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2009年4月30日 (木)

鉱工業生産指数のリバウンドをどう見るか?

本日、経済産業省から今年3月の鉱工業生産指数が発表されました。ヘッドラインの季節調整済み指数は前月比で+1.6%増と6か月振りのプラスを記録し、市場の事前コンセンサスの+1%弱を上回りました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。経済産業省は生産の基調判断を昨年11月から続けている「急速に低下している」から「停滞している」に変更しています。

経済産業省が30日発表した3月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は70.6となり、前月に比べて1.6%上昇した。生産がプラスに転じるのは昨年9月以来6カ月ぶり。金融・経済危機の影響などで大幅な生産減少が続いていたが、電子部品や一般機械が在庫調整の進展などを受けて増産に転じた。ただ生産の水準は低く、依然として力強さはない。
3月の生産指数は市場予測の平均(前月比0.9%上昇)をやや上回った。1-3月期では前期比22.1%低下。1、2月の大幅な落ち込みが響いた。
企業は昨秋から大幅な減産を実施してきたが、「局面は変わってきている」(経産省)という。経産省は生産の基調判断を「停滞している」として、昨年11月からの「急速に低下している」から変更した。

まず、いつもの鉱工業生産指数のグラフと在庫循環図は以下の通りです。上のパネルの指数は赤が四半期、青は月次のデータです。影を付けた部分は景気後退期です。下のパネルの在庫循環図は1999年1-3月期から直近の2009年1-3月期まで、四半期ベースの前年同月比のデータをプロットしています。緑色の上向き矢印から始まって、下向きの矢印まで2周近くの循環が示されています。赤の破線は45度線ですから、第3象限に入って景気転換点に近づいています。

鉱工業生産指数と在庫循環

さらに明るい指標は、製造工業予測指数が4月前月比+4.3%増、5月+6.1%増と大幅な上昇を見込んでいることです。在庫調整の進展とともに増産が始まったような印象を受けます。しかし、直近の動向は、4月22日付けのエントリーで貿易統計を取り上げた際に示したように、輸出の回復と財政政策に支えられていることは明白です。上のグラフで見られるように、在庫調整は第3象限に入ったものの、出荷のマイナス幅が減少しなければ赤い波線の景気転換点を超えるには至りません。私は直感的に年央から夏場くらいまで生産の増産が続くと考えていえるんですが、秋口以降の需要動向は極めて不透明です。需要が伸びないようであれば、いつも主張している W 字型の回復パスをたどり、再び生産が減産局面を迎える可能性も十分あります。そのカギを握るのは設備投資と輸出だと私は考えています。
ということで、まず、設備投資については、4月9日付けのエントリーで先行指標となる機械受注を取り上げた際に、「今年半ばに底入れして急回復の fast-in fast-out のシナリオも無視できない確率であり得る」と書いたとおりです。この考えは変わっていません。確率的には、どんなに気前よく見積もっても、1/3 から 1/4 なんですが、無視はできません。次に、輸出については、米国経済の回復待ちともいえますが、昨日発表された今年1-3月期の米国の成長率は年率でまだ▲6%台を続けており、こちらは市場予想を下回りました。昨日まで開催されていた連邦公開市場委員会 (FOMC) のステートメントを読む限り、"the economy has continued to contract, though the pace of contraction appears to be somewhat slower." ということになるようです。また、自動車会社2社の救済についても大詰めを迎えており、クライスラー社については債務削減に合意したとか、決裂したとか報じられています。オバマ米国大統領はクライスラー社について、「最終的に連邦破産法活用が避けられなくなったとしても、とても短期間のものとなるだろう」と述べ、再建に自信を示したと受け取られています。いずれにせよ、まだまだ不透明な要因が多く残されています。世界経済の最大の不透明要因は、何といっても、世界保健機構 (WHO) が警戒レベルを 5 に引き上げた新型インフルエンザなんですが、この先行き見通しばかりは私にはサッパリ分かりません。

米国の経済成長率

最後に、金融政策決定会合を開催していた日銀は政策金利の誘導目標を据え置くとともに、「展望リポート」を決定しました。このリポートにおいて、我が国の潜在成長率が従来の1%台半ばないし後半より引き下げ、1%前後と推定しています。また、以下のような経済見通しを発表しました。4月27日のエントリーで取り上げた内閣府の改定見通しとほぼ整合的な内容になっていますが、割合とスンナリ成長率がピックアップするような見通しになっていて、特に、私のように W 字型の回復パスを想定しているようには見えません。

日銀政策委員の大勢見通し

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2009年4月29日 (水)

県書道展に行き、書道界のビジネスモデルを考える

今週は月曜日の午後くらいから長崎でもいいお天気が続いています。気象庁の週間予報でも、このゴールデンウィークの前半は全国的にも土曜日くらいまで好天が続くような予報になっています。下の画像は毎日新聞のサイトから引用しています。

ゴールデンウィークの天気

ということで、お天気がよくて、さすがの出不精の私も外を出歩き、第34回県書道展を訪ねました。私もちょくちょく取材を受けている長崎新聞の創立120周年記念だそうで、長崎新聞社主催です。だからということんでしょうが、4月14日の開会式典の模様を収めた動画が長崎新聞のサイトで報じられています。出島近くの長崎県美術館で開催されています。長崎新聞の報道によれば、この展覧会は、漢字、かな、近代詩文、少字数、篆刻、前衛の6部門を公募する総合書展となっていて、今回は1263点の応募があり、最高賞の長崎新聞社大賞6点をはじめ、入賞・入選作計426点が選ばれました。県南の長崎市のほか、県北の佐世保市でも展覧会が開催され、長崎市の展覧会では計887点を前期・中期・後期の3期に分けて展示しています。私が今日行ったのは後期の展示です。佐世保展では378点の作品が展示されるそうです。先生方の作品を私ごときが評価することは出来ませんが、立派な作品が並んでいました。長崎県民の教養の高さを示していると実感しました。多くの方が鑑賞されるようオススメします。
ということで、表題にした書道界のビジネスモデルについて、パッと見で、応募総数のうちの 1/3 超が入賞・入選していますから入賞・入選の割合がやたらと高くて、長崎展と佐世保展を合わせて、ほぼすべての応募作品が展示されることになっており、展示されない作品が100点足らずととっても少なく、審査が甘いんではないかと見られがちなんですが、私も書道をやっていましたから知っていますので解説しますと、ハッキリ言って、応募作品の1割近くが展示されないというのは公募の書道展としてはメチャクチャに厳しい審査と言えます。もっとも、何らかの勘違いがあって、書道以外の作品が応募されているのだとすれば、長崎県民の教養のレベルの問題だという気もします。いずれにせよ、公募の書道展というものは応募したら必ず展示されるもので、会場いっぱいに所狭しと作品を並べるものなのです。ですから、こういった書道展を見に行く人の多くは出品者かその知り合いなどで、他の作品へは軽く目をやるだけで、パンフレットなどで作品の配置を確認した上で、自分や知り合いの作品の展示にダッシュし、作品に並んでの記念写真も撮り放題です。当然ながら入場は無料か、少なくとも、出品者などの関係者には大量にタダ券が配られます。今日行った県書道展も入場無料でした。もちろん、公募展でなく、私が今までにこのブログで取り上げたような、王羲之の「蘭亭序」の臨摸である八柱第三本や顔真卿の「自書告身帖」の真蹟などをメインに据えた書道展はまったく別です。あくまで、公募の書道展だけのお話です。
それから、段位や家元などを認定するのは書道界に限らず、華道や茶道などの伝統芸能でも行われていますし、それぞれの流派の中でいわば勝手に段位などを認定して、日本全国で単一の団体による認定ではないことは共通しています。もちろん、柔道のように講道館というガリバー独占が成立している業界もある一方で、華道や茶道はせいぜい片手で数えられるくらいの流派しかないのに対して、正確ではないかもしれませんが、直感的に、書道は軽く200くらいの流派があって、その大多数の団体が独自に段位を認定していたりします。武道である柔道は精神と肉体の鍛錬であることはいうまでもありませんが、習い事・芸事である書道・華道・茶道などは芸術として高いレベルを目指すとともに、一般に広く普及させることも目的にした教養であることも確かですから、その面から、応募された作品はほぼすべて展示するとか、細かい流派に分かれて近くの書道教室で手軽に級位や段位を認定するとか、こういった親しみやすさも必要なのかもしれません。私の出身地である京都の(財)漢字能力検定協会が資格認定ビジネスをやり過ぎて、さらにファミリー企業などとの不明朗な会計処理もあって批判されていますが、もちろん、柔道も含めて書道・華道・茶道などの教養団体においても、資格認定は魅力あるビジネスのひとつなんだろうという気はします。
さて、ビジネスモデルを離れて、今日の県書道展で私の目についた特徴をいくつか上げると、まず、ほとんどが行書とかなだったことです。もちろん、隷書や篆刻や前衛書もありましたし、少数ながら、楷書も見かけましたが、草書はほとんど見当たらず、楷書の中で私の好きな細楷は皆無でした。かなについてもお行儀よく真っ直ぐに書いたかながほとんどで、和様を極めた小野道風の継色紙や秋萩帖などにおける分かち書きのような書法は見られませんでした。前衛書もかなと同じようにお行儀のいいものが多かったような気がします。私には受け入れやすいものでした。少し脱線しますと、そもそも、私が前衛書を苦手にしているのは、言うまでもなく師匠の影響なんですが、私の師匠は「書道である限り、字として認識されねばならない」との信念をお持ちでした。ココロは、例えとしてよく持ち出されたのは、「大」と「太」と「犬」は点のあるなし、また、点がどこにあるかで違う文字を表しているわけで、単に白い紙に黒い墨を塗りたくっただけで、何の文字であるかが認識されないようでは書道ではない、ということでした。かなりのご高齢でしたから、というわけではないんでしょうが、おそらく、重要なポイントだとお考えだったため、何度も聞かされた記憶があります。もちろん、各人の来歴により文字として認識できるかどうかには個人的に大きな差があり、日本人でも小学生は難しい漢字を読めないかもしれませんし、外国人は漢字やかなを文字として認識しないのかもしれませんが、少なくとも、私の師匠クラスの能書家が文字として認識できないような紙に書いた墨の跡は書道ではないと言い切っていました。ですから、私には前衛書の比率の高い毎日展よりも伝統的な書の多い読売展を見に行って勉強するように、と勧められたこともあります。ということで、こういったバックグラウンドを持つ私にも受け入れやすい前衛書が多かったような気がします。

いずれにせよ、繰返しになりますが、本県書道界のレベルの高さを実感することができました。無料ですし、美術館の場所も交通便利なところですから、多くの方が訪れるよう、私からもオススメします。最後に、知らない誰かにトラックバックでも送ろうかと考えて、goo のサイトから「長崎」と「書道展」をキーワードにしてブログ検索をかけてみましたが、1件もヒットしませんでした。書道とブログの両方に関心が高いのは、長崎140万県民の中で私1人だけなのかもしれません。

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2009年4月28日 (火)

金融に関する海外メディアの報道から

先週後半にいくつか、欧米のメディアで興味深い報道がありました。2つとも中央銀行や金融政策、あるいは、金融機関監督に関するものです。週末のうちに集めた材料ながら、今夜は海外のメディアの報道などに注目してみたいと思います。

The monetary-policy maze

まず、最新号のThe Economist から "The monetary-policy maze" と題する記事です。24日の金曜日の日経新聞にも同じように中央銀行の金融政策に関するコラムを見かけましたが、大雑把に同じような内容と言えます。

Broader-minded banking

記事では、イングランド銀行の Blanchflower 金融政策委員会委員の "one tool, one target" との発言から始め、伝統的には短期金利をツールとして物価安定をターゲットにするんですが、現下の金融危機に対応して、ここ1-2年のわずかな期間で中央銀行のオペレーションは大きく変化しており、量的緩和に踏み込んだり、ターム物や民間企業の発行する証券を対象にしたり、果ては金融機関救済まで手を伸ばしているのが分かります。

Undershooting

ツールに加えて、ターゲットの方も、必ずしもフォーマルな決定でないとしても、何らかの形で物価安定のレンジや上限を表明する中央銀行が増えているんですが、ほぼすべての先進国で実際の物価上昇率が下振れていることが分かります。多くの国で、デフレという意味で物価安定が損なわれています。ついでに、我が日銀の「物価安定の理解の範囲」が飛び抜けて広いレンジを持っていることも読み取れます。

The limit of normality

物価安定が損なわれてデフレになっているわけですから、当然ながら、中央銀行の操作対象である政策金利はゼロに向かっています。上のグラフの通りです。

次に、報道というよりも金融監督当局の発表なんですが、このブログの2月26日付けのエントリー「オバマ米国大統領の施政方針演説より銀行検査 stress tests に注目!」で取り上げた米国における銀行検査 stress tests の評価基準が連邦準備制度理事会 (FED) から公表されています。関連する記事とともにリンクを残すと以下の通りです。別画面でリンク先が開きます。

最後に、New York Times の特集ページで、"Living With Less - The Human Side of the Recession" というサイトが出来ています。景気後退における人間の側面と直訳するのかもしれませんが、表題からすると、少ない出費で不況を乗り切る、といった面があるのかもしれません。米国の経済指標25ほどをフラッシュにまとめてインタラクティブなファイルで置いてありました。ご参考まで。

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2009年4月27日 (月)

まったく精緻ではない直感的な経済見通しと下振れリスク

メディアで報じられている通り、内閣府が独自試算で「平成21年度経済見通し暫定試算」を発表しました。経済危機対策の経済効果として今年度の成長率を1.9%ポイント押し上げる効果を見込んだ上で、今年度の成長率を▲3.3%と見通しています。詳細は上のリンクの pp.3 にあり、同じリポートの pp.4 から引用したグラフは以下の通りです。

