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2006年3月14日 (火)

戯曲トゥーランドットについてのメモ

昨夜はプッチーニが作曲したオペラのトゥーランドットについてのトリビアでしたが、今日は、その原作となっているカルロ・ゴッツィ(1720-1806年)による戯曲トゥーランドットやその元ネタについてのトリビアです。

ゴッツィはイタリアの劇作家で、ヴェネツィア生まれです。 トゥーランドットのほかは、『三つのオレンジへの恋』(1761年)や 『鹿の王』(1762年)などがよく知られています。前者はプロコフィエフによって、後者はヘンツェによって、それぞれ、20世紀に入ってからオペラ化されています。また、ワグナーの処女作である妖精の原作もゴッツィの『蛇女』だったりします。ゴッツィのトゥーランドットはドイツの文豪シラー(1759-1805年)も強い興味をもったようで、シラー自身が1801年にドイツ語に翻訳して、ドイツ語圏にもこの物語を広めています。
ゴッツィは劇場やホテルにその名を残すカルロ・ゴルドーニ(1707-93年)の演劇改革に反対し、イタリア演劇の伝統を擁護する立場をとるような、まあ、反動的とはいわないまでも、いわば、保守的な反啓蒙主義的思想の持ち主でしたが、トゥーランドットや三つのオレンジへの恋の2作などを含めた10編の寓話劇シリーズは、シラーが翻訳したことにも示されている通り、イタリア以外のドイツやフランスなどのロマン派の作家に大きな影響を与えたといわれています。作家だけでなく、ロマン派の音楽家にも多く取り上げられているのは先に書いた通りです。

昨夜のブログで、トゥーランドットのもともとのお話は、ペティ・ド・ラ・クロワが1710-12年に出版した『千一日物語』の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」に出ていると書きましたが、さらに、もともとは、有名な『千一夜物語』の中の「九十九の晒首の下での問答」であるともいわれています。どちらも、謎かけ姫の物語で、この謎かけ姫の物語はペルシアが起源であって、もともとの舞台は中国ではないとするのが通説のようです。謎かけ物語は日本ではスフィンクスが有名でしょう。

さて、その3つの謎とは、『千一日物語』については、以下の通りです。ゴッツィの戯曲とは微妙に違っていて、さらに、プッチーニのオペラとは大きく違っているのですが、この3つの謎がオリジナルに近いのではないかと考えられています。
第1の謎は「世界中のすべての人の友達で、自分と同等の者に我慢できないもの」
第2の謎は「子供達を産んで、大きくなると、彼らをむさぼり食う母親」
第3の謎は「表が白、裏が黒の色の葉をもっている木」
これらの答なんですが、『千一日物語』では、第1の謎の答は太陽、第2が海、第3が1年とされています。第1の謎の答である太陽については何となく理解できそうな気もします。第2の海については、川は海へ流れ込みますが、もとは海から生じたものだからだそうです。第3の1年については、1年は昼と夜から成り立っているからだそうです。
ゴッツィのトゥーランドットでは第1と第2の謎に対する答は『千一日物語』と同じ太陽と海なのですが、第3は謎自体がそもそも違っていて、謎が「海洋と陸地を支配する強大な動物」を問う謎となっており、答はアドリアの獅子となっています。アドリアの獅子はヴェネツィアの市の紋章であり、ゴッツィにとっては世界最強のシンボルであったヴェネツィア市のアドリアの獅子を第3の謎の答とすることで、自分の故郷への栄誉を讃えたものと理解されています。
プッチーニのオペラでは恋物語に仕上げるためなのでしょうが、これらの謎と答がさらに変化し、第1の謎が「毎夜生まれては明け方に消えるもの」で、答は希望。第2の謎は「赤く、炎の如く熱いが、火ではないもの」で、答は血潮。最後の謎は「氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がすもの」で、この答が、何と、トゥーランドット姫自身なのです。もちろん、カラフ王子がすべての謎に正解します。この謎かけと謎解きはプッチーニのオペラでは第2幕に相当します。演出の違いにもよるのかもしれませんが、第3の答を待つ間にトゥーランドットはヴェールを上げて輝くばかりの美貌を明らかにし、カラフ王子にプレッシャーをかけるそうです。でも、コスチュームやお化粧がやや勘違いしているような気がするのは、昨夜のブログで取り上げた通りです。それから、ラストでハッピーエンドの第3幕に続いていくわけです。

以上が、荒川選手がフリーのBGMに使ったトゥーランドットについての2夜にわたるトリビアな日記でした。

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