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2008年10月31日 (金)

日米いくつかの統計指標を見る

昨日から今朝にかけて、日米でいくつかの統計指標が発表されました。特に大きなサプライズはなかったように思いますが、一応、簡単に概観しておきたいと思います。

米国経済成長率

まず、7-9月期の米国GDP統計が発表されました。上のグラフは最近の実質GDP成長率を年率で表示しています。青がGDPで、赤が個人消費です。いずれも季節調整済み系列の前期比年率表示となっています。ヘッドラインの実質GDP成長率が▲0.3%のマイナス、個人消費は▲3.1%減となりました。市場の事前コンセンサスは成長率が▲0.5%くらいでしたので、ややこれを上回ったといえますが、大きなサプライズではありません。個人消費だけで成長率への寄与度が▲2.3%もあり、さらに、設備投資もマイナスに転じました。主要な需要項目の中でプラスを記録したのは政府支出と輸出だけでした。現時点での速報値で成長率がマイナスで、誰の目にも明らかなように、月を追うごとに景気後退色が強まっているんですから、来月発表される7-9月期のGDP統計の改定値は下方修正されることが明らかですし、10-12月期の成長率も7-9月期に続いてマイナスとなる可能性が非常に高いと私は受け止めています。要するに、今年前半にはリセッション判定に腰の重かった NBER も、2四半期連続のマイナス成長については、少なくとも、景気後退の暫定リストにファイルすることは確実です。

消費者物価上昇率

次は、消費者物価 (CPI) です。上のグラフはすべて月次の前年号月比で、折れ線3本は、青が全国の生成食品を除く、いわゆるコア CPI、赤が全国の食料とエネルギーを除く、欧米流のコア CPI、あるいは、コアコア CPI、灰色の折れ線は東京都区部のコア CPI です。棒グラフの方は全国のコア CPI の寄与度を示しており、緑色が生鮮食品を除く食料、黄色がエネルギー、水色がその他です。9月の全国コア CPI 上昇率は+2.3%と、前月より0.1%ポイント低下しました。消費者物価は7-9月期にほぼピークアウトしたと考えられます。原油価格などの商品市況次第ながら、現在の市況を前提とすれば、おそらく、10月のコア CPI は前年同月比で2%程度、年末には2%を割り込むことがほぼ確実です。さらに、来年年央には再びコア CPI がマイナスに突入する可能性も十分あります。

雇用統計

最後の指標は雇用統計です。家計を対象とした総務省の失業率統計と、ハローワークや事業所を対象とした厚生労働省の有効求人倍率などが主たるものです。上には3つのグラフを並べてあります。すべて月次ベースの季節調整済み系列です。かげを付けた期間は景気後退期で、いつもの通り、直近は昨年10月をピークと仮置きしています。一番上のグラフが赤い折れ線の失業率と青の有効求人倍率です。失業率はパーセント単位で左目盛、有効求人倍率は倍の単位で右目盛りです。9月のヘッドラインは失業率が4.0%と前月より0.2%ポイント改善し、逆に、有効求人倍率は0.84倍と前月より0.02ポイント悪化しました。基本的に労働市場は需給緩和の方向なんですが、失業率が低下したのは就職を諦めて労働市場から退出した人数が前月差で▲20万人と、雇用者の減少幅である▲14万人を上回ったためです。これを図示したのが真ん中のグラフで、労働力人口が青の折れ線で左目盛の単位は万人、雇用者数は緑色のラインで右目盛りの単位は同じく万人です。今世紀に入ってからは人口減少局面の中で、景気拡大期でもジワジワと労働力人口が減少し、特に、景気後退局面では減り方のスロープが急角度になっています。最後に一番下のグラフは景気動向指数で先行系列に採用されている新規求人数です。単位は同じく万人です。現在の景気後退局面に入る前から、長らく減少を続けているのが見て取れます。

日銀「展望リポート」の大勢見通し

統計データを離れて、今日の日銀の金融政策決定会合について、ほぼ、昨夜のエントリーで私が予想したラインに沿って決定が下されたと思います。当座預金への付利を3月までとすることにより政策金利の下限を制約し、何が何でも3月まではゼロ金利には入らないという強い決意が示されたとはいえ、逆に、やや硬直的な気もします。今の時期に4-5カ月先までの金融情勢を的確に見通せるようなエコノミストは少ないんではないでしょうか。決定時刻が1時58分にズレ込んだことと、4-4 のスプリット・ディシジョンだったこと、何よりも、通常の25ベーシスではなく20ベーシスに刻んだことが少し意外だったような気がしますが、大筋では昨夜のエントリーで書き尽くしましたので、今夜のところは、上の表の通り、「展望リポート」に示された経済見通しを掲げて終わりにします。商品市況が現状の水準を続ければ来年度のコア消費者物価上昇率はマイナスであろうと私は予測しているんですが、同じ考えの方が政策委員にもいるようで安心しました。

今月第2週ほどではありませんでしたが、今週も東証の日経平均株価がバブル後最安値を付けたこともあり、メディアの取材なんかも入って、私自身は割合と大忙しでした。ですから、昨日のドラフト会議で我が阪神が指名した選手もよく知らなかったりします。この3連休でゆっくり骨休めをしたいと思います。みなさんもよい週末を!

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2008年10月30日 (木)

明日の日銀金融政策決定会合のポイントは何か?

日米欧の政策金利の推移本題の日銀に入る前に、すでに広く報道されていますが、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会 (FED) が公開市場委員会 (FOMC) を開催し、50ベーシスの利下げを実施して、政策金利である FF レートを1%ちょうどに引き下げることを決定しました。左のグラフの通りです。なお、このグラフは 毎日新聞のサイトから引用しています。50ベーシスを超える大幅利下げもあり得るとの私の予想は外れました。悪しからず。いつもながら短い FOMC のステートメントを読むと、経済の現状認識について "The pace of economic activity appears to have slowed markedly, owing importantly to a decline in consumer expenditures." で書き始め、政策対応について "The Committee will monitor economic and financial developments carefully and will act as needed to promote sustainable economic growth and price stability." で締め括っています。当然ながら、多くのエコノミストやいわゆる FED ウォッチャーなどは、追加利下げに含みを持たせたものと解釈しています。当然です。しかしながら、NY の株式市場はで50ベーシスの利下げは織込み済みとして、昨日のダウ平均株価は下げて終わりました。

ということで、話を明日に開催される日銀の金融政策決定会合とその際に利下げに踏み切るかどうかに戻すと、ノーマティブなべき論は別の話ながら、結論として、私は日銀は金利を引き下げ、来年に入ればゼロ金利政策が復活する可能性が高いと考えています。ブッラクアウト期間に入る前の絶妙のタイミングで、先日の日経新聞に金利引下げが検討されている旨が報じられてから、昨日と今日の市場の株価や為替の動きを見る限り、かなりの程度に金利引下げが織り込まれています。明日の会議で金利引下げを実施しなかったとすれば、日銀は市場との対話を完全に失敗したことになります。もっと細かく私の予想を敷衍すると、通常通りに、昼休み明けの1時そこそこに金利引下げを含むステートメントが発表されると考えています。もしも、1時に発表されなければ、市場では金利引下げがない可能性を考慮して、ジリジリと株価が値を下げたり、為替が円高に振れたりするでしょうし、市場が閉じた後の3時過ぎにでも金利引下げなしとの発表があったりすれば、為替は一気に円高が進行し、3連休明けの株式市場も混乱するのではないかと思います。さらに付け加えれば、与謝野財政金融担当大臣の「国際協調の象徴的な意味」との発言などもあり、市場とともに政府によっても金利引下げの外堀は埋められています。もしも金利据置きなら、日銀はカッコなしの市場との対話に失敗することに加え、カッコ付きの「政府との対話」にも失敗することになります。日銀には金利引下げの選択肢しか残されていないように私には見受けられます。しかも、ここで金利を引き下げれば、来年に入るともう一段の金利引下げ、すなわち、ゼロ金利政策が視野に入ると考えるのは自然なことでしょう。しかし、ノーマティブなべき論としては、少し留保をつける必要があるかもしれませんが、私は事実上の決着がついていると考えているので深入りはしません。でも、1点だけ、米欧中央銀行の協調利下げにも加わらなかった日銀が、こういった追い込まれた形での金利引下げを実施するんですから、日銀への信認や白川総裁のリーダーシップが大きく揺らぐ可能性を指摘しておきたいと思います。大きく揺らいでも、あと4年半の総裁ポストは安泰なんですから、私個人としては疑問を感じます。3代15年に渡って日銀総裁がハズレだと、日本経済の本格的な復活も望み薄かもしれません。

Federal Reserve Assets

金利は決着がついたと私は考えているので、もう1点だけ、私の興味の対象を取り上げると、当座預金への付利の問題です。これは10月6日に FED が始めたのに追随するものですが、やり方をよく考えないと逆に金融引締め的に作用するリスクがあることを私は主張したいと思います。そもそも、FED が必要準備と過剰準備 (required and excess reserve) の双方に付利を行う背景には、日本で1997年の三洋証券の破綻の際に生じたような大規模なデフォルトこそ生じていませんが、米国において銀行間取引のリスクの高まりから銀行間での資金の流れが滞ったため、短期資金の流れを銀行間取引から一度連銀が準備預金という形で吸い上げて、その資金を連銀貸出しにより民間銀行に戻すという目的があります。しかし、それだけでは資金の流れが代替されたとしても流動性の拡大は生じませんから、10月6日の発表文にもある通り、Term Auction Facility (TAF) などの各種の流動性供給手段の拡大を同時に行っています。この結果、FED による流動性供給は大幅に増加し、バランスシートも急激に拡大しています。これを図示したのが上のグラフです。もっとも、これは準備預金への付利が始まる前の10月1日時点のものです。もちろん、その後、さらに拡大していることと考えられます。黄色の ML や紫色の AIG への資金貸出しが入っているのはご愛敬ですが、先ほどの TAF や通貨スワップをはじめとして、びっくりするようなバランスシート拡大が見られます。このグラフはアトランタ連銀の "macroblog" の10月7日、すなわち、FED が準備預金への付利を発表した翌日にアップされた、その名も "Why is the Fed Paying Interest on Excess Reserves?" と題するエントリーから引用しています。私が簡単に要約してしまいましたが、より詳しくはこのブログのエントリーを読むことをオススメします。なお、どうでもいいことですが、20年ほど前に私が FED の本部でリサーチアシスタントをしていたころは、FED には定冠詞を付けない風習だったんですが、現在のアトランタ連銀では定冠詞を付けているようです。
一応、FED の準備預金への付利に関する解説を終えて、日銀の当座預金への付利に目を転じます。なお、念のためですが、FED の準備預金と日銀の当座預金は同じ概念です。第1に、私の目に問題として映るのは政策金利の下限を制約する恐れです。当然ながら、銀行間のコール金利である政策金利は当座預金に付与される金利を下回ると意味をなさなくなります。これは日米ともに共通するんですが、ゼロ金利が視野に入りつつある日本では特に引締め的、あるいは緩和策の効果を減じる方向での期待形成につながる恐れが大きいと私は感じています。第2に、民間銀行が当座預金を増加させるインセンティブが大きくなる一方で、かなりの低い水準の金利の下では、同じ資産項目である貸出しが相対的なインセンティブを低下させるリスクがあります。非常に可能性は低いと思いますが、運用を誤れば、民間銀行の貸渋りや貸しはがしを助長して当座預金に積む方が優先される恐れすらあります。これも日米共通ですが、米国に比較して金利の絶対水準が低い日本でより大きなリスクと考えるべきです。第3に、当座預金への付利はあくまで資金の流れをインターバンクから中央銀行経由の貸出しにシフトするだけですから、まさに FED が実施しているような中央銀行のバランスシートの拡大が伴わなければ流動性の供給増加という実効が上がりません。現行では毎月1.2兆円の長期国債の買切りオペが実施されていますが、これをさらに増加させるか、FED のように新たな資金供給手段を開発しなければ、単なるマネッコで終わって何の効果もないことになります。

明日の日銀の金融政策決定会合について、少し前まで、世間的な注目は日銀が展望リポートで経済見通しをどこまで下方修正するかに集まっていたんですが、日経新聞の報道に合わせて金利引下げがアジェンダに上るようになりました。金利引下げはここ2-3日の動きで私は決着してしまったと考えています。もうひとつ、特段の注目を集めていない当座預金への付利についても、一介の地方大学の教授である私の理解くらいは、かなり best and brightest に近い日銀スタッフは認識していることと思いますが、一応、政策委員会の前日のタイミングで私なりの見方と意見を表明しておきます。先日から主張しているように、日銀がどこまでメゾスコピックな思考から離脱するかもひとつのポイントかもしれません。

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2008年10月29日 (水)

日米景気の起点、鉱工業生産指数と住宅価格指数を見る

昨日から今日にかけて日米景気の起点となる日本企業の生産活動と米国家計の資産状況を表す指標、すなわち、日本の鉱工業生産指数と米国の S&P/ケース・シラー住宅価格指数が公表されました。東証の株価も昨日今日と反発しているようですから今夜のエントリーでは株価を離れて、景気の先行きを考える上で重要なこれらの指標を見ておきたいと思います。まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産指数
経済産業省が29日発表した9月の鉱工業生産動向(速報)によると、生産指数(2005年=100、季節調整済み)は前月比1.2%上昇の105.8で、2カ月ぶりに上昇に転じた。同時に発表した製造工業生産予測調査では、10月が2.3%低下した後、11月も2.2%低下を予測。同省はこうした生産の動向について基調判断を「緩やかな低下傾向」に修正した。
出荷指数は同0.4%上昇の105.3で、在庫指数は同1.9%上昇の107.5、在庫率指数は同0.6%低下の108.4。
S&P ケース・シラー住宅価格指数
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が28日発表した8月の「S&Pケース・シラー住宅価格指数」は、主要10都市平均で前年同月比17.7%下落し、調査開始以来、最大の値下がりとなった。主要20都市平均も16.6%下落した。ともに下落は20カ月連続。
前月比では主要10都市で1.1%、20都市で1%の下落だった。昨年末から今年初めにかけての急落ぶりに比べると、下落ペースは緩やかになっているものの「住宅価格の下落傾向は続いており、データからは明るい兆しはあまり見られない」(S&P)としている。
都市別で下落率が最も大きかったのはフェニックスで前年同月比30.7%。次いでラスベガスで同30.6%、マイアミが28.1%。前月比で上昇した都市はボストンとクリーブランドの2都市のみで、7月の6都市から減少した。

鉱工業生産指数

まず、日本の鉱工業生産指数です。上のグラフは、青い折れ線が月次の、赤が四半期の、それぞれ、季節調整済の指数です。影を付けた部分は景気後退期で、直近はいつもの通り昨年10月をピークと仮置きしています。引用した記事にもある通り、9月単月では季節調整済指数の前月比で+1.2%の上昇となりましたが、基本的には8月▲3.5%減のリバウンドですし、何よりも、製造工業生産予測調査は10月が▲2.3%低下の後、11月も▲2.2%の低下との結果ですから、基調判断は前月までの「弱含みで推移」から「緩やかな低下傾向で推移」と3か月ぶりに下方修正されました。また、四半期で見ると、7-9月期は前月比で▲1.2%の低下を示し、10-11月の指数を製造工業生産予測調査で延ばして、さらに、12月を11月と同じ水準を仮定すると、10-12月期は前期比で▲4%程度の急激な低下を示すことになります。上のグラフを見る限り、今回の鉱工業生産指数の下がり方のスロープは確かに前回の IT バブル崩壊後に比べて緩やかと見えるんですが、これから先、急激な低下局面が控えている可能性が強いと私は考えています。特に、先行きの為替レート次第では、さらにスティープに落ち込む可能性も残されています。今回の景気後退局面は浅くて長いと考えていた私の予想は吹っ飛びました。

在庫循環図

次に、今夜のエントリーでは細かい業種別の動向を取り上げない代わりに、このブログでは初出のような気がしますが、在庫循環図を久し振りに描いてみました。上の通りです。初出ですので、在庫循環図の概念図もオマケで付けてあります。在庫循環図では、縦軸に出荷の伸び率、横軸に在庫の増加率を取ると、下の概念図にある通り、時計回りの循環を描きます。第1象限の45度線を上から下に切るのが景気循環の山で、ここから売行き不振による意図せざる在庫積上がりが始まり、さらに時計回りを続けて、第4象限に入ると、本格的な景気後退局面となり、在庫を減らす在庫調整局面となります。そして、第3象限に入って45度線を下から上に切るあたりが景気循環の谷となり、このあたりから売行き増による意図せざる在庫減が始まります。そして、第2象限に入って、需要増加に伴う本格的な在庫の積増しが行われて景気は順調に回復局面に乗ります。出荷も在庫も月次データが公表されているんですが、あまりに細かい動きになるので、通常は四半期データで描くことが多いように思います。上の方の実際のデータに基づく在庫循環図は、第3象限にある緑色の左向きの矢印の1999年第1四半期1-3月期から始まっていて、2008年第3四半期7-9月期まで、すなわち、第4象限にある上向きの緑色の矢印まで1回半強の回転をしています。在庫管理技術の向上や2004年後半から2005年にかけての景気の踊り場などの影響で、ここ3年ほどは第1象限で45度線をはさんだ細かい動きを繰り返して来ましたが、直近の2008年7-9月期にはとうとう第4象限に入り、概念図にある在庫調整局面を迎えたといえます。出荷-在庫バランスが急激に悪化し、本格的な景気調整局面に入ったわけです。なお、在庫循環図に関して、最後にどうでもいいことながら、私の描いた上の在庫循環図は月例経済報告などで使われる政府のスタイルに従っているんですが、理由は不明ながら伝統的に、日銀では出荷を横軸に、在庫を縦軸に取った在庫循環図を描きます。そうすると、在庫循環図は反時計回りすることになります。左回りする在庫循環図を描いている人がいたら、何らかの意味で日銀の影響を受けている、典型的には、日銀出身のエコノミストであろうと私は考えることにしています。何らご参考まで。

S&P/ケース・シラー住宅価格指数

最後は、米国のS&P/ケース・シラー住宅価格指数です。上のグラフの通りです。青の折れ線が全米主要10都市平均、赤が同じく20都市です。その名の通り、ケース教授とシラー教授の開発したインデックスを S&P と MacroMarkets という米国の調査会社が共同で調査し、S&P から発表されています。対象は一戸建て (single-family home) だけです。2000年1月を100とした指数になっています。米国では政府機関である連邦住宅公社監督局 (OFHEO) も同様の住宅価格指数を算出しており、リピート・セールス手法と呼ばれる、同じ不動産が異なる時点で複数回売買された際の価格から不動産価格の経年変化を示す価格指数が作成されていますので、エコノミストとしてはコチラの方が信頼性が高いような気がするんですが、S&P/ケース・シラー指数にはジャンボやサブプライムのモーゲージローンが含まれており、現在のサブプライム・ローンを発端とする金融危機を考える際には、コチラの方が情報量が多いような気がしないでもありませんし、報道機関などでも盛んに取り上げているのは S&P/ケース・シラー指数ではないかと思います。なお、詳細な S&P/ケース・シラー住宅価格指数の算定方法については今年3月にリポートが出ています。もちろん、調査地点の詳細情報も含まれています。私はナナメ読みしかしていませんので、詳細な紹介は控えます。40ページほどですから、ご興味ある方はリンクから PDF ファイルをダウンロード出来ると思います。ということで、この S&P/ケース・シラー住宅価格指数もこのブログで初出なものですから、簡単に解説しておきます。
このブログでも何度か触れましたが、日本の景気循環は企業を起点とし、さらにいえば、昔は公共投資などから、最近では輸出の増加などから、企業の生産活動が活発になることが起点となり、雇用者の増加や賃金の上昇を通じて家計の所得が増加し、それがさらに消費の活性化につながる形で景気が拡大して行くのに対して、米国では家計が景気の起点になります。何らかの資産価格、今世紀初頭の IT バブルの際には株価が、少し前まで続いた景気拡大期には住宅資産の価格上昇が家計の所得を増加させ、消費の拡大が企業の生産増加につながる形で景気が拡大します。ですから、家計の保有する資産、住宅価格の動向は米国景気を考える上で重要な位置を占めます。
ということで、前置きばかりが長くなりましたが、最初に引用した記事でも指摘されている通り、いまだに住宅価格は前年同月比で15%を超える下落を続けており、しかも、20か月連続の価格低下です。グラフを見ても、2006年年央のピークから下がり続けているのが見て取れます。正確にいえば、10都市の平均が2006年6月のピークから、20都市では2006年7月のピークから直近の2008年8月まで、どちらも累積で20%以上の価格下落となっています。この住宅価格の下落が止まることが米国景気反転のひとつの必要条件となると私は考えています。好意的に見れば、2008年に入ってから、下がり方のスロープがやや緩やかになったと見られなくもありませんが、株や債券などの金融資産と違って、住宅のような実物資産は価格調整の速度がそんなに速くありませんから、早くても来年年央まで調整が続くんではないかとか私は考えています。もしも、それまでにリーマン・ブラザーズ証券クラスとはいわないまでも、それ相応の金融機関の破綻が生じたり、新興国経済が急激に減速して世界景気がさらに悪化したりすれば、もっと調整に時間を要する可能性も否定できません。

最後に、これらを総合して、世界的な金融危機がさらに深化しないとの前提をもってしても、来年いっぱい、または、来年度いっぱいまで日米ともに現在の景気後退局面が続くと考えざるを得ません。今から1年半先の2010年の春から夏にかけてのあたりで、ようやく明るい話題が出始めるんではないかと私は予想しています。日米両国とも昨年10-12月期をピークにした現在の景気後退局面は優に2年に達する可能性が大いにあります。でも、金融危機がさらに深くなったり、長く続いたりすることにより、景気が下に振れて景気後退が長く続くリスクは決して小さくないと覚悟するべきなのかもしれません。

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2008年10月28日 (火)

メゾスコピックな景気対策は何をもたらすか?