主な経済指標

今年度の成長率に絞って議論すると、非常に大雑把に、2009年1-3月期が昨年10-12月期の前期比▲3%減、前期比年率で▲12%のマイナス成長と仮定すると、いわゆるゲタは昨年度から今年度にかけて▲3.9%になります。私のように W 字型の景気パスを見込みつつ、年度を通じてゲタよりも少し低めの成長率を想定すると、経済対策の効果を除いて、今年度の成長率は▲4.5%から▲5%くらいではないかと考えられます。ですから、経済対策の効果を2%ポイントくらい見込むと全体の仕上がりとして▲3%くらいの成長率見通しは非常に plausible な気もしますし、やや強気バイアスの私からすれば、逆に、慎重な見方ということも出来なくもありません。
もちろん、下振れリスクも少なくありません。私が可能性が高いと考える順に6つの要因を上げると以下の通りです。第1に、企業収益です。そろそろゴールデンウィークをはさんで、東証が昨年から導入した45日ルールに従って、この3月期決算を発表する企業が多いんですが、企業決算が予想より悪い可能性があります。東証の日経平均株価の上値が重いのも同じ原因ではなかろうかと私は考えています。第2に、為替です。中央銀行の金融政策に負う部分が大きいんでしょうが、日米が政策金利を下げ切った一方で、欧州はまだ金利引下げ余地がありますし、米国ではマネーサプライが日本よりも大幅に増加していますから、一昔前のソロス・チャートを当てはめれば、大きく円高に振れる可能性も否定できません。第3に、物価動向です。今年前半のうちに消費者物価はマイナスになることは確実で、日銀の金融政策次第ではデフレ・スパイラルに陥らないまでも、成長率が大きく下押しされる可能性が残ります。第4に、海外、特に米国の景気動向です。国際機関の成長率見通しなどでも今年の米国はゼロ近傍の成長と見込まれており、豚インフルエンザの動向を別にしても、GM やクライスラーが連邦破産法の11条にファイルすれば、リーマン・ブラザーズ証券の破綻と同等のショックが生ずる可能性があります。米国経済の回復が遅れる可能性は大いにあり得ます。これに伴って、我が国のみならず中国をはじめとするアジア各国が影響を受ける可能性も残ります。第5に、資源価格、特に今回は穀物価格の上昇です。石油についても可能性はなくもないんですが、一度、かなりの高騰を見た後では経済システムとして織り込むことも可能です。しかし、世界の人口増に伴って穀物価格が、少なくとも中長期的に上昇することは確実で、エネルギーよりも技術的な対応が難しそうな気がすることは以前にも書いた通りです。第6に、欧州発の金融危機の再来です。昨年9月のリーマン・ショックに匹敵する欧州金融機関の破綻の可能性は、そんなに高くないとしてもゼロではあり得ません。

ほとんど上振れリスクが見当たらない中で、下振れリスクのみが多くあり、今年から来年にかけての景気は予断を許しませんし、さらなる景気対策も後々の財政再建のための増税との見合いで国民の支持が得にくい状況で、政府や日銀の対応も手持ちのカードに限りがあるのも事実です。四半期ごとの成長率が来年前半までマイナスを続ければ、デフレ・スパイラルの懸念が大きくなることは確実ですから、早めの景気回復が必要と私は考えています。

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2009年4月26日 (日)

豚インフルエンザのパンデミックを防げるか?

メディアで報じられている通り、米国とメキシコで豚インフルエンザのために100人近い死者が出ています。ヒト・ヒト感染した疑いもあるそうです。青いマスク姿の写真をテレビでも見かけました。死者の大部分はメキシコで、米国では感染したものの回復している人も少なくないようです。報じられている範囲で私が注目しているのは、ニューヨーク東部クイーンズ地区の私立高校の生徒約100人がインフルエンザに似た症状を訴え、市が生徒数人を対象に簡易検査を行ったところ、ほとんどからA型インフルエンザウイルスが検出されたものの、いずれも、これまで判明してているヒト型と違うタイプで、ニューヨーク市当局は豚インフルエンザの可能性を考慮しているといったニュースです。これは不可解です。

WHO による新型インフルエンザ警戒レベル (6段階) と政府対応

ということで、読売新聞のサイトから引用した上の画像に従えば、現時点では WHO による警戒レベルは 3 で、これが 4 に引き上げられれば、学校の休校やイベントの中止を政府が要請したり、医療関係者にパンデミック・ワクチンを投与したり、政府専用機の使用を含む感染地域からの邦人帰国を検討したりと、かなり本格的なパンデミック対策に移行します。
一応、我が国では2003年5月だったと記憶しているんですが、台湾から来日して近畿地方を旅行した医師が SARS に感染していたとかで、大騒ぎしたことを覚えています。実は、我が家はまだジャカルタにいて、実体験としてリアルタイムの記憶はありません。この春には、女性コメディアンが結核にかかっていたとかで、こちらも話題になりました。まあ、鳥インフルエンザとか、今回の豚インフルエンザとかの強毒性の感染症の発生などに対するいい予行練習だったのかもしれません。今回はまだ国内の感染例は日本では見受けられないわけですが、米国やメキシコであれば在留邦人もかなりいるわけですから、何らかの接点を持つ人も少なくない可能性があります。

どうでもいいことかもしれませんが、今年封切られた『感染列島』について、オリジナルはハッピーエンドにもかかわらず、配給を受けた韓国では結末が改ざんされて、感染が広まる途中で終わるエンディングで上映されていたと YAHOO! ニュースのサイトで見かけたことを思い出し、アジアの近隣国でもパンデミックに関する微妙な捉え方の違いを実感し、各国のパンデミック対応にも微妙な違いが生ずる可能性があることを指摘しておきたいと思います。

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2009年4月25日 (土)

久々の全国放送で3連勝を飾る!

阪神タイガース2009年ロゴ

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今日は、久々の週末土曜日のNHK全国放送での野球観戦でした。中継の始まった2時過ぎから少し遅れてテレビを見始め、タイガースの先発投手がローテーション通りの福原投手だと知って、軽い不安を覚えます。当然です。NHKテレビの全国中継ということで、投手起用を少しムリするなんてのは昔の話になってしまったんでしょう。ほぼ毎日、試合終了までタイガースの試合をテレビ観戦できるコアな関西地方の阪神ファンと違って、私のような地方在住者は巨人戦も含めて、阪神のテレビ中継を見ることが出来るのは、ならしてみれば、月に2-3日のような気がします。テレビで見られる貴重な機会には何とかタイガースに勝って欲しいと思う気持ちもあります。
でも、私の不安を吹き飛ばすように、1回から打線が爆発し、福原投手もしっかり抑えて、ボロ勝ちでした。7回途中に得点が10点に達して、私の関心は葛城外野手のサイクルヒットに移ります。葛城選手がシングルヒットを打った7回は打者一巡して、結局、1番の平野選手の代走の大和選手の二塁ゴロで終わりましたから、9回にも明らかに6打席目が回って来る勘定だったからです。後は、福原投手がどこまで投げるのか、あるいは、投げさせるのか、昨夜の能見投手のように完封するのか、ということでした。まず、最初にダメになったのが福原投手の完封で、8回ウラに1点取られてしまいました。ベンチに戻る時に悔しそうな表情を見せましたが、まあ、これはオッケーでしょう。9回表には葛城外野手が内野ゴロに倒れます。サイクルヒットなんて、そうそうは出来ないものだと知らされました。特に、最後に残ったのが三塁打ということになれば、さらに難易度は増します。その後に、狩野捕手が三塁打を打ちましたので、簡単そうに見えなくもないんですが、葛城外野手については1回表のツーランだけでも十分と言えます。福原投手は9回表に代打を送られて完投はなりませんでしたが、今シーズンの現在までの調子を考えると、8回を投げ切っただけでも大合格ということなんでしょう。でも、次の登板で真価が試されるんでしょう。
NHKの中継も解説者が解説者ですから、やや広島びいきのバイアスがなくもなかったんですが、新しいマツダ・スタジアムの紹介も分かりやすくて、試合結果は申し分なく、実にいい中継でした。特に、コマーシャルがありませんから、折々に試合のハイライトを振り返るところでは、当然ながら、我が阪神の得点シーンがいっぱい見られて、私は大いに満足しました。

明日も勝って弾みをつけて、来週の倉敷と甲子園での横浜戦は3タテ7連勝目指して、
がんばれタイガーズ!

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2009年4月24日 (金)

マクロ経済の三面等価の数式表現に見る日本の景気後退

波乱のあった授業もなくはないですが、何となく、今週も4コマの授業を無事に終えたように思います。先週の教科書などのガイダンスや学習上の注意点の説明などに続いて、今週はマクロ経済学の復習を兼ねながら授業を進めます。ということで、まず、マクロ経済の三面等価の数式表現を板書します。

  1. Y = C + I + G + X - M
  2. Y = f(K, L)
  3. Y = rK + wL

もちろん、第1式は支出、第2式は生産、第3式は分配です。第2式はいわゆるマクロの生産関数です。マイクロな経済学の企業のところで習うような気もします。特に明記はしませんが、各シンボルは普通に経済学で考えられている通りです。また、第3式において、賃金については w ≡ ∂Y / ∂L、また、資本のレンタルプライスについては r ≡ ∂Y / ∂K のように偏微分を使って限界生産力で表現してもまったく同じことです。学生諸君の顔色をうかがいながら、私はソロリと数学を多用したりします。もう3年近くも前の2006年8月22日付けのエントリー「エコノミストはどうして数学を使うのか?」でも書いたように、ジャカルタのころの経験もあって、数式で表現するのは万国共通ですから、私にとっては便利だと感じています。例えば、支出の第1式なんか、「国民総支出は消費と投資と政府支出と輸出を加えて輸入を引く」と言葉で表現するよりも、式でサラサラと書いた方が格段に分かりやすいと思っていますが、場合によっては、式の方が分かりにくいと感じる学生がいるかもしれません。経済の本なんかでも「出来るだけ数式を使わず平易な説明に努めた」なんてのが序文にあったりすると、私は苦笑してしまったりします。
さて本題ですが、この三面等価の式から現在の日本の景気後退を考えます。景気循環を考慮する短期では需要、すなわち支出が所得あるいは生産の決定要因となり、第1式の特に輸出 X の減少などにより支出が減少すると、第2式の生産関数の労働と資本のストックに遊休資源が生じます。稼働率が低下すると表現しても同じことです。ワークシェアリングが進まなければ、新規採用を抑制したり、雇用者が解雇されて一部の労働ストックが生産関数から退出したりする一方で、資本ストックは極端な場合は設備廃棄なども行われますが、一般的には、基となるフローである設備投資が大幅に減少したりします。経済学では上品に「労働が生産関数から退出する」と表現しますが、世間一般では「雇い止め」とか、「派遣切り」と表現される場合があるのはご存じの通りです。同時に、分配の第3式を見ると、労働ストックが遊休するひとつの要因はケインズ卿が指摘するように賃金 w下方硬直性があるからです。資本のレンタルプライスは場合によっては短期にマイナスを記録することもあります。ホントの正確な解釈ではないんですが、日本の全企業を合計した収益がマイナスになれば、資本のレンタルプライスはマイナスと解釈することも可能です。現状の景気では2-3四半期、あるいは1年くらいの期間であればマイナスもあり得ないことではありません。そして、支出の第1式に戻って、賃金が伸び悩んだり、雇用者が生産から退出して賃金を得られなくなると消費が停滞します。もちろん、遊休化した資本ストックの調整のために設備投資が減少することも大いに考えられます。ということで、グルグルとスパイラルを描いて景気は後退して行きます。これを食い止めるには、世界各国で実施されているように政府支出である第1式の G を増加させたり、ヨソの国の景気回復を待って輸出の X の回復を図ったり、あるいは、先の三面等価の式には出て来ない金利を引き下げて、投資の I を増やすような、需要を拡大させる経済政策が取られるわけです。そして、景気転換点を超えれば、逆の動きが出始め、需要の増加に従って遊休化していた生産要素が生産に加わり、労働者は雇用され資本ストックを増加させるべく設備投資が実行されます。またまた、それらの動きが需要を増加させて景気は拡大して行くことになります。
まったくついでながら、長期を考えると、当然、短期と同じように三面等価は成り立ちますから、例えば、人口減少社会で第1式の支出、すなわち需要を満たすためには第2式の生産関数で労働生産性を引き上げたり、資本ストックの増加のスピードを早めたりする必要もあるわけです。人口が減少するのであれば、生産要素の中で相対的に労働が資本よりも希少性を増し、資本のレンタルプライスが低下して賃金が上昇することもあり得るかもしれません。逆に、アジアの新興国などでは人口増加率が日本よりまだ高くて、その結果として賃金が安いのはよく知られた通りです。

現実の日本経済やアジア経済と照らし合わせつつ、今週からマクロ経済学の復習を兼ねて授業を本格的に始めています。私が多用する数学や数式を、どこまで学生諸君が受け入れるかを見極めたいと思っています。

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2009年4月23日 (木)

国際通貨基金の「世界経済見通し」World Economic Outlook (WEO) 見通し編

今週の月曜日にも取り上げましたが、昨日、国際通貨基金 (IMF) が「世界経済見通し」World Economic Outlook (WEO) の第1章と第2章の見通し編を発表しました。いつもの通り、日本語サマリーもあります。第1章と第2章のタイトルは次の通りです。

  • Chapter 1. Global Prospects and Policies
  • Chapter 2. Country and Regional Perspectives

次に、見通しの概要は以下の通りです。画像をクリックすると、第1章の pp.10 にある Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections から引用した、もう少し詳細な表が別画面で開きます。

Latest IMF projections

一目瞭然で、今年2009年の先進国は軒並みマイナス成長で、世界全体の成長率も▲1.3%に落ち込むと見込まれています。第1章の pp.9 から引用すると、"By any measure, this downturn represents by far the deepest global recession since the Great Depression."ということになります。中でも、我が日本は今年▲6.2%のマイナス成長と先進国のトップを走っています。さらに、先進国を中心に金融のひっ迫が2010年に入っても続くことなどから、来年も世界経済は+1.9%と緩やかな成長にとどまると見込んでいます。他方、2010年もゼロ成長のままの米国やマイナス成長の続く欧州と違って、日本経済は緩やかながら2010年にはプラス成長に転ずると見込まれています。ついでながら、2009年1月時点での前回見通しからの下方改定改定幅も、先進国の中では日本が際立って小さくなっています。決して V 字型の力強い回復とは言えませんが、ある意味で、4月9日付けのエントリーで書いたように、日本経済は fast-in fast-out の景気後退・回復の可能性が諸外国と比べて相対的に高いのかもしれません。

Risks to World GDP Growth

しかも、この見通しはややダウンサイドリスクの方が大きいと見込んでいます。上のグラフの通りです。その主たる理由は、第1章の pp.17 によれば "a dominant concern is that policies will continue to be insufficient to arrest the negative feedback between deteriorating financial conditions and weakening economies in the face of limited public support for policy action" なのだからだそうです。政府や中央銀行に対する風当たりが強いのは日本だけではないようです。また、図表の引用はしませんが、第2章の pp.65 にある Table 2.1. Advanced Economies: Real GDP, Consumer Prices, and Unemployment によれば、日本と米国は今年と来年は消費者物価がマイナスになると IMF では見通しています。このブログでも、すでに4月18日付けのエントリーで、デフレという意味で足元における物価安定がすでに損なわれていると私は特筆大書しましたが、日米両経済大国がそろってデフレになると、世界経済への影響が軽微で済むとはとても考えられません。

第67期名人戦7番勝負第2局投了図

最後に、ガラリと話題を変えて、一昨日の4月21日から熊本城内で指し継がれていた第67期名人戦7番勝負第2局は昨夜終局し、挑戦者の郷田九段が羽生名人に競り勝って、対戦成績を1勝1敗のタイに戻しました。上は152手までの投了図です。朝日新聞のサイトから引用しています。第1局と同じようにがっぷり四つに組んだ相矢倉で、最後は後手番の郷田九段が先手番の羽生名人を押し切りました。立会人は加藤九段、記録係は渡辺三段でした。第3局は5月7-8日に広島県福山市の福寿会館で行われる予定です。

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2009年4月22日 (水)

貿易統計は輸出の底打ちを示唆しているか?

