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2008年8月18日 (月)

商品市況の先行きをどう見るか?

今年に入ってから大幅な上昇を続けてきた商品市況が調整局面に入っているように見受けられます。大雑把に7月の月初にピークを打ってから8月半ばまで相場は下げています。今夜のエントリーでは原油を主に、少し穀物にも触れたいと思います。なお、相場のことですから一直線に上げたり下げたりするわけではありませんが、以上のような傾向は下のグラフから見て取れると思います。どちらも、"Wall Street Journal" の "Market Data Center" で書いた先週末までの日次のデータです。上のグラフが原油、下が穀物の代表としてトウモロコシを取っています。

NY市場の原油市況

NY市場のトウモロコシ市況

商品市況については、日米欧の景気が後退局面にさしかかるとともに、価格が急ピッチで上昇したことから、需要面で減少の兆しが見られることと、金利低下局面を終えて上昇局面に入った米国のドル高が原因とされています。もちろん、これはこの通りだと思うんですが、今夜のエントリーではもう少し中期的、今後2-3年間、すなわち、2010年末くらいまでの商品市況についての私の考えを整理してみたいと思います。視点は4点あります。需要、供給、為替、投機資金です。
まず、需要について、現在の限界的な原油需要を牽引しているのは新興国だと私は考えています。日米欧の先進国の需要が景気局面により減退しても、新興国の原油需要が旺盛なままであれば原油価格は下がりません。新興国はエネルギー集約的な産業構造となっており、決して、エネルギーを浪費しているわけではないんですが、結果としてエネルギー多消費型産業が経済の大きな部分を占めています。ですから、問題は新興国経済と先進国経済がデカップリングするかどうかがカギで、日米欧の先進国経済が景気後退局面に入っても新興国が高成長を続ければ原油価格は下がりません。私はデカップリング論には従来から懐疑的で、先進国の景気減速・後退とともにラグを伴いつつ新興国の景気も減速するものと見通していますから、中期的には需要面からは価格低下の方向にあると考えています。我が同業者のエコノミストには少ないんですが、北京オリンピック後に中国経済がハードランディングすると予測する向きもあり、そうなれば、原油には強い価格低下圧力が加わると考えられます。もちろん、逆に、デカップリングが成り立てば価格低下にはつながりません。
第2に、供給について、私はまったく専門外ですが、個別の油田の供給や精製能力などは別にして、大きな供給制約要因となっているのは米国のイラク占領だと私は考えています。もちろん、原油供給の視点からだけ考えるわけにはいかない問題で、いりろと複雑な連立方程式を解かねばならないんですが、いずれにせよ、今年11月には米国の大統領選挙が実施され、来年1月には新しい大統領が就任します。今月下旬には米国の民主党と共和党の党大会が開催され、民主党のオバマ上院議員、共和党のマケイン上院議員がそれぞれの党の大統領候補となる予定です。たぶん、気の利いた高校生くらいであれば、ここまでは十分に知っている事実です。しかし、この大統領候補のどちらもが、少なくとも少し前までは、反ブッシュ路線であったことは知られていません。民主党のオバマ候補がイラクからの撤兵を公約に掲げる一方で、共和党のマケイン候補は政策の継続を主張していますが、どちらが大統領に選出されても来年1月の米国新大統領就任後は、米国のイラク占領政策に何らかの変更が生ずる可能性があり、この変更は原油の供給から見ればプラス、すなわち、原油価格を低下させる方向に作用するんではないかと私は考えています。でも、ここは専門外もはなはだしいので、そんなに自信があるわけではありません。
第3に、為替の動向です。私は現在の景気局面は日米が昨年10-12月期をピークに景気後退局面入りしており、欧州についても景気後退と認定するかどうかは別にして、昨年10-12月期がピークだっただろうと考えています。その中で、労働市場がやや硬直的な欧州がインフレ警戒感から先に利上げに踏み切り、エネルギー消費の比率の高い米国が欧州に続いて金利引上げ局面を迎え、金利引上げについては日本が最後尾を追いかけている構図だと思います。今日明日と日銀の金融政策決定会合が開催されていますが、経済企画協会の「ESP フォーキャスト」なんかでも、多くのエコノミストは来年年央までの日本の利上げを想定していません。私がこのブログの7月4日付けのエントリーで主張したような日米欧の協調利上げは実現困難かもしれませんが、この金融政策状況を考えると、為替相場は2010年末くらいまで大きな動きはないと私は考えています。しかし、景気局面を考え合わせると、秋口以降に戻し税による財政政策の効果が切れる米国景気が日米欧の3極の中で相対的に悪化して、ドル安になる可能性は排除できません。総合的に考えると、為替要因は原油価格に対して中立から、やや上昇要因になる可能性を含んでいると考えられます。
第4に、投機資金の動向です。丸紅経済研究所の「丸紅ワシントン報告」では、6月20日現在のバレル130ドル台半ばの価格は、その半分以上が原油先物市場への実需以外の資金流入という金融要因が生み出したプレミアムであると結論していますが、現在の110ドル台半ばの価格水準ではそれほど投機的な要因は含まれていないんではないかと私は考えています。。5月のゴールデンウィーク明けから150ドル近い水準を付けた際には、5月23日付けのエントリーで書いたように、私もバブリーな動きを認めざるを得ませんでしたが、現状の110ドル台半ばの原油価格はこれが剥落した水準ではないかと考えています。しかし、いずれにせよ、投機資金が流入しているとすれば、やっかいなのは、インデックス取引に限らず相場一般として、一気にスパイラル的な価格上昇や下落を引き起こすことです。現在の原油価格水準が "Happy Medium" だと、私は必ずしも思いませんが、先にリンクを張った丸紅経済研究所の「丸紅ワシントン報告」が主張するように、バレル60ドル前後が適正な価格水準であると仮定しても、調整スピードによっては相場を張っている証券会社なんかで破綻するところが出かねません。少し脱線しましたが、いずれにせよ、現状の価格水準からすれば投機資金は中立に近いと私は考えています。
最後に、原油中心に話を進めましたが、基本的に、供給をイラクから干ばつや気象条件に読み換えれば、穀物市況もこれに近い状況なのではないかと私は考えています。しかし、大きく違う点は省エネは技術的にまだ余地が残されているのに対して、省穀物や省食料は困難だということです。原油については産業向けの用途が大きいのに対して、穀物や食料は食品産業で使うにせよ、動物のエサにするにせよ、最終的には我々人間の口に入る食べ物となります。ですから、新興国で経済発展が進む限り食料の需要は低下しません。原油と違って、景気動向にもそんなに敏感ではないと考えるべきです。従って、価格動向に即していえば、穀物や食料の価格は原油に比べてより上昇圧力が強いと私は考えています。
最後に、原油ばっかりなんですが、途中で引いた丸紅経済研究所の「丸紅ワシントン報告」も含めて、より詳しい情報について、参考資料へのリンクを以下に張っておきます。一応、大学教授になったので講義のマネゴトです。なお、三菱UFJリサーチ&コンサルティグのホームページは、今朝方に大学に出かける前はダウンしていたんですが、昼休みに見た時には復活していました。

今年になって、決してエコノミストではない、ある知り合いから、「原油や穀物は貯蔵の仕方が悪ければ爆発する。砂糖や非鉄金属とは違う点だ。」と聞きました。ひょっとしたら名言なのかもしれないと考え始めています。

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