今日の東証の日経平均株価は5営業日ぶりに反発しましたが、まだまだ底を脱したとまではとても言い難く、円レートも少し戻したとはいえ、1ドル95円近辺の水準で推移しています。世界経済は底の見えない「暗黒の時代」に向かっている様相を呈して来ています。昨日、私が地元新聞に取材された結果が今日の紙面に掲載されていましたが、メゾスコピックな県市町レベルでの景気対策に疑問を呈しています。実は、今日も地元テレビ局から取材を受けて、一般的な経済へのダメージとともに、同じような趣旨のお話をしました。すなわち、私は従来から部分均衡的な対策に疑問を持っており、例えば、このブログでも今年7月4日付けのエントリーで欧州中央銀行 (ECB) の金利引上げを批判していたりしますし、まったく別の観点からではありますが、少し前までの原油高を終息させるために世界的な流動性を絞る目的で、協調利上げの模索を提唱したこともあります。事態は全く逆方向に進んで、世界的な金融危機に対応した協調利下げが実施されたりしました。昨夜のエントリーの最後のパラで今日開催されている米国連邦準備制度理事会 (FED) の公開市場委員会 (FOMC) で想定されている50ベーシスを超える利下げの可能性を示唆しましたが、ここまでグローバル化が進んだ世界経済においては、ユーロ圏という意味での欧州や、あるいは、米国でさえメゾスコピックな存在になってしまったのかもしれないと考えないでもありません。我が日本についてもほぼ同様で、サブプライム・ローン問題の余波を受けなかったがために、円資産の相対的な安全性に着目されて、大幅な円高が進んでいます。先週からの株安は円高の寄与が半分を超えているんではないかと私は考えていますが、世界的な金融危機の難を逃れたと思ったら、自国通貨の増価により国内経済にダメージを受ける、という形で、結局、日本も世界的な金融危機からは逃れることが出来なかったりします。

Link by link

上の画像は、先週号の "The Economist" の "A short history of modern finance | Link by link" にあるイメージ画像を連結して少し縮小したものです。実は、記事の中身はかなり趣旨が違っているんですが、イメージ的な観点からだけ言うと、世界的な危機の鎖から逃れたと思っても、結局、また捕まってしまった日本の現状を表しているような気がしないでもありません。もはや、経済大国と言われた我が日本も米国や欧州とともに世界経済の中のメゾスコピックな存在になってしまったことは明らかです。

目を日本からさらにそのサブセットたる長崎に向けると、私は長崎県や長崎市が経済対策に積極的なのかどうかは全く知りませんが、このグローバル経済の荒波の中で何が出来るかは全く不透明です。県や市町村のレベルで、先週金曜日の10月24日に主張したような「現時点で苦しい産業や地域にそのまま生産要素を張り付けておくのを補助するようなバラマキではなく、まったく別の産業や地域に生産要素が流れるような財政資金の投入」などは出来るハズもありません。もともと、私は公務員ですから少し清算主義的な傾きがあるのは承知していますが、今回についても、その傾向が強まり、メゾスコピックなレベルでの対策には大いに疑問を感じざるを得ません。

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2008年10月27日 (月)

今回の景気後退局面で長崎が厳しい点

今日、東証の日経平均株価は2003年4月ののバブル後最安値をあっさりと割り込み、金曜日の終値と比較して486円18銭安の7162円90銭で引けました。1982年10月7日以来26年振りの安値だそうです。昨日のエントリーの最後のパラで書いた通りでした。私は株式相場には全く不案内ながら、そろそろ反転してもおかしくないと思いつつも、まったく、相場は反転の兆しすら見せません。

ということで、目を長崎に転ずると、これまた、長崎経済には株式相場並みに不案内ながら、直感的に考えられる長崎に厳しい要素をいくつか上げることが出来ると思います。私は「狼が来た」タイプの危機を煽るような発言はしない方のエコノミストのつもりなんですが、詳しくないながらも、長崎経済については心配の種は尽きません。第1に、長崎の観光産業にとって、円レートが対米ドルで上昇している以上に、対韓国ウォンで円高が進行していることが厳しい点として上げられます。韓国からの観光客が長崎でどれほどを占めるかは知らないんですが、直感的に、東京や京都と比べて段違いに韓国に近い分、日本の平均的な水準よりも韓国からの観光客の比率が長崎では高そうな気がします。下のグラフは韓国ウォンと米ドルの最近3ヶ月間の対円レートについて WEB 上のサービスでグラフを描いたもので、青い折れ線がドル相場、赤が韓国ウォン相場です。右軸は韓国ウォン100ウォン当たりの円レートです。米ドル相場のスケールが不明なんですが、簡単に計算したところ、最近3カ月の対円レートは、米ドルが15%弱下げているのに対して、韓国ウォンは40%近く下げています。逆方向で韓国人観光客から見ると、長崎旅行は3カ月で2倍近くにハネ上がったことになります。これでは韓国からの観光客が増えるハズもありません。

韓国ウォンの為替レート

第2に、極めて個別長崎だけの事情なんですが、県内で AIG のコールセンターの行方が注目されています。しかし、少なくとも、今まで AIG が一体的に運営して来たのと同じ規模で存続する可能性は小さいと考えるべきです。米国の AIG 本社が連邦準備制度理事会 (FED) からつなぎ融資を受け、2年間で返済とされた時点で AIG は分割され、切り売りされる運命が決まったわけですから、すでに、日本国内でも生保事業の売却が報じられている通りで、売却先によっては大幅なコールセンター業務の縮小もあり得ます。場合によっては、数年後にはすっかりなくなっている可能性すらあります。もっとも、私が周囲の長崎の人を観察する限りにおいては、物腰も穏やかで言葉もていねいですから、ある意味で、コールセンター業務に比較優位がありそうな気がしないでもありません。AIG の売却先がこの点を評価すれば、コールセンター業務のかなりの部分が長崎に残る可能性はありますが、すべてが丸ごと残るとまで期待するのは楽観的に過ぎると思います。
第3に、金融関係では、10月1日と2日に日銀短観を取り上げた際に、資金繰り判断 DI と金融機関の貸出態度判断 DI ともに、全国より九州、九州より長崎で金融面が苦しいと判断されていると紹介しましたが、もしも、全国的に見てわずかな貸渋りであったとしても、長崎県内に限界企業の比率が高いのであれば、長崎には厳しい要素となる可能性があります。
第4に、県内の造船や半導体などの輸出産業については、円高の進行で採算性が悪化するのは言うまでもありませんが、全国平均と比較して長崎だけが厳しいというわけではないと考えられます。ただし、造船などで受注残がまだ大きいと強気に報じられていましたが、ここまで為替レートが動くと、受注した通貨によっては、例えば、米ドル建てで受注しているとすれば、採算が悪化する可能性も否定できません。もちろん、受注残のある時点まではいいかもしれないんですが、その先は不透明きわまりありません。
第5に、流通、特に小売りに関しては、このような大きな変化が生じている時期には消費者の嗜好も大きく変化する可能性があり、その流れに長崎の小売業が価格や品ぞろえの点でマッチ出来るかどうかが疑問です。すなわち、全国的な展開をしている流通業では消費者の嗜好の変化も捉えやすいし、嗜好の変化に従った価格設定や品ぞろえも可能なんですが、個人経営商店の比率が高い地方都市ではこれが困難になる可能性があります。例えば、昨年12月に SMBC コンサルティングが発表した2007年のヒット商品番付ではプレミアム商品が堂々の東の大関で入り、景気回復最終盤を実感したんですが、この先はデフレ期ほどではないにしても単価の安い商品に消費者のニーズがシフトする可能性もあり、このような流れにいわゆるパパママストアが乗れるのかどうか、少し疑問を感じないでもありませんし、長崎が典型的な地方都市で、パパママストアの比率が全国平均と比較して高いとすれば、少し厳しい点と考えられなくもありません。

昨日のエントリーと同じで、最後に少し予言めいたことを上げると、明日からの FED の公開市場委員会 (FOMC) において、米国単独の大幅金利引下げがあり得ると考えています。場合によっては、日銀のゼロ金利政策に近いかもしれません。でも、昨日の最後のパラよりも可能性は格段に落ちます。

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2008年10月26日 (日)

長崎にはハロウィンイベントがない!

ハロウィン

今日は、昼前から雨が降り出して冴えないお天気でした。昨日のうちに中華街も行ったことですし、今日はそんなに出歩きませんでした。ということで、ネットで遊んでいたんですが、少し前に女房からメールが来て、私が昨年や一昨年に下の子を連れて行った AOYAMA ハロウィンイベントが今年は10月31日のハロウィン当日に開催されるとありましたので、長崎も教会の多い町だからハロウィンのイベントがあるんではないかと考えて、Google 検索をしてみたところ惨憺たる結果でした。どうも、長崎にはハロウィン・イベントはないようです。
「ハロウィン」+「イベント」+「長崎」の3つのキーワードを入力して Google 検索でヒットしたのは、トップが「ハロウィンイベントが見当たらず・・・。」と題した、長崎ローカルの個人のブログサイトで、しかも、2年前の記事でした。その後の2年間で見当たるようになったとも思えず、この記事も詳しくは見ていません。どう見ても長崎とは考えられないサイトを2つほど飛ばして、H.I.S. 長崎営業所のサイトを見ると、何と、ハロウィンのイベントを楽しむために東京ディズニーランドに行きましょうとの宣伝だったりしました。長崎は昨日行った中華街とともに、キリスト教の教会の多い街で、ユネスコの世界遺産の暫定リストに「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が追加でファイルされたりしていますが、やっぱり、ハコモノ中心でイベントはないのかと思うと少し残念です。私が家族を残して来た青山の周辺では、先に上げた AOYAMA ハロウィンイベントだけでなく、日本最大級のハロウィン仮装行列として有名な原宿表参道 ハローハロウィンパンプキンパレードがあったり、やや地味なところでも、青山ブックセンターで仮装おはなし会が開催されたりと、この季節にはいろんなイベントが目白押しなんですが、長崎では大規模なイベントは望むべくもないのかもしれません。もう6-7年も前になりますが、我が家の子供達が幼稚園に通っていたころのジャカルタのアパートでのハロウィンイベントが懐かしいです。イスラム教の国で仏教徒の日本人がキリスト教のハロウィンを楽しんでいたんですから、とってもインターナショナルな雰囲気でした。海外生活でしか経験できないものです。

別の話で、約80年前の1929年10月24日の、いわゆる暗黒の木曜日に米国のウォール街で株価が大暴落し、世界虚構が始まったことはよく知られています。10月も残すところ来週1週間だけになりましたが、金曜日の NY 市場でダウ平均株価が大きく下げましたから、明日の東証の日経平均株価が寄付きから30分以内にバブル後最安値をアッサリ更新することは間違いのないところで、再び、株式市場の10月伝説が繰り返されるのかどうか、エコノミストとしては大いに関心が高まります。

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2008年10月25日 (土)

長崎の中華街で皿うどんを食べる

今日は、夕方から長崎新地の中華街に行きました。長崎市街のダウンタウンにあります。今どきのことですから、ご案内のホームページがあって、そこでは「横浜、神戸と並ぶ中華街」と勝手に称しているようですが、十字路を中心におよそ100メートルほどの街路にお店が並んでいるだけで、平面的な広がりはとても横浜や神戸には及びません。もっとも、私は関西出身ですから神戸の方に何度も足を運んだんですが、最近は神戸の中華街には行かなくて、3年ほど前に私の母の古希の祝いで横浜の中華街に行った方をよく覚えていたりします。

繰返しになりますが、長崎の中華街は十字に交わった、それぞれ100メートルほどの街路があるだけで、そこに中華料理店やお菓子や雑貨などののお土産屋さんが並んでいます。せいろから湯気を上げて饅頭を売っていたり、逆に、カラカラに乾かした干しあわびや乾麺などの乾物の食材が並んでいたりと、横浜や神戸の中華街と基本的に同じなんですが、長崎らしい点としては、中にかまぼこ屋さんがあったり、土産物としてべっ甲が売られていたりすることだと思います。私は皿うどんを頼んだんですが、隣のテーブルの観光客らしい4人連れはコースを注文していて、これも長崎らしいと思ったのは、最後のご飯ものがチャーハンとかヤキソバとかではなく、チャンポンか皿うどんから選ぶコース構成だったことです。また、九州らしく、豚の角煮もメニューの中心になっているようなことをお店の人から聞きました。

長崎の中華街

何でも、長崎市だか長崎県だかは中国の福建省そのものか、福建省のどこかの都市と姉妹関係にあり、福建省から中華街の石畳を輸入したり、上の写真にある中華門は東門だと思うんですが、福建省から資材を取り寄せたり、職人さんに来てもらったりして、東西南北の中華門を作ったそうです。このあたりは、下調べが悪くて詳細不明です。ご容赦ください。

路面電車に乗っていると中華門が見えますし、電停からも近いので便利です。小さな中華街ながらも、そもそも、中華街が存在すること自体がめずらしいと思いますので、結構な観光スポットになっているのかもしれません。

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2008年10月24日 (金)

未曾有の金融危機に必要な財政政策の視点とは?

金融危機の連鎖が止まらず、今日の東証日経平均株価も大きく下げ、バブル後最安値の水準に迫っています。先月のリーマン・ブラザーズ証券の破綻などの際の9月15日付けで「未曾有の金融危機の始まりか?」と題するエントリーをこのブログにアップしましたが、どうも、ホントにそうらしい様相を呈して来ました。昨日のエントリーで書いたように、日本の場合は世界的な金融危機によるダメージが相対的に小さいと見られているだけに、円資産に買いが入る形で円高が進行して、結局、世界同時不況に陥ってしまっている気がします。従来から私が主張している通り、中国などの新興国の景気も決してデカップリングすることなく、先進国とともに減速の局面に入っているように見受けられます。私の直感的な印象では、それでもまだアジアは傷が浅い方で、東欧のダメージが大きくなっている気がします。その最大の原因は欧州と日本の景気後退の深さの差にあります。つまり、欧州よりも日本の方が相対的に景気後退の深さは浅いと見られます。私は従来から今回の日本の景気後退局面は浅くて長いと主張して来ましたが、私の予想に比べれば随分と深いものの、欧州に比較すればマシなのかもしれません。その反対側で、商品市況、特に原油は大きく下げており、半年足らず前のピークの半分にも満たない価格で取引されています。かなり前に、シンクタンクのエラいさんで、原油高への対策として円高推進を唱えた人を、私はとんでもない謬論であると指摘しましたが、この金融危機の中で原油価格が下がり円高が進行すれば、これに類似した新手の「トンデモ経済学」が出て来るかもしれません。私自身も反省して我が身を振り返ると、先月の麻生総理大臣就任の際に、財政拡大路線に疑問を呈しましたが、米国の連邦準備制度理事会 (FED) の前の議長を務めていたグリーンスパン氏も米国議会下院の公聴会で金融機関に対する規制が不十分だったとの過ちを認める発言をしたそうですし、コトこのような状況になったのであれば、金融政策で対応する通常の景気循環の限度を超えており、財政出動もやむを得ないのかと私も考えを修正しつつあります。
ただし、財政出動するとしても忘れてならない観点は、生産要素の移動性を高めることです。私がもっとも警戒するのは、かつての「日本列島改造論」のように、地方や中小企業などに財政資金をばらまいて、ヒト、モノ、カネを一定の産業や地域に張り付けておくような政策は避けるべきだと考えています。最近のもっとも顕著な好例は郵政民営化です。根本的な理念や最近の動向はともかく、郵政民営化により資金の流れが大きく変わり、2005年半ば以降、株価も上がれば景気もよくなったのは経験済みです。もっとも簡単にモビリティを上げられる資金の部分で大きな政策転換を経験しましたが、移動性の低い資本設備についても時間を通したダイナミックな立地転換を促進するような、また、労働資源についても地方間や産業間の移動が容易になるような政策が模索されるべきです。やや笑い話の領域かもしれませんが、人跡未踏の地域に定住の促進を含めて大規模な公共事業を行って首都を移転することもひょっとしたら一案にならないとも限りません。1930年代の米国のテネシー川流域開発を大規模にしたみたいなものです。実現性はともかく、何らかの頭の体操にはなりそうな気がします。要するに、もしも財政出動するとしても、現時点で苦しい産業や地域にそのまま生産要素を張り付けておくのを補助するようなバラマキではなく、まったく別の産業や地域に生産要素が流れるような財政資金の投入を考えるべきだと私は考えています。

実に、大恐慌以来、ほぼ100年に1度の経済の混乱期を目の当たりにすることが出来て、エコノミストとして幸運なのか不幸なか、私にはよく分かりませんが、経済政策当局の実力が試されているような気がしてなりません。

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2008年10月23日 (木)

貿易統計から輸出の先行きを考える

本日、財務省から9月の貿易統計が発表されました。メディアの報道では、貿易赤字を記録した8月に続いて、9月も貿易収支が大幅に縮小したことが注目を集めています。これは9月単月というよりも、2008年4-9月の今年度上期の特徴といえます。まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。

財務省が23日朝に発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比1.5%増の7兆3678億円、輸入額は同28.8%増の7兆2727億円で、輸出額から輸入額を差し引いた輸出超過額(貿易黒字)は同94.1%減の951億円となった。
同時に発表した2008年度上半期(4-9月)の輸出額は前年同期比2.5%増の42兆9043億円、輸入額は同16.1%増の42兆1023億円で、貿易黒字は同85.6%減の8020億円だった。

まず、少し雑にグラフを3枚並べました。3枚のうち、一番上のグラフは引用した報道に見られるような貿易統計のヘッドラインを示しています。上の折れ線が輸出と輸入で、青が輸入で赤が輸入です。緑色の棒グラフが差額の貿易収支です。左軸の単位は10億円です。今年に入ってから貿易収支が大きく縮小し、8月は赤字になっています。次の真ん中のグラフは輸出の前年同月比伸び率について価格指数と数量指数によって金額指数を寄与度分解したものです。赤い棒グラフが数量指数の前年同月比、青が価格指数です。この2つの指数を合わせた金額指数を緑色の折れ線グラフで表示してあります。左軸の単位はパーセントです。金額ベースの輸出は前年同月比でまだプラスを維持していますが、数量ベースでは8-9月の輸出は連続して前年同月比マイナスです。3枚目のシンプルな折れ線グラフは交易条件指数です。2000年を100とした指数です。先月の統計発表時の9月25日付けのエントリーでは、8月統計が輸入価格指数のピークである可能性を指摘しましたが、私の予想通り、輸入価格指数は8月の192.2から9月には182.4まで一気に下がり、輸出価格との比率で見た交易条件指数も8月をボトムにする可能性が大いにあります。

貿易統計の推移

グラフを離れて、相手先国別の輸出を見ると、9月に前年同月比で米国向けが▲10.9%減、欧州向けが▲9.0%減に対して、アジア向けは+2.9%増、うち中国向けが+1.7%増と、まだプラスを続けていますが、中国やアジア向けの輸出も急減速しているのは明らかです。特に、中国は先日発表された7-9月期の成長率でも減速が確認されましたので、これから先行きでは減少に転ずる可能性が大きいと私は考えています。ただし、中東向けは前年同月比+44.5%増、ロシア向けは+71.5%増と増勢を維持していますが、これらの国では景気が原油高によって支えられている面が大きいと考えられますから、原油価格が急激に低下している現在の情勢では、この先も増勢を続けるかどうかは大きな疑問です。唯一残った有望輸出先は9月も前年同月比で+14.7%増を示した中南米だけかもしれません。しかし、輸出市場としての中南米のボリュームは金額ベースで中東よりも少し大きいものの、米国の 1/3 、アジアの 1/9 くらいですから、欧米アジア向けの輸出減をキャンセルアウトするには大いに不足すると考えた方がよさそうです。

