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2008年1月29日 (火)

日本の雇用はゆっくり悪化に向かいつつあるのか?

今日は朝からが広がり、時折、雨が降りました。気温は上がらず寒かったですが、雪にはならずに雨でした。

失業率と有効求人倍率

今日は、雇用統計が発表されました。すなわち、総務省統計局から失業率、厚生労働省から有効求人倍率の発表がありました。12月の完全失業率は11月と同じで3.8%、同じく12月の有効求人倍率は11月から0.01ポイント下がって0.98倍でした。12月の計数が出たことにより、2007年の雇用統計が出そろったことになり、2007年の完全失業率は前年から0.2ポイント下がって3.9%と10年振りの3%台となりました。また、2007年の有効求人倍率は前年を0.02ポイント下回り、1.04倍となりました。上のグラフは赤の完全失業率と緑の有効求人倍率それぞれの推移を示しています。大雑把な傾向として、2002年の年初や年央から改善傾向にあったのが、完全失業率では改善が足踏みし、有効求人倍率は反転しかかっているのが読み取れると思います。まず、少し長くなりますが、いつもの asahi.com のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

総務省が29日発表した昨年12月の完全失業率(季節調整値)は前月と同じ3.8%だった。07年平均の失業率は前年を0.2ポイント下回る3.9%で、10年ぶりに3%台を回復した。一方で、厚生労働省が同日発表した12月の有効求人倍率(同)は前月を0.01ポイント下回る0.98倍と、5カ月連続で悪化。07年平均も前年を0.02ポイント下回る1.04倍で、5年ぶりに前年を下回り、厚労省は「改善の動きが弱まっている」としている。
12月の完全失業率を男女別にみると、男性が前月と同じ3.9%、女性は前月を0.1ポイント上回る3.7%。雇用者数は前年同月より60万人多い5531万人と34カ月連続で増え、完全失業者数は前年同月より13万人少ない231万人で、25カ月連続で減少した。
失業理由別では、リストラなどの会社都合による失業者が前年同月より3万人減り、自発的な離職者も8万人減と、改善がみられた。
ただ、12月の有効求人倍率は、新規求人数が前年同月比15.1%減と12カ月連続で減少したことなどで、2カ月連続で1倍を下回り、05年10月以来の低水準となった。新規求人数の減少は、9割が従業員100人未満の中小企業の求人減によるもので、厚労省は「原油高や資源高の影響で、中小企業が引き続き採用を手控えている」と分析している。

ごく単純に教科書的な見方を示すと、景気動向指数においては失業率は遅行系列で、有効求人倍率は一致系列ですから、失業率の完全が足踏みを始めて、有効求人倍率が悪化しているんですから、景気は下り坂と見えなくもありません。就業者数も12月は前月から▲4万人減少し、特に、雇用者数が▲23万人減少しています。もっとも、11月には就業者数が54万人の増加を示しましたから、この反動の面も読み取れます。さらに、方向だけでなく水準も加味すると、失業率が3%台で有効求人倍率も1を超えていますから、ややネガティブな印象ながら、現状の統計を見る限り、景気後退というよりも growth recession と評価するのが適当であろうと私は考えています。

業種別雇用者数推移

また、別の観点から2点ほど指摘しておきたいと思います。まず、上の asahi.com からの引用にもある通り、新規求人者数の減少が中小企業に集中し、逆に、雇用者の増加は大企業に依存していることです。格差を重視する観点からはよくない傾向にも見えないことはありませんが、私はまったく逆の見方をしています。すなわち、もしも、地方圏や中小企業が生産性が低いために大都市圏や大企業と格差を生じているのであれば、人的なリソースを生産性の低い地域や産業から生産性の高いセクターに移動することは社会全体の生産性や経済的厚生を高めることが明らかだからです。第2に、これも同じことなんですが、上のグラフに見る通り、ここ数ヶ月で雇用者を増加させている産業に縦縞の情報通信業が上げられます。もっとも、上のグラフは前年同月差ですから、新規求人者数の減少と雇用者数の増加よりも対比に無理があるカンジがしないでもないんですが、大雑把にはそう言えるかもしれません。情報通信業に比べて、やや要因は異なるんですが、先月については斜め縞の建設業が減少しています。私はそんなに確立された stylized fact だとは必ずしも考えていないんですが、生産性や付加価値を高める観点から、建設業から情報通信業に雇用がシフトすることを評価するエコノミストも少なくないと考えます。地方圏や中小企業から大都市圏や大企業に雇用がシフトしているのは、やや誤解を恐れずに言うと、建設業から情報通信業に雇用がシフトしているのと、生産性や経済的な厚生の観点から同じ効果を持つと評価できそうな気がします。

これらを総合すると、日本の雇用情勢はマクロではゆっくりと悪化に向かいつつあるようにも見えますが、よりマイクロに産業別なんかで観察すると、生産性の高い分野へのシフトも見られると言えなくもなく、マクロではややネガティブながらも、経済的な厚生を高めるポジティブな方向とも評価できると考えています。

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