国際通貨基金の世界経済見通しと国際労働機構の雇用見通し
昨日、国際機関から2種類の見通しが発表されました。国際通貨基金 (IMF) の改訂版「世界経済見通し」 "World Economic Outlook Update" と国際労働機構 (ILO) の「世界雇用の動向」 "Global Employment Trends" です。いずれも、リンク先から PDF 形式のリポートがダウンロードできます。
まず、 IMF の経済見通しについて、世界全体及び新興国・途上国と先進国に分けたGDP成長率見通しのグラフは上の通りです。なお、グラフをクリックすると、別画面で詳細な見通しの画像が開くようにしてあります。先進国経済は今年2009年にマイナス成長を記録した後、来年2010年も緩やかな回復を見込んでいます。新興国・途上国についても、成長率の水準は先進国よりも大きいものの、グラフのシェイプは全く同じで、デカップリング論は破綻しました。主要国を見ると、今年2009年、米国▲1.6%、欧州▲2.0%、日本▲2.6%と先進国が軒並みマイナス成長に陥る一方で、中国も2008年の9.0%成長から2009年には6.7%に大幅に減速すると見通しています。その後、来年2010年には、米国が+1.6%成長とある程度回復するものの、欧州+0.2%、日本+0.6%とかなり景気回復の歩みは緩慢で、いわゆる V 字型回復とはほど遠い展開が予想されています。中国も2010年+8.0%成長と見込まれています。さらに深刻なダメージを受けるのは世界貿易で、2009年には▲2.8%の減少に落ち込むと見通されています。現在のような世界同時不況の折にこそ、国内的にはマクロ経済政策で安定化を図るとともに、国際的には自由貿易を堅持する必要があるんですが、現実には逆の動きが出かねないことは、昨年12月24日付けのエントリーでも主張しているところです。特に、共同通信のサイトでは、延べ22か国・地域が関税引き上げや国内産業支援策など貿易に影響する措置を取ったとするラミー WTO 事務局長名の作業文書が作成され、「定期的な監視が必要」と指摘していると報じています。具体例として、インドの鉄鋼製品の関税引上げや輸入制限、中国による繊維製品輸出の際の税優遇、ブラジルなどが加盟する南部共同市場による一部製品の共通関税引上げなどの例が紹介されているようです。繰返しになりますが、現在のような世界不況の際であるからこそ、国内的にはマクロ経済政策による需要喚起、国際的には保護主義を警戒しつつ交易の利益を実現することが必要であるのはいうまでもありません。
これに対して、ILO の雇用動向見通しも暗いものになっています。上のグラフの通りで、シナリオが3つ示してあります。第1のシナリオは昨年11月時点での改定 IMF 見通しをベースラインにしたもので、それでも、今年2009年には2007年に比べて18百万人ほど失業者が増加し、失業率も上昇すると見込まれています。それより悪い第2のシナリオは各国が歴史的に経験した危機の際の雇用悪化を盛り込んでいて、いうまでもなく、失業者数も失業率も第1のシナリオより悪化します。第3のシナリオは第2よりさらに悪化するもので、1991年不況時のショックを織り込んでいます。"decent work" を掲げる ILO ならずとも、景気が悪化して行く局面では "poor workers" が増加し、限界的に弱い部分から雇用を失うことは日本でも目の当たりに観察できる事実です。景気回復に向けて国内的国際的に力強く取り組む必要はいうまでもありません。
最後に、本日午後に内閣府で景気動向指数研究会が開催され、今次景気局面のピークを一昨年2007年10月と認定しました。12月18日付けのエントリーで紹介した「今次景気循環のピークに関する考察 - 状態空間モデルを用いた産出ギャップによるアプローチ」と題する私のペーパーも然るべくリバイズして提出しておきました。
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