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2006年6月15日 (木)

構造改革と産業政策は矛盾するか?

今週で通常国会が会期末を迎えます。9月の退陣を表明していますので、小泉総理の下での最後の国会であると考えられます。そこで、小泉総理が5年余りにわたって取り組んできた構想改革について少し考えたいと思います。
まず、構造改革とは何か、についてです。エコノミスト的にいえば、全要素生産性を引き上げることです。でも、全要素生産性を規定する要因を明らかにできればノーベル賞ものですから、政策的に全要素生産性を引き上げるのはとても難しいことです。しかし、もう少し簡単にいうと、私は構造改革とは小さな政府と同義だと考えています。要するに、政府が経済に介入する余地をできる限り小さくし、市場による資源配分を最大限活用することが構造改革であると考えられます。
そのためのひとつの手段は規制緩和です。経済的規制は市場メカニズムを歪めるだけですので、原則として、撤廃されるべきであることは何度も政府が繰り返し表明してきたところです。単純な規制だけでなく、関税や補助金なども市場による資源配分を歪めていると考えられます。
もうひとつ考えるべきは産業政策です。少し前にいわれていたように、戦後日本の高度成長には産業政策が寄与した、との考えは私は怪しいと思っています。もちろん、2つの事実は事実として認めます。つまり、高度成長期の日本は欧米の先進諸国に例を見ないような産業政策を実施していたことと、実際に高度成長したことです。しかし、産業政策が原因となって、高度成長の結果をもたらしたかどうかは、私は疑わしいと考えています。「疑わしい」とまでいうのがいい過ぎである可能性もありますが、少なくとも、産業政策と高度成長の因果関係については明確な証拠がないと考えています。昨年夏くらいの経済セミナー(日本評論社)で東大の三輪教授なんかが連載で政策金融について論じていたのと私は同じ立場です。
すなわち、高度成長期には資金、とりわけ、外貨が不足していて、設備投資のための資金や資本財や技術ライセンスを外国から導入するための外貨を当時の通産省などが市場メカニズムの外側で、産業政策により配分したことは事実であろうと思います。そして、その設備資金や外貨で高度成長を達成したのも事実でしょう。しかし、産業政策で市場を通らない形で資源配分したことが、市場で資金や外貨を資源配分したのよりも有意に高度成長に貢献したのか、といわれれば疑問です。要するに、産業政策で資金や外貨を配分しなくても、通常の市場による資源配分でも、あるいは、極端にいえば適当にどこに配分してもあの時期には高度成長したんではないかと疑っています。

ここで、構造改革が誰に支持されているかについても考えてみたいと思います。民間レベルでは競争力のある企業や産業界で支持されるのであろうことは明白です。逆に、海外を含む市場の競争にさらされたくない企業や産業界で支持の度合いが低いであろうと考えられます。競争力がキーワードです。あえて議論を惹起するようないい方をすれば、強者が構造改革を支持し、弱者は消極的であるといえるかもしれません。その意味では、構造改革を進めることは格差を拡大する方向に向かっている可能性もあります。
役所の関係では、まず、伝統的に日銀は構造改革を支持する立場にあります。1980年代末に日銀総裁だった前川氏の名を冠した前川レポートが構造改革の方向性を明らかにしたことは有名です。日銀は市場を通して金融政策を実行しますので、政府による資源配分でなく市場をより重視する構造改革に積極的なのは当然といえます。市場の機能が高まるほど金融政策の実効性が高くなるからです。
役所関係では、いうまでもありませんが、政府規制を多く有している官庁ほど構造改革には消極的ではないかと想像されます。中央省庁再編前のベースで考えると、運輸省とか厚生省とかです。場合によっては、大蔵省も含める向きもあるかもしれません。ここで微妙なのが通産省です。行政指導を規制に含めると、割合と通産省は規制官庁であった可能性が高いです。さらに、一昔前の産業政策を中心になって担ってきた官庁でもあります。しかし、霞ヶ関の官庁街では通産省は構造改革派の官庁であると考えられてきました。官庁エコノミストを自称する私がいうのだから間違いありません。整合性ある考え方としては、一昔前の行政指導などによる産業政策から市場を重視した政策に転換したのかもしれません。

最後に、タイトルで示した設問ですが、構造改革と産業政策は、結論からいえば、明らかに矛盾します。構造改革は市場をより活用する政策であり、産業政策は市場の外で資源配分を行おうとする政策だからです。真っ向から矛盾するとすらいえます。
いずれにせよ、今週で国会が会期末を迎え、自民党の総裁選に入って小泉総理の後継総理が9月に決まります。構造改革が今後どのように受け継がれるのか。大いに興味を持って自民党の総裁選を見守りたいと思います。

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