2024年9月12日 (木)

商品市況と円高の影響で上昇幅が縮小した8月の企業物価指数(PPI)と自動車の認証不正を底に企業マインドの回復続く法人企業景気予測調査

本日、日銀から8月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.0%の上昇となり、先月6月統計からさらに上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、8月2.5%上昇 8カ月ぶりに伸び鈍化
日銀が12日発表した8月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は123.0と、前年同月比で2.5%上昇した。7月(3.0%上昇)から伸び率が0.5ポイント鈍化した。民間予測の中央値(2.8%上昇)より0.3ポイント低かった。中国経済の減速による銅など原材料価格の下落が響いた。
8カ月ぶりに伸びが鈍化した。企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
内訳では、銅など非鉄金属が前年同月比11.4%上昇と、7月(18.9%)から伸び率が縮まった。非鉄金属の主要消費国である中国景気の減速を受け、商品相場が下落したことが影響した。
円高の進行が輸入物価の伸び鈍化につながった。円ベースの輸入物価指数は2.6%上昇で、7月(10.8%)と比べて伸び率が鈍化した。24年8月のドル・円相場は平均で1ドル=146円台と、7月(157円台)から円高にふれた。
電力・都市ガス・水道は10.6%上昇し、7月から増加幅が拡大した。政府が停止した電気・ガスの補助金が価格の押し上げにつながった。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+2.8%と見込まれていましたので少し下振れた印象でした。国内物価の上昇幅が大きく縮小したした要因は、引用した記事にもある通り、中国の景気減速による商品価格の低下と円高です。政府による電気・ガスの補助金は停止されたままで、物価の押上げ要因となっています。非鉄金属をはじめとする商品価格の下落と円高ですから輸入物価への影響が大きく、前年同月比ベースで輸入物価は4~7月まで2ケタ上昇でしたが、8月は一気に+2.6%まで上昇幅を縮小させています。原油についても基本的に童謡の価格動向が観察されます。すなわち、円建て輸入物価指数の前年同月比で見て、6月+22.0%、7月+22.2%の上昇が、8月統計では一気に+6.5%まで上昇幅を縮小させています。ちなみに、8月統計の原油の契約通貨建て価格の前年同月比上昇率は+5.3%を記録しています。何度も繰り返している通り、我が国では金融政策を通じた需給関係などよりも、原油価格のパススルーが極端に大きいので、上昇にせよ下落にせよ国内物価にも無視し得ない影響を及ぼしています。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が7月の+6.5%から8月は+10.5%に大きく上昇幅を拡大しています。食料品の原料として重要な農林水産物は7月の+4.0%から8月は+5.3%と上昇幅をやや拡大しています。したがって、飲食料品の上昇率も8月+2.1%と高止まりしており、ほかに、非鉄金属が+11.4%が2ケタ上昇を示しています。ただし、石油・石炭製品は7月+0.4%から8月には▲4.0%と下落に転じています。原油価格が円建てでも上昇を示している一方で、石油・石炭製品の価格の落ち着きはやや不思議であると私は受け止めています。

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また、本日、財務省から4~6月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は前期の4~6月期に+0.4とプラスに転じた後、足元の7~9月期は+5.1と2四半期連続のプラスを記録し、先行き10~12月期には+7.2、2025年1~3月期でも+4.7と、順調にプラスを続けると見込まれています。法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは上の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。
自動車の品質不正問題が響いて、BSIのヘッドラインとなる大企業全産業で見て前期の1~3月期に瞬間風速で小さなマイナスをつけたものの、前期の4~6月期にはプラスに転じ、足元の7~9月期、先行きの10~12月期から2025年1~3月期と企業マインドは順調に回復する見通しが示されています。この間、大企業レベルでは製造業・非製造業ともにBSIはプラスと見込まれています。雇用人員も引き続き大きな「不足気味」超を示しており、大企業全産業で見て9月末時点で+27.0の不足超、12月末で+24.1、来年3月末でも+21.3と大きな人手不足が継続する見通しです。設備投資計画は今年度2024年度に全規模全産業で+12.5%増が見込まれています。これまた、製造業・非製造業とも2ケタ増を計画しています。それなりに期待していいのではないかと思いますが、まだ、機械受注の統計やGDPに明確に反映されるまで至っていませんので、私自身は計画倒れになる可能性もまだ残っているものと認識しています。

果たして、10月1日公表予定の日銀短観やいかに?

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2024年9月11日 (水)

帝国データバンク調査による「米作農業の倒産・休廃業解散動向」やいかに?

コメがスーパーなどの店頭から姿を消して価格が高騰しているのは広く認識されている通りですが、他方で、コメ農家の倒産・廃業も急増しているようです。というのも、9月5日、帝国データバンクから「米作農業の倒産・休廃業解散動向」の調査結果が明らかにされていて、今年2024年に入って1-8月で34件の休廃業と解散が発生していることが示されています。帝国データバンクのリポートから 「米作農業」倒産・休廃業解散件数 推移 を引用すると以下の通りです。

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同じ9月5日付けのNHKの「首都圏ナビ」のサイトでも報じられていますが、イネの育成はそれほど問題ないにもかかわらず、品薄が続いて入荷が不安定な状況が続いているようです。農水省の民間在庫のデータを見ても、昨年末2023年12月には298万トンあった在庫が、直近でデータが利用できる今年2024年7月には82万トンまで激減しています。
それにもかかわらず、帝国データバンクの調査によれば、2024年1-8月には、米作農業(コメ農家)の倒産(負債1000万円以上、法的整理)が6件、休廃業・解散(廃業)が28件発生し、計34件が生産現場から消滅した、とリポートされています。この要因として、帝国データバンクのリポートでは、「生産コストの上昇と深刻な後継者・就農者不足」を上げています。すなわち、生産資材、肥料、ガソリン・軽油などの値上がりが激しい一方で、価格転嫁が難しいことからコメづくりを断念したり、あるいは、就農者の高齢化や後継者不足もあって、経済学的にいえば、供給が需要に追いつかない状況となっています。一部の報道に見られたように、インバウンド観光客の消費増は私は怪しいと見ています。

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私は授業でサラリと日本の農業について取り上げないでもないのですが、それほど専門性があるとは思っていません。でも、OECD の Post-Uruguay Round Tariff Regimes の p.53 Figure 1. Post-Uruguary Round bound tariff rates, by main sectors なんぞを引用しつつ、日本の農業が巷間いわれているほど保護されているわけではない、という点はしっかりと教えているつもりです。上のグラフの通りです。

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2024年9月10日 (火)

帝国データバンク調査による「米作農業の倒産・休廃業解散動向」やいかに?

