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2008年11月17日 (月)

GDP統計は2四半期連続のマイナス成長で景気後退を確認

本日、内閣府から7-9月期のGDP統計の1次速報が発表されました。エコノミストの業界で1次QEと呼ばれている指標です。ヘッドラインの実質GDP成長率は前期比で▲0.1%、前期比年率で▲0.4%のマイナス成長となりました。4-6月期は前期比で▲0.9%と下方改定されましたので、2四半期連続でのマイナス成長を記録したことになります。ほぼゼロ成長との事前の市場コンセンサスにミートし、特段のサプライズはありませんでした。従って、東証株価の値動きも小幅でした。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

内閣府が17日朝発表した7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.1%減、年率換算で0.4%減だった。前期に大幅減少した輸出の戻りが鈍い中、控除項目の輸入が増加。内需の柱である設備投資も落ち込み、2四半期連続でマイナス成長になった。
重しになったのは外需で、成長率への寄与度はマイナス0.2%だった。輸出は前期比0.7%増えたが、控除項目の輸入が1.9%増と一段と伸び、補いきれなかった。
一方、内需も0.1%増と勢いに乏しかった。企業の投資意欲の減退に伴い設備投資が1.7%減少。個人消費は0.3%増え、改正建築基準法施行の影響が一巡した住宅投資も4.0%増加したが、設備投資の落ち込みが響いて内需全体ではゼロ近傍にとどまった。民間在庫の寄与度はプラス0.0%で、GDP成長率のうち内需の寄与度はプラス0.1%だった。

要するに、設備投資を中心に内需の伸びも弱く、従来から日本経済を支えていた外需が世界的な金融危機の影響と資源高のためにマイナスの寄与度を示すと、当然ながら、成長率もマイナスになります。下の表は需要項目別などのGDP成長率です。基本的に、雇用者所得も含めて実質の前期比ですが、表示の通り、名目GDPは名目ですし、GDPデフレータだけは伝統に従って前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と外需は前期比伸び率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、完全性は保証しません。正確な計数は上の内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2007/
7-9
2007/
10-12
2008/
1-3
2008/
4-6
2008/
7-9
国内総生産GDP+0.6+0.4+0.6▲0.9▲0.1
   民間消費+0.2+0.2+0.6▲0.6+0.3
   民間住宅▲8.4▲9.8+5.1▲3.1+4.0
   民間設備+1.8+0.5▲0.3▲1.4▲1.7
   民間在庫 *+0.0+0.0▲0.2▲0.0+0.0
   公的需要▲0.4+0.8▲0.2▲1.1+0.1
   外需 *+0.5+0.3+0.4▲0.0▲0.2
国内総所得GDI+0.4▲0.2+0.0▲1.5▲0.6
名目GDP+0.2▲0.1+0.2▲1.2▲0.5
雇用者所得+0.6▲0.4+0.2▲0.4▲0.2
GDPデフレータ▲0.6▲1.3▲1.5▲1.6▲1.6

前の4-6月期はあらゆる項目にマイナスが並びましたが、反動増の要素もあるとはいうものの、7-9月期は消費や住宅などの内需項目ではいくつかプラスを記録しています。しかし、商品価格がほぼピークに達していたのと、世界的な景気後退・減速や金融危機の影響などから外需が本格的にマイナスになり始め、結果として日本経済も2四半期連続でのマイナス成長となりました。下のグラフではもう少し詳しく需要項目別の前期比寄与度を見ています。青い折れ線のGDP成長率のほか、棒グラフで示されている各需要項目の寄与度は凡例にある通りです。

GDP成長率寄与度

最近では2005年の10-12月期を例外として、設備投資の符号とGDP成長率の正負が一致していることに注目すべきと私は考えています。最近2四半期の今年4-6月期と7-9月期もそうなっています。水色の設備投資の寄与度がマイナスになれば、全体のGDP成長率もマイナスになります。前々から、設備投資が来年年央から秋口くらいまでマイナスの傾向が続くと私は主張していて、もちろん、個別の四半期では瞬間的にプラスを記録する場合もあり得ますが、あと1年くらいは設備投資が弱い状態が続くと私は考えています。すなわち、GDP成長率もほとんど常にマイナスとはいわないものの、景気対策が集中するなどの特殊要因がない限り、潜在成長率水準にはほとんど達することなく、景気後退期らしく低い伸び率が続く可能性が高いと私は考えています。
もうひとつ、設備投資に着目すべき理由は、川上の外需の動向をかなり着実に反映し、川下の雇用動向を左右するからです。世界的な景気の減速や後退に直面して、トヨタやシャープなどの我が国を代表する輸出企業が減産を始めていることは報道の通りですし、大方の予想では米欧ですら来年下半期まで潜在成長率水準は回復しないと考えられていますから、我が国の景気回復はさらに遅れることになる可能性があります。労働需給についても、昨日の日経新聞などで報じられた通り、大学の教員としては大いに気にかかるんですが、主要企業は新卒採用を減少する方向にありますし、今日発表されたGDP統計の雇用者所得も2四半期連続で減少していますから、かなり需給が緩和した状態が続くものと考えるべきです。日銀短観でも9月調査で見られた雇用の不足感が過剰感になるのは時間の問題です。来年の物価はマイナスを記録する可能性が高いと私は見ており、消費の下支え効果がなくはないんでしょうが、賃金と雇用から消費が弱含みの展開となること確実です。

GDP、GDIと交易利得

さらに、上のグラフではGDPに加えてGDIを折れ線で、その差額の交易利得を棒グラフで示してあります。赤い折れ線がGDP、青がGDIで、緑色の棒グラフが交易利得です。縦軸の単位はいすれも2000年固定価格の実額の兆円で、GDPとGDIの折れ線グラフは左軸、交易利得の棒グラフは右軸です。原油価格などの商品市況が上昇を始めた2003年ころからコンスタントに交易利得がマイナスとなり、2005年10-12月期には2000年固定価格で10兆円を、2007年10-12月期には同じく20兆円を超え、この7-9月期にはとうとう30兆円に達しました。軽く実質GDPの5%を超えています。まったく同じことなんですが、赤のGDPと青のGDIの乖離が大きくなっています。ひょっとしたら、7-9月期が交易利得がマイナスを付けるピークではないかとも考えられますが、単純にGDPがマイナス成長している以上に景気実感が悪化している大きな一因となっていることは確かです。

今夜のエントリーでは為替レートの要素を含まずに見通してみましたが、世界的な金融危機が深刻化して、相対的に円資産が見直されることにより円高が進むと、さらに日本の景気は下振れることになります。加えて、先日来、何度も繰り返していますが、7-9月期については日本だけでなく欧米でも月を追うごとに景気が悪化していた実感があり、2次QEでは下方改定されることが明らかです。そして、10-12月期はさらに成長率のマイナス幅を拡大することも確実です。今日発表されGDP成長率はすでに過去の数字と見なされて、マーケットは木曜日に公表される10月の貿易統計を注視しているような気がします。8月に続いて貿易収支は赤字なんでしょうか?

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