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2008年10月 8日 (水)

国際通貨基金 (IMF) の "Global Financial Stability Report"

まず、本題に入る前に、昨日、内閣府から今年8月分の景気動向指数が発表されました。先行指数は前月と比較して▲2.1ポイント下降、一致指数も前月と比較して▲2.8 ポイント下降し、「景気動向指数(CI一致指数)は、悪化を示している。」との基調判断に変更はありませんでした。下のグラフは、見れば分かると思うんですが、赤い折れ線が先行指数、青が一致指数で、影を付けた部分は景気後退期です。いつもの通り、直近は昨年10月がピークだったと仮定しています。

景気動向指数

ということで、本題に入ると、昨日10月7日、国際通貨基金 (IMF) が半年に一度の「世界金融安定報告」 "Global Financial Stability Report" を発表しました。日本メディアが注目したのはサブプライム・ローンに関連する世界の金融機関の損失の見積もりだったんですが、もちろん、それ以外にもいろいろな分析がなされています。今夜はこのリポートの「第1章 世界金融の安定性に対するリスク評価」を中心に取り上げたいと思います。まず、少し長くなりますが、私が見かけた中で、典型的な日本のメディアの報道として読売新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

国際通貨基金(IMF)は7日、世界金融安定報告を発表し、米低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」問題による世界の金融機関の損失が全体で最大約1兆4000億ドル(約140兆円)に上るとの試算を公表した。
4月時点の試算額9450億ドル(約95兆円)から約1.5倍に増加した。2007年9月に最大2000億ドルと試算して以来、損失額は増え続けており、金融危機の実態を把握しにくい現状が浮き彫りになっている。
損失額のうち住宅ローンを組み込むなどした証券化商品の損失が9800億ドルにのぼると見積もった。住宅や商業不動産、企業向けなどの融資に伴う損失額も4250億ドルと想定している。損失額が膨らんだ理由としては、景気停滞感が強まり、住宅ローンや企業向け融資の貸し倒れが増加することを挙げている。
損失額の増大により、主要な世界の金融機関は、今後数年間で6750億ドルの資本増強が必要になると試算している。
報告書は、金融危機が実体経済に波及することに強い懸念を示し、各国の金融当局に包括的で首尾一貫した対策を取るよう求めている。その上で、「多くの金融機関は資本調達が困難になっている」との見方を示し、「各国の金融当局は公的資金の注入が必要となるだろう」と指摘している。

まず、このリポートの中心眼目である世界金融の安定性に関する現状評価をレーダーチャートで表現したものが下のグラフです。なお、今夜のエントリーの出典は全て「世界金融安定報告」"Global Financial Stability Report" のfull text (summary version) から引用しています。私は "full text" と "summary version" は相矛盾するような気がしないでもないんですが、IMF がこのように名付けていますので、そのままにしています。下のレーダーチャートはリポートの冒頭 pp.2 にあります。見ればわかるように、上のリスク4項目、すなわち、マクロ経済リスク、新興国市場リスク、信用リスク、市場流動性リスクの4項目が外に広がってリスクが大きくなっていることを示し、下の市場環境に関する2項目、すなわち、通貨・金融環境とリスク許容度の2項目は内側に縮小しています。

Global Financial Stability Map

次に、下のグラフは2006年以降のシステミックリスクの推移をプロットしています。pp.3 にあります。上の青い折れ線が、少なくとも銀行が1行破綻した場合に連鎖的に破綻する銀行数の期待値で左目盛、赤が大規模な銀行破綻の確率のパーセント表示で右目盛りです。どちらもシステミックリスクの代理変数ということなんでしょうが、グラフが上に行くほどシステミックリスクが発生する危険が大きくなっていることはいうまでもありません。グラフに見るように、2006年から2007年年央まで大きな動きはなかったんですが、昨年8月のパリバ・ショック以来、両指標とも傾向的に高まって来ています。特に、赤い折れ線グラフの大規模な銀行破綻の確率は、今年3月半ばにベア・スターンズ証券が救済された際と、先月のファニーメイやフレディーマック、あるいは、リーマン・ブラザーズ証券や AIG などの経営危機の際にスパイクを生じているのが見て取れます。

Systemic Bank Default Risk

3番目に、日本のメディアでもっとも注目された IMF による金融機関の損失合計について、上の段の証券化されていない貸付と下の段の資産担保証券 (ABS) などの証券商品の別に推計した標準ケースの結果が下の表で示されています。pp.9 にあります。上の読売新聞のサイトから引用した記事では「4月時点」となっていて、下の表では「8月時点の推計」となっていますが、pp.56 の Table 1.9 を見ると、IMF の間違いで読売新聞の方が正しいような気がします。いずれにせよ、4月推計が $ 945 bil で、わずか半年を経た10月時点で $ 1,405 bil と1.5倍に膨れ上がっていることになります。さらに、これは標準ケースの推計であって、ストレスケースではもっと損失が大きくなります。例えば、貸付からの損失は標準ケースでは下の表の上の段にある通り、$ 425 bil なんですが、ストレスケースだとこれが $ 505 bil と、約2割増しの $ 80 bil の違いを生じます。もちろん、4月と10月の半年の間にファニーメイとフレディマックの GSE、さらに、リーマンズラザーズ証券や AIG が経営危機に陥っていますから、損失額が拡大するのは当然なんですが、それにしても、すでに米国から欧州に拡大を見せている金融危機の今後の展開に伴って、さらにこの損失額が大きくなる可能性を IMF 自身が示唆していると私は受け止めています。

Estimates of Financial Sector Potential Writedowns

しかし、金融機関の損失の大きさを絶対額で評価するだけでなく、危機を生じた国の経済規模でノーマライズする必要がありますので損失額のGDP比を取り、さらに、過去の金融危機と比較したのが下のグラフです。上の表とおなじ pp.9 にあります。緑色の棒グラフが銀行の損失額で、黄色の点がそのGDP比です。現在進行形の金融危機の棒グラフにおいて白で上乗せされている部分は銀行以外の SPV などの損失です。今さらながらではありますが、バブル崩壊後の日本の金融危機は現在の危機に比べても損失額、GDP比とも上回るような極めて巨大なものだったことが読み取れます。もちろん、前世紀末のアジア通貨危機も損失額はそれほどではないにしても、日米欧のような経済大国で生じたわけではありませんから、GDP比では巨大なものであり、そのマグニチュードが大きかったことがうかがわれます。

Comparison of Financial Crises

最後に、この「第1章 世界金融の安定性に対するリスク評価」の結論として、IMF は以下の4点を上げています。これだけは原文の英語で引用します。

  • Maintain an orderly deleveraging process.
  • Strengthen risk management systems.
  • Improve valuation techniques and reporting.
  • Develop better clearing and settlement mechanisms for over-the-counter products.
今夜のエントリーでは第1章のみを取り上げましたが、第1章以外のこのリポートの構成を見ると、第2章では銀行システムのストレスに対応する金融政策のあり方、第3章では時価会計方式への移行が景気循環に及ぼす影響、第4章では今回の金融危機の新興国株式市場への波及効果などについて分析を加えており、私の専門分野との関係で第3章は大いに興味があったりします。

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