本日、財務省から3月の貿易統計が発表されました。3月の速報値は輸出が4兆1823億、輸入が4兆1714億、差引きの貿易収支が110億円と、四捨五入の関係で下1桁はあいませんが、事前の市場のコンセンサスである▲270億円の赤字ではなく黒字となりました。ただし、季節調整済みの計数で見るとまだ▲1000億円近い赤字となっています。2008年度を通じた貿易収支は▲7253億円の赤字を記録し、貿易赤字に転じたのは第2次石油危機の影響を受けた1980年度以来、何と28年振りでした。米国発の金融危機に端を発する世界的な景気後退に加えて、昨夏までの資源価格の高騰などが影響したことは明らかです。まず、いつものグラフは以下の通りです。上から2つのパネルは輸出入とその差額たる貿易収支で、一番上のパネルは原数値、真ん中のパネルは季節調整済みの数値です。いずれも左軸の単位は兆円です。一番下のパネルは原系列の輸出金額の前年同月比を数量指数と価格指数で寄与度分解したものです。単位は前年同月比のパーセントです。

貿易統計の推移

まず、3つのパネルいずれを見ても、単月ではありますが、2月を底に輸出も貿易収支も反転の兆候が見られるのは注目すべきであると私は考えています。地域別に見ると、対米と対アジアで輸出の下げ止まりが見られ、地域別の景気実感とも合致することから、単月に止まる動きではなく、輸出の底入れが近い、あるいは、すでに底入れしたと見なしても差し支えないと私は受け止めています。おそらく、メディアは2008年度を通した28年振りの貿易赤字を大騒ぎして取り上げるでしょうが、直近の統計を正しく見る限り、大いに明るい兆しを読み取ることが可能なことは確かです。例えば、季節調整済みの計数で輸出は3月に+2.2%増となりましたので、鉱工業生産指数も3月はプラスを記録する可能性が高まりました。ただし、先行きについて必ずしも楽観できないのは為替の影響です。足元では1ドル100円を少し切るくらいの水準ですが、少し前まで90円前後の水準を続けていましたし、為替は半年から1年くらいのラグを伴って輸出に影響しますから、控え目に言っても、一直線で輸出の底入れから順調な回復に戻るとは言い切れないと私は考えています。リーマン・ショック後の為替の水準と現在進行形の諸外国の景気回復の足取りの双方に注目すべき時期と言えます。加えて、3月の貿易統計は輸出反転の兆しを見せているものの、1-3月期をならせば外需がGDP成長率に対して引き続きマイナスの寄与を示すことは明らかで、来月に発表される2009年1-3月期の1次QEは2桁マイナスの可能性が高いと考えるべきです。

金融機関の潜在的損失額

最後に、今週月曜日のエントリーでも触れましたが、今週末4月25-26日に米国の首都ワシントンで世銀 IMF 総会が開催され、昨日は、IMF から「世界金融安定化報告」Grobal FInancial Stability Report (GFSR) が公表されました。上のグラフにある通り、2007年から2010年にかけての金融機関の潜在的な損失額 (potential writedowns) は4兆ドルを超えると推計されています。リポート第1章の pp.28 にある Table 1.3 をグラフにしています。昨年10月時点での推計と比較可能なのは米国だけですが、米国金融機関のみの潜在損失額は昨年10月時点で1.4兆ドルと推計されていたのが、今年4月時点では2.7兆ドルまで膨れ上がりました。今週末に世銀 IMF 総会でどのような議論が交わされるのか注目です。

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2009年4月21日 (火)

長崎県における定額給付金の経済効果

先週の火曜日にも「定額給付金でプチ贅沢?」と題して、定額給付金について取り上げ、毎週火曜日は定額給付金の日と決めているわけでは決してありませんが、今夜も定額給付金についてスポットを当てます。というのは、「定額給付金の長崎県内の経済効果は72億円」という画期的な試算が公表されているからです。試算したのは他ならぬ私自身だったりします。受け取らない比率、プレミアム比率などに適当な前提を置くと、長崎県内における定額給付金の経済効果は72億円あり、2006年度の長崎の名目県内総生産を基に計算すれば、成長率を0.17%ポイント押し上げるとの結果を得ました。ただし、1次効果だけで2次以降の波及効果は見ていません。全国で2兆円の定額給付金の経済効果について、野村證券金融経済研究所が0.2%ポイントの成長率押上げ、三菱総研が0.2%ポイント弱などの試算結果を出しているのを新聞で見た記憶がありますから、私の試算結果も波及効果を含めると成長率を0.2%ポイントくらい押し上げる効果を認めていますので、そんなに突飛な数字ではないと考えています。なお、限界消費性向は1999年の地域振興券について分析した、当時の経済企画庁の「地域振興券の消費喚起効果等について」に従って32%としています。
大学のホームページ上に試算結果をアップしたのが先週4月13日の月曜日で、その後、ローカルの長崎新聞と NBC 長崎放送の取材を受けました。ネット上に記録が残っている範囲で、長崎新聞の4月15日付けの記事があります。テレビの方は明日夕刻の「報道センターNBC」にて放送予定と聞いています。なお、地方における定額給付金の経済効果についてネットで検索すると、日銀松江支店が「山陰で定額給付金を使うことで得られる経済波及効果」と題する調査結果を発表したりしていました。この日銀松江支店は NHK 連続テレビ小説「だんだん」の放映に伴う島根県経済への波及効果の試算なんかも発表したりしています。支店長か支店幹部にこういった類の経済効果の試算が好きな人がいるのかもしれません。まったくどうでもいいことですが、島根県では定額給付金よりも「だんだん」の経済効果の方が大きいようです。
時折、阪神タイガースのリーグ優勝の経済効果などを試算している関西系の大学教授とか、何らかの経済効果を試算したシンクタンクがあって、メディアで取り上げたりするので私もマネしてみたんですが、残念ながら、長崎ローカルのメディアの反応はイマイチでした。試算者に信頼が置けないと見なされているのかもしれないと反省しています。今後、こういった試算をトピック資料として発表するかどうかは、慎重に見極めたいと思います。

最後に、メディア関連ということで、昨日、ピュリツァー賞が発表されています。私が注目した写真部門 (Feature Photography) では New York Timesウィンター記者によるオバマ米国大統領を中心に取り上げた米国大統領選挙運動の写真に授賞されました。New York Times のサイトで A Vison of History と題して受賞作品20枚からなるスライドショーが公開されています。特に有名なのはスライドショーの最初の雨に打たれながら演説するオバマ大統領の写真なんでしょうが、すべて素晴らしい写真ばかりです。必見です。

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2009年4月20日 (月)

国際通貨基金 (IMF) の「世界経済見通し」 World Economic Outlook 分析編

今週末に米国の首都ワシントンで世界銀行と国際通貨基金 (IMF) の総会が開催されます。ついでながら、7か国財務大臣・中央銀行総裁会議 (G7) も開催されます。これに合わせて、IMF の「世界経済見通し」 World Economic Outlook (WEO) のうちの分析編の第3章と第4章が先週4月16日に発表されています。WEO の副題は Crisis and Recovery となっています。今週末の総会までに見通し編の第1章と第2章も発表されると思いますので、それはそれとして取り上げるとして、今夜は以下の分析編を取り上げたいと思います。なお、これまたいつもの通り、分析編の日本語のサマリーの pdf ファイルもでアップされています。

  • Chapter 3. From Recession to Recovery: How Soon and How Strong?
  • Chapter 4. How Linkages Fuel the Fire: The Transmission of Financial Stress from Advanced to Emerging Economies

まず第3章では、現在の景気後退は金融危機から生じており、かなり深刻であるということが分析されています。わざわざ IMF から言われるまでもありません。そして、かなりの程度に各国で景気が同期 (synchronize) しているという特徴が指摘されています。金融危機に端を発する景気後退についてはラインハート教授とロゴフ教授の一連のペーパーで取り上げられたようなエピソード分析がなされています。なお、両教授の一連のペーパーはハーバード大学のロゴフ教授の Recent Papers に一覧があります。pdf ファイルでアップされているものもあります。下のグラフはエピソード分析の結果から、金融危機に起因する景気後退は長くて深刻であり、その後の景気回復の足取りも緩やかであることが示されています。

Average Statistics for Recessions and Recoveries

そして、景気後退確率が2008年末にはかつてない大きさに達し、しかも、世界中でかなりの程度に同期していることが示された後、これまた当然なんでしょうが、金融部門の信頼回復ともに財政政策を含む需要拡大策により、金融危機に端を発する景気後退であっても、ある程度は景気後退の深刻さの度合いを緩和することが出来ることが示されています。下のグラフの通りです。IMF の言わんとしている結論がにじみ出ているような気がします。

Estimated Median Duration of Recessions

第3章で景気循環を取り上げた後、第4章では金融ストレス指標の面からさらに分析が加えられています。これまた、世界の共通認識なんでしょうが、現在の景気後退は金融上のチャンネルを通じて先進国から世界中に波及しています。下のグラフに見られる通り、赤い折れ線で示された先進国の金融ストレス指標は、かなりの程度に青い棒グラフの新興国にシンクロしています。単純に見ると先進国と新興国の波及の経路は両方向に見えますし、実際に、LTCM の破綻の時のように新興国における金融危機が先進国に伝わることもありますが、少なくとも、今回の金融危機や景気後退は先進国から新興国への波及であることは明らかです。

Comparison of Financial Stress Levels

そして、先進国と新興国の金融上のリンケージを見ると、下のグラフに示されている通り、西欧から新興国への貸出しが大きな割合を占めていることが重要な要因となっています。ここで世界の共通認識と少し違う IMF 独自の意見が見られます。多くのエコノミストはサブプライム・ローン問題に端を発する金融危機は米国で生じて、それが世界に広まったと考えていますが、IMF は少なくとも新興国における金融危機は米国からの直接の影響ではなく西欧発であると分析してます。私が知る範囲でも、特に、新興国において投資銀行が活動する分野では、新興国の国内金融機関に競争力がなく、先進国の投資銀行のシェアが高かったものですから、これが金融面での混乱を大きくしたとも言われています。加えて、IMF は今後の新興国への資金フローが減少し、それが長期化すると分析しています。

Liabilities to Advanced Economies' Banks 2007

以上。大雑把に IMF の「世界経済見通し」の分析編を見ておきました。最初に書いたことの繰返しになりますが、見通し編が出れば、日を改めて取り上げたいと思います。

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2009年4月19日 (日)

本格的に大学の授業が始まる

本学の入学式が4月8日にあり、4月9日のガイダンスとかオリエンテーションとか呼ばれているイベントを経て、正確には4月10日の金曜日から本学の授業が始まっています。私は週に4コマものゼミや講義を受け持っているんですが、時間割の関係で金曜日は授業がなく、先週からの授業開始となりました。初回の授業は導入として教科書や副読本・参考書の紹介とか、今後の授業の進め方とか、出席を取るかどうかとか、単位の認定方法はテストだけかリポートもあるのかとか、シラバスに書いてあるようなことをお話しして早めに終わる場合が多かったような気がします。どうしてそう思うかというと、生協の学食がやたらと早い時刻から混み合っていたからです。いつもは11時45分に行けばまだまだ空いているんですが、11時半に行っても学生であふれている日もありました。ちなみに、私は日本経済論の初回の講義で1時間余りしゃべりました。内容としては、一般的な教科書の案内などのほか、以下の4点を強調しておきました。

  1. 「日本経済論」は経済学という科学を日本という国に応用する分野である。従って、基本的な経済学の知識は必要である。
  2. 経済には景気循環を考える短期とトレンドを中心にする長期があり、短期には需要が決定要因となるが、長期には生産性などの供給が決定要因となる。
  3. 幅広い視野で、一般均衡的に経済を見る必要がある。
  4. 医療の診察と処方箋に対応するように、経済学とは現状判断を基に政策や対策を考えるべき経験科学であり、同時に、政策科学である。

これらの4点について一演説ぶってから、公務員試験の受験希望者はいるかどうかを聞いてみると、150人以上の学生が詰まった教室で、わずかながら、5-6人が挙手しました。一応、私は長らく国家公務員をしていて、このブログでも何度か書きましたが、今で言うⅠ種経済職の国家公務員試験、その昔の上級職試験に合格しているだけでなく、人事院に併任されて公務員試験の試験委員も務めた経験がありますから、希望者の人数に応じて多少は考慮すると言い置きました。でも、大学はあくまで大学としての教育をする場であり、公務員試験のための専門学校とは違いますので限界はあります。ましてや、公務員試験の受験希望者が講義に出席している学生の1割にも満たないわけですから、残りの大多数の学生諸君に無関心な授業をするわけにもいきません。それから、大部屋での講義のほかにゼミもいっぱい受け持っています。2年生のゼミは昨年度の後期にやったのと同じような内容でいいと考えているんですが、新入生のゼミは学生の方も教師の私の方もなかなか難しくて戸惑っています。難しいことをやさしく教える能力が私には欠けているのかもしれません。何分、私も初めての体験ですから、出来るだけ新入生諸君の大学での学習意欲を高めるべく努力したいと考えています。

