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2006年7月 7日 (金)

グレーゾーン金利をどう考えるべきか?

最近、消費者金融などのグレーゾーン金利についての新聞記事を見かけます。利息制限法と出資法の規定が違っていて、消費者金融業者なんかが高い方の金利で貸しているのを金利を一本化して多重債務者を減少させたり、ひいては解消することなどを目的にしているようです。その他に、貸し金業者の強引な取立ても社会的に問題になっており、多重債務者と強引な取立ての双方を減少させることが目標とされているようです。
他方で、ナイーブな市場原理主義の私なんかは営業自由の原則から、利息を法的に制限するのはいかがなものか、と思わないでもありません。でも、結論を先取りして、利息を制限するのは世論一般の方向として確立されているように見受けられます。
消費者問題の専門家などによると、情報や交渉力の格差が貸し手の貸金業者と借り手の消費者に存在するようにいわれています。つまり、今100万円を借りたら、金利が例えば30%ならば、1年後や2年後にいくらになるか、が、借り手の消費者にはよく認識されない場合があるのが情報の非対称性で、交渉力については貸金業者の強引な取立てなどを指しています。
ここで、ある人から聞いたところによれば、私は確認していませんが、ある経済を取り扱っているブログで、強引な取立てを制限することと、金利に上限を設定することは、経済的に見て同義であって、金利に上限を設定すれば、そもそも強引な取立てが必要なリスクの高い消費者に貸出しをしなくなるので、結局、強引な取立てが不要になるハズである、と主張されているようです。しかし、私はこれは明らかに間違っていると思っています。というのは、私は貸金業における情報の非対称性は、すぐれて、アカロフ的なレモンの論理で、情報の非対称性は借り手に情報があって、貸し手には情報が少ないことであると考えているからです。
ではどんな情報が借り手にあって、貸し手には不足しているのかというと、まさに、アカロフ的な議論で、借金を返せるかどうかの返済可能性の情報です。上限金利を設定しても、その金利で消費者が貸金業者に返済が可能かどうかの情報は、やっぱり、消費者の方にあるのではないでしょうか。この返済可能性に関する情報が貸金業者に不足している限り、強引な取立てはなくならないと考えられます。上限金利を設定するかどうかは、消費者問題の専門家が取り上げる情報の非対称性ではなく、私の主張するアカロフ的な情報の非対称性に、直接的には影響を及ぼしません。もちろん、上限金利が設定されれば、貸金業者の採算が取れる貸倒れ率が逆算されますから、貸出し業者の貸出し態度を慎重にするインセンティブが生まれます。採算点を超える貸倒れ比率を生ずれば、その貸金業者は倒産しかねません。でも、逆に、貸倒れ比率を低下させるためには、強引な取立てをしようとするインセンティブも生まれます。
そして、ナイーブな市場原理主義者が考えるような原則自由の貸出し金利設定も、やっぱり、返済可能性に関する情報の非対称性には影響を与えません。要するに、貸出し金利を制限しようと、自由な市場原理に任せようと、アカロフ的な情報の非対称性は解消されないと考えられます。もちろん、ムチャクチャ高い金利を設定して大きな利益を出し、借り手の返済能力をバッチリ調べ上げることが可能になるかもしれませんが、そんな貸金業のあり方を国民が望んでいるとは考えられませんし、それでは多重債務者が増加する可能性もあります。

しかし、実は、ここには、もっと考慮すべき問題があります。主観的な返済可能性に関する情報は、確かに、アカロフ的な意味で非対称なんですが、実は、客観的な結果としての返済可能性の情報は消費者も持っていない可能性があることです。実際に、そのような返済可能性に関して理解が不足している消費者こそが問題となっている可能性が極めて高いように私には見受けられます。アカロフ的な情報の非対称性ではなく、あえて命名すれば、ヨシオカ的な情報の非存在が疑われるのが、消費者問題としての本質ではないかと私は考えています。ようするに、貸金業者と問題を生ずるような消費者は、客観的かつ事後的に、自分が返済できるかどうかが分かっていない可能性があるわけです。これはやっかいです。

かなり長くなりましたので、そろそろ結論に入りたいと思います。
要するに、私の見るところ、貸出し金利を制限しようが、自由にしようが、アカロフ的な返済可能性に対する情報の格差は頑として存在します。返済可能性についての情報は借り手の消費者の方により多く存在します。あるいは、どこにも存在しません。そして、貸出し金利を制限すれば、貸金業者が一定の採算点まで貸倒れ比率を下げるためには、貸し出し態度を慎重にするか、強引な取立てをするか、どちらにもインセンティブを生じます。ただし、貸出し金利を制限した場合、貸し手の貸金業者から見ると、金利と採算点の貸倒れ比率はかなりの程度に順相関を有すると考えられます。つまり、金利が高ければ少しぐらい貸倒れが生じても採算が取れます。同様に、借り手の消費者から見れば、金利と実現される貸倒れ比率は順相関を示すと考えられます。すなわち、金利が高いほど返済不能になる可能性が高いわけです。カーテシアン座標でプロットすると、どちらの均衡線も右上がりの曲線で示されますので、均衡点はとても不安定な可能性があります。さらに、多重債務問題に着目すると、金利と多重債務者は、これまた、順相関と考えられますが、多重債務者は少ない方がいいので、金利が低い方が多重債務者は減ると考えられます。
他方で、1月の最高裁の判決とこれに起因する現在の世間一般の理解からして、金利制限を設定するならば、多重債務者問題を考慮して、ある程度の低い金利に抑えつつ、どちらも貸倒れ比率を損益点以下に下げる手法である、慎重な貸出しと強引な取立ての間で、前者の貸金業者の貸出し態度を慎重にさせるインセンティブを考える必要があります。規制金利を低い水準にすることは簡単ですが、貸倒れ比率を下げるインセンティブは貸金業者のモラルに任せるのではなく、制度的に保障することがとても重要です。現時点までの金融庁の議論ではこれが欠けているように思えてなりません。

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