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2007年2月23日 (金)

クズネッツ教授の逆U字仮説

今日の東京は朝から冷たい雨が降りましたが、夕方には雨は止みました。天気予報では、明日からしばらくいいお天気が続くようです。

今日はクズネッツ教授の逆U字仮説を取り上げます。今では大学では教えていないのかもしれませんが、私の時代なんかは経済学のひとつのスタイライズされた統計的事実として、大学でも教えていたりしました。逆U字仮説とは、生産活動の結果としての所得の分配について、各国経済の発展の過程において、発展途上国が開発段階にある時は、1人当たり所得で計測される格差が拡大した後に一定段階で縮小するというものです。いろんな実証研究があるんですが、1人当たりGDPが1万ドルくらいから格差が縮小するとの結果を示唆するものもあります。
なお、クズネッツ教授はウクライナ生まれのロシア人で、後に米国に帰化しハーバード大学ほかの教授を務めています。逆U字仮説の提示の他、15-20年を周期とするクズネッツ循環の発見、平均消費性向の長期的安定性の発見などの計量・統計的な業績に対して、1971年にノーベル経済学賞を授与されています。もっとも、これらの逆U字仮説などのクズネッツ教授の研究成果は、理論的な裏付けが不十分であるとの批判もあります。でも、なかり広範な統計的・実証的な裏付けはあることから、エコノミストの間では広く受け入れられています。

ジニ係数

しかし、最近時点での研究成果によれば、先進諸国ではここ10-20年くらいで再び所得格差が拡大していることも事実です。例えば、上のグラフは日本の全国消費実態調査と世界各国のルクセンブルク所得研究プロジェクトのジニ係数を合成したものです。20年くらいの間、低下を示しているフランスと横ばいとも読めるドイツを除いて、その他の先進各国で、かなりハッキリとジニ係数が上昇して来ているのを読み取ることが出来ます。
ここで、私は2つの事実を指摘しておきたいと考えます。まず、ここ10-20年で格差が拡大しているのは日本だけではなく、世界的な現象だということです。先日、2月20日のエントリーで書いたように、格差の拡大には長期的・構造的な要因が存在し、キーワードはIT革命、グローバル化、金融技術の3つと指摘しましたが、正解各国の経済の発展とともに、これらが歴史の必然として生じていると解釈することも可能です。
次に、そうだとすれば、クズネッツ教授が発見したのは逆U字になる点まででしたが、ひょっとしたら、その続きがあって、逆U字ではなくN字なのかもしれない、ということです。つまり、経済が発展途上国段階において格差が拡大した後、経済の先進国化や成熟に伴って格差が縮小する、まではいいとしても、その先があって、経済の進歩とともに、再び格差が拡大する局面を迎える可能性があります。逆U字で終わらずに、N字であったり、あるいは、さらに先があって、逆W字である可能性も排除できません。
現時点で、私は明確で実証的な確証を提示できるわけではありませんが、ひょっとしたら、世界経済はクズネッツ教授の逆U字仮説を超えて、私達は格差の平等化が反転する時代を生きているのかもしれません。

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