機械受注統計と国際決済銀行四半期報と世銀経済見通し
今日も内閣府から機械受注統計が発表されました。ヘッドラインの統計について、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
内閣府が10日発表した10月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」(季節調整値)は8997億円と、前月に比べて4.4%減った。減少は2カ月ぶり。世界的な景気後退を受けて、自動車など輸出が多い産業からの受注が減った。当面の設備投資は低い水準にとどまりそうだ。
10月の実績は日経グループのQUICKが民間調査機関27社に聞いた事前予測の平均値(前月比4.2%減)とほぼ同じだった。内閣府は基調判断を3カ月連続で「減少している」とした。
グラフは2枚あります。上のパネルは機械受注統計のうち、電力と船舶を除く民需、いわゆるコア機械受注と呼ばれる指標の推移です。右軸の単位は兆円です。青が季節調整済みの系列で、赤は後方6カ月移動平均です。影を付けた部分は景気後退期で、直近のピークはいつもの通り昨年10月と仮置きしています。明らかに減少傾向にあるのが見て取れます。中身を見ても、日経新聞の記事の引用にもある通り主力輸出セクターが軒並みマイナスになっています。誰がどう考えても、この先、設備投資が上向く気配はありません。それどころか、後で船舶に関連して書くように、資源高の余韻を引きずっている部分もあり、さらに下降線をたどる可能性が大きいと考えるべきです。来年、あるいは来年度中は現在の景気後退局面が続くと考えられる有力な根拠でしょう。
で、上のグラフの下の方のパネルは機械受注のうちの船舶に関するデータで、影を付けた景気後退期については上のパネルと同じなんですが、赤い折れ線が船舶の受注残高で、単位は右軸の兆円、青は手持ち月数で受注残高を最近3カ月の販売額で割ったものです。単位は左軸の月数です。別の観点から、下のパネルのグラフについて、先月11月10日付けのエントリーを微妙に訂正します。すなわち、「受注の手持ち月数がたくさんあれば大丈夫というのは間違い」と書いた結論部分は基本的に正しいと考えているんですが、現在、船舶の受注手持ち月数が上昇しているのは、私はもっぱら販売不振だと考えていたところ、実は、データを調べてみると確かに受注残高も増加していることが判明しました。販売不振だけが受注手持ち月数の上昇をもたらしているわけではなく、受注の増加もあることを確認したわけです。でも、今日発表されたの機械受注や先週12月4日に取り上げた法人企業統計調査などを見ていても、輸送機械や電機などの日本の主力輸出産業が設備投資抑制を鮮明にする一方で、エネルギー高に支えられていた素材産業などがまだ設備投資を増加させる傾向も残っており、私の同業者エコノミストは「余熱」と称したりしていますので、船舶の受注が増加しているのもこの「余熱」の一種と考えられます。米国エネルギー省の短期予測によれば、2008年、2009年と世界の石油消費はこの30年で初めて2年連続で減少すると予想されていますから、遅かれ早かれ、原油などの資源高の影響は剥落するものと私は考えています。従って、資源高とともに2002年後半から始まった船舶の受注残高の増加も終焉する可能性が高いと考えるべきです。もちろん、素材産業などの設備投資も同じです。悪くすると、造船業は前世紀末までのカギカッコ付きの「構造不況業種」に舞い戻るかもしれません。造船業が基幹産業の一つである長崎経済の先行きは決して楽観できません。
さて次に、12月8日に国際決済銀行 (BIS) が四半期報を発表しました。リーマン・ショック後初めての四半期報ですので少し注目しましたが、実は、ほとんど読んでいません。そこで、PDF で提供されているリポートからいくつか目についたグラフだけを上に掲げました。一番上のパネルは主要先進国中央銀行の資産です。何度もこのブログで指摘しているように、リーマン・ショックを境に流動性供給のために各国中央銀行はバランスシートを急拡大させています。日銀のバランスシート拡大のピッチが各国中央銀行と比べて緩やかなのは、日銀がケチッていると見るのか、日本の状況が各国よりもマシだから、その必要がないと考えるのか、見方は分かれるような気がします。真ん中のパネルは2000年以降のキャリートレードです。日本円とスイス・フランを原資に豪ドルとNZドルに投資された分のようです。日銀副総裁の西村教授が「東京の主婦」と呼んだものです。でも、2000年1月1日を100とした指数でピークはせいぜい250くらいのものだったのかと、改めて、キャリートレードで騒いでいたころを懐かしんでいます。キャリートレードが巻き戻して円高が進んだのは確かですが、「東京の主婦」はチューリッヒの小鬼ほどのパワーがあったかどうかは議論が分かれそうな気がしないでもありません。最後のパネルはブレーク・イーブンで計測したインフレ率です。よく知られた通り、物価連動債と名目金利債との利回りの差で、期待インフレ率の代理変数と考えられています。グラフをよく見ると、日本だけ rhs = right hand side とされていて、夏ころからブレーク・イーブンで計測される期待インフレ率はマイナスを記録しており、市場参加者は日本が再びデフレに陥ることを予想しているようです。
最後に、世銀の経済見通し "Grobal Economic Prospect 2009" が発表されました。世界各地域の成長率は上のグラフの通りで、日本は2008年+0.5%成長に大きく鈍化した後、2009年は▲0.1%のマイナス成長、2010年になって+1.5%成長に戻ると予想されています。この時期の国際機関の経済見通しについては、経済開発協力機構 (OECD) の経済見通し "Economic Outlook" を私は圧倒的に重視していますので、世銀の経済見通しは軽く触れるにとどめます。
報道で知ったんですが、来年1月29日に内閣府で景気動向指数研究会が開催され、景気の山の判定を行うようです。私の感触では昨年の10月か11月が山ではなかったかと思っていますが、どのような結果が出るのか注目しています。
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