欧州中央銀行 (ECB) の "Financial Stability Review"
一昨日の6月15日、欧州中央銀行 (ECB) から半年に1度の "Financial Stability Review" が発表されました。ユーロ圏の銀行が2010年までに総額で2830億ドルの不良資産処理が必要になるとの試算を公表しています。国際通貨基金 (IMF) などはよくこういった試算を公表しているんですが、ECBでは異例の試算だと私は受け止めています。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。
欧州中央銀行(ECB)は15日、ユーロ圏の銀行が2010年までに総額で2830億ドル(約28兆円)の不良資産処理が必要になるとの試算を公表した。金融市場では欧州の銀行の財務内容に対する不信感が根強い。ECBとして異例の分析を示すことで、こうした金融市場の不安を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられる。
ECBは著しく価値が低下したり、回収の見込みが低い融資のうち、未処理のものを「将来の潜在的な損失」と位置付けた。金融危機の発生後に生じた6490億ドルの不良資産のうち、約4割が未処理となっている。
ただ、ユーロ圏の1カ国あたりでは200億ドル以下となる計算で、市場では「損失を過小評価している」との声が上がる可能性がある。
ECBのサイトからこの画像を引用すると以下の通りです。
もちろん、このリポートは pdf ファイルでも発表されていて、英文で200ページ余りの分量ですから、私もすべて読んだわけではないんですが、かなり、真剣に欧州の金融情勢を分析しています。引用した記事にもある通り、米国や日本と比較してディスクロージャーがそんなに進んでいるとは言えない欧州ですから、過小推計の可能性があるとすれば、現状の欧州レベルのディスクロージャーに基づくデータの不足の可能性があるかもしれません。もうひとつの可能性は、世界的に景気が回復に向かっているので、潜在的な損失額が最近の1-2か月で減少に転じているのかもしれません。かなり楽観的な見方だという気はしますが、可能性を排除することは出来ません。ただし、私がこのブログの4月22日付けのエントリーで貿易統計といっしょに取り上げた IMF の4月時点での見通しによれば、欧州の2007-10年の潜在的な損失が8880億ドルとされており、上の ECB の表ではこれに相当するのが6490億ドルですから、やや少ないとの印象は否めません。
最後に、私の独自の観点なんですが、今回のこの ECB のリポートでも最初のマクロ金融環境は経常収支や為替などとともに、相変わらず、米国の住宅価格の動向が分析されています。今週に入ってからも米国の住宅着工が増加したとのニュースがもてはやされたりもしました。日本の1990年代初頭のバブル崩壊後の経験でも、一所懸命に土地価格の分析をしているエコノミストもいましたが、我が国の経験からすれば、バブルを生じて崩壊させた資産価格の動向分析よりもその後の不良資産処理が最も重要な政策課題となることは明白です。現時点では、欧米の目はまだ米国の住宅価格に張り付いