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2005年10月18日 (火)

村上ファンドの阪神電鉄株買占めと日本におけるコーポレートガバナンス

昨年のライブドアによるニッポン放送株の購入に端を発して、最近では村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主になったことや、楽天によるTBS株の購入と提携の呼びかけなど、堂々と、あるいは、派手に企業買収が行われる経済社会になりつつあります。
日本におけるコーポレートガバナンスが大きく変化しつつあるようです。

私もエコノミストのはしくれですから、コーポレートガバナンスについてもそれなりの見識は持っています。自慢話シリーズ第3弾で、このような立派なワークショップに参加し、コーポレートガバナンスに関する有名シンクタンクの発表にコメントしたりしたこともあります。

しかし、ここではコーポレートガバナンスの基本に立ち帰り、村上ファンドの阪神電鉄株の買占めについて、週末からの日本シリーズを前に、私見を再度表明します。
まず、基本は、「コーポレートガバナンスとは企業(コーポレート)のステークホルダーが企業の経営者を監視する行為である」ということです。元はと言えば、企業が大きくなり過ぎて、創業者一族だけでは十分な経営が出来なくなったために、代理で経営をしてくれる者(大昔は番頭と呼ばれました)を雇ったので、この経営者が創業者一族の意に添うように監視、あるいは、コントロールすることです。所有と経営が分離し、所有者と経営者の両者の間に情報の非対称性が存在することから、このような代理者(エージェント)問題が発生しました。要するに、企業のステークホルダーは、極端な例で言えば、定額の給料で雇われている経営者よりも企業業績に左右される配当を受け取っているのですから、企業活動により大きな利害関係を有するにもかかわらず、情けないことに、企業活動に関する情報は経営者の方がよく知っている訳です。だから、だまされないようにしなければならない訳です。
ここで蛇足ですが、経済学は決して人間性悪説を取っているわけではありません。つまり、経営者は所有者をだます傾向があるとは考えません。単に、前提が合理的なだけです。即ち、経営者が所有者をだますのが合理的であるなら、だますに違いない、と考えているだけで、決して、人間性悪説や性善説のどちらかを前提にしている訳ではありません。

本題に返ります。私の考えでは、コーポレートガバナンスは大きく分けて英米型と日独型があります。監視されるのは経営者で変わりないのですが、監視するステークホルダーが少し異なります。これはひとつには資金調達方式の違いによります。英米型では株式や社債の発行による直接金融が主流ですので、ステークホルダーのドミナントな勢力は株主です。これに対して、日独では銀行借入れによる間接金融が主流ですので、ステークホルダーとして監視するのはメーンバンクが中心です。それに加えて、英米型では労働組合が職能組合なので、労働者は余りステークホルダーであるとは考えられません。別の企業に移ればいいからです。しかし、日独では労働者もステークホルダーの一角を担う場合が多いです。特に、日本では企業内組合と終身雇用のために、労働者が容易に企業を移ることが出来ず、企業活動に大きな利害を有すると考えられます。もっとも、これはすでに過去のことかもしれません。さらにさらにで、プロ野球球団が関係する場合は、ファンもステークホルダーに加わる可能性が十分あります。

ですから、ひとつの考察として、たとえば、エンロン事件で決算の監査を担当したアーサー・アンダーセン事務所は経営者とともに粉飾決算に加担したために、潰れてしまいましたが、カネボウの粉飾決算を見逃した中央青山は潰れないかもしれません。英米流のコーポレートガバナンスにおいては、決算の財務諸表は株主が経営者の企業活動をチェックする極めて重要な情報で、所有者と経営者との情報の非対称性の一部を解消することが出来る情報であって、それを経営者とともに粉飾するのは根本的に許しがたい背信行為だからです。他方、日本でカネボウの粉飾決算を見逃し続けてきた中央青山監査法人は監査人こそ逮捕されましたが、法人としての処分はまだ決まっていません。日本流のコーポレートガバナンスにおいては決算の財務諸表の占める重要性が英米より高くなく、むしろ、メーンバンクがしっかりと経営をチェックする流れになっていますので、中央青山はアーサー・アンダーセンと違って存続する可能性が十分あります。

そこで、より重要な結論です。即ち、村上ファンドが阪神電鉄株を購入して、我が愛する阪神タイガースを上場させようと提案したのは、要するに、企業=阪神電鉄には立派な経営資源があるにもかかわらず、アホな株主がアホな経営者をしっかりコントロールせず、その経営資源が活かされていないので、そこに死過重を見出してしまったからであると言えます。昔の江本投手の表現をマネっこしましたので、表現がやや強烈なのはお許し下さい。少し考えれば当たり前ですが、村上ファンドは今さら阪神電鉄の労働者にもメーンバンクにもなれず、株主以外のステークホルダーにはなれませんので、株主として発言するしか方法がなかった訳です。
チンタラ経営者は口うるさい村上ファンドのような「物言う株主」よりも、自由にだませる旧来の株主のほうが居心地がいいでしょうし、さらに、ファンや企業労働者を含む他のステークホルダーは経営者が株主たる村上ファンドの利益ばかりを考えるのがおもしろくない、あるいは、ゼロサムだとすると自分の取り分が減るので、村上ファンドを敵視するのは極めて合理的で当然です。
しかし、ここで忘れてはならないのは、第1に株主です。即ち、阪神電鉄の株主は村上ファンドの活動により利益を受けている可能性が高いです。村上ファンドに株を売った株主は合理的な経済活動をしたのでしょうし、まだ売っていない株主も株価が跳ね上がったので未実現ながら利益を得ています。例えば、今日の日経金融新聞でも多くの市場関係者は村上ファンドの行動に対して肯定的です。第2に、阪神タイガースが公共財であるなら、比喩的な表現ですが、排除不能性と非排他性の可能性があることです。誰でも阪神タイガースを好きになることが出来ますし、他の人が阪神タイガースを好きであるからと言って自分がファンである度合いは影響されません。ですから、村上ファンドを阪神電鉄とタイガース球団から排除しようとするのはマチガイだと思います。排除しようとすれば、よりコストがかかるだろうと思います。

日本では得をした人は口をつぐんで、損をした人がギャーギャーとわめき立てるのが文化であるとすら言えるのですから、何事につけても反対論を堂々と論破するか、あるいは、波が静かになるのを待って、ものごとを前に進めなければならないのでしょう。

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