平成21年スギ花粉終息前線予測
平成21年ヒノキ科花粉終息前線予測

最後に、大学の授業とは何の関係もなく、環境省の発表によれば花粉はほぼ終息したようです。引用した上の画像の通りです。私にはとっても good なニュースです。

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2009年4月18日 (土)

ESP フォーキャストの平均見通し

今週は大学の授業の開講とともに少し忙しくなって、このブログで取り上げるトピックが遅れがちなんですが、今日は4月14日に発表された(社)経済企画協会の ESP フォーキャスト調査結果を簡単に見てみたいと思います。まず、先行き四半期別の年率換算の成長率見通しの平均を示したグラフは以下の通りです。

ESP フォーキャスト成長率見通し

まず、一見して明らかなんですが、私が景気後退期の中でも景気の大底と呼んで来た時期は、やっぱり、昨年末から今年年初にかけての2四半期くらいだったとのコンセンサスがあるようです。私は少し前まで、今年前半くらいまでの3四半期が大底かと考えないでもなかったんですが、最近ではやや強気に、4-6月期はプラス成長の可能性もあると考え始めていますので、今年4-6月期の前半まで大底が続くことはないと考え直しています。理由は、極めて景気の悪かった自動車などで在庫や生産の調整が4-5月くらいまでに一巡することと、定額給付金や地方高速道路料金の一律1000円などの経済対策の効果です。ESP フォーキャストの調査結果が私の見通しと少し違うのは、マイナス成長ながらも4-6月期にポンと上がってから、その後は成長率は緩やかながら淡々と上昇を続けると平均的に予想されていることです。私は秋口から2番底をうかがう W 字型の成長率パスも無視できない可能性があると見込んでいることは、前々からこのブログで表明している通りです。要するに、私は、言葉として適当かどうかは分かりませんが、メリハリの利いたというか、浮き沈みの激しいというか、起伏に富んだというか、そういった景気のパスを考えないでもありません。でも、40人の ESP フォーキャスターの平均を取ると、私のような考えのエコノミストがいるかどうかは分からなくなってしまいます。

ESP フォーキャスト消費者物価見通し

次に注目したのは生鮮食品を除くコア消費者物価の見通しで、四半期別の推移は上のグラフの通りです。平均的には、今年年央がマイナス幅がもっとも大きく、調査対象期間の2011年1-3月期までマイナスが続くとの結果になっています。高位平均でゼロに達するのが2010年4-6月期です。物価については私もまったく同じパスを考えています。しかし、他方で、2010年3月以降に日銀が金利引上げを実施するとの予想が8割近くに達しています。もちろん、2010年3月にすぐ利上げという意見ではないんでしょうが、オーソドックスな経済学における物価安定の定義からして、私はデフレという意味で足元における物価安定がすでに損なわれていると感じていて、平均を取った集計上の綾でないと仮定すれば、思いっ切り矛盾した調査結果であると断じざるを得ません。

最後に、この3月調査から初めて今後1年以内に景気転換点を迎えるとの回答結果が過半数に達しました。現在は景気の大底を超えつつあり、2番底の可能性があるとしても、徐々に景気転換点に向かって日本経済が動き始めているのは、多くのエコノミストが感じているところだという気がします。

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2009年4月17日 (金)

大学生新卒の就職は意外と堅調

今週の日曜日4月12日に大学の授業の開講に当たって、大学生の就職についての雑感を書きましたが、リクルート社から敏感に反応いただいて、「ワークス大卒求人倍率調査(2010年卒)」がその翌日の4月13日に発表されました。いろんなメディアで取り上げられていて知ってはいたんですが、続けざまに同じようなテーマのエントリーをアップするのも気がひけましたし、溜まっていたテーマもありましたので、取り上げるのは今夜になってしまいました。まずこのリポートからハイライトとなる部分を引用すると以下の通りです。

求人倍率は1.62倍と、昨年、一昨年の新卒採用の過熱ぶりに一段落
学生の民間企業就職希望者44.7万人に対して、民間の求人総数は72.5万人に

来春2010年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とする求人倍率は1.62倍となった。
厳しい経済環境ではあるが、今年の求人倍率は、1996年3月卒(1.08倍)や、2000年3月卒(0.99倍)の就職難とされている時期ほどには落ち込まない見通しとなった。

ということで、リポートに示されているグラフと同じのをマネして書いてみました。以下の通りです。赤い棒グラフが企業からの求人総数、青が大学生の民間求職希望者数で、ともに左軸の単位は万人です。緑の折れ線グラフはこの比率として求められる求人倍率で、右軸の単位は倍です。ここ2年ほど2倍を超えていたのがガクンと下がっているのが見て取れます。しかし、全体としては私もリクルート社の見方に賛成で、雇用が社会的に大きな問題になっているにしては、大学生の新卒者に対する求人は意外と堅調だと受け止めています。

ワークス大卒求人倍率調査 (2010年卒)

カギカッコ付きでやや「狂気の沙汰」だったバブル期を除いて、最近2-3年間の大学生への求人が盛り上がっていたのは、リポートでも指摘しているように、長期の景気拡大とともに、いわゆる団塊の世代が退職する時期が重なっていたためです。来春卒の大学生への求人が大幅に減っているのも、全く同じこの2つの要因で、景気が大幅に後退しているのと退職した団塊の世代の人員補充が一巡したためです。他方、大学生の民間企業への就職希望者は増加を続けています。少子高齢化が進んでいて、小学校などは統廃合が進んでいるんですが、大学の場合は進学率がまだ上昇しているため、大学生の人数が引き続き増加を続けているからです。
リポートには従業員規模別と業種別の調査結果も報告されています。従業員規模別では1000人未満と1000人以上の2区分しかありませんが、両方とも全く同じ▲23.5%の求人数の減少率を示しています。これに対して大学生の大企業志向は引き続き根強く、求人倍率で見て、1000人未満企業では3.63倍と高倍率である一方、1000人以上企業では0.55倍と極端な狭き門になっています。業種別では「派遣切り」や「雇い止め」が話題になった製造業でも大学新卒への求人意欲は高く、求人倍率は1.97倍を示しており、慢性的な人手不足の流通業でも4.66倍と高倍率になっている一方で、金融業では0.21倍、サービス・情報業では0.67倍となっています。本学の学生諸君は、どのような就職活動戦略を立てているんでしょうか。やや気になるところです。

今週は経済指標の発表が少ない上に、授業が始まり少し忙しくなったため、こういった調査リポートのご紹介で終わってしまいました。

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2009年4月16日 (木)

インターネット接続の高速化は進むか?

やや旧聞に属する情報ですが、先週4月7日に総務省から平成20年の「通信利用動向調査」の結果が公表されています。詳細な内容を含む pdf ファイルのリポートもあります。まず、会社などの企業ではなく、家庭などの世帯におけるインターネットの普及については以下のグラフの通りです。

インターネット利用者数と人口普及率

青い棒グラフが世帯での利用者数で、左軸の単位は100万人、赤い折れ線が世帯普及率で、右軸の単位はパーセントです。インターネットの利用者数は、対前年比280万人増の9,091万人に達し、人口普及率も前年から2.3%ポイント上昇して75.3%となっています。その昔のテレビなどもそうですが、耐久消費財などの一般的な普及率のグラフはS字型のいわゆるロジスティック曲線を描きます。インターネット普及もその例に漏れず、そろそろ普及のカーブが緩やかになって来ているように見受けられます。全体的な普及率の伸びは鈍化してグラフの傾きは緩やかになって来ているんですが、その中でも、ブロードバンド回線、特に光回線の普及率が上昇しているのが最近の特徴となっています。最近のインターネット接続回線の種類の推移は以下の表の通りです。

 200620072008
ブロードバンド回線67.9%67.6%73.4%
光回線27.2%31.3%39.0%
ADSL回線27.7%18.9%17.3%
CATV回線12.5%16.6%17.1%
ナローバンド回線36.3%30.0%24.9%
ISDN回線18.6%17.3%12.3%
電話回線17.5%11.4%9.4%
最近時点の2006年から2008年にかけての動向を見ると、ナローバンド回線からブロードバンド回線にジワジワと移行し、その中でも、ここ2年間で光回線が10%ポイントを超える普及率の上昇を示しています。逆に、10%ポイント以上のシェアを落としているのがADSL回線です。CATV回線は着実に伸びている印象があります。いろんなプロバイダのサイトを見ていると、ADSL回線の速度は12-50Mbpsで、光回線は100Mbpsが多いように見受けられます。もちろん、ハイスピードだと料金も高くなります。我が家は青山でも、長崎でもADSLの12Mbpsなんですが、ブロードバンド回線の中では最低スペックになってしまったようです。でも、光回線と比べるとほぼ 1/10 の速度とはいえ、子供達もクロノスのオンラインゲームをそんなに大きなストレスなく楽しんでいるようですし、私や女房にも大きな不満はありません。最近2-3年の流れが続くと仮定すれば、世の中のブロードバンド回線はジワジワとADSL回線から光回線に切り替わって行くのかもしれませんが、最後まで我が家は残りそうな気がしないでもありません。

今週から本格的に大学の授業が開始され、私は火曜日とともに木曜日も苦しい時間割ですので、やや古いながらヨソの調査結果を引用して軽く流しておきます。若干の疑義が残るものの、一応、経済評論の日記に分類しておきます。

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2009年4月15日 (水)

今夏のボーナス予想やいかに?

この3月末から4月初めにかけて、いくつかのシンクタンクなどから今夏のボーナス予想が発表されています。まず、この今夏の1人当たりボーナス支給額について、GDP統計や日銀短観などでチェックしているシンクタンクなどのリポートから下の表を取りまとめました。証券会社などの金融機関では顧客向けに出しているニューズレターでクローズに公表する形式の機関もありますし、私もメールなんかに添付してもらっているリポートもあるんですが、いつもの通り、ネットに PDF ファイルなどでオープンに公表している機関に限って取り上げています。なお、公務員とあるのは、みずほ総研と第一生命経済研については国家公務員と地方公務員の平均なんですが、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートには平均がなく、地方公務員の計数を取ってあります。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。なお、詳細な情報にご興味ある方は左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールされてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名民間
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.5万円
(▲7.6%)
59.9万円
(0.0%)
製造業を中心に大幅に減少
みずほ総研37.6万円
(▲7.5%)
69.7万円
(▲10.0%)
企業収益の悪化により、支給月数、所定内賃金ともにボーナス押し下げ
第一生命経済研37.6万円
(▲7.3%)
61.0万円
(+1.0%)
民間一人当たり支給額は前年比▲7.3%と大幅マイナスを予想
三菱UFJリサーチ&コンサルティング37.0万円
(▲8.9%)
59.9万円
(0.0%)
企業収益の大幅な減少を反映して、3年連続で減少

一見すると官民格差が大きいように見受けられますが、公務員の官庁エコノミスト出身の大学教授として、公務員バッシングに加担しないとの観点から言い訳を書いておくと、支給対象割合が大幅に異なるのが一因です。公務員の場合はほぼ全員にボーナスが支給されるのに対して、民間企業の場合は80%くらいしか支給されません。しかも、この支給割合は低下して来ています。例えば、計数を明記している三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートに従えば、1997年には91.7%あった支給割合が今夏には80.8%まで低下すると見込まれています。まあ、それにしても、0.8で割り戻しても50万円に達しない民間企業に比べて、ほぼ60万円に届く公務員は、少なくとも、ボーナスの観点からすれば恵まれているのかもしれません。
官民格差は別にして、民間企業の1人当たり夏季ボーナスとしては3年連続でマイナスとなることは明らかで、過去最大の落ち込みとなったのは2002年の▲7.1%減でしたから、これを上回る可能性が大きいとの予想となっています。さらに、前のパラでも書いたように、支給対象者数が▲2-▲3%くらい低下する予想が多く、1人当たりの減少率と支給対象の低下をかけ合わせて、民間企業の支給総額は2桁マイナスに達しても不思議ではありません。さらに、公務員についても、昨年度の人事院勧告では据置きとされているにもかかわらず、読売新聞の記事などによれば、勧告を行った当の人事院が民間に合わせて、公務員の夏季賞与を減額すべく、異例の臨時の人事院勧告を行うとの報道もあります。そうなると官民そろって共倒れかもしれません。
夏季賞与のこのような減額の背景は、第1に、企業収益の落ち込みです。世界的な需要の減退により売り上げが減少し、経常収益でみて、日本企業の総計の企業収益がマイナスになる可能性があるほどの経済情勢ですから、収益に応じた支給を原則とするボーナスに回す資金が不足しているのも事実です。第2に、労働分配率の上昇です。みずほ総研のリポートに従えば、バブル期には60%を下回っていた労働分配率が、昨年2008年10-12月期には70%超に達しました。非正規雇用の調整に続いてリストラによる正規職員の雇用調整も一部に始まっており、伸縮可能な賃金部分と見なされているボーナスの減少は避けられません。

経済が怖いところは景気循環があるところです。日本の場合は企業活動を起点として、何らかの原因による需要減退などにより企業収益が減少すれば賃金、すなわち、消費者の所得が停滞し、GDPの大きな部分を占める消費の低迷を招き、スパイラル的に経済活動が後退してしまいます。もちろん、逆は逆なんですが、オーバーヒートすることもあります。エコノミストの目から見て、企業活動は最悪期を出しつつあるように見えなくもありませんが、これからは家計が景気後退の荒波に突入する時期を迎えているのかもしれません。

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2009年4月14日 (火)

定額給付金でプチ贅沢?