為替レートの推移

世界経済の減速とともに、日本の輸出にダブルパンチで効いて来そうなのが円高の進む為替レートの動向です。為替相場は株式などと違って24時間動いていますからキリがないので、今日の昼休みの12時半ころに上のグラフを WEB 上のサービスで描いてみました。最近5年間の対米ドルと対ユーロの円レートです。赤い折れ線が対ユーロ、青が対米ドルです。最近5年間でほぼ最大の円高水準になっていることが読み取れます。特に、赤いラインのユーロは最近時点で大きく下げており、どこかのサイトでバンジージャンプと表現しているのを見たような気がします。詳細は忘れました。最近の金融危機の中で、日本は相対的にダメージが小さかったとの評価を得てしまったために円資産に資金が流入し円高となっています。有り難いのか迷惑なのか、評価の分かれるところかもしれません。しかし、いずれにせよ、この為替レートの動きは今しばらく続く可能性があります。要するに、世界経済の後退や減速による需要面からも、為替レートの動きによる価格面からも、日本の輸出が上向くことは当面あり得ないと考えるべきです。

貿易統計に関しては、7月のデータに特異値が現れましたので、ややエコノミストの混乱を誘った気がしますが、今年に入ってから、着実に世界経済とともに日本経済の悪化を示していると私は受け止めてます。

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2008年10月22日 (水)

柳広司『ジョーカー・ゲーム』 (角川書店) を読む

柳広司『ジョーカー・ゲーム』(角川書店)柳広司さんの『ジョーカー・ゲーム』を読みました。久し振りのスパイ小説です。その昔は、私もスパイ小説は決して嫌いではなく、ジョン・ル・カレのジョージ・スマイリーを主人公にしたシリーズや、レン・デイトンのバーナード・サムソンを主人公にした『ベルリン・ゲーム』、『メキシコ・セット』、『ロンドン・マッチ』の3部作なんかを読み通した記憶があったりします。20年以上前のような気がします。最近では東西の冷戦も終了してスパイ小説もすっかり流行らなくなった気がしますが、柳さんは『トーキョー・プリズン』が日本推理作家協会賞の最終候補作として残ったように、基本的には、推理作家ですから、このスパイ小説も謎解きを中心に据えたミステリのように仕上げています。柳さんのミステリにはソクラテス、マルコ・ポーロ、聖フランシスコ・ザビエル、シュリーマン、オッペンハイマー、果ては、夏目漱石の小説で有名な坊ちゃんまで、実在・架空を問わず有名人が出てくる本が多いようなんですが、この『ジョーカー・ゲーム』は昭和初期の日本陸軍でスパイ機関を創設した結城中佐が主人公になっています。私が知らないだけかもしれませんが、少なくとも広く知られた実在・架空の有名人はこの小説には出て来ないような気がします。この『ジョーカー・ゲーム』は短編といえるくらいの長さで、完結した5部構成になっていて、大雑把に250ページの単行本の50ページずつを充てています。以下は各章のタイトルです。なお、今夜のエントリーは対象がミステリですので、出来るだけネタバレはないように努めたいと思いますが、一応、この先は自己責任で読み進みつつ十分ご注意ください。

  1. ジョーカー・ゲーム
  2. 幽霊 ゴースト
  3. ロビンソン
  4. 魔都
  5. XX ダブル・クロス

大雑把なストーリーは、第1話がスパイの疑いのある外国人宅を結城中佐の部下が捜索して、先に家宅捜索に入った憲兵隊が決して手を触れることのなかった場所から証拠品を見つけ出します。この章は結城中佐や D 機関に関する導入部の役割も果たしています。第2話は洋服店の店員に化けたスパイが在横浜の英国総領事を調査して、爆弾テロをたくらむ秘密組織と関係があるかどうかを明らかにします。第3話はロンドンに送られたスパイが英国諜報機関に捕えられた後、脱出するまでの顛末です。第4話にはスパイはほとんど出て来ないんですが、間接的な情報操作により上海駐留の日本憲兵隊における不正を始末する話です。最後の第5話は日本にいたドイツ人ジャーナリストでドイツとソ連の二重スパイをしていた男が殺された犯人を結城中佐の部下のスパイが追及します。
「魔王」と称される結城中佐が設立したスパイ養成期間は D 機関と呼ばれていて、一部例外を除いて軍出身ではない10人余りの養成期間中の学生や巣立った卒業生などが、奇妙奇天烈な訓練を受けたり、実践で活躍したりします。昭和初期の軍機関にあって、学生が天皇制の正当性や合法性について議論したり、金庫破りを教わったりします。結城中佐のモットーは、「死ぬな。殺すな。とらわれるな」の3点です。スパイは影のような見えない存在で、疑われた瞬間にスパイとしては終わりと主張し、戦場以外での人の死は警察などで徹底的な取り調べが行われるため、死を強く忌避することも特徴のひとつです。今日のニュースを見ていても、東証の株価下落なんかよりも、出産間近の東京の女性が7病院から搬送を拒否されて出産後に死亡した事件や、船橋の小学校で給食のパンをのどに詰まらせて死亡した事故などが大きく報じらていますから、これはうなずけることかもしれません。また、最後の「とらわれず」は最終の第5話でその一端が明らかにされます。いずれにせよ、「死ぬな。殺すな」については、戦場で相手を殺して、場合によっては自分も名誉の戦死を遂げることを使命とする戦前の日本陸軍組織の中では極めて異質な存在であることが強調されています。
『ジョーカー・ゲーム』の大きな特徴として、短編であるがゆえに、国際政治や外交の延長であるスパイ活動の背景部分を大きく割愛し、あるいは、逆から見れば、短編にするために大きく割愛し、D 機関のスパイ各個人やその大元締めである「魔王」こと結城中佐のスーパーマン振りが際立っているということです。先に上げたル・カレやデイトンなどのスパイ小説は米ソの冷戦のさなか、厳しく対立する東西両陣営を互いに探り合うスパイを主人公に、両陣営内部でも温度差があり、それに基づくさや当てがあったりと、国際政治や外交の緻密かつ裏から見た分析が豊富に語られていました。私なんかは今でもゴルゴ 13 のマンガを読んで、外交の舞台裏ではこういったことがあるのかと感心したりしないでもありません。しかし、『ジョーカー・ゲーム』では国際政治や外交の舞台裏は大胆にカットし、その代り、スパイ個人の活躍や結城中佐の飛び抜けた資質や洞察力などをクローズアップする形を取っています。この手法には賛否両論あり得ますが、私は大いに評価したいと思います。今さら、大昔の国際政治や外交についてクドクドと背景説明をされても困惑するばかりです。もちろん、批判も十分あり得て、スパイが苦労して入手した重要な情報が国際舞台で生かされる場面は全くありません。個別かつ瑣末な事件の解決に当たっているだけで、中には、結城少佐が D 機関に予算を引っ張って来るための組織防衛的な活動にスパイを使ったりしています。このあたりは、官僚機構はどれも同じような面を持っていると感じてしまいました。

いろんな見方が出来て、いろんな楽しみ方のできる好著です。私は柳さんの作品をそんなに多く読んでいるわけではないんですが、この小説は『トーキョー・プリズン』より高く評価する人も少なくないだろうと感じました。文句なく5つ星でしょう。もっとも、私独自の評価では、買って読む本と借りて読む本の分類には少し迷います。

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2008年10月21日 (火)

政府の「月例経済報告」と日銀の「地域経済報告」を読む

昨日、政府と日銀が景気の現状に関するリポートを発表しました。まず、政府は月例経済報告閣僚会議にて今年10月の「月例経済報告」を決定し、日銀は支店長会議を開催して「地域経済報告」 (さくらレポート) を公表しました。いずれも、景気判断はかなり下向きに修正されています。まず、いつもの日経新聞のサイトからそれぞれの記事を引用すると以下の通りです。

月例経済報告
政府は20日、10月の月例経済報告で景気の基調判断を「弱まっている」として前月より引き下げた。輸出や生産、雇用など6項目の判断を下方修正。主要11項目のうち、6項目を同時に下げたのは1998年4月以来10年半ぶり。日銀も同日公表した10月の地域経済報告で、国内の全9地域の景気判断を下方修正。世界的に景気後退の懸念が強まるなか、日本経済も厳しい局面に入った。
月例報告で基調判断を下げたのは2カ月ぶり。「弱まっている」との基調判断は初めて。内閣府は過去の景気後退局面で使った表現である「悪化」ほど悪くないとしている。しかし6項目が同時に下がり、景気は急速に厳しさを増している。同日記者会見した与謝野馨経済財政担当相は「景気は下向きの動きが一層明確になった」とした。
地域経済報告
日銀は20日の支店長会議でまとめた10月の地域経済報告(さくらリポート)で、総括判断を「全体として停滞している」と前回7月報告の「引き続き減速している」から下方修正した。エネルギー・原材料価格高に加え、輸出の増勢鈍化が企業の生産活動に悪影響を与えていることが背景。地域別では9地域中全地域の景気判断を下方修正した。2005年4月の同リポート開始以来、全地域の景気判断が下方修正されるのは初めて。
個人消費は「弱めの動きとなっている」とし、前回あった「底堅く推移している」との表現を削除。衣料品や雑貨、身の回り品を中心に弱めの動きとなっているほか、ガソリン価格の上昇で乗用車販売も減少したことを反映した。
地域別では北海道、中国で「やや厳しい状況」、「低調」としたほか東北、関東甲信越など7地域が下方修正。判断を維持したのは北陸と東海の2地域にとどまった。先行きについても資産価格の変動が消費者心理に悪影響を及ぼす可能性があることなどから弱めの動きが続くとの見方が多いという。

誰の目にも明らかなことですが、政府も日銀も景気が悪くなっていることを公式のリポートで認めているわけです。引用にもある通り、「月例経済報告」では基調判断を引き下げて、個別項目でも個人消費など主要11項目のうち6項目に関する判断を下向きに修正しました。日銀の「地域経済報告」に至っては全国9地域すべてで景気判断を下方修正しています。もちろん、リポートの周期が文字通り毎月出す「月例経済報告」と違って、日銀の「地域経済報告」は四半期に1回ですから、景気判断の触れも大きくなるのは当然です。昨年2007年5月29日付けの「エコノミストの文学表現」で月例文学という表現方法に触れましたが、その難解かつ曖昧なエコノミスト的文学表現ながら、以下に、「月例経済報告」と日銀の「地域経済報告」の変更点を取りまとめました。
まず、「月例経済報告」です。

需要項目9月月例10月月例
個人消費おおむね横ばいとなっている。おおむね横ばいとなっているが、足下で弱い動きもみられる。
輸出弱含んでいる。緩やかに減少している。
生産緩やかに減少している。減少している。
業況判断一段と慎重さが増している。悪化している。
倒産件数緩やかな増加傾向にある。増加している。
雇用情勢厳しさが残るなかで、このところ弱含んでいる。悪化しつつある。
国内企業物価横ばいとなっている。緩やかに下落している。

次に、日銀の「地域経済報告」です。

地域2008年7月判断2008年10月判断
北海道弱めの動きとなっているやや厳しい状況にある
東北足踏み感がみられている弱めの動きが広がっている
北陸減速感が幾分増している停滞している
関東甲信越減速している停滞している
東海引き続き高水準にあるが、足もとは減速がはっきりしてきているなお高水準を保ちつつも、下降局面にある
近畿減速している停滞している
中国全体としては緩やかな回復を続けているが、そのテンポは、このところ鈍化している一部に弱い動きがみられるが、全体としては概ね横ばいで推移している
四国横ばい圏内の動きとなっているやや弱めの動きとなっている
九州・沖縄足踏み感が強まっている停滞している

少なくとも、「月例経済報告」では、生産、業況判断、倒産件数、雇用情勢の4項目で何らの修飾語なしに、減少とか悪化とかのストレートな表現になりました。要するに、何のためらいもなく景気が悪いと言っているに等しい表現だと私は受け止めています。同様に、日銀の「地域経済報告」でも、極めて分かりやすく停滞と表現されたのが、北陸、関東甲信越、近畿、九州・沖縄の4地域あります。もっとも、コチラは北海道のやや厳しいとの表現は停滞よりもキツい表現なのかもしれません。要するに、多くの地域経済も停滞しているわけです。

最後に、この景気後退局面がいつまで続くのかについて、2つのリポートは触れていませんので、私なりの考えを示したいと思います。すなわち、以前にもこのブログで表明したように、来年年央から秋口くらいまで設備投資の停滞や減少が続くとすれば、景気の底は来年年末かさ来年の年初ということになります。来年ないし来年度いっぱいは現在の景気後退が続くと私は考えています。別の観点から、現在の大学2年生から来年4月に入学する新入生あたりまで、大学生の就職情勢も厳しいものが続くんではないかと思わないでもありません。

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2008年10月20日 (月)

あぁタイガース散る!

  RHBE
中  日000000002 2423
阪  神000000000 0402

息詰まるような投手戦でした。序盤は、いきなりのデッドボール退場もあり、両チームともエラーもポロポロ出て、はたまた、併殺打も多くて、荒れた試合になるかと思ったんですが、両チームのピッチャーが見事に締めて、いい試合になりました。負け試合ですから、荒れたヘンな試合にならなかったことだけが救いです。
中盤6回まで両チームがゼロ行進を続けた当たりで、私はホームランで決まるんではないかと思い始めて、長打力では阪神に分がないと考えたりもしたんですが、最後の最後に藤川投手がそのホームランを打たれて万事休すでした。現在の阪神打線では9回オモテに2点取られればお終いです。次の監督には1985年に日本一になった時のような強力打線をお願いするとともに、ポストシーズンの短期決戦をはじめとして、ここ一番に強いチーム作りを託したいものです。それにしても、春まだ寒いころから半年余りにわたって野球を楽しむことが出来ました。毎年のことながら、大いに感謝します。

来年こそ、
がんばれタイガース!

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国際労働機関 (ILO) リポートに見る世界の格差問題

やや旧聞に属しますが、国際労働機関 (ILO) の研究部門である国際労働研究所が10月16日に「仕事の世界報告書2008年版」 "World of Work Report 2008" を発表しました。副題は「金融グローバル化の時代における大幅な所得不平等とその拡大」 "Global income inequality gap is vast and growing" です。リポートの preprint 版とともに、サマリーもネットから入手することが出来ます。さらに、ILO 駐日事務所から日本語による記者発表文も公表されています。リポートでは、日本を含む70以上の先進国・途上国の賃金と経済成長のデータを用い、所得不平等の最新の動向、そして金融グローバル化、働きがいのある人間らしい仕事 (decent work) の不足、所得再配分政策の役割縮小などといったその背景要因を分析していますが、まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

国際労働機関(ILO)は16日、経済のグローバル化などの影響で1990年から2005年の間に世界のおよそ3分の2の国で所得格差が拡大したとする報告書を公表した。さらに現在の金融危機が多くの失業者を生み出すなど深刻な状況が予想されるため、各国が適切な対応を取る必要性を強調した。
報告書は低所得者の賃金が伸び悩んでいる一方、富裕層の金融所得が増えていると指摘。データが入手できた73カ国中51カ国で過去20年間に所得全体に占める賃金の比率が低下したという。最も下落したのは中南米・カリブ地域で、アジア・太平洋地域が続いた。

今夜のエントリーでは、6章構成のこのリポートのうち、第1章の概観部分と第2章の金融のグローバル化について取り上げたいと思います。第1章を少し詳しく見ると、まず、ここ数年の雇用情勢を概観して、フローとして、2000年以降の雇用の増加の過半はアジア太平洋地域で創出されていることや、ストックでも、雇用者に占める先進国の割合が15%程度に低下して来ていることが示されています。また、1990年以降の生産性の伸びでは中国が群を抜いていることも明らかにされています。下のグラフは2000-2007年における雇用者増加の内訳です。リポートの pp.4 Figure 1.1 を引用しています。

Share of employment growth by region, 2000-2007

その上で、旧ソ連・東欧などの一部の国を除いて、労働分配率がおおむね低下しているデータが示され、1990年代から2000年、さらに、2000年から2005年に不平等の度合いを表すジニ係数が上昇した国が多いと指摘しています。下のグラフは1990年代から2000年にかけてのジニ係数の推移について、先進国とアジア太平洋地域を並べてみました。上のグラフから日本はほぼ先進国の中ほどであることや、下のグラフから中国の不平等化が進んでいることが、明らかにされています。これはリポートの pp.11 Figure 1.6 からの引用です。

Gini index by region for 1990 and 2000

続いて、所得の10分位で占める第1分位と第10分位のシェアから、第10分位のシェアが上昇傾向にあるデータが示されています。さらに、最近時点までのエネルギーや食料などの商品価格の上昇が家計の購買力に及ぼす影響について、当然ながら、所得の低い階層ほど購買力へのマイナスの効果が生じていることをインドと米国の例を引きながら測定しています。加えて、不平等の影響として、健康面への悪影響、性別や民族による差別、汚職の広がりなどを上げて、所得の不平等を何らかの政策で是正する必要を結論して、第1章を締めくくっています。

第2章では金融のグローバル化が不平等に及ぼす影響について取り上げ、まず、金融のグローバル化そのものが不均一に進行している事実を指摘し、少なくとも資産の不平等を是正する方向には作用しなかったとして、以下のような資産の所得のジニ係数を並べた表を示しています。国目のアルファベット順ですから、少し一覧性がわるいんですが、少なくとも、フローの所得よりもストックの資産の方の不平等の度合いが大きいことが見て取れます。リポートの pp.44 Table 2.1 を引用しています。

Wealth inequality in selected countries

さらに、不均一に進んでいる金融のグローバル化の進展の程度と労働分配率を比較し、リポートの pp.52 Figure 2.7 から引用した下のグラフに示されている通り、金融のグローバル化が進んだ国ほど労働分配率が低くなる傾向を示しています。そして、第2章の最後では、やや唐突感があるんですが、これらの金融のグローバル化に伴う不平等の進行については、所得の再分配を活用すべきであることが結論されています。要するに、ものすごく斜め読みした私の感触では、金融のグローバル化が進行すれば所得や資産の不平等化が進むんですが、さすがの ILO も金融のグローバル化を止めるというわけではなく、その不平等化の悪影響を緩和するような所得再分配をオススメしているようです。

Financial globalization and the evolution of the wage share

このほか、リポートでは、第3章では騒動組織と不平等、第4章では雇用形態と所得不平等、第5章では税制と社会保障を通じた所得再分配、第6章では諸政策を結びつける課題として働きがいのある人間らしい仕事 (decent work) の達成、などを取り上げています。第3章では、多くの国で1989年から2005年にかけて労働組合の組織率が低下し、労働組合組織率とジニ係数の間には負の相関があること (pp.83 Figure 3.1)、第4章では明確な関係は見出せないものの、パートや非正規雇用が何らかの悪影響を所得分配に及ぼしていると見られること、第5章では社会保障制度や税制が所得再分配の強力なツールとなり、特に私が興味深かったのは、教育関係支出がGDPに占める割合は明確にジニ係数と逆相関していること (pp.132 Figure 5.3)、最後に、第6章では雇用を促進し、所得の不平等の改善のため、経済政策・労働政策・社会政策の諸政策を結びつける働きがいのある人間らしい仕事 (decent work) 課題を促進する必要があること、などが結論とされています。なお、PDF ファイルで200ページ近い英文リポートを大胆に斜め読みしていますので、正確性や完全性は保証しかねますから、出来るだけ、原典を参照するよう強くお勧めします。特に、私には decent work 課題は抽象度が高すぎてピンと来ません。

昨今の金融危機の拡大の中で、格差や不平等の問題は後景に退いた観があり、日経新聞のサイトで報じられていたように、本学でも学生の就職を心配する声の方が強いんですが、国際機関の英文リポートを取り上げるのはこのブログの特徴でもありますので、ものすごい斜め読みながら、初めて ILO のリポートを紹介してみました。

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2008年10月19日 (日)

鳥谷選手のホームランで勝つ!

