鉱工業生産指数の基準改定は景気判断にどのような影響を及ぼすか?
今日は、朝から雲が広がり、夕方から雨が降り出しました。気温はそこそこ上がったように感じました。
本日午後に経済産業省から鉱工業生産指数 (IIP) の2月確報値が発表されました。統計の結果はもちろんなんですが、本日の鉱工業生産指数から統計の基準が2000年から2005年に変更されたのが注目点のひとつでした。今週初めの4月10日に経済産業省のホームページで基準改定関係資料が大幅にリニューアルされて、2003年1月から今年2008年3月までの暫定計算値が発表されています。Excel ファイルでダウンロード出来るようになっていますので、上の通り、簡単にグラフにしてみました。青いラインが旧基準2000年基準で赤が新基準2005年基準です。季節調整済みの月次データです。
新旧両指数の基準年は一致させていませんし、フォーマルな分析なしに、グラフの印象だけでものを言うのは危険なんですが、旧基準と比較した新基準指数の特徴について、少なくとも以下の2点がグラフから見て取れると思います。
- グラフがスムーズである。 最近時点で下振れている。
言うまでもありませんが、この大きな原因は基準年改定による付加価値ウェイトの変更であることは明らかです。これも経済産業省が発表していて、下の表の通りです。
1万分比で100を超えるウェイトの変更があったのは、鉄鋼業が+159.4、電子部品・デバイス工業が▲341.4、輸送機械工業が+456.6、窯業・土石製品工業が▲139.6、繊維工業▲135.4、そして、印刷業が突然180.7のウェイトをもって新たに取り上げられていて、その上位分類であるその他工業は+93.2となっています。印刷業は別として、新興国の需要が強かった鉄鋼業や輸出が伸びた自動車を含む輸送機械工業がウェイトを増加させている一方、言い方は悪いかもしれませんが、斜陽産業と見なされてもおかしくない窯業・土石製品工業や繊維工業がウェイトを落とす結果となっています。ここまでは多くのエコノミストの想像の範囲だと考えられます。別の見方をすれば、統計の正確性を高めるとも言えます。
問題は電子部品・デバイス工業のウェイトが一気に低下したことです。2004年後半から2005年にかけての景気の踊り場で在庫調整局面にあった電子部品・デバイス工業の付加価値が一時的に低下した影響をモロに受けたとしか言いようがありません。電子部品・デバイス工業は他の産業に比較すると、産業としては成熟期に達していない、もしくは、達しつつある段階にある、という意味で比較的若い産業ですから、言わば、古典的な在庫循環が明瞭に観察されることから、このようなウェイトを減ずる結果になったのだと考えられます。もちろん、統計とはこういうもので、機械的に基準年を更新して行くものですから、仕方がありません。この電子部品・デバイス工業のウェイト低下により、古典的な在庫循環を示す産業のウェイトが低下したわけですから、上で指摘した第1点のグラフがスムーズになるという現象が説明できると私は考えています。
次には、ウェイトをより細かく見ると、輸送機械工業が+456.6の他に、引き続き、一般機械工業や電気機械工業が比較的大きなウェイトをもって、しかも、ウェイトを増加させていることです。明示的には示されていませんが、これらの産業は輸出比率が高いと考えられます。一般的にいっても、ここ2-3年の間、所得が伸び悩む中で内需が弱いことから、日本は外需に依存する度合が高い成長を続けて来ましたから、鉱工業生産指数の付加価値ウェイトでも輸出産業の占める割合が高まっていることが容易に想像されます。上で指摘した第2点の最近時点での下振れは、新基準の指数のウェイトが輸出産業で高まっていることから、米国の景気後退や円高に起因するものである可能性が高いと私は感じています。これからも、外需の影響を従来以上に強く受けることが想像されます。
こういった背景の上で、今日の午後に発表された鉱工業生産指数を見ると、やっぱり、少し前に考えられていた景気判断がかなり違って来ているように見受けられます。すなわち、経済産業省の予測指数を使うと、1-3月期は小幅ながらプラスになるようです。旧基準の生産指数では昨年10-12月期がピークで、足元では生産にブレーキがかかっているようにも見えたんですが、少なくとも、日本経済がすでに景気後退局面に入っているとの判断はとっても難しくなったように私は感じています。もちろん、この私の判断は昨年10-12月期から今年の1-3月期にピークが後ズレしただけで、今後は日本経済も景気後退局面に入るとの見通しを排除するものではありませんが、少なくとも、景気判断においてすでに日本経済が景気後退局面入りしていることは可能性としてとっても低いと言わざるを得ません。
日本の GDP に占める製造業の比率は低下の一途をたどっていますが、鉱工業生産指数は日本では景気サイクルの起点を占めます。すなわち、生産 ⇒ 所得 ⇒ 支出のサイクルです。ですから、このブログで何度か指摘したように、単に技術的に景気動向指数などで比重が高いというだけでなく、生産が景気判断に及ぼす影響は大きいと私は考えています。やや基準改定に技術的な問題がないとは言えないにしても、より正確な実態が統計に反映されるようになった現時点で、生産統計がこのような形で明らかになると、景気判断にも一定の影響を及ぼすことは明らかです。
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