すでに、かなりの市町村で定額給付金の手続きが開始され、我が家でも港区と長崎市から通知を受け取っています。私はすでに返送しました。この定額給付金について、一部のメディアで報道されていましたが、インターネットを活用した調査会社であるマクロミル社から先週4月10日に「定額給付金の使い道に関する調査」が公表されています。詳細な内容を含む pdf ファイルのリポートもあります。調査結果をマクロミル社が要約したのを引用すると以下の通りです。

  • 定額給付金の使い道、1位は「外食(28%)」。特に「焼肉」が人気
  • どのように使うかは「家族で話し合って決める(48%)」
  • 5割以上が定額給付金で「プチ贅沢をしたい」

定額給付金の使い道

まず、「使い道」については、上の通りです。「外食」の回答の中で「焼き肉」に次いで「寿司」も高い比率を示しています。「旅行」では為替の関係でしょうか、「韓国旅行」も上がっています。また、「受け取らない」と答えた人が0.3%いるのも目に止まってしまいました。

定額給付金の使い道の決定方法

次に、「使い道の決定方法」は上の通りです。「家族で話し合って決める」が半数近くある一方で、「妻が主導して決める」が「夫が主導して決める」の5倍の比率を示しています。我が家もそうかもしれません。少なくとも、前の地域振興券の時はそうでした。

定額給付金で「プチ贅沢」をしたいと思うか

最後に、「プチ贅沢」については、「そう思う」と「ややそう思う」の合計が過半となっていますが、最大でもサンプル数が1000程度の調査ですから、「プチ贅沢」への回答は拮抗していると見るべきなのかもしれません。なお、「プチ贅沢」の具体的な内容もリポートされているんですが、「発泡酒ではなくビールを飲む」といった、ホントの「プチ贅沢」から、「ドンペリを飲む」といった、やや私の基準からすれば「プチ贅沢」から外れるものまで様々でした。

昨年度後期もそうだったんですが、今年度前期も火曜日には2コマの授業があり、苦しい時間割となっています。従って、今夜のエントリーはちょっとした調査資料のご紹介で軽く流しておきます。

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2009年4月13日 (月)

追加経済対策へのエコノミストからの視点

先週4月10日、15兆円の補正予算を柱とする「経済危機対策」、いわゆる追加経済対策が「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議において決定されました。緊急の課題となっている雇用対策をはじめとして、エコカーやグリーン家電への買換えの促進をはじめとする低炭素革命、地域活性化や安全安心の確保、贈与税などの税制改正が中心的な項目となっています。まず、内閣府のホームページにアップされている会議の決定文書から「第2章 具体的施策」の目次を引用すると以下の通りです。

  1. 緊急的な対策 - 「底割れ」の回避
    1. 雇用対策
    2. 金融対策
    3. 事業の前倒し執行
  2. 成長戦略 - 未来への投資
    1. 低炭素革命
    2. 健康長寿・子育て
    3. 底力発揮・21世紀型インフラ整備
  3. 「安心と活力」の実現 - 政策総動員
    1. 地域活性化等
    2. 安全・安心確保等
    3. 地方公共団体への配慮
  4. 税制改正

何といっても、政府の決定文書は読みづらく分かりにくいので、次に、メディアの記事の中から追加経済対策の中身を少し詳しく報じたものを示すと以下の通りです。ただし、対策の一覧表などを含めた記事を優先しましたので、4月10日の正式決定前の情報に基づく記事も含まれています。中身の変更があり得ますが、厳密なチェックはしていません。悪しからず。

実質GDPのパスのイメージ図

昨年度からの対策を含めた累次の経済対策について、上のイメージのような実質GDPのパスがイメージされています。今回4月10日に決定された追加経済対策だけでも、本年度の実質GDP成長率を2%程度押し上げ、需要拡大により40-50万人程度の雇用創出があるとの試算がなされています。上の画像や試算結果は内閣府のホームページにある「『経済危機対策』の経済効果」というリポートから引用しており、このリポートには失業率のパスのイメージについても報告されています。
この追加経済対策について、先週4月7日のエントリーでは規模について考える際のポイントを取り上げましたので、今夜は中身について、特に、話題になっている2点について、エコノミストの視点から少し考えたいと思います。まず、エコカーやグリーン家電への買換え促進です。政府が基本的な方針として地球環境保護を重視し、そのために、家計レベルにおいてエコカーやグリーン家電に買い換える方向のインセンティブを付与することは重要性が高いと私も考えています。ただし、ホンの少しだけですが、疑問なしとしないのは電機や自動車などの大きな輸出の減退により売り上げを減少させている業界支援の色彩が見られることです。お題目として輸出依存から内需への転換を図るのは大いに結構なことですが、このブログでも従来から主張しているように、現時点で景気の悪い業界に生産要素を温存するような政策ではなく、異時点間の最適化という意味でのダイナミックな生産要素配分の効率化を図るような政策が必要との観点からして、一見するとこの私の主張に反しているように見えなくもありません。もっとも、同じ業界や企業の中でよりエコな製品に生産資源をシフトする効果は大いにあることは理解すべきですし、かなり評価の高い政策だということは明らかです。しかし、やや脱線しますが、より深く考えるべき点は、地球環境保護の活動は、この先、消費者の不便やコスト負担を避けられないことは認識すべきです。少し前まで、省エネなどで消費者が利得を得ることが地球環境保護にもつながるような活動が大いに受け入れられてきましたが、今後は消費者のコスト負担の増加なしに地球環境保護は進まない段階に達してしまったと私は見ています。しかし、他方で、まだまだ国民の意識としてコスト負担の増加を受け入れる意識は大きくない部分があるとも聞き及んでいます。一例として、ジョークとして広まったウワサによれば、少し前に、ある地方公共団体が地球環境に関するイベントを催したところ、無料で配布したエコバッグはアッという間になくなった一方で、植樹のための募金の集まりは非常に悪かったといいます。どこまでホントかウソか私は知りませんが、あり得る話として受け取る向きが多かったことも確かです。初期段階としては、消費者のコスト負担を政府が一部なりとも肩代わりしつつも、段階的に地球環境保護のためのコストを消費者が受け入れられるような政策も模索されてしかるべきだという気もします。
次に、住宅取得のための時限的な贈与税の軽減については、もう少し疑問が大きくなります。というのは、第1に、住宅取得に対象が限られていて、これまた、景気の悪い業界に生産要素を温存する傾きが見られるからです。もちろん、住宅取得費用を親に補助してもらえば、回り回って子の世代の別の消費を増加させる可能性も大いにありますから、この点はまあいいと考えるとしても、第2に、私が従来から主張しているように、高齢者層に購買力が滞留していると政府が正しく認識しているのであれば、より抜本的な政策を講じるべきだと私は考えます。今回の措置はインフォーマルな広い意味での家計や家族の中での移転に止まっているわけですし、加えて、この減税分を将来の消費税増税によって補填すると仮定すれば、広く浅く課税した税金を譲渡税減免の恩恵にあずかれる一部家計に移転することになり、一部の野党が主張する格差の拡大につながるとの見方にも一定の根拠があることになります。現在の景気対策のような緊急課題ではなく将来的な課題かもしれませんが、国民的なコンセンサス作りの上で、場合によっては、年金を含めた高齢者への給付を減らし、負担を増やすことなどにより、フォーマルなルートを通じて、本格的に高齢者に滞留している所得や資産を含めた広い意味の購買力を移転させる政策が模索されるべきだと私は従来から考えています。来年度末までの約2年間の時限的な措置とのことですから、期限後にこの措置を単純に延長するのではなく、その後、抜本的な政策対応を期待したいと思います。

以上、私らしく少しナナメに見た追加経済対策のホンの一部に対するエコノミストからの疑問でした。現下の経済情勢では、なりふりかまわずモラル・ハザードに拘泥することなく需要拡大策を推進する必要があるのは確かなんですが、一時的な需要拡大策が終わり景気転換点を超えれば、本格的に日本経済の歪みの是正や体質強化を目指した政策が必要な部分も少なくないと思います。

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2009年4月12日 (日)

巨人に勝つところが見たかった!

この週末の東京ドームでの対巨人3連戦は、久し振りに長崎でも全国放送で3試合とも野球中継があり、それなりに楽しみましたが、結局、3試合戦って巨人に勝てませんでした。誠に残念。何だか、去年から長らく巨人に勝ってないような気がしないでもありません。
まだシーズンが始まったばかりですが、昨年の岡田タイガースの開幕ダッシュを見ているだけに、今年の真弓タイガースの戦い振りには物足りないものがあります。もちろん、故障者が多いとか、期待した外国人選手が打てないとか、いろいろと理由はあるんでしょうが、特に、この3連戦は競った試合をものに出来なかったような気がします。今日の試合も、ホームラン1発で決まりそうな終盤なのに、桧山選手も今岡選手も代打に送らない采配も不思議でした。この先、ゴールデンウィークまで巨人戦がなく、野球不毛の地の長崎にいるためにテレビ観戦できない身としては、この3連戦で阪神が勝つところを見たかった気がします。

それでも、やっぱり、
がんばれタイガース!

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新年度の授業を開始するに当たっての雑感

本学の授業は正確に言えば先週の金曜日から始まっているんですが、私は金曜日の授業を担当していませんので、私については今週から授業が始まります。この授業開始に当たって、特に、大学は学生諸君を社会に送り出す準備機関の色彩が強いと私は考えていますので、大学生諸君の就職事情について、今日は簡単に雑感をアップしておきたいと思います。

昨日、伊王島に渡って接した新入生諸君にも言ったんですが、昨年9月のリーマン・ショック以来、すでに始まっていた世界的な景気後退が急速に悪化し、しばらく、大学生の就職は期待できません。もちろん、労働統計の中でも、新規求人数のような先行指標や有効求人倍率のような一致指標もありますが、失業率などをはじめとして、かなりの雇用関係指標は遅行系列ですし、2年ほど前までのように大学生の就職も売り手市場で、本学の学生諸君もかなりいいところに数多く就職できていたような状況は、誠に残念ながら、現在の4年生から新入生くらいまでは望み薄だろうと予想しています。
特に、本学の場合、2点指摘しておきたいと思います。まず、大学のブランド力です。当然のことながら、非常に単純化して言えば、労働市場では限界生産性の高い労働者から順に雇用されて行って、限界生産性と賃金が一致する点で雇用がストップすることはマイクロな経済学の教えるところです。一昔前のように、入学試験の偏差値で大学生が振り分けられる時代ではありませんが、控え目にいっても、本学の場合は東大や私の母校の京大のようなトップ校ではないことは広く認められているところですし、別の表現をすれば、ブランド校ではないと言う人もいるかもしれません。大学のブランド力は侮れない部分もあり、当然ながら、このブランド力は長い伝統の中で学生の総合力としてのレベルに起因する部分が大きいのも確かです。
次に、大学のロケーションです。長崎県内で就職を探す場合は別にして、本学の学生む九州各地から集まっていますから、就職活動を行うのは九州圏内では福岡、それを超えれば大阪などの関西圏、もちろん、場合によっては東京などの首都圏に出向かねばならないわけで、時間距離としては東京に行く方がJRで福岡に行くよりも近いかもしれませんが、金銭的な負担は大きいわけですから、就職活動も楽ではありません。個人的な事情ながら私の場合は京都でしたから、関西圏内であることはいうまでもなく、新幹線により東京へのアクセスも良好でしたが、長崎の場合はタイヘンです。

長い伝統の中で形成されて来た大学のブランド力も、さらに、長崎というロケーションも、現在の学生諸君にはいかんともしがたい所与の条件であることは理解していますが、この2点を乗り越えるべく、本学学生諸君が勉学に励んで就職戦線を乗り切って社会に出る準備を進めることを期待します。
がんばれ大学生!

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2009年4月11日 (土)

第67期名人戦7番勝負第1局は羽生名人の先勝

昨日から椿山荘で指し継がれていた第67期名人戦7番勝負第1局は昨夜午後9時41分に終局しました。158手で先手番の挑戦者・郷田九段に羽生名人が先勝しました。持ち時間9時間のうち、残りは名人1分、挑戦者1分だったそうです。第2局は今月4月21-22の両日、熊本市の熊本城で開催されます。下の画像は朝日新聞のサイトから引用した投了図です。

第67期名人戦7番勝負第1局投了図

今年の名人戦第1局は相矢倉となり、がっぷり四つに組んだ力戦形になりました。「一気に決着がつくのではなく、ねじりあいが続きそうです」との先崎八段のコメントが報じられたりしていました。羽生名人が58手目に角交換を挑み、局面が動き出します。当然ながら、互いに角を敵陣に打ち込み、馬を作って桂香を取り合った後、双方の馬と飛車が交換され、終盤戦に入ります。寄せ合いの様相を呈して来たんですが、控室の検討陣も容易に優劣を判断できない難解な戦いが続き、最後は羽生名人が押し切りました。立会人は谷川浩司九段、記録係は我が家の下の子が将棋教室でお世話になっている天野貴元三段でした。天野三段が安食女流初段と開設している安食スタイル天野美学と題するブログには「和服は正直まだ慣れてこないです。」なんて書いてありました。まだまだ経験不足なんでしょう。

今週半ばに本学でも入学式があり、新入生オリエンテーションの一環で、今日の午後に伊王島に渡ります。最初に「イオウジマ」と聞いた時は、少し前に映画も話題になりましたし、てっきり栗林中将の硫黄島だと全国区思考の私は考えてしまい、長崎には島がいっぱいあるのに何で硫黄島まで行くのかと不思議だったんですが、長崎ローカルでは温泉などで有名なところらしいです。天野三段が和服に慣れないように、私も長崎ローカルの思考パターンにはまだまだ慣れません。そろそろ出かけます。

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2009年4月10日 (金)

昨年度1年間にアップした読書感想文

新年度が明けて10日がたちました。役所も予算で動いていますから財政年度の年度末や年度初めといった区切りはあるんですが、教育機関はもっと年度の区切りが強烈だということを実感しています。年度末には卒業式、年度初めには入学式、もちろん、授業なども大きな区切りとなります。ということで、大学のサイトなど、いろいろと私も見直しをしていたんですが、先日、プロファイルの更新をしました。子供達が学年を上げたのが唯一の理由です。3月までは「小学6年と4年」でよかったのが、4月から「中学1年生と小学5年生」になりました。そこで、プロファイルの一環として mixi を更新していると、何と、第139回芥川賞受賞作の楊逸さんの『時が滲む朝』(文藝春秋) に関する酷評の読書感想文を昨年9月にアップしてから、mixi では半年余りレビューを書いていないことが判明してしまいました。それなりにマズいと考えて、4月に入ってから、せっせと昨年の分も含めて本のレビューをアップしました。内容は基本的にこのブログの読書感想文と同じなんですが、mixi の方は字数制限が厳しいので、少し削除した部分もあります。結果的に、文脈が通らなくなるようなことはないように配慮したつもりですが、十全な自信はありません。参考として、昨年4月から今年3月までの昨年度1年間にブログに読書感想文の日記をアップした本の一覧です。全部で22冊あり、最近にアップした順になっています。

