日銀金融政策変更の見方
先日11月17日のブログに書きましたように、日銀と政府・与党との間で政策変更に関するバトルが交わされています。
私は官庁エコノミストとして、日銀の政策変更、つまり、量的緩和の解除や、ましてや、金利引き上げは現段階では疑問符を付けるものですが、もう一度、思いつくままに私の考えを述べると以下の通りです。
第1に、オープンな議論はいいことだと思います。発言者の過去の実績を考慮することは価値があることかもしれませんが、自分と意見の違う発言者にヘンなレッテルを張って、それで議論に勝った気になるのは空しいです。意見の中身を検討することが重要です。
その意味で、論者が景気の循環要因をどのように考えているかを私は知りたいと思っています。今週号の「エコノミスト」104ページのコラムのように、能天気に景気は一本調子で拡大を続けるんでしょうか?
いくつかの民間シンクタンクで先日の7-9月GDP速報後の来年度予想を見ると、総じて慎重なような気がします。民間シンクタンク予想の副題を取り上げると、まず、楽観論の典型は、UFJ総研「いざなぎ景気越えが視野に」、野村證券金融研究所「企業と家計の好循環でデフレ克服へ」、東京三菱銀行「来年以降、安定経済成長軌道を辿ると予想」、などです。ただし、能天気な副題から楽観論に分類しましたが、UFJ総研は日銀が来年2006年5月から徐々に量的緩和を解除し、10月にはゼロ金利政策も放棄してコールレートを0.25%にすると予測し、実に的確にも、2006年末には景気はゆるやかな後退局面に突入する、としています。次に、慎重論として、大和総研の副題は「収益を左右する商品市況と景気の持続力」ですが、これでは何のことやら分からないのでよく中身を見ると、2006年度は景気のモメンタムは弱まる方向、とのことです。また、日本総研も「底堅いものの、加速感は生じず」、電力中研は「企業部門を中心に経済成長は鈍化」とのことです。最後に、もっとも悲観的なのが日本経済研究センターで「消費主導の回復、望み薄」としており、来年半ばからは再び消費者物価(CPI)前年比がマイナスのデフレに逆戻りするというものです。これは私でもややどうかナ、と思います。
日本経済研究センターの短期予測は先週の日経新聞の経済教室でご覧になった方も多いと思います。他方、先週金曜日の同じ日経新聞のコラムで、日銀が金利を引き上げて、たとえば、国債金利が4%になれば、家計の金利収入が22兆円増えて、これが消費に回ればGDP4%の押し上げ、といった「トンデモ経済学」が披露されていました(なお、モノを見ずに記憶で書いていますので、細かい計数の記憶違いがあったらゴメンナサイ)。
何だかコメントするのも空しいですが、住宅ローンを背負った家計はどうなんですかねエ?また、4%で22兆円なんてしみったれたことを言わずに、「欽ちゃんのドーンといって見よう」じゃないですが、ドーンと金利10%とか、20%ならもっとGDPの押し上げ効果があるんでしょうか?そんなことは誰も言わない訳で、謎ですねエ。ちょっと前にあった「よいデフレ論」とともに、とても笑える「トンデモ経済学」だと思います。
さて、お待ちかねの私の経済見通しですが、これもいつもの通り政府の公式見解ならざる私見とお断りした上で、先のシンクタンク予想のカテゴリーで言うと、慎重論からほんの少し悲観論に近いです。景気はゆるやかにスローダウンし、場合によってはピークアウトして2006年度中に調整局面を迎える可能性もあります。論拠を書いているととても長くなりますので、一言で言うと、在庫循環がピークを超えたと思っているからです。「それだけか」と言われそうなんですが、誤解を恐れずに短くいうと、在庫循環図のグルグル線が45度を超えているのがひとつの論拠です。もうひとつは、そろそろ米国の住宅バブルが弾けると考えているからです。ただし、この寄与度は小さいと思います。心理的影響の方が大きいでしょう。
