プラスに転じた消費者物価上昇率をどう評価するか?
今日も、朝から雲が広がり、気温は上がりませんでした。昼前には陽射しもあったんですが、長続きはしませんでした。午前・午後とも、にわか雨があり、冷たい雨でした。
今朝、総務省統計局から消費者物価指数が発表されました。10月の全国と11月の東京都区部です。全国の生鮮食品を除くコアで前年同月比0.1%のプラスをつけました。プラスを記録したのは10ヶ月振りです。原油高を背景にしたエネルギー価格の上昇の寄与が大きかったと考えられています。しかし、欧米流の食料とエネルギーを除くコアコアではまだ▲0.3%の下落を続けています。なお、上のグラフは右下に11月26日更新とある通り、今日の発表分が含まれていません。毎週月曜日の更新のようで、ご容赦下さい。さて、いつもの NIKKEI.NET のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
総務省が30日発表した10月の全国消費者物価指数(CPI、2005年=100)は変動の激しい生鮮食品を除くベースで100.5となり、前年同月と比べて0.1%上昇した。上昇は10カ月ぶり。原油高を背景にガソリン、電気代が物価上昇をけん引した。物価下落の状態からは脱しつつあるものの、モノやサービスの需給の引き締まりはみられず、物価の基調はなお弱いままだ。
10月の全国CPIを食料とエネルギーを除くベースでみると前年同月比0.3%のマイナス。2006年1月から続く下落に歯止めがかかっていない。大田弘子経済財政担当相は同日の閣議後の記者会見で「デフレ脱却に向けた動きは引き続き足踏みしている」との認識を示した。町村信孝官房長官は同日の会見で日銀の利上げについて「1カ月(物価が)上がったからといって金利どうこうというのは早過ぎる」と語った。
品目別にみると、10月はガソリンが前年同月比3%上昇。電気代、ガス代、灯油、プロパンガスを合わせたエネルギー全体は1.8%の上昇で、CPIを0.14%分押し上げた。
今日発表の消費者物価については、誰がどう見ても原油高に引っ張られた形のコストプッシュによる物価上昇で、需要の増加に裏付けられたディマンドプルではありません。引用した報道にもある通り、エネルギーの寄与は0.15%近くありますし、コアコアの消費者物価はマイナスのままです。消費者物価と同じく、今日発表された10月の失業率が9月に続いて4.0%になり、新規求人が落ち続けていることもあって、景気の基調は弱いままであることは明らかです。ついでに、やっぱり今日発表された10月の新設住宅着工戸数は前年同月比35.0%減と大幅減が続いています。もっとも、こちらは建築着工申請の審査の遅れに起因していますが、景気の下押し要因となっていることは確かです。私の知り合いのエコノミスト諸氏も消費者物価の上昇には否定的な評価一色で、物価上昇により実質消費が抑えられる「悪い物価上昇」論まで飛び出したりしていました。一昔前の「よいデフレ・悪いデフレ」の議論を思い出してしまいました。なお、デフレにせよ、物価上昇にせよ、一般物価水準の変化について「よい・悪い」を区別することについて、控えめに言っても大きな意味は見出せないと私は考えています。
今後の先行きに関しては、極端な見方では毎月のように0.1%ポイントずつ物価上昇が加速し、来年の1-3月期のうちに0.5%くらいまで達するとの見方もあります。私はそこまで極端ではありませんが、少なくとも来年1-3月期中に前年同月比で0.3%くらいには達すると見ています。しかし、その後は原油価格次第なんですが、標準的なシナリオとして原油価格がゆっくりと下がるとすれば、消費者物価の上昇率も縮小し、年央までに0.1-2%くらいに戻るんではないかと予想しています。年央以降は原油価格とともに景気の動向にも左右されますが、日銀政策委員の中央値である1%を来年中に超えるような事態はとうてい考えられません。
再び、10月の0.1%のプラスを付けた物価上昇の評価に戻ると、私はコストプッシュであることも、そうでなくても足取りの重い消費の下押し要因になることも、重々承知の上で、あえて、肯定的な評価をしたいと考えています。それはデフレ期待の払拭につながるからです。私もリフレ派の中にカウントされそうな気もするんですが、リフレ派の中には、インフレ目標を採用してでも物価上昇を目指すべし、との意見も根強くあります。インフレ目標政策の最大の眼目はデフレ期待の反転という期待に働きかける政策であると私は理解しています。でも、日銀は金融政策に制約を受けるためか、インフレ目標政策は言うに及ばず、期待に働きかける政策の発動にはとっても消極的に見えます。金融政策当局の政策発動は鈍いままなんですが、私のブログでも10月4日付けのエントリーで触れたように、原油や穀物などの商品価格の上昇に起因して、ここ数ヶ月で食料品やガソリンの値上げが相次ぎ、実生活上の経験から物価上昇の印象が強まった上に、統計的な事実として消費者物価がプラスをつけたんですから、さらに、この先、せいぜい0.5%くらいまでとはいえ、消費者物価の上昇が加速したりすることも考えられるんですから、国民の間で物価に関するデフレ期待の払拭につながる可能性が十分あるんではないかと、今回の物価上昇について肯定的に評価できる面もあると私は考えています。
おそらく、総務省統計局が携帯電話通話料金の割引制度を消費者物価の算出に取り入れないとしたのは、純粋に技術的な観点から決めたんではないかと私は想像していますが、ひょっとしたら、消費者物価統計がプラスに反転するという結果をもたらしたことで、意図せずに、日銀よりも巧みに期待に働きかける政策を実行してしまったのかもしれません。コストプッシュに起因して、消費を抑制する「悪い物価上昇」との意見もあり得ましょうが、プラス思考で考えたいと私は思います。
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