  1. 大崎善生『聖の青春』(講談社)
  2. 村上春樹『羊をめぐる冒険』(講談社)
  3. 川上未映子『先端で、さすわさされるわそらええわ』(青土社)
  4. 恩田陸『きのうの世界』(講談社)
  5. 芥川賞受賞の津村記久子『ポトスライムの舟』(講談社)
  6. 田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』(文藝春秋)
  7. 村上春樹新訳、サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社)
  8. 江上剛『統治崩壊』(光文社)
  9. 村上春樹『うずまき猫のみつけかた』(新潮社) 新装版
  10. アレックス・アベラ『ランド - 世界を支配した研究所』(文藝春秋)
  11. 柳広司『ジョーカー・ゲーム』 (角川書店)
  12. 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)
  13. 平野啓一郎『決壊』(新潮社)
  14. 楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋)
  15. J. K. ローリング『ハリー・ポッターと死の秘宝』(静山社)
  16. チャーリー・フレッチャー『アイアンハンド』(理論社)
  17. 堂目卓生『アダム・スミス』(中公新書)
  18. 田中慎弥「蛹」(『新潮』2007年8月号)
  19. 野田稔+ミドルマネジメント研究会『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)
  20. 荒井一博『学歴社会の法則』(光文社新書)
  21. キース・デブリン、ゲーリー・ローデン『数学で犯罪を解決する』(ダイヤモンド社)
  22. 上野泰也『チーズの値段から未来が見える』(祥伝社)

一応、念のために断っておくと、私は昨夏に官庁エコノミストから経済学部に勤務する大学教授に出向しましたから、通勤電車を含めて図書館や研究室やオフィスなどで経済書を読むのは極めて重要な業務のひとつであり、勝手に決めたこのブログの原則として、業務として読んでいる経済書の書評は掲載しないことにしています。例外的な扱いを受けたのは堂目教授の『アダム・スミス』と上野さんの『チーズの値段から未来が見える』といえますが、実は、このブログの12月30日付けのエントリーで取り上げた週刊「ダイヤモンド」のベスト経済書にどちらも入っていて、しかも、私が推した本よりも上位にランクされていたような気がしないでもありません。少なくとも、授業で取り上げない軽い経済関係の本という趣旨でこのブログで取り上げたんですが、やや失礼な扱いだったかもしれないと反省するとともに、あるいは、このようなマイナーなブログでも取り上げた方が売上げには貢献するのではないかと思ったり、複雑な心境です。

もしも余裕があれば、今年度は夏休みの読書案内なども考えたいと思います。

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2009年4月 9日 (木)

景気底入れから急回復シナリオか、W 字型の2番底シナリオか?

昨日今日と内閣府から注目すべき統計指標が発表されました。まず、昨日は、3月の景気ウォッチャー調査が発表されました。下のグラフの通り、昨年12月を底にして、一般国民のマインドは急回復しているように見えます。

景気ウォッチャー調査の推移

次に、今日は、2月の機械受注統計が発表されました。設備投資の先行指標となる船舶と電力を除く民需の、いわゆるコア機械受注は、事前の市場予想では▲7-8%の減少と見込まれていたんですが、この予想に反して5カ月振りに+1.4%と増加しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

内閣府が9日発表した2月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」(季節調整値)は7281億円と、前月に比べ1.4%増えた。5カ月ぶりのプラス。製造業は過去最低の受注額となったが、鉄道車両など非製造業が堅調だった。内閣府は「反転したとはいえないが、減少のテンポが緩やかになった」とみている。
2月の実績は日経グループのQUICKが民間調査機関26社に聞いた直近の事前予測の平均値(7.1%減)を上回った。内閣府は基調判断を3カ月ぶりに変更し、前月までの「大幅に減少している」から「減少が続いている」へと上方修正した。上方修正は2007年5月以来となる。

このコア機械受注のグラフは以下の通りです。

コア機械受注統計の推移

私の予想では、今年いっぱいはGDPベースの設備投資がマイナスを続け、全体のGDP成長率も財政政策の効果が現れる4-6月期を除いて年内いっぱいマイナスとなる可能性があり、年明けあたりから緩やかに景気転換点を目指す、というものでしたが、ほぼこのシナリオをサポートしていると私は受け止めています。私の見込みでは、株価も5月の連休明けくらいからウワサも含めて3月決算が明らかとなるにつれて弱含む可能性があり、秋口から2番底をうかがいに行くという W 字型の景気回復シナリオが標準なんですが、場合によっては、今年半ばに底入れして急回復の fast-in fast-out のシナリオも無視できない確率であり得るようにも思えて来ました。その根拠は、第1に、財政政策の動向、第2に、ISM指数などに現れた米国経済の動向、第3に、昨日今日のマインドや設備投資動向などです。後者の急回復シナリオは好ましいようにも見えますが、逆に、現在の財政出動は度を過ぎている可能性もありますので、何とも言えないところです。景気転換点が近づくと経済情勢はこんなものかもしれません。

最後に、経済の話題を離れて、今日から挑戦者に郷田九段を迎えて、羽生名人との第67期名人戦七番勝負第一局が始まりました。相矢倉・相居飛車の力戦模様のようです。我が家の下の子が将棋教室でお世話になっている天野三段が記録係を務めています。こちらも目が離せません。

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2009年4月 8日 (水)

おにいちゃんの中学校入学式

おにいちゃんの中学入学式を終えて親子で記念撮影

そろそろ東京のサクラも散り始めましたが、学校の入学式のシーズンを迎えています。実は、私の勤務する大学の入学式もこのころなんですが、今日は年休を取って、我が家のおにいちゃんの中学校の入学式に女房とともに行きました。上の写真は入学式を終えて一家で記念撮影です。3月25日付けでアップしたエントリーは卒業式でしたので、まだ小学校の帽子姿だったんですが、今日は中学の詰襟姿です。わずか2週間しかたっていないんですが、親バカの欲目と姿形に惑わされて、何だか大きな成長をしたように感じてしまいます。しかし、逆に言うと、男の子ばかりの学校で、みんな同じ詰襟姿で、カバンまで同じですから、見分けがつきません。入学式を終えた後のクラスごとの記念撮影の際には、カバンを校庭の適当な場所に置いて撮ってもらった後、どれが自分のカバンか分からずに、みんなでカバンを開けて誰のかを確かめていたりしました。我が家のおにいちゃんは独自性を発揮して、私がセミナーに参加した時に入手した GTAP バックでしたので問題ありませんでした。どうでもいいことですが、GTAP とはパーデュー大学で開発されている応用一般均衡モデルで、MatLabDynare をシミュレーションするのが我が業界でデファクト・スタンダードになるまでは世界標準だった気がします。今でも一部にそうなのかもしれません。

当然ながら、本学でも入学式の季節だと思いますので、そろそろ、私も長崎に戻って大学生の相手をする時期になった気がします。

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2009年4月 7日 (火)

アニキの逆転サヨナラで信じられないリニューアル甲子園初勝利!

  RHE
広  島000120700 10141
阪  神102001124 11190

すごい試合でした。私がお風呂に入ってテレビから目を離している間の7回オモテに、何と7点取られて10-4になってお風呂から上がって来た時には、今夜は負けかと覚悟しましたが、再び何と9回ウラに4点取って逆転サヨナラで勝ってしまいました。最後を締めたのは藤川投手ではなく、アニキ金本外野手でした。しばらくの間は語り草になるような印象深い試合でしょう。ほとんど、何が起こったのか、私は信じられませんでした。我が家のおにいちゃんがスキンヘッドをお気に入りのメンチ外野手が3安打もまとめて打ったのも信じられなかったりします。取りあえず、まったく準備していなかったので、短くアップしておきます。

がんばれタイガース!

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景気対策の財政規模を考える際のポイント

麻生総理大臣が昨日の記者会見で真水でGDP比2%、10兆円を超える規模の補正予算を柱とする追加経済対策を取りまとめることを発表しました。今日の新聞の1面で報じられており、内容についても断片的ながらチラホラと報じられ始めています。まず、私が見た範囲で、読売新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

新たな経済対策

【第1章 経済危機克服の道筋】

【第2章 具体的施策】
  1. 緊急的な対策
    1. 雇用対策 ワークシェアリングに取り組む企業へ雇用調整助成金の対象拡大
    2. 金融対策 日本政策投資銀行や商工中金の融資枠拡大で企業の資金繰り支援
    3. 事業の前倒し執行
  2. 成長戦略 - 未来への投資
    1. 低炭素革命▽公共建築物、住宅などへの太陽光発電の導入促進▽エコカーへの買い替えなど普及促進
    2. 健康長寿・子育て▽地域医療再生計画に基づく医療機能の強化や医師確保などの取り組みを支援▽介護職員の処遇改善を行う事業者に3年間の助成金
    3. 底力発揮・21世紀型インフラ整備▽耕作放棄地を再生する農家に補助金を支給▽世界最先端の研究開発インフラを整備▽羽田空港の延伸など港湾や空港のインフラ強化▽公共施設の地上デジタル放送対応を促進
  3. 「安心と活力」の実現 - 政策総動員
    1. 地域活性化等
    2. 安全・安心確保等
    3. 地方公共団体への配慮▽1兆円超の交付金を創設、地方自治体による公共事業の地方負担分は原則9割を国が負担
    4. 政策減税・贈与税の減免、中小企業の交際費非課税枠の拡大、研究開発減税の拡充

報じられている内容については変更もあり得ますし、今夜のエントリーでは、追加経済対策における財政政策の規模を考える上で考慮すべきポイントについて、以下の通り、2点プラスアルファを取り上げたいと思います。

まず、GDPギャップの大きさです。もちろん、財政政策によってGDPギャップをすべて埋めなければならないと考えるエコノミストは少数派でしょうが、少なくとも、GDPギャップを上回る規模の財政出動は意味がないことについては大多数のエコノミストは同意すると思います。GDP統計の発表ごとに公表される内閣府の推計による最新のGDPギャップのグラフは以下の通りです。

GDPギャップの推移

昨年2008年10-12月期の段階で、GDP比▲4%を超える需要不足が生じていることが読み取れると思います。このGDPギャップの先行き予想については、今年の3月時点での日本総研の試算があり、下のグラフの通り、今年2009年中はGDP比▲10%程度で推移すると見込まれています。私が知る範囲でも、GDP比で▲10%を超える需要不足はかなり大きなものだという気がします。繰返しになりますが、この需要不足をすべて財政政策でゼロにする必要はないものの、ある程度の規模の経済対策が必要であることは直感的に理解できると思います。

GDPギャップの推移と長期試算

GDPギャップの次に考えるべきは財政政策の乗数の大きさです。よく参照される内閣府のマクロ計量モデルを用いた試算に従えば、すべて名目ベースで、継続的にGDP1%相当額を公共投資と個人所得税減税により景気刺激を実施するGDPギャップへの影響は以下の表の通りです。

名目ベース1年目2年目3年目
公共投資0.951.000.84
個人所得税減税0.220.530.50

繰返しこのブログで表明したように、私は資金の使途を国民にゆだねる減税を公共投資よりも推奨する立場なんですが、純粋に経済効果だけを考えると、減税よりも公共投資の方がマイナスのGDPギャップを縮小させる効果が大きいことは確かです。小数点以下の細かい桁数まで信頼性があるかどうかは別にして、大雑把に、公共投資で1.0くらい、所得税減税で0.2-0.5くらいの乗数が示されています。

以上のGDPギャップの大きさと財政政策の乗数については科学としての経済学でかなりの程度に計測可能なんですが、加えて、プラスアルファの政策判断が必要です。まず、どこまで財政政策によってGDPギャップを縮小させるのか、あるいは、同じことですが、景気下支えのどの程度までを財政政策による刺激策に頼るのかという選択があります。さらに、今回の財政政策発動には赤字国債の発行による財源が必要であることは確実ですから、まず、目先の話として国債が市場で消化できるかどうか、先の話として、景気回復後の増税を含む税制見直しのあり方などとも大いに関係します。国債の消化については私は何ら問題ないと考えますが、もちろん、国債の需給要因から金利が上がってしまうと財政政策の効果を大いに減殺します。

いずれにせよ、現在の議論は、米国のガイトナー財務長官が言い出したといわれているGDP比2%のカギカッコ付きの「国際貢献」とカギカッコなしの明白な選挙目当ての公共投資拡大論がゴッチャになって、本来の財政政策のあるべき姿が見失われているような気がしないでもありません。エコノミストの意見は置去りなのかもしれません。

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2009年4月 6日 (月)

景気動向指数はバブル後不況を超える景気の大底に向かう

本日午後、内閣府から今年2月の景気動向指数が発表されました。いずれも季節調整済みの月次計数で前月値と比較して、一致系列は▲2.7ポイント、先行系列は▲2.0ポイント、それぞれ下降しました。まず、朝日新聞の記事を引用すると以下の通りです。

内閣府が6日発表した2月の景気動向指数(速報)は、現状を示す一致指数が86.8と、前月より2.7ポイント下がった。7カ月連続の低下となり、02年4月以来約7年ぶりの低水準に落ち込んだ。低下幅は過去3番目。内閣府は景気の基調判断を9カ月連続で「悪化」に据え置いた。
一致指数を構成する指標は、鉱工業生産指数や大口電力使用量、有効求人倍率など速報段階で公表された九つすべてが前月より悪化した。また、2-3カ月先の景気動向を示す先行指数も75.2と、前月より2.0ポイント下がり、5カ月連続の低下となった。
3カ月前より改善した経済指標の割合を示すDI(ディフュージョン・インデックス)も同時に公表され、6カ月連続のゼロだった。6カ月連続でゼロとなるのは比較可能な80年1月以来初めて。

次に、いつもの景気動向指数のグラフは以下の通りです。前月までは上のパネルの CI だけだったんですが、今月は下のパネルの DI 一致系列のグラフも書いてみました。CI が方向感だけでなく、量感・ボリューム感も表しているのに対して、DI は方向感だけなんですが、それにしても、昨年9月以来、半年間の長きに渡って DI 一致指数がゼロを続けるのも、ある意味で、異常な事態であろうと私は考えています。

景気動向指数の推移

DI の一致系列が6か月連続でゼロを記録し続けている一方で、CI の方もまだまだ先行系列・一致系列とも低下を続けています。少なくとも反転の兆しは一向に見られず、大底に向かっていると見る方が自然な気がします。なお、グラフに見られる限りの1980年以降の景気後退局面直前の CI 一致系列のピークとトラフを抜き出したのが下の表です。CI 一致系列のピークとトラフですから、景気そのものの山と谷に一致しているわけではありません。