  RHBE
中  日010001010 31040
阪  神40000300X 71130

鳥谷遊撃手の2発が効果的でした。1回ウラのスリーランは言うに及ばず、2点差に詰め寄られた6回ウラのソロも効果的でした。ネット観戦でしたから詳細は不明ながら、何だか、中田投手がガタガタになったように見受けられました。ワイルドピッチの2点のオマケつきでした。6回ウラに点を取れなくても、結果的には3点で抑えたわけですから、自慢のリリーフ陣で逃げ切ったかもしれませんが、明日への勢いが大きく違うと思います。私の見方からすれば、投手陣はコンスタントに2-3点に抑えているんですから、要は、打線がもっと打って点を入れれば勝てるんです。今夜のように7点あれば、久保田投手がホームランを打たれても楽勝です。
それにしても、私にとっては10月8日の東京ドームで負けて、そのまま優勝を逃したことで今シーズンはほぼ終わったような気がして、昨夜のクライマックスシリーズ第1戦は余り興味がわかなかったんですが、今夜は今季最終戦になる可能性もあると考えて、テレビ中継はないものの、ネットで観戦しました。ここまで来れば、明日も勝って、もう一度ジャイアンツに挑戦して欲しいと思います。

やや気乗りしないながら、明日も、
がんばれタイガース!

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今日はアミュプラザ長崎に買い物に出かける

今日は午後からアミュプラザ長崎に出かけました。長崎駅ビルにあるショッピングモールです。先週行ったみらい長崎ココウォークには、どうも、大きな本屋さんがなかったようなので、メトロ書店という本屋さんが入っているアミュプラザ長崎に行きました。みらい長崎ココウォークは長崎駅から少し北東に位置していますが、アミュプラザ長崎はモロに長崎駅ビルです。ついでながら、長崎駅の南西の方には夢彩都というショッピングモールもあったりします。「ゆめさいと」と読むんだと記憶しています。ここには馴染みのある紀伊国屋が入っていて、書評をアップした『ゴールデンスランバー』は紀伊国屋で買いました。さらについでで、ビル単位ではありませんが、ダウンタウンのど真ん中には浜町アーケードというショッピングストリートもあります。私の知っている長崎市内のお買い物ゾーンはこれくらいです。ひょっとしたら、もっとあるのかもしれません。
私はなぜかアミュプラザ小倉というのがあることは知っていて、何か関係があるのだろうと思っていましたが、どちらも JR 九州が経営しているみたいです。今日は、やっぱり、主たる目的はを買うことだったんですが、今日の長崎新聞で書評が紹介されていた本でしたので、店員さんに聞くと迷わず教えてくれました。でも、そんなに目立ってはいませんでしたが、早くも、秋物衣料のバーゲンセールに入っているお店もありました。実は、私は今日は半袖の T シャツと半ズボンにサンダルという出で立ちで、ほとんど、真夏と変わらない格好で外出できるくらいの気候が長崎では続いています。従って、秋物衣料の売行きが悪くて、早くもバーゲンセールに入っているのかもしれません。私も思い出したように、宿舎の近くまで電車で帰って来てから、近くのお店で上着を買い込んだりしました。長崎はジャカルタとは違うので、そのうちに、秋や冬が来るんではないかと思います。この季節、公務員だったころは背広を着込んでいたんでしょうが、大学に出向してからは授業がある日を除いて普段着で通勤することが多くなっていて、普段着の上着は不足していたりします。先日のエントリーで大学教授の食生活事情を生協の学食のメニューとともに紹介しましたので、そのうちに、衣食住のうちの服装についても取り上げるかもしれません。でも、単身赴任の住居については触れられたくない気もします。

もうすぐ、セリーグのクライマックスシリーズの阪神 vs 中日の第2戦が始まります。私はリーグ優勝を逃した時点で応援にも熱が入らず、昨夜はほとんど注目しなかったんですが、場合によっては、今夜の試合は今シーズン最終試合になる可能性もありますので、テレビ中継はないものの、少しくらいはネットでフォローしたいと考えています。

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全国路面電車サミット

今日まで、福井で「全国路面電車サミット」が開催されています。なお、ついでながら、前回の2006年第8回大会は長崎で開催されているようです。いろいろと全国紙の地方版で紹介されています。今回の大きなテーマは次世代型路面電車と呼ばれている LRT にスポットを当てています。まず、今回の大会ホームページと関連する記事のサイトへのリンクは以下の通りです。ご参考まで。

次に、今回までの開催歴です。1993年に札幌で始まって以来、もちろん、路面電車のある都市でおおむね2年おきに開催されているようです。東京や関西圏を除いて、大雑把に大きな都市から段々と小さな町で開催されるようになっている気がしないでもありません。繰返しになりますが、長崎では前回2006年の第8回大会が開催されています。

  • 第1回 1993年 札幌
  • 第2回 1995年 広島
  • 第3回 1997年 岡山
  • 第4回 1999年 豊橋
  • 第5回 2001年 熊本
  • 第6回 2003年 函館
  • 第7回 2004年 高知
  • 第8回 2006年 長崎
  • 第9回 2008年 福井

続いて、次々に、第9回全国路面電車サミット2008福井大会のホームページからの引用を続けますと、全国路面軌道連絡協議会というものがあるらしくて、日本各地に路面電車を持つ都市の会社や交通局なんかの団体ではないかと想像していますが、この構成員、すなわち、路面電車があると想像される街は以下の通りです。

こうして見ると、長崎もそうですが、地方自治体の交通局よりも普通の株式会社で運営されている路面電車の方が圧倒的に多いのが分かります。現在の長崎を別にして、私の馴染みのあるところでいくつか上げると、京阪電鉄は京都の三条から大津に向けて出ているハズなんですが、京都ではなく大津でエントリーしているようです。京都の市電は私が大学に入学するとともに廃止されましたが、京阪電車とともに市街の北の方には京福電鉄が走らせている叡電と嵐電があります。その名の通り、比叡山方面と嵐山方面を通っています。東京に出て来てから、独身時代には都電の東の終点である三ノ輪橋の近くに住んでいたこともありますし、東京の東急電鉄がエントリーしているのは世田谷線だろうと思います。
今回の大会でスポットを当てられた LRT については、私は技術的なことはサッパリ分からないんですが、速度が速くて騒音が少なく、低床式でお年寄りや体の不自由な人も利用しやすいのが一般的な特徴となっています。また、世帯あたりの自動車保有台数が1.751と全国一自動車保有比率の高い福井で開催されたのも象徴的で、明らかに、自動車よりも電車の方が環境にやさしいのは小学生でも分かります。もちろん、LRT による地方都市の活性化やまちづくりなんかも議題に上っています。私のような専門外の人間でも交通機関が都市機能に果たす役割が重要だということは理解できます。特に、私の理解によれば、大阪が東京に比べて大きく地盤沈下したのは、環状線の内側などで地下鉄が東西と南北でまっすぐにしか走っておらず、この乗継ぎがものすごく不便で都市機能を低下させていることが3割くらい寄与していると考えています。南北に走る御堂筋線と東西に延びる中央線が典型です。東京のアノ独特の丸ノ内線の U 字型の発想から大きく出遅れていることは明らかです。

注目されている LRT についても、いまさら、東京や大阪のような大都会のど真ん中に線路を引くのはもう難しいんでしょうが、長崎のような中規模以下の地方都市では活性化の起爆剤として期待が高まる可能性も大いにあります。通勤はもちろん、ほぼ毎日のように、路面電車を利用している者の実感です。

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2008年10月18日 (土)

クライマックスシリーズは止めたら?

今夜からセリーグのクライマックスシリーズ第1ステージが始まります。甲子園が改修中のために、京セラドームで我が阪神と3位の中日の対戦です。クライマックスシリーズに対する考え方や感じ方は人によってさまざまで、我が阪神ファンの中にも優勝を逃しても日本シリーズに進んで日本一になって勇退する岡田監督を胴上げするチャンスが残されていると受け止める人もいれば、私のように、来シーズンにセリーグの優勝ペナントなしで日本一のペナントだけで試合をするのは滑稽だと思う人間もいるんではないでしょうか。
パリーグではすでに第2ステージに進んでいて、昨日はリーグ優勝の1勝のアドバンテージを得ている西武がボロ勝ちしましたから、私はパリーグの事情をよく知らないながら、西武が有利に進めているような気がしないでもありません。セリーグのクライマックスシリーズに関する私の確信なき予想では、第1ステージで阪神が勝ち上がって、第2ステージでは巨人が最終的に日本シリーズに進むんではないかと思っています。もしも、パリーグで西武が勝ち上がって日本シリーズで巨人と対戦するようになれば、結局、リーグ優勝したチームで日本シリーズを戦うことになり、クライマックスシリーズの存在価値がグッと低下するような気がします。
さらに、これは私の受け止め方なんで、違う意見を持つ人もいるでしょうが、もしも、リーグ優勝したもののクライマックスシリーズに負けて日本シリーズに進めないか、昨年の中日のようにリーグ優勝を逃しながらもクライマックスシリーズを勝ち上がって日本シリーズに進めるのと、どちらがファンとしてうれしいかというと、私の場合は圧倒的に前者のリーグ優勝を重視します。ポストシーズンの試合はオマケみたいなもので、ひいきのチームが日本一になってくれればうれしいことは言うまでもありませんが、リーグ優勝を逃しての日本一では大きく感動がそがれるような気がします。

まあ、何だかんだと言っても、今夜はクライマックスシリーズ第1ステージの第1戦がどうしようもなく開幕するわけですから、やっぱり、ファンとしてはクライマックスシリーズは止めたらと思いつつも、試合をやる以上は勝って欲しいと思いますので
がんばれタイガース!

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2008年10月17日 (金)

第3次産業活動指数に見る企業活動のピークオフ

本日、経済産業省は8月の第3次産業活動指数を発表しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインに関する記事を引用すると以下の通りです。

経済産業省が17日発表した8月の第3次産業活動指数(速報、2000年=100、季節調整値)は109.1と、前月に比べ1.4%低下し2カ月ぶりにマイナスとなった。指数の水準としては5カ月ぶりの低さ。国内建築需要の低迷で建築材料卸売業が振るわなかった。8月は原油価格が高止まりし、石油製品の需要も減少。鉱物・金属材料卸売業も低調で、卸売業全体では3.7%低下した。経産省は「輸出の鈍化など世界的な景気減速を映している業種もあり、動向を注視したい」としている。

私の記憶が正しければ、このブログで第3次産業活動指数を取り上げたことはありません。そもそも、昔は統計としての精度に疑問があったりしたからです。でも、金融危機が取りあえず一段落し、金融機関にそれなりの制度的なシステミックリスク対策が取られたので、金融だけでなくもう少し広い意味での産業について、鉱工業に加えて第3次産業にも視野を広げようと考えています。まず、グラフは以下の通りです。月次の季節調整済系列で、引用した記事にもある通り、2000年を100とする指数です。上の青い折れ線が第3次産業総合で、下の赤い線が小売業だけを取り出したものです。影を付けた部分は景気後退局面で、直近はいつもの通り昨年10月がピークだったと仮定しています。

第3次産業活動指数の推移

まず、統計のヘッドラインは引用した記事にもあるように、8月指数は前月比▲1.4%減でした。7月が+1.2%増でしたので反落と見ることもできますが、市場の事前コンセンサスはマイナスはマイナスでも▲1%に達しないと見ていましたので、やや大きな下げだと見る向きが多かったような気がします。マーケットでは7月の猛暑効果が剥落したとする意見も聞かれましたが、私が長崎に赴任した8月も猛暑だったように感じていますので、少なくとも私には説得力がないように受け止めています。特に、上のグラフに見られるように、総合から離れて指数のレベルとしては低水準ながら、小売業は8月に前月比プラスとなっているのが読み取れます。8月は前月比+0.7%増と7月に続いて2か月連続でプラスとなっていますから、ここに猛暑効果を読み取れると私は考えています。小売業にとどまらず、消費関連ということで、もう少し詳しく見ると、サービス消費が悪化しているように見受けられます。特に、裁量的な消費を担うセクターがマイナスを記録しており、飲食や宿泊が前月比▲1.3%減、娯楽も▲5.8%減、学習支援は▲1.0%減にとどまっているものの、理容・美容にいたっては▲10.5%減となるなど、8月は軒並み急落しました。家計の最適化行動の中で、これらの裁量的なサービス支出が抑えられている可能性がうかがえます。NY 市場の原油先物はバレルあたり70ドルを切る水準まで低下しており、穀物もあわせて、食料とエネルギーの価格上昇はピークオフしたと私は考えていますので、これからラグを伴いつつ徐々に物価は鎮静化ないし下落に向かう可能性が高いんですが、金融危機による将来不安と労働市場の悪化に伴う所得面のマイナス効果が物価のメリットを打ち消している格好です。

経験的に、第2次産業の場合は2次産業よりも景気循環の波が小さく、上のグラフでも今世紀初頭の IT バブル崩壊後の景気後退期にも大きく下向きになっていないことに見て取れます。今回も鉱工業生産指数ほど明確な形でピークオフしたわけではありませんが、すでに公表されている8月の鉱工業生産指数は前月比▲3.5%減でしたし、これから先、第3次産業の分野でも企業活動の鈍化が明らかになるものと私は考えています。

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2008年10月16日 (木)

元の黙阿弥で日経平均株価暴落

今日は、株価が下がる日でした。東証の日経平均株価は前日比▲1,089円02銭安の8,458円45銭で引けました。下落率は▲11.4%となり、1987年のブラックマンデー以来の大きさでした。今日は外国為替市場で円高が進んだことが嫌気され、自動車や電機などの主力輸出関連銘柄を中心に売りが止まらない状態だったと報じられていました。先週の G7 の少し前から、ここ1週間くらいは東証だけでなく、世界の株価が大きく乱高下しています。下のグラフは最近1週間の東証の日経平均株価の推移です。今日10月16日と先週金曜日の10月10日は寄付きから一気に下げたことや、逆に、3連休明けの10月14日には反対方向で寄付きから一気に上げているのが見て取れます。荒っぽい相場です。

最近1週間の日経平均株価の推移

このブログでも、昨夜のエントリーで、株価が下げ止まったわけではなく、今後、景気悪化を示す企業決算や経済指標が出るに従って、ジリジリと株価が下がる方向にある可能性に触れましたが、決して、Best and Brightest が株式市場に集まっているわけではないとはいうものの、私が見通せる程度のことは織り込んでいてもおかしくはなく、ここまで一気に下げて大きな乱高下が生じるとは思いませんでした。逆に、これから先も何かのポジティブなサプライズがあれば一気に上げることもあるのかもしれません。いずれにせよ、ボラティリティが大きい状態が続くことだけは確かなようです。
特に、最近では東証での株式売買高の過半の6割くらいを外国人投資家が占めるようになっており、前日の本国の相場を見た上で外国人投資家が東証でのリスク許容度を考慮して、寄付きから一気に30分くらいで相場が大きく動き、その後は膠着状態を続けた後、大引けに近づいた時点でアジア各国の相場を見て、夕方にまた動くという展開になっているように見受けられます。株式保有残高のストックでは 1/4 くらいの外国人投資家が相場をリードしている形で、G7 で最初に始まる東証の相場は諸外国の後追いになっていることが明らかです。「貯蓄から投資へ」の動きが進まず、国民が銀行預金に執着する中で、国内金融機関が新しいビジネス・モデルを築けないでいる間に、東証では外国人投資家が株価を大きく左右する存在になっているわけです。私は外国人投資家が東証に参入するのは大いに望ましいことだと考えていますが、裏を返せば、国内投資家が育っていない、あるいは、国内金融機関が預金を持て余して新しいビジネス・モデルを構築するに至っていない、という我が国の金融事情があるわけですから、コチラは何とか出来ないものかと考えないでもありません。

こうも毎日のように市場が乱高下すると、メディアはニュースになっていいのかもしれませんが、エコノミストはビジネスチャンスに出来る人と、私のようにそうでない人間とに別れます。私は公的資金による資本注入により、一応、金融危機は一段落したと考えているので、しばし、金融市場に関するコメントも一段落させようと考えないでもありません。

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2008年10月15日 (水)

金融危機における公的資金による資本注入の政治経済学

欧米で合わせて50兆円近い公的資金による資本注入が発表され、今月に入ってからの金融危機は取りあえず一段落したように見受けられます。「取りあえず一段落」というのは、これから先、年末から年始にかけて、今回の金融危機の影響が実体経済に波及して、すでに一部に貸渋りなども発生しているようですから、政府が事実上の景気後退を認めた我が日本は言うに及ばず、米欧でも景気後退をうかがわせる経済指標が次々と発表される可能性が大きく、控え目に言っても、一本調子で株価が上がる局面に入ったとは私にはとても思えないからです。
でも、一段落した現時点で、一段落させた公的資金による資本注入の政治経済学について少し考えておきたいと思います。まず、デメリットというか、反対意見が多い理由なんですが、すでに、このブログでも触れましたが、景気のいい時にボロ儲けをしていたくせに、景気が悪くなって破綻しかかったら公的資金で救済とはけしからん、という意見があります。経営が苦しくなって倒産しかかっても政府が助けてくれない中小企業は世の中にいっぱいあります。さらに、景気のいい時に、CEO や経営幹部はもとよりヒラのトレーダーまでかなり高額な給与を取っていたんですから、なおさら反発が強くなります。当然です。だからこそ、我が国の住専問題の時も大きな反対が巻き起こりましたし、米国下院も金融救済法案を一度は否決したわけです。
しかし他方で、システミックリスクはかなりのコストをかけても防止する必要があります。議会が国王の放漫な支出に対する徴税権を制約することを起源とするのに対して、金本位制を停止した管理通貨制の下では、中央銀行の本質的な存在価値のひとつはシステミックリスクを防止することも含まれていると私は考えています。日銀法第2条第2項の「資金決済の円滑の確保」と「信用秩序の維持」はそういう意味です。しかも、忘れてならないのは、公的資金を資本注入することにより、決して、税金を無駄にして欠損を出しているわけではないということです。今日の日経新聞のサイトにあった記事なんですが、日本はバブル崩壊後の金融危機を封じる過程で、総額46.6兆円の公的資金を投入した一方で、その後の経営改善や景気回復などにより約2.8兆円の利益が生じています。当然といえば当然なんですが、いわゆる leaning against the wind タイプの政策を取っているわけで、今のように株価が安い時に買って、経営が改善されて高くなってから売るんですから、利益が出るのは当たり前です。もちろん、そのまま倒産してしまう場合もあるでしょうが、日本では結果的に利益を生み出したことは先に引用した通り、歴史的な事実です。これは、オーバーシュートしそうになる為替に対する介入についても同じことが言えます。為替の円高が行き過ぎであれば、安いドルを買い支えて高い円を売り、逆に、円安の是正には高いドルを売って安い円を買うわけですから、安く買って高く売ることにより利益が出ます。もっとも、自国通貨の減価を防止する為替介入の後者の際は手持ちの外貨がショートすればアウトです。1997-98年のアジア通貨危機の際に見られた現象です。これを別とすれば、ある意味で、非常に単純な原理と言えます。しかも、米国財務省が当初考えていた不良債権の買取りよりも、資本注入の方が効率的なことも確かです。銀行の健全性を示す自己資本比率に即して言えば、国際決済銀行による、いわゆる BIS 規制では国際業務を行う銀行の自己資本比率を8%と決めていますから、分母の総資産に占める不良債権を買い取るよりも、分子の資本に公的資金を注入した方が額が少なくて済むのは明らかです。先週末の G7 をはじめとして、米国に対する風当たりが強かったのは、そもそも、サブプライム・ローンを原資産とする証券を売りさばいた証券会社が米国の会社だということもさることながら、米国財務省が不良債権買取りに固執して公的資金による資本注入を躊躇していたことが大きいと私は感じています。昨夜、紹介したクルーグマン教授のコラムでも、ためらいなく資本注入の実行を発表した英国のブラウン首相について、やや賞賛気味に取り上げていると紹介した通りです。

少なくとも、スパイラル的な金融危機やシステミックリスクは避けられたと私は感じていますが、それにしても、今年は3月半ばのベア・スターンズ証券の破綻の折にもシステミックリスクを感じてしまいましたし、さらに、最初に書いた通り、この先、景気悪化の指標が発表されるたびに株価はジリジリと値を下げる可能性もありますから、まだまだ本格的な景気回復は遠いと言わざるを得ないのかもしれません。

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2008年10月14日 (火)

金融危機に対するクルーグマン教授のコラムを読む

週明けの欧米の株式市場、3連休明けの日本の東証平均も含めて、大きく反発で始まりました。たぶん、NY のダウ平均は史上最大の上げ幅で、率としても大恐慌期以来の11%越えのようです。下の画像は "Wall Street Journal" から引用しています。先日の私のブログでも書きましたが、取りあえず、メディアは G7 の処方箋に対して懐疑的な態度でしたが、大きく方向転換するのではないでしょうか。

Big Days

市場では、特に、英国で思い切った資本注入を決断したことが大きく評価されているように見受けられます。昨夜のエントリーでも書いた通り、プリンストン大学のクルーグマン教授が今年のノーベル経済学賞を受賞しましたが、最新の "New York Times" のコラムで、"Gordon Does Good" と題して、英国のゴードン・ブラウン首相を取り上げています。一応、このタイトルの質問は premature だとして、正面から答えることは避けていますが、"yes" の答えがコラムの行間から読み取れるような気がしないでもありません。消息筋によれば公的資金による資本注入にやや積極的であるといわれている連邦準備制度理事会のバーナンキ議長と、逆に、消極的であるといわれているポールソン財務長官を対比させたりしています。なお、ついでながら、かなり内容はありきたりではありますが、先にリンクを張ったクルーグマン教授のコラムから今回の金融危機の本質と対応に関する2つのパラを引用すると以下の通りです。

What is the nature of the crisis?
The details can be insanely complex, but the basics are fairly simple. The bursting of the housing bubble has led to large losses for anyone who bought assets backed by mortgage payments; these losses have left many financial institutions with too much debt and too little capital to provide the credit the economy needs; troubled financial institutions have tried to meet their debts and increase their capital by selling assets, but this has driven asset prices down, reducing their capital even further.
What can be done to stem the crisis?
Aid to homeowners, though desirable, can't prevent large losses on bad loans, and in any case will take effect too slowly to help in the current panic. The natural thing to do, then - and the solution adopted in many previous financial crises - is to deal with the problem of inadequate financial capital by having governments provide financial institutions with more capital in return for a share of ownership.

