年金改革の終電は出てしまったのか?
先週水曜日11月19日付けのエントリーで主張した高齢者に偏った日本の社会保障の現状に関するフォローなんですが、2004年9月の国際通貨基金 (IMF) の "World Economic Outlook" の第3章 "HOW WILL DEMOGRAPHIC CHANGE AFFECT THE GLOBAL ECONOMY?" において、年金改革に関して、50歳超と定義されている年長者 (older people) の政治的なウェイト (political weight) に関する議論が展開されていると、私のブログの読者さんから教えてもらいました。なお、今夜のエントリーに限って、IMF の定義する50歳超の人たちを「年長者」 (older people - those over 50 years of age) とし、特に定義しない一般的な用語である「高齢者」と書き分けているつもりです。
特に興味深いのは下に示した Figure 3.12 で、グラフのタイトルは "The Last Train for Pension Reform Departs in ..." となっており、有権者に占める50歳以上人口の比率が過半数の50.1%に達して、年長者の政治的なウェイトが高まると年金改革の終電が出てしまう、という趣旨で、先進各国の終電の年次をグラフで示しています。リポート本文では50歳超 (over 50 years of age) なんですが、このグラフでは50歳以上 (aged 50 and older) となっていて、微妙に定義が違うハズなんですが、データの制約もありますし、十分、近似できるのは言うまでもありません。
一番上のフィンランドやスイスでは2010年ころには50歳以上人口が有権者に占める比率が50%を超え、一番下の英国でも2040年ころには終電が出てしまうと計算されています。リポートから関連するパラを引用すると以下の通りです。なお、上付き文字の 31 というのは脚注です。ごていねいにも、50歳超の人たちは社会的利益よりも個人的利益に従って投票することを前提にしていると脚注に明記してあったりします。
An important dynamic for pension reforms is that demographic change - by increasing the political weight of older persons who may have the most to lose - is actually likely to make the implementation of such reforms increasingly difficult in the future. Older people - those over 50 years of age - will soon represent the majority of active voters in many advanced countries once the differing voter turnout between age groups is accounted for (Figure 3.12). 31
31 This depends on a number of assumptions, including that the over-50s vote for personal benefit rather than the benefit of society, and that voter turnout patterns remain the same in the future as in the past.
要するに、終電が出てしまう前に年金改革を断行する必要がある、との IMF の主張なんですが、上のグラフを見て、オヤと気付くことがあります。そうです。我が日本 Japan が入っていません。私も長らく公務員をして来て、こういったリポート作成の内幕は一般の方よりも知っているつもりでしたから、どこかの役所が横やりを入れて削除させたんだろうくらいに想像していたんですが、実は違いました。先週のエントリーでも引用した国立社会保障・人口問題研究所のデータに当たってみると、何と、日本の50歳以上人口が有権者、すなわち、20歳以上人口に占める比率は、2005年段階ですでに51.6%、2006年では52.0%に達しており、おそらく、2004年9月にこのリポートが発表される時点において、日本では年金改革の終電はとっくに出てしまっていたようです。なお、60歳以上もついでに計算したんですが、2006年時点で有権者の 1/3 を超えていました。ここ2-3年で一気に団塊の世代が60歳を迎えましたので、当然なのかもしれません。年齢を50歳で区切るか、60歳にするかは議論のあるところでしょうが、少なくとも、IMF のこのリポートでは50歳としているのは事実ですし、今夜のエントリーでは深入りしません。年齢の区切り方に関するコメントも受け付けません。なお、よく見かける人口ピラミッドは2005年時点で以下の通りです。
実は、もうすぐ私も IMF の定義する50歳超の年長者のグループに仲間入りするんですが、少なくとも年金問題に関しては個人の利益よりも社会の利益に従って投票しようと考えています。高齢化がすさまじい勢いで進む中、成人年齢を18歳に引き下げたところで、年金改革の終電を引き戻すには焼け石に水もいいところでしょうから、終電が出てしまった日本では IMF の前提を否定すべく、高齢者に対して私益よりも公益に沿って投票するようにお願いするしかないのかもしれません。でも、年金ではないんですが、広い意味の社会保障という観点から、最近のカギカッコ付きの「後期高齢者医療」の問題などに対する高齢者のリアクションやメディアの報道振りを見る限り、私のお願いが聞き入れられるかどうか、はなはだ自信がありません。
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