貿易統計から輸出の先行きを考える
本日、財務省から9月の貿易統計が発表されました。メディアの報道では、貿易赤字を記録した8月に続いて、9月も貿易収支が大幅に縮小したことが注目を集めています。これは9月単月というよりも、2008年4-9月の今年度上期の特徴といえます。まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。
財務省が23日朝に発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額は前年同月比1.5%増の7兆3678億円、輸入額は同28.8%増の7兆2727億円で、輸出額から輸入額を差し引いた輸出超過額(貿易黒字)は同94.1%減の951億円となった。
同時に発表した2008年度上半期(4-9月)の輸出額は前年同期比2.5%増の42兆9043億円、輸入額は同16.1%増の42兆1023億円で、貿易黒字は同85.6%減の8020億円だった。
まず、少し雑にグラフを3枚並べました。3枚のうち、一番上のグラフは引用した報道に見られるような貿易統計のヘッドラインを示しています。上の折れ線が輸出と輸入で、青が輸入で赤が輸入です。緑色の棒グラフが差額の貿易収支です。左軸の単位は10億円です。今年に入ってから貿易収支が大きく縮小し、8月は赤字になっています。次の真ん中のグラフは輸出の前年同月比伸び率について価格指数と数量指数によって金額指数を寄与度分解したものです。赤い棒グラフが数量指数の前年同月比、青が価格指数です。この2つの指数を合わせた金額指数を緑色の折れ線グラフで表示してあります。左軸の単位はパーセントです。金額ベースの輸出は前年同月比でまだプラスを維持していますが、数量ベースでは8-9月の輸出は連続して前年同月比マイナスです。3枚目のシンプルな折れ線グラフは交易条件指数です。2000年を100とした指数です。先月の統計発表時の9月25日付けのエントリーでは、8月統計が輸入価格指数のピークである可能性を指摘しましたが、私の予想通り、輸入価格指数は8月の192.2から9月には182.4まで一気に下がり、輸出価格との比率で見た交易条件指数も8月をボトムにする可能性が大いにあります。
グラフを離れて、相手先国別の輸出を見ると、9月に前年同月比で米国向けが▲10.9%減、欧州向けが▲9.0%減に対して、アジア向けは+2.9%増、うち中国向けが+1.7%増と、まだプラスを続けていますが、中国やアジア向けの輸出も急減速しているのは明らかです。特に、中国は先日発表された7-9月期の成長率でも減速が確認されましたので、これから先行きでは減少に転ずる可能性が大きいと私は考えています。ただし、中東向けは前年同月比+44.5%増、ロシア向けは+71.5%増と増勢を維持していますが、これらの国では景気が原油高によって支えられている面が大きいと考えられますから、原油価格が急激に低下している現在の情勢では、この先も増勢を続けるかどうかは大きな疑問です。唯一残った有望輸出先は9月も前年同月比で+14.7%増を示した中南米だけかもしれません。しかし、輸出市場としての中南米のボリュームは金額ベースで中東よりも少し大きいものの、米国の 1/3 、アジアの 1/9 くらいですから、欧米アジア向けの輸出減をキャンセルアウトするには大いに不足すると考えた方がよさそうです。
世界経済の減速とともに、日本の輸出にダブルパンチで効いて来そうなのが円高の進む為替レートの動向です。為替相場は株式などと違って24時間動いていますからキリがないので、今日の昼休みの12時半ころに上のグラフを WEB 上のサービスで描いてみました。最近5年間の対米ドルと対ユーロの円レートです。赤い折れ線が対ユーロ、青が対米ドルです。最近5年間でほぼ最大の円高水準になっていることが読み取れます。特に、赤いラインのユーロは最近時点で大きく下げており、どこかのサイトでバンジージャンプと表現しているのを見たような気がします。詳細は忘れました。最近の金融危機の中で、日本は相対的にダメージが小さかったとの評価を得てしまったために円資産に資金が流入し円高となっています。有り難いのか迷惑なのか、評価の分かれるところかもしれません。しかし、いずれにせよ、この為替レートの動きは今しばらく続く可能性があります。要するに、世界経済の後退や減速による需要面からも、為替レートの動きによる価格面からも、日本の輸出が上向くことは当面あり得ないと考えるべきです。
貿易統計に関しては、7月のデータに特異値が現れましたので、ややエコノミストの混乱を誘った気がしますが、今年に入ってから、着実に世界経済とともに日本経済の悪化を示していると私は受け止めてます。
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