2019年12月15日 (日)

来年2020年半ばくらいまでの短期経済見通しやいかに?

先週12月9日に内閣府から公表された本年7~9月期GDP統計速報2次QEを受けて、シンクタンクや金融機関などから来年度2020年度末くらいまでの短期経済見通しがボチボチと明らかにされています。四半期ベースの詳細計数まで利用可能な見通しについて、2020年暦年上半期の東京オリンピック前くらいまで取りまとめると以下の通りです。なお、下のテーブルの経済見通しについて詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。計数の転記については慎重を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、各機関のリポートでご確認ください。なお、"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名2019/7-92019/10-122020/1-32020/4-6FY2019
actualforecast
日本経済研究センター+0.4
(+1.8)
▲1.5+0.2+0.5+0.6
日本総研(▲3.7)(+0.9)(+2.3)+0.9
大和総研(▲3.8)(+1.1)(+1.2)+0.9
みずほ総研▲1.2
(▲4.8)
+0.4
(+1.4)
+0.3
(+1.4)
+0.8
ニッセイ基礎研▲1.0
(▲4.0)
+0.1
(+0.4)
+0.5
(+1.8)
+0.8
第一生命経済研▲1.0
(▲3.9)
+0.2
(+0.7)
+0.2
(+0.7)
+0.8
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.9
(▲3.6)
+0.5
(+2.2)
+0.3
(+1.1)
+1.0
SMBC日興証券▲1.1
(▲4.1)
+0.4
(+1.8)
+0.5
(+2.2)
+0.9
農林中金総研▲0.5
(▲2.0)
▲0.3
(▲1.2)
+0.2
(+1.0)
+1.0
東レ経営研▲1.1+0.2+0.3+0.8

一番右の列の2019年度成長率は前年度比そのままですが、四半期成長率については上段のカッコなしの数字が季節調整済み系列の前期比で、下段のカッコ付きの数字が前期比年率となっています。2019年7~9月期までは昨日内閣府から公表された2次QEに基づく実績値、10~12月期からは見通しであり、すべてパーセント表記を省略しています。なお、日本経済研究センターのリポートでは前期比しか出されておらず、逆に、日本総研と大和総研では前期比年率の成長率のみ利用可能でしたので、不明の計数は省略しています。ということで、見れば明らかなんですが、10月の消費税率の引上げの後の動向については、足元の10~12月期はすべての機関でマイナス成長を見込んでいます。
もうひとつの観点は、消費税率引き上げのショックがどの程度長引くかで、多くの機関はマイナス成長は10~12月期の1四半期だけで、来年2020年1~3月期にはプラス成長に回帰すると見込んでいます。この点の少数意見は農林中金総研であり、2020年1~3月期までマイナス成長が2四半期連続で継続すると見込んでいます。ただ、上のテーブルを見ても明らかな通り、2四半期連続のマイナス成長とはいえ、他のシンクタンクが1四半期に大きなマイナス成長で調整速度速く回復に向かうと見ているところ、農林中金総研だけは他のシンクタンクと比較して小幅のマイナス成長が2四半期続く、と見ているように私は解釈しています。調整続度の違いだけなのかもしれませんし、加えて、農林中金総研のリポートでも2020年4~6月期にはプラス成長に回帰すると予測しています。ただし、もしも、農林中金総研の見通しが正しければ、世間では2四半期連続のマイナス成長でテクニカルな景気後退局面入りのシグナルと受け取る可能性がないでもありませんし、マインドに悪影響を及ぼす可能性は否定できませんが、まあ、2020年に入れば、東京オリンピック・パラリンピックの経済効果などもあって、それほど長くマイナス成長は続かないとの見方が多いように私は受け止めています。
なお、私の想像の限りで、三菱総研は年度ベースの短期経済見通しをひとまず出し、その後、四半期ベースの計数を調えるんだろうと思わないでもないんですが、上のテーブルには収録できませんでした。よほど、突飛なものが出ない限り、上のテーブルをアップデートしたり、引き続き短期見通しをフォローするつもりはありません。悪しからず。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研のサイトから引用しています。

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2019年今年の漢字は令和の「令」!

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先週木曜日の12月12日、日本漢字能力検定協会から今年の漢字は令和の「令」と明らかにされました。まあ、そうなんでしょうね。それだけでした。

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1週間遅れで上の倅の誕生日を祝う!!!

誠に遺憾千万で不覚の限りだったんですが、先週日曜日12月8日は上の倅の誕生日でした。大学を卒業し就職して独身寮に入り、手元から離れてしまったものですから、すっかり忘れてしまっていました。8月の下の倅の誕生日も忘れていましたし、そのうちに、自分の誕生日も忘れるのかもしれません。老いの恐ろしさを感じます。
1週間遅れながら、いつものくす玉を置いて、誕生日を祝っておきたいと思います。

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2019年12月14日 (土)

今週の読書は経済書と歴史書を計7冊!!!

今週の読書は、経済書と歴史書、その中間の経済史の本など、以下の通りの計7冊です。今週の読書のうちでは、特に、中身はともかく、『ナチス破壊の経済』がとてもボリューム豊かでした。私は経済史が大学時代の専門でしたので、それなりにていねいに読んだつもりですが、読書に時間をかける人の場合、上下巻2冊で1週間では読み切れない可能性もあります。

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まず、小林大州介『スマートフォンは誰を豊かにしたのか』(現代書館) です。著者は、北海道大学の研究者であり、シュンペーターの学説史がご専門で、本書の副題も「シュンペーター『経済発展の理論』を読み直す」となっていて、実は、スマートフォンを題材にしたシュンペーター的なイノベーションの解説となっています。そして、タイトルの問いに対する回答は本書の最後にあって、あまりにもありきたりですが、関係者すべてを豊かにした、と結論されています。私は少し前にシュンペーターの『経済発展の理論』を読んだ記憶がありますが、本書でも指摘しているように、極めて難解です。もちろん、私も読解力の問題もあるんでしょうが、何がいいたいのか、半分も理解できなかった気がしますので、こういった入門書は必要かもしれません。ということで、シュンペーター的なイノベーションは、基本的に経済動学的に理解されるべきと私は考えているんですが、企業経営においても極めて重視されていることは広く知られている通りです。ですから、私がイノベーションを経済動学的に理解するというのは、逆に、企業経営を知らない公務員を長らく経験してきたなのかもしれない、と考えないでもありません。シュンペーターは、本書でも指摘するように、イノベーションに基づく開発者の独占的な利益を容認し、企業家がその利潤を目指してイノベーションを競い合う経済社会を想定していたんだろうと私は考えていますが、もちろん、テクノロジー的なイノベーションだけでなく経営管理や経営プロパーのイノベーションもある一方で、テクノロジー的なイノベーションが枯渇しつつあるんではないか、特に、1970年代を境にして低いところにあって入手しやすい果実は取り尽くしたんではないか、という考えがいわゆる長期停滞論のひとつの根拠になっていることも事実です。そして、本書の第4章でも注目されているように、スマートフォンが格差拡大につながるかどうか、あるいは、イノベーション一般が格差にどのような影響を及ぼすかも現在の経済社会を考えれば、ひとつの焦点となる可能性もあります。本書でも、シュンペーターはケインズとともに、マルクスとも対比されており、イノベーションが格差拡大や経済社会の不安定性につながりかねない恐れも指摘しています。末期のシュンペーターは、かなり確度高く資本主義から社会主義に移行する可能性を認識していたのは事実ではないでしょうか。ただ、現実にはソ連が崩壊したわけですし、マルクス主義的な理論に基づいて、発達した資本主義国である欧米や日本などが社会主義に移行する兆しすら見られないもの、さらに確たる事実です。やや異なる観点ながら、クズネッツに批判されたよいう「イノベーションの群生」についても本書では議論を回避しているように見受けられます。総合的に考えて、場合によっては高校生から大学新入生くらいに対するシュンペーター的なイノベーションの解説書としてはいいような気もしますが、ビジネスパーソン向けかどうかはやや疑問で、読者のレベルによっては少し物足りない点があるような気もします。

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次に、アダム・トゥーズ『ナチス破壊の経済』上下(みすず書房) です。著者は、英国出身で現在は米国プリンストン大学の歴史学の研究者です。本書は、副題で「1923-1945」となっているように、シュトレーゼマン政権下の1923年、すなわち、ナチスが政権に就く10年前から終戦までの四半世紀近い期間を対象としたドイツの戦時経済史となっています。すなあち、経済をナチスのヒトラー政権の中心に据えてドイツ紙を見直す、というものです。実は、私は出版社の宣伝文句にひかれて、ナチスの経済政策はケインズ政策を先取りしたものであり、アウトバーンなどのインフラ建設をはじめとした財政支出による完全雇用を達成した、とするのは誤り、といった趣旨の宣伝文句だったような気がするんですが、そこまであからさまではありません。ただ、ケインズ政策による完全雇用の達成とはかけ離れて、ドイツ国民のみならず、ユダヤ人はいうに及ばず、占領下のポーランド人やろ愛亜人などの捕虜も含めて、劣悪な労働環境の下で軍需生産に強制的に就労させ、また、英国と比較しても女性労働の徴用が大きかったり、石油の資源確保が不足していたりといったナチスの戦時経済の実態を明らかにしています。そして、結論としては、我が国戦時経済の分析でもよく見かけるので、かなりありきたりな気もしますが、短期に戦争を終結していればドイツに勝機あったかもしれないものの、長期戦となって圧倒的な工業生産力を有する米国の参戦により、経済的生産力の基礎から考えた戦争の帰趨は明らかであった、ということになります。日本の場合も同じで、本書のスコープ外でしょうが、大和魂や何のといっても、戦争遂行能力の基礎は工業力である、ということになります。逆にいえば、最近の中国製造業の興隆に至るまでの時期、例えば、1980年くらいまでは基礎的な工業生産力から考えれば、米国サイドが常に戦勝国となる、ということになります。とすれば、1960~70年代のベトナム戦争の結果はなぜなのか、という疑問も生じますが、これまた、本書のスコープを大きく外れた問いだ、ということになります。冒頭にも記しましたが、本書は読書にかなりの時間を要します。定評ある山形浩生さんの翻訳ですから訳は悪くないんでしょうが、小さい字でページ数のボリュームもあります。それなりの覚悟をもって読み始める必要あると考えた方がよさそうです。

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次に、出川光『クラウドファンディングストーリーズ』(青幻舎) です。著者は、クラウドファンディングに関するディレクターを務めているそうで、リクルートコミュニケーションズを経て、クラウドファンディングのCAMPFIREの創設期にかかわっています。クラウドファンディングとは、いわゆるシェアリング・エコノミーの5つのカテゴリーの中のひとつで、ほかのカテゴリーではAirbnbなどが代表的で民泊と称されるスペースのシェア、また、日本では事業展開できていないものの世界的にはUberが有名なライド・シェア、逆に、日本でしか見られないフリマアプリのメルカリなどのモノのシェア、そして、家事やベビーシッターなどのスキルのシェア、となります。一応、官庁エコノミストとしての私の最後の研究成果はちょうど1年前の昨年2018年12月のシェアリング・エコノミーの研究だったりしますので、それなりに詳しいところです。そして、本書でも明らかにされているように、クラウドファンディングには3種類あり、寄付型と投資型と購入型で、本書では最後の購入型のみを取り上げています。おカネを集めて、何かを作ったりイベントを開催したりして、ファンディングに応じた出資者に対して、その制作物を贈ったり、イベントに招待したり、というリターンがあるわけです。もちろん、資本主義社会ですので、出資額に応じた差がつきます。これを格差というか合理的な違いと捉えるかは、まあ、それぞれかもしれませんが、出資した金額により得られるものが違うというのは自然な気もします。本書では成功した10のケースを取り上げていますが、私の知る限り、ちゃんとしたディレクターがついて目利きの力量があれば、購入型のクラウドファンディングはかなりの程度の成功確率があるんではないか、という気がします。そして、本書では株式会社の創設のような純粋な経済活動ではなく、クラウドファンディングはストーリーを必要とし、強化を基にしたつながりを生むものである、かのように描き出されています。私は半分くらいは希望的観測をもって賛同しますが、半分は懐疑的です。繰り返しになりますが、資本主義経済の下で出資額に応じたリターンがあり、そして、そのリターン品はそのうちにメルカリに出品されたりするんではないでしょうか。それなりに実体を知る者からすれば半信半疑で、やや眉に唾を付けて読むべき本かも知れません。また、どこかの新聞の書評でも見かけましたが、成功例ばかりで取りまとめてあり、それはそれで成功確率高いと知る私なりに理解するものの、失敗例もあれば深みが出たのは確かでしょう。

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次に、リン・ハント『なぜ歴史を学ぶのか』(岩波書店) です。著者は、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の歴史研究者の大先生です。私は2年ほど前に同じ岩波書店のエリオット『歴史ができるまで』を読みましたが、同じように、グローバル・ヒストリーを視野に入れつつ、歴史的な思考についてのリベラルな歴史学に関するエッセイがつづられています。基本的には、排外的あるいは歴史修正的な傾向を強く戒めています。本書冒頭で取り上げられているのは、ポストトゥルースの時代におけるフェイクニュースの類いであり、例えば、トランプ米国大統領がオバマ前米国大統領の出生に関する疑問、にとどまらず、明確な虚偽の情報を流している、といったものです。もちろん、近代史でその最たるものはナチスによるユダヤ人大量虐殺です。600万人という数字を過大だと指摘したり、あるいは、ホロコーストそのものを否定したりする論調は後を絶ちません。我が国の例でいえば、従軍慰安婦であったり、南京大虐殺であったりするのかもしれません。本書で著者は、近代歴史学の祖ともいえるランケに立ち返って、こういった歴史に対する修正というか、ハッキリいえば、ウソがまかり通るよになったのは、一面、歴史が民主化したことも寄与していると指摘します。エリートだけに許されていた歴史学が広く開放されたからだ、といわれればそうかもしれませんが、かつては一部の権力者や知識人から一般大衆に提示されていた歴史が、ある意味で「民主化」され、誰でもが語れるようになると、特にネット上などで改変や修正の憂き目にあうというのも国民の民度を象徴しているような気がします。逆に、そういった歴史の改編や修正を許さず正しい歴史を学ぶ機会を提供することこそが必要です。なぜ歴史を学ぶかといえば、現在ないし将来の問題を解決するためであると私は考えています。もちろん、ランケのいうように、「未来の世代に教訓を垂れるために過去を断罪する目的で歴史を書いているわけではない」というのは判り切っているんですが、それでも、現在の目の前にある問題を解決するヒントを求めて歴史を振り返るんではないでしょうか。視点を変えると、本書の後半は歴史とマイノリティというテーマが設定されています。著者自身が女性であることからジェンダー史なども視野に入れつつ、東洋と西洋、男性と女性、黒人と白人などのうちの歴史におけるマイノリティの分析にも心を砕いています。また、最後の訳者のあとがきにもあるように、かつては歴史学会で大きな勢力を誇ったフランス的なアナール派の歴史観、というか、歴史分析がかなり後景に退き、国としての歴史の浅い米国の歴史学が注目を集め出しているのも事実です。自然科学や社会科学で、例えば、ノーベル賞受賞者で大きな比重を占める米国の学術界ながら、歴史については欧州の後塵を配してきた感あるものの、異常なくらいのナショナリズムやポピュリズムにまったく意味不明の根拠を置いて恣意的な歴史の解釈や意図的な過去の忘却を目指そうという勢力に対し、リベラルな米国歴史学のあり方を垣間見たような気もします。

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次に、佐伯智広『皇位継承の中世史』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) です。著者は、帝京大学の歴史研究者です。本書は、まさに、タイトル通りであり、特に、私なんかの専門外の歴史好きでも知っている中世における天皇継承のトピックとして、持明院統と大覚寺統のいわゆる両統迭立の問題を解き明かそうと試みています。私なんぞは、単純に鎌倉幕府の介入により、持明院統の後深草天皇と大覚寺統の亀山天皇に分かれて、それが室町初期の南北朝の源流となった、くらいの事実関係に関する知識しかないんわけで、セクションのタイトルに「元寇と両統迭立」なんてあったりすると、少しびっくりしたんですが、元寇はさすがに関係ない、との結論が示されています。ただ、本書を読んでもまだ私は得心行かず、両統迭立の結果を招いた原因も、また、北朝、というか、足利氏の幕府側が吉野の南朝を攻め切れなかった原因も、最後に、南朝が約束は反故にされると、後知恵ながら判り切っていたにもかかわらず、北朝に三種の神器という形で正当性を譲った理由も、イマイチよく判りませんでした。私の読解力の問題もありますが、事実関係を淡々と積み重ねていくだけでは歴史の因果関係は明確にならないことを実感しました。加えて、両統迭立から南北朝の分裂、さらに斎藤いるに至る過程が、それほど、というか、私が考える穂と単純ではないのだろうと想像しています。実に、マルクス主義的な唯物史観からすれば、生産力が伸びて生産関係のくびきを破壊するという、かなり一直線な西洋的な史観ですので、そこまで単純に適用できる歴史的な事象というのは、まさに、大雑把な歴史の流れ、というか、もっと超長期に渡る歴史の方向性であって、唯物史観は、個別の歴史的な事象の解明に役立つ手術用のメスではなく、大きな木を切り倒す斧や鉈なのだ、と実感した次第です。また、皇位をめぐる室町期の動向については、3代将軍足利義満による皇位簒奪について今谷明などが議論していますが、本書ではやんわりと否定されています。中世的ないわゆる「治天の君」である上皇による院政などに関しても、本書では豊富に実例を上げて論じており、私のような歴史の好きな人間には知的好奇心を満たしてくれるいい入門書であるという気がします。

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最後に、今津勝紀『戸籍が語る古代の家族』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) です。著者は、岡山大学の国史の研究者です。本書では、正倉院御物に残された現在の岐阜県の襲来の戸籍から、古典古代の律令制の奈良時代の家族像を解明しようと試みています。戸籍は、ある意味では、権力者の側から税を取り立てる単位として取りまとめられたものですから、本書でも明らかにされているように、現在の戸籍のように氏名や性別・生年だけでなく、古典古代においては租庸調の税を勘案して、身体的な特徴、例えば、障害の有無や程度などの課役負担の参考となる個人情報も記されています。まあ、現代的な個人情報保護なんて、何ら念頭にない権力者サイドの記録ですから当然かもしれません。こういった古典古代における戸籍に関する基礎的な知識を明らかにした後、定量的な歴史学が展開され、まず、著者は人口の推計を試みています。そもそも、本書でも指摘しているように、奈良時代とはいえ、日本という国の領域がビミョーに違っているわけで、時の大和政権の支配下にある地域が100年単位で見れば決して同じでないわけですし、加えて、口分田の配分で差別され、それゆえに税負担も異なる身分があり、良民と賤民の違いもあるわけですから、現代的な感覚で人口を見るわけにもいかず、加えて、それ相応の幅をもって見る必要あるものの、8世紀前半の我が国の人口はおよそ450万人とか、9世紀初頭の延暦年間の総人口は540~590万人、あるいは、奈良時代の初めから平安初期のおよそ100年間で100万人の人口増加があった、などの結果が示されています。さらに、出生時の平均余命、いわゆる平均寿命は28歳余りで30歳を下回っていたとか、合計特殊出生率は6.5人くらいとか、人口にまつわるトピックがいくつか推計方法とともに示されています。さらに、タイトル通りに、古典古代における婚姻、通常、日本では妻問い婚の形式が注目されますが、それらと家父長制との関係、また、再婚が決して稀ではなかった子人制度についても戸籍記録から明らかにしています。自然災害との関係では、飢饉と疫病の流行、さらに、飢饉の際に山に入って職を得る、などなど、興味深い古典古代の戸籍に関する話題がいろいろと取り上げられています。

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2019年12月13日 (金)

製造業大企業の業況判断DIがゼロまで落ちた日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から▲5ポイント低下してゼロを示した一方で、本年度2019年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+3.3%の増加と9月調査の結果から上方修正されてます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業景況感、4期連続悪化 日銀短観のDIゼロ
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はゼロとなり、9月の前回調査から5ポイント悪化した。米中貿易戦争で外需の低迷が続き、4四半期連続の悪化となる。大企業非製造業も個人消費の落ち込みで2期連続で悪化した。ただ政府の増税対策もあり、前回増税時よりも小幅の悪化にとどまった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。大企業製造業のゼロは、日銀が大規模緩和に踏み切る直前の2013年3月(マイナス8)以来、6年9カ月ぶりの低水準となる。QUICKによる市場予想の中心値(プラス2)も下回った。
主要16業種のうち、11業種で悪化した。アジア向け輸出が低迷する自動車や鉄鋼のほか、東京五輪の建設需要が一巡した窯業・土石製品などが悪化した。台風19号による工場の操業停止も響いた。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス20で、前回調査から1ポイント悪化した。消費増税の影響で、小売りや卸売りが低迷した。ラグビーワールドカップの特需を受け、宿泊・飲食サービスが改善した。
今回の短観では消費増税による駆け込み需要の反動減や消費意欲の低迷を自動車や小売りなどの業種が受けた。ただ前回の増税直後の14年6月調査では、両業種ともに23ポイント悪化したが、今回調査では自動車が13ポイント、小売りが7ポイントの悪化にとどまった。大企業非製造業は14年6月調査で5ポイント悪化していた。
3カ月先の見通しを示す先行きの業況判断DIは大企業製造業がゼロと足元から横ばいとなる。半導体やスマートフォンなどIT(情報技術)関連の需要回復が見込まれる一方、世界経済の不透明感は続く。非製造業はプラス18で足元から2ポイント悪化となる。増税の個人消費への影響を懸念する声が残る。
短観は日銀が3カ月に1度、全国約1万社の景況感など経営状況を聞き取り公表している。12月調査の回答期間は11月13日から12月12日まで、回収基準日の11月27日までに約7割が回答した。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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んまず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、ヘッドラインとなる大企業製造業の足元の業況判断DIは中央値で+3、レンジでも▲1~+6でしたから、ほぼ下限に近いと受け止めています。加えて、3日前の12月10日に日銀短観予想を取り上げた際には、大企業製造業の足元の業況判断DIはギリギリながらプラスにとどまり、次の3月調査では横ばいないし反転して改善する可能性がある、という旨の結論だった気がしますが、実績が出てみるとかなり悲観的な内容であり、足元でゼロ、さらに、3か月後のの先行きもゼロ、という結果でした。ただし、消費税率の引上げがあったにもかかわらず、大企業非製造業の業況判断DIは意外と底堅く、足元でも9月調査から▲1悪化の+20で踏みとどまり、先行きも▲2悪化の+18と見込まれています。大企業について少し詳しく見ると、自動車が消費税率引上げのダメージあったほか、業務用機械、鉄鋼、生産用機械、造船・重機等、はん用機械などの資本財関連産業の悪化幅が大きくなっている印象です。世界経済の減速を背景に資本財への需要が落ちていると私は受け止めています。非製造業については、企業規模を問わず、小売りの悪化幅が大きく、消費税率引上げの影響が読み取れます。ただ、国際商品市況における石油価格の落ち着きから電気・ガスが景況感を回復させています。先行きについても、9月調査から12月調査の足元への変化と基本的に同じと私は受け止めていますが、意外と目先の景気は底堅いながら、東京オリンピック・パラリンピックを終えた来年2020年の今ごろ、1年先くらいの景気がどうなっているか、OECD先行指標に先進国経済回復の兆しあるとはいえ、何とも見通し難いところです。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても人手不足感が広がっています。ただ、足元で設備と雇用の生産要素については、不足感が和らぐとまでいわないまでも、不足感の拡大は止まりつつあるようですが、大企業製造業の生産・営業用設備判断DIは6月調査の▲1から9月調査では+1の過剰感に転化し、12月調査でも+2とやや過剰感を強めています。また、中堅・中小企業製造業でも同様に設備不足感がゼロないしプラスの過剰感に転じており、設備不足感が和らいでいるのも事実です。ただ、ゼロをはさんだ動きながら、±1~2ポイントの変化はどこまで現実的か、あるいは、統計的に有意か、については議論あると私は考えています。雇用人員判断DIも本日公表の12月調査では前回9月調査から不足感は横ばい、ないし、やや和らいでいますが、先行きは不足感が強まる見込みとなっており、不足感が大企業で▲20を、中堅・中小企業では▲30を軽く超えていますので、設備の不足感が少し和らいだ一方で、まだまだ人手不足は深刻であると考えるべきです。ただ、何度も繰り返していますが、雇用は生産の派生需要であり、景気が後退局面に入ると劇的に労働への需要が減少する可能性は忘れるべきではありません。当たり前ですが、人口減少社会とはいえ、永遠に人手不足が続くわけではありません。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年度2019年度の全規模全産業の設備投資計画は3月調査で▲2.8%減という水準で始まった後、6月調査では+2.3%増に、また、9月調査でもわずかながら+2.4%に上方修正された後、12月調査では+3.3%増に順調に上方修正が繰り返されています。通常の日銀短観の統計としてのクセでは、3月調査は前年度比マイナスから始まるとしても、その後は順調に上方修正される、というのがあり、今年度の設備投資計画も、この動きに沿っていると私は受け止めています。ただ、長期系列が取れないので注目度は高くありませんが、ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資を除くベースでは、前年度比+5.0%増とさらに大きな伸び率ながら、9月調査の+5.1%増の計画からは下方修正されていたりして、世界経済の不透明感もまったく払拭さる気配すらなく、やや設備投資の伸びが力強さに欠ける気もします。もちろん、基本は、先行きの生産や企業利益とともに、人手不足も視野に入れつつ実行される設備投資なんですが、いずれにせよ、今年度2019年度の設備投資計画は前年度比で増加する見込みながら、それほど力強く上向くという実感はないかもしれません。

何度も繰り返しにありますが、おそらく、私は現在の足元から目先の来年前半ないし年央、東京オリンピック・パラリンピックあたりまでの景気は、報道されているより、意外と底堅いと感じていますが、その先、今から1年先くらいの時点の景況感はまったく不透明です。

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2019年12月12日 (木)

4か月連続で前月を下回り基調判断が下方修正された機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から10月の機械受注が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲6.0%減の7988億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注6.0%減 10月、基調判断引き下げ
内閣府が12日発表した10月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比6.0%減の7988億円だった。製造業・非製造業ともに幅広い業種で投資需要が減少した。4カ月連続で前月を下回っていることから、内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」に引き下げた。
受注額はQUICKがまとめた民間予測の中央値(0.9%増)を大幅に下回った。製造業は1.5%減で、10月まで3カ月連続で減少した。海外経済の減速に伴い外需の縮小が続き、生産や情報通信に使う機械の需要が減った。
非製造業は5.4%減で、2カ月ぶりに減少した。農林漁業では10月の消費税率引き上げ後にトラクターなど農林用機械への投資を減らす動きがみられ、需要が約3割減少した。情報サービス業や通信業からの受注減もマイナスに大きく寄与した。内閣府は「農林漁業は例外的な動きで、全体としては消費増税の影響で機械受注が落ち込んだことはない」とした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、電力と船舶を除くコア機械受注の季節調整済みの系列の前月比の中央値は+1.0%増であり、レンジでは▲5.0~+3.5%でしたから、わずかとはいえ、下限をさらに下回る大きな減少でした。しかも、4か月連続の前月割れですので、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「持ち直しの動き」を削除して、「足踏みがみられる」に半ノッチ下方修正しています。また、上のグラフにも見られる通り、受注水準としてもコア機械受注の8000億円割れは2015年年央の7~8月以来の低水準となっています。加えて、10月統計ではコア機械受注のうちの製造業と非製造業(船舶と電力を除く)がともに前月比マイナスで、特に、米中間の貿易摩擦に起因する世界経済の停滞を受けて、製造業では3か月連続のマイナスを記録しています。先月統計の公表時に10~12月期のコア機械受注は季節調整済み系列の前期比で+3.5%増と見込まれていたんですが、とても厳しい四半期スタートとなっています。引用した記事の最後の方で、内閣府の公式見解として、消費増税で機械受注が落ちたわけではない旨の発言が収録されていますし、台風19号の影響もご同様で機械受注への影響はそれほどないものと私には見えるのですが、そうであれば、何ともいえないながら、世界経済の低迷を反映して、我が国経済も停滞の方向に向かっている可能性があるのかもしれません。

ただ、明るい話題、というわけでもないんでしょうが、今週月曜日の12月9日に公表された経済協力開発機構(OECD)の先行指標 CLI=Composite Leading Index を見ていると、あるいは、ひょっとしたら、何と申しましょうかで、中国については少し前から景気反転の兆しがあり、また、米国とOECD加盟国の先進国ではも2019年9月を底に10月から景気が反転し上昇に転じた可能性があるような気がしないでもありません。リポートの3ページ目のテーブルを基にしつつ、私個人の希望的観測を込めた楽観的な見方です。念のため。

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2019年12月11日 (水)

ようやくプラスに転じた企業物価(PPI)と大きくマイナスに落ち込んだ法人企業景気予測調査!

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が、また、財務省から10~12月期の法人企業景気予測調査が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+0.1%と、今年6月統計で前年同月比上昇率がマイナスに転じてから、6か月振りのプラスを記録しました。ただし、10月からの消費税率引上げの影響を除くベースでは▲1.5%の下落と試算されています。続いて、法人企業景気予測調査のヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は7~9月期+1.1の後、足元の10~12月期は▲6.2と、消費税率の引上げや台風の影響などからマイナスに転じたものの、来年2020年1~3月期には+2.0、さらに4~6月期は+1.1と見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の企業物価指数、前年比0.1%上昇 消費税率引き上げで
日銀が11日発表した11月の企業物価指数(2015年平均=100)は102.2と、前年同月比で0.1%上昇した。上昇は6カ月ぶり。消費税率の引き上げが押し上げに寄与する一方、石油・石炭製品の下落などが響き、伸びは小幅にとどまった。前月比でみると、0.2%上昇した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。円ベースでの輸出物価は前年比で5.9%下落し、7カ月連続のマイナスだった。前月比は0.2%上昇した。輸入物価は前年同月比11.2%下落し、前月比は0.2%上昇した。
企業物価指数は消費税を含んだベースで算出している。10月の消費増税の影響を除いたベースでの企業物価指数は前年同月比で1.5%下落した。6カ月連続で前年を下回った。前月比では0.1%上昇だった。
日銀の調査統計局は11月の企業物価について「消費税率引き上げの前後で企業の価格設定スタンスに大きな変化が生じていないことが改めて確認された」としている。
大企業景況感マイナスに 10-12月、米中摩擦など響く
内閣府と財務省が11日発表した10▲12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス6.2だった。マイナスは2四半期ぶり。自動車などで中国を中心とする海外需要が低調だったほか、小売業で消費税率の引き上げや台風の影響もあった。
BSIは前四半期と比べた景況判断で「上昇」と答えた企業の割合から「下降」と答えた企業の割合を引いた値で、7▲9月期はプラス1.1だった。
今回の調査時点は11月15日。大企業のうち製造業はマイナス7.8となり、4四半期連続で「下降」の割合が大きかった。7▲9月期のマイナス0.2からマイナス幅も拡大した。米国との貿易戦争が続く中国で自動車部品や工作機械の需要が落ち込んでいる影響が大きい。10月の台風19号で工場が被災したといった声も聞かれた。
非製造業は2四半期ぶりに「下降」が上回り、マイナス5.3となった。卸売業で中国向けの機械出荷が減った。小売業では家電や百貨店で増税前の駆け込み需要の反動が出た。
全体として大企業の景況感の落ち込みは前回の消費増税後の2014年4▲6月期(マイナス14.6)よりは小幅にとどまった。内閣府と財務省は高水準の企業収益や堅調な設備投資などを理由に「内需を支えるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はこれまで同様にしっかりしている。今回の結果は、緩やかに回復している経済全体の傾向を反映している」との見方を示した。
ただ、外需の縮小で製造業を中心に逆風はなお続いている。先行きの20年1▲3月期に大企業の景況感はプラスへと回復する一方、中堅企業や中小企業はマイナス圏から脱せない見通しだ。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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先月10月統計の国内物価の前年同月比上昇率は消費税を含めても▲0.4%の下落、消費税の影響を除けば▲1.9%と、私は軽いショックを受けたんですが、さすがに、11月統計では消費税を含めればプラスに転じたものの、消費税を別にすればまだ▲1.5%の下落と大きなマイナスを続けていることに変わりはありません。特に、11月統計からは、いわゆる経過措置、すなわち、税率引上げ日の10月1日をまたぐ役務などの料金、例えば、旅客運賃、電気料金、請負工事などについての経過措置が縮小しますから、それだけでも物価押し上げ効果がある点は留意する必要があります。また、前年同月比上昇率を項目別に見ると、相変わらず、石油・石炭製品が▲8.3%の下落、非鉄金属が▲4.3%の下落、化学製品も▲3.5%の下落など、国際商品市況の動向や中国経済の停滞に起因する品目の下落が続いています。なお、先月のブログでも書きましたが、企業物価指数(PPI)のうちの輸入物価の円建て原油価格指数は、昨年2018年のピークが11月の142.5でしたから、本日公表された11月統計でPPI輸入物価に現れる原油価格の前年同月比への影響は底を打つ可能性が高いんではないか、と私は期待しています。来月の統計発表がチョッピリ楽しみです。

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続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは以下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、企業物価(PPI)と同じで、景気後退期を示しています。消費税率が引き上げられたばかりの足元の10~12月期が大きく悪化しているのは、台風もありましたし、ある程度までは想定内の気がします。ただ、グラフはありませんが、私がやや気がかりなのは設備投資計画の下方修正です。すなわち、ソフトウェアを含み土地購入額を除くベースの今年度2019年度の設備投資計画が、前回調査の+8.3%増から+7.8%に下方修正されています。設備判断DIはまだ不足超ながら、その不足幅が徐々に縮小してきているのも事実で、明後日公表予定の日銀短観でも設備投資計画は確認したいと思います。

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2019年12月10日 (火)

今週金曜日12月13日公表予定の日銀短観では企業マインドはどこまで悪下するか?

今週金曜日12月13日の公表を控えて、シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画はもちろん今年度2019年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、いつもの通り、足元から先行きの景況感に着目しています。一部にとても長くなってしまいました。それでも、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+5
+21
<+2.4%>
n.a.
日本総研+3
+13
<+3.0%>
先行き(2020年3月調査)は、全規模・全産業で12月調査対比+2%ポイントの改善を予想。海外情勢の先行き不透明感が残るものの、自然災害の影響が一巡するほか、世界的な半導体需要の持ち直しが業況見通しに反映され、製造業、非製造業ともに改善する見込み。
大和総研+2
+17
<+2.5%>
12月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+3%pt(最近からの変化幅: +1%pt)、大企業非製造業の業況判断DI(先行き)は+16%pt(同: ▲1%pt)と予想する。大企業製造業では、2018年初から続いてきた悪化傾向が止まる見通しだ。ただし、最近の日銀短観において、先行きに慎重な結果が示されるという下方バイアスが見られる点に留意した。
本日(12月5日)閣議決定される財政支出額13兆円の経済対策や、台風被害からの復興・国土強靱化政策に伴う公共事業の活発化が見込まれることは、関連業種の業況を押し上げるだろう。さらに、世界的な半導体需要に明るさが見られ始めたこともプラス材料だ。一方で、世界経済の先行き不透明感の継続は、広範な業種の業況の押し下げに作用するだろう。
みずほ総研+3
+18
<+3.0%>
先行きの製造業・業況判断DIは横ばいを予測する。中国経済を中心とした海外経済の減速や米中交渉を巡る不確実性は残存している。加えて、ブレグジットを巡る英国議会選挙(2019年12月12日実施)の行方や香港情勢の緊迫化、中東における地政学的リスクの高まりなども懸念材料だ。グローバルなIT市場の持ち直しから電気機械業で先行きの景況感は改善が見込まれるが、海外経済の減速傾向が続くことから輸送機械業が横ばい、国際商品市況の軟化を受けて素材業種が悪化することから、全体として製造業の先行きの景況感は改善が見込みづらいだろう。
先行きの非製造業・業況判断DIについては横ばいを見込む。小売業や宿泊・飲食サービス業、対個人サービス業等は消費増税による反動減からの消費の持ち直し期待から先行きの景況感は改善するだろう。一方、幅広い業種について、労働需給のひっ迫に伴う人件費上昇が引き続き重石となることに加え、製造業の不振が非製造業へ波及することへの懸念から卸売業や対事業所サービス業等が下押しするとみている。
ニッセイ基礎研+2
+17
<+2.9%>
先行きの景況感は方向感が分かれそうだ。海外経済の回復は遅れているが、米中貿易摩擦に関して部分合意に向けた交渉が続いており、貿易摩擦緩和への期待が高まっている。また、ITサイクル持ち直しへの期待もあり、製造業では先行きにかけて景況感の持ち直しが示されそうだ。一方、非製造業では、前回消費増税後のように、増税後の内需回復の遅れが懸念されるほか、日韓関係改善に伴う韓国人訪日客の回復も見通せないことから、先行きにかけて景況感の低迷が見込まれる。
第一生命経済研+4
+16
<大企業製造業+9.3%>
1業況判断DIの悪化幅は、大企業・製造業で前回比▲1ポイント。非製造業で同▲5ポイントとなると予測する。果たして、12月会合における追加緩和の予想はどのように変わるだろうか。
三菱総研+2
+17
<+3.2%>
先行きの業況判断DI(大企業)は、製造業は+2%ポイントと、業況は横ばいを予測する。非製造業は+18%ポイントと、小幅な業況改善を予測する。ただし、消費税増税後の消費の低迷長期化、米中貿易摩擦の一段の激化などによる海外経済の減速、金融市場の不安定化などには引き続き警戒が必要な局面である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+2
+17
<大企業全産業+5.0%>
日銀短観(2019年12月調査)の業況判断DI(最近)は、大企業製造業では、前回調査(2019年9月調査)から3ポイント悪化の2と、4四半期連続で悪化すると予測する。消費増税後の一時的な内需の落ち込みと自然災害が下押し要因となったとみられる。先行きについては、海外経済の不透明感は残る一方、増税の影響が剥落し、内需が堅調さを取り戻すことへの期待が反映され、1ポイント改善の3となろう。
大企業非製造業の業況判断DI(最近)は前回調査から4ポイント悪化の17になると予測する。消費増税に伴う一時的な需要の減少により、小売や宿泊・飲食サービスを中心に悪化するだろう。先行きについては、増税の影響は徐々に剥落するものの、すでにDIが高水準である業種を中心に先行きに慎重となる傾向があり、2ポイント悪化の15となると予測する。

当然ながら、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのうちの大企業製造業の業況判断DIの中央値である+3とほぼほぼ同じ結果となっています。ということは、日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIはやや悪化するものの、日銀による9月調査の先行きと同じ+2近傍で何とかゼロに達する前で踏みとどまり、次の3月調査に相当する先行き業況判断DIは横ばいないし反転、との予想が多くなっています。私が見た範囲では、というのは上のテーブルにある限りのシンクタンクということなんですが、大企業製造業の先行きの業況判断DIが足元と横ばいなのはみずほ総研と三菱総研くらいなもので、ほかのシンクタンクは軒並み先行きは、統計のクセとして慎重な見方が示されるものの、改善を示すとの見方が多数派でした。ただ、大企業製造業とともに大企業非製造業でも先行き業況判断DIの横ばいを見込むのはみずほ総研だけで、三菱総研は大企業非製造業については先行きはプラスと予想しています。ですから、長期に渡って低下を続けた消費者マインドと違って、我が国企業マインドはかなり底堅いと私は受け止めています。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2019年12月 9日 (月)

7-9月期GDP統計2次QEは駆込み需要でちょっとびっくりの高成長!

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.4%、年率では+1.8%と消費税率引上げ直前の駆込み需要込みながら、4四半期連続のプラス成長を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月期のGDP改定値、年率1.8%増 設備投資や個人消費伸びる
内閣府が9日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算で1.8%増だった。速報値(前期比0.1%増、年率0.2%増)から上方修正された。法人企業統計など最近の統計結果を反映した。企業の設備投資や個人消費などの伸びが寄与した。
QUICKがまとめた民間予測の中央値は前期比0.2%増、年率0.8%増と速報値からの上振れが見込まれていたが、これも上回った。生活実感に近い名目GDPは前期比0.6%増(速報値は0.3%増)、年率は2.4%増(同1.2%増)だった。
実質GDPの内訳を見ると上方修正が目立った。民間企業の設備投資は実質で1.8%増(同0.9%増)だった。2日発表の7~9月期の法人企業統計で、ソフトウエアを除く設備投資額(季節調整済み)が伸びたことが寄与した。自動車や通信機械向けの電子部品やオフィスビルなど不動産への投資が目立った。
携帯電話の通話料金などが上昇し、個人消費は前期比0.5%増(同0.4%増)だった。不動産仲介手数料が寄与し、住宅投資は1.6%増(同1.4%増)となった。また民間在庫の寄与度はマイナス0.2%(同マイナス0.3%)、公共投資は0.9%増(同0.8%増)と1次速報値から上方修正された。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がプラス0.6%(同プラス0.2%)に上振れした。輸出から輸入を引いた外需はマイナス0.2%と1次速報値から変わらなかった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期に比べてプラス0.6%と1次速報値から変わらなかった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2018/7-92018/10-122019/1-32019/4-62019/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.6+0.3+0.6+0.5+0.1+0.4
民間消費▲0.2+0.2+0.2+0.6+0.4+0.5
民間住宅+0.4+1.1+1.1+0.5+1.4+1.6
民間設備▲3.4+3.0▲0.2+0.9+0.9+1.8
民間在庫 *(+0.3)(▲0.0)(+0.1)(▲0.1)(▲0.3)(▲0.2)
公的需要▲0.3+0.3+0.1+1.6+0.6+0.7
内需寄与度 *(▲0.5)(+0.7)(+0.3)(+0.8)(+0.2)(+0.6)
外需寄与度 *(▲0.1)(▲0.4)(+0.4)(▲0.3)(▲0.2)(▲0.2)
輸出▲1.8+1.2▲2.1+0.5▲0.7▲0.6
輸入▲1.3+3.8▲4.1+2.1+0.2+0.3
国内総所得 (GDI)▲0.9+0.2+1.1+0.4+0.1+0.5
国民総所得 (GNI)▲1.0+0.3+0.9+0.5+0.1+0.5
名目GDP▲0.6▲0.0+1.3+0.6+0.3+0.6
雇用者報酬+0.3+0.4+0.5+0.9▲0.0▲0.1
GDPデフレータ▲0.3▲0.6+0.1+0.4+0.6+0.6
内需デフレータ+0.8+0.2+0.3+0.4+0.2+0.2

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がジワジワと縮小しつつもまだ十分なプラス成長を示し、需要項目別寄与度では、赤の消費と水色の設備投資がプラスの寄与を示している一方で、灰色の在庫と黒の外需(純輸出)がマイナスの寄与となっているのが見て取れます。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが中央値で前期比+0.2%、年率+0.7%でしたし、レンジでも年率+0.2~+1.2%でしたので、上限を突き抜けるような高成長、と見えますが、おそらく想定以上に消費税率引上げ直前の駆込み需要が大きかったのでしょうから、逆に、10月以降の反動減の大きさも気にかかるところです。でも、内需寄与度が+0.6%、外需が▲0.2%となっており、基本的には1次QE公表時と同じで、私は駆込み需要を考慮しても内需は底堅いと判断しています。ただ、幸か不幸か、駆込み需要が大きいだけに反動減も覚悟すべき、ということになります。いずれにせよ、10~12月期はマイナス成長が確実視されており、年率なら▲3%を超えるマイナス幅も考えられます。いずれにせよ、GDPの需要項目ほぼほぼすべてが上方改定されています。すなわち、上のテーブルに従って季節調整済みの前期比で見て、民間消費+0.4%増→+0.5%増、民間住宅+1.4%増→+1.6%増、民間設備の上方改定幅が特に大きく+0.9%増→+1.8%増、公的需要も+0.6%増→+0.7%増、などなどです。輸出入まで上方改定されていますが、純輸出の寄与度は相殺してか変化ありません。繰り返しになりますが、10~12月期は消費税率引上げによる消費の冷え込みに対して、世界経済がにわかに回復しているとも思えず、マイナス成長が確実です。12月5日に政府が閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」は事業規模26.0兆円、財政支出13.2兆円に上っていますが、足元の10~12月期の成長率に及ぼす効果はほとんどありません。世界経済の低迷が続き、民間需要が消費税率引上げなどでダメージある間は政府が景気を下支えする必要があります。

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加えて、本日は、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支についても、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+2.7ポイント上昇の39.4を、先行き判断DIも+2.0ポイント上昇の45.7を、それぞれ記録しています。また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+1兆8168億円の黒字を計上しています。いつものグラフは上の通りです。

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2019年12月 8日 (日)

先週の読書はいろいろ読んで計6冊!!!

先週の読書は、いろいろ読みました。昨日の土曜日に米国雇用統計が割り込んで、少し多めの印象かもしれません。今週の読書の本もおおむね借りてきており、いつも通りの数冊に上る予定です。また、今週ではありませんが、そろそろ、来週かさ来週あたりにジャレド・ダイアモンドの『危機と人類』上下の予約が回って来そうです。

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まず、曾暁霞『日本における近代経済倫理の形成』(作品社) です。著者は、中国の研究者です。特に、邦訳者のクレジットなどがないので、著者が日本語で書いたのではなかろうかと私は想像しています。とても外国人の日本語とは見受けられませんでした。ということで、西欧におけるウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のプロテスタンティズムに当たる近代資本主義的な倫理を我が国に求めた研究成果です。そして、結論としては渋沢栄一が上げられ、まあ、当然というか、平凡極まりない結果なんですが、その方面での渋沢の代表作である『論語と算盤』を持ち出して、江戸期の儒者2人にその源流を見出しています。これも、平凡極まりない結論なんですが、荻生徂徠と海保青陵です。どこまで肯んずるかは個人的な見方も関係するとは思いますが、大量の書物を残した2人ですので、著者が見出したような個人的な利得を許容するようなテキストも残っているんだろうと思います。まあ、有り体にいえば、ほかの、場合によっては儒学者でない文筆家の著書からも、同じような表現は見つかる可能性は高そうな気もします。近松門左衛門や井原西鶴なんて、とても確率が高そうな気がします。ですから、ここは、荻生徂徠と海保青陵が渋沢栄一に先立つ江戸期の近代的経済倫理の源流と同定するのは疑問が残ります。ただ、本書がすぐれている点もあります。それは、荻生徂徠と海保青陵が江戸期において、明治以降の近代的経済倫理の源流となった経済的な背景をキチンと押さえている点です。単に、個人的な資質やあるいは育った家の特性などから導き出しているわけではなく、江戸期の経済動向を把握した上で荻生徂徠や海保青陵の倫理的思想の意味を考えようとしています。中国の研究者ですから当然かも知れませんが、マルクス主義的な上部構造と下部構造を意識しているのかもしれません。ただ、経済の専門家ではなさそうに感じた点が2点あり、第1に江戸期の支配階層であった武士が米価に経済的に依存しているのと、江戸期の「士農工商」は実は現在でもいくぶん姿を変えて残っていることです。米価の動向に武士が依存していたのは当然です。俸給を武士は米でもらうわけですから、極端にいえば、米が割高で高く売れて、相対価格として米以外が安ければ、武士の生活水準は上がります。もうひとつの「士農工商」については、本書で指摘するように、渋沢は「官尊民卑」を強烈に否定ないし批判したわけですが、それだけ、明治期には広く残存していたわけで、今でも見受けられるのは異論ないものと考えます。ですから、今でもお役人の官が上に来て、農はかなりシェアが小さくなったので脇に置くとしても、工商の順は今でも維持されている場合が少なくありません。例えば、我が国を代表する経済団体のひとつである経団連の会長は製造業からしか選出されず、銀行や保険、もちろん、小売を始めとするサービス業などの非製造業から会長は出ません。ただ、これは西洋でも同じことであり、キリスト教文化の下で利子が否定されたことから派生して、商業がいくぶんなりとも地位を貶められているのは事実ではなかろうかという気がします。ですから、本書では、米によって年貢が収められる税制から明治期に地租という金納制が開始された点を持って、近代資本主義の幕開けとしていますが、実は、講座派の議論を待つまでもなく明治期の日本には広く半封建的な残滓が見られ、さらに現在に至るまで、すべてが払拭された独立した資本主義経済かどうかは疑わしい、と考えるのもひとつの見識であろうと私は受け止めています。

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次に、アニー・ローリー『みんなにお金を配ったら』(みすず書房) です。著者は、アトランティック誌の寄稿編集者を主としてこなしているジャーナリストであり、本書の英語の原題は Give People Money で、2018年の出版です。タイトルから容易に想像されるように、ユニバーサル・ベーシックインカム (UBI=Universal Basic Income) についてのリポートです。全10章のうち終章をコンクルージョンとして、第1章から第9章までが3章ずつのグループをなしており、最初の3章がUBIの原理原則や理論的な背景などを取り上げ雇用との関係を解明を試みており、次の3章では貧困削減という切り口からUBIを論じ、最後の第3部では社会的包摂という観点からUBIの導入につき議論しています。基本的に、UBI導入に向けた賛成論を展開しているわけですが、統計的なエコノミストの分析も豊富に当たっていて、もちろん、ジャーナリストらしい現地取材も十分で、説得力ある議論を展開しています。UBIについては、まず、日米欧の先進国経済で観察されるように、雇用者の賃金がかつてほど上がらなくなった、という事実があります。スキル偏向的な技術進歩が進み、いわゆるスーパースター経済が成立した技術的背景がある一方で、スキルが2山分布のように高スキルと低スキルに分裂し、低スキル雇用がますます増加しています。同時に、低賃金だけからというわけでもなく、低開発国におけるものも含めて貧困問題をUBIが解決の一案となることも確かです。加えて、UBIで最低限の生活が保証されれば、芸術などのハイカルだけでなくボランティア活動に時間的な余裕ができるのも事実です。すなわち、エコノミストの目から見て、現在の市場に基づく雇用の配分は大きく失敗しているわけで、社会的に必要な分野への人間労働の配分が賃金という価格シグナルに従ってなされると、まったく最適化されない、ということです。ですから、私はUBIを強力に支持します。ただ、その支持するという前提で、疑問をいくつか上げると以下のとおりです。すなわち、本書の著者などは、UBIによる勤労意欲の低下を取り上げる場合が多いんですが、私は逆で、雇用主の賃金支払へのインセンティブへの影響を考えるべきです。要するに、UBIの金額だけ賃金カットされれば、何もなりません。現在までのUBIの社会的実験では、地域的に切り離されたりして、あるいは、ランダム化比較試験(RCT=Randomized Controlled Trial)が実行されたりする場合には、賃金差は生じないでしょうが、全国一律でUBIが導入されれば、雇用主の方で賃下げのインセンティブが出るのではないかと考えないでもありません。UBIで人々が働かなくなるのではなく、賃金を支払わなくなるんではないか、という恐れはいかがなもんでしょうか。次に、話題の現代貨幣理論(MMT)との関係で、UBI導入には財源が必要です。インフレになった折にUBI財源はカットできないからです。特に、最初の賃金への影響については、まだ、正面から取り上げた議論に、私は不勉強にして接していませんので、ぜひ考えを深めたいと思います。

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次に、ダレン・マクガーヴェイ『ポバティー・サファリ』(集英社) です。著者は、小説家・ノンフィクションライターです。英語の原題は Poverty Safari であり、2007年の出版です。ということで、「サファリ」とは動物を自然に近い形で見学するためのアミューズメントパークであることはいうまでもありません。要するに、「貧困層を見学する」ということなのでしょう。本書では、著者の実体験から、アルコールや薬物の乱用、犯罪歴、多額の負債、破壊的・暴力的な行為、子供のころ保護者からうけた虐待やネグレクト、教育の不足、若年からの喫煙習慣、総選挙での投票経験の欠如、などなど貧困層、特にイングランドでCHAV、本書の著者のホームグラウンドであるスコットランドでNEDと呼ばれる暴力的な傾向のある貧困層の特徴がよく出ている気がします。なお、約2年前の2017年12月16日付けの読書感想文でオーウェン・ジョーンズ『チャヴ 弱者を敵視する社会』を取り上げています。父親が犯罪で服役する中、母親はアルコールやドラッグに溺れて子供をかまわず、子供は学校にも行かずに小さいころから喫煙して暴力行為を繰り返す、といった印象です。なかなか、日本の、あるいは、古典的な貧困とは様相が違っていて、単純な解決方法などないように思えてなりません。左派的に行政的に財政リソースを配分しても酒代に消えるだけかもしれませんし、右派的な自己責任論を展開しても何にもなりません。私はある程度長期戦を覚悟して教育から始めるしかないような気がします。これは、開発経済学の観点から途上国を見たときと同じ感想なので、なかなかに自信がないんですが、少なくとも「特効薬」的で短期に解決する政策手段は思いつきません。古典的な貧困であれば、それこそ、ベーシックインカムが有効かもしれませんし、そこまで進歩的な政策手段でなくても財政リソースをつぎ込めば何とかなるような気がします。でも、アルコールや薬物の乱用、さらには、英国ですからこの程度ですが、米国になれば銃の問題も生じるような暴力の問題もあります。何とも、根深い貧困問題ですが、何らかの解決方法はあると私は楽観視しています。でも、右派的に自己責任論で押し通すのは何の解決にもなりません。金銭的な裏付けを持って、さらに、ケースワーカーなどの優秀な人材を適切に配置し、子供達はしっかりと教育を受けられる環境に置き、様々なきめ細かい方策を地道に続けていくことにしか解決の道はないのかもしれません。著者のいうように、左派的に社会的問題であり、ネオリベラル的な政策の犠牲者というのも、一面ではそうなのかもしれませんが、社会的な責任とともに、ある程度は自己責任も併せて問題として取り上げる必要があるのかもしれません。エコノミストとして、いささか自信のない分野かもしれませんが、エコノミストこそもっとも力を発揮すべき分野である、と思わないでもありません。

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次に、ポール・モーランド『人口で語る世界史』(文藝春秋) です。著者は、英国出身であり、ロンドン大学気鋭の人口学者だそうです。英語の原題は The Humman Tide であり、2019年の出版です。ということで、マルクス主義的な上部構造と下部構造で経済原理主義的な論調はいくつか見て来ましたが、本書では人口動態原理主義が展開されています。でも、歴史の根本に置けるのは、確かに、経済か人口動態くらいかもしれません。人口が歴史を形作る場合、常に参照されるのはマルサスであり、本書では常識的に、マルサス主義は2度転回した、と結論しています。すなわち、科学技術の発展、本書では産業革命における生産力の大きな伸長をもって、マルサス的な食料生産の限界を超えたことが指摘され、さらに、それにもかかわらず、女性教育の普及や女性の労働市場への参加などから、生産面から支えられるだけの人口増加が見られないようになる、というか、むしろ逆に生産が増える一方で人口が減少に転ずる、という2度の転回を明らかにします。第1の転回は決して農業生産の増加ではなく、むしろ、工業生産の増加やそれに伴う交易の広がりにより、海外からの食料調達が可能になった、と描かれています。その後、英国人研究者ですので英国中心史観でもないのでしょうが、産業革命を真っ先に達成した英国、というか、イングランドから始まって、イングランド以外の英国諸国、大陸欧州、そして米国に視点を変えつつ人口を論じています。さらに視野を広げて、東欧からロシアを論じ、アジア、中南米、アフリカと議論を展開します。人口の増減については、本書冒頭でも指摘されていますが、出生率と死亡率、そして、移民などの人口移動で説明できますが、本書では明記していないものの、出生率の上昇により人口増加がもたらされると、人口構成は若くなり、逆に、死亡率が低下すると人口の中で高齢者の比率が上昇します。この人口構成について、本書では決して無視されているわけではありませんが、やや量的な人口の規模に重点を置くあまり少し軽視されているような気がしなくもありません。エコノミストにはそのあたりが銃と考えられます。すなわち、人口と生産のマルサスの罠を脱すれば、ある意味で、相乗効果があり、人口と生産が手を携えて車の両輪として増加を続ける、という局面があります。出生率が上昇するとともに、死亡率が低下します。日本の戦後の高度成長期などが典型といえます。そして、次の転回に従って、出生率が低下し始め、死亡率の低下も頭打ちとなります。極めて例外的な国を除いて、前者の出生率の低下が始まれば、もう一度出生率が上昇するケールはほぼありません。我が国人口の現状を見れば明らかです、おそらく、これは出生率を引き上げるおいうよりも、その現状を受け入れて対応する、というしかないのかもしれません。最後に、2019年出版の原書1年もたたずに翻訳したのは、たいへんな生産性の高さだという気もしますが、国名の邦訳がややひどい気がします。ひょっとしたら、原書で書き分けられていない気もしますが、USとアメリカ合衆国は大きな違いないと思うものの、イングランドはまだしも、ブリテンとグレート・ブリテンとUKはどう違うんでしょうか。訳者あとがきで、誇らしげに「イギリス」という国名は使わなかった、と邦訳者が自慢していますが、原作者に質問するなりして、もっとキチンと書き分けて欲しかった気がします。

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次に、将基面貴巳『愛国の構造』(岩波書店) です。著者は、オタゴ大学の研究者だそうですが、私は不勉強にしてオタゴ大学というのを知りませんでしたから、ネットで調べるとニュージーランドにあるそうです。本書でいう「愛国」とは、上の表紙画像に見えるように、英語のpatriotismです。最近、ネトウヨの本などを読んでいるんですが、その中では愛国というよりは、反日に対する嫌悪感が充満しているという印象があります。在日はもちろん、外国人は無条件で反日と認定されるようですし、日本人でもリベラルな方向性はあまり親日とは見なされないようです。その中で、反日と親日を分けるものとは少し異なる次元ながら、愛国を考えたのが本書です。ただ、言葉遊びではなく、国という場合、民族を主たる構成員と考えるnation、出身地の地理的な位置関係を重視するcontry、政府とほぼほぼ同じ意味で使われる国家などのstate、の少なくとも3つの概念があり、本書では丹念にひとつひとつ論を進めています。ただ、我が国でいう「国」については私は異論があり、我が国での「国」は統一国家としての日本ではなく、むしろ、その昔の人の表現かもしれませんが、「お国はどこですか」とか、もっと昔の「国持大名」などのように、関西でいえば、河内、摂津、丹波、丹後、大和、紀伊、といったその昔の大名の領域に近い概念ではなかろうかという気がします。もちろん、「国持大名」という表現があるように、大名のすべてが国を持っていたわけではありませんし、島津のように薩摩と大隅の2国を持っていた例もありますが、現在の都道府県よりももう少し細かい単位ではないか、という気がしないでもありません。米国も連邦制の国家であって、よく似た印象を私は持っています。少なくとも、ヤンキーの北部と貴族的な南部は大きく異なります。私は京都南部の小領主や旧貴族の荘園などが点在していた地域の出身ですから、余りそういった気分は理解できなかったのですが、10年ほど前に長崎大学に出向した際に、九州ではそういった「お国自慢」が幅広く言い伝えられており、逆に、自分の出身地についてなーバスである、という気もしました。それはともかく、本書では国家という政治共同体にアイデンティティの基礎を置くことの問題点、特に、国家による聖性の独占の問題をひも解こうと試みています。1890年に明治期の日本では「教育勅語」を明らかにし、このことが大きなターニングポイントであったと指摘しています。その後、天皇の神格化が進み、愛国心の名のもとに青年の命をムダに消耗する戦争へと投入していく、というのが歴史的な事実です。ですから、愛国を持ち出されると私なんぞは懐疑的なメガネを取り出して着用する場合が少なくなく、愛国を唱えるグループはそれだけで損をしている気もしますが、それでも教育現場に「愛国心教育」を持ち込もうという動きは跡を絶ちません。単なる無条件の自国礼賛に陥った愛国に代替するアイデンティティが必要だと私は考えていて、官庁エコノミスト経験者としてだけでなく、大学教員経験者としても、教育の重要性は十分認識しているつもりであり、エコノミストとしての専門性を生かして教育の現場に戻る道を模索しているところです。最後は、少しヘンな話になりました。ご容赦ください。

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最後に、橘玲『上級国民/下級国民』(小学館新書) です。著者は、作家・ノンフィクションライターといったところです。私は、たぶん、この著者の本を読むのは初めてです。本書は、結論からいえば、上級国民とは団塊の世代で高度成長期を満喫して正社員でがっぽり稼いだ既得権益者であり、下級国民はその犠牲になって正規雇用を得られなかったりした若者、ということなんだろうと思います。私自身が団塊の世代の10年後の生まれで、団塊の世代の恵まれた状態をつぶさに見てきた経験があります。とても卑近な例ですが、国家公務員でも団塊の世代までは問題なく「天下り」で再就職したのに対して、私なんぞはものすごく苦労させられているわけです。それを、能力の問題とか、自己責任とか、そういったものにすり替える議論がまかり通っているわけで、正社員になれない若者の能力不足とか、ましてや、自己責任なんてとんでもない、という主張を私もこのブログで繰り返していたりするわけです。経済学的な実証研究の成果として、たとえ正社員であっても、景気後退期に就職した世代は生涯賃金で損をしていることは明らかな事実として確立しており、しかも、米国の場合では就職してから数年でこの賃金格差が縮小する一方で、日本の場合はかなり長期に影響が残る、というのもスタイライズされた事実です。ですから、私は決して国民相互間の分断を煽るつもりはありませんが、引退世代と現役世代の格差は明確に存在し、しかも、それが投票行動に基づいていることから、政治レベルでは解消することが困難である、という事実は十分に認識される必要があると思っています。本書の内容はやや誇張されている部分もあるように見受けますし、一部にあるいは不正確な内容も含まれているかもしれませんが、大筋では恵まれた団塊の世代とその犠牲になった就職氷河期世代、という構図は大きくは間違っていないんではないか、と考えています。それだkらこそ、政府でも就職氷河期世代対策を今さらのように打ち出したりしているわけです。繰り返しになりますが、本書の内容をすべて肯定するつもりもありませんが、世代間格差というものは現に存在し、それは解消されるべきであり、自己責任や能力の問題ではない点は理解されて然るべき、と私は考えています。

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