« 法人企業統計は典型的な景気後退期における企業の姿を示す | トップページ | 来週発表のGPD統計改定値の予想やいかに? »

2008年12月 4日 (木)

金融政策・財政政策の動向とオマケの米国ビッグスリー救済

やっぱり、火曜日に夜間の講義で帰りが遅くなって、水曜日に教授会があったりすると、ズルズルとトピックを取り上げるのが遅れてしまいますので、このあたりで、stocktaking として、いくつかの話題を取り上げておきます。

まず、軽く財政政策なんですが、このブログで何度も同じことを書いています。最初は、9月22日付けの「麻生総理大臣の財政政策上のインプリケーションは何か?」と題するエントリー、次は、11月5日付けの「社会保障国民会議の最終報告は大きな政府への第一歩か?」、そして、11月19日付けの「日本の社会保障はどのくらい高齢者に手厚いのか?」と続くシリーズで、麻生総理大臣就任の財政的なインプリケーションは大きな政府と行き過ぎた高齢者優遇政策です。私は今回の世界同時不況の下で、短期的には財政出動を容認するとしても、過去の日本の景気後退と比較しても、いわんや、現在の世界各国の景気状況と比較しても、現在の日本の景気後退はそれほど大きなものではないと認識していますので、今回のシーリングの「堅持」から「維持」になり、なし崩し的に財政を拡大するのには懐疑的です。特に、シラッと社会保障の2200億円削減まで反故にされるのは大きな疑問を持たざるを得ません。社会保障費は少なくとも半分が高齢者に回るわけで、少なくともその部分について景気拡大効果は全くないと私は考えています。

TIBOR 3か月物金利

次に、金融政策については、ほとんどのメディアやエコノミストが一昨日の日銀の決定を正しく理解していないような気がします。今回の適格担保をシングル A からトリプル BBB に引き下げたり、1998-99年当時に実施された「臨時貸出制度」の企業債務へのリファイナンスの手直しなどは、私が10月30日付けの「明日の日銀金融政策決定会合のポイントは何か?」で主張したように、超過準備に対する付利の裏側で流動性供給のための中央銀行のバランスシート拡大、明示的でないながら量的緩和の始まりにほかなりません。これらの新しい措置を超過準備に対する付利と合わせて理解し、実態的な量的緩和と捉えているエコノミストは日本には少ないように私には見受けられます。おそらく、超過準備に対する付利が銀行間取引から中央銀行の当座預金を通じた資金供給にバイパスするための手段であることを理解していないのが背景だと考えられます。上のグラフは全銀協が発表している TIBOR 3か月物金利なんですが、9月中旬のリーマン・ショックまで0.85%を少し上回るくらいだったのが、9月中旬以降ジリジリと上昇し、日銀が10月31日に金利引下げに踏み切るまで続きました。日銀の金利引下げによって一気に TIBOR も下がりましたが、12月に入ってから元の黙阿弥で0.9%水準に急激に近づいています。サードパーティーに対するリスクプレミアムがここまで大きくなって、銀行間取引が忌避されるようになると、短期資金を銀行間で融通するのではなく、超過準備に付利することにより中央銀行へ吸い上げてから市中に供給する、というのが米国の中央銀行である連邦準備制度理事会 (FED) の考え方をマネたやり方の基本ですが、銀行間取引をバイパスするだけでは単なる代替に止まって、市中への流動性供給が増えないわけですから、反対側で、というか、コッソリと、というか、中央銀行がバランスシートを拡大する必要があるわけです。FED には今年に入るまでターム物のファシリティが乏しかったですから、TAF などを新たに作ってターム物の流動性を供給しています。私は日銀は FED と違ってターム物のオペ手段はかなり充実していると考えていたんですが、やっぱり、足りないとの判断で、実際に、TIBOR が1か月の間に急上昇してしまって、10月末の金利引下げの効果が吹っ飛んでしまったものですから、新たなターム物の流動性供給手段を作り出して、FED と同じように、中央銀行がバランスシートを拡大するという、ある意味で「洗練」された実態上の量的緩和が始まったと考えるべきです。ある意味で、超過準備への付利から来た必然的な結果とも言えます。逆に見ると、一昨年までやっていたような露骨かつ明示的な当座預金残高を操作対象にする量的緩和には消極的と考えるべきなのかもしれません。はたまた、これは露骨かつ明示的な量的緩和への地ならしなのかもしれません。そのあたりの日銀の真意を探るのは公開情報で勝負するエコノミストでなく、別の情報源にアクセスできるジャーナリストあたりの活躍の場ではないかと考えないでもありません。

