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2008年2月 5日 (火)

生産要素の移動の重要性

今日も朝から冬晴れのいいお天気でした。段々と気温が上がって来たように感じます。でも、気温が上がった分だけ花粉も飛び始めました。私は今日から抗アレルギー剤を服用しています。

先週、1月29日の雇用統計が発表された際に少し取り上げましたが、雇用統計上からは、規模別には中小企業から大企業へ、また、典型的な産業別には建設業から情報通信業への雇用者のシフトが見られなくもないと私は考えています。これを人口移動として確認したのが、総務省統計局から1月25日に発表された平成19年の住民基本台帳人口移動報告です。この報告では東京圏への人口移動がバブル期以来の高水準となり、15万人を超えたことが明らかにされています。まず、少し古い記事ですが、いつものNIKKEI.NET のサイトから引用すると以下の通りです。

総務省が25日に発表した住民基本台帳に基づく2007年の人口移動報告によると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)への転入者数が転出者数を15万5150人上回り、バブル期以来の高水準となった。東京圏での経済活動が活発なことを反映しており、高水準の住宅建設などが続く背景になっている。
東京圏で転入超過が15万人を超えるのは1987年(約16万4000人)以来、20年ぶり。06年(約13万2000人)よりも2万人以上増え、3年連続で伸びた。
東京圏は87年以降、地価高騰などにより人口流入が鈍り、バブル崩壊の影響もあって90年代中盤には転出超過になった。その後は地価下落に伴う住宅価格の「値ごろ感」が出たほか、景気回復も相まって転入超過に戻った。自動車産業を中心に活況が続く名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)も転入超過になっている一方、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)は転出超過が続いている。

3大都市圏への転入超過数の推移

まず、東京圏、名古屋圏、大阪圏の3大都市圏への転入超過数の推移を見たのが上のグラフです。緑色の破線の東京圏への人口流入が15万人を超えて、バブル期以来の水準となったことが読み取れます。私は人口移動が経済成長に寄与するという結果を得た研究成果を発表したこともありますし、従来から、生産要素を生産性の低いセクターから高いセクターにシフトさせることは経済的厚生を高めると考えています。ご賛同のエコノミストも少なくないと思います。少し違うんですが、ジャカルタにいたころに開発経済学的な観点から、ルイス・モデルにおける生存部門から資本家部門への労働力の移動を数学的に論じたペーパーも書いたことがあります。共通しているのは、呼び方はどうであれ、生産性の低いセクターから高いセクターに労働力をはじめとする生産要素がシフトすれば、経済全体の厚生や成長率が高まるということです。
上の2本のペーパー以外にフォーマルな分析はしていませんが、私は格差是正の観点からも生産要素のある程度の移動が不可欠ではないかと直感的に考えています。しかし、世間一般ではその逆で、生産性の高いセクターが低いセクターに対して何らかの補償をする方向が主流となっているようにも見受けられないでもありません。評判の悪いタイプのバラマキはこの類と考えるエコノミストも少なくないように見受けます。もちろん、地域や産業を移動するコストが極めて高い場合もありますし、激変緩和的なある程度の措置は必要としても、動学的な生産性の向上を望めないセクターに対する何らかの財政的な補助は経済厚生を高めることにはならないと認識すべきだと考えられます。特定の産業に対する低利融資や事実上の補助金と化している公共事業などは、根本的な格差是正には寄与せず、格差の温存につながりかねないリスクを有している可能性があります。それよりも、地域間・産業間の生産要素の移動を低コストで出来るようにすることが公共部門の役割といえるかもしれません。また、別の観点ですが、特に労働については直接的に生産性を高めるような教育訓練も格差是正には有効であろうと考えられます。

いずれにせよ、不況になってムダに放置される生産要素の問題とは切り離して、やや清算主義的な傾きがあることは確かではありますが、格差を考える観点からは、労働にせよ資本にせよ、生産要素の生産物を政府が事後的に再分配するのは最終的な究極の手段であり、生産要素がより大きな生産を上げられるようなセクターに移動するコストを引き下げるのが最初に着手すべき政府の役割だという気がしないでもありません。そのために、政府がなすべきことはまだまだあると考えるエコノミストもいそうに感じています。

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