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2007年5月18日 (金)

ゴルディロックス経済はいかにして可能となったか?

今日は、朝からいいお天気でしたが、夕方には雲が広がりました。明日にかけて下り坂なんですが、雨が降る確率は低いとの天気予報です。

少し前からゴルディロックス経済なるものがメディアなんかに登場し始めています。私のこのブログでも、昨夜は日本のGDP統計を取り上げ、まずまず好調であることは新聞なんかでも報じている通りです。さらに少し前には国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しを取り上げて、やっぱり、世界経済も好調を持続しているような分析でした。これらの好調な経済を指して使われているのがゴルディロックス経済です。もともとは "Goldilocks and the Three Bears" という題名の童話に出てくる少女の名前です。もう少し詳しくは、はてなダイアリーから引用すると以下の通りです。

Goldilocks
イギリスの童話「ゴルディロックスと3匹のくま」の主人公である女の子の名前。その童話では、熊の親子の家に迷い込んだゴルディロックスが、熱すぎず冷たすぎもしないちょうど良い温かさのスープ、ちょうど良い堅さのベッドを見つける。
転じて、インフレなき経済成長を達成する理想的な景気をゴルディロックス経済、ゴルディロックス・エコノミーという。

いろんなエコノミストがいろんなことを言っていますので、私の方から付け加えることは少ないんですが、2点だけ強調しておきたいと思います。第1に、このようなゴルディロックス経済は中国やインドなんかのフロンティアにおける労働力を世界経済の生産関数に組み入れると言う意味での開発によって可能となったことです。第2に、このようなフロンティアの労働力を生産関数に組み入れるに当たっては、米国が経常収支赤字を継続するという形で世界的に流動性を開発資金として供給することによって可能となったということです。要するに、世界経済の生産関数において、中国やインドなんかのフロンティアが労働力を供給し、米国が資本を供給して、アウトプットが増加したと私は考えています。
まず、現在の世界的なゴルディロックス経済は、何らかのイノベーションによってもたらされたものかどうか、私は疑わしい考えています。もっとも、この場合のイノベーションは生産関数のシフトや生産性に関してエコノミストが使う概念であって、工学的な技術革新とは少し違います。それはともかく、金融の分野を別にすれば、製造業の分野では生産関数のシフトをもたらす新たなイノベーションは最近10-20年ではそんなには生じていないのではないかと思われます。もちろん、ロボットの実用化やIT技術の発展などによって生産現場は劇的に変化したと言う人もいますが、私から見れば、携帯電話などの通信手段の登場は従来の通信機器に代替しただけであり、しかも、生産現場よりも国民生活の場での活用も広く見られることから、経済の生産性を劇的に向上させたかどうかは疑問です。ということで、第1のポイントは、むしろ、中国やインドといった新たなフロンティアが開発され、未熟練ながら低賃金の労働者を大量に世界経済の生産関数に取り込んだことの方がインパクトが大きいんではないかと私は考えています。この労働力を生産関数に取り込んだ余波は労働者の雇用者所得にネガティブな形で現れます。いずれにせよ、労働分配率が下がるんですが、タイプは2通りあって、米国流と欧州流です。米国流はフロンティアに資本を供給して直接的にフロンティアの労働力を活用することにより資本の収益率が高まり、相対的に雇用者所得の比率が下がるものです。これに対して、欧州流は生産拠点をフロンティアに移転する可能性を示唆して間接的に利用し、国内生産を維持する代償として賃金を下げることにより、絶対的に雇用者所得が減少するものです。日本は前者の米国流に近いんではないかと思います。実際には、ここまで極端ではないかもしれませんが、大雑把にはこんな感じだと私は考えています。
閑話休題
ただし、金融については私はエコノミスト的なイノベーションがあったと考えています。まあ、金融工学と言っても、ブラック・ショールズ方程式といっても大きな違いはないんですが、金融資産価格を分析し、リスクを分散したり、管理したりする面で大きな進歩があったからです。金融工学というと難しそうなんですが、平たく言えば、株式や債券なんかの金融資産価格がランダムウォークするとすれば、それらの集合を考えることにより、中心極限定理を用いて分布を正規化することが可能だということです。これで理解できれば頭がいいと思うんですが、私がよく分かりやすい例として持ち出すのはサイコロです。サイコロの目が出る確率は1-6まですべてが1/6で、ランダムな一様分布なんですが、2個のサイコロを投げると7が出る確率が最も高くなることは、マージャンをしない人でも直感的に理解できると思います。このように、一様分布するサイコロであっても、たくさんのサイコロを投げれば結果が正規分布に近づくというのが中心極限定理であり、正規分布やその他の統計的な分析対象となっている分布に従うことが分かれば、ランダムウォークする金融資産価格であっても多数を束ねることにより従来型の統計処理が可能となる、というのが核心部分です。従って、皮肉な結果なんですが、金融資産価格がランダムウォークすることを否定し、十分な情報があれば価格予測が出来ると信じている人たちが、金融資産価格のランダムウォークを前提とした金融工学を利用している場合も多く、私には矛盾しているようにしか見受けられなかったりします。
本題に戻ると、第2のポイントとして、中国やインドの未熟練ながら低賃金の労働者を世界経済の生産関数に組み込んで、フロンティアを拡大することを可能にしたのはドル流動性が開発資金として供給されているからです。要するに、米国が経常収支赤字を垂れ流して、米国民はドル紙幣を印刷することによりフロンティアに資本を供給し、その見返りとして高い消費生活水準を享受しているわけです。ですから、米国経済が経常収支赤字を続けても、途上国で米国ドルが開発資金として需要されている限りは、ドル暴落が生じる可能性は低いままで止まります。もちろん、開発資金としての米ドルの役割が終わる段階はいずれ来ることは明らかなんですが、それがいつになるかは誰にも分かりません。
もっと論を進めると、現在のフロンティアである中国やインドで労働力の供給が止まった時点で、米ドルに対する需要も終わる可能性が高いとはいえると思います。ただし、逆に、国際流動性の役割を果たしている米国による経常収支赤字という資本の供給が終われば、フロンティアでの労働供給もストップする可能性があります。いつの時点で、どちらが先行して、このゴルディロックス経済が終わりをつげるのかは、現時点では、私には予想もつきません。明日にでも中国経済が崩壊することを予言する人もいますし、最近、私が読んだ本では30年続くことに太鼓判を押している人もいたりします。でも、何の根拠もなく、私の直感からいえば、2010年過ぎあたりに日米の設備投資循環がピークを迎えるとともに、中国の北京オリンピックや上海万博などのイベントが終了しますので、中国発で何らかのショックがありそうな気がしないでもありません。でも、これを乗り切ると、もっと長期に継続しそうな予感もあります。いずれにせよ、まったく自信はありません

しかしながら、マーケット・エコノミストと違って、私のような官庁エコノミストに対しては、ゴルディロックス経済はいろんな意味でラクを出来る条件を整えてくれているような気がしないでもありません。

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