FF 金利

他方、米国でも金融政策にちょっとした異変が生じています。上のグラフは米国の政策金利である FF 金利の9月以降の推移なんですが、ともに年率のパーセントで赤が誘導目標で青が実勢金利です。現在の誘導目標は1%なのに、市場で実勢取引されている金利はこれを大きく下回っています。しかも、FED は必要準備と超過準備の双方に付利しているんですが、その付利の金利さえ下回っています。付利の金利水準は政策金利の下限を画するものと私は考えていましたが、米国では現状そうなっていません。どうしてかと言うと、FED はあくまで depository institutions に対して、その準備預金に付利するのに対して、フレディマックやファニーメイなどの GSE や国際機関などは NY 連銀に口座を持っていて、準備預金を保有しているにもかかわらず、depository institutions ではないので準備預金に対して付利してもらえないそうです。FED は実態上の量的緩和に入っていることは、私のこのブログでも取り上げていますが、米ドルの流動性がかなり大規模に供給されていることから、FF 金利が誘導目標をかなり下回って推移するのを FED 自身が許容しているのは明らかです。FED がここまで低下した FF 金利を許容するのであれば、日銀の政策金利はもともとが0.3%ですから、量的緩和に入るとともに、誘導目標としてではなく、市場の実勢金利を許容する形でゼロ金利に入ることもあり得るんではないかと私は考えています。もっとも、国際機関が日銀の当座預金勘定を持っているとは思いませんし、国内の政府系の公庫などが保有しているかどうかも知りませんが、かなり、カギカッコ付きの「洗練」された方法によってゼロ金利や量的緩和を実行することも可能ではないかと考え始めています。これまた、明示せずとも超過準備への付利水準である0.1%を下回ってゼロ金利を実行し、露骨に何兆円とアナウンスしなくても量的緩和に移行できることに気付いているエコノミストも少なそうな気がしないでもありません。もっとも、明示した方が効果的であるかどうかは別問題ですが、少なくとも、市場との対話において地ならしにはなりそうな気がしないでもありません。

The Road to Viability

軽く財政政策を見て、金融政策をしっかり考えた後、最後に、タイトルでも「オマケ」と明記した米国の自動車会社ビッグスリーの救済です。上の表は "Wall Street Journal" のサイトから引用しています。私は10月12日付けのエントリーで「リーマン・ブラザーズ証券は救済すべきだったと考えている」と書きましたが、ビッグスリーも救済すべきだと考えています。CEO たちも反省して自家用ジェットではなく、500マイルの道のりを自動車で議会まで来たようですし、上の表にもある通り、年棒1ドルを宣言しているんですから、何とかするべきであろうと考えています。でも、悪くすると、オバマ政権発足までに GM なんかは資金繰りに窮する可能性もあると言われています。その昔1955年にウィルソン CEO が "What is good for General Motors is good for America" と称したのは、少なくとも現時点では正しそうな気がします。

|

« 法人企業統計は典型的な景気後退期における企業の姿を示す | トップページ | 来週発表のGPD統計改定値の予想やいかに? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 金融政策・財政政策の動向とオマケの米国ビッグスリー救済:

« 法人企業統計は典型的な景気後退期における企業の姿を示す | トップページ | 来週発表のGPD統計改定値の予想やいかに? »