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2008年6月 5日 (木)

OECD "Economic Outlook No.83" は楽観的過ぎるか?

今日も、朝からが降り、しばらくは止んでいましたが、夕方から再び雨の梅雨らしいお天気でした。午後に外を出歩いていると少し蒸し暑く感じられましたので、明日あたりから半袖に切り替えようかと考えている今日このごろです。なお、今日から甲府市内で将棋の第66期名人戦七番勝負の第5局が始まりました。何かの機会があればこのブログでも取り上げたいと思います。

Summary of projections

昨日、経済協力開発機構 (OECD) が閣僚理事会の開催にあわせて、半年に一度の経済見通し、"Economic Outlook No.83, June 2008" を発表しました。主要な見通しは上の表の通りです。今夜のエントリーの表は、上のとすぐ下のは OECD の記者発表資料から取っています。なお、OECD 東京事務所から日本語サマリーも提供されています。まず、私の印象にマッチする内容だったので、読売新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日米欧など先進30か国が加盟する経済協力開発機構(OECD)は4日、2008年の経済見通しを発表した。
加盟国全体の成長率見通しは08年が1.8%、09年が1.7%で、それぞれ昨年12月時点の見通しから大幅下方修正した。米低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」の焦げ付き問題をきっかけに減速してきた世界経済は、08年4-6月に底を迎えた後しばらく低迷し、09年後半にかけて徐々に回復していくとのシナリオを示した。
OECDは「金融市場の混乱はピークを過ぎた可能性が高まっている」との見方を示したものの、今後しばらくは経済成長の足を引っ張ると指摘した。米経済に対する見方が特に厳しく、08年の成長率見通しを前回の発表(昨年12月)よりも0.8ポイント下方修正し、1.2%とした。
日本については08年の成長率を1.7%と予想。「賃金の上昇と住宅投資の回復が景気拡大を支える」として、前回より0.1ポイント上方修正した。ただ、ガソリン・食料品価格の高騰が個人消費の伸びを抑えることに加え、これまでの成長を支えてきた設備投資や輸出も減少していることから、09年の成長率も1.5%と低水準にとどまると予測した。
日米欧の中では比較的堅調さを維持しているユーロ圏も、08年に1.7%、09年に1.4%と、次第に成長率が鈍化していくとの見方を示した。
上の表からは削りましたが、OECD の記者発表資料には四半期別の見通しが公表されています。それによれば、OECD加盟国全体では引用した読売新聞の記事にもある通り、今年4-6月期が世界経済の底で、成長率は+0.5%を記録した後、ゆるやかに加速するシナリオを描いています。日本は今年7-9月期が成長率のボトムとなっていますが、それでも+1.0%成長で、2009年にかけて成長率がゆっくりと高まる形になっています。ただし、成長率の回復がもっとも急ピッチなのは米国で、見通しの最終期である2009年10-12月期には+3.0%成長に達するのに対して、日本では2009年10-12月期でも+1.7%と、潜在成長率の中ほどから下半分の成長に止まるとされています。欧州はこの日米の中間的なシナリオとなっています。単純に見ると、谷深ければ山高し、谷低ければ山もまた低し、という見通しです。特に、米国については、今年年央がボトムで3-4四半期の間ゆるやかな成長が続いた後、来年下期に急ピッチで成長率が高まるとしています。 世界経済や米国経済については、少し楽観的ではないかという疑問がなくもないでしょうが、従来から、比較的強気かつ楽観的な経済見通しを提供している国際機関ですから、割合と標準的な予想ではないかと私は考えています。米国の住宅資産価格についてはケース・シラー指数の先物の動きから見て、今年中から来年早々にかけて下げ止まると考える向きも少なくありませんし、世界経済も徐々に持ち直す動きが見られることも確かです。しかし、考えられるリスクでもっとも大きなものは原油をはじめとする商品市況の動向です。OECD では他のリスクとともに、センシティビティ・アナリシスの結果を発表しています。以下の表の通りです。

Estimates of impacts if risks materialise

OECD の Interlink Model によるシミュレーションン結果だろうと思うんですが、原油価格については一番右の欄で示されています。ベースラインのバレル120ドルに対して、10%すなわち12ドルの価格上昇のケースの試算結果です。これによれば、先進国ではかなり影響は軽微だということになります。モデルがリニアだとは思えませんが、仮にリニアだとすれば、50%すなわち60ドルの原油高でも、消費者物価や成長率への影響は1%ポイント程度ということになります。私の直感では、ベースラインの経済見通しは acceptable なんですが、モデルはリニアではないと考えられるものの、このリスク・シナリオの試算結果は少し楽観的過ぎるような気がしないでもありません。
最後に、日本の見通しですが、米国経済と違って、少し楽観度が欠けているように私は見ています。2009年末まで、ほぼ潜在成長率の下半分で推移するとされています。米国などとの平仄があっていないような気がしないでもありません。特に、下のグラフのように、米国の需要が落ちたとしても、少なくとも日本の輸出については新興国との間でデカップリングされて、輸出の伸びが高く維持されるとの見方を取っているとすれば、もう少し成長率のピックアップがあってもよさそうな気がしないでもありません。なお、このグラフだけは OECD 東京事務所から発表されている日本語サマリーから引用しました。

Export growth remains resilient despite weak US demand

いずれにせよ、全体としての経済見通しは、少なくとも私には acceptable な気がしますし、日本経済がこの先2009年末くらいまで潜在成長率の下限から下半分で推移し、逆に言うと、景気後退局面には入らないとするのは、十分蓋然性が高いと思っているんですが、個別のパーツの整合性については少し疑問に思わない部分がないでもありません。

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