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2008年12月13日 (土)

米国のビッグスリーはこれからどうなるか?

米国上院でビッグスリーの支援法案が廃案となり、大統領府が金融支援法の援用を模索していると報じられています。私は長らく公務員をして来ましたので、システミックリスクやそれに近い経済崩壊とメディアが呼びそうな状態を避ける方のバイアスが強いんだろうと思いますが、このブログでも何度か表明したように、リーマン・ブラザーズ証券は救済すべきだったと考えていますし、ビッグスリーも基本的には同様です。まず、いくつか、私は見た範囲でビッグスリーの救済に関して論じているサイトは以下の通りです。事実関係の報道よりも解説めいたものが中心です。コトがコトですから、英文サイトが多いのは当然です。私が見た順ですから、大雑把に古い順だと思いますが、そんなに順番は気にしていません。ナンバーを振ってあるのは、後ほど引用するときに便利だからというだけの趣旨で、特に重要性などを表現しているつもりはありません。クリックすれば、別画面で開くようにリンクが張ってあるつもりです。

  1. NIKKEI.NET 経済羅針盤 - 「ビッグスリー救済問題から見えてくるもの」
  2. Financial Times - "Chapter 11 is the right road for US carmakers"
  3. The Economist - "Near the end of the road"
  4. Realtime Economics, Wall Street Journal - "How Destructive Would Bankruptcy Be for Big Three?"
  5. Washington Post - "Obama Disappointed by Auto Bailout Impasse"

最初の日経新聞のサイトの経済羅針盤は双日総研の吉崎副所長、2番目の "Financial Times" のオピニオンはスティグリッツ教授が書いています。ふたつ飛ばして、最後のリンクは米国のオバマ次期大統領が自動車産業の救済法案が上院で不調に終わったことに失望するとして発表したステートメントです。"Washington Post" だけでなく、いろんな米国のメディアでキャリーされていると思います。
私も米国の破産法制を熟知しているわけではないんですが、大雑把に、ビッグスリーに限らず連邦破産法の第11条にファイルすると、よく言われるレガシーコスト、すなわち、退職者に対する医療や年金などのコストを切り離すことが出来ます。日本では政府が管掌しているような社会保障の枠組みを米国では企業が運営している場合が少なくありません。大雑把には、日本の企業の健康保険組合の枠組みを退職者や年金に拡大したものと私は理解しています。さらに、株式が紙くずになるのは当然ですが、社債も棒引きされます。しかし、実物資産は残ります。このあたりの理解について十分な自信はありませんが、上の1番目と2番目の解説でも触れられています。少なくとも、自動車会社の場合は生産設備などの実物資産が残るのは、同じく連邦破産法第11条にファイルしたリーマン・ブラザーズ証券などのような金融機関との大きな違いであることは確かです。問題は、最初のコラムにあるように、破産した会社の自動車を消費者が買うかどうか、なんですが、これについては4番目の記事に、今夏実施された CNW Research の調査結果が紹介されていて、6000人の消費者を対象にした調査によると80%が買わないと回答したそうです。特に、アブナいのは2度目の破綻になるクライアスラーであるとも付記されています。
実は、私も日本の景気後退の深さの判断とともにビッグスリーの救済についても考えを変えつつあり、大きな金融機関に端を発するシステミックリスクに近い大規模な経済の混乱状態を避けるためには、"too big to fail" の観点も含めて、基本的には救済の方が合理的であろうと考えているものの、連邦破産法第11条へのファイルも選択肢となり得る可能性は認めます。すなわち、私が従来から主張しているように、生産要素配分を現状で固定化するよりも、マイクロな経済主体における異時点間での最適化行動のコストを最小化するという意味で、ダイナミックに資本や労働を再配置することが可能となる政策を推奨する立場に合致していると考えるからです。少し分かりにくい表現だったかもしれませんが、実例を上げると、日本でいえば郵政民営化や三角合併の解禁をはじめとする M&A の円滑化、米国ではこれに加えて移民の受入れなどが生産要素の再配置に貢献することは明らかで、連邦破産法第11条にファイルすることにより業界の再編も可能になるかもしれません。米国の航空業界などの例もあります。最後に、世論の観点からすると、米国において金融機関にせよ自動車会社にせよ民間企業を救済するのは、日本における増税に通じるものがあって、はなはだ不人気な政策であると考えられているようですが、実はそうでもないとの調査結果もあります。"Wall Street Journal" の記事では、Wall Street Journal/NBC News が12月5-8日に実施した世論調査によれば救済賛成が46%、反対が42%だったようです。サイトではいくつか典型的な市民の声などが紹介されています。

米国の連邦破産法制や自動車産業に対する産業政策などは、はなはだ不案内で専門外ながら、一応、やや現状維持バイアスがかかっている可能性を自覚しつつ、簡単にメモを取りまとめておきます。結論は出ないかもしれませんが、もう少し考えます。

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