最後に、今回の米国の金融救済法案に関して、公的資金による資本注入スキームが含まれていないと、10月3日付けや10月7日付けのエントリーで書きましたが、私の誤解だったようで可能なんだそうです。英文で450ページを超える大部の法案すべてに目を通したわけでもありません。お詫びして訂正します。

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2008年10月13日 (月)

ノーベル経済学賞はクルーグマン教授に授賞

本日、スウェーデンの王立科学アカデミーはノーベル経済学賞を米国プリンストン大学のクルーグマン教授に授賞すると発表しました。誠におめでとうございます。発表によれば、授賞理由は "for his analysis of trade patterns and location of economic activity" とのことです。日本語に意訳すれば「戦略的貿易論の功績」とでもなるんでしょうか。より詳しく、受賞の学術的背景に関する PDF ファイルも王立科学アカデミーから公表されています。どうでもいいことですが、ノーベル財団のホームページには "New York Times" を広げているクルーグマン教授の写真が掲載されています。コラムをたくさん書いているからいいんですが、他の新聞が使いにくい写真ではなかろうかと、私なんかは心配したりしないでもありません。
私のノーベル経済学賞予想はこのブログのちょうど2週間前の9月29日付けのエントリーで書きましたし、先週、10月8日付けのエントリーでもトムソンサイエンティフィックの有力候補者とともに再掲しておきましたが、大当たりではないにしても、カスッたと言えそうです。一応、貿易理論への貢献として、バグワティ教授とディキシット教授を2番手に上げ、場合によってはクルーグマン教授も受賞の可能性があると明記しました。まあ、自慢になりますが、私より遅れて発表したトムソンサイエンティフィックよりは近い予想を出した気がします。

言うまでもありませんが、クルーグマン教授はノーベル賞より難しいとさえ言われるジョン・ベイツ・クラーク・メダルの受賞者ですし、いつかはノーベル賞を受賞すると考えられていました。日本でも著名なエコノミストですから、私からクドクドとブログで解説することは差し控えます。

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みらい長崎ココウォークに行く

みらい長崎ココウォーク3連休のうち、2日間も自宅近くでボケボケと過ごしたので、今日は少し電車に乗って、10月1日にオープンしたショッピングモールに行ってみました。みらい長崎ココウォークという名称です。左上はシンボルロゴです。長崎ローカルの人しか分からないんでしょうが、路面電車の茂里町という電停から行きます。軽く想像されるように、この電停は私の宿舎から大学までの通勤経路に当たっています。ほぼ中間地点というところかもしれません。もちろん、ショッピングモールですから、電停から歩いてすぐに位置しており、大学のように遠く離れているわけではありません。今日行く時に、電車に乗っていた人の半分くらいがこの茂里町の電停で下りましたから、かなり人気なんだろうという気がします。10月1日にオープンして、初めての土日に当たる先週末は10万人の人出があったと、地元の長崎新聞でも報じられていましたから、私も話のネタに行ってみた次第です。なお、私が愛用している Google Map はさすがにまだ対応していませんでしたから、苦労してアチコチ探して発見した地図を貼り付けておきます。スクロールするタイプです。たぶん、長崎ローカルの人以外は詳細な地理が分からないでしょうから、スクロールすれば、このショッピングモールが JR 長崎駅の少し北側に当たることが発見できると思います。それで感じをつかんで下さい。

このショッピングモールは長崎バスが建設したものらしくて、以前は何だったのかは私も知りません。バス会社の開発ですから、1階は主として路線バスや長崎空港行きバスや高速バスのターミナルになっています。でも、1階にも少しだけお店もあり、マツモトキヨシを見かけました。我が家がその昔に住んでいた松戸を発祥とするドラッグストアを目にすると親近感がわいたりします。2階と3階が主としてファッションフロアになっているんですが、2階にはスーパーもありますし、3階にはフードコートもあったりします。マクドナルドなんかが入っています。4階がグルメフロアのレストラン街、そして、5階がエンターテインメントフロアでセガのゲーセンもありますが、何といっても大きな特徴は観覧車の乗り場があることでしょう。ですから、今日のエントリーの最初に掲げたシンボルロゴは観覧車をイメージしてデザインされているようです。ビルの上というか、側面ですから、そんなに大きなものではあり得ないんですが、さすがに観覧車が外から見えると電車に乗っていても一目瞭然で、知っている人はちょっとだけ六本木のドンキホーテを思い出すかもしれません。青山に住んでいた時は、よく前をママチャリで通りました。もちろん、5階の上もう少しビルが続き、6階はシネマフロアとなっています。東宝がシネコンを運営しているようです。

長崎ローカルの人は私のこんなエントリーを読まなくても重々ご承知のことと思いますし、長崎以外の人にはそんなに興味の持てない話題かもしれないので、今日のエントリーの存在価値はほとんどないような気もしますが、一応、私も経済や金融のことばっかり考えているわけではなく、3連休にショッピングモールに出かけたという事実を世間に明らかにするために、お出かけの日記としてアップしておきます。

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2008年10月12日 (日)

金融危機に関する極端な論調への批判

激動の1週間を終えて、昨日今日とゆったり休んで、この金融危機の報道なんかに接していると、非常に極端な論調がまかり通っているような印象があります。少し前までは、米国の進んだ金融技術を賛美して、高レバレッジの資金運用を行い、CEO のみならずヒラのトレーダーに至るまで高給をもらっている投資銀行のビジネス・モデルを賞賛する意見は激しく後景に退き、今では逆に、投機的な資金運用を行ったあげくに、世界を金融危機に陥れたと非難する意見が大きく前景に出て来ているような気がします。メディアの論調の中で、米国の破綻した金融機関の投資活動なんかをギャンブルに例えている極端な意見も見かけましたが、ギャンブルに勝っている時はウハウハで、負ければ石持って追われるといったところで、小学生のころに読んだ芥川龍之介「杜子春」を思い出してしまいました。
しかし、翻って考えると、我が国の金融機関も5-6年前までのデフレ期には投資先がなく、「貯蓄から投資へ」の流れから外れて、銀行預金に固執していた国民から大量の預金を受け入れた資金を、時あたかも、小渕内閣から森内閣のころの積極財政政策の裏側で大量に発行されるようになった国債で運用していて、ローリスク・ローリターンが明らかなこのビジネス・モデルがどの程度評価されるのかは議論の分かれるところだと思います。このビジネス・モデルだと going concern を全うすることは可能なのかもしれませんが、金融機関としての社会的使命ともいうべき資金の潤滑な流れを仲介していると言えるのかどうか、大いに疑問が残ります。ギャンブル性まで指摘されかねない投機的なハイリスク・ハイリターンの資金運用と、せっせと安全資産の国債で運用するローリスク・ローリターンの両極端の金融機関のビジネス・モデルの間で、何らかの新しい運用モデルを今一度考え直すいい機会だという気もします。
さらに、金融機関の救済については少し否定的な意見が強まっている懸念があります。その根拠とされているのは高給であったり、税金投入に対する否定的な見方だったりします。もちろん、救済の範囲が広すぎればモラルハザードを助長しますが、狭ければシステミックリスクの危険が高まります。結果論なんでしょうが、リーマン・ブラザーズ証券は救済すべきではなかったのかとの意見が根強くあることも事実です。実は、私もリーマン・ブラザーズ証券は救済すべきだったと考えているひとりです。3月半ばに米国第5位のベア・スターンズ証券を救済したんですから、4位のリーマン・ブラザーズ証券を破綻するに任せた米国財務省の判断は、私にとっては理解に苦しみます。ファニーメイやフレディマックの GSE の救済に続いて、9月半ばに、メリル・リンチ証券は民間ベースで救済合併にこぎつけましたし、AIG には連邦準備制度理事会がつなぎ資金を融資しましたが、リーマン・ブラザーズ証券だけは救済されずに連邦破産法第11条の申請に至りました。もちろん、経営陣や株主の責任を問いつつ、救済することも水面下では視野に入っていたんでしょうが、ポールソン財務長官の記者会見ではそういった見方は否定されたように私は感じています。この方向性が、そのまま米国下院での金融救済法案の否決につながったんですから、救済されていれば金融市場はここまで崩壊の体を示すことはなかったように思わないでもありません。全く反対の実例は日本で見出すことが出来ます。2003年のりそな銀行の救済です。当時、私はジャカルタにいて肌で雰囲気を感じることは出来ませんでしたが、国民世論も当時の竹中金融担当大臣をはじめとする政界でもハードランディング志向が強かったのに対して、結局、りそな銀行を救済することにより、もちろん、その他の要因も大いに作用したのは事実ととしても、日本は息の長い景気拡大局面を続ける一助とすることが出来ました。まだ反対意見は残されているのかもしれませんが、少なくとも、5年の期間を経て、りそな銀行救済の判断は正しかったと考えるエコノミストが多数を占めると私は思います。

金融機関のビジネス・モデルも、救済範囲も、どちらもキーワードはトレードオフです。ひょっとしたら、私たちは歴史の転換点を目撃しているのかもしれませんが、決して、ポジショントークに満ちた一部の識者の両極端の議論に流されることなく、次の時代を見据えた冷静な議論が必要だという気がします。

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2008年10月11日 (土)

激動の1週間を振り返る

激動の1週間でした。というか、私にとっては大学の後期が始まった先週も含めて激動の2週間でした。私事ながら、先週から大学の後期が始まって、新米教授の私にはいろいろとトラブルやアクシデントもありました。金融市場はほとんど崩壊寸前の状態です。米欧が協調利下げを実施しても株価の下落は止まりませんし、昨日開催された G7 で合意された5項目が、来週のマーケットでどのように受け止められるのかに興味が集まっています。我が阪神タイガースは巨人との直接対決に敗れて優勝を逃しましたし、ノーベル賞は物理学賞と化学賞が日本人の先生方に授賞されました。しかし、村上春樹さんは今年も文学賞を逃しました。
まず、私自身の専門分野に従って、9月半ばのリーマン・ブラザーズ証券の破綻などから昨日までの一連の経済と金融市場の動向について、日経新聞が PDF の号外を出したものをリストにまとめてリンクとともに示すと以下の通りです。1か月足らずで経済金融関係だけでも10余りの号外が出ています。私の知人で日経新聞の号外が出ると携帯電話に通知が来る設定にしている人がいるんですが、ある日は3つも4つもの号外が出てびっくりしたといっていました。もちろん、ノーベル賞受賞の号外も出ているようなんですが、ここからは除いてありますし、経済金融関係でも私が見逃しているものがあるかもしれません。お断りしておきます。

次に、米国のワシントン DC で開催されていた G7 で合意された行動計画5項目は次の通りです。私は米国財務省のプレスリリースで見ましたので原文のままです。確認していませんが、我が国の財務省でも日本語版が公表れているような気がします。

  1. Take decisive action and use all available tools to support systemically important financial institutions and prevent their failure.
  2. Take all necessary steps to unfreeze credit and money markets and ensure that banks and other financial institutions have broad access to liquidity and funding.
  3. Ensure that our banks and other major financial intermediaries, as needed, can raise capital from public as well as private sources, in sufficient amounts to re-establish confidence and permit them to continue lending to households and businesses.
  4. Ensure that our respective national deposit insurance and guarantee programs are robust and consistent so that our retail depositors will continue to have confidence in the safety of their deposits.
  5. Take action, where appropriate, to restart the secondary markets for mortgages and other securitized assets. Accurate valuation and transparent disclosure of assets and consistent implementation of high quality accounting standards are necessary.

上のリストで赤いフォントにして下線を引いたように、第3項目に "raise capital from public as well as private sources" とあり、一応、公的資金の注入を含まれているものの、当然ながら、具体的な時期や金額規模は明記されていませんから、たぶん、メディアなんかでは「具体策なし」とか、「従来通りでサプライズなし」なんて報道するんだと思わないでもないですが、国際会議の結論なんてそんなもんです。来週の市場の反応次第でメディアの論調も変化することは当然でしょう。

本題を終えて、まず、ノーベル賞の話題です。物理学賞と化学賞が米国籍の取得者を含めると、4人の日本人に授賞されました。誠におめでとうございます。私が勤務する本学の卒業生にも化学賞が授賞され、ノーベル賞受賞者の出身大学の仲間入りを果たして喜ばしい限りです。もっとも、今年のノーベル賞に関しては、世間的には長崎よりも名古屋が注目を集めているようです。それから、日本人4人の受賞者の中には米国籍を取得している人もいますが、ちょっとした国籍論争が生じているように見受けられます。物理学賞を受賞した南部教授が米国籍を取得していることなどから、国会では二重国籍を認めていない現在の国籍法を改正する動きが生じていると産経新聞のサイトで報じられていました。また、下村教授と同時に化学賞を受賞した UCSD のチェン教授が中国メディアから「あなたは中国人ですか。中国語は話せますか」と聞かれた際に、「私は中国人科学者ではありません」と取材に答えたと朝日新聞のサイトで報じられていましたが、南部教授はこのような発言はありませんし、科学者・研究者にとって国籍なんてどうでもいいことなんだということを理解しない人が多くて困ったものです。日本の国会議員と中国のメディアはこの点においていい勝負のような気がします。どうでもいい国籍について続けると、ノーベル財団のホームページでは、南部教授と下村教授はともに USA とされており、南部教授は "born in Tokyo, Japan" と、下村教授は同じように "born in Kyoto, Japan" と出生地を明記されていますが、チェン教授には出生地の明記はありません。ノーベル賞に関して最後に、今年も村上春樹さんは受賞を逃しました。誠に残念というほかありません。
話がもっと残念でより強く個人的な趣味の分野に移って行くんですが、我が阪神タイガースはリーグ優勝に届きませんでした。長く首位の座をキープしながら、残り数試合のところで逆転されたのは情けないとの意見もありますし、私も同感する部分がありますが、少し前までの万年最下位のころはお盆明けの死のロードの半ばにはシーズンがほぼ終わっていたこともありますし、昨年から始まったポストシーズンのクライマックスシリーズまで含めて、まだまだ野球が楽しめるのは、私のような古い阪神ファンには有り難い限りです。戦力的に長いシーズンを巨人に対抗するのは難しい可能性はありますが、短期決戦でもう一度巨人に挑戦して欲しいと思います。なお、巨人の優勝について産経新聞のサイトに、「金で買った優勝」との論評があり、私も阪神ファンとしては同意する部分もあるんですが、まあ、ヤクルトの親会社の恨み節の面がありますし、エコノミストとしては、市場経済では資金力のある経済主体が好きなものを買えるわけで、プロ野球が持つショービジネスの面からして、ペナントが終わった時点で言い出しても仕方がないような気がします。
最後に、極めつけの個人的事情で、先週から大学の後期が始まって、2週間がたちました。私の発注が悪くて授業で使う教科書が生協に入荷しなかったり、ゼミのメディア室からインターネットに接続しようとしながら、ID とパスワードを要求されて諦めたりといろんなトラブルやアクシデントに見舞われながらも、何とか週3コマ2回ずつの授業を乗り切りました。さらに授業以外では、先週は科研費補助金の申請書を書いて大忙しだったんですが、さすがに、長らく政府官庁の参事官をやって来ただけあって、申請書なんかの事務処理には自分でも驚くような能力を発揮したような気がします。あれだけ短時間で大量の文書が作成できるとは私自身も思いませんでした。

こういう大忙しで疲れる1-2週間を終えた週末の3連休はたっぷり食べて、しっかり寝るのが一番との人生哲学を実践すべく、今日の午後は少し遅く出かけてランチブッフェで思い切り食べて来て、昼寝したりしています。中年になって単身赴任で長崎に来て減量も心がけているんですが、ストレスのある新しい生活を続けている中では、まだまだメタボが続くのかもしれません。

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2008年10月10日 (金)

金融市場崩壊はコンドラチェフ・サイクルの底なのか?

先月9月15日付けで「未曾有の金融危機の始まりか?」と題するエントリーをアップしましたが、やっぱり、そうなのかもしれません。下の画像2点は最近の金融市場をよく暗示的に表現していると考えて、"The Economist" の最新号から取っています。上の方の地球がまっさかさまに落ちていく画像は "Saving the system" というタイトルの記事から、また、救命ロープをつかめずに水に沈んでいく下の画像は、その名も "Lifelines" というタイトルの記事から、それぞれ引用しています。金融市場はほとんど崩壊状態に近いように見受けられます。

Saving the system & Lifelines

次に、今日の夕刻に東証の株式市場が引けた時点での世界の主要株式市場の直近営業日の株価の推移を示しているのが下のグラフです。日付と時刻は GMT です。これも、"The Economist" の "World markets: stocks and shares data" から引用しています。直近営業日1日の間の推移ですから、東証だけが本日で、欧米の市場は昨日になっています。緑色の欧州3市場はグラフは昨日、数字は本日の取引開始前になっていますが、昨日の段階では株価の下落率を見る限り、▲1.5-▲2%を超えるくらいの下げで日米ほどではないんですが、今日に入って引き続き下げているようです。東証の日経225は今日も10%近く下げました。要するに時差の関係で、欧州で大引け直前にバタバタと下げたのが NY では取引開始直後の下げに相当し、NY で大引け直前に下げたのが今日の東京市場でのの取引開始直後の株価崩壊状態に近い下げにつながっているわけです。東証は大和生命の破綻という国内要因もあって取引開始直後の30分余りで1000円余り大きく下げて、その後は下げ渋りました。先日の欧米6中銀の協調利下げの時のように、日経新聞が PDF ファイルの号外を出しました。さすがにここまで下げると後場に入って買いが入り、ジリジリと値を上げたように見えます。本日の終り値は8276円43銭で、昨日比▲881円06銭下げました。円ドルの為替相場も100円を割り込んで推移しています。日経225のバブル崩壊後の最安値は2003年4月28日の7607円88銭ですから、かなり近づいた気がします。今日1日で900円近く下げましたから、近々、5年半振りに最安値を更新したりするのかもしれません。でも、取りあえず、明日からは3連休です。欧米の月曜日のマーケットを見た後で、火曜日から東京市場を開くのは精神的にとっても落ちつけるような気がします。ハッピー・マンデーのひとつの効用かもしれません。

World stockmarkets

私の専門分野は旧態依然たる景気循環論で、学会は景気循環学会に属していたりするんですが、10年ほど前には、1998-99年の世紀末に2年連続でマイナス成長を記録したり、今世紀初頭のデフレ期なんかでも、コンドラチェフ・サイクルの底だったのではないか、との議論をした記憶があります。しかし、2005年年央以降の株式市場の好調さから忘れられていましたが、さすがに経済学で認識されている中では最も長い波動を有するサイクルだけに、この10年間くらい、少なくとも日本経済はずっと底を這っているのかもしれません。それとも、ひょっとしたら、日本経済からラグを伴って世界経済が底になり、その影響で再び日本経済が景気を悪化させている可能性もあります。もちろん、理論的に解明されているわけでもなく、実証的に明確な形で確立されたサイクルではないんですが、ここまで大きな経済変動が生ずると何らかの未解明な要素を入れたくなるのが人情というものです。私も力不足ながら、何らかのアカデミックな貢献が出来るように少し考えたいと思わなくもありません。

昨日今日と、私と同じように少しフライングした同僚教授と生協の学食で昼食をともにしているんですが、さすがに経済学部だけあって、話題は金融市場のことで持切りです。でも、同僚教授の心配のひとつに、現在の3年生の就職というのがあります。さすがに終身雇用制はかなり崩れつつあるとはいうものの、日本では学卒時に就職できないと企業内の OJT に加われず、大きなハンディを持ったまま職業生活を送らねばならない可能性がありますので、確かに、大学関係者としては心配の種なのかもしれません。

