各種経済指標に見る景気動向
今日は月末最終営業日の閣議日ということで、いろいろと重要な経済指標が発表されました。今夜のブログで取り上げる順に、まず、経済産業省から鉱工業生産指数、次に、総務省から完全失業率と厚生労働省から有効求人倍率などの労働統計、最後に、総務省統計局から消費者物価指数が発表されています。いつもの通り、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインなどを報じた記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産指数
経済産業省が29日発表した4月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は前月比5.2%上昇の74.3と、1953年3月以来、約56年ぶりの上昇率を記録した。輸出の底入れに加え、在庫調整が進んだことなどが理由。一方、総務省が同日発表した4月の完全失業率(季節調整値)は5.0%と、前月よりも0.2ポイント上昇。有効求人倍率(同)も0.46倍と前月を0.06ポイント下回って過去最低に並んだ。生産が持ち直しに向かう一方、雇用情勢の悪化は続いている。
鉱工業生産指数は2カ月連続の上昇。生産水準は依然低いものの、5、6月もプラス予想になっており、製造業の生産活動は上向き始めている。経産省は鉱工業生産の基調判断について「持ち直しの動きがみられる」として、前月の「停滞」から変更。上方修正は07年8月以来になる。
労働統計
生産に持ち直しの動きがみえる一方で、実体経済悪化の影響が雇用に及んできた。4月の完全失業率(季節調整値)が悪化したことに加え、厚生労働省が29日発表した4月の有効求人倍率(同)も1999年6月に記録した過去最低水準に並んだ。失業者が増える一方で、企業の雇用吸収力が弱まり、雇用情勢の悪循環が強まっている。
失業率は15歳以上の働く意欲がある人のうちで全く職に就いていない人の割合。5%台に乗せたのは2003年11月以来、5年5カ月ぶりになる。完全失業者数は前年同月比71万人増の346万人。増加幅は過去最大だった。
消費者物価指数
総務省が29日発表した4月の全国消費者物価指数(CPI、2005年=100)は変動が激しい生鮮食品を除いたベースで100.7と、前年同月比で0.1%下落した。前年4月に揮発油税の暫定税率の期限切れに伴うガソリンの値下げがあった反動で物価下落が抑制されたにもかかわらず、2カ月連続でマイナスになった。先行指標の東京都区部の5月の指数も07年9月以来、1年8カ月ぶりに下落に転じており、デフレ警戒感が強まりそうだ。
全国のCPIは昨年夏に2%台の高い伸び率を示した後、上げ幅を急速に縮小。3月に1年半ぶりに前年同月比でマイナスに転じていた。4月は食料品の値上がり幅が縮小したほか、外国パック旅行の価格下落などが物価を下押しした。
下落幅は3月と同じマイナス0.1%だが、暫定税率切れの影響を除くと「0.5-0.6%程度のマイナスになっていた可能性もある」(総務省)。5月以降、暫定税率切れの特殊要因が消えるほか、電力・ガス料金の値下げなども影響してくるため、民間エコノミストの間では「夏にかけて2%台まで物価の下落幅が拡大する」との見方も出ている。
まず、鉱工業生産指数について、いつものグラフは以下の通りです。折れ線グラフは月次の季節調整済の系列で、単位は2005年=100となっています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。私は事後的に今年2月が景気の谷であった可能性があると考えていますが、取りあえず、データのある4月まで景気後退期が続いていると仮定しています。
