米国経済は景気後退ではないのか?
先月7月4日付けのエントリーで欧州中央銀行 (ECB) の利上げと米国の雇用統計を取り上げた時に、足元で米国経済が景気後退局面に入っていることは確実と私は考えているにもかかわらず、米国の景気日付を判定する NBER から何のアナウンスもないと書きましたが、全く反対の意見で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) のリーマー教授が米国は景気後退には入っていないとするワーキングペーパーを出しました。タイトルとリンクは以下の通りです。
このペーパーの最初の方で、忙しすぎて1パラしか読めないんだったら、結論は "We are not yet in a recession." であるとしています。雇用統計や生産統計などを組み合わせて、ほぼ完璧に NBER の景気日付の山と谷に合致する独自のアルゴリズムを編み出し、これに従えば、足元の現状の米国経済は景気後退ではないと結論しています。その景気後退の臨界点が pp.15 の Table 1 に示されています。以下の通りです。
すべて6ヶ月前対比を取っていて、上から3つまで、すなわち、生産、雇用者、失業率は景気後退の臨界点に達していませんが、最後の軍人を除く雇用者はギリギリ達しているといえなくもありません。ですから、景気後退を判定するアルゴリズムとして、リーマー教授は pp.21-22 で生産、雇用者、失業率の3点を景気後退の候補として取り上げた後、6ヶ月前との乖離が最大であった月を山と谷に同定し、3つの指標が異なる場合はメディアンを取るべきであると主張しています。ペーパーから原文で引用すると以下の通りです。
- Pick probable recessions based on the following thresholds:
- A decline in industrial production for 6 Months at the rate of -6% per year or more.
- A decline in payroll employment for 6 Months at the rate of -1% per year or more.
- An increase in the unemployment rate in a 6 month period by at least +0.8 percentage points.
- From the periods identified in step 1 for each of the three variables separately identify suggested peak and trough dates as the months when 6-month second derivatives are maximally negative (peak) and maximally positive (troughs).
- Reconcile differences in the peak and trough dates by using the median of the three dates.
長いので引用はしませんが、この基準に従って、景気日付を判定し、NBER と比較した表が pp.23 にあります。このアルゴリズムが NBER と異なる結果を示したのは1973年11月の山だけで、リーマー教授のアルゴリズムは1974年9月が山だとしています。そして、最初の短文と同じなんですが、2008年6月までのデータを考慮に入れても、足元の米国経済は景気後退ではないと結論しています。
大学に来て景気循環を研究しようと考えている私にはとっても興味深いペーパーでした。シンプルに景気を判断しようとする姿勢が高く評価されるべきだと思います。シンプルであるということは真理の必要条件だと私は考えていたりします。
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