« アジア開発銀行の経済見通し "ADO 2008" | トップページ | ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』(岩波文庫)を地下鉄で読む人を見かける »

2008年4月 3日 (木)

今夏のボーナス動向やいかに?

今日も、朝からいいお天気で、昨日よりもさらに気温が上がった気がします。午前中のうちに少し外出したんですが、上着を着て外を出歩いていると汗ばむくらいでした。

今朝の朝刊何紙かに今夏のボーナス予想についての記事が出ていました。シンクタンクや証券会社のエコノミストのリポートが基になっているようです。報道にもある通り、また、私が見た範囲でも、軒並みに今夏のボーナスは昨年より減少することが予想されており、各機関の違いは減少幅が昨年より大きいか小さいかくらいのものです。今夜は少しいつもとは違うところ、東京新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。なお、漢数字はアラビア数字に直しました。

民間調査機関4社の2008年夏の民間企業ボーナス予想が2日出そろった。原材料高や円高で収益環境が悪化していることを背景に、支給額は4社とも昨夏実績比で2年連続のマイナスと試算している。予想支給額の平均は、前年比2.8%減の39万6370円。
マイナス幅が拡大すると予想したのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、野村証券、みずほ証券の3社。米国のサブプライムローン問題に端を発した景気減速や、人手不足から正社員が増加したことによる人件費の増加が、ボーナスを引き下げる要因になっていると分析。
一方、マイナス幅の縮小を見込んでいる第一生命経済研究所は、パート社員の正社員化の動きがボーナスの下げ幅を縮小する要因となるとみている。
みずほ証券市場調査部の清水康和氏は「企業は好業績時でもボーナスの引き上げには慎重だが、景気が陰ってきたときの引き下げには機敏に動く。これでは個人消費はなかなか盛り上がらないだろう」とみている。

まず、順不同で各機関のヘッドラインの予想は以下の通りです。基本的に、民間企業の1人当たりの数字ですが、野村證券のみは毎月勤労統計ベースの計数です。なお、証券2社は顧客向けのリポートなのか、オープンなサイトにはなかったんですが、シンクタンク2社は PDF ファイルをアップしてありましたので、リンクを張っておきます。

上の引用にもある通り、第一生命経済研究所を除いて、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング、みずほ証券、野村證券の3機関は昨年よりも下げ幅を広げるとの予想ですが、4機関とも昨年よりも減少するという点については共通しています。なお、下の表は予想の一例として三菱 UFJ リサーチ&コンサルティングのリポートから取ったものです。

 1人当たり平均支給額
単位: 千円 (%)
民間企業396 (▲2.9)
   製造業495 (▲3.2)
   非製造業370 (▲2.8)
国家公務員630 (+0.8)
地方公務員602 (+0.8)

公務員が民間企業に比べて高いのは、支給率の違いに起因します。すなわち、民間企業ではボーナスが全員に支給されるわけではなく、パートやアルバイトの非正規雇用の社員には支給されない場合があるのに比べて、公務員はほぼ全員にボーナスが支給されます。同様に、製造業よりもパート・アルバイト比率の高い非製造業の支給額が低くなっているのもこれが一因です。
ボーナスが減少する第1の理由は、企業業績です。先日の日銀短観では増収増益の見込みが出ていますが、この先の見通しは悪化しています。第2の理由は、失業率の上昇や有効求人倍率の低下などに現れているように、雇用の需給が緩和していることです。第3の理由は、第2の理由の別の側面ともいえますが、パート・アルバイトなどの非正規雇用の比率が高まっているからです。要するに、景気拡大が続いて人で不足から賃金が上昇するという、日銀メカニズムの破綻はここでも見られます。加えて、第4の理由に上げようとは思いませんが、グローバル化などが進む中で、企業が従業員への給与よりも株主への配当を重視する姿勢を鮮明にしていることも背景に上げられるかもしれません。
問題はこのような所得条件が個人消費にどのような影響を及ぼすかなんですが、そもそも今まで、所得が伸び悩む中で生活水準を維持するため、消費性向の上昇により消費がそこそこの水準を維持して来たという事実があります。要するに、かなりムリをして所得を消費に回して来たわけです。この消費性向上昇のサステイナビリティについては議論が分かれるところです。極端な例を持ち出せば、少し前までの米国では貯蓄率がマイナスに突っ込むような消費を続けていたことも事実です。さらに、2月21日の1次EQを取り上げたエントリーでも触れましたが、1-3月期はうるう年効果で消費は強めに出ることが明らかですし、その後も、もしも、北京オリンピックが何らかの消費増大効果を持つことも考えられます。しかし、秋口以降の消費については未知数と言わざるを得ません。企業も家計もセンチメントはかなり悪化していますし、所得環境が改善しなければ、急激な景気の悪化も考えられなくもありません。上の引用にあるみずほ証券の清水さんの指摘もうなずけるところがあります。

昨日、米国連邦準備制度理事会 (FED) のバーナンキ議長が米国議会上下両院合同経済委員会 (Joint Economic Committee) での証言の後の質疑応答で、景気後退の可能性を否定しませんでした。もっとも、私を含めて多くのエコノミストがすでに米国は景気後退に入っていると考えているんですから、当然と言えば当然なんですが、このように、米国が本格的な景気後退に入る中で、日本の所得環境も悪化が続くようなことになり、外需に続いて消費の底割れが生じるような事態になれば、日本も景気後退局面入りが避けられないことになりかねません。

|

« アジア開発銀行の経済見通し "ADO 2008" | トップページ | ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』(岩波文庫)を地下鉄で読む人を見かける »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 今夏のボーナス動向やいかに?:

« アジア開発銀行の経済見通し "ADO 2008" | トップページ | ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』(岩波文庫)を地下鉄で読む人を見かける »