谷 (直近)下落幅 (率)
1980年2月 82.71982年10月 74.8▲7.9 (▲9.6%)
1985年7月 84.71986年11月 79.3▲5.4 (▲6.4%)
1990年10月 103.81993年12月 79.8▲24.0 (▲23.1%)
1997年5月 95.81998年12月 84.0▲11.8 (▲12.3%)
2000年12月 95.42002年1月 83.9▲11.5 (▲12.1%)
2007年8月 105.52009年2月 86.8▲18.7 (▲17.7%)

グラフでも表でも1980年の景気動向指数が利用可能な範囲で抜き出していますが、1990年代前半のいわゆるバブル崩壊後の景気後退期に近い景気の落ち込みを感じ取るエコノミストも少なくないと思います。表の計数ではありませんが、直近半年ほどの CI 一致系列の動きを見ると、リーマン・ショックのあった9月の99.8から今年の2月の86.8まで、毎月平均2.6ポイントずつ落ちています。ですから、この動きがあと2か月続くと下落幅としても下落率としても、ほぼバブル崩壊後の景気後退期の落ち込みに並ぶと考えて差支えありません。世間では4-5月くらいに主要メーカーの生産や在庫の調整が一巡すると報じられていますから、この単純計算を当てはめると、4月に生産や在庫の調整が終わるのであればほぼバブル崩壊後並み、5月に入るのであればバブル崩壊後を超える、ということになります。もっとも、極めて単純な前提の計算ではあります。その後、底這いかやや上向いた後、需要が盛り上がらなければ W 字型のパスを描いて2番底をつけに行く可能性も否定できないことはくり返し主張しているところです。

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2009年4月 5日 (日)

下の子とユニセフのラブウォークに参加する

昨夜の雨も朝のうちに止んで、今日はまずまずの春のうららかなお天気でしたので、朝から、ユニセフの主催するラブウォークに参加して、下の子が活動しているボーイスカウトのカブ隊といっしょに港区内を歩いて来ました。
私が参加したのは、ユニセフの主催する第27回のラブウォーク中央大会で、テーマは「守りたい。子どもたちの命、アフリカの未来」でした。参加料は500円で、もちろん、ユニセフ募金込みです。高輪にあるユニセフハウスをスタートとゴールに、6キロと12キロの2コースがありました。下の子が参加しているカブ隊と私は12キロのコースに挑戦し、ユニセフハウスを出て明治学院の前からプラチナ通りを歩いて有栖川宮記念公園、麻布十番商店街を抜けて東京タワー、増上寺、泉岳寺から高輪のユニセフハウスに戻ります。コースを歩き切ると完歩証にスタンプがもらえます。コースの詳細はユニセフのホームページに pfd ファイルのパンフレットがアップしてあります。
下の写真は私がいっしょに歩いたスカウト一行です。上から、ユニセフハウスに集合したところ、東京タワー目指して歩いているところ、芝公園で早めの昼食中のスカウト達です。この昼食中の11時40分ころに港区の放送があり、北朝鮮から飛翔体が発射されたことを知りました。

ユニセフ・ラブウォークに参加したスカウト一行
ユニセフ・ラブウォークに参加し東京タワーを目指すスカウト一行
ユニセフ・ラブウォークに参加し芝公園で昼食のスカウト一行

私自身を含めて、ひとり一人の活動は極めて限られたものですが、積み重なって、1人でも多くのアフリカの幼い命を守る力になることを心より願っています。でも、12キロ歩くと疲れました。

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2009年4月 4日 (土)

取りあえず、米国雇用統計のグラフィック

日本時間の昨夜、米国労働省から今年3月の雇用統計が発表されました。いずれも季節調整済みの月次計数で、ヘッドラインの非農業部門部門雇用者数は▲66.3万人減と大幅な減少が続き、失業率も8.5%と一段と跳ね上がりました。まず、New York Times のサイトから記事の最初の3パラだけを引用すると以下の通りです。

With 663,000 more jobs disappearing from the American economy last month, swelling the total number of jobs surrendered to the recession beyond five million, the government's response to the downturn is being put to a strenuous test.
When drafting plans in January to spend roughly $800 billion to stimulate the deteriorating economy, the Obama administration operated on the assumption that the unemployment rate would reach 8.9 percent by the end of the year - without the extra federal spending. Three months into the year, the unemployment rate has already soared to 8.5 percent, from 7.6 percent, the highest level in more than a quarter-century.
Between January and March, more than two million jobs were lost, according to the Labor Department's employment report, released Friday.

次に、いつもの米国雇用統計のグラフは以下の通りです。上のパネルの赤い折れ線グラフは季節調整済み系列の非農業部門雇用者数の前月差、左軸の単位は千人です。下のパネルの青の折れ線は季節調整済みの失業率です。グラフに収めた1990年以降としては、もっとも悪い数字が出たことが見て取れると思います。

米国雇用統計の推移

日本のサイトでもいろいろと報じられていますが、米国のサイトではマウスで操作できるインタラクティブなフラッシュを置いているサイトも見かけます。私が見たサイトからいくつか引用したいと思います。一番上が New York Times、次が Los Angels Times、下の2つがミネアポリス連銀のいつもの "The Recession in Perspective" のサイトから直リンしています。最後のミネアポリス連銀のサイトには、これ以外にもいろんなグラフィックが満載です。




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2009年4月 3日 (金)

G20 ロンドン・サミットのコミュニケ

日本時間の昨夜遅く、ロンドンでの G20 会合は以下のコミュニケを発表して閉幕しました。The London Summit 2009 のサイトから引用しています。

The London Summit 2009 logo

1. We, the Leaders of the Group of Twenty, met in London on 2 April 2009.

2. We face the greatest challenge to the world economy in modern times; a crisis which has deepened since we last met, which affects the lives of women, men, and children in every country, and which all countries must join together to resolve. A global crisis requires a global solution.

3. We start from the belief that prosperity is indivisible; that growth, to be sustained, has to be shared; and that our global plan for recovery must have at its heart the needs and jobs of hard-working families, not just in developed countries but in emerging markets and the poorest countries of the world too; and must reflect the interests, not just of today’s population, but of future generations too. We believe that the only sure foundation for sustainable globalisation and rising prosperity for all is an open world economy based on market principles, effective regulation, and strong global institutions.

4. We have today therefore pledged to do whatever is necessary to:

  • restore confidence, growth, and jobs;
  • repair the financial system to restore lending;
  • strengthen financial regulation to rebuild trust;
  • fund and reform our international financial institutions to overcome this crisis and prevent future ones;
  • promote global trade and investment and reject protectionism, to underpin prosperity; and
  • build an inclusive, green, and sustainable recovery.

By acting together to fulfil these pledges we will bring the world economy out of recession and prevent a crisis like this from recurring in the future.

5. The agreements we have reached today, to treble resources available to the IMF to $750 billion, to support a new SDR allocation of $250 billion, to support at least $100 billion of additional lending by the MDBs, to ensure $250 billion of support for trade finance, and to use the additional resources from agreed IMF gold sales for concessional finance for the poorest countries, constitute an additional $1.1 trillion programme of support to restore credit, growth and jobs in the world economy. Together with the measures we have each taken nationally, this constitutes a global plan for recovery on an unprecedented scale.

Restoring growth and jobs

6. We are undertaking an unprecedented and concerted fiscal expansion, which will save or create millions of jobs which would otherwise have been destroyed, and that will, by the end of next year, amount to $5 trillion, raise output by 4 per cent, and accelerate the transition to a green economy. We are committed to deliver the scale of sustained fiscal effort necessary to restore growth.

7. Our central banks have also taken exceptional action. Interest rates have been cut aggressively in most countries, and our central banks have pledged to maintain expansionary policies for as long as needed and to use the full range of monetary policy instruments, including unconventional instruments, consistent with price stability.

8. Our actions to restore growth cannot be effective until we restore domestic lending and international capital flows. We have provided significant and comprehensive support to our banking systems to provide liquidity, recapitalise financial institutions, and address decisively the problem of impaired assets. We are committed to take all necessary actions to restore the normal flow of credit through the financial system and ensure the soundness of systemically important institutions, implementing our policies in line with the agreed G20 framework for restoring lending and repairing the financial sector.

9. Taken together, these actions will constitute the largest fiscal and monetary stimulus and the most comprehensive support programme for the financial sector in modern times. Acting together strengthens the impact and the exceptional policy actions announced so far must be implemented without delay. Today, we have further agreed over $1 trillion of additional resources for the world economy through our international financial institutions and trade finance.

10. Last month the IMF estimated that world growth in real terms would resume and rise to over 2 percent by the end of 2010. We are confident that the actions we have agreed today, and our unshakeable commitment to work together to restore growth and jobs, while preserving long-term fiscal sustainability, will accelerate the return to trend growth. We commit today to taking whatever action is necessary to secure that outcome, and we call on the IMF to assess regularly the actions taken and the global actions required.

11. We are resolved to ensure long-term fiscal sustainability and price stability and will put in place credible exit strategies from the measures that need to be taken now to support the financial sector and restore global demand. We are convinced that by implementing our agreed policies we will limit the longer-term costs to our economies, thereby reducing the scale of the fiscal consolidation necessary over the longer term.

12. We will conduct all our economic policies cooperatively and responsibly with regard to the impact on other countries and will refrain from competitive devaluation of our currencies and promote a stable and well-functioning international monetary system. We will support, now and in the future, to candid, even-handed, and independent IMF surveillance of our economies and financial sectors, of the impact of our policies on others, and of risks facing the global economy.

Strengthening financial supervision and regulation

13. Major failures in the financial sector and in financial regulation and supervision were fundamental causes of the crisis. Confidence will not be restored until we rebuild trust in our financial system. We will take action to build a stronger, more globally consistent, supervisory and regulatory framework for the future financial sector, which will support sustainable global growth and serve the needs of business and citizens.

14. We each agree to ensure our domestic regulatory systems are strong. But we also agree to establish the much greater consistency and systematic cooperation between countries, and the framework of internationally agreed high standards, that a global financial system requires. Strengthened regulation and supervision must promote propriety, integrity and transparency; guard against risk across the financial system; dampen rather than amplify the financial and economic cycle; reduce reliance on inappropriately risky sources of financing; and discourage excessive risk-taking. Regulators and supervisors must protect consumers and investors, support market discipline, avoid adverse impacts on other countries, reduce the scope for regulatory arbitrage, support competition and dynamism, and keep pace with innovation in the marketplace.

15. To this end we are implementing the Action Plan agreed at our last meeting, as set out in the attached progress report. We have today also issued a Declaration, Strengthening the Financial System. In particular we agree:

  • to establish a new Financial Stability Board (FSB) with a strengthened mandate, as a successor to the Financial Stability Forum (FSF), including all G20 countries, FSF members, Spain, and the European Commission;
  • that the FSB should collaborate with the IMF to provide early warning of macroeconomic and financial risks and the actions needed to address them;
  • to reshape our regulatory systems so that our authorities are able to identify and take account of macro-prudential risks;
  • to extend regulation and oversight to all systemically important financial institutions, instruments and markets. This will include, for the first time, systemically important hedge funds;
  • to endorse and implement the FSF’s tough new principles on pay and compensation and to support sustainable compensation schemes and the corporate social responsibility of all firms;
  • to take action, once recovery is assured, to improve the quality, quantity, and international consistency of capital in the banking system. In future, regulation must prevent excessive leverage and require buffers of resources to be built up in good times;
  • to take action against non-cooperative jurisdictions, including tax havens. We stand ready to deploy sanctions to protect our public finances and financial systems. The era of banking secrecy is over. We note that the OECD has today published a list of countries assessed by the Global Forum against the international standard for exchange of tax information;
  • to call on the accounting standard setters to work urgently with supervisors and regulators to improve standards on valuation and provisioning and achieve a single set of high-quality global accounting standards; and
  • to extend regulatory oversight and registration to Credit Rating Agencies to ensure they meet the international code of good practice, particularly to prevent unacceptable conflicts of interest.

16. We instruct our Finance Ministers to complete the implementation of these decisions in line with the timetable set out in the Action Plan. We have asked the FSB and the IMF to monitor progress, working with the Financial Action Taskforce and other relevant bodies, and to provide a report to the next meeting of our Finance Ministers in Scotland in November.

Strengthening our global financial institutions

17. Emerging markets and developing countries, which have been the engine of recent world growth, are also now facing challenges which are adding to the current downturn in the global economy. It is imperative for global confidence and economic recovery that capital continues to flow to them. This will require a substantial strengthening of the international financial institutions, particularly the IMF. We have therefore agreed today to make available an additional $850 billion of resources through the global financial institutions to support growth in emerging market and developing countries by helping to finance counter-cyclical spending, bank recapitalisation, infrastructure, trade finance, balance of payments support, debt rollover, and social support. To this end:

  • we have agreed to increase the resources available to the IMF through immediate financing from members of $250 billion, subsequently incorporated into an expanded and more flexible New Arrangements to Borrow, increased by up to $500 billion, and to consider market borrowing if necessary; and
  • we support a substantial increase in lending of at least $100 billion by the Multilateral Development Banks (MDBs), including to low income countries, and ensure that all MDBs, including have the appropriate capital.

18. It is essential that these resources can be used effectively and flexibly to support growth. We welcome in this respect the progress made by the IMF with its new Flexible Credit Line (FCL) and its reformed lending and conditionality framework which will enable the IMF to ensure that its facilities address effectively the underlying causes of countries’ balance of payments financing needs, particularly the withdrawal of external capital flows to the banking and corporate sectors. We support Mexico’s decision to seek an FCL arrangement.

19. We have agreed to support a general SDR allocation which will inject $250 billion into the world economy and increase global liquidity, and urgent ratification of the Fourth Amendment.

