日米金融政策当局の動向を占う
今日から5月に入りました。朝から文字通り五月晴れのいいお天気でした。昨日と同じように気温も朝からグングン上がって、我が家の下の子なんかは半袖で小学校に行ったりしています。
昨日、米国の1-3月期GDP統計が発表されました。左のグラフの通りです。前期比年率で0.6%成長と、直近の市場コンセンサスの0.5%とほぼ一致しました。結果として、昨年10-12月期と同じ数字で潜在成長率を大きく下回る成長率ですから、日本のメディアの報道では低成長が続いているとの基調だったんですが、少し前まではマイナス成長を予想する向きも少なくなかったので、私はまずまずの数字ではないかと受け止めています。目先については、4-6月期にマイナス成長を記録する可能性が残るものの、7-9月期には財政政策の発動や金融政策がラグを伴いつつ効果を発揮することなどから、大きくリバウンドする可能性が指摘されています。ですから、巷間よく言われる2四半期連続のマイナス成長による景気後退=リセッションは、当面、免れる可能性も出て来ました。でも、私自身は米国の住宅資産価格の調整は今年いっぱいでは終わらない可能性も十分あると予想しており、7-9月期に続いて今年10-12月期以降も米国景気が、いわゆる V 字回復するとは考えていません。
こういった景気情勢を受けて、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会 (FED) が昨日開催した連邦公開市場委員会 (FOMC) では政策金利である FF レートを25ベーシス引き下げて、2.0%とすることを決めました。右のグラフの通りです。しかし、前回3月18日の FOMC と同じで、ダラス連銀フィッシャー総裁とフィラデルフィア連銀プロッサー総裁が金利据置きを主張して反対票を投じています。今回の FOMC のステートメントでは、75ベーシス引き下げた前回と比較して、基本的な景気認識は、前回3月18日のの"Growth in consumer spending has slowed and labor markets have softened." から今回4月30日には "Household and business spending has been subdued and labor markets have softened further." と、発表した時期に合わせて "further" が加わっただけですが、前回の "However, downside risks to growth remain." との表現が今回は抜け落ちており、さらに、前回は第4パラの主語が "Today’s policy action" との表現だったんですが、今回は "The substantial easing of monetary policy to date" に変化しています。単に、時制を考慮しただけでなく、昨年2007年5月29日付けのエントリーで「エコノミストの文学表現」を取り上げましたが、微妙な表現ながらも、そろそろ利下げの休止を模索する言い振りではないかと受け止められています。一次産品価格の上昇の下で、米国は日本と物価情勢が大きく異なり、インフレ抑制を重視した反対票が2票あったことも事実です。
他方、日本でも昨日の4月30日に日銀が「展望リポート」の基本的見解部分を、今日の午後に全文を発表しました。上の表は今年度から来年度にかけての日銀政策委員の大勢の経済見通しです。成長率見通しを下げて、インフレの予想が上がっています。ミニ・スタグフレーション的な見通しとなっています。中身に入る前に、今回の「展望リポート」の新機軸は「リスク・バランス・チャート」と称して、実質GDPと消費者物価の事前予測の確率分布を明示したことです。このブログでも2年前の2006年7月24日付けのエントリーで「事前の確率分布と事後の実現値の確率」と題して、事後の確率は当たったか当たらないかの0と1しかないものの、事前の予測は本来的には確率分布であり、ピンポイントの予想はあり得ないと主張したことがありますが、ひょっとしたら、お読みいただいたのかもしれません。冗談はさて置き、この「リスク・バランス・チャート」では成長率についても物価についても下振れの確率分布が fat tail であることが示されています。
本題に戻って、中身については報道されている通り、基本的な景気認識は「拡大」から「減速」に修正されました。これに従って、金融政策運営は、昨年10月には「金利水準は引き上げていく方向にある」と明記されていたものが、今回は「現在のように不確実性が極めて高い状況のもとで、先行きの金融政策運営について予め特定の方向性を持つことは適当ではない」と明記し、前回の「徐々に金利水準の調整を行う」に対して、今回は「機動的に金融政策運営を行っていく方針」に大きく変化しました。金利引上げの大方針が撤回され、昨年2007年12月26日のエントリーで取り上げた日本総研の山田さんの「日銀は『金利正常化の停止』宣言を」との主張に沿った政策運営の変更ともいえます。より詳しくは、日銀のホームページから「展望リポート」に当たるのが一番ですが、私なんかは怠け者ですから、みずほ総研の「日銀『展望リポート (2008/04)』の評価」と題するリポートの6ページ目で代用していたりします。
結論として、大方のエコノミストが主張する通り、日米両国の金融政策当局は当面金利水準を据え置くことが予想されます。日銀は金利引下げの選択肢を取るべきだと私自身は考えていますが、現実的には、ここ半年から年内いっぱいくらいは、何らかの景気動向に関する新たなエビデンスが出ない限り、加えて、週刊誌ネタのような突発的な外生変数の変化、例えば、原油価格がバレル200ドルに向かって猛烈に上昇するとか、北京オリンピック後に中国経済が大きな変調を来たすとか、などがない限り、金利は据置きとなることが予想されます。ここまでは当たり前と言うか、大方の予想の範囲内なんですが、これに加えて、私は為替の方向性に微妙な変化が生じる可能性を指摘しておきたいと思います。と言うのは、最近の為替動向は、このブログの昨年2007年6月25日付けの「国際決済銀行 (BIS) の年次報告書における円安警戒の論点は何か?」と題するエントリーで指摘したように、経常収支動向よりも金利に敏感に反応します。日本で利上げのモメンタムが失われ、米国で利下げのモメンタムがなくなりつつあるわけですから、ユーロという巨大なプレーヤーを無視するのは適当ではないかもしれませんが、少なくとも円ドル間での為替動向は円安ドル高の方向性に変化する可能性が高まります。これはひょっとしたら日本が景気後退を回避する上で追い風になる可能性があることを最後に指摘しておきたいと思います。
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