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2008年6月10日 (火)

景気動向指数についてのメモ

今日は、朝から梅雨の中休みのいいお天気でした。気温も上がり、蒸し暑かったです。

CI 時系列グラフ

昨日の午後に内閣府から景気動向指数が発表されました。4月速報です。今回の発表からコンポジット・インデックス (CI) になりました。上のグラフの通りです。今夜のエントリーでは、直近の統計データの解説だけでなく、統計としての特徴なんかも含めてメモを残しておきたいと思います。なお、最初にお詫びしておきますが、昨夜のエントリーの最後のパラで景気動向指数の基調判断が「弱含み」から「局面が変化している可能性もある」に下方修正したと書きましたが、実際には以前の基調判断は「一進一退」でした。お詫びして訂正します。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

内閣府が9日発表した4月の景気動向指数(CI、2005年=100)は、景気の現状を示す一致指数が101.7と前月に比べて0.7ポイント低下した。生産や雇用の動きが鈍かった。内閣府は過去7カ月の指数の平均などを勘案し、基調判断を3月の「一進一退」から「局面が変化している可能性もあるとみられる」に下方修正した。
「局面変化」はその月から数カ月前までに、景気が転換点を迎えたかもしれないという「警報」だと説明した。02年2月からの回復局面が後退局面に移行したと認める可能性が出てきたが、実際に判定するかどうかは今後の経済指標次第となる。

この景気動向指数は基調判断の定義や基準が明確です。経済統計のデータにしてはめずらしいのかもしれません。私はかつて昨年2007年5月29日付けの「エコノミストの文学表現」と題するエントリーでエコノミストの文学的な表現能力を嘆きましたが、文学的な美しさは別にしても、定義や基準が明確なことはいいことだと多くの人が考えるんではないでしょうか。詳しくは、内閣府から「CI を用いた景気の基調判断」の基準が公表されていますから、そちらに譲りますが、基調判断は次の6段階があるようです。詳しい定義と基準はリンク先をご覧下さい。なお、リンク先の PDF ファイルには、一致 CI の振幅の目安として標準偏差まで示されています。

  1. 改善
  2. 悪化
  3. 弱含み・下げ止まり
  4. 局面変化
  5. 基調判断は変えず
  6. 横ばい(一進一退)

景気動向指数の利用方法や作成方法なんかは内閣府の「景気動向指数の利用の手引」に詳しいですから、リンクを張って譲るとしても、目的を引用しておくと以下の通りです。

景気動向指数は、生産、雇用など様々な経済活動での重要かつ景気に敏感な指標の動きを統合することによって、景気の現状把握及び将来予測に資するために作成された統合的な景気指標である。
CI(コンポジット・インデックス)は景気に敏感な指標の量的な動きを合成した指標であり、主として景気変動の大きさやテンポ(量感)を測定することを目的としており、DI(ディフュージョン・インデックス)は景気に敏感な諸指標を選定し、そのうち上昇(拡張)を示している指標の割合を示すものであり、主として景気転換点(景気の山・谷)の判定に用いる。

要するに、CI は量的な把握に資するものであり、DI は方向感の把握に用いることが想定されています。景気転換点の判定には CI ではなく、引き続き、DI が利用されることになります。CI にせよ、DI にせよ、基準や定義が明確であるとともに、統計作成方法もガラス張りで、いわゆる2次統計としては、極めて透明性が高いといえます。採用系列は内閣府から「個別系列の概要」として公表されています。季節調整方法や作成機関の URL までごていねいに公表されています。透明性が高ければそれでいいと言う問題でもないでしょうが、ここまで明らかにしていると、エコノミストも含めた各方面からのピアプレッシャーを感じるでしょうから、結果としても悪くないように思います。なお、CI は別かもしれませんが、以前の DI であれば計算方法も単純そのものですから、特に市場の事前コンセンサスなんかは成り立ちようがありませんでした。それでも、計算間違いする人はいたと聞いたことがあります。

さて、最初の日経新聞から引用した記事にもある通り、昨日の統計データ発表では「景気は局面が変化している可能性もある」と、先月の「一進一退」から基調判断が下方修正されました。内閣府から発表されている「CI を用いた景気の基調判断」の基準における定義によれば、「局面変化」は「事後的に判定される景気の山・谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを暫定的に示す」とのことで、基準としては、「7ヶ月後方移動平均の符号が変化し、1ヶ月ないし3ヶ月の累積で1標準偏差分以上逆方向に振れた場合」ということになります。従って、私の同業者のエコノミストからは「景気後退へ一歩」と題したリポートが送られて来たりしました。さすがに、「一歩前進」ではありませんでしたが、すでに、景気後退局面に入っている可能性が高いとの判断なんでしょう。
私の実感としても、景気動向指数の示す通り、もう少し先まで統計データを分析する必要はあるものの、米国経済と同じように、日本経済も昨年10-12月期をピークに景気後退局面にすでに入っている可能性は十分あります。さらに、現時点で景気後退局面に入っていなくても、原油や穀物などの商品市況次第という面はあるにせよ、この先、景気後退局面に入る可能性も排除できません。最初に掲げた CI のグラフを見ても、先行指数は2年近く下がり続けていますし、なぜか、遅行指数が一致指数に先行して下がり始めています。この遅行指数の動きは、少し採用系列に疑問を生じさせないでもありませんが、遅行指数を別にして、先行指数と一致指数だけからでも、景気後退の雰囲気を感じ始めているエコノミストは少なくないと思います。

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