政府・日銀間に金融政策運営に関する見方の差が生じる理由
日銀と政府で金融政策運営についての見方にかなり差があるようです。この差を生じさせている原因について、私なりの意見を書きたいと思います。
まず、この原因の第1は、景気の現状判断や先行きの見通しの違いがあります。今日の新聞で、内閣府は来年度の経済見通しについて、名目で2.0%成長、実質で1.9%成長、その差のデフレータが0.1%と、デフレが終局に向かうシナリオを他の経済官庁、即ち、財務省と経済産業省に示して折衝に入ったと報じられています。日銀が景気の先行きをこの政府見通しより強気に見ているのであれば、早めに金融引締めに転じるバイアスがかかることになります。
さらに、景気判断や先行き見通し以外にも政府と日銀で差を生じているかも知れない要因を3点上げておきたいと思います。それは、潜在成長率のレベル、金融政策における期待の役割、そして、金融政策が波及するラグの長さです。
まず、潜在成長率ですが、景気局面で上がったり下がったりしますが、景気がよくなってきている現状では上がる方向です。民間シンクタンクなどでは、1%台後半から2%と見ているところもあります。しかし、日銀は1.0-1.5%程度とかなり低めに見ています。現時点でGDPギャップはほとんどなくなったか、ややプラスに転じたことはほぼコンセンサスがあるように見受けられますが、日銀の考えている潜在成長率が低い分、このGDPギャップを日銀は過大に推計してしまうおそれがあり、このため、早めに引締めに転じる可能性があります。
次に、金融政策における期待の役割について、日銀はやや期待を軽視している可能性があります。2000年8月にゼロ金利を解除した大失敗をした後、2001年3月に量的緩和に転じた際にも、当時の速水総裁などが量的緩和について、とても効果が薄いような発言を繰り返していたことを記憶していらっしゃる方も多いと思います。別の見方をすれば、マーケトや国民の間の期待を軽視しているとしか思えません。行動による市場との対話についてはともかく、アナウンスや言葉による市場との対話は失敗しているのは明らかで、それは期待を軽視していることに原因がある可能性が高いと思います。期待の果たす役割が大きいと、次に述べるラグが短くなります。
最後に、金融政策波及のラグを長く見過ぎているのではないかと思います。前にご紹介したUFJ総研のように、日銀が金融引締めに転じると、ほとんどラグなく景気が後退局面に入るのもどうかと思いますが、ラグはせいぜい2-3四半期くらいではないでしょうか。1年を大きく超えるラグを想定するのは、少なくとも引締め局面での金融政策では現実的ではないように思います。直感的には、金融政策のラグの長さは引締め局面と緩和局面とで非対称的で、おそらく、引締め局面では緩和局面よりも短いように思います。ただし、これはかなり容易に実証できそうですが、私は現時点では勉強不足で、ちゃんとリファレンスに当たることをせずに直感的な議論を展開していることをお詫び申し上げます。しかし、いずれにせよ、期待を軽視している日銀が金融政策の波及ラグをとても長く見ているのは不整合だと思います。
来年度の経済見通しでは海外経済要因とともに、国内経済要因で下振れリスクがあるとすれば、ひょっとしたら日銀の早めの引締めかもしれません。
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