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2008年10月 9日 (木)

国際通貨基金 (IMF) の『世界経済見通し』 "World Economic Outlook"

昨夜と同じで、まず、本題の国際通貨基金 (IMF) の「世界経済見通し」 "World Economic Outlook" に入る前に、2点ほど触れておきたいニュースがあります。まず、欧米の中央銀行6行による0.5%ポイントの協調利下げが実施されました。日経新聞では PDF ファイルの号外が出ました。日銀はさすがに0.5%ポイント引き下げるとゼロ金利に逆戻りしてしまいますので、流動性供給を拡大・継続することで協調行動を取ることにしています。私がこのブログで主張していた協調利上げは資源価格高騰を抑えるためのものだったんですが、金融市場の混乱に対処するという意外な形で、結果的に、協調利下げが実現されてしまいました。日銀は金利下げ余地がなく協調利下げに加われないことから、この先、為替が金利差に従って円高に振れるのはほぼ確実と考えられます。次に、本日、内閣府から8月の機械受注統計が発表されました。コア機械受注と呼ばれている船舶と電力を除く民需は前月比▲14.5%と市場コンセンサスだった▲2.8%を大幅に下回る結果となりました。下のグラフの通りです。いつものように、左軸は兆円単位で、青の折れ線が各月の季節調整済み系列、赤がその6カ月後方移動平均です。影を付けた部分が景気後退局面で、直近は昨年10月をピークと仮定しています。この結果、内閣府は基調判断を前月までの「弱含んでいる」からを「減少している」と下方修正しました。中身を詳しく見ると、先月まで一進一退の動きを続けていた、電気機械が前月比▲26.5%減、自動車も▲16.4%減となり、主力の組立加工型輸出産業が大幅減となるなど、悪化が目立つ結果となりました。また、製造業全体として▲13.9%減となったのみならず、船舶と電力を除く非製造業でも▲14.9%減のも大幅な落ち込みとなり、10月1日に発表された日銀短観で見られた非製造業の悪化傾向も確認された形となっています。内外需要の鈍化と金融市場の混乱を背景に、設備投資の取止めや先送りはしばらく続きそうな気がします。先月9月11日付けのエントリーでも書きましたが、私の直感では来年2009年年央から秋口くらいまでは設備投資の減少が続く可能性が高いように見受けられます。この結論に変わりはありません。

コア機械受注の推移

さて、本論に入って、来週、10月13日に国際通貨基金 (IMF) と世界銀行の年次総会が開催されるに当たって、IMF から "World Economic Outlook"『世界経済見通し』が発表されました。先月から今月にかけて米欧で金融市場の大混乱が続く中で、世界経済の見通しを4月時点から大幅に下方改定しています。IMF の WEB サイトでは英文のリポートのフルテキスト日本語サマリーも PDF ファイルで提供されています。リポートは6章構成なんですが、その章別構成は以下の通りです。今夜のエントリーでは主として第1章と第2章を中心に取り上げます。

  • 第1章 世界経済見通しと政策対応
  • 第2章 国別・地域別見通し
  • 第3章 インフレ再来?商品価格とインフレ
  • 第4章 金融逼迫と景気悪化
  • 第5章 景気対策としての財政政策の活用
  • 第6章 新興国における対外収支の不均衡

Serious global downturn

まず、世界経済見通しのサマリーは上の表の通りです。上の画像をクリックすると、リポートにあるより詳細な表が別窓で開きます。世界経済全体の経済成長率は今年3.9%、来年3.0%と見通されていますが、今年7月時点と比べると、今年は▲0.2%ポイント、来年は▲0.9%ポイントの下方改定となっています。特に、来年の米国とユーロ圏はそれぞれ▲0.7%ポイント、▲1.0%ポイント引き下げられ、どちらもほとんどゼロ成長と予測されています。我が日本についても、今年は▲0.8%ポイント引き下げられて0.7%成長に、来年もユーロ圏と同じく▲1.0%ポイント引き下げられて0.5%成長に落ち込むと見通されています。日米欧とも潜在成長率水準を大きく下回る成長率まで低下するとの見通しになっています。世界同時不況と呼んでもおかしくない経済状況です。簡単に要約すると、世界経済はここ数年に渡って続いて来た高成長の時期を終えて、急速に減速しつつあり、経済活動は未曾有の金融ショックと依然高水準にあるエネルギーをはじめとする商品価格により打撃を受けています。日米欧をはじめとする多くの先進国は景気後退期に突入したか、少なくとも入りつつあり、新興国においても成長は急速に鈍化しています。その世界の主要な経済指標の見通しをグラフに取りまとめたのが下の画像です。右上の "Real GDP Growth" のグラフを見ると、青い折れ線で示された先進国の成長率は来年2009年の落込みから2年かけて3%水準に戻ると見通されています。景気後退局面は長くなりそうです。

Global Indicators

今回の『世界経済見通し』で興味深かったのは、先行き見通しに確率的な信頼区間を考慮し、主として下振れリスクを明示したことです。下の2枚のグラフがそれを表しています。上のグラフでは信頼区間を50%、70%、90%の3段階のファンチャートで明示するとともに、リスク要因とその大きさを取り上げています。見れば明らかなように、ファンチャートでは来年の成長率の90%信頼区間は上に約1%ポイント、下に約▲2%ポイントですから、下振れリスクの方が確率が大きいとの結果となっています。いうまでもなく、最大の下振れリスク要因は金融市場の混乱です。従来は上振れリスク要因だった新興国経済は今回から下振れリスク要因になっています。また、下のグラフでは今回の来年見通しは左側にやや fat tail になっているように見受けられます。

Risks to the Global Outlook

Histogramas of Forecast Errors, 1991-2007

下のグラフは世界経済の景気後退確率を先行指標に従ってプロットしたものですが、50%ラインを超えることが予想されており、控え目に言っても、世界経済は景気後退局面の入り口にあるといえます。少なくとも日米欧の先進国は景気後退局面にあり、この先、景気回復の兆しはまったく見えず、回復過程も緩やかなものとなるであろうことは予想されています。

Probability of Global Recessions

特に、今回の金融市場の混乱について、リポートでは、、マクロ経済や規制政策が緩和的であったために、世界経済はその「制限速度」を超えて拡大し、金融、住宅、商品市場間の不均衡を拡大させていたのかもしれず、同時に、市場自体の運営の不備と政策の欠陥があいまって均衡化メカニズムが有効に働かず、市場のストレスの高まりに至った、と分析しています。そして、これらの経済見通しに基づいて、以下の4点の政策上の対応を呼びかけています。

  1. 資産価格の変動に対して逆方向に作用する金融政策の模索
  2. 金融機関のリスク管理を確保するための規制、監督上のインフラの整備
  3. 商品価格の高止まりに対する省エネ対策の推進と石油・食料供給の拡大
  4. 資源価格上昇に伴う世界的不均衡の是正を緩和する方策

Commodity and Petroleum Prices

どんどん長くなるんですが、第3-6章について、簡単に触れておきたいと思います。第3章ではインフレを取り上げており、最近になり商品価格は若干軟化したものの、価格上昇の背景となった要因の多くは依然として残っていることから、今後とも、上のグラフの通り、従来と比べて高水準で推移するとの見通しを明らかにした上で、先進諸国では金融危機によるデフレ圧力からインフレリスクは急速に解消している一方で、新興国や途上国では商品価格高騰の物価への転嫁圧力が続き、さらに、私の言うところの一般物価水準、IMF の言うところの基調的インフレへの波及の危険性を考慮し、迅速かつ断固とした金融政策が肝要としています。要するに、もっと金融を引き締めるべきであるということのようです。

Financial Stress and Output Loss

第4章では、昨年の終わりから今年初めに話題になったラインハート教授とロゴフ教授のペーパーにならって、過去30年間に先進17カ国で発生した銀行、証券、為替市場における113の金融逼迫のエピソードを特定し、金融逼迫指標を作成した分析を行い、現在発生している金融逼迫は米国にとってこれまでに経験した最も深刻なエピソードのひとつであると特定しています。ただし、これらのエピソードの検討から、金融逼迫が必ずしも景気減速や景気後退をもたらすものではないことが示された一方で、上のグラフに示された通り、金融逼迫、特に銀行セクターに集中している金融逼迫に続いて発生した景気減速・後退は、金融逼迫がなかった場合に比べてかなり深刻であるとの結果が示されています。

How Strong Was the Fiscal Policy Response in G7 Economies?

第5章では財政政策を取り上げています。現在、政府では今月下旬にも何らかの追加的な経済対策が打ち出されようとしており、IMF が裁量的な財政政策に対してどのようなスタンスを示すかは興味あるところです。結果はG7諸国を対象にした上のグラフの通り、特に、1992年以降の下のグラフでは青い折れ線の金融政策がショックから2四半期目に大きな効果を発揮するのに対して、黄色の裁量的な財政政策は2四半期目には赤のビルトインスタビライザーよりも効果が小さくなる始末で、IMF は景気対策として圧倒的に金融政策に軍配を上げています。裁量的財政政策は経済活動に影響を与え得ることは認めつつ、その効果は余り大きくない点や時には逆方向の効果を与える恐れも指摘しています。適切な対象に対し時限的な財政政策をタイミングよく実施し、また、好況時に財政状況を改善する必要があるにもかかわらず、これらが現実には難しかったり、十分に認識されていないおそれについても、裁量的な財政政策の難点として上げています。無理にやっている先進国は日本だけなのかもしれません。

Patterns of Divergence of Current in Account Balance

最後に、第6章は新興国における対外収支の不均衡です。もっとも、不均衡の原語は imbalance ではなく、divergence です。上の一連のグラフの中の左上の折れ線グラフに見られるように、中南米はバランスに向かっているとはいえ、アジア新興国が経常収支黒字を拡大しているのに対して、欧州新興国は赤字が拡大傾向にあります。同時に、アジア新興国の中でも、香港・韓国・シンガポール・台湾の NIEs の青い折れ線とシンガポールを除くオリジナルの ASEAN 4カ国、すなわち、右上のグラフでは赤い折れ線で示されている "Asian Tigers"、もちろん、灰色の折れ線の中国は経常収支黒字が拡大しているようなんですが、インド・パキスタンの南アジアやベトナムなどの黄色で示されているその他アジアは赤字が拡大しています。なお、縦軸は経常収支の GDP 比で各国の経済規模を考慮しない単純平均です。この地域別・国別の経常収支不均衡の拡大について、リポートでは金融自由化の度合いなどの構造要因が背景にあるとしつつ、東南アジアと中国については為替レートが過小評価されている可能性を、欧州新興国については不均衡調整がハードランディングに陥る恐れを、それぞれ示唆しています。

いっぱい書いて、しかも縦長のグラフもいっぱいリポートから引用して、とっても長々としたエントリーになってしまいました。ホグワーツ校ではリポート提出に当たって羊皮紙の長さで指定されるのを思い出してしまいましたが、それでも、さらに長くなるのを承知の上で、ノーベル賞に触れたいと思います。というのは、一昨日の物理学賞3教授に続いて、昨夜は化学賞が下村教授に授賞されたからです。さんざん報道されている通り、このノーベル化学賞を授賞された下村教授は本学のご卒業です。本学も私の母校の京都大学や東京大学・名古屋大などに肩を並べてノーベル賞受賞者の出身大学の仲間入りをしました。誠におめでたいことで、関係者の私としてもうれしい限りです。後は、今夜発表されるノーベル文学賞が村上春樹さんに授賞されればいうことなしなんですが、巷では、イタリアのクラウディオ・マグリス氏、米国のフィリップ・ロス氏、スウェーデンの詩人トーマス・トランストロンメル氏なども候補として上がっているようです。もうすぐ発表です。

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2008年10月 8日 (水)

ああ首位陥落!

今夜のジャイアンツとの東京ドームでの首位決戦で負けました。ついに、首位陥落です。押出しのフォアボールの得点だけでは勝てません。9回表の阪神の攻撃を残してテレビ中継が終わったのも、我々阪神ファンが試合終了の瞬間を見なくて済むようにとの読売サイドの配慮なのかもしれないと考えてしまいました。
それにしても、10月のこの時期まで野球を楽しませてくれたんですから、私のような万年最下位の時代を知っているファンには有り難い限りです。ペナントの行方は決しました。リリーフ陣とけがの選手を休ませ、後は、昨年のクライマックスシリーズでコロコロと2連敗してしまった中日相手に今年は仇を討って、もう一度、東京ドームのクライマックスシリーズで巨人に挑戦して欲しいと思います。

クライマックスシリーズも、
がんばれタイガース!

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長崎でのテレビ・デビューとノーベル賞の話題

このブログでも書きましたが、米欧の金融危機の日本経済や長崎経済に対する影響について新聞やテレビの取材を受け、今日の長崎新聞の5面にそのインタビュー記事が掲載され、また、長崎ローカルのテレビ局であるNBCの今日の夕方6時過ぎからの報道番組「報道センターNBC」で放映されました。私は大学本館6階のテレビのある職員談話室に行ったんですがまったく映らず、同僚教授の部屋で放送を見せてもらいました。新聞は西日本新聞に次いで2度目ですが、テレビは初めてでした。これから長崎ローカルでは著名エコノミストになっていくのかもしれません。

冗談はさて置いて、今日の多くの新聞のトップ記事はノーベル物理学賞の3人の先生方だったことは言うまでもありません。誠におめでとうございます。さすがに、物理学賞や化学賞はサッパリですが、私は私でノーベル賞に注目していて、9月29日のエントリーでも取り上げたところです。今後、私の注目する文学賞は明日木曜日10月9日の午後1時、経済学賞は来週月曜日10月13日の同じく午後1時、いずれもストックホルム時間に発表されます。村上春樹さんへの文学賞授賞はあるんでしょうか?
なお、経済学賞については、私の予想を9月29日付けのエントリーで取り上げた後、トムソンサイエンティフィックが日本時間の10月2日になって、ノーベル賞の有力候補者を発表しました。経済学賞については以下の通りです。引用元に従って、敬称は省略しています。

  1. ダイナミック計量経済学モデルへの貢献
    • Lars P. Hansen
    • Thomas J. Sargent
    • Christopher A. Sims
  2. 財産権の公開および企業理論に対する貢献
    • Armen A. Alchian
    • Harold Demsetz
  3. 税制・社会保障・健康経済学その他様々な公共経済学に関する研究
    • Martin S. Feldstein

すべて米国のエコノミストで、さすがに、最後のフェルドスタイン教授は私でも知っていますが、2番目のテーマの「財産権の公開および企業理論に対する貢献」は私には馴染みのない分野だったりします。一応、私の予想を9月29日のエントリーから再掲すると以下の通りです。

  1. 経済成長理論への貢献
    • ジョルゲンソン教授
    • バロー教授
  2. 国際貿易理論への貢献
    • バグワティ教授
    • ディキシット教授
  3. VAR プロセスなどの時系列分析への貢献
    • シムズ教授
    • ストック教授

見ればわかると思うんですが、トムソンサイエンティフィックと私の上げた6人ずつで、シムズ教授が重なっています。ということは、シムズ教授は極めて有力な候補者なのかもしれないという気がしないでもありません。一応、経済評論の日記に分類しておきます。

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国際通貨基金 (IMF) の "Global Financial Stability Report"

まず、本題に入る前に、昨日、内閣府から今年8月分の景気動向指数が発表されました。先行指数は前月と比較して▲2.1ポイント下降、一致指数も前月と比較して▲2.8 ポイント下降し、「景気動向指数(CI一致指数)は、悪化を示している。」との基調判断に変更はありませんでした。下のグラフは、見れば分かると思うんですが、赤い折れ線が先行指数、青が一致指数で、影を付けた部分は景気後退期です。いつもの通り、直近は昨年10月がピークだったと仮定しています。

景気動向指数

ということで、本題に入ると、昨日10月7日、国際通貨基金 (IMF) が半年に一度の「世界金融安定報告」 "Global Financial Stability Report" を発表しました。日本メディアが注目したのはサブプライム・ローンに関連する世界の金融機関の損失の見積もりだったんですが、もちろん、それ以外にもいろいろな分析がなされています。今夜はこのリポートの「第1章 世界金融の安定性に対するリスク評価」を中心に取り上げたいと思います。まず、少し長くなりますが、私が見かけた中で、典型的な日本のメディアの報道として読売新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

国際通貨基金(IMF)は7日、世界金融安定報告を発表し、米低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」問題による世界の金融機関の損失が全体で最大約1兆4000億ドル(約140兆円)に上るとの試算を公表した。
4月時点の試算額9450億ドル(約95兆円)から約1.5倍に増加した。2007年9月に最大2000億ドルと試算して以来、損失額は増え続けており、金融危機の実態を把握しにくい現状が浮き彫りになっている。
損失額のうち住宅ローンを組み込むなどした証券化商品の損失が9800億ドルにのぼると見積もった。住宅や商業不動産、企業向けなどの融資に伴う損失額も4250億ドルと想定している。損失額が膨らんだ理由としては、景気停滞感が強まり、住宅ローンや企業向け融資の貸し倒れが増加することを挙げている。
損失額の増大により、主要な世界の金融機関は、今後数年間で6750億ドルの資本増強が必要になると試算している。
報告書は、金融危機が実体経済に波及することに強い懸念を示し、各国の金融当局に包括的で首尾一貫した対策を取るよう求めている。その上で、「多くの金融機関は資本調達が困難になっている」との見方を示し、「各国の金融当局は公的資金の注入が必要となるだろう」と指摘している。

まず、このリポートの中心眼目である世界金融の安定性に関する現状評価をレーダーチャートで表現したものが下のグラフです。なお、今夜のエントリーの出典は全て「世界金融安定報告」"Global Financial Stability Report" のfull text (summary version) から引用しています。私は "full text" と "summary version" は相矛盾するような気がしないでもないんですが、IMF がこのように名付けていますので、そのままにしています。下のレーダーチャートはリポートの冒頭 pp.2 にあります。見ればわかるように、上のリスク4項目、すなわち、マクロ経済リスク、新興国市場リスク、信用リスク、市場流動性リスクの4項目が外に広がってリスクが大きくなっていることを示し、下の市場環境に関する2項目、すなわち、通貨・金融環境とリスク許容度の2項目は内側に縮小しています。

Global Financial Stability Map

次に、下のグラフは2006年以降のシステミックリスクの推移をプロットしています。pp.3 にあります。上の青い折れ線が、少なくとも銀行が1行破綻した場合に連鎖的に破綻する銀行数の期待値で左目盛、赤が大規模な銀行破綻の確率のパーセント表示で右目盛りです。どちらもシステミックリスクの代理変数ということなんでしょうが、グラフが上に行くほどシステミックリスクが発生する危険が大きくなっていることはいうまでもありません。グラフに見るように、2006年から2007年年央まで大きな動きはなかったんですが、昨年8月のパリバ・ショック以来、両指標とも傾向的に高まって来ています。特に、赤い折れ線グラフの大規模な銀行破綻の確率は、今年3月半ばにベア・スターンズ証券が救済された際と、先月のファニーメイやフレディーマック、あるいは、リーマン・ブラザーズ証券や AIG などの経営危機の際にスパイクを生じているのが見て取れます。

Systemic Bank Default Risk

3番目に、日本のメディアでもっとも注目された IMF による金融機関の損失合計について、上の段の証券化されていない貸付と下の段の資産担保証券 (ABS) などの証券商品の別に推計した標準ケースの結果が下の表で示されています。pp.9 にあります。上の読売新聞のサイトから引用した記事では「4月時点」となっていて、下の表では「8月時点の推計」となっていますが、pp.56 の Table 1.9 を見ると、IMF の間違いで読売新聞の方が正しいような気がします。いずれにせよ、4月推計が $ 945 bil で、わずか半年を経た10月時点で $ 1,405 bil と1.5倍に膨れ上がっていることになります。さらに、これは標準ケースの推計であって、ストレスケースではもっと損失が大きくなります。例えば、貸付からの損失は標準ケースでは下の表の上の段にある通り、$ 425 bil なんですが、ストレスケースだとこれが $ 505 bil と、約2割増しの $ 80 bil の違いを生じます。もちろん、4月と10月の半年の間にファニーメイとフレディマックの GSE、さらに、リーマンズラザーズ証券や AIG が経営危機に陥っていますから、損失額が拡大するのは当然なんですが、それにしても、すでに米国から欧州に拡大を見せている金融危機の今後の展開に伴って、さらにこの損失額が大きくなる可能性を IMF 自身が示唆していると私は受け止めています。

Estimates of Financial Sector Potential Writedowns

しかし、金融機関の損失の大きさを絶対額で評価するだけでなく、危機を生じた国の経済規模でノーマライズする必要がありますので損失額のGDP比を取り、さらに、過去の金融危機と比較したのが下のグラフです。上の表とおなじ pp.9 にあります。緑色の棒グラフが銀行の損失額で、黄色の点がそのGDP比です。現在進行形の金融危機の棒グラフにおいて白で上乗せされている部分は銀行以外の SPV などの損失です。今さらながらではありますが、バブル崩壊後の日本の金融危機は現在の危機に比べても損失額、GDP比とも上回るような極めて巨大なものだったことが読み取れます。もちろん、前世紀末のアジア通貨危機も損失額はそれほどではないにしても、日米欧のような経済大国で生じたわけではありませんから、GDP比では巨大なものであり、そのマグニチュードが大きかったことがうかがわれます。

Comparison of Financial Crises

最後に、この「第1章 世界金融の安定性に対するリスク評価」の結論として、IMF は以下の4点を上げています。これだけは原文の英語で引用します。

  • Maintain an orderly deleveraging process.
  • Strengthen risk management systems.
  • Improve valuation techniques and reporting.
  • Develop better clearing and settlement mechanisms for over-the-counter products.
今夜のエントリーでは第1章のみを取り上げましたが、第1章以外のこのリポートの構成を見ると、第2章では銀行システムのストレスに対応する金融政策のあり方、第3章では時価会計方式への移行が景気循環に及ぼす影響、第4章では今回の金融危機の新興国株式市場への波及効果などについて分析を加えており、私の専門分野との関係で第3章は大いに興味があったりします。

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2008年10月 7日 (火)

米欧における金融危機の日本経済への影響をどう考えるか?

