原油高騰といくつか経済に関する話題
今日は、やや久し振りに梅雨らしく、朝から梅雨空で雨が降りました。昼間は雨が止んでいたり、小雨になっていたり、傘を差さない人も多かったですが、気温は上がらず、蒸し暑いことで悪名高き我が役所のオフィスでも快適だったりしました。午後に外に出た際には、長袖の人の多かったんですが、感性ではなく慣性で服を選んでいる私は半袖で過ごしました。少し肌寒かったです。失敗だったかもしれないと思っていたりします。
明日の消費者物価と失業率の発表を前に、今夜のエントリーではいくつか最近のトピックを集めて経済を評論しておきたいと思います。
まず、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会 (FED) が公開市場委員会 (FOMC) を開催し、政策金利である FF レートを現行の2%に据え置くことを決めました。ステートメントを見ると、4月の FOMC では書出しが "Recent information indicates that economic activity remains weak." だったのが、今回の FOMC では "Recent information indicates that overall economic activity continues to expand, partly reflecting some firming in household spending." に書き改められており、やや強気のスタンスに変更したことが伺われます。さらに、ダラス連銀フィッシャー総裁が利上げを主張して現状維持に反対票を投じたのも同じ流れと考えられます。これから米国では当面は金利据置きが続く可能性が高いんでしょうが、利下げ局面を終えて、徐々に利上げ局面に移行する可能性が高まったと受け止められています。
次に、メインの原油価格の高騰について、コロンビア大学のカルボ教授とプリンストン大学のクルーグマン教授の論争に注目しています。不正確になるのを承知の上で簡単にまとめると、カルボ教授が投機に基づくバブルを主張しているのに対して、クルーグマン教授はこれを否定しています。私が拝見した両教授の主張と、加えて、クルーグマン教授の提示したモデルを見事に解釈した econ-econome さんのブログにリンクを張ると以下の通りです。
- "Exploding commodity prices, lax monetary policy, and sovereign wealth funds," Guillermo Calvo
- "Speculation and Signatures," Paul Krugman
- 日々一考(ver2.0)
結論を先に申し上げると、私はクルーグマン教授のモデルは正しく、だからこそ、現状の原油価格はカルボ教授の言う通りバブルだと考えています。上のリストの中で最後にリンクを張った econ-econome さんのエントリーに示されたクルーグマン教授のモデルの定式化が分かりやすいと思いますので、他人のふんどしで相撲を取りたいとおもいます。併せてご参照下さい。ただし、econ-econome さんのエントリーにある枠囲みのクルークマン教授のモデルの定式化は正確なんですが、(3)式の解釈には疑問を持っています。
econ-econome さんのエントリーに対する私の昼休みのコメントの後に松尾教授がコメントしています。まさにその通りという感じです。『資本論』全3巻を読破していると同じことを考えるのかもしれません。冗談は別にして、econ-econome さんの(3)式が break して、左辺だけで価格が決まると私は考えています。右辺は意味を持ちません。ただし、少し脱線すると、クルーグマン教授は少し混乱していて、自分で "speaking loosely" と書いていますが、裁定に基づく先物価格と期待価格上昇率に基づく投機家が期待する将来価格をほぼ同一視しています。いずれにせよ、 econ-econome さんが自らコメントしているように、Pf=P(1+i+Sc) は投機家の期待価格上昇率に基づく将来価格の決定式です。先物価格を F で表示すると、符号は逆になって、F=P(1-i-Sc) となります。これが通常の裁定式で、先物は現物に対してディスカウントされます。現実も、つい最近まで WTI の先物は現物よりもディスカウントされていました。でも、ここ2-3週間で先物が現物より高くなっています。以上、小規模脱線を終えて、話を元に戻すと、(3)式の右辺が意味を持たないと私が考える根拠は、クルーグマン教授のいう利子率 i は市場利子率ではなく、リスクプレミアムを含んだ概念と考えるべきだからです。ユーフォリアが極めて大きくなればリスクプレミアムは小さくなって、そうでなくても低金利下ではリスクプレミアムを含む利子率 i はゼロに近づき、場合によっては、マイナスになる可能性が示唆されていると私は考えています。マイナスということは、リスクプレミアムが市場利子率の絶対値を超えるマグニチュードでマイナスに突っ込んでいるわけですから、当然ながら、極めて非合理的であると考えられます。もしもリスクプレミアムを含む利子率 i がマイナスであれば、(3)式の右辺は意味を持ちません。左辺だけで、というか、 Pf がそれ自体で原油価格を決定します。
ここで大きく脱線して別の見方をすれば、先にリンクを張ったクルーグマン教授のメモにある上の Figure 1 において、垂直な線で書かれている interests plus storage のラインについて考えると、特定の1時点ではこの通りでまったく正しいんですが、一定の期間、1週間で1ヶ月でも、を考えると、右下がりの downward-sloping になっている可能性があります。上のグラフは私のような頭の悪い人間には分かりづらくて、むしろ、価格変化率を縦軸に取って、原油価格を横軸にした方が理解が早いと思うんですが、この後の Figure 2 と 3 でクルーグマン教授は右側に通常の価格と量のカーテシアン座標を展開していますから、止むを得ないのかもしれません。それはともかく、通常、スポットの原油価格が上昇するとさらにユーフォリアが拡大し、リスクプレミアムがますます小さくなることを想定しても不自然ではないでしょうから、上のグラフの interest plus storage のラインは左にシフトします。従って、一定の期間で観察すれば、右下がりになると私は考えています。均衡点が不安定になり、大幅な価格変動が生じる可能性が高まると考えられますが、これは現実に生じていることのように見受けられます。
大規模脱線を終えて話を戻すと、リスクプレミアムがマイナスになるのは経済合理性の観点から承認しがたいんですが、私が考えるに、このリスクプレミアムの動向こそがカギであり、リスクプレミアムが極めて小さい、場合によっては、マイナスとなって大きなユーフォリアが生じて裁定式が働かない現象がバブルの定義に近いんではないかと思います。従って、繰返しになりますが、私の直感的な結論は、クルーグマン教授のモデルは基本的に正しく、しかし、モデルを正しく解釈した上で現実のデータで検証すると、結局、カルボ教授の結論が正しいんではないかと感じています。もっとも、私はデータで実証していませんので、断言はしません。ただし、1時間ほどで書き上げたことを口実にするつもりはありませんが、そんなにすごく自信があるわけではありません。間違いがあればご指摘下さい。
最後に、今週の金曜日、すなわち、明日が3月決算の株式会社の株主総会の集中日らしいんですが、東証のサイトで確認すると、集中の割合は年々下がって来ており、今年はついに50%を割り込んだそうです。上のグラフの通りです。もともとは総会屋対策で始まった株主総会の集中だったような気がするんですが、逆に、総会屋でない株主の総会出席も制約することになるわけで、株式会社のステークホルダーの中で株主の占める比重が高まったことを反映しているんだと思います。逆に、従業員や取引先・顧客などの相対的な比重が低下しているわけですから、いろいろと議論もありましょうが、広く株主の総会参加を促す意味では当然の帰結だという気がします。
久し振りに気温が上がらずに肌寒かったので、体調を崩さないように気を付けたいと思います。
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