国際通貨基金 (IMF) の世界経済見通しの改定
今日は朝からいいお天気で、久し振りに気温も上がりました。最近、2週間以上にわたって東京の最高気温は10度を下回っていたようですが、今日はかなり気温が上がりました。風も弱くて、ランチタイムに外出するのにコートは不要でした。
現地時間の昨日、国際通貨基金 (IMF) から世界経済見通しの改定 "World Economic Outlook Update" が発表されました。日本語の仮訳もあります。概要は上の表の通りです。FT.com のサイトから最初の3パラだけ記事を引用すると以下の通りです。
The International Monetary Fund on Tuesday slashed its forecast for US growth and warned that no country would be immune from what it termed a "global slowdown".
The Fund said global growth would fall from 4.9 per cent in 2007 to 4.1 per cent this year, 0.3 percentage points lower than it forecast in October.
US growth would fall from 2.2 per cent to 1.5 per cent, with the eurozone slowing from 2.6 per cent to 1.6 per cent.
IMF は通常であれば4月と9-10月に年2回の世界経済見通しを発表し、この時期に経済見通しを改定するのは極めて異例なんだという気がします。一応、International Comparison Program が2007年12月に新PPPデータを発行したので、試算してみた形となっていますが、昨今の株式市場の下落なんかを織り込む形で改定したんではないかと考えるエコノミストが多いようです。私が同業者と意見交換した感触からすれば、かなり市場で注目されていたんではないかと思います。結果として注目されるのは、上の表から読み取れるところで、2007年の成長率から2008年がどれくらい下がるかで、世界経済の成長率が4.9%から4.1%に▲0.8ポイント、米国が2.2%から1.5%に▲0.7ポイント、欧州が2.5%から1.6%に▲1.0ポイント、日本が1.9%から1.5%に▲0.4ポイント、アジア新興国が9.6%から8.6%に▲1.0ポイント、それぞれ2008年は成長率が低下する見通しとなっています。上の表にはないんですが、昨年10月時点での世界経済見通しとの差分も注目されるところで、2008年の成長率で見て、米国が▲0.4ポイント、欧州が▲0.5ポイント、日本が▲0.2ポイント、アジア新興国が▲0.1ポイントの下方改定となっています。なお、世界経済全体の下方改定幅は▲0.3ポイントとなっています。微妙な評価になりますが、弱気派のエコノミストが見れば IMF が異例の時期に経済見通しを下方修正したということになりますし、次のパラで詳しく見るように、強気派のエコノミストからすれば米国の景気後退は盛り込まれていないとも見えます。しかし、いずれにせよ、IMF は明示的には表明していませんが、明らかにデカップリング論は破綻したと言えます。ひょっとしたら、今回の経済見通しでもっともインパクトの大きいメッセージはこれかもしれません。
米国の2008年成長率は上の表からは1.5%なんですが、IMF の見方はその右側の第4四半期対比で見た0.8%の方が実感に近いんではないかとされています。もっとも、かなり早い時期の米国の景気後退を言い出したゴールドマン・サックス証券のレポートでは、第2-3四半期に▲1.0%のマイナス成長を記録して、2008年を通して見れば0.8%成長との見通しでしたから、直感的には、IMF の経済見通しは米国は景気後退を回避できるとの見方であろうと考えられます。また、私の目から見てやや不可解なのは、欧州の成長率がかなり低いことです。欧州中央銀行 (ECB) では欧州の潜在成長率は2%程度と考えられており、昨年12月時点での2008年の経済成長率見通しは中央値で2.0%でした。最近時点で、次回の3月見通しでは下方修正するとの理事会メンバーの発言も報道されましたが、それにしても、IMF 見通しは思い切って低いような気がします。今回はほとんど数字だけの発表で、フォーマルな分析レポートがありませんので、詳しいことは分かりません。
先ほども書きましたが、今回の世界経済見通しの改定は、International Comparison Program が2007年12月に新PPPデータを発行したためとされており、世間的にはまったく注目されていないんですが、購買力平価 (PPP) で評価した世界のトータル GDP の成長に対する寄与度も再計算されています。上のグラフの通りです。世間的にはともかく、ひょっとしたら、IMF 的にはこれをメインにしようとしていたのかもしれません。IMF の思惑はともかく、もともと、中国の世界経済の成長率への寄与度は市場評価の為替レートでも米国より大きかったんですが、購買力平価で評価するとさらに巨大なものとなるようです。上のグラフの緑色の棒グラフです。今回、購買力平価が再計算されたので、中国やインドの寄与度がかなり下がったんですが、それでも中国の寄与度は購買力平価で評価すると欧米を合計したものより大きいですし、インドの寄与度も欧米と遜色ありません。日本の寄与度は市場評価の為替レートで評価しても中国やインドにも達しませんから、まあ、トータルの GDP の大きさはまだ負けていないとしても、今年の大田大臣による経済演説にあった通り、「世界の総所得に占める日本の割合は24年ぶりに10%を割り、日本は『経済は一流』と呼ばれる状況ではなくなった」のかもしれません。
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