年に刊行されていますが、なぜか、本書【グローバル研究篇】だけは4年遅れでの出版となっています。私も役所の研究所に勤務していたころにこういったコンファレンスの出版を担当した記憶がありますが、私の担当で大きく出版が遅れたのは最終稿の確認が、おそらくたった1人のために、遅れに遅れたことが原因であったと覚えています。それはともかく、本書では内外の16人の報告を収録しています。出版社のサイトに各報告のタイトルが示されています。大雑把にいって、私の理解として、国家近代化として捉えるべき明治期の日本については、その出発点である明治維新がいわゆる外圧、すなわち、象徴的にはペリー提督による黒船来航によってもたらされ、そして、明治期の日本での国家建設がアジアをはじめとする当時の途上国によって参照された、というのが明治期の歴史をグローバル・ヒストリーの中で位置づけるひとつの視点ではなかろうか、と考えています。明治期の歴史の最終的な仕上げのひとつのエポックは日露戦争であり、日本が大国ロシアに勝利したという事実により、当時の途上国から国家の発展モデルとして大いに注目を集めたことは容易に想像できるかと思います。特に、当時の清-中国あるいは台湾や朝鮮といった近隣諸国への影響は無視し得ないものであったと想像しています。本書では、さらに範囲を広げて、タイ、ベトナム、トルコといった国への影響も報告されています。本書のまったくのスコープ外ながら、私が同様に日本の歴史的な発展がアジアをはじめとする途上国のモデルとなったのは1950-60年代の高度成長期であったと考えています。逆に、20世紀なかば以降の戦後の世界経済において、いわゆる経済開発に成功して先進国の仲間入りをしたのは日本モデル以外には、現時点では、ないものと考えています。韓国についてはかなりの程度に日本モデルを採用して経済開発が進められました。ただ、中国が日本モデル以外の新たな経済発展モデルとなるかどうかは、大いに注目です。激しく脱線しましたが、明治期の日本をグローバル・ヒストリーの視野で捉えるとすれば、国家の近代化≈西洋化の際の発展モデルであろうと私は考えます。そして、本書はそういった明治史について、さまざまな観点を提供してくれます。

 

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次に、ネヴ・マーチ『ボンベイのシャーロック』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY)です。著者は、インド生まれで現在は米国在住のミステリ作家です。英語の原題は Murder in Old Bombay であり、2020年の出版でこの作品は作者のデビュー作で、そして、米国探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の最優秀新人賞にノミネートされています。ということで、舞台は1892年のインドのボンベイ、今でいうところのムンバイです。インドは大英帝国の植民地として発展を遂げており、時代はまさにシャーロック・ホームズの活躍したビクトリア時代です。主人公はインド人女性と英国人男性の混血として生を受けていますが、父親は不明で、姓はインド系、しかも、カースト最上位のバラモンである一方で、名はジェームズ(ジム)と名付けられています。軍人として大尉まで務めましたが、30歳にして傷痍退役し新聞社に勤務します。そして、数か月前にボンベイで話題となった2人の裕福な若い女性の時計塔からの転落死事件について、その被害者の1人である女性の夫から調査依頼を受けます。被害者やその夫はパールシーです。すなわち、ペルシャ系のゾロアスター教徒であり、同じ宗教の信者としか結婚しません。ということで、主人公が謎解きに挑み、もちろん、成功するのですが、とてもびっくりするような謎でした。ハッキリいって、どうもあり得ないような解決だと私は考えます。一応、何と申しましょうかで、莫理斯(トレヴァー モリス)『辮髪のシャーロック・ホームズ』がとてもよかったので、同じような本ということで借りてみましたが、決してオススメしません。かなりのボリュームある長編ですし、解決は現代の日本人には想像できないような内容です。しかもしかもで、パールシーの結婚観に触れておきましたが、女性に対する興味を示さなかった本家のホームズと違って、この作品の主人公の探偵役は、たぶん、ヒンデュー教徒であるにもかかわらず、パールシーの女性に対して求婚したりします。捜査方法もどこまでホームズを参考にしているのかは不明です。少なくとも、『辮髪のシャーロック・ホームズ』で組織されていたベイカー街イレギュラーズを模した少年たちは登場しません。ただ、米国での評価はそれなりですし、ミステリとしては謎解きの妙は味わえます。評価はビミョーなところです。

 