実は、このブログでもチラリと書きましたが、先週の金曜日に長崎ローカルのテレビ局から取材があり、「米国の金融危機の日本経済・長崎経済への影響」ということで少しお話したんですが、その後、米国では下院で金融救済法案が可決され、大統領の署名を経て即日成立したり、米国だけでなく、このブログでも欧州への金融危機の拡大をかねてより指摘して来たところ、その通りに、欧州で金融危機に関する首脳会議が開かれて決裂したりと、週末に大きな動きがありましたので、再取材がありました。それから、偶然なんでしょうが、同じく長崎ローカルの新聞からもまったく同じテーマでインタビューを受けました。テレビは明日の夕方の報道番組で放送する予定だそうで、新聞も明日の紙面に私のコメントが掲載されるかもしれません。どうでもいいことですが、テレビに話を戻すと、金曜日はいい加減な格好でしたので、授業のある今日、ちゃんとした服装で再び取材に応じられたので助かった気がします。

ということで、改めて、取材に答えたことを中心に、米欧での金融危機の日本経済・長崎経済に対する影響について取り上げたいと思います。まず、この影響のチャンネルについては3つあると私は考えています。第1に輸出から来るマイナスの影響です。これには2点あり、米欧の通貨建ての証券がリスクが高いと判断されることから売られて、円が独歩高の様相を呈している為替の影響と、当然ながら、米欧の景気の悪化による需要面の影響です。昨年まで続いていた日本の景気拡大局面では輸出に依存する部分が大きかっただけに、輸出が減速すれば影響は大きいと考えざるを得ません。長崎の場合は、造船業や半導体への影響が懸念されます。特に、造船業については資源高で需要が喚起されていた面がありますから、米欧経済の悪化とともに原油価格などが大幅に下落しており、影響は国内産業の中でも大きいと見られます。もともとが韓国などと比べて十分な国際競争力があるとは必ずしもいえない産業だけに、現時点で受注残高があっても将来に向けて業況が悪化することは避けられそうもありません。半導体産業の場合は国際競争力がまだ造船よりも高いと見られる上に、資源価格の下落から恩恵を受ける方の産業ですから、造船よりは影響度合いは少なくて済みそうな気もします。最後に、長崎の主要産業のひとつである観光については、国内景気の冷込みによる国内観光客への影響と、円高が海外からの観光客に及ぼす影響ともにネガティブと考えざるを得ません。
第2のルートは金融機関が米欧の金融危機に巻き込まれる金融のルートです。10月1日に発表された日銀短観などを見ても、日本国内における貸渋りがすでに発生している可能性が示唆されていると私は考えていますので、全国レベルではまだ始まったばかりの状態かもしれませんが、もしも、長崎に貸出し先として限界産業が多く存在するのであれば、これも一定の影響は避けられません。しかし、長崎は別にして、このルートからの影響は日本国内一般にそれほど大きくないだろうと考えられます。第3のチャンネルは資源高の終焉による物価の沈静化で、これだけが国内景気に対してプラスの効果を有します。遅くとも来年に入れば、生鮮食品を除くコア消費者物価は日銀の「物価安定の理解」の上限である2%を下回ようになると私は考えています。価格面からは消費を押し上げる要因ですが、国内需要が冷え込んでいる中で、景気拡大期にも期待できなかった所得の増加は望めませんから、どこまで消費を下支えするかは不透明といわざるを得ません。
日本経済や長崎経済に対する影響を離れて、米欧での金融危機について、米国と欧州に分けて概観すると、まず、米国では、従来の主張の繰返しになりますが、金融救済法において、いわゆる銀行の健全性の指標となる自己資本比率で考えて、分母の総資産のうち不良債権部分を政府が買い上げることは盛り込まれましたが、分子の資本注入のスキームが欠如しているのは質的な面で市場には不満が残るかもしれません。さらに、仲介機関である金融機関の救済が主眼ですから、根本原因であるサブプライム住宅ローンへの対策が欠けています。米国の景気は何らかの資産価格上昇に基づく個人消費が起点となりますから、住宅資産の価格下落を止めて、価格上昇に転ずるような政策も模索されるべきです。
欧州については、今回の金融危機で気になる点が3点あります。第1に、ユーロ圏だけの話で英国なんかは別ですが、ユーロ圏では金融機関の資金繰りのための流動性供給は欧州中央銀行 (ECB) が実施しているのに対して、銀行の健全性を確保するプルーデンス政策は各国の財政当局が担当しています。この流動性供給とプルーデンス政策の政策主体のズレが各国の思惑の違いにつながって、先の首脳会議の決裂をもたらした面があるような気がします。第2に、これもかねてから指摘して来た通り、大陸欧州では日本でいうところの証券会社、米国でいうところの投資銀行と、決済を行う市中銀行がいっしょになった、場合によっては保険会社までが兼営されているユニバーサルバンキング制を採っています。米国の金融危機で真っ先に破たんしたのは投資銀行や保険会社でしたから、おそらく、社内的にチャイニーズ・ウォールのようなものはあるんでしょうが、日本のような銀行と証券会社とを分離しているシステムに比べて、ユニバーサルバンキングの下では決済が滞る可能性がやや高いような気がしてなりませんから、少し心配です。第3に、一般に欧州ではディスクロージャーが進んでいません。米国で義務付けられているような四半期ごとの決算発表をしていない会社も多く、ディスクローズしたらアッとびっくりの大赤字、なんて事態が生じる可能性も米国などに比べて高いことも考えられます。

取りあえず、米欧の金融危機については輸出のチャンネルを通じて、日本の国内景気をさらに下押しする圧力を強める影響がもっとも大きく、金融ルートのネガティブな効果や物価の安定のプラスの影響はそれほど大きくないと私は考えていますが、今日発表された景気ウォッチャー調査に見られるように、マーケットの混乱による消費者マインドの悪化の影響も決して無視できないような気がします。

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2008年10月 6日 (月)

米国雇用統計の先行きをどう考えるか?

先週金曜日に9月の米国の雇用統計が発表されました。ヘッドラインの非農業部門雇用者数は季節調整済みの前月差で▲159千人減、失業率は同じく季節調整済みの系列で前月と変わらず6.1%でした。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

米労働省が3日発表した9月の雇用統計(季節調整済み)によると、非農業部門の雇用者数は15万9000人減少し、9カ月連続で悪化した。2003年3月の21万2000人減以来、5年半ぶりの大幅な落ち込みとなった。失業率(軍人を除く)は前月と同じ6.1%だった。金融危機は実体経済に波及し、雇用にも悪影響が及び始めている。
市場予測の平均は雇用者数が10万1000人減、失業率が6.1%だった。米雇用情勢の悪化は、内需低迷に加え貸し渋りが深刻化するなかで企業の雇用調整が加速していることを示しており、景気後退懸念が強まりそうだ。

次に、これまた、いつもの "New York Times" の "The Labor Picture in September" は以下の通りです。出典は上のリンクの通りですが、画像には少し縮小をかけてあります。

The Labor Picture in September

それから、私の方で描いたグラフは以下の通りです。従来は1990年から描いていたんですが、今回から2000年以降にしました。いずれも季節調整済みの系列で、赤い折れ線が非農業部門雇用者数の前月差、青が失業率です。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近は日本と同じように昨年10月がピークだったと私の方で仮定して影を付けてあります。

米国雇用統計の推移

9月の雇用者減の▲159千人減をどう考えるかなんですが、当然のことながら、ファニーメイやフレディマックなどの GSE の破綻やリーマン・ブラザーズ証券の破綻、AIG の救済合併などが起こった月ですから、これらの金融危機が雇用に及ぼした影響は否定できません。市場の事前コンセンサスは引用した記事にもある通り▲100千人減を少し超えるあたりでしたから、やや大きな雇用減だと受け止められています。メディアの報道などで、リーマン・ブラザーズ証券の破綻の夜にカートン・ボックスに入れた私物を持ち出す職員の写真などを見かけた人も多いと思いますが、日本と違って米国ではかなり雇用調整が早いのが特徴ですから、もちろん、破綻した金融機関での雇用減はそれなりにある可能性が高いとはいうものの、9月時点ではまだ大きくはないと考えるのが常識的だろうと思います。産業別の雇用者数の詳しい統計をチェックしても、金融サービス業は8月に▲5千人減を記録した後、9月は▲17千人減となっている程度です。もちろん、失業率も大きくハネ上がったわけではありません。金融期間の経営危機以外に、アイクと名付けられたハリケーンの影響やボーイング社のストライキも9月の特殊要因ではありますが、前者については米国労働省は "it is unlikely the storm had substantial effects on the national employment estimates" としていますし、後者については統計調査の対象期間に含まれていないようです。要するに、私の見立てによれば、金融危機や信用不安から景気後退の度合いが悪化して雇用全般に下押し圧力が加わったと考えるべきです。
最初にリンクを張っておいた米国労働省のプレスリリースにおいて、特に、産業別に取り上げられているのは、製造業▲51千人減、建設業▲35千人減、小売サービス▲40千人減、運輸・倉庫サービス▲16千人減、金融サービス▲17千人減、専門・企業サービス▲27千人、ヘルスケア・サービス+17千人増です。ただし、ヘルスケア・サービスは統計表では「ヘルスケア・教育サービス」に分類されていて、合計で+25千人増と表示されていますが、この産業では今年に入ってからも8月まではほぼ一貫して毎月+50千人くらいの増加を示していましたので、増加のテンポがかなり鈍化したことは確かだろうと思います。また、今月のデータからベンチマークが変更されましたが、ほぼ無視して差し支えないレベルでした。
今後の見通しについて、私のブログでは先週土曜日のエントリーで雇用面からはマイルドな景気後退かもしれないと呑気なことを書いてしまったんですが、やっぱり、金融危機の深まりや広がりなどを考慮すると、多くのエコノミストは9月の雇用統計を見て、「こんなもんではない」と考え始めているようです。典型的には、"Wall Street Journal" のブログサイトのひとつである "Real Time Economics" で統計発表直後の雰囲気をよく伝えるエントリーがあります。"Economists React: More 'Awful' Jobs Reports to Come" とのタイトルで、数人のエコノミストの見方が取り上げられています。詳しくは上のリンクから確かめられますが、取り上げられているエコノミストごとに、ポイントであると私が考えた1センテンスだけを示すと以下の通りです。

  • The economy was on the way down even before the latest tightening in the credit crunch.
  • The U.S. economy is shrinking, and there will be many more awful reports like this.
  • Job losses were widespread, and weakness in retail (-40,000) and leisure & hospitality (-17,000) speak directly to pressures on consumer spending.
  • Some of the job losses that resulted from the hurricanes are likely to reappear in October, but this effect is likely to be more than offset by the fallout tied to the Boeing strike and further underlying deterioration in labor market conditions.
  • Financial sector job losses meanwhile sunk to -17,000, though we remain concerned that many of the layoffs aren't being captured in these numbers - the data simply do not match the headlines.
  • The collateral effects of the recent turmoil in the credit markets will likely make the job losses even larger next month.
  • The augmented unemployment rate, which adjusts for marginally attached workers (i.e. those who would like a job but are not actively looking) rose to 9.1% from 8.9%.
  • Over the nine months that total employment has declined, the total job losses add up to 760,000.

現時点で、NBER はまだリセッションの認定をしていませんが、私の目から見て米国が昨年10-12月期をピークに景気後退局面にある可能性は極めて高く、さらに、先月からの金融危機を発端とする信用不安が続けば、この景気後退局面はさらに長くて深いものになる可能性も排除できません。米国の景気循環は家計が起点となるだけに、雇用統計の今後の推移が注目されるところです。

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2008年10月 5日 (日)

今夜は快勝して首位キープ!

  RHBE
阪  神000500003 8770
ヤクルト000002100 3552

十分に予想された通り、クライマックス・シリーズ出場を決めた中日が昼間にアッサリと巨人に負けましたので、今日は何が何でも勝たねばならない試合でした。この試合でしっかりと打線が点を取って勝てたことに意味は大きいと思います。4回に5点を先取し9回にはダメ押しの3点も入れて計8点ですから、昨夜は延長12回までやって2点だった現在の打線の調子からすれば上出来です。結果的には快勝して首位キープでした。なお、当然ながら、長崎ではテレビ中継がありませんので、私はニッカンスポーツのリアルタイム速報で試合をフォローしました。
2回のチャンスを鳥谷遊撃手の三振と林外野手のピーゴロで潰して、いきなりそのウラに石川投手がフォアボール連発でピンチを招いた時にはイヤな気がしましたが、想像するに度胸満点のマウンドさばきで石川投手が抑え、4回の得点につながったように思います。このあたりはテレビで見ていたわけではないので分かりません。4回の攻撃を振り返ると、2回のワンダン3塁で三振した鳥谷遊撃手が満塁から名手・青木中堅手の頭上を越すツーベースでまず2点、林外野手フォアボールで再び満塁となった後、矢野捕手の打球はニッカンスポーツのサイトでもはっきりとボテボテと表示される当たりで、ヤクルトの三塁手がどこに投げたのか私には分からないながら、ともかく、悪送球でさらに2点入ります。この後の赤星外野手の内野安打で5点目が入ったのも結果を見ると大きかったと思います。昨夜は延長12回までやって6回も打席が回って来たにもかかわらず、とうとう出塁のなかった赤星外野手ですから、今夜は大いに奮起したんだろうと想像しています。その後もヒットやフォアボールの後、2盗塁を決めました。
ということで、新人の石川投手が5回までヤクルト打線をノーヒットのゼロに抑えたのを見届けて、一昨日の例があるので、岡田監督の継投が決まることを祈りつつ、人生最大の楽しみであるお風呂に入ります。こうなると、監督の采配の巧拙とか、選手の調子のよし悪しではなく、八卦の当たり外れの感じだったりします。果たして、お風呂から上がってネットでの観戦に戻ると、6回ウラに2点入れられた上に、7回のマウンドではアッチソン投手が満塁の走者を背負っていました。デッドボールの押出しで3点目を入れられて2点差に詰め寄られてしまいます。8回ウラからは予定通りに藤川投手の登板です。「予定通り」というのは、そもそも、アッチソン投手が8回オモテに打席の回る打順に入れられていたので、代打で藤川投手につなぐのが最初からの岡田監督の作戦だと私には見えたからです。9回オモテには金本外野手が敬遠された後、アッとびっくりのバルディリス内野手のスリーランまで飛び出して、この藤川投手が5点差の9回をラクに締めて、途中経過はともかく点差だけ見ると快勝です。それにしても、勝っても負けても引き分けても、毎日登板のリリーフ陣はお疲れさまです。
まったくどうでもいいことですが、ニッカンスポーツのサイトで観戦していると、スコアボードの上をテロップが流れて、その中に、九州6大学野球の結果で「九国大が勝利し、九州大学選手権出場決定」というニュースがありました。長崎に着任して2カ月余り、横国大というのは知っていましたが、九国大というのは知りませんでした。ネットで調べると九州国際大学だそうです。そういわれても、やっぱり知らなかったりします。まだまだ、私の知らない九州がいっぱいあるようです。

雨かもしれないけど、明日もやっぱり、
がんばれタイガース!

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米国エコノミストは大統領候補者をどう見ているか?

いよいよ来月に米国の大統領選挙を控えて、最近の "The Economist""Examining the candidates" という記事を見かけました。全米経済研究所などと邦訳される NBER (National Bureau of Economic Research) の エコノミスト (research associates) 683人に対して、 "The Economist" から電子メールで質問票を送って、うち142人から回答を得たそうです。回答者はほぼすべてが大学の教授・准教授である学界エコノミストだと考えてよさそうです。その結果が下のグラフです。少し縮小をかけてあるので見づらいかもしれませんが、上のリンクからグラフとともに記事全文を見ることが出来ます。さらに、詳細については PDF ファイルでも提供されており、現在の住宅・金融危機への対応 (Addressing the housing and financial crisis)、長期的な経済成長の加速 (Boosting long-run economic growth)、財政原則の確立 (Promoting fiscal discipline)、所得格差の縮小 (Narrowing income inequality)、自由貿易と国際化への対応 (Free trade and globalisation) などについてのスコアも明らかにされています。

The Economist's poll of economists

回答したエコノミストのうち、半数近い46%が民主党、10%が共和党、残り44%がどちらでもないと回答しています。上のグラフの中では右下に回答者の党派別の属性が示されています。従って、かなり偏りがある可能性は排除できませんから、それなりのバイアスを前提に見る必要はありますが、このブログの7月19日付けの「エコノミストの支持を得る選挙公約は何か?」と題したエントリーでマンキュー教授のコラムを紹介したのと同じく、エコノミストが米国の大統領選挙をどのように見ているかの参考になると思います。
まず、左上のグラフで大統領選挙における経済政策の重要性についての回答があります。NBER のエコノミストにこういった質問をするのはどうかと思いますが、重要でないと回答しているエコノミストが2人もいるのはもっと驚きだったりします。もちろん、全体としては、平均以上に重要との回答が多くなっています。回答者の平均スコアは4.15となっています。左下のグラフから右側にかけてはオバマ上院議員とマケイン上院議員の候補者別に分けての評価が取りまとめられています。まず、左下のグラフでは両候補の経済政策 (economic plan) に関する5段階の評価です。回答者の比率で民主党が共和党を大きく凌駕するとはいうものの、オバマ候補がマケイン候補よりも高い評価を得ています。両候補の平均スコアはオバマ上院議員は3.31と平均を超えているのに対して、マケイン上院議員は2.15と平均以下だったりします。一般にもこの評価が定着しているようで、現在の金融危機などがクローズアップされて経済政策がより重視されるようになればオバマ候補に有利との報道を日本でも見かけるようになりました。
右側のグラフに目を転ずると、オバマ候補がマケイン候補を圧倒します。右上から、経済政策スタッフ (economic team)、経済の現状に対する理解 (grasp of economy)、どちらの候補のために (エコノミストとして) 働きたいか、の3点の質問に対してオバマ候補は70-80%の支持を得ています。回答者の半分近くが民主党とはいえ、その比率を大きく超える支持をオバマ候補は集めており、特に、2番目の経済の現状に対する理解に関しては、詳細な結果を見るとマケイン候補への支持は7.8%ですので、自分自身を共和党であると同定したエコノミストが10%なのに対して、これを割り込んでいます。同じ党内の仲間内からも経済面に関しては信頼されていないマケイン候補の姿が浮かび上がります。

このサーベイでは、まったく "candidate" ではあり得ないんですが、現在のブッシュ大統領の経済政策も候補者と同じように5段階評価を求めていて、平均スコアは1.70となっています。途中で紹介したように、両候補はオバマ候補が3.31でマケイン候補が2.15ですから、少なくとも経済政策の観点からは、どちらの候補が大統領になっても現在のブッシュ大統領よりはマシというのが、いつもややシニカルな見方を提供する "The Economist" の結論のひとつなのかもしれません。

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2008年10月 4日 (土)

取りあえず半歩前進で単独首位!

