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2008年6月 9日 (月)

失業率の急上昇は米国経済の悲観論を強めるか?

今日は、朝のうちから雲が広がり、昼過ぎから少し雨が降りました。雨が止んでも梅雨空は変わりありません。天気予報では雷雨の可能性が示唆されていたんですが、私は幸運にも激しい雨には遭遇しませんでした。でも、雷鳴は聞きました。気温はそれほど上がらなかったような気がするんですが、湿度が高くて蒸し暑かったです。

The Labor Picture in May

先週の金曜日に米国の雇用統計が発表されました。ヘッドラインの5月の非農業部門雇用者数は前月差で▲49千人減、失業率は前月から0.5%ポイント上昇して5.5%となりました。上の画像は、いつもの "New York Times" のサイトから "The Labor Picture in May" を引用しています。オリジナルより少し縮小をかけてあります。日本と違って米国の雇用統計では、通常、雇用者数の増減の方が失業率よりも注目されるんですが、今回だけは「失業率ショック」と呼ぶエコノミストもいて、失業率が大幅に上昇したことを悲観的に受け止める向きもあるようです。特に、先週金曜日は失業率だけでなく、原油市況も大幅に上昇しましたから、米国経済に関する悲観論が強まって、株式市場なども大幅に下落しました。下のグラフの通りです。これも、"New York Times" のサイトから引用しています。

Economic Indicators Worsen

基本的には、私は5月の米国の失業率の大幅な上昇はそんなに悲観していません。と言うのは、米国労働省の発表資料の統計データを少し詳しく見ると、今年4月から5月にかけて労働力人口が153,957千人から154,534千人に577千人増加したうち、16-19歳が261千人とかなり大きな部分を占め、失業率でいうと、16-19歳が4月の15.4%から5月に18.7%と急上昇したのに加えて、20-24歳も8.9%から10.4%に上昇しています。この年齢層以降は10歳刻みになるんですが、0.3%ポイントを超える上昇を示した年齢層は存在しません。ですから、25歳以上の失業率は4月の3.9%から4.1%に上昇したに過ぎません。5月の失業率の急上昇は早くも夏休みに入った学生が大量に労働市場に流入した結果と指摘する同業者のエコノミストのリポートも送られて来たりしました。統計データは季節調整されているんでしょうから、この意見には少し疑問を感じないでもないですが、ごく簡単な私の観察の結果にマッチすることも確かです。若年層の失業率の高まりはもちろん問題なんでしょうが、少なくとも、家計を支える年齢層の失業率が大きく高まっていないことはポジティブに捉えるべきだと私は考えています。もっとも、最近1年間で2007年5月の4.5%から5.5%に失業率が1.0%ポイント高まったんですから、米国経済の状況を楽観視すべきではないのは言うまでもありませんが、石油市況の大きな上昇を含めて考えても、株式市況や報道ほど悪くないと私は受け止めています。
いずれにせよ、日本はもちろんのこと、米国の経済も微妙な段階にあることは確かで、昨年10-12月期をピークに米国経済が景気後退局面に入っていることは確実だと私は考えていますが、深さと長さについては議論のあるところだと思います。直感的にいえば、浅くて長いと私は考えていますが、見方はさまざまです。今年2月22日付けのエントリーでも主張した通り、エコノミストのツールであるところの経済学は、一応、科学ですから、因果関係を明らかにすることをひとつの目標にしています。インプットが違えばアウトプットは当然に異なりますし、やや強引に関数形で表せば y=f(x) ということになります。右辺の x にインプットするデータにより、左辺の y の結果が異なるのは当然ですし、現在のように景気局面に関する判断が微妙な時期には、振り子が振れるように見方が行ったり来たりすることもあり得ます。例えば、"Wall Street Journal" の論調を引くと、5月14日付けの1面で "Recession? Not So Fast, Say Some" と楽観論に構えていたかと思えば、今回の雇用統計を受けて、6月7日付けの紙面では "Recession Fears Reignited" と題して、"The likelihood that the U.S. is in a recession appeared to increase Friday, following weeks of hopes that the country might be skirting one." と正直に書き始めて、大きく悲観論をプレーアップしています。なお、記事はウェブ魚拓に保存しておいたのにリンクを張っています。目を日本に転ずると、4月半ばから月末にかけて、鉱工業生産指数統計の基準年の改定に従って、悲観論と楽観論がジェットコースターのように上下したような気がします。私のこのブログでも鉱工業生産指数の統計データに基づいて、今年4月17日付けのエントリーでは楽観論に傾いた後、2週間後の4月30日付けのエントリーでは悲観論に戻っています。

もちろん、エコノミストには節操がないとのご意見もありましょうし、エコノミストの1人として素直に受け入れてもいいんですが、少なくとも、10年近くも「1ドル100円」を言い続けて、それをもって「為替を当てた」と言うのは少し違うと感じていることは2月22日付けのエントリーで取り上げたところです。不正確な科学である経済学を用いて分析しているエコノミストが持っている、未来を見通す水晶玉は常に渦巻いているものなのかもしれません。

なお、本日午後に発表された景気動向指数は4月速報から CI となり、いきなり、内閣府は基調判断を「景気は局面が変化している可能性もある」と、先月の「弱含み」から下方修正していますが、今夜のエントリーは長くなりましたし、もう少し勉強した上で、必要に応じて、日を改めて取り上げてみたいと思います。CI 一致指数は下のグラフの通りです。

CI 一致指数の推移

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