国際通貨基金 (IMF) の Global Financial Stability Report
今日は、夜の間に降った雨も明け方までに上がり、朝から秋晴れのいいお天気でした。気温も30度近くまで上がったようです。でも、お彼岸を過ぎたからと言うわけでもないんでしょうが、真夏の暑さからはほど遠かったような気がします。帰り道で、少し雲がかかっていましたが、まん丸の中秋の名月がよく見えました。ラマダンもあと残り半分です。
今日、安倍内閣が総辞職し、午後に衆議院と続いて参議院で首班指名が行われ、議決結果が異なったものですから、両院協議会を経て、最終的に5時半ころに、自民党の総裁に昨日選出された福田元官房長官が第91代総理大臣に指名されました。組閣は夜にずれ込み、7時半ころに町村官房長官から閣僚名簿の発表がありました。ほとんどの大臣が再任で、ある意味、大いにびっくりしました。同時に、皇居での認証式や初閣議などは明日の午前中に行われる旨が町村官房長官から明らかにされました。私は出向中の身分でもあり、特に組閣の待機をすることもなく早々に職場を失礼してしまいました。
それはそれとして、昨日、9月24日に国際通貨基金 (IMF) から "Global Financial Stability Report" (GFSR) が発表されました。IMF のサイトには PDF ファイルで日本語のサマリーも公開されています。注目点は米国の住宅ローン関連の損失についてサブプライムだけでなく、信用度のより高いオルトAまで含めて、1700-2000億ドルと試算していることです。いつもの朝日新聞のサイトから引用すると次の通りです。
国際通貨基金(IMF)は24日発表した世界金融安定報告で、米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題を「甘くみてはいけない。(金融市場などの)調整は長期化するだろう」と警告。この問題を背景にした「資金繰り悪化で、(世界の)いくつかの銀行が支払い不能や債務超過になり、救済が必要な事態を迎えるかもしれない」と指摘した。
また、米住宅ローンの焦げ付きに伴う損失は、サブプライムより貸し出し条件が一般ローンに近い「オルトA」という融資の分を含め、約1700億-2000億ドル(約20兆-約23兆円)にのぼるという試算も紹介した。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は7月、サブプライム関連の損失は「最大約1000億ドル」との推計に触れているが、それより大きく膨らむ可能性があることになる。
報告は、大手の金融機関については「資本が厚く利益もあるので損失を吸収できる」としたが、「規模が小さく投資対象をさほど分散していない金融機関は、より打撃を受けやすい」とした。
とくにサブプライム関連証券に投資してきた投資会社などの資金繰り悪化を警戒。グループ会社の損失を、親銀行などが与信供与で事実上肩代わりせざるをえなくなることも考えられるため、「いくつかの銀行が支払い不能や債務超過の状態になる可能性もある」との懸念を示した。
金融機関の損失見通しは報道されていますので、別の角度から私なりの見方を提供すると、まず、いつもの GFSR と同じように3章立てで、私もすべてを読み切ったわけではないんですが、やっぱり IMF でも、私の見立てと同じように、今回の金融市場の混乱の本質を "The absence of prices and secondary markets for some structured credit products, and concerns about the location and size of potential losses, has led to disruptions ..." (以下略)と考えているようです。要するに、情報不足のために市場で価格付けできない金融商品が市場で流通することはあり得ないと言うことだと解釈しています。第1章の結論として、今まで以上に注目する必要がある分野として5点上げているんですが、その最初の事項は、"the important role of uncertainty and lack of information" となっています。さらに、邦訳の巧拙は別にして、朝日新聞の引用にもある通り、"The potential consequences of this episode should not be underestimated and the adjustment process is likely to be protracted."と述べて、この問題を軽視しないように警告しています。しかし、他方で、今回はあくまで GFSR における評価であり、世界経済への影響については10月17日に公表するとしています。なお、どうでもいいことかもしれませんが、GFSR ではサブプライムではなく、ノンプライムという呼び方をしており、ひょっとしたら、人口に膾炙したサブプライムと定義が異なるのかもしれません。
また、第3章のパネルデータに基づく実証分析が興味深いです。すなわち、第3章では1977年から2006年までの先進国とエマージング諸国をサンプルに取り、パネル推計によって資本流入の額とその変動係数の決定要因を分析しています。説明変数は株式市場の厚みと流動性、金融の開放度などの金融関連の変数を取り入れ、さらに、期間の短いサンプルを用いた分析では、企業ガバナンスの質や会計基準といった金融制度の質に関する変数も含めています。この実証分析の結果、株式市場の流動性と金融の開放度が資本流入額を押し上げることが示されています。当然と言えば当然の結果です。加えて、パネルデータによる推計では、金融の開放度が高いほど、また、金融に関する制度の質が改善されるほど、資本流入のボラティリティが小さくなることが示されています。これまた、当然と言えば、当然の結果なんですが、国際機関が実施した実証分析で数量的に示されたのには意味があると思います。大きな意味での政策の方向性を示すことに腐心している様子が伺われます。
最後に、先週9月18日のエントリーで取り上げたアジア開発銀行の経済見通しと同様に、エマージング諸国についてはリスクは絶妙 (finely) なバランスを維持しているとし、マクロ経済のファンダメンタルズや政策決定のフレームワークが改善していることから、対外債務が縮小して、債務の期間構造も十分に管理されていると、エマージング諸国の金融情勢を大いに評価しています。前世紀においては、金融危機と言えばエマージング諸国での外貨不足が通り相場だったんですが、今回の流動性不足危機は先進国で生じているのが大きな特徴です。前世紀型のエマージング諸国の金融危機を冷ややかな目で見ていて、IMF のコンディショナリティ付きの緊急融資で支援していた先進国で、今回のような大きな金融問題が生じたわけですから、その意味では21世紀型の金融問題なのかもしれません。でも、IMFはそれを逆手にとって、それなりに健全性を維持している新興国に注目して、金融問題についてもデカップリングされていると考えているフシがないでもないです。もっとも、こんな部分を熱心に見ているのは私くらいのような気がしないでもありません。
私流のヒネた見方をすれば、10月17日に発表される予定の IMF の World Economic Outlook (WEO) で世界経済の見通しが、4月時点から下方修正されるのは当然なんですが、そこに、デカップリング論がどのように援用されるのかが注目点です。
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