大幅悪化した米国雇用統計と出足好調なクリスマス商戦のパズル
12月5日金曜日に発表された11月の米国の雇用統計は大幅な悪化を示しました。非農業部門雇用者数は季節調整値で▲55.3万人減と、事前予想の▲33万人減を大幅に超え、第1次石油ショック以降の最大を記録しました。さらに、8-10月の雇用者数も改定され、この期間に職を失った人は改定前のほぼ倍だったことが明らかにされました。失業率も同じく季節調整値で6.7%と前月より0.2%ポイント悪化し、これも十数年振りのことです。市場の事前コンセンサスの6.8%にほぼミートしました。特に、企業・専門サービスのうちの一時雇用が大きく減少しており、これは雇用の先行指標と考えられているだけに、先行きも雇用の軟調が続くと予想されます。今夜は少し長めに1980年からの米国雇用統計をプロットしたのが下のグラフです。いずれも季節調整値で、上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差、左軸の単位は千人です。下のパネルは失業率、単位はパーセントです。影を付けた部分は景気後退期です。直近は昨年12月がピークに修正してあります。
しかし、他方で、11月28日の感謝祭の翌日、いわゆるブラック・フライデイ以降サイバー・マンデイまでのクリスマス商戦の序盤は、全米小売業協会 (NRF) の記者発表に従えば、4日間でインターネット販売も含めて全米の小売店を訪れた買い物客数は172百万人を超え、前年同期の147百万人より大幅に増加し、いわゆる客単価も平均 $372.57 と昨年の $347.55 よりも7.2%増となっています。この結果、この期間における支出総額も410億ドルに上るとしています。要するに、クリスマス商戦の出足は絶好調なわけです。この要因としては、報じられているように、小売店の値引きに顧客が殺到したとか、この4日間に予定の買い物を終えた割合が昨年の36.4%から39.3%に上昇して、ショッピングを前倒しした結果、とか、それぞれ真実なんでしょうが、報道されずに忘れられている要因がひとつだけありますので、私のこのブログで指摘しておきたいと思います。それはガソリン価格の低下です。下のグラフは米国エネルギー省が公表しているガソリン価格、ガロン当たりセントのデータです。今年に入ってから、週ごとのデータをプロットしてみると、年央にガロン4ドルを超えていたガソリン価格が先週12月1日の時点では1.81ドルまで低下しています。米国労働省の2007年家計支出統計によれば、平均で家計の税引き後所得 $60,858 のうち、ガソリンとモーターオイルに支出されたのは $2,384 に上りますから、モーターオイルはよく分からないながら、平均的な家計でガソリン支出は所得の4%近くに達します。今年は特に年央には原油価格がバレル当たり150ドル近くまで上昇したため、ガソリン価格もガロン4ドルを上回って推移しており、月によってはラクに所得の5%を超えていたと考えられますから、クリスマス商戦に入る11月末から12月初にかけて、年央に比べて家計所得の2-3%くらいの余裕が出来たとしても不思議ではありません。でも、少なくとも、上で引用した NRF の記者発表の数字は、私の想定する範囲を超えていますので、小売店の値引きや消費者の前倒し購入も大いに効果があったと考えられます。と言うことは、たとえ出足が絶好調であったとしてもサステイナビリティには疑問が残り、終盤のクリスマス商戦が失速する可能性も大いにあり得ます。
いずれにせよ、原油価格はすでにバレル40ドル近辺まで下落して来ており、半年でバレル100ドルほど低下したことになりますが、当然ながら、この先半年でもう100ドル下落する余地はなく、ガソリン価格下落によって家計の実質所得が増加する効果も限定的でしょうから、雇用情勢の悪化に従って消費もラグを伴いつつ減退する可能性は高いと考えるべきです。
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