定額給付金をどう考えるか?
先週末に自民党と民主党の党大会を終えて、今週から本格的な国会における論戦が始まりました。エコノミストの目から見て重要なポイントは、何といっても、政府が2次補正予算に盛り込んだ総額2兆円の定額給付金の行方ではないでしょうか。ということで、昨夜の日銀の金融政策に続いて、週末ながら今日は政府の財政政策、特に、定額給付金について取り上げたいと思います。
まず、国会において多数を占める与党の内閣から提出した予算案ですから、通常は可決されると思うんですが、世間の動向に疎い私でも極めて評判が悪いことは知っています。下のグラフは朝日新聞が実施した世論調査のうち、定額給付金に関する賛否のグラフです。もちろん、朝日新聞のサイトから引用しています。
他方、産経新聞のサイトでは、実際に給付金が決まれば「給付金を受け取る」と答えた人は84.8%と大半を占め、ほとんどの世代で8割以上が受け取ると回答したことが報じられています。当然といえば当然でしょう。たとえ、「さもしい」と言われても、お金をくれるのに受け取らない人は少数派だろうと思います。
この定額給付金に対する反対意見をどう解釈するかなんですが、もちろん、麻生総理大臣や内閣から発信する情報が、先の「さもしい」発言とその後の撤回などを典型例として揺れ動いていることも一因ではあるものの、私から見れば、定額給付金に対する反対というよりも、その後の2011年度を目途とした消費税率の引上げに対する反対ではないかと受け止めています。多くの論調と同じではないかと思います。定額給付金への賛成と2011年度の消費税率引上げへの反対を天秤にかけて、消費税増税への反対の方が重かった、ということなのだろうと思います。加えて、景気拡大効果が小さいことも重視されていることは当然です。ですから、景気拡大効果の観点から、正面切って、定額給付金の総額2兆円を別の対策に使うという意見もあり得ますが、私はハッキリ反対です。広く浅くバラマキをするよりも、我が業界にドカンと落して欲しいと考えている関係者もいるかもしれませんし、その考えが従来型の公共投資政策で強かったような気もしますが、私の意見では、政府に景気効果が大きい使い道を決めてもらうのではなく、たとえ広く浅くのバラマキであっても消費者に選択をゆだねるのが、現時点での正しい財政資金の使い道だと考えています。
前世紀終わりころの小渕内閣から今世紀初頭の森内閣まで、せっせと公共投資による景気拡大を目指しましたが、残ったのは膨大な公債残高だけでした。もちろん、将来の消費税増税とセットで定額給付金も取止めにするというのも、世論調査などに見られる国民の声を反映した望ましい財政政策である可能性が大きいのではないかと私は考えますが、積極的にインフラ整備すべきニーズがあればともかく、現時点では、たとえ景気拡大効果がいく分か小さいとしても、従来型の公共投資に比較すれば消費者に使途をゆだねる減税の方がより望ましい財政政策であると私は考えています。特に、定額給付金の場合は逆進的な効果があり、所得に対する比率を考えれば低所得者に相対的に手厚く配布されますから、所得に対して比例的な減税より効果が大きいとの考えも成り立ちます。
しかし、費用対効果を考えると、定額給付にも大きな疑問符が付きます。政府の試算でGDP成長率を0.2%押し上げる効果があるとのことでしたが、それでは、2兆円を給付して1兆円の押上げ効果に止まることになり、はなはだ効率が悪いように見受けられます。その上に、消費税率が仮に2%ポイント引き上げられるとすれば、2011年度以降に毎年5兆円程度の負担増があるんですから、国民の多数が反対意見を表明するのは自然なことのように考えられます。さらに、この効率の悪さを助長しているのがリカード等価原理です。リカード等価原理が成立していれば、家計や政府以外の他の経済主体の行動が政府の財源調達とは独立となって何らの影響を受けず、財政政策の効果はゼロになります。将来の増税を表明することにより、政府は一所懸命にリカード等価原理が成り立つように、さらに言えば、定額給付金の効果を減殺すべく努力しているように私の目には映ります。
最後に取りまとめると、公共投資のニーズや生産誘発効果も減じた昨今では、定額給付金の形の減税は政府が何らかの使途を決める従来型の政府支出の増大よりも好ましいと考えられますが、国民の多数が反対し経済効果を大きく減殺する現在の方式で、後に増税が待ち構えているのであれば、定額給付金と消費税増税をセットで取止めにするとの国民の意志も無視するべきではないと私は考えます。
| 固定リンク
コメント