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最後に、ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』(新潮文庫)です。著者は、米国の作家なのですが、通常は、ポール・オースターとして理解されている作家であり、本書は別名義で執筆しています。英語の原題は Sueeze Play であり、本書巻末の主要著作リストに従えば、何と40年前の1982年の出版ながら、本邦初訳だそうです。ペーパーバック出版の1984年の翌1985年には米国私立探偵作家クラブによるシェイマス賞最優秀ペーパーバック賞を受賞しています。ということで、主人公はニューヨークの私立探偵なのですが、米国東部アイビーリーグの名門校を卒業し、州の検事局を最近辞職しています。そして、この探偵への依頼者は、これまた、アイビーリーグの名門校出身で5年前まで大リーグのスタープレイヤーであって、キャリアの絶頂期に交通事故で片足を失いながらも、今は政治家として注目され、州上院議員に民主党から立候補するとウワサされている人物です。その依頼者が殺意すら匂わせている脅迫状を受け取り、探偵に事実調査を依頼します。いろいろと調査を進めているうちに、実に、その依頼人は実際に毒殺されてしまいます。ほかにも、死者がいっぱい出ます。作風としては、いわゆるハードボイルドであって、私は大好きです。謎解きについては、今となってはそれほど目新しさもなく、ありきたりな気もします。ミステリですので、これ以上は詳細について触れず、どうでもいい脱線をいくつか書いておくと、第1に、タイトルの「スクイズ・プレー」はまさに、野球、特に、高校野球でよく見かけるスクイズそのものを指しています。主人公の探偵が離婚した妻といっしょに暮らしている9歳の息子と大リーグの試合観戦に行って、日本でいうところのツーラン・スクイズ、すなわち、3塁走者だけではなく2塁走者もホームに生還するスクイズからヒントを得て事件を解決に導きます。なお、私がスクイズ・プレーのある競技として知っているのは、野球のほかはコントラクト・ブリッジだけです。第2に、サム・スペード、リュウ・アーチャー、フィリップ・マーロウというハードボイルド御三家ともいえる探偵は3人とも西海岸カリフォルニアで活動しているのですが、私はハードボイルドにはニューヨークが似合うと常々考えています。本書ではハードボイルド探偵はニューヨークを舞台に事件解決を成し遂げます。その意味でも、いい読書でした。

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2022年11月18日 (金)

10月の消費者物価指数(CPI)上昇率はとうとう+3%台半ばに達するも政府の物価対策は大企業への補助金ばっかり

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.6%を記録しています。報道によれば、1982年2月以来40年ぶりに高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+3.6%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+2.5%にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、10月3.6%上昇 40年ぶり伸び率
総務省が18日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が103.4となり、前年同月比で3.6%上昇した。伸び率は消費増税時も上回り、1982年2月(3.6%)以来40年8カ月ぶりの幅となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーなど生活に身近な品目の値上がりが続く。
QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.5%)を上回った。上昇は14カ月連続。調査対象の522品目のうち、前年同月に比べて上がった品目は406、変化なしは42、下がったのは74だった。上昇品目数は9月の385から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は3.7%上昇し、消費増税の影響を除くと91年1月(4.0%)以来31年9カ月ぶりの伸びだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.5%上がった。
品目別に上昇率を見ると、食料は6.2%で、生鮮を除く食料は5.9%だった。メーカーが相次ぎ値上げしている食用油が35.6%上がった。あんぱん(13.5%)やチョコレート(10.0%)の伸びも目立つ。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて輸送ルートを変更したサケは28.4%上昇した。
円安や原材料高といった影響は外食にも波及し、ハンバーガーは17.9%上がった。
エネルギー関連の上昇率は15.2%だった。9月(16.9%)から縮小したものの13カ月連続で2桁の伸びとなった。都市ガス代が26.8%、電気代が20.9%上がった。ガソリンは価格抑制の補助金効果もあって2.9%と、9月の7.0%から下がった。

やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.5%の予想でしたので、ホンの少しだけ上振れた印象です。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、10月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は9月統計の+16.9%から少しだけ食傷して、それでも、+15.2%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.18%あります。このエネルギーの寄与度+1.18%のうち、電気代が半分超の+0.74%ともっとも大きく、次いで、都市ガス代の+0.24%、ガソリン代の+0.06%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、ジワジワと上昇率が縮小し続けていて、9月統計では+16.9%、そして、直近で利用可能な10月統計では+15.2%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているように見えます。価格抑制のために政府が石油元売各社に補助金を出しているのも、一定の効果があるのかもしれません。逆に、生鮮食品を除く食料の上昇率は拡大を続けていて、4月統計+2.6%、5月統計+2.7%、6月統計+3.2%、7月統計+3.7%、8月統計+4.1%、9月統計+4.6%に続いて、10月統計では+5.9%の上昇を示しており、+1.33%の寄与となっています。特に、10月は年度下期の開始とともに値上げに踏み切ったタイミングでもあったと考えられます。ですから、10月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を細かく品目別に見ると、引用した記事にもある通り、ハンバーガーをはじめとする外食が+5.1%の上昇率で+0.24%の寄与度、からあげをはじめとする調理食品は+6.5%の上昇率で+0.23%の寄与度、あんパンをはじめとする穀類が+8.2%の上昇率で+0.17%の寄与度、チョコレートをはじめとする菓子類が+6.6%の寄与度で+0.16%の寄与度、豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+5.9%の上昇率で+0.15%の寄与度、などとなっています。私も州に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は10月統計で、どちらも+3%台半ばですから、ほぼ+2.5%の部分はエネルギーと生鮮食品を除く食料による寄与と考えるべきです。そして、現状ではまだまだエネルギーの寄与度が大きいのですが、毎月の寄与度の差を考えれば、寄与度差という観点ではインフレの主因はエネルギーから食料に移りつつあるように見えます。