先週9月5日に、東京商工リサーチから今年2024年1-8月の期間における上場企業「早期・希望退職募集」状況の調査結果が明らかにされています。まず、東京商工リサーチのサイトから 上場企業 早期・希望退職募集 推移 のグラフを引用すると以下の通りです。

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見れば明らかなのですが、リーマン・ショックの翌年2009年に2万人を超えた後、コロナ禍の2020年にも1.8万人を超え、その後順調に低下していたのですが、今年2024年に入って1~8月ですでに昨年2023年の2倍を超える7,104人の早期・希望退職の募集がなされています。募集社数としては、昨年2023年の同時期には23社だったものが、すでに41社に達しています。すべて上場企業なのですが、上場区分は東証プライムが28社で68.2%、また、黒字企業が24社、58.5%と高い割合を占めています。厚生労働省が公表している有効求人倍率を見てもまだ1倍を超えていて、少子高齢化を伴った人口減少局面に入って、人手不足が広がっていると考えられていますが、他方で、今年2024年に入って早期・希望退職募集も大きく増加しています。なお、私が朝日新聞の報道で見かけた範囲での大きな退職者募集は以下の2社です。どちらも、「早期退職者募集」と称しています。

これまた、広く報じられている中で、自民賞の総裁選において政策プランとして「雇用の流動化」を掲げているの候補者も中にはいたりします。ハッキリいって、私が推奨している高圧経済において雇用者が自分のスキルにあわせて転職先を自由に選べるのと、雇用主が雇用者を簡単に解雇できるのはまったく別の世界観です。決して、混同してはいけません。

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2024年9月 9日 (月)

下方修正された4-6月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4~6月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比+0.7%増、年率換算で+2.9%増を記録しています。2四半期ぶりのプラス成長で、1次QEからはわずかに下方改定されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.2%、国内需要デフレータも+2.6%に達し、7四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP2.9%増に低下、4-6月改定値 持ち直し基調は継続
内閣府が9日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%増、年率換算で2.9%増だった。8月発表の速報値(前期比0.8%増、年率3.1%増)から下方修正した。設備投資と個人消費が若干下振れしたものの、持ち直し基調に大きな変化はみられない。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.8%増、年率3.2%増だった。予測を下回った一方で、2四半期ぶりのプラス成長は変わらなかった。名目GDPは前期比1.8%増、年率換算で7.2%増で、実額は年換算で607兆円だった。
内閣府の担当者によると、ダイハツ工業などの品質不正問題で停止していた生産・出荷が再開し、自動車の購入や設備投資の再開が増えて全体を押し上げる構図に変化はなかった。
GDPの半分以上を占める個人消費は実質で前期比0.9%増だった。速報値は前期比1.0%増だった。直近の指標を反映した結果、お菓子の消費が減った。サービスでは外食の上昇寄与度が速報値の段階より縮小した。
消費に次ぐ柱の設備投資は前期比0.9%増から0.8%増に下方修正した。財務省が2日に公表した4~6月期の法人企業統計などを反映した。
公共投資は速報値の前期比4.5%増から4.1%増に下方修正した。建設総合統計などの結果を反映した。民間在庫の寄与度は前期比マイナス0.1%、政府最終消費支出は前期比0.1%増で、それぞれ速報値段階から変化がなかった。
輸出は前期比1.4%増から1.5%増になった。輸入は前期比1.7%増のままだった。前期比年率の寄与度は内需がプラス3.1%、外需がマイナス0.3%だった。
ソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之氏は「成長率が小幅に低下したものの、速報値の認識を大きく変えるほどではない」と指摘した。「自動車を巡る認証不正問題の一巡など一時的とみられる要因もあり、景気は引き続き踊り場だ」と評価した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。なお、一般には大きな必要ないことながら、今回のGDP推計から内閣府のアナウンスにあるようにコロナ禍の時期のダミー変数の設定が変更されています。

需要項目2023/4-62022/7-92023/10-122024/1-32024/4-6
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.7▲1.1+0.1▲0.6+0.8+0.7
民間消費▲0.8▲0.3▲0.3▲0.6+1.0+0.9
民間住宅+1.4▲1.2▲1.1▲2.6+1.6+1.7
民間設備▲2.0▲0.2+2.1▲0.5+0.9+0.8
民間在庫 *(▲0.0)(▲0.6)(▲0.1)(+0.3)(▲0.1)(▲0.1)
公的需要▲0.9+0.1▲0.4+0.1+0.9+0.8
内需寄与度 *(▲1.0)(▲0.8)(▲0.1)(▲0.1)(+0.9)(+0.8)
外需寄与度 *(+1.7)(▲0.3)(+0.2)(▲0.5)(▲0.1)(▲0.1)
輸出+3.2+0.1+3.0▲4.6+1.4+1.5
輸入▲4.1+1.3+2.0▲2.5+1.7+1.7
国内総所得 (GDI)+1.2▲0.7+0.1▲0.7+0.8+0.7
国民総所得 (GNI)+1.5▲0.7+0.2▲0.6+1.3+1.3
名目GDP+2.0▲0.0+0.7▲0.3+1.8+1.8
雇用者報酬▲0.4▲0.6+0.1+0.2+0.8+0.8
GDPデフレータ+3.7+5.2+3.9+3.4+3.0+3.2
内需デフレータ+2.7+2.5+2.1+2.3+2.4+2.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された4~6月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、赤の消費がプラスの寄与度を示しているのが見て取れます。

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基本的には、1~3月期に自動車の認証不正に伴って一部工場の操業停止などの動きがあったことから、4~6月期に工場稼働が再開されたものもあって、反動も含めて消費が伸びてプラス成長につながった、と考えるべきです。ですので、この反動増を割り引く必要もあり、4~6月期の年率+3%近い高成長はそれほど大きな意味はないと私は受け止めています。まあ、何と申しましょうかで、私の従来からの主張である「日本経済自動車モノカルチャー論」を補強してくれている気すらします。その昔の私の小学校のころは、ブラジル経済がコーヒーのモノカルチャーだったと主張する人もいましたし、私が大使館勤務をしていた1990年代前半のチリ経済も銅のモノカルチャーに近かった気がしますが、日本も経済規模が徐々に縮小すればさらに自動車モノカルチャーの色彩を強める可能性が否定できないと思います。

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ただ、先行きを考える場合、8月末から9月初の台風10号による列島マヒを別にして、雇用者報酬の動向が重要となります。上のグラフはその雇用者報酬の季節調整済みの系列を実額でプロットしています。広く報じられている通り、昨年春闘に続いて今年2024年春闘も画期的な賃上げを勝ち取っていて、賃上げが徐々に広がるとともに、他方で、物価の方は落ち着く方向にあるわけで、ジワジワと実質賃金が増加する方向にある点を評価すべきです。実質所得が増加すれば消費だけでなく、住宅投資も増加するでしょうし、それが企業活動にも波及するのは当然です。アベノミクス箱用の増加などをもたらして、一定の成果があったと私は考えているのですが、最大のアベノミクスの誤りは企業から家計への波及がトリックルダウンとして実現する可能性を課題に評価した点だと私は考えています。円安から輸出増、そして企業業績は回復したかもしれませんが、家計への恩恵はまったくないに等しい程度でした。これからは、その志向を逆にして家計の所得を増加させ、消費をはじめとする内需を拡大し、それが企業業績につながる、という真逆のルートを経済政策で模索すべきタイミングだと私は考えています。

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最後に、本日、内閣府から8月の景気ウォッチャーが、また、財務省から7月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.5ポイント上昇の49.0となった一方で、先行き判断DIも+2.0ポイント上昇の50.3を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆1930億円の黒字を計上しています。

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2024年9月 8日 (日)

今夏の論文の推計を終える

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大学に再就職してから、夏休みに1本だけ書く論文、今年のタイトルは "Estimating Output Gap in Japan: A Latent Variable Approach" と考えていますが、その論文のメインをなす推計を終えました。上の通りです。
何をやっているかというと、インフレ率とGDPの観測されたデータを基に、オークン係数やフィリップス曲線などを組み合わせて、産出ギャップ=GDPギャップを推計しようとするものです。産出ギャップは統計として把握できず観測不能とはいうものの、我が国でも内閣府や日銀などの権威ある機関が計算して四半期ごとに明らかにしていますので、たぶん、そんなデータを私が推計しても誰も有り難くも何ともないのでしょうが、まあ、そこは学術論文です。実用的であることはそれほど求められません。
ということで、先週金曜日までにデータを集めてプログラムを組んで推計した結果が上の通りです。内閣府の推計による試算結果と並べてプロットしています。リーマン・ショックの際やコロナ禍の府のGDPギャップの負の底など、少なくともタイミングとしてはいいセンで推計できているのですが、正負どちらも動きがやや大げさです。産出ギャップなんて、せいぜいが±5%であって、私の推計結果のように2ケタを超えるのはやや怪しいと感じます。イタラティブに最尤法で解いていますので、もう少し初期値を変えたりして推計し直すこともできなくはありません。あるいは、いろいろといいわけして正面突破を図るか、明日から考えます。このまま推計し直さないとすれば、今週中には論文として完成できると思います。

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2024年9月 7日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして小説なしで計5冊

今週の読書感想文は以下の通り経済書をはじめとして5冊です。小説はありません。
今年の新刊書読書は1~8月に215冊を読んでレビューし、9月に入って本日5冊をポストし、合わせて220冊となります。Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。また、池井戸潤『不祥事』(講談社文庫)と『花咲舞が黙ってない』(中公文庫)を読みました。すでに、mixiとFacebookでシェアしています。

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まず、ギャレット・ジョーンズ『移民は世界をどう変えてきたか』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、米国ジョージ・メイソン大学の研究者です。英語の原題は The Culture Transplant であり、2023年の出版です。サブタイトルは「文化移植の経済学」となっています。将来に向かっての労働力不足を解消するための移民の導入に対して、私は大いに懐疑的であり、少なくとも日本の地理的な条件として世界でも有数の人口大国を隣国に持っていることから、ハードルの低い移民受け入れは国家としてのアイデンティティの崩壊につながりかねない、と感じています。本書は、この私の問題意識と共通する部分があり、少なくtも、多くの左派リベラルのエコノミストように移民をア・プリオリに認めて、多様性や包摂性=インクルージョンを求める論調ではありません。いくつか論点がありますが、まず、本書では移民が受入国に同化するかどうかについては懐疑的です。むしろ、経済面では移民受入れ国の地理よりも移民そのものの民族性の方がより大きな影響力を持つと指摘しています。世界経済を考える場合、よく「グローバルサウス」ということをいい、その昔は南北問題を話題にしていましたが、そういった地理的な条件ではなく民族性のほうが経済発展に対して大きな影響力を持つ、という議論です。経済的繁栄の要因として、設備投資率、貿易開放の年数、儒教的背景を持つ人口比率の3点を本書では冒頭に上げています(p.5)。そして、投資に対しては貯蓄の裏付けが必要なのですが、移民の民族性として「倹約」の傾向は明らかに移民により輸入される、との分析結果を示しています。その上で、国家史=S、農業史=A、技術史=Tの頭文字を取ったSATスコアにより経済的繁栄=1人当たり所得が決まる、との結論です。少なくとも、このうちの技術を考える場合、場所を基準とした尺度よりも人を基準とする方が説得力あるのは当然です。また、移民については多様性が持ち出されますが、本書ではこれもやや懐疑的です。すなわち、経済学、というか、生産に関してはスキルの多様性が分業の深化において有利に働くとしても、経営的あるいは文化的には多様性は決してプラスにならない、と指摘しています。また、エリート集団に所属していれば多様性は受け入れやすいが、そうでなければ多様性の必要性はそれほど感じない、との分析結果も示しています。東アジアの経済的成功例である日本や韓国を観察すれば、多様性に関する認識は変わる、とも述べています。米国や欧州における右派ナショナリスト・ポピュリストの主張などを考え合わせると、よく理解できそうですし、決してポピュリストではない私もかなりの程度に合意します。最後に、東南アジア、タイ、マレーシア、インドネシア、それにシンガポールの例を見て、「家人ディアスポラを拡大すること」(p.197)が経済的繁栄につながる、と結論しています。はい、数百年の世界の経済史を考えれば、結論としては間違っていない可能性のほうが高い、と私は受け止めています。ただ、最後の最後に、経済的な凋落の崖っぷちに立っている日本のエコノミストとして、やや自嘲的ながら経済的な繁栄がすべてなのか、という疑問は残ります。

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次に、西野倫世『現代アメリカにみる「教師の効果」測定』(学文社)を読みました。著者は、神戸大学の研究者です。本書の観点は、教師の効果=teacher effectiveness、すなわち、教師が教育においてどのくらいの重要性を持っているか、というテーマであり、本書でも取り上げている米国スタンフォード大学のハヌシェク教授やハーバード大学のヘックマン教授などのように、米国ではエコノミストが分析しているテーマだと私は考えています。ですから、私が勤務校の大学院の経済政策の授業を担当していた時には、『フィナンシャル・レビュー』2019年第6号で特集されていた教育政策の実証研究の論文を読ませたりしていました。ほかにも、例えば、小塩隆士ほか「教育の生産関数の推計」といった経済学的な研究成果もあり、ここでは首都圏や関西圏の中高一貫の進学校、まあ、開成高校や灘高校などが思い浮かびますが、そういった進学校では、身も蓋もなく、トップ大学の入学試験合格という成果は学校の成果ではなく、その学校に入学する生徒たちの平均的な学力によって決定される、という結論を示しています。有り体にいえば、賢い子が入学して、特に学校で強烈な学力の伸びを見せるわけでもなく、そのまま、東大や京大に進学する、というわけです。同じ考えがその昔は米国にもあって、1970年代初頭くらいまで、学業成績を決定するのは、家庭環境=family backgroundと学友の影響=peer effectsが大きく、学校資源=schoolinputsの影響はほぼないか、あってもごくわずか、という研究成果が主流でした。しかし、こういった見方は学力の計測について進歩が見られ、データがそろうにつれて否定されます。すなわち、学力の測定は4つの方法があり、素点型=status models、群間変化型=cohort-to-cohort models、成長度型=growth models、伸長度型=value-added modelsがあり、まさに、開成高校や灘高校ではありませんが、賢い子が入学して賢いまま難関校に合格する、という素点型に基づく評価ではなく、伸長度型の評価に移行しています。要するに、学校において教師がどれだけ生徒の学力を伸ばせたか、を評価するわけです。その上で、米国ではそれを教師自身の人事評価に直結させるシステムに発展しています。どうでもいいことながら、"value-added"は経済学では「付加価値」という訳語を当てていますが、教育学では「伸長度」なのかもしれません。こういった考えが普及する前には、教師の効果の計測は生徒の学力伸長度ではなく、経験年数や学位、すなわち、修士学位を持っているかどうか、などで計測されていました。ただ、私は少し疑問を持っていて、単純に教育といってもいくつかの段階があり、初等教育、特に義務教育レベルでは到達度、素点型が重要なのではないか、という気がしています。読み書き計算という生活上や就業する際の基礎を十分に身につけることが充填とすべきです。その上で、中等教育については高等教育への進学を目指すのであれば、それ相応の学力伸長が必要ですので、本書で指摘しているような伸長度モデルに基づく教師の評価が効果的である可能性が高まります。そして、最終的な高等教育においては、また別の評価の尺度があり得るような気がします。ただ、私の方でも指摘しておきたいのは、本書でも指摘しているように、何が、あるいは、どういった要因が高い伸長度をもたらしたのか、という点の分析はまったく出来ていません。当たり前です。どういった教育方法が高い伸長度をもたらすのか、という点が解明されていれば、行政の方でマニュアルめいたものを作成・配布して、多くの教師がベスト・プラクティスを実践できますが、まったくそうはなっていません。ですから、「教師の効果」は測定という前半部分は実践され始めている一方で、その分析結果を教育現場にフィードバックする後半部分はまったく手つかずで放置されています。この部分を解明する努力がこれから必要となりますが、前半部分は経済学の知見が大いに活用できますが、後半部分はまさに教育学の正念場と考えるべきです。最後の最後に、日本における「全国学力・学習状況調査」、いわゆる学力テストは現状では計測対象が極めて不明確であり、何を計測しようとしているのかが不明と私は考えています。加えて、繰り返しになりますが、教育現場における実践も進んでいないのですから、本書で展開されているような教師の評価に用いるのであれば、かなり慎重な扱いが必要と考えますので、付け加えておきたいと思います。

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次に、モーガン・フィリップス『大適応の始めかた』(みすず書房)を読みました。著者は、気候危機対策のために活動する英国の環境慈善団体の役員です。本書執筆時にはグレイシャー・トラストに所属していて、この団体は本書でも何度か登場します。英語の原題は The Great Adaptations であり、2021年の出版です。ということで、本書の適応の対象は、当然ながら、気候変動です。本書では「気候崩壊」という用語も使われています。さまざま機会に言及される産業革命から+1.5℃目標とか、あるいは少し緩めに+2.0℃目標とかの目標はかなり怪しくなってきた、と考える人は少なくないと思います。また、今年の『エネルギー白書2024』第1部第3章では、2050年のカーボン・ニュートラルに関して「温室効果ガスの削減が着実に進んでいる状況(オントラック)」(p.60)との分析結果を示していますが、たとえ2050年カーボン・ニュートラルが達成可能だとしても、それは+1.5℃目標が達成可能だという意味であって、実は、現状で昨年だと思うのですが、すでに+1.3℃の上昇を記録しています。現時点での+1.3℃の上昇でも、これだけの異常な猛暑や台風被害などが発生しているわけです。ですから、ここからさらに+0.2℃上昇して+1.5℃目標が達成されたとしても、現時点での異常気象よりさらに気象が異常度を増すことは明らかです。加えて、炭素回収・貯留(CCS)については、実用化されるとしても、メチャメチャ大きなキャパを必要とすると試算しています。ですから、本書では2012年10月のハリケーン・サンディの後のニューヨークスタテン島では、再建を諦めて州政府に土地を買い上げてもらって撤退=retreatの選択肢を選ぶ住民が少なくなかった事実から始めています。どうでもいいことながら、原因は気候変動ではありませんが、我が国のお正月の能登半島地震でも、政府は撤退を促して放置しているのか、という見方もあるかもしれません。まあ、違うと思います。世界における気候変動に対する適応例、あるいは、適応アイデアを本書ではいくつか上げています。モロッコの霧収集、ネパールのアグロ・フォレストリーなどで、詳しくは読んでいただくしかありませんが、アイデアとしては、海面上昇への対応として英国東岸からバルト海を守るため、英国スコットランド北東端とノルウェイ西岸の間、さらに、英国イングランド南西端のコーンウォールからフランス北西端ノブルターニュの2基にダムを建設する、というNEED計画があるそうです。途方もないプランのような気もしますが、技術的にも予算的にも可能で、海面上昇による沿岸部からの撤退よりも安いと主張しています。真偽の程は私にはまったく想像もつきません。ただ、他方で誤適応の可能性も排除できません。本書では、海面上昇に対してコンクリート堤防よりも砂丘の方が効果的である可能性を指摘していますが、行政にも一般国民にもなかなか理解が進まないのではないか、と私は恐れています。本書でも指摘していますが、経済的な誤適応を防止する方策のひとつとして、経済社会の不平等の軽減を促す必要は特筆すべきと考えるべきです。加えて、自然界ですでに適応が始まっている可能性についても本書では指摘しています。自然界の適応には3種類あって、種の移動、種の小型化、生物気候学の変化を上げています。最初の2つは理解しやすい一方で、最後の生物気候学の変化とは、開花や巣作りの時期の変更などの生物学的事象のタイミングの変化を指します。人類はホモ・サピエンスとしてアフリカに発生してから移動を繰り返しているわけで、大移動もひとつの選択肢ということになります。そういった対応をするとしても、現在の文明が生き残れるかどうか、私には何とも予測できません。気候変動対策に失敗し、さらに本書でいう適応にも失敗すると、現在の文明社会が崩壊する可能性が決して無視できません。

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次に、赤川学[編]『猫社会学、はじめます』(筑摩書房)を読みました。編者は、東京大学の社会学研究者です。本書で指摘されているように、2017年のペットフード協会による「全国犬猫飼育実態調査」において飼育頭数ベースで猫が犬を上回りました。2023年調査では、犬が6,844千頭、猫が9,069千頭と差が広がっています。そして、編者や各章の著者は、いうまでもなく、大の猫好きだったりします。ペットロスの体験談も含まれていたりします。まず、猫が犬よりもペットとして飼われる頭数が多くなったのは、当然ながら、お手軽だからです。大きさとしては、犬種は色々あるものの、大雑把に犬よりも猫の方が小さく、それだけに餌代なども負担が小さそうな気がします。猫は犬と違って散歩に連れ出す必要はありませんし、狂犬病の予防接種も不要です。日本ではもう狂犬病というのはほとんど身近なイメージがなくなりましたが、アジアではまだまだ撲滅されたわけではありません。我が家は20年以上も前に子供たちが幼稚園に入るかどうかというタイミングでインドネシアの首都ジャカルタに3年間住んでいましたが、ご当地ではまだ狂犬病は残っており、狂犬病というのは噛まれたら直ちにワクチン接種しないと、病気を発症してからでは致死率100%ですから、とてもリスクの高い病気です。我が家はノホホンとしていましたが、一戸建ての社宅住まいのご家族なんかでは狂犬病のワクチンがどの病院で接種できるか、なんてリストを冷蔵庫に貼っている知り合いがいたりしました。それはともかく、そのうえ、本書で示されているように、犬と猫では出会い方も大きく異なります。犬の場合はペットショップでの購入が50%を超えるのに対して、猫は20%には達せず、野良猫を拾った32%や友人/知人からもらった26%の方が多かったりします。何といっても、猫の魅力は決して人に媚びることなく、一定の距離をおいて人に接する孤高の存在せある点だと私は考えています。加えて、本書でも指摘しているように、姿形が美しい、というか、可愛いのも大きな魅力です。本書ではこういった猫の魅力に加えて、さらに、社会学的な分析も提供しています。すなわち、猫カフェ、猫島、また、マンガの「サザエさん」における猫の役割、などなどです。最後に、私も京都の親元に住んでいたころ、およそものごころついたころから、大学を卒業して東京に働きに出るまで、ほぼほぼ常に猫が我が家にいました。ですから、私は猫のノミ取りが出来たりするのですが、今は外には出さない家飼いでノミなんかいないし、また、特に雌猫の場合は去勢されているケースも少なくありません。私は猫については野生というわけではないものの、自由に振る舞うことが大きな魅力のひとつになっているので、こういった家飼いで外に出さない、あるいは、生殖能力を処理するのが、ホントに猫のためになっているのかどうかについては、やや疑問に感じています。我が国の住宅事情をはじめとする猫の飼育事情を考えると、こういった飼い方も十分考えられるのですが、私には何が猫のためなのかよく判りません。ミルは『自由論』でトピアリーとして刈り込まれた庭木についてとても否定的な見方を示していますが、猫を外に出さずに家飼いする現在の飼い方については、それと同じような見方をする人もいそうな気がします。

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次に、石川九楊『ひらがなの世界』(岩波新書)を読みました。著者は、私よりも一回りくらい年長なのですが、京都大学OBという意味で先輩であり、もちろん、書家としても有名です。ただ、私はこの著者の書道作品、本書各章の扉にいくつか示されているような著者の書道作品については、それほど好きではありません。というのも、私が学んだ先生によれば書道作品は字として読めなければならない、というのが持論でした。例えば、「大」と「犬」と「太」は天のあるなし、あるいは、どこに点を打つかで字としては異なる字を表します。その違いが読み取れなければ書道作品ではない、という主張でした。でも、私は悲しくもそれほど上達せず、基本、楷書ばかりを練習して、行書を少しやっただけでした。草書やかなに手が届くまでの力量はまったくありません。ということで、本書ではひらがな=女手の世界を解説しています。万葉文字から始まって、ひらがなが成立・普及し、1字1字独立して書く楷書と違って、ひらがなは続けて書く連綿という手法が主になります。そして、本書で指摘されているように、一般にはそれほど知られていませんが、掛詞の前に掛筆や掛字があり、字が抜けていたりします。ですので、ひらがなについては書く前にまず読む訓練をする場合も少なくありません。私は、200ページあまりのこれくらいのボリュームの新書であれば、それほど時間をかけずに読み飛ばすことも少なくないのですが、本書の第2章からはとても時間をかけました。悲しくも、書くことはおろか、ひらがなを読む訓練すら受けておらず、著者のご指摘通りにひらがなを読むことから始めましたので、そのために普段と違ってとても時間をかけた読書になりました。逆に、ひらがなをはじめとする図版をとてもたくさん収録しており、それを著者の解説とともに鑑賞するだけでも、私のような人間は幸福を感じたりします。ボリューム、というか、ページ数から考えても、本書の場合は第2章がメインと考えるべきです。そして、その第2章以降の第3章と第4章の歴史的なひらがな作品を鑑賞できるのは、本書の大きなオススメのポイントといえます。書道、特に、ひらがなに興味ある多くの方にオススメします。

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2024年9月 6日 (金)

8月米国雇用統計に見る米国労働市場の過熱感は払拭されたか?

日本時間の今夜、米国労働省から8月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、6月統計では+179千人増、7月統計では+89千人増、直近の8月統計では+142千人増となり、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して4.2%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を、中見出しを除いて、やや長めに7パラ引用すると以下の通りです。

August jobs report: Economy added disappointing 142,000 jobs as unemployment fell to 4.2%
U.S. employers added a disappointing 142,000 jobs in August as hiring bounced back only partly after temporary hurdles curtailed payroll gains the previous month and sparked recession fears.
And employment gains for June and July were revised down sharply, portraying an even weaker picture of the labor market in early summer. The report, along with the downward revisions, may prompt the Federal Reserve to lower its key interest rate more sharply at a meeting later this month, some economists said.
The unemployment rate, which is calculated from a separate survey of households, fell from 4.3% to 4.2%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg previously estimated 163,000 jobs were added last month.
Payroll gains were revised from 179,000 to 118,000 in June and from 114,000 to 89,000 in July, underscoring that the labor market may be cooling more rapidly than economists anticipated.
Average hourly pay rose 14 cents to $35.21, pushing up the yearly increase from 3.6% to 3.8%.
Wage growth generally has slowed as pandemic-related worker shortages have eased. Economists have said yearly pay increases need to drop to 3.5% to align with the Federal Reserve’s 2% inflation goal.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を大きく下回って、8月統計では+142千人を記録しています。引用した記事の4パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+163千人という見方でした。ですので、記事のタイトルにも "disappointing" 「失望」と表現しています。なお、引用した記事の5パラ目にあるように、6-7月統計も先月の公表時から下方修正されています。すなわち、6月統計は+179千人増が+118千人増に、7月統計は+114千人増が+89千人増に、それぞれ修正されています。他方、失業率は▲0.1%ポイント低下して4.2%に達しました。レイオフされていた雇用者が8月には職場に戻るといわれていましたので、この失業率の低下は予想通りと受け止められているようです。ですので、失業率が低下したからといって、米国労働市場の過熱感はほぼ払拭されたといえます。逆に、先行き一気に冷え込むリスクを表明するエコノミストもいたりしますので、そのあたりの経済政策の舵取りが微妙な局面に差しかかった気がします。
米国連邦準備制度理事会(FED)のパウエル議長は、先月8月23日のジャクソンホール会合における発言で "The time has come for policy to adjust. The direction of travel is clear, and the timing and pace of rate cuts will depend on incoming data, the evolving outlook, and the balance of risks." と明確に次の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを示唆しました。日米ともに株式市場の動向が荒っぽくなっている中で、今年2024年年内から来年2025年年初くらいまでは、米国FEDは利下げ、日銀は利上げの方向が模索されることになります。日本がデフレに逆戻りしないよう、私に出来ることは祈ることだけです。