20. In order for our financial institutions to help manage the crisis and prevent future crises we must strengthen their longer term relevance, effectiveness and legitimacy. So alongside the significant increase in resources agreed today we are determined to reform and modernise the international financial institutions to ensure they can assist members and shareholders effectively in the new challenges they face. We will reform their mandates, scope and governance to reflect changes in the world economy and the new challenges of globalisation, and that emerging and developing economies, including the poorest, must have greater voice and representation. This must be accompanied by action to increase the credibility and accountability of the institutions through better strategic oversight and decision making. To this end:

  • we commit to implementing the package of IMF quota and voice reforms agreed in April 2008 and call on the IMF to complete the next review of quotas by January 2011;
  • we agree that, alongside this, consideration should be given to greater involvement of the Fund’s Governors in providing strategic direction to the IMF and increasing its accountability;
  • we commit to implementing the World Bank reforms agreed in October 2008. We look forward to further recommendations, at the next meetings, on voice and representation reforms on an accelerated timescale, to be agreed by the 2010 Spring Meetings;
  • we agree that the heads and senior leadership of the international financial institutions should be appointed through an open, transparent, and merit-based selection process; and
  • building on the current reviews of the IMF and World Bank we asked the Chairman, working with the G20 Finance Ministers, to consult widely in an inclusive process and report back to the next meeting with proposals for further reforms to improve the responsiveness and adaptability of the IFIs.

21. In addition to reforming our international financial institutions for the new challenges of globalisation we agreed on the desirability of a new global consensus on the key values and principles that will promote sustainable economic activity. We support discussion on such a charter for sustainable economic activity with a view to further discussion at our next meeting. We take note of the work started in other fora in this regard and look forward to further discussion of this charter for sustainable economic activity.

Resisting protectionism and promoting global trade and investment

22. World trade growth has underpinned rising prosperity for half a century. But it is now falling for the first time in 25 years. Falling demand is exacerbated by growing protectionist pressures and a withdrawal of trade credit. Reinvigorating world trade and investment is essential for restoring global growth. We will not repeat the historic mistakes of protectionism of previous eras. To this end:

  • we reaffirm the commitment made in Washington: to refrain from raising new barriers to investment or to trade in goods and services, imposing new export restrictions, or implementing World Trade Organisation (WTO) inconsistent measures to stimulate exports. In addition we will rectify promptly any such measures. We extend this pledge to the end of 2010;
  • we will minimise any negative impact on trade and investment of our domestic policy actions including fiscal policy and action in support of the financial sector. We will not retreat into financial protectionism, particularly measures that constrain worldwide capital flows, especially to developing countries;
  • we will notify promptly the WTO of any such measures and we call on the WTO, together with other international bodies, within their respective mandates, to monitor and report publicly on our adherence to these undertakings on a quarterly basis;
  • we will take, at the same time, whatever steps we can to promote and facilitate trade and investment; and
  • we will ensure availability of at least $250 billion over the next two years to support trade finance through our export credit and investment agencies and through the MDBs. We also ask our regulators to make use of available flexibility in capital requirements for trade finance.

23. We remain committed to reaching an ambitious and balanced conclusion to the Doha Development Round, which is urgently needed. This could boost the global economy by at least $150 billion per annum. To achieve this we are committed to building on the progress already made, including with regard to modalities.

24. We will give renewed focus and political attention to this critical issue in the coming period and will use our continuing work and all international meetings that are relevant to drive progress.

Ensuring a fair and sustainable recovery for all

25. We are determined not only to restore growth but to lay the foundation for a fair and sustainable world economy. We recognise that the current crisis has a disproportionate impact on the vulnerable in the poorest countries and recognise our collective responsibility to mitigate the social impact of the crisis to minimise long-lasting damage to global potential. To this end:

  • we reaffirm our historic commitment to meeting the Millennium Development Goals and to achieving our respective ODA pledges, including commitments on Aid for Trade, debt relief, and the Gleneagles commitments, especially to sub-Saharan Africa;
  • the actions and decisions we have taken today will provide $50 billion to support social protection, boost trade and safeguard development in low income countries, as part of the significant increase in crisis support for these and other developing countries and emerging markets;
  • we are making available resources for social protection for the poorest countries, including through investing in long-term food security and through voluntary bilateral contributions to the World Bank’s Vulnerability Framework, including the Infrastructure Crisis Facility, and the Rapid Social Response Fund;
  • we have committed, consistent with the new income model, that additional resources from agreed sales of IMF gold will be used, together with surplus income, to provide $6 billion additional concessional and flexible finance for the poorest countries over the next 2 to 3 years. We call on the IMF to come forward with concrete proposals at the Spring Meetings;
  • we have agreed to review the flexibility of the Debt Sustainability Framework and call on the IMF and World Bank to report to the IMFC and Development Committee at the Annual Meetings; and
  • we call on the UN, working with other global institutions, to establish an effective mechanism to monitor the impact of the crisis on the poorest and most vulnerable.

26. We recognise the human dimension to the crisis. We commit to support those affected by the crisis by creating employment opportunities and through income support measures. We will build a fair and family-friendly labour market for both women and men. We therefore welcome the reports of the London Jobs Conference and the Rome Social Summit and the key principles they proposed. We will support employment by stimulating growth, investing in education and training, and through active labour market policies, focusing on the most vulnerable. We call upon the ILO, working with other relevant organisations, to assess the actions taken and those required for the future.

27. We agreed to make the best possible use of investment funded by fiscal stimulus programmes towards the goal of building a resilient, sustainable, and green recovery. We will make the transition towards clean, innovative, resource efficient, low carbon technologies and infrastructure. We encourage the MDBs to contribute fully to the achievement of this objective. We will identify and work together on further measures to build sustainable economies.

28. We reaffirm our commitment to address the threat of irreversible climate change, based on the principle of common but differentiated responsibilities, and to reach agreement at the UN Climate Change conference in Copenhagen in December 2009.

Delivering our commitments

29. We have committed ourselves to work together with urgency and determination to translate these words into action. We agreed to meet again before the end of this year to review progress on our commitments.

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2009年4月 2日 (木)

G20 に向けた国際機関による経済見通しの感想

今日からロンドンで G20 会合が開催されます。ワシントンでの会合に続く第2回目です。すでに、このブログでは3月30日付けのエントリーで Financial Times の報道を引用して、財政による景気拡大と雇用創出、保護貿易への警戒などがコミュニケに盛り込まれることを取り上げてありますので、今夜は、この G20 会合に向けて、いくつかの国際機関が経済見通しを発表していますので、日米欧の、特に日本の今年と来年の経済について考えたいと思います。

まず、下の表は3月19日に国際通貨基金 (IMF) が発表した "IMF Note on Global Economic Policies and Prospects"からの引用です。2009年における世界の成長率は幅を持たせてありますが、マイナス成長との予測です。2009年は日米欧そろってマイナス成長ですし、新興国や途上国の成長率も大きく落ち込む見通しとなっています。なお、表をクリックすると、引用元の pdf ファイルが別窓で開くようにリンクが張ってあります。

Overview of the World Economic Outlook Projections

次に、3月31日に経済開発協力機構 (OECD) が発表した "OECD Interim Economic Outlook, March 2009"からの引用です。OECD 見通しは IMF 見通しよりもさらに悲観的で、日米欧はもとより、世界経済の成長率も2009年には大きくマイナスになると見込んでいます。グラフのタイトルは "Growth has collapsed" になっていたりします。同じく、表をクリックすると、引用元の pdf ファイルが別窓で開くようにリンクが張ってあります。

Growth has collapsed

さらに、3月30日に世界銀行が発表した "Global Economic Forecasts" からの引用です。2009年はともかく、2010年に入れば欧州以外はかなり急速に景気が回復するとの見通しになっています。それにしても、来年2010年の日本の成長率を1.5%と見込んでいたりします。私はここしばらくの日本の潜在成長率は1%台前半ではないかと考えていますので、何と、来年には潜在成長率を超える好況が到来する、との見通しになっています。私も強気で楽観的な見通しをこのブログで提供し続けているような気もしますが、来年1.5%成長とは、その私ですら気恥しくなるような経済予測だったりします。というわけで、発表の日付順で並べずに、世銀のリポートを最後に置きました。また、世銀の見通しの表は特に多くの国を並べていますので長々と引用していますが、下の表もクリックすると、引用元の pdf ファイルが別窓で開くようにリンクが張ってあります。

Global growth forecasts

IMF の世界経済の成長率は幅を持たせてありますのでグラフが書きづらく、取りあえず、日米欧についての2009年と2010年の国際機関の経済見通しを取りまとめたものが下のグラフです。なお、2010年の米国の成長率に関する OECD 見通しはゼロですので、棒グラフには現れていません。

日米欧の成長率見通し

世銀の2010年の見通しは、特に日本についてはほぼ論外と私は考えていますので、これを除外して考えると、要するに、我が日本経済は日米欧の中で最も成長率が低く、来年2010年になってもプラスには戻らないと見込まれているわけです。すでに、昨年10-12月期の1次QEが発表された2月16日付けのエントリーで、米欧に比べて日本経済の成長が低いことについては要約してありますし、3月14日付けのエントリーでは、製造業の生産・在庫の調整が一巡し、定額給付金の効果も現れる年央には一時的な回復局面のような景気状況が現れるものの、最終需要が伴わなければ2番底に向かう W 字型の景気パスの可能性も論じてありますから、何度も同じことは取り上げませんが、いずれにせよ、秋口以降の日本経済の動向が懸念されます。9月には確実に総選挙は終わっていますので、その時点での政府の経済対策がどうなっているか、先行する米欧の景気回復に伴う輸出の動向がどうなるか、いろいろと不確定要因がありますので何とも言えませんが、これらの国際機関の経済見通しを見る限り、単なる感想として、日本は米国市場に自動車を輸出するだけのモノカルチャー経済になってしまったのか、と思えてしまいそうになって怖いです。

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2009年4月 1日 (水)

日銀短観の暗い面と明るい面

本日、日銀から今年3月調査の日銀短観が発表されました。統計のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断 DI は前回調査の▲24から▲58に大幅に悪化しました。もっとも、3月28日付けのこのブログのエントリーで取り上げたように、▲60に達すると見込んでいたシンクタンクもありましたので、おおよその予想通りと言えます。もちろん、メディアやよく分かっていないシロートさんは大騒ぎするのかもしれません。全体的な私の見方は、設備投資や先行き見込みなどで明るさが見られる一方で、言うまでもなく、まだまだ大きなリスクが残っているという意味で、明暗マチマチな結果だったと考えています。まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日銀が1日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がマイナス58と、第一次石油危機後の1975年5月(マイナス57)を下回り、1974年5月の統計開始以来、過去最悪になった。景気の急速な冷え込みを背景に、企業の2009年度の収益予想や設備投資計画も前年度比で減少した。ただ3カ月先の見通しについては約3年ぶりに景況感が改善した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。大企業製造業のDIは昨年12月の前回調査(マイナス24)から34ポイント下がり、悪化幅も過去最大になった。3カ月先の見通しは今回と比べて7ポイント上昇した。

次に、規模別・業種別の業況判断 DI の表は以下の通りです。単位は通常通り、、「良い」から「悪い」を引いた差の%ポイントです。もちろん、2009年6月の計数は3月調査の時点での見通しです。

 2008/92008/122009/32009/6
全産業▲14▲24▲46▲52
大企業製造業▲3▲24▲58▲51
中堅企業製造業▲8▲24▲57▲61
中小企業製造業▲17▲29▲57▲63
大企業非製造業1▲9▲31▲30
中堅企業非製造業▲12▲21▲37▲45
中小企業非製造業▲24▲29▲42▲52

いつもの業況判断 DI のグラフは以下の通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業です。

業況判断 DI の推移

グラフを見ての通りなんですが、少なくとも、大企業については製造業・非製造業ともに6月にはやや上向くとの予想になっていることも確かです。製造業での生産や在庫の調整が年央に向けて一巡するとの見通しに基づいているであろうことは容易に想像されます。しかし微妙な数字だという気もします。3月28日付けのエントリーではロイター短観が16ポイントの改善を見たことを上げて、日銀短観でも現状と先行きで10ポイントくらいの開きがあれば企業マインド上向きの兆しと書きましたし、逆に、5ポイントくらいであれば生産や在庫の調整が、平たく言って優良企業の範囲にとどまっていると私は考えていたんですが、この5ポイントと10ポイントの間のグレーゾーンに落ちたような気がします。やや明るい兆しを見出すことも出来そうに思いますが、繰返して何度も書いているように、最終需要の動向次第で、この先、まだまだ大きなリスクが残っていることは明らかです。

設備と雇用の判断 DI の推移

特に、私が大きなリスクと考えているのが、経済学でいうところの生産要素、すなわち、設備と雇用です。上のグラフはこの設備と雇用の判断 DI です。上の方のパネルが設備、下が雇用で、プラスになるほど過剰感が強いことを示していますが、設備と雇用もここ2-3四半期で一気に過剰感が高まっているのが見て取れます。設備や労働に対する需要が減少すれば、最終需要に大きな影響を及ぼします。設備投資については後述のように明るい面もありますが、特に、雇用については雇用者数とともに賃金への下方圧力が加わることが明らかです。

設備投資計画

上のグラフは過去2年間と今回調査の設備投資計画の推移です。日銀短観は統計としてのクセがあり、年度が始まる直前の3月調査では低めに出て、年度が始まった6月調査でかなり上方修正された後、年度を通して横ばいないし6月調査時点からは少し下方修正されるというパスを描きます。2007年度と2008年度に見られる通りです。しかし、2009年度の設備投資計画については、上のグラフは大企業だけを取り出していますが、年度が開始される直前の3月時点で▲6.6%減の計画となっているものの、2桁マイナスとの予想もあったにしては、設備投資は底堅い推移をする可能性も大いにあり得ます。大企業の中でも製造業が大きなマイナスを計画しているのに対して、大企業非製造業は小幅のマイナスにとどまっています。繰返しになりますが、全体として底堅いと評価できると私は考えています。これには、グラフは書きませんでしたが、資金繰り判断も加味されている可能性があります。大企業でも資金繰り判断 DI がマイナスに突っ込んだので危惧する向きもあるかもしれませんが、現状では、もちろん、資金繰り判断は悪化しているとはいえ、政府や日銀の対策により過去の景気後退期ほどのひっ迫でないことも確かです。しかし、他方で、収益計画は過去最悪となっており、今後の売上次第では設備投資も下方修正されかねない可能性は残ります。ここでも、明暗マチマチのグレーゾーンなのかもしれません。

全国と長崎の業況判断 DI の推移

最後に、日銀長崎支店から夕刻に発表された長崎短観を全国の全規模全産業と比較したものが上のグラフです。大きく悪化していることは全国の傾向と変わりありませんが、その度合いは比較的緩やかと見えます。ただし、足下で造船の商談成立が困難になっていると日銀長崎支店はリポートしており、今後の方向性は製造業で特に悪化すると見込まれています。

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