江上剛『統治崩壊』(光文社)を読む
今日はまだまだ営業日のところも多いようですが、役所では12月28日が御用納めですし、大学に至ってはとっくに冬休みに入っています。と言うことで、私はのんびりと読書なんぞをしていて、江上剛さんの『統治崩壊』(光文社)を読みました。図書館で借りた光文社刊の単行本で読みましたが、文庫本でも出版されているようです。大日朝日銀行という架空の銀行の物語です。第一勧銀出身の著者らしく、銀行内部の描写は優れている気がします。小説の舞台となっている銀行は大日銀行と朝日銀行の合併でできたとの設定で、合併銀行にありがちな派閥抗争を中心に、不正融資に対する危機管理を描き切った作品です。副題が "Governance Crush" となっていて、通常、「崩壊」に充てられる "Crash" ではないのは、何かに押し潰されたというニュアンスなのかもしれません。書下ろしではないので、全6章がある程度、章ごとに完結している印象があり読みやすかったような気がします。ガバナンスですから、エコノミストとしては株主と取締役の関係を想像しがちなんですが、株主はとっても意外な形で最後の最後に出て来ます。相変わらず、主人公はスーパーマンです。私が以前から関心を持っているトップ・マネジメントとミドル・マネジメントの関係やあり方などについても、それなりに参考になる部分がありました。
派閥抗争については、合併後の銀行は言うに及ばず、『課長・島耕作』シリーズでもたびたび出て来て、私のような派閥にも入れてもらえないような下っ端にはうかがい知ることもできませんが、企業の力学では必須のアイテムなのかもしれません。昨夜まで3晩にわたって放送されていた、今年の大河ドラマ「篤姫」でも、篤姫が嫁いだ第13代将軍徳川家定公の跡目争いで、紀州派と一橋派の派閥争いがあったりして、それなりの大きな組織では常に起こり得ることなのかもしれないと思ったりしています。それから、ガバナンスについては、いわゆるプリンシパルとエージェントの関係に還元して考えるのが本来ですが、その関係は単純ではありません。すなわち、第一義的にはプリンシパルたる株主とエージェントたる取締役の構図なんでしょうが、実はこの先があって、取締役と従業員の関係では、ひょっとしたら、取締役がプリンシパルになって、従業員がエージェントになるような重層的な関係も成り立つのかもしれません。と言うのは、民間企業ではなく、国家レベルの政府について考えてみると、第一義的なプリンシパルは主権の存する国民であって、その国民の直接投票で選ばれる国会議員がエージェントなんでしょうが、政府の中では、国会議員から選出されることの多い大臣がプリンシパルになって、我々公務員がエージェントとなる関係が重要になる気もするからです。官僚主導から官邸や政治家主導への流れはこのラインに沿ったものと言うことも出来ます。
いずれにせよ、すべての人にオススメ出来るわけではありませんが、スラスラと読める面白い本でした。久し振りに、ネタバレなしの読書感想文でした。
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