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上のグラフは、昨日11月17日に帝国データバンクから明らかにされたリポート「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」から インフレ手当の支給有無 を引用しています。インフレ手当の支給・予定・検討中の企業は26.4%と¼に上っています。また、インフレ手当に取り組む企業からの回答のうち「一時金」がは66.6%、「月額手当」は36.2%であり、平均支給額は一時金が5万3,700円、月額手当が6,500円との回答結果が示されています。岸田内閣の「新しい資本主義」は一向にモノにならず、物価上昇対策として、政府は石油元売や電力といった大企業への補助金ばかりを打ち出す一方で、国民への支援策は一向に検討されず、時限措置としてすら消費税率の引下げも実施されず、企業が従業員の生活支援に乗り出しているのが理解できます。一時金や手当ではなく、インフレに応じた賃上げが進むことを私は期待しています。

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2022年11月17日 (木)

15か月連続で赤字を続ける10月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+25.3%増の9兆15億円に対して、輸入額は+53.5%増の11兆1637億円、差引き貿易収支は▲2兆1622億円の赤字となり、昨年2021年8月から15か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、10月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日本の貿易赤字2.1兆円、10月で最大 円安・資源高響く
財務省が17日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆1622億円の赤字だった。10月としては、比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高により、輸入額が前年同月比で大幅に増えた。
貿易赤字は15カ月連続で、3カ月続けて2兆円を超える赤字となった。10月以外を含めると、過去5番目に大きい赤字だった。
輸入は11兆1637億円で、前年同月比で53.5%増えた。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの値上がりが響いた。原油の輸入価格は1キロリットル当たり9万6684円と79.4%上昇した。ドル建て価格の上昇率は37.7%だった。円安が輸入価格の上昇に拍車をかけている。
輸出は25.3%増の9兆15億円だった。米国向けの自動車や韓国向けのIC(集積回路)などが増えた。
輸入は8カ月連続で、輸出は2カ月連続でそれぞれ過去最大を更新した。輸入の増加ペースが輸出を大きく上回り、赤字が拡大している。
荷動きを示す数量指数(2015年=100)は、輸入が前年同月比で5.6%上がったのに対し、輸出は0.3%下がった。中国向けの輸出は16.0%の急激な落ち込みとなった。消費不振や住宅不況による中国経済の減速が響いたとみられる。
10月の貿易統計を季節調整値でみると、輸入は前月比4.2%増の11兆2054億円、輸出は2.2%増の8兆9063億円、貿易収支は2兆2991億円の赤字だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6200億円の貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2兆円でしたので、実績の▲2兆円超の貿易赤字は大きく下振れした印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年9月までの15か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、17か月連続となります。しかも、直近時点まで貿易赤字額が傾向的にだんだんと拡大しているのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。明らかに、青い折れ線の輸出よりも赤い輸入の方の伸び方の傾きが大きいのが上のグラフから見て取れます。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
10月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+9.9%増なのですが、金額ベースでは+97.1%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされて、輸入金額はほぼほぼ倍増という結果になっています。LNGも同じで数量ベースでは+9.9%増であるにかかわらず、金額ベースでは+150.9%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+18.2%増となっている一方で、金額ベースでは+81.4%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+9.3%増、金額ベースではこれが大きく膨らんで+74.3%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は部品の供給制約が緩和されて、季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+27.6%増、輸出金額でも+81.0%増と大きく伸びています。また、一般機械+17.6%増、電気機器+17.9%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因です。

円ドル為替の市場価格は、一時は、150円まで円安が進みましたが、今日の時点では140円近傍の水準で推移しているように見えます。私は為替レートの先行きに関しては特段の見識を持ちませんが、円安は輸出に有利である点は忘れるべきではありません。

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