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2007年8月20日 (月)

株式市場の下落と金融システムの安定

今日も朝からいいお天気で真夏の暑さでした。酷暑や猛暑とまではいきませんが、気温も上がりました。でも、冷夏なんかよりも夏はこれくらい暑い方が、エコノミスト的に考えるといいんではないかと私は思っていたりします。

今日の東証の日経平均は先週末の欧米市場の流れを受けて反発しました。円相場も114円台まで反落したようです。全国紙の夕刊各紙は那覇空港の事故が1面トップだったんですが、さすがに、日経新聞だけは株式市場がトップでしたので、敬意を表してNIKKEI.NETから最初のパラグラフだけを引用すると以下の通りです。

20日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に4営業日ぶり反発。大引けは前週末17日比458円80銭(3.00%)高の1万5732円48銭だった。上げ幅は昨年6月22日(491円43銭)以来約1年2カ月ぶりの大きさで17日の下げ幅(874円81銭)の52%を戻した。米連邦準備理事会(FRB)による公定歩合の引き下げをきっかけに17日の米株式相場が大幅に反発した流れを引き継ぎ、幅広い銘柄に買い戻しが目立った。外国為替市場で円相場が1ドル=114円台に急反落したことを好感し、前週末に下げの目立った輸出関連株は軒並み高となった。東証株価指数(TOPIX)も大幅に反発。

いつもの政府の公式見解からすると、株価や為替レートは市場で決まるものであって、政策的な介入は最小限に止めるのが基本です。株価に政府が直接的な介入をすることは先進国では見られませんし、かつては大規模な市場介入が実施されていた為替レートも、今では、大幅な乱高下の場合にスムージング・オペレーションをするのが主流になりつつあります。では、政府や日銀は何をするのかといえば、金融システムの安定確保です。もっとも、安定の言葉がその昔は金融機関の護送船団方式の根拠とされていたりもしたんですが、今では、より狭く決済システムの健全化の概念に近くなっているように見受けられます。
私の記憶が正しければ、7月20日の株価は東証の日経平均で18,000円を上回っていたんですが、先週末の終り値を考えると、ここ1ヶ月で3,000円ほど下げたことになります。株価が下落する際の危険信号は銀行などの金融機関の自己資本比率の低下と決済資金の流動性の不足です。前者は決算期に問題となりますが、日々の営業活動の上では、後者の流動性不足による金融機関の破綻が問題となります。具体的には、預金者からの引出し要求に応じられないのなんかは古典的なんですが、それ以外にも、何らかの支払いが出来なくなると破綻するわけです。資金繰りに行き詰って破綻するのは事業会社と同じなんですが、金融システムの健全性の観点から、金融機関はより厳しい条件が課されていて、債務超過の場合は破綻と認定されます。資金繰りの観点からは、古典的な対預金者だけではなく、コール市場に返せなかったりすると、もちろん、破綻となります。株価に関係するところでは、レバレッジをかけて投資している場合などで、マージンコールを要求されて応じられないケースなんかが考えられます。
日本のシステムでは毎月15日を目指して預金準備を積むことになっていて、ちょうど、先週がそれに当たっていましたので、日銀は1兆円の流動性供給を行ったりしたわけです。もっとも、欧米にお付き合いしたとの見方もあります。でも、私が聞き及ぶ範囲では、欧米では流動性の出し手が中央銀行である ECB と FED しかなくなったような悲惨な状況だったようなんですが、さすがに、米国のサブプライム問題の影響が少なくて、また、大きなレバレッジをかけるような金融技術を駆使することが少ないのか、日本では、短資市場では混乱が少なかったようです。金融技術が未発達なのが幸いしたのかもしれません。また、米国の公定歩合に当たるロンバート貸出しもアンカーの役割を果たしているようです。少し前までは、ロンバート貸出しは評判が悪くて、顧客の信頼を損ねるとか、ひどいことを言う人からは、ロンバートを使えば担当役員の首が飛ぶ、なんて言われた時期もあったんですが、現在では、最後の流動性確保のアンカーとして機能しているようです。先週に、オーバーナイト・コールがハネ上ったのも、主として、そんなに適格担保を持たない外銀がロンバートに頼れず、コール市場から取りまくったためらしく、邦銀は国債をドチャッと持っているので大丈夫との説もありました。
8月6日のエントリーで表明したように、実体経済への波及の観点からは、私は為替レートの方を注目しています。先週末には一時112円まで円高が進みましたが、現時点では、114円台まで戻していると言うものの、日銀短観なんかの調査結果から考えると、輸出企業の採算ラインから見てギリギリだという気がしないでもありません。一説には、115円を割れば円売りが始まるんではないかと言われたりもしましたが、プロのディーラーも顔負けのレバレッジをかけて為替の証拠金取引を行っていたシロートが大きなダメージを受けて、外貨へのアペタイトが大幅に低下している可能性も否定できません。
さらに、私の個人的な感触として、そんなに大きな根拠はないんですが、米国のサブプライム問題はまだ一段落したわけではないと考えています。ざっと計算しただけでも、サブプライムの損失は桁違いまではいかないものの、ここ1ヶ月の混乱の2-3倍のマグニチュードを持っている可能性があると考えています。さらに、これから証券格付が大きく変更されることも考えられますし、少なくとも、米国では日本よりも実体経済への影響度合いが大きいのは当然ですから、米国経済が予想されるよりも大きく減速すれば、最終消費地である米国への輸出に依存している日本やアジア各国への影響も、ラグを伴って、これから出て来る可能性があります。今日の東証で株価が持ち直して、為替も戻りつつあるとは言え、決して、手放しで楽観できる状況にはありません。

今夜はいろいろと考えた上に、長々と書き連ねてしまいましたが、いずれにせよ、官庁エコノミストとしては、今日の東証の取引結果を楽観することなく、また、株式市場や為替取引での投資家の損失に思いを巡らせるよりも、円滑な経済取引を支える金融システムの安定性を重視するのがスジだろうという気がします。

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