国際機関の経済見通しと米国次期政権の経済スタッフ
一昨日、国際通貨基金 (IMF) がアジア太平洋地域の経済見通し "Regional Economic Outlook: Asia and Pacific" を発表しました。成長率とヘッドラインのインフレ率の主要国一覧表は以下の通りで、このブログでも10月9日付けのエントリーで紹介しましたが、先月の IMF 世銀総会で示された世界経済見通しよりも成長率・インフレともにさらに下方修正されています。でも、11月7日付けのエントリーで紹介した改定見通しとの違いは大きくありません。日本は2008年+0.5%、2009年▲0.2%と来年はマイナス成長が示唆されています。さらに、来年、日本は再びデフレに陥ることが見通されています。なお、図表はリポート本体から引用しています。
今回の見通しで興味深かったのは、グラフながら四半期別の成長率見通しが示されたことです。一番下の茶色の破線が日本・オーストラリア・ニュージーランドのアジア太平洋地域における先進3か国の成長率で、来年1-3月期が現在の景気後退局面の大底、青の折れ線の NIEs や赤の ASEAN-5 などは、大雑把に来年1-3月期から4-6月期が大底になるように読み取れます。大きな方向感として、私の見方とも一致しています。もちろん、来年前半が景気後退の谷となって景気回復が始まるわけではなく、景気後退期の闇の中でももっとも深くて暗い闇が来年前半という意味です。ハッキリ言えば、現在よりももっと景気が悪くなるわけです。これは次に取り上げる OECD の経済見通しとの大きな違いですが、私は IMF のこの見通しの方により親近感を持っています。
次に、昨日、経済開発協力機構 (OECD) が経済見通し "OECD Economic Outlook No. 84, November 2008" を発表しました。ついつい、今夜のエントリーでは発表日付順で取り上げてしまいましたが、おそらく、経済見通しとして参照される頻度からいえば IMF の地域経済見通しよりも OECD の経済見通しの方が桁違いに重視されているような気がしないでもありません。毎年、この見通しが出ると年の瀬が押し詰まってきた気になります。主要項目の見通し結果は下の表の通りです。日本を除いて米国と欧州では大雑把にこの年末年始、すなわち、2008年10-12月期から来年2009年1-3月期が現在の景気後退局面の大底で、その後は成長率も徐々に回復して、見通し最終期の2010年10-12月期にはほぼ潜在成長率水準に回帰すると予測されています。日本だけは少し別で、来年2009年1-3月期に財政政策の景気浮揚効果 (fiscal stimulus) により一時的に成長率を回復した後、その効果が切れる7-9月期には再びマイナス成長となり、見通し期間内には潜在成長率水準に達することなく、来年年央からデフレに陥ると見通しています。私もそれなりに財政政策の効果をポジティブに考える方のエコノミストだと思うんですが、この結果をスラッと見るとかなり大胆な政策効果を見込んでいる気がしないでもありません。OECD の日本担当デスクを知っていることもあり、財政政策の効果の大きさについてはやや疑問が残る気がしますが、大底の最悪期が後ズレする可能性は私も否定できませんし、デフレに逆戻りする確率が高いのはまったく同感です。なお、脚注を割愛してしまったんですが、四半期の成長率は季節調整済みの年率とされています。以下の図表は記者発表資料から引用しています。
日本の景気回復が遅れて回復力も弱く、景気後退局面が長引くことについては、私が従来から主張していた通りです。私の見通しは今回の景気後退局面は浅いが長い、というもので、これをサポートするグラフを OECD の経済見通しから2点引用します。いずれも過去の景気後退局面と比較したものですが、まず、長い方については下の通りで、成長率の回復が1997年の景気後退局面よりはややマシとは言えるものの、今回の日本の景気回復が弱いことが過去のエピソードや主要国と比較してもうかがえます。
さらに、下のグラフでは今回の景気後退局面において、最大となるマイナスのGDPギャップが棒グラフで示されています。OECD の記者発表資料にもある通り、日本は今回の金融危機の震源地 (epicenter) ではありませんから、景気の落ち込みは各国と比較しても浅いものにとどまっています。また、アスタリスクのポイントは各国における過去の平均的な景気後退の谷におけるGDPギャップなんですが、これにも達しないとの見通しです。なお、金融危機を発端とする今回の景気後退の最大の被害国、ワーストスリーはグラフの右に位置しているアイスランド、アイルランド、ルクセンブルクのようです。
国際機関の見通しの3番目は国際労働機関 (ILO) の「世界賃金報告」"Global Wage Report 2008/09" です。10月21日に報道機関向けに発表されて、昨日までエンバーゴがかかっていたようです。リポートでは、IMF の経済見通しに従えば、全世界の実質賃金は2008年の+1.7%増から2009年には+1.1%以下の増加にとどまり、先進国では2008年の+0.8%増から2009年には▲0.5%減と減少に転ずる、と ILO は予測しています。サイトから原文を引用すると、"Based on latest IMF growth figures, the ILO forecasts that the global growth in real wages will at best reach 1.1 per cent in 2009, compared to 1.7 per cent in 2008, but wages are expected to decline in a large number of countries, including major economies. Overall, wage growth in industrialized countries is expected to fall, from 0.8 per cent in 2008 to -0.5 per cent in 2009." とのことです。2005年末2006年初にかけて日本がデフレ脱却にさしかかったように見えた際、私は景気の回復や拡大はデフレ脱却の必要条件に過ぎず、賃金上昇が十分条件になると主張したことがありましたが、まだまだ賃金は上がらないようです。
国際機関の見通しを終えて、誠についでながら、昨日、S&P/ケース・シラー住宅価格指数が発表されました。2か月遅れの9月の指数です。下のグラフの青の折れ線が10都市、赤が20都市です。よく知られている通り、2000年1月を100とした指数です。シャドー部は景気後退期で、直近は昨年10月をピークと仮置きしています。私はこの方面の専門家ではありませんが、まだ、下げ止まりにはほど遠そうな気がします。
最後に、オバマ米国次期大統領の経済政策スタッフが明らかになりつつあります。先週末には NY 連銀のガイトナー総裁が次期財務長官との報道が流れると、NY 株式市場が大きく上げたりしました。今週に入ってから、クリントン政権下で財務長官を務めたサマーズ元ハーバード大学学長を国家経済会議 (NEC) 議長に指名し、2010年1月に任期が切れる連邦準備制度理事会 (FED) のバーナンキ議長の後任にも、との憶測も流れています。さらに、カリフォルニア大学バークレイ校のクリスティナ・ローマー教授が大統領経済諮問委員会の次期委員長に指名と発表されました。私がエコノミストとして注目しているのはローマー教授で、ここ2-3か月の間にご主人のデビッド・ローマー教授とともに税制に関するペーパーを書いていたのを見かけています。ローマー女史の大学のホームページは以下の通りです。好みは分かれるかもしれませんが、顔写真も掲載されています。略歴やペーパーなども豊富で、いろいろと参考になるように思いますので、ここにリンクを残しておきます。
最後の最後に、米国の7-9月期のGDP統計の改定値も発表されています。10月31日付けのエントリーで私が指摘した通り、年率▲0.5%のマイナス成長に下方改定されました。日本の2次QEも下方改定されると私は見ています。今夜は海外の情報について多めに取りまとめておきます。
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