なお、先ほど紹介したシンクタンクの経済見通しで、来年のCPI前年比上昇率がマイナスに再び突っ込むとしたのは日本経済研究センターだけですが、他のシンクタンクは0.1%から0.4%くらいの幅で、これくらいのCPI上昇率でコールレートをつけるとすれば、短期の実質金利が現時点のプラス0.1%から0.2%を上回らないのか、少しだけ心配になります。
第2に、日銀の独立についてですが、まず、前回のブログで犯罪者が基本的人権を奪われることと、間違い続ける中央銀行の独立性を対比させたのは、やや筆が滑ったとお詫びします。特に、お気に触った方々にはゴメンナサイ。ただ、無条件で中央銀行の独立性を支持するのもどうかと思います。国民主権のあり方を十分考えることが必要でしょう。私としてはこれ以上は発言する気はないとだけ申し上げます。ただし、これは私自身の考えであって、無条件に中央銀行の独立性を礼賛する方はご自由にどうぞ。何度も申し上げますが、形式ではなく、政策の中身が重要だと思います。
日銀の実績との関係で、1998年の新日銀法施行については、みなさんよく覚えていらっしゃるのに、2000年8月のゼロ金利解除の失敗に言及されないのは不思議だと思っています。時事通信の窪園編集委員が書いていらっしゃる「本石町日記」でも、「日銀が間違えたら二度目となり、法改正論議が浮上しても仕方ない」とのコメントがあり、さらに、総選挙で大勝した現在の与党勢力は強いから、本当に改正されるかもしれない、とまで付け加えていらっしゃいます。官庁エコノミストの私としても、そんなことはイヤですから、日銀にはそれだけ慎重にお考えいただきたいと思います。なお、「そんなこと」とは日銀法改正ではなく、日銀が間違えることですので、念のため。
(余談)
日銀の独立を無条件で支持するのは大いに結構ですが、私のオススメはその前に日銀の評価を知るためにアマゾンで検索してみることです。「日銀」で検索して出て来た本の書評を読んでみましょう。本を書くような有識者が日銀をどのように評価しているか、一端がうかがえると思います。
(余談終)
第3に、日銀に限らず、経済政策当局はもっと金融政策における期待の役割を重視すべきだと思います。たとえば、日銀は量的緩和については、これにより日銀が相当長期に金融緩和を継続するとの「時間軸効果」があると称していましたが、今回の一連の騒動で日銀がビハインド・ザ・カーブを本当に続けるかどうか、市場の期待は吹っ飛んだように思います。もっとも、現時点で市場がこれを織り込む動きは見せていません。これは幸いですが、速水前総裁のころに、ゼロ金利政策はとても変則的で異例の政策であると、ことあるごとに強調して、市場の期待をヘンな方向にもって行ってしまったと私は考えています。
1日の仕事を終えて、家でブログを長々と書いていると疲れてきました。明日は朝食会があって、朝が6時起きなのも思い出してしまいました。
ということで、最後に、
日銀の出口政策について、とても的確そうなコメントを田中秀臣先生が「ノーガード経済論戦」で書いていらっしゃいます。「的確そうな」と言ったのは、まだその1しか見ていないからです。先週の第1回目のその1は安達誠司氏の「デフレは終るのか」(東洋経済新報社)を大幅に引用しつつ、「出口政策採用への日銀の現状の早すぎるコミットへの懸念は募るばかり」で終わっていました。私も実はこの本はだいぶんと前に読んでおり、先週11月17日のブログの米国FEDの大不況脱出時の準備率引上げの失敗などを勉強させてもらっています。しかし、今週に入って、今日のブログは出口政策その2に進まずに「アイドル・エコノミックス」になってしまって、ややガッカリです。
私も明日のブログは親バカの子供と遊ぶシリーズに戻ろうか・・・
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