来年度日本経済の見通し
昨日、政府経済見通しが閣議了解されました。今年度▲0.8%のマイナス成長の後、来年度もゼロ成長となっています。苦労してつじつまを合わせた跡がうかがえます。私自身も1990年代半ばのバブル崩壊後の経済見通しを担当したことがありますので、景気後退期に経済見通しを策定する苦労は理解しているつもりです。当時、「政府経済見通しで失業率3%台は出せない」という雰囲気がありましたから、今でも「マイナス成長は出せない」というプレッシャーは感じるんではないかと遠くから想像しています。明らかな景気後退期の政府経済見通しでゼロ成長を打ち出したということは、ココロはマイナス成長なんだろうと思います。ですから、今日、来年度予算の財務省原案が内示されましたが、報じられている国債発行額の33兆円はさらに膨らむ可能性が大きいと考えられます。
まず、2008-10年にかけての日本経済の成長率見通しです。国際機関から政府やシンクタンクなどの見通しを、私の目についた範囲で表に取りまとめています。最新のものを拾ったつもりですが、私が見た後に改定されているものもあるかもしれません。でも、大筋は変わらないと思っています。すべて実質GDPの前年比のパーセント表示ですから、いわゆる実質成長率を並べたんですが、アスタリスクを付した国際機関は暦年で、政府経済見通し以下の国内機関は年度になっています。ですから、正確にいうと1-3月期の扱いが違います。ヘッドラインは私の趣味で勝手にリポートから特徴的な表現を選定しています。一番左の機関名にはリポートの PDF ファイルにリンクが張ってあります。いつもの通り、PDF が何か分からない向きには諦めるしかないんですが、このブログの管理人を信用しているのであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別窓でリポートが読めるかもしれません。
機関名 | 2008 | 2009 | 2010 | ヘッドライン |
---|---|---|---|---|
経済開発協力機構* (OECD) | +0.5 | ▲0.1 | +0.6 | Japan has not been at the epicentre of the financial crisis |
国際通貨基金* (IMF) | +0.5 | ▲0.2 | n.a. | In Japan, the support to growth from net exports is expected to decline |
アジア開発銀行* (ADB) | +0.5 | ▲0.2 | n.a. | The Japanese economy - hurt by declining external demand and still sluggish domestic consumption - has fallen into recession |
世界銀行* | +0.5 | ▲0.1 | +1.5 | A pronounced recession is believed to have begun in mid-2008 in Europe, Japan |
政府経済見通し | ▲0.8 | 0.0 | n.a. | 年度後半には民間需要の持ち直しなどから低迷を脱していく |
日本総研 | ▲1.1 | ▲0.7 | n.a. | 景気後退局面が長期化する見通し |
ニッセイ基礎研 | ▲0.9 | ▲0.8 | +0.8 | 日本の景気は2009年度下期に底打ちすると予想 |
大和総研 | ▲0.9 | ▲1.3 | n.a. | 日本経済の回復は2010 年度以降にずれ込む公算 |
みずほ総研 | ▲1.6 | ▲1.0 | n.a. | 世界経済が失速する中で、日本経済も2年連続のマイナス成長となることは免れないと予想 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | ▲1.1 | ▲0.9 | n.a. | 2009年中は景気回復の動きが出てこない |
第一生命経済研 | ▲1.1 | ▲1.1 | +1.1 | 潜在成長ペースに戻るのは2010年4-6月期以降 |
三菱UFJ証券 | ▲1.0 | +0.2 | +2.0 | 内外の財政出動、金融緩和の効果で、09年度上期から回復へ |
ゼロ成長の政府経済見通しを除いて、来年度のプラスを打ち出しているのは三菱 UFJ 証券だけで、これを別にすれば、国際機関も国内シンクタンクもすべて来年ないし来年度はマイナス成長を見込んでいます。テクニカルな要因としては、2008年10-12月期ないし2009年1-3月期のマイナスのゲタを履くこともありますが、多くの機関で来年ないし来年度中に景気後退局面を本格的に脱する可能性は低いと見ていることも事実です。私も同感です。
単純な景気循環論から考えて、山が高ければ次の谷は深いし、逆に、谷を浅くするような経済政策が取られると次の山も低くなります。要因は同じでストック調整の程度に依存するからです。典型的に山の高かったバブル崩壊後のストック調整は1循環だけでは不足して、2-3循環を要しました。「10年不況」とか「15年の停滞」とか呼ばれているのはよく知られた通りです。ですから、私は従来からストック調整が景気後退期に可能な限り complete されるようにとの観点から、苦境にある産業や地域に生産要素を維持するのを助けるような経済政策ではなく、各経済主体による異時点間の最適化を促進するという意味でダイナミックな生産要素の再配分・再配置を可能にするような経済政策を提唱しています。しかし、社会的なセイフティネットが整備されていなければ、現在、大きく報じられているように、派遣労働者などの問題のような大きな痛みを伴いますから、悩ましいところであるのは確かです。少し脱線すると、雇用調整について、古くは日本では賃金における賞与などの占める比率が高く、価格=賃金で調整して雇用量で調整する部分は小さいと考えられていたんですが、最近時点では、米国と同じように、雇用量で調整する構造に変化したのかもしれません。このあたりは理論的というより、すぐれて実証的に解明されるべき課題でしょうから、私も可能であれば取り組みたいと考えています。いずれにせよ、モノである資本設備と違って、労働者はヒトですから、経済学においても扱いが違うのは当然で、繰返しになりますが、悩ましいところであることは確かです。
まったく関係ない観点ながら、財務省原案が朝早くに閣議決定され、昼間のうちに各省に内示されるのは、私が公務員になったころには考えられませんでした。組閣、予算、国会答弁などは夜の作業と相場が決まっていたんですが、時代がよくなりつつあることを実感します。
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