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2007年10月 4日 (木)

一般物価水準は何によって決まるのか ?

今日は、朝からいいお天気で、気温もそれなりに上がりました。10月に入って、毎日、気温が上がっているような気がしないでもありません。

このブログの9月28日付けのエントリーでも取り上げた通り、先週の金曜日に総務省から発表された消費者物価 (CPI) は8月の全国のヘッドラインで-0.1%の下落となり、7ヶ月連続のマイナスを記録したところですが、最近、エコノミストの間では携帯電話通話料の値下げと食品価格の引上げが話題になっているようです。携帯電話については総務省の検討結果に基づいて、高額の販売促進費で1円携帯として携帯電話機を事実上無料で配布した後、高額の通話料が発生しかねない問題が指摘されており、電話機を値上げして通話料金を引き下げるものです。通話料金の引下げは各種割引制度の拡大ではないかといわれているんですが、料金体系の抜本的な変更だという説もあり、今月中に各社から詳細が発表されるらしいです。なお、携帯電話機のハードの値上げと通話料の値下げがセットになっているんですが、消費者物価指数統計の1万分比で見て、移動電話通話料が208を占めるのに対して、移動電話機は4ですから、ウェイトは通話料金の方が圧倒的です。通話料の引下げを最大限目いっぱいに見込むと、消費者物価に引き直して-0.3%くらいの引下げ要因になるとの試算結果もあり、消費者物価のマイナス幅が広がることから日銀の再利上げに影響を与えかねないと懸念する向きもあります。それから、食品の値上げは小麦・大豆・トウモロコシなんかの原材料価格の上昇と生産段階で使われる石油価格の上昇に起因するといわれています。いろんな加工食品の値上げは、一例として、ネットで拾った画像を以下に示しておきます。表を見ても分かる通り、単純な価格引上げとともに、価格を据え置いた上で量を削減するという手法も取られているようです。ヘドニックで物価指数を算出するのであれば、当然に値上げと同じ計算結果をもたらします。

最近の主な食品の値上げ

それでは、携帯通話料金の引下げと食品価格の値上げはどのような影響を一般物価水準に及ぼすのでしょうか?
その前に、まず、総務省の消費者物価指数に関する Q&A によれば、実態把握が難しいために家族割引、使用年数による割引、契約年数の条件付プランの3つは採用していないようです。統計的な正確性を担保するためには覆面調査員によるリストプライス調査にならざるを得ませんから、これは多くのエコノミストは仕方がないと考えています。それに、携帯電話各社の値下げ内容の発表がまだなので、割引制度で対応するのか、料金体系を変更するのか、詳細は不明ですし、さらに、実際に消費者物価が計算される時にはどこまで算入されるのかに至ってはまったく明らかではありません。特に、私は携帯電話を持っていないので料金体系なんかも馴染みがありません。さらに、私の同業者のエコノミストでも、大きく計算する人とほとんど影響を認めない人の両方がいます。もっとも、明らかなバイアスがあって、先行き弱気派として、この先物価は上がらないし、日銀も利上げに苦労するだろうと考えているフシのあるエコノミストは携帯通話料金の引下げの影響を大きく見て、消費者物価の下振れリスクを重視する傾向にあり、逆は逆で、日銀応援団とまでは言わないまでも、先行き強気派で日銀の利上げに理解を示す向きは、この携帯通話料の影響を小さく見ているような気がしないでもありません。要するに、我田引水で自分の主張に都合よく解釈しているわけです。別の視点から見ると、政府統計でも業界統計でも多少のブラックボックスは存在するわけで、エコノミストの業界でまったくガラス張りの透明性を誇っているのは内閣府の景気動向指数ぐらいのものかもしれません。
他方、食品価格の方はメーカーサイドで値上げしても、流通段階で吸収されてしまう可能性があります。日銀が発表する企業物価指数 (CGPI) がプラスを続けているのに対して、消費者物価 (CPI) がマイナスを続けている一因は、出荷価格が引き上げられても流通段階で価格上昇が吸収されているからに他なりません。例えば、イオン・グループでは「生活応援宣言」と称して、イオン直営のジャスコなど約380店舗で生活必需品やその季節に購買頻度が上昇する商品約100品目の価格を凍結すると発表しています。出荷段階で価格が引き上げられたとしても、消費者物価は小売店における店頭価格の調査ですから、流通段階で価格上昇が吸収されてしまって店頭価格が引き上げられないのであれば消費者物価指数の統計に反映されないのは当然です。
経済学のもっとも初歩的かつ典型的な議論として、価格と数量はそれぞれのカルテシアン座標における右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線の交点により決まる、というのがあります。需要曲線は買い手=消費者の嗜好の変化などによりシフトし、供給曲線は技術革新などによりシフトします。さらに、ご注意いただきたいのは、タイトル通り、今夜のエントリーでは個別商品価格ではなく、一般物価水準を取り上げていることです。この2点を総合すれば自然と理解されるように、一般物価水準は総需要曲線と総供給曲線の交点で決定されます。別の言葉でいえば、一般物価水準はマクロの需給ギャップに反応します。もちろん、需給ギャップだけでなく、販売行動や購買行動にインプルメントされるであろう期待の影響も受けます。いずれにせよ、マイクロのレベルで決定される個別商品の価格は、相対価格の変化をもたらすことはあっても、マクロの一般物価水準に決定的な影響力を持ち得るとは私は考えていません。もちろん、消費者物価指数は統計ですから、個別の商品価格をウェイトに従って積み上げることにより計算されます。その意味で、個別商品価格は消費者物価指数の統計を動かすんですが、経済的に意味のある家計の最適化行動において、個別の商品価格の引上げは相対価格の変化として価格弾力性と財の間の代替の弾力性に応じた影響を及ぼすだけであって、控えめに言っても、マクロの総所得と総支出に及ぼす影響はかなり小さいと言わざるを得ません。これは、相対価格が変化しないケース、すなわち、すべての商品価格がいっせいに10%値上げされた、とか、デノミの場合を想定すれば明らかだと思います。もちろん、所得を含めて単なる呼称が変更されるだけのデノミと違って、所得が変化なくて商品価格だけが一律で変化する場合は価格弾力性に応じた最適化行動になると考えられますが、時間はかかるものの、所得が価格の水準まで調整されるでしょうから、タイムパスを別にすれば結果はデノミと同じことだと考えることも出来ると思います。

今夜のエントリーでは、同業者のエコノミストのみなさんが熱っぽく分析している携帯電話通話料の引下げと食品の値上げについて、ナナメから、かつ、冷たく、そんなの関係ネエ、と取り上げて見ました。ブログでは定量的な論証が難しくてデノミなんかを持ち出した直感的な議論なんですが、マイクロな個別商品価格である携帯電話通話料の引下げや食品の値上げは相対価格を変化させるのみであり、むしろ、需給ギャップや期待こそがマクロの一般物価水準を決定する、というのが私の結論です。なお、この結論を受け入れるかどうかは別にして、議論の流れをご理解いただけたのでしたら、食品の値上げは困る、とか、ガソリン価格が高いのはケシカラン、携帯電話通話料が下がるのは助かる、とかいったようなコメントやトラックバックはご遠慮下さい。今夜のエントリーはそんなことを取り上げているのではありません。

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