10月の貿易統計から今後の輸出動向を占う
本日、財務省から10月の貿易統計が発表されました。750億円前後の黒字を予想していた市場の事前コンセンサスに反して、ヘッドラインの貿易収支は639億円の赤字を記録しました。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。
財務省が20日発表した10月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出総額は前年同月比7.7%減の6兆9261億円となった。世界的な金融危機と景気低迷の影響で、2001年12月以来、約7年ぶりの大幅な減少率を記録した。欧米向けに加え、アジア向けの輸出も6年8カ月ぶりの減少に転じた。貿易収支は639億円の赤字で、10月としては1980年以来、28年ぶりの赤字となった。
日本の貿易収支は8月に3321億円の赤字となり、1月を除いて約26年ぶりの赤字を記録した。金融危機の打撃で世界経済が冷え込み、10月は2カ月ぶりの赤字となった。
いつもの通り、何枚かグラフを書いています。まず、下のグラフはヘッドラインの輸出入と貿易収支の推移です。青い折れ線が輸出額、赤が輸入額で、緑色の棒グラフが差額の貿易収支です。すべて金額ベースで、左軸に対応して10億円単位です。本年年央から輸出入額が接近して貿易収支がほぼゼロになり、今年8月と10月には赤字を記録しています。
8月が赤字になったのは7月の輸出が前年同月比で+8.0%増と大きく伸びた反動で+0.3%増にとどまったこととともに、商品市況の高騰の影響を受け、貿易指数の価格指数の前年同月比で直近のピークを付けたこともあり、輸入が17.4%増となったことが寄与しています。しかし10月が赤字になった大きな要因は輸出の伸びがマイナスを記録したことです。10月は輸入の伸びも前年同月比で+7.4%増となりましたが、輸出は▲7.7%減を記録しました。輸出金額の▲7.7%減のうち、数量の寄与度が▲6.1%減、価格が▲1.7%減となっています。数量ベースの方が大きく落ち込んでいます。数字を丸めた関係で合計が一致しませんが、ご容赦ください。下のグラフの上の方のパネルの通りです。緑色の折れ線グラフが輸出の金額指数の前年同月比で、これを赤い棒グラフの数量指数と青の価格指数の寄与度に分解しています。いずれも単位は左軸の前年同月比パーセントです。
上のグラフの下のパネルは、今年10月単月の輸出の主要輸出先別に緑色の金額と赤の数量の前年同月比をプロットしています。横軸の単位は上のパネルと同じでパーセントです。世界的な金融危機と景気後退・減速の影響により、欧米向けの輸出は金額ベースで▲20%近い減少となり、アジア向けの輸出も金額・数量とも10月にはマイナスを記録しました。以下は、10月単月の金額ベースの前年同月比の統計ですが、地域別に輸出が増加しているのは中東+11.3%増とロシア+24.0%増だけです。アジア向け輸出をもう少し詳しく見ると、ASEAN 向けは+3.8%増とプラスを記録しましたが、アジア NIEs 向けは▲9.6%減、中国向けですら▲0.9%減となりました。ロシアと中東だけでは世界経済をけん引するのに力不足なのは明らかですから、私が疑問視していたデカップリング論は完全に破綻して、世界同時不況に陥っていることは明らかです。なお、同じく10月単月の金額ベースの前年同月比ですが、品目別を見ても、一般機械が▲3.4%減、電気機器が▲10.6%減、輸送機械が▲13.1%減などと、主力輸出品目が軒並み前年同月比割れとなっています。これら3品目の10月の輸出額に占める比率は、一般機械と電気機器がともに20%程度、輸送機械は25%程度ですから、輸出額の 2/3 を占める品目でマイナスを記録していることになります。
この輸出動向について、軽く想像されることですが、10月単月の数字で済ますわけにはいきません。おそらく、私も含めて、もっともディープな落ち込みは来年1-3月期であろうと考える向きが多いものですから、この10月の輸出動向は半年近く続く可能性があります。貿易収支については商品市況が大きく下げていますし、日本の景気も悪化していますから、輸入もそんなに増加が続くとは考えられず、必ずしも貿易赤字が定着するとは思いませんが、輸出が低迷を続けることはかなり確度が高いと考えるべきです。とすると、いくつかインプリケーションが考えられます。まず、目先の話として、10-12月期の鉱工業生産指数はドッと落ちるだろうと私は考えています。季節調整済の前期比で軽く▲3%くらいはマイナスになる可能性があります。10月単月でもこれくらいのマイナスとなる可能性が高いと考えています。次に、もう少し先までを考えると、従来と同じ主張ですが、輸出が弱いということはかなり直接的に設備投資に反映されますから、来年年央から秋口くらいまでは設備投資が弱含みで推移することが予想されます。昨年10-12月期をピークにした現在の日本の景気後退局面は来年いっぱいまで続く可能性が大いにあります。政府が来年度経済見通しをマイナスにするかもしれないと報じられていますが、大いにあり得ることです。
我が国経済で景気循環の起点となる鉱工業生産のさらに前に位置する輸出の動向に大きな暗雲が垂れこめていることが、この10月の貿易統計で確認されたと私は感じています。
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