北朝鮮の核実験に対して金融市場は平静
一昨日の正午に北朝鮮が核実験に成功したと発表しました。とても特徴的な北朝鮮のアナウンサーの絶叫調の放送をご覧になった方も多いと思います。ちなみに、いきなり脱線しますが、私の職場の同僚で韓国通がいるんで聞いてみたんですが、韓国ではテレビのアナウンサーは日本と同じように淡々としゃべっていて、こんなに絶叫調ではないといっていましたので、アナウンサーが絶叫調でしゃべるのは朝鮮半島に共通していることではなく、北朝鮮に特有の事情のようです。
今日のランチで、マイナーなマスコミのコメンテーターをしている、ある大学教授とごいっしょしたんですが、専門外の北朝鮮の核実験でコメントを求められてとても苦労した、といっていました。経済学的な捉え方として、昨年のノーベル経済学賞を受賞したシェリング教授のゲーム論を引いて、太平洋戦争時の日本のように拡張的な戦略を有しているんであればカタストロフィックな結果になるけれど、自国の体制保持が目的なのであれば、何らかの解が存在する、とコメントしておいたそうです。みんなが知っている孫子の「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」で締めくくったそうです。そもそも、北朝鮮や核実験はもとより、ゲーム論も専門ではないので、とても苦労したといっていました。
私も北朝鮮や核実験は専門外なので、ざっと金融市場を見た感想なんですが、昨日と今日のマーケットを見ていて、北朝鮮の核実験の日米金融市場への影響はとても限定的だったと考えています。7月5日のエントリーで北朝鮮のミサイル発射について取り上げた時と同じなんですが、地政学的なリスクが高まると質への逃避が生じます。まず、金融資産の間で株式から債券へ資金がシフトします。債券の中でも社債から国債にシフトします。国債の中でも中長期債から短期債へシフトします。それから、外国為替では核を持たない日本円から核保有国である米国のドルなどへシフトします。でも、今週に入ってからの金融市場ではこれらの質への逃避はまったく生じていないか、とても限定的にしか生じていません。
月曜日は日本の市場は体育の日でお休みでした。米国ではニューヨーク市場で株式は北朝鮮の核実験の報道があったにもかかわらず、まずまずの結果で終わり、昨日火曜日は史上最高値を更新しました。また、月曜日はコロンブス・デーだったか、何だったかで、先進国ではめずらしい、いわゆる片目の市場でしたので、債券市場はお休みでしたが、先週金曜日の市場で債券が売られた流れを受けて、昨日火曜日の債券は売られて値を下げていました。米国市場では質への逃避は生じませんでした。
日本も、昨日の株式市場は値を上げ、今日は少し落としましたが、そんなに大きな変動ではなかったといえます。昨日今日と債券は売られて値を下げ、日本でも質への逃避は生じませんでした。もっとも、日米よりもさらに直接的な影響を受ける韓国では、北朝鮮の核実験発表直後に株式や為替が売られたりしました。日本円はジリジリと円安になっていますが、プラザ合意以降で実質実効為替が最も安くなっていますし、120円の大台を前に円安への抵抗感もあり、韓国ウォンのようにドルなどの核保有国通貨への逃避は生じていません。
なぜか、北朝鮮が核実験を行ったと発表しても、金融市場は何事もなかったのごとく、平静で淡々と取引を続けているように見受けられます。逆の見方をすれば、日米経済の先行きが順調であるとか、日本については安倍総理大臣の訪中や訪韓が好感された結果であるともいえます。
今後については、地政学的なリスクがどこまで高まるかによりますが、やはり、極東の国として、日本でも下振れリスクが顕在化する可能性があります。現時点では、軍事行動として海上封鎖なんかが報道されていますが、さらに強硬に限定空爆なんかが実施されたりすると、日本の地政学的なリスクが高まる可能性が十分にあると考えられます。もっとも、テポドン発射の際に一部で取り上げられた限定空爆なんですが、北朝鮮の核保有の可能性が現実味を帯びた現段階では、誰もいわなくなったような気がします。北朝鮮の方でも軍事的な衝突は望んでいない可能性が高いと考えられますが、このあたりはエコノミストとしてはよく分かりません。
最初に書いた通り、何らかの地政学的なリスクが高まったとマーケットが判断すれば、質への逃避が生じます。さらに、大規模に国境を越える質への逃避が生ずると、株式といわず債券といわず為替といわず、日本から資金が逃避します。すなわち、株式、債券、円のトリプル安です。今後の地政学的なリスクがどうなるかについて不明な以上、少なくとも、現状では質への逃避は生じていない、としかエコノミストとしてはいえません。それ以上は分かりません。
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