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2009年4月24日 (金)

マクロ経済の三面等価の数式表現に見る日本の景気後退

波乱のあった授業もなくはないですが、何となく、今週も4コマの授業を無事に終えたように思います。先週の教科書などのガイダンスや学習上の注意点の説明などに続いて、今週はマクロ経済学の復習を兼ねながら授業を進めます。ということで、まず、マクロ経済の三面等価の数式表現を板書します。

  1. Y = C + I + G + X - M
  2. Y = f(K, L)
  3. Y = rK + wL

もちろん、第1式は支出、第2式は生産、第3式は分配です。第2式はいわゆるマクロの生産関数です。マイクロな経済学の企業のところで習うような気もします。特に明記はしませんが、各シンボルは普通に経済学で考えられている通りです。また、第3式において、賃金については w ≡ ∂Y / ∂L、また、資本のレンタルプライスについては r ≡ ∂Y / ∂K のように偏微分を使って限界生産力で表現してもまったく同じことです。学生諸君の顔色をうかがいながら、私はソロリと数学を多用したりします。もう3年近くも前の2006年8月22日付けのエントリー「エコノミストはどうして数学を使うのか?」でも書いたように、ジャカルタのころの経験もあって、数式で表現するのは万国共通ですから、私にとっては便利だと感じています。例えば、支出の第1式なんか、「国民総支出は消費と投資と政府支出と輸出を加えて輸入を引く」と言葉で表現するよりも、式でサラサラと書いた方が格段に分かりやすいと思っていますが、場合によっては、式の方が分かりにくいと感じる学生がいるかもしれません。経済の本なんかでも「出来るだけ数式を使わず平易な説明に努めた」なんてのが序文にあったりすると、私は苦笑してしまったりします。
さて本題ですが、この三面等価の式から現在の日本の景気後退を考えます。景気循環を考慮する短期では需要、すなわち支出が所得あるいは生産の決定要因となり、第1式の特に輸出 X の減少などにより支出が減少すると、第2式の生産関数の労働と資本のストックに遊休資源が生じます。稼働率が低下すると表現しても同じことです。ワークシェアリングが進まなければ、新規採用を抑制したり、雇用者が解雇されて一部の労働ストックが生産関数から退出したりする一方で、資本ストックは極端な場合は設備廃棄なども行われますが、一般的には、基となるフローである設備投資が大幅に減少したりします。経済学では上品に「労働が生産関数から退出する」と表現しますが、世間一般では「雇い止め」とか、「派遣切り」と表現される場合があるのはご存じの通りです。同時に、分配の第3式を見ると、労働ストックが遊休するひとつの要因はケインズ卿が指摘するように賃金 w下方硬直性があるからです。資本のレンタルプライスは場合によっては短期にマイナスを記録することもあります。ホントの正確な解釈ではないんですが、日本の全企業を合計した収益がマイナスになれば、資本のレンタルプライスはマイナスと解釈することも可能です。現状の景気では2-3四半期、あるいは1年くらいの期間であればマイナスもあり得ないことではありません。そして、支出の第1式に戻って、賃金が伸び悩んだり、雇用者が生産から退出して賃金を得られなくなると消費が停滞します。もちろん、遊休化した資本ストックの調整のために設備投資が減少することも大いに考えられます。ということで、グルグルとスパイラルを描いて景気は後退して行きます。これを食い止めるには、世界各国で実施されているように政府支出である第1式の G を増加させたり、ヨソの国の景気回復を待って輸出の X の回復を図ったり、あるいは、先の三面等価の式には出て来ない金利を引き下げて、投資の I を増やすような、需要を拡大させる経済政策が取られるわけです。そして、景気転換点を超えれば、逆の動きが出始め、需要の増加に従って遊休化していた生産要素が生産に加わり、労働者は雇用され資本ストックを増加させるべく設備投資が実行されます。またまた、それらの動きが需要を増加させて景気は拡大して行くことになります。
まったくついでながら、長期を考えると、当然、短期と同じように三面等価は成り立ちますから、例えば、人口減少社会で第1式の支出、すなわち需要を満たすためには第2式の生産関数で労働生産性を引き上げたり、資本ストックの増加のスピードを早めたりする必要もあるわけです。人口が減少するのであれば、生産要素の中で相対的に労働が資本よりも希少性を増し、資本のレンタルプライスが低下して賃金が上昇することもあり得るかもしれません。逆に、アジアの新興国などでは人口増加率が日本よりまだ高くて、その結果として賃金が安いのはよく知られた通りです。

現実の日本経済やアジア経済と照らし合わせつつ、今週からマクロ経済学の復習を兼ねて授業を本格的に始めています。私が多用する数学や数式を、どこまで学生諸君が受け入れるかを見極めたいと思っています。

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コメント

東大の岩井克人先生のマクロの講義が、私が初めて受けたマクロの
講義でしたが、サプライ・サイドからのGDP(Ys)と支出サイドから
のGDP(Yd)の峻別をしっかりとしてて、分かり易かったです。事後
的に一致するから、ではなくて、事前の段階で区別して議論してもら
えると、生徒としても、分かり易いものですよね。

そういえば、21年度の経済見通し改定版が公表されました。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0427zantei.pdf
記事との関係で気になったのは、労働分配率一定の仮定の下、
20年度の一人当たり賃金が▲3.2%、21年度が▲3.0-▲0.9%=▲2.1%
とのことですが、春闘・ボーナスについては、危機が深刻化する以前
の20年の春・夏のウラが出る分だけ、▲3.2%よりも下がるのではない
かという気がするのですが、どのように解釈すべきでしょうか・・・? 
(不況期には労働分配率が上がる、というのが一つの解釈だとは
思いますが・・・)

投稿: TOMOHIKO SENGE | 2009年4月27日 (月) 17時48分

千家さん
コメントを有り難うございます。
内閣府の発表分に雇用者所得が出ていないので詳細は不明ですが、私は1人当たり賃金が下がり、雇用者数が減少する一方で、企業所得はもっと下がりますから、労働分配率はグッと上がるんだろうと思います。そこから生じる労働ストックの調整のスピードと賃金調整のスピードの競争になりますが、どちらのスピードもかなり遅いですから、結果的に、繰返しになりますが、労働分配率が上がります。他方で、デフレ・スパイラルに陥る以前の段階では物価下落のメリットも一時的にはなくもないといえますから、賃金下落のショックは緩和されます。
これらのせめぎ合いなんでしょうが、結果的に1人当たり賃金は私は2-3%の下落はありうる数字だと思います。5%を超えるところまでは想定されないんではないでしょうか?

投稿: 官庁エコノミスト | 2009年4月27日 (月) 21時12分

経済白書(2005)によると、バブル崩壊直後などは2%は Junp
してるみたいですし、労働分配率が2%上がれば、2-3%のレンジ
に納まるということは、充分にあり得そうですね。ご教示、ありが
とうございました。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/2005/1202nk/05-3-1-07z.html

投稿: TOMOHIKO SENGE | 2009年4月27日 (月) 21時36分

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