円安批判にどう対応するか?
今日の東京も雲ひとつない快晴だったんですが、気温は上がらず寒かったです。カレンダー通りなんでしょうが、真冬に戻りました。
このところ、為替相場で対ドルが120円を超え、対ユーロでは史上最安値をつけるなど、先月1月の日銀の金融政策決定会合において金利引上げが見送られたことを受けて、円安が進んでいます。また、来月2月9-10日のドイツのエッセンにおける7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)をにらんで、為替水準に関する欧米からの発言が目立っています。米国のポールソン財務長官は1月31日の議会証言でwatching very very closelyとveryを重ねて表現し、とても注目していると発言したり、ドイツのシュタインブリュック財務大臣がG7の議題に乗せる考えを示したりしています。我が国の財務省首脳の発言については、別の新聞報道によれば、尾身財務大臣が「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映すべきだが、現在の水準についてはコメントしない」と発言したり、藤井事務次官が「今回のG7において円安が主要な議題として取り上げられるという認識はしていない」と記者会見で言っていたりします。
少なくとも、ここ2年間、政府は円安誘導の為替介入をしていないことは事実です。次の表は各年末時点での外貨準備と為替相場です。外貨準備は百万ドル単位で、為替相場は対ドルのスポットレートです。
年 | 外貨準備 | 為替相場 |
2000年 | 361,638 | 114.90 |
2001年 | 401,959 | 131.47 |
2002年 | 469,728 | 119.37 |
2003年 | 673,529 | 106.97 |
2004年 | 844,543 | 103.78 |
2005年 | 846,897 | 117.48 |
2006年 | 895,320 | 118.92 |
統計から明らかなように、2003年から2004年にかけて円高が進んだことに対して、かなり大規模な円売りドル買いの介入が実施され、外貨準備高が膨らんでいるのが分かります。それに対して、2005-06年は増加はしていますが、米国金利の上昇に従って金利受取り分だけ増えているのが実情です。要するに、円安誘導のための市場介入は実施されていません。別の話ですが、日本が市場介入をしない間に、中国が元の為替相場安定のためにドルの買支えを行い、中国は外貨準備高で日本を抜いたわけです。
市場介入によって人為的に円安を演出しているわけではありませんから、その裏には低金利があります。現時点で、金利の安い円で調達して金利の高い通貨で運用する、いわゆる円キャリー・トレードが10兆円、1000億ドルを超えているとの推計もあります。言うまでもありませんが、円キャリーにより調達された円は、より金利の高い外貨に交換されますから、円が売られて外貨が買われるので円安要因となります。
ですから、円安をストップするためには円金利の引上げが必要になります。当然、日銀でもこの視点は意識していると考えられます。しかし、北欧あたりの小国で為替レートをアンカーにして金融政策運営をしている国が存在することは事実ですが、日本のような経済大国が景気や物価などの自国の経済状況を離れて為替をアンカーに金融政策運営を行うことは現実的ではありません。なぜなら、円高により輸入品が価格面で競争力を持つようになることは確かで、価格効果は十分に見込めるんですが、円高によって景気が後退すれば輸入品への需要が減るわけで、この所得効果が日本のような大国では無視できないからです。いずれにせよ、日本国内の景気や物価の経済状況から決められる金融政策を為替相場をターゲットに運営することは問題があると考えられます。
少し前まで、日本経済がデフレやマイナス成長に陥っていた際には、諸外国も市場介入してまで円安誘導を行うことに対して、黙認と言うか、大きな批判はありませんでした。しかし、デフレ脱却が視野に入りつつあり、経済も金融も正常化を進めようとしているわけですから、このような現在の日本経済に対して、円安を問題視するのは理解できるところではあります。
これから、ますますマクロ経済政策の舵取りが難しくなる局面に差しかかって来るような気がします。
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