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2009年5月18日 (月)

新しいペーパー「今次景気循環のピークの推計 - マルコフ・スイッチング・モデルによるアプローチ」を書き上げる

かなり苦労して標記のペーパーを書き上げて、提出しておきました。本学の紀要の6月号に掲載される予定です。取りあえず、このブログのサイドにリンクを置いてある大学のホームページにアップしてあります。
何をやっているかはタイトルから明らかなんですが、12月に完成して本学の『東南アジア研究所年報』に掲載された「今次景気循環のピークに関する考察」と同じで、直近の景気後退局面に入る前のピーク月を月次データで推計しています。いずれのペーパーも時系列推計なんですが、手法は異なり、前回のペーパーは状態空間表現した2変数 (bivariate) モデルをカルマン・フィルターで解いていて、今回は1変数 (univariate) モデルをマルコフ・レジーム・スイッチング・モデルで解いています。どちらもそうなんですが、これだけで理解できる人はいいんでしょうが、これだけで理解できない場合は長時間かけた説明が必要になります。
推計するに当たって、景気を表現しているであろう、いろいろな月次データに当たってみたんですが、解けたのは景気動向指数だけで、鉱工業生産指数、全産業活動指数、全産業供給指数、有効求人倍率、日本経済研究センターからいただいた月次GDPなど、ことごとく最尤法の収束計算に失敗しました。ということで、景気動向指数の一致指数に基づいて、2000年以降の景気後退確率をマルコフ・レジーム・スイッチング・モデルで計算した結果が以下のグラフの通りです。

2000年以降の景気後退確率

2001年ころのITバブル崩壊後の景気後退期に続いて、直近の景気後退期にも確率が高まっているのが見て取れると思います。ただし、推計期間は2008年12月までのデータに基づいていますので、足元は分かりません。取りあえず、ピーク月を推計するのが目的ですから、トラフ月は別の課題となっています。しかし、推計結果は決して美しくなく、2001年ころのITバブル崩壊後の景気後退局面も、直近の景気後退局面も、景気後退直前のピーク月は遅めに検出しています。さらに、ITバブル崩壊後の景気後退から景気転換するトラフは早めに判定していたりします。私が大きな理由としてペーパーの中で言い訳がましく上げておいたのは、やっぱり、1変数のマルコフ・レジーム・スイッチング・モデルはかなりデータに sensitive で、2008年10月以降の大幅なデータの落ち込みを組み入れて推計したものですから、落ち込み方がかなり大きくないと景気後退とは判定しないことから、ピーク月は遅めに検出し、逆に、データ系列が少しでも上向きになると景気後退から脱したと判定してしまって、トラフ月は早めに検出するんではないかと考えています。それにしても、sensitive な推計を収束させるために多大の時間を費やしてしまいました。推計には RATS を用いたんですが、そもそも、このソフトを入手するのに手間取ってしまった上に、推計にも時間がかかったため、原稿提出の締切りを大幅に過ぎ、一時は諦めるとか言い出して、結局、収束したのでやっぱり提出することにし、本学の紀要の編集委員さんとか研究所の事務室にも多大な迷惑をかけてしまいました。
私はジャカルタにいた時にもマルコフ・レジーム・スイッチング・モデルを使ってペーパーを書いたことがあり、その当時の印象から、かなり気楽に考えていたのも苦労した原因かもしれません。どうしてかと言うと、当時、オックスフォード大学にいて、今はケント大学に移っている Krolzig 教授が提供していた MSVAR というモジュールを OX で走らせるだけで、極めてお手軽に推計結果が得られたんですが、現在ではこのモジュールが expire してしまっていて、エラい先生が示した数式通りに RATS でプログラムを組む必要があったからです。
私などが使っている EViews や STATA なんかの初歩的な計量計算ソフトには状態空間モデルを解くカルマン・フィルターは実装されているんですが、マルコフ・レジーム・スイッチング・モデルの解法が実装されているソフトは、少なくとも私は知りません。たぶん、かつての MSVAR を除いて、世の中に存在しないんではないかと想像しています。理由のひとつは MSVAR が存在したからです。例えば、2002年の STATA のサポートからの回答では、マルコフ・レジーム・スイッチング・モデルの推計には MSVAR を推薦するとあったりします。従って、極めてお手軽に MSVAR で推計できるものですから、他のソフトに実装するインセンティブがなかった可能性があります。あえて申し上げると、極めてお手軽な MSVAR の存在は、他の汎用ソフトへの実装を遅らせたという意味で罪なものだったのかもしれません。もっとも、私はお手軽推計の恩恵にあずかった1人ですし、MSVAR が expire してからは、かなり複雑なプログラムを組めるということは私の専門性を高める結果になっているのかもしれません。

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