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2008年6月25日 (水)

貿易統計に見る交易条件の悪化

今日も、昨日に続いて朝から梅雨の中休みで、雲は多かったものの、まずまずいいお天気でした。少なくとも雨は降りませんでした。雲が多かったので、気温はそんなに上がりませんでした。我がオフィスの蒸し暑さもやや沈静化していたように感じました。

今日、財務省から5月の貿易統計速報が発表されました。新聞などの報道では貿易収支が前年同月に比べて▲7.6%減少して、3ヶ月連続の減少の3656億円となったことが注目されていたように思います。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

財務省が25日朝に発表した5月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比3.7%増の6兆8095億円、輸入額は同4.4%増の6兆4439億円で、輸出額から輸入額を差し引いた輸出超過額(貿易黒字)は同7.6%減の3656億円となった。貿易黒字が前年同月の水準を下回ったのは3カ月連続。

割合と最近の「週刊エコノミスト」では、2007年の経済構造のままだと原油がバレル160ドルで貿易収支がゼロになるという試算が、シンクタンクのアナリストから示されています。4月8日号のpp.37です。確かに、1980年代半ば以降、毎年10兆円前後の貿易黒字を記録して来たんですが、5月の貿易黒字が3656億円なんですから単純に12倍すると4兆円余りとなり、昨年歴年の10.8兆円から大幅減になる可能性が高くなっていることは明らかです。年初来5月速報までの貿易黒字を累計すると3兆円弱で、昨年同期に比べて大雑把に 3/4 に止まっています。もっとも、マーケットでは5月の貿易収支は数十億円から数百億円に大幅に減少するとの事前コンセンサスがありましたので、この3500億円超の結果でもかなりのサプライズと受け止める向きもあるようです。鉱物性燃料輸出が大幅に増加したのが原因のようです。下にいつもの輸出動向の表を示しましたが、金額ベースで前年同月比3.7%増のうち、半分近い1.6%ポイントの寄与度を示しています。

輸出動向の推移

今月は特に交易条件と交易利得・損失に注目したいと思います。ネットでは見つからなかったんですが、昨日の日経新聞夕刊の1面でBNPパリバ証券のリポートを基に、日本の交易利得が米国や欧州に比較して大幅なマイナスになっているとの記事がありました。私もこのBNPパリバ証券のリポートをちょうだいしていて、リポート1ページの右下のスラッとしたグラフが新聞に掲載される時は、あれほど印象的に書き換えられるものかと感激していたりしました。リポートでは2002年からのグラフだったんですが、日経新聞夕刊ではもっと長く横軸の時間を取って印象的に仕上げていたように感じました。それはともかく、今日発表された貿易統計から最近の交易条件指数をグラフにしたのが下の図です。日経新聞のマネをして、横軸の時間をやや長めに取っています。なお、ついでなんですが、BNPパリバ証券のリポートを基にした日経新聞の記事は各国比較を中心に取り上げていて、今年第1四半期の交易利得・損失が日本ではGDP比で▲4.5%に上るのに対して、米国は▲0.8%、ユーロ圏は▲0.4%に止まる、との趣旨だったんですが、ネット上に置いあって、オープンにアクセス出来るみずほ総研の「今回の交易条件悪化局面の特徴と経済への影響について」と題するリポートは過去のオイルショックとの比較で書かれていて、こちらも参考になります。交易条件の悪化が企業収益の悪化につながり、労働分配率は改善するものの、ホームメイドインフレにより内需の低迷は不可避と結論付けています。

交易条件の推移

さて、上のグラフに示された交易条件指数を見ると、ここ3-4年では2005年1月をピークに下がり始め、さらに、直近時点では2006年11月をピークに下げ足を早めています。ここ1年半ほどで大きく悪化しているのが見て取れます。SNAベースでも同じだと思うんですが、貿易統計の交易条件は単純に輸出価格指数を輸入価格指数で除して指数化してあります。ですから、大雑把に言って、輸出1単位で買える輸入量ということになります。逆数は、輸入を1単位行うのに必要な輸出量ですから、交易条件が悪化しているということは、最近の交易条件指数は70を少し超えたくらいですから、基準年の2000年に比べて、輸出1単位当たりで輸入できる数量は▲3割減くらいになっていて、逆にいえば、輸入1単位を行うのに、2-3割増しくらいの輸出をしなければならなくなっているわけです。諸外国との間の貿易においては、以前と同じ量の輸入するためには、以前に比べてより多くの財・サービスを輸出せねばならないというわけです。これが所得の流出とか、交易損失と呼ばれる現象で、BNPパリバ証券の試算ではGDPの▲5%近くに達しているわけです。

どこかで「石川啄木的景気」という表現を見ました。「働けど、働けど、我が暮らし楽にならざり」という印象は、少し前までは格差問題に関して引用されていたような気がするんですが、現在ではより幅広く、交易条件の悪化と物価上昇からダメージを受ける日本経済をかなり的確に言い当てているような気がします。

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