鉱工業生産は引用した記事にもある通り、季節調整済みの系列で前月比+5.2%と約56年振りの急回復です。一昨日は3%程度の増産と書いた私も大ハズレでした。しかも、製造工業予測調査では5月が+8.8%、6月も+2.7%の増産との結果で、これを単純に当てはめると4-6月期で2桁近いV字型回復を示すことになります。一昨日の貿易統計を取り上げた際にも指摘した通り、輸出先国も含む在庫調整がほぼ終了し増産が始まっていると捉えるべきです。もちろん、在庫調整の終了だけでなく、グリーン家電に対するエコポイント制度やエコカー減税などの政策的措置も最終需要を盛り上げるという意味で大きく貢献していることは明らかです。ただし、そんなに手放しで評価できない可能性を2点指摘すると、第1に、7-9月期くらいまでは在庫のリバウンドに伴う増産が続く可能性が高いものの、私のようにW字型の景気パスを考えなくても、秋口以降に最終需要動向がどうなるのかはいまだ不透明と言わざるを得ません。第2に、今週月曜日に全産業活動指数を取り上げた際に指摘した通り、鉱工業生産指数は大雑把に景気後退局面入り前の110の水準から70の水準まで低下した後、ようやく4月に74.3に回復したばかりであり、4-6月期に2桁近い増産があるとしても、私が指摘した累積で30%くらいのリバウンドにはまだまだ及びません。次に取り上げる雇用や設備投資などの生産要素への需要が発生する水準にはほど遠いと言えます。
と言うことで、次に、労働統計のグラフは3枚あり、上から失業率、有効求人倍率、新規求人数で、失業率の単位はパーセント、有効求人倍率は倍、新規求人数は万人です。いずれも月次の季節調整済系列です。失業率は遅行系列、有効求人倍率は一致系列、新規求人数は先行系列と考えられています。影をつけた部分は鉱工業生産指数のグラフと同じで景気後退期を示しています。
大幅なリバウンドを見た生産と違って、雇用は悪化が継続しています。基本的な理由は5月15日付けのエントリーで書いた通り、要素需要はシュンペーター的な景気の2分法に従い、経済活動がある程度の水準に達しないと、雇用増や設備投資は発生しません。遊休化した生産要素の再活用、すなわち、残業は増えるが新たな新規雇用は生まれないとか、既存設備の稼働率は上がるが新たな設備投資は必要とされない、といったカンジです。上のグラフでも失業率は上昇し、有効求人倍率は低下を続け、先行系列である新規求人数だけがやや下げ止まりに近づいた雰囲気を漂わせている、と言ったところが読み取れると思います。さらに、3月の年度末の次は6月が派遣労働者の契約期間の区切りになる場合が多いと言われており、そのころに、正規職員には大幅に減額された賞与が支給され、派遣職員に一段の人件費削減圧力が加わる可能性があり、所得条件が大いに悪化するとともに、年末年始を底に改善しつつある消費者マインドに悪影響を及ぼす可能性もあるんではないかと私は考えています。
最後に、消費者物価指数 (CPI) のグラフは以下の通りです。いずれも季節調整をしていない月次の原系列に基づく前年同月比で単位はパーセントです。青い折れ線が生鮮食品を除くコアCPI、赤が食料とエネルギーを除く欧米流のコアコアCPI、灰色の折れ線が東京都区部のコアCPIです。棒グラフは全国のコアCPIに対する寄与度で、緑色が食料品、黄色がエネルギー、水色がその他のそれぞれ寄与度を示しています。
全国のコアCPIが1-2月にゼロ、4月は3月に続いて▲0.1%の下落となりましたが、東京都区部の5月コアCPIは▲0.7%の下落となっています。この差は引用した記事にもある通り、昨年4月がガソリン暫定税率の期限切れであった反動により物価下落率が抑制されているためで、実力CPIは▲0.5-0.6%のデフレと多くのエコノミストは考えています。また、これも記事にある通り、今年夏場のデフレは▲2%を超えるとの観測もあり私も同感です。なお、5月の東京都区部のコアCPIへの電気ガスなどの公共料金の寄与度は▲0.3%程度あったと考えられており、同様の条件で、来月の全国コアCPIは軽く▲1%を超えると私は予想しています。このデフレが昨年の夏に高騰した原油価格のリバウンドと正しく認識され、短期で終わって消費者の期待に強く影響を与えないことを願っています。「もっと待てばより安くなる」とのデフレ期待が形成されると、消費だけでなく投資の方にも後送り行動が発生する可能性が高まります。年末年始にかけて、最終需要の不透明感とともに景気が弱含んで、W字型の景気回復パスをたどる可能性があると私が考えている大きな要因のひとつです。
今日発表された景気指標は、鉱工業生産指数の大幅な回復を別にすれば、ほぼ市場の事前予想にミートしたように私は感じています。東証の日経平均株価にもそれは現れています。デフレの急速な進展を別にして、7-9月期は上振れリスクがあるとする私の考えに変化はありません。
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