今夜もしんどい試合でした。昼間の試合で巨人が中日に敗れたので、勝てば一気にマジックが何回目の点灯になるのか知りませんが、マジックが出たハズなんで、今夜こそという気もzったものの、やっぱり勝てません。ヤクルト相手に何をしているのかという気もしますが、打線がここまで打てなければ投手力で点を入れられない以上、試合に勝つことは出来ません。昨夜のように打線が点を取れば投手が打たれ、今夜のように投手が抑えれば打線が点を取れないという、少し悪循環になっているような気もします。まあ、ジャイアンツにお付き合いして負けなかっただけよしとすべきなのかもしれません。取りあえず、優勝に向かって半歩前進して単独首位です。でも、クライマックス・シリーズ出場を決めたので、明日から中日はお休みモードに入るでしょうから、他力本願はアテに出来ません。明日こそ勝たねばなりません。今夜はスコアボードを書く気力もありませんでした。

明日は打線の奮起を期待して、
がんばれタイガース!

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大学教授は生協の学食で何を食べているのか?

タイトルにした本題に入る前に、米国発の2つのニュースについて簡単に触れておきたいと思います。まず、米国の雇用統計が発表され、下のグラフのように非農業部門雇用者が▲159千人の減少となりました。失業率は前月と変わらず6.1%でした。なお、下のグラフは "New York Times" のサイトから引用しています。下のグラフにも見られる通り、過去のリセッション期には▲300千人減を記録する月もありましたし、失業率も IT バブル崩壊後の景気後退期の水準には達していませんから、少なくとも雇用面からはマイルドな景気後退なのかもしれません。もうひとつ、下院で緊急経済安定化法案が可決され、大統領が即日署名して成立しました。今週初めの下院での投票では yea 205 に対して nay 228 だったんですが、米国現地時間で昨日の投票結果では yea 263 nay 171 だったそうです。50票を超えるスイングを見ました。引用はしませんが、これも "New York Times" のサイトに、月曜日と金曜日の下院での投票について詳しい情報があります。選挙区からの圧力に対して、金融市場の反応と大統領や政府からの説得が勝利を収めたといえます。また、預金保護の強化などの修正も寄与したのかもしれません。なお、米国の雇用統計については、必要に応じて、改めて週明けにでも取り上げたいと思います。取りあえず、今日のところは週末モードです。

Monthly change in number of jobs

ということで、大きく話題を変換して、今週月曜日から大学の後期が始まり、私もいくつか授業がありました。最初の週の授業で学生の授業登録前の参考授業となりますから、そんなに本格的に講義を進めるわけではなく、教科書と参考図書を提示したり、成績評価の方法を伝えたり、あるいは、学生にはとっても重要なことなのかもしれませんが、出席を取るのかどうかなどの授業全般に渡る事項を周知するとともに、私自身の経済や日本経済に関する哲学めいたことを延々と述べました。その中で、本格的な授業ではないものの、それなりに1週間の曜日に沿った生活のリズムはつかめたような気がします。まあ、元々が「人類最後の日まで生き残るかもしれない」と称された適応力高い私のことですし、授業までに2ヶ月の準備期間がありましたから、大きなカルチャーショックはありませんでした。
生活のリズムの上でも重要な要素が食事で、私のような中年で単身赴任している人間には健康管理の面からも栄養バランスのいい食事は欠かせないんですが、さすがに、生協の学食は頼れるような気がします。しかし、私も最初の月曜日は出遅れます。そもそも、どこの大学でもそうだと思うんですが、正午前後に午前中の授業が終了し、1時ころに午後の授業が開始され、約1時間くらいの昼休みがあります。当然ながら、正午から1時までは大混雑で、キャンパスの学食もオフィスの職員食堂も変わりはありません。この大混雑を避けるために授業が開始される1時近くに学食に行ったんですが、これが大失敗で学生諸君の食欲を考慮しておらず、ほとんどが売切れ状態できつねうどんになってしまいました。翌火曜日は意識して12時半過ぎに行ったんですが、やっぱり、メインディッシュは残ってなくて、同僚教授とカツカレーをつつくハメになりました。
仕方がないので、水曜日からはやや反則気味に、午前の授業が終わる正午前に学食に行くことにしました。ようやく、ハンバーグにありつきます。チラホラと同僚の教授・准教授も見かけましたので、正午前でも OK かと考え、続いて木曜日と金曜日も正午前に行ったりしました。特に、木曜日には午後一番の3コマ目の授業があるので早めに行く口実も十分あったりします。努力の甲斐あって、木曜日はニラ豚炒め、金曜日は白身魚フライの卵とじをいただきました。木曜日のメニューは、普通はニラと来ればレバーではないかと思わないでもなかったんですが、目新しいことろを選んでみました。水曜日以降はメインディッシュにご飯と味噌汁、さらに私は野菜を摂ることに心がけてサラダも頼みます。本学の学食は、いわゆるセット方式ではなくアラカルト方式で、メインディッシュ、ご飯、味噌汁、サラダや小鉢など個別のお皿ごとに値段が付いており、レジで合計金額を支払います。メインディッシュは数種類用意されています。もちろん、ご飯は SML の3段階があったりします。私は M を頼んでいます。アラカルト方式ですから料金は定額ではないんですが、私くらい食べても500円を超えることは滅多になく、値段的におトク感があるとともに、圧倒的に私の専門外ながら、栄養のバランスもいいんだろうと期待しています。
食器はすべてプラスティック製です。お箸も割箸でなくプラスティックで出来ています。使い捨ては爪楊枝だけではないかと思います。ですから、紙ナプキンは置いてないので自分で持ち込みます。何といっても生協ですから、エコに気を使っているんだという気がします。ところで、私はメインディッシュの大きなお皿以外は持ち上げて食べる癖があるんですが、サラダボウルを持ち上げた時に違和感がありました。糸尻がないんです。なお、糸尻は関西弁で、標準語では糸底というのかもしれません。それはともかく、学食のサラダボウルは、ちょうど、我が家の子供達が小さいころから使っている、きかんしゃトーマスやピーター・ラビットの絵の描いたシリアルボウルのような形なんですが、糸尻がなくツルッとした感触です。製作過程からして焼き物には必ず糸尻があるんですが、プラスティック食器には不要なものなのかもしれません。

とっても充実して楽しい1週間でした。新米教授ですから、いろんなトラブルやアクシデントもあり、米国金融危機の日本経済や長崎経済に対する影響について、急なテレビの取材なんかも回って来ましたが、いよいよ、来週から本格的な授業を始めます。

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2008年10月 3日 (金)

リリーフ陣総崩れでマジック消える

  RHBE
阪  神000131000 51230
ヤクルト00000043X 71131

またまたマジックが消えました。リリーフ陣が総崩れです。久保田投手は相変わらずですし、ウィリアムス投手もしっかり打たれて、頼みのアッチソン投手もさえずに、8回途中から藤川投手を出すハメになり、その藤川投手までが打ち込まれて大逆転でした。
今岡選手と新井内野手の右のスラッガーが復帰して打線に活気が出て、今夜は中盤で打線もつながって合計5点入れたんですから、今岡内野手に守備固めを出したり、安藤投手を休ませる采配は間違いではないと思うんですが、結果的にはこれが裏目に出た形です。今夜のような試合は中継ぎ3-4人つないでもいいですからスッキリ勝ちたかったもんです。
安藤投手の先発で落としたのは痛かったんですが、ボヤイてばかりいても仕方ありませんから、明日は死に物狂いで勝ちにいって欲しいものです。遅いお風呂になってしまいました。

明日こそ、
がんばれ、タイガース!

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米国の金融救済法案をどう考えるか?

今週に入って、米国議会下院で緊急経済安定化法案が否決され、NY 市場でダウ平均株価が暴落して、一時、金融市場はパニックに近い状態になりました。その後、修正を加えた法案が上院で可決され、現在は下院に差し戻されたりしています。上院では共和党と民主党の大統領選挙候補者であるマケイン上院議員とオバマ上院議員が yea の投票をする場面が日本のニュースでも流れたりしました。今後の法案の行方は決して楽観できませんが、少し旧聞に属する話題ながら、米国の経済学者が9月24日付けで議会に金融救済法案を可決するように声明を送付したりしています。シカゴ大学のサイトでこの声明を見ることができます。また、"Wall Street Journal" のサイトで上院が修正して可決した法案の PDF ファイルもネットで見つけました。もちろん、英文で450ページ余りあります。ご興味ある方はどうぞ。
GSE であるファニーメイやフレディマックは別として、私は従来から、ベア・スターンズ証券、リーマン・ブラザーズ証券などの経営危機の際に specific な案件ごとに passive かつ individual に対応するには限界があり、何とか proactive かつ comprehensive なスキームを模索するべきであると主張して来て、今回の法案はそれなりに包括性を持ったものなんですが、私が少し疑問に感じているのは、proactive ではないということです。すなわち、政府による不良債権の買取りが法案のメインとなっていて、資本注入については割愛されました。一般的によく知られているように、銀行経営が危機に陥った際に健全性を確認するひとつの指標として自己資本比率が上げられます。分子が自己資本で分母が貸出しなどの総資産です。今回の法案では分母の総資産のうちの不良債権化している証券だけが対象で、しかも時価で買い取るスキームとなっています。分子の資本を注入するシステムが欠けています。大昔の1930年代の大恐慌期には資本注入のスキームが成立しましたが、今回も1980年代末に発生した S&L 危機の際にも資本注入の制度は見送られています。いつか指摘した通り、買い取るための資金が十分かどうかといった量の問題ではなく、proactive な措置を含めた資本注入のスキームが欠けているという質的な点が私には気がかりです。
もちろん、大恐慌期は例外中の例外で、S&L 危機の際と同様に今回も資本注入のスキームを盛り込むハードルが高いのは私も承知しています。米国下院議員の肩を持つわけではありませんが、国民の理解を得る上で次の2点が障害になっていることを指摘しておきたいと思います。第1に、何といっても大統領選挙が11月に控えています。日本と違って政府が経済に介入する風土が希薄な米国で、余りに介入の度合いを強めることに大統領選挙と同時に全員が改選を迎える下院議員が抵抗したことは理由がないことではありません。その点、上院議員は 1/3 改選にとどまりますから、比較的フリーハンドに近い投票行動をとることができるのかもしれません。第2に、国民の理解を得にくい条件として、米国の投資銀行の CEO などに止まらず、一般のディーラーなんかもびっくりするような高額の給与を得ていたことが上げられます。国民感情として、景気がいい時に大儲けしておきながら、景気が悪くなると税金で救済してもらう、というのには抵抗があるのももっともで、選挙の近い下院議員は敏感にこのような雰囲気を感じ取ったのかもしれません。

いずれにせよ、proactive かつ comprehensive なスキームで不良資産買取りとともに、健全行であっても政府の判断で資本注入できる法律が成立していながら、日本では不良資産の削減には10年かかりました。従来から私が指摘している通り、同じくサブプライム・ローンを震源地とする欧州での金融危機、さらには、原油などの商品価格下落による金融危機が今後も生じる可能性を排除できない中で、唯一残った世界のスーパーパワーとして米国の金融システム健全化の道のりは長いのかもしれません。

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2008年10月 2日 (木)

長崎県における日銀短観のデータを考える

昨夜に続いて、日銀短観を取り上げます。というのは、私は全く知らなかったんですが、日銀は当然ながらアチコチに支店があって、長崎支店もありますから、日銀短観の長崎版が存在します。県別だけではなく、日銀福岡支店からブロック単位の九州・沖縄版も発表されていたりします。長らく東京で公務員をしていた私には知る由もなかったんですが、今朝の朝刊で日銀短観の九州・沖縄版を報道しているところを見かけました。ネットで探すと日経新聞が九州版のホームページを開設しており、そこにも記事がありました。記事の中では「九州・沖縄短観」と称されています。ということで、まず、日経新聞九州版のサイトから記事の最初のパラだけを引用すると以下の通りです。

日本銀行福岡支店が1日発表した9月の九州・沖縄企業短期経済観測調査(九州・沖縄短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は全産業でマイナス14と5.四半期連続で悪化し、4年9カ月ぶりの低水準となった。原材料価格の高騰が重しになり、設備投資の計画も減速。08年度の経常利益予測は全産業で23.7%減となっており、収益面の厳しさも増している。

「九州・沖縄短観」なる呼称に即して言えば、我が長崎県の日銀長崎支店が発表しているのは「長崎短観」ということになりそうです。日銀長崎支店のホームページ上で PDF ファイルのリポートも公表されています。リポートの発表文には細かい産業別の言及があるんですが、表になっているのは製造業と非製造業だけで、規模別の大企業・中堅企業・中小企業の分類もありません。対象企業133社に対して、製造業48社、非製造業83社から回答を得ているようです。日銀短観が一般にそうですが、長崎でも回答率は高いようです。長崎短観のヘッドラインの統計について、最近時点の表とグラフは以下の通りです。先にリンクを張ったリポートから引用しています。

日銀短観における長崎県の業況判断DIの推移

当然ながら、「長崎短観」もほぼ全国と歩調を合わせた動きになっていますが、今回9月調査では製造業の業況判断 DI が6月調査の+11ポントから▲10ポイントへと、▲21ポイントもスイングして大きくマイナスになったのが目を引きます。非製造業では下げ幅は▲5ポイントと全国と同じくらいなんですが、元のレベルがかなり低くて長崎経済全体の業況判断 DI も低水準になっています。図表としては取り上げませんでしたが、全国と比較して長崎に特徴的な点を直近のデータで3点、少し長い目で見たデータで1点、取り上げたいと思います。第1に、雇用人員判断 DI が、全国ではまだ不足感がある中で、長崎では6月調査の時点からプラスに転じており、雇用過剰感が広がっていることです。第2に、企業金融面で資金繰り判断 DI と金融機関の貸出態度判断 DI ともに、全国より九州、九州より長崎で金融面が苦しいと判断されていることです。第3に、金融面で苦しいにもかかわらず、設備投資計画が長崎県では大幅増で、製造業で2桁増、非製造業に至っては40%近い前年比増、全産業でも30%増の計画となっています。キャノンなどが新工場計画を進めていると私も聞いていますが、明らかに長崎県内の地場企業ではなく、キャノンや三菱重工・佐世保重工などを含めた広い意味で県外企業の設備投資と考えられます。さらに、非製造業の設備投資計画が増加なのは、これらの県外大企業に随伴して長崎に進出する企業ではないかと想像されます。最後の長い目で見た4番目の点は、上のグラフで見て取れますが、バブル崩壊くらいまでは長崎のピークとボトムは全国から1-2四半期くらい後にズレている一方で、関係あるかどうか不明ながら、前世紀後半からは長崎では景気の波がハッキリしなくなっていることです。長崎では三菱重工や佐世保重工などの造船業が経済の柱のひとつになってきましたが、前世紀の終わりごろから急速に産業構造に何らかの変化が起こり、詳しく見ていないので単なる仮説として、サービス業の比率が高まっていたりするのかもしれません。

今週から大学の後期の授業が開始され、私は日本経済論などを担当しますから、最初の授業で学生に対して、「日本経済について詳しいことは自信があるが、長崎経済について詳しくないことはもっと自信がある」とうそぶいたりしています。でも、実は、もう少し九州経済や長崎経済について勉強しなければならないことは私自身がもっとも痛切に感じていたりします。

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2008年10月 1日 (水)

今日は日銀短観に見る景気後退局面

昨夜に続いて、景気後退局面をタイトルにしていますが、今日は9月調査の日銀短観が発表されました。まず、ヘッドラインの統計に関して、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日銀が1日朝発表した9月調査の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス3となり、前回6月調査に比べ8ポイント悪化した。マイナスに転じるのは2003年6月調査(マイナス5)以来ほぼ5年ぶり。世界的に景気減速懸念が強まったうえ、米金融不安を背景にした株安・円高も企業の景況感を下押しした。3カ月後の先行きはマイナス4と悪化を見込んでいる。
DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。9月26日にまとめた日経QUICKニュース社の調査では、大企業製造業DIの市場予想平均はマイナス2だった。
大企業製造業を業種別にみると、特に一般機械や精密機械の悪化が目立った。北米での販売不振が響き、自動車も3四半期連続で悪化した。業種別の先行きでは造船・重機等や金属製品など8業種で悪化した。
日銀短観の業況判断 DI が6月調査時点からかなり悪化し、ヘッドラインとなっている大企業製造業でマイナスに突っ込むことは事前に予想されていましたが、中身も予想以上に弱くなっています。大企業製造業を産業別で見ると、前回6月調査比で業況判断 DI が上昇している業種は鉄鋼、紙・パルプ、石油・石炭製品、窯業・土石製品の素材型産業であり、一般機械が▲20ポイント、精密機械で▲16ポイント、電機機械も▲12ポイント、自動車では▲10ポイントなど、加工組立型の主力輸出産業が軒並み大きく2桁のマイナスを記録しました。さらに、設備投資計画については GDP とベースを合わせたソフトウェアを含み土地を含まない計画で、大企業製造業が6月調査時点から▲1.1%ポイントの下方修正となり、全規模全産業でも▲0.7%ポイントの下方修正となっています。2008年度の計画自体は、全規模全産業で2007年度から+2.8%増となっているものの、設備投資計画が年度真ん中の9月時点で下方修正されるのは典型的な景気後退局面の特徴と言えます。雇用判断 DI についても、過剰から不足を引いた DI がまだマイナス圏内にあって、やや不足感が残っているものの、急激にゼロに向かっているような気がします。特に、前回の6月調査では先行きの9月時点で不足感が強まるとの結果だっただけに、これが逆転して不足感が緩和されているんですから、現時点から先行きの12月では不足感が強まるとの今回の調査結果にも少し疑問が生じます。先行きの見通しと実現値が乖離しているわけですから、今後、労働需給が急速に緩和する可能性を排除できません。最後に規模別に見ると、中堅・中小企業で資金繰りが悪化しており、これに従って景況感が悪化しているのが見て取れます。

日銀短観業況判断DIの推移

上のグラフは日銀短観の業況判断 DI の推移を示したものです。2段重ねのグラフになっているうち、上の段が製造業、下の段は非製造業です。製造業・非製造業とも赤の折れ線が大企業、青が中堅企業、緑が中小企業です。影を付けた部分は景気後退期で、直近は私の判断で昨年10-12月期がピークであったと考えて影を付けています。12月の値は9月調査の先行き予想を取っています。上のグラフに現れる景気後退期は古い順から、1985年のプラザ合意からの急激な為替調整に伴う、1980年代後半のいわゆる円高不況期、1990年代前半のバブル崩壊後の景気後退期、1990年代後半の消費税率引上げや山一証券の破綻などを契機とした金融不安を背景とする景気後退期、今世紀初頭のいわゆる IT バブル崩壊後の景気後退期、そして最後に現在の5回の景気後退期が観察されます。
この5つの景気後退期の日銀短観における業況判断 DI のグラフのシェイプを見ると、大雑把に、製造業の方が景気に敏感な DI のシェイプを示しており、特に、1980年代後半の円高不況期と今世紀初頭の IT バブル崩壊後の景気後退期には製造業の落ち方が非製造業よりもスティープになっているのが見て取れます。そして、現在の景気後退局面に目を向けると、ほぼフラットなシェイプで推移した円高不況期の非製造業ほどではありませんが、製造業・非製造業とも傾きがそんなにスティープでないとともに、DI のレベルとしても、特に大企業では大きなマイナスに突っ込んでいるわけではないことが観察されます。もちろん、DI ですから、レベルに着目した議論は適当でない可能性も十分ありますが、昨夜のエントリーで言及した景気後退を判断する2つの要素である深さと期間に着目すれば、傾きがやや緩やかでレベルがまだ高いことは、どちらがどちらというわけではないものの、現在の景気後退の深さがそんなでもなくて浅いながら、期間が長い可能性を示唆していると受け取れなくもないと私は考えています。要するに、私の持論である「現在の景気後退局面は浅くて長い」をサポートしているように見えなくもありません。もっとも、この日銀短観の結果を自説に適合するように、DI のレベルというやや信頼性に欠ける指標でもって計測しているという批判が当たっている可能性は排除できません。特に、今世紀初頭の前回の景気後退局面では全規模全産業の業況判断 DI で見て、ピークからボトムまで▲27ポイントの悪化幅を記録していますが、今回は、この9月調査時点で直近のピークから▲22ポイント悪化しており、加えて、12月時点までの先行きで▲5ポイント悪化することが示されていることから、これを含めると今年中に前回の景気後退局面と同じ幅の悪化となる可能性があって、さらに、来年に入るとアッサリと前回の悪化幅を超えることも十分予想されます。従って、私の持説である「浅くて長い」は「長い」方が実現してしまえば「浅い」方は実現されなくなる可能性があるのか、と考えなくもありません。

今回の短観では、9月10日ころからのリーマン・ブラザース証券の破綻などの金融市場の混乱が生ずる前の段階での回収率が約6割であったとのことで、足下の景況感はさらに悪化している可能性が大きいことは、読みこなす上で注意が必要かもしれません。

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