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上昇を示す7月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から7月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+0.4ポイント上昇の109.5を示し、CI一致指数も+3.0ポイント上昇の117.1を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。

7月の景気動向指数、2カ月ぶり上昇 基調判断は維持
内閣府が6日発表した7月の景気動向指数(CI、2020年=100)は足元の経済状況を示す一致指数が前月比で3.0ポイント上昇の117.1だった。上昇は2カ月ぶり。基調判断は「下げ止まりを示している」と据え置いた。
一致指数を構成する10項目のうち、耐久消費財出荷指数や投資財出荷指数などが上昇した。耐久消費財ではエアコンが、投資財では半導体製造装置やレーダー装置の出荷が目立った。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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7月統計のCI一致指数は2か月ぶりの上昇となりました。加えて、3か月後方移動平均の前月差も2か月ぶりに+0.56ポイント上昇し、7か月後方移動平均の前月差も2か月ぶりに+0.56ポイント上昇しています。3か月後方移動平均は3か月ぶり、7か月後方移動平均の2か月振りに+0.18の上昇となりました。統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で先月から据え置いています。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、やや楽観的な見方かもしれませんが、最近の株式市場の動きは、逆に、米国が景気後退に陥る可能性が大きくなったので、日本株も落ち気味となっている、ということができようかと思います。加えて、景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが待ち望んで、日銀の金融引締めから急速に進んだ円高の経済へ影響も考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.84ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が+0.80ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が+0.66ポイント、生産指数(鉱工業)が+0.50ポイント、といった鉱工業生産・出荷に関係する系列が大きなプラスの寄与を示しています。

昨日取り上げた毎月勤労統計に見られる賃金や、私はそれほど重視していませんが、本日公表された家計調査など、今春闘の成果に従って賃金や消費に関して少しずつながら改善が見られるようになっています。米国経済だけではなく、内需についても景気後退の回避に貢献している点は新たに付け加わった注目点であろうと思います。

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2024年9月 5日 (木)

毎月勤労統計に見る賃金の伸びやいかに?

本日、厚生労働省から7月の毎月勤労統計が公表されています。従来からのサンプル・バイアスとともに、調査上の不手際もあって、統計としては大いに信頼性を損ね、このブログでも長らくパスしていたんですが、先月から久しぶりに取り上げています。統計のヘッドラインとなる名目の現金給与総額は季節調整していない原数値の前年同月比で▲3.2%減の54万6607円となっており、景気に敏感な所定外労働時間は季節調整済みの系列で前月から+2.5%増となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

7月実質賃金0.4%増、2カ月連続プラス 夏ボーナス伸び
厚生労働省が5日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月から0.4%増加した。プラスは2カ月連続。夏の賞与など「特別に支払われた給与」の伸び率が大きかったことが寄与した。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は3.6%増の40万3490円と、2年7カ月連続で増加した。伸び率は7月の消費者物価の上昇率(3.2%、持ち家の家賃相当分を除く総合指数)を上回った。現金給与総額のうち特別に支払われた給与は6.2%多い11万8807円だった。
厚労省によると、6月から7月にかけて夏季賞与を支払う企業が増えた可能性があるという。賞与は6月に支給する企業が多く、7月の実質賃金のプラス幅は前月から0.7ポイント縮小した。
現金給与総額の内訳では、基本給を中心とする「所定内給与」が前年同月比2.7%増の26万5093円となった。ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率が平均5%を超えた24年の春季労使交渉(春闘)の結果が反映されて伸び率は31年8カ月ぶりの大きさとなった。
所定内給与に残業代や休日手当などを加えた「きまって支給する給与」は2.5%増の28万4683円だった。8月以降は名目賃金に占める賞与の割合が小さくなる。厚労省の担当者は「このまま物価高が落ち着かなければ、実質賃金のプラスを維持することは難しい」(雇用・賃金福祉統計室)とみる。
働き方ごとにみた現金給与総額は、正社員を中心とするフルタイム労働者が3.6%増の52万9266円、パートタイム労働者は3.9%増の11万4729円。パートタイム労働者の時給換算した所定内給与は1337円と3.6%増え、実質賃金は0.7%伸びた。

物価とともに賃金は注目の指標ですので、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。上のパネルは現金給与指数と実質賃金指数のそれぞれの前年同月比、下は景気に敏感な所定外労働時間指数の季節調整済みの系列、をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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毎月勤労統計については、広く報じられた通り、不正事案として統計の信頼性に疑問を生じたことから、しばらく私の方では放置して注目の対象から外していましたが、昨年2023年春闘に続いて、今年2024年も大幅な賃上げがあったと考えられることから、賃金や労働時間に着目した毎月勤労統計を再び取り上げることにしました。なお、統計不正の最終的な報告については統計委員会から「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書」などが出ています。
ということで、春闘の結果などを受けて、現金給与総額は季節調整していない原系列の前年同月比で4月+1.6%増、5月+2.0%増から、6月+4.5%増、7月+3.6%増と跳ね上がっています。ただし、6-7月現金給与指数の大きな上昇には好業績を背景としたボーナス分が寄与しており、8月以降も賃金の大きな上昇が続く可能性は小さいと考えるべきです。ですので、決まって支給する給与ベースで見ると、4月+1.6%増、5月+2.0%増、6月+2.1%増、7月+2.5%増となります。足元で6~7月の消費者物価指数(CPI)上昇率が+3%を超えていることを考えれば、これには到底及びません。ですので、引用した記事の最後から2番目のパラでは「実質賃金のプラスを維持することは難しい」という厚生労働省のコメントが示されていますが、私もこの見方に賛成です。ただ、ボーナスを含めると、長らく前年同月比マイナスだった実質賃金の上昇率は6月+1.1%増、7月+0.4%増を記録しています。最後に、所定外労働時間指数、すなわち、残業についてもジワジワと減少を示しています。景気拡大局面が後半に入っていることを実感するグラフかもしれません。

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2024年9月 4日 (水)

来週公表予定の4-6月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

今週月曜日の法人企業統計をはじめとして必要な統計がほぼ出そろって、来週9月9日に、4~6月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である4~6月期ではなく、足元の7~9月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.8%
(+3.1%)
n.a.
日本総研+0.8%
(+3.1%)
今般の法人企業統計などを織り込んで改定される4~6月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資がわずかに上方改定、公共投資が下方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率+3.1%(前期比+0.8%)と、1次QE(前期比年率+3.1%、前期比+0.8%)からほぼ変わらないものと予想。
大和総研+0.9%
(+3.8%)
内需の前期比寄与度は1.0%ptと1次速報(+0.9%pt)から上方修正されると予想する。2次速報では、自動車生産の回復や令和6年能登半島地震の影響が落ち着いたことなどにより、個人消費や設備投資、輸出などが持ち直した姿が改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.9%
(+3.8%)
高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ることで、基調としても内需は回復に向かっているとみてよいだろう(なお、6月にも一部自動車メーカーで認証不正問題が発生したが、1~3月期の自動車減産に比べると生産・GDPへの影響は大きくないと考えられる)。7~9月期も、海外経済減速が外需の重石になるほか、台風が生産活動を下押しすることが見込まれるものの、個人消費や設備投資を中心に日本経済は回復基調が続く見通しであり、現時点で年率+1%程度のプラス成長を予測している。
ニッセイ基礎研+0.8%
(+3.2%)
24年4-6月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.8%(前期比年率3.2%)になると予想する。1次速報の前期比0.8%(前期比年率3.1%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研+0.8%
(+3.2%)
先行きについては緩やかな持ち直しを予想している。24年前半の景気は均してみれば横ばい圏内の動きとなったが、24年後半以降は景気を取り巻く環境が改善に向かう。これまで賃金の伸びが物価に追い付かず、実質賃金の減少が続いていたことが個人消費の抑制要因になっていたが、足元では状況に変化がみられつつある。好調な企業収益を背景とした賞与の増加に加え、春闘での大幅賃上げが給与に反映されていくことで、賃金上昇率はこの先、基調として高まる可能性が高い。実質賃金は振れを伴いつつも増加基調で推移することが見込まれる。また、製造業部門の下押しが弱まることや、底堅い企業収益を背景として設備投資も増加する可能性が高い。これまで足を引っ張ってきた内需に持ち直しの動きが出ることで、景気は緩やかに改善するだろう。
もっとも、物価上昇による実質購買力の抑制が消費の頭を押さえる状況は残る。実質賃金はプラス圏で推移するものの、物価の高止まりが続くことの影響で増加幅は抑制される。また、消費者マインドの停滞が続いていることや、これまで貯蓄を抑制しながら消費水準を維持してきたことの反動もあり、実質賃金の増加や減税分の多くは貯蓄に回るだろう。10-12月期以降には定額減税による一時的な押し上げ分の剥落が生じることもあり、消費の持ち直し度合いは限定的なものにとどまる可能性が高い。また、外需についても、米国経済の減速が予想されるなか、緩やかな増加にとどまる公算が大きい。24年後半以降に景気は改善するが、強い牽引役に欠けるなか、加速感が出るには至らないとみている。
伊藤忠総研+0.6%
(+2.6%)
7~9月期以降、日本経済が回復に向かうかどうかの大きなカギを握るのは、企業業績とその家計部門への波及であろう。結論から言えば、企業業績の改善が人件費に波及する動きは継続しており、景気回復に向けた好循環は確認できたものの、回復に至らせるには不十分であった。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.8%
(+3.2%)
2024年4~6月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.8%(前期比年率換算+3.2%)と、1次速報値の前期比+0.8%(年率換算+3.1%)から大きな修正はない見込みである。このため、「景気は足踏み状態を脱し、緩やかな持ち直しに転じた」との景気判断を修正する必要はないと考えている。
三菱総研+0.8%
(+3.3%)
2024年4-6月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.8%(年率+3.3%)と、1次速報値(同+0.8%(年率+3.1%))から小幅上方修正を予測する。
明治安田総研+0.8%
(+3.3%)
先行きについては、所定内給与ベースの実質賃金が秋口にプラスに転じると見込まれることなどから、個人消費は回復傾向で推移すると予想する。設備投資は、デジタル化の加速を受けた半導体関連投資がけん引役となることで堅調な推移が期待できる。輸出に関しては、中国景気の停滞が継続するほか、欧米景気の減速で財輸出は低迷が予想されるが、インバウンド需要は引き続き下支え要因になるとみられ、2024年度の日本景気は回復基調が続くとみる。

多くのシンクタンクのリポートで指摘されているように、法人企業統計の結果に従って設備投資がわずかに上方改定されるものの大きな変更はない、と予想されています。また、先行きの日本経済についても、シンクタンクの間で大きな違いはなく、緩やかな回復が継続すると見込まれています。ここは私は必ずしもそこまで楽観的にはなれません。リスクは少し前までインフレの再燃という可能性があったのですが、私はもう物価上昇が大きく再加速することはないように感じています。その大きな要因は金融引締めです。円高の是正に成功したかどうかは別にして、明らかに物価に対する抑制効果は出た気がします。逆に、金融引締めによるオーバーキルのリスクすらあるように私は感じています。はい、先行きは下振れリスクがメインとなると私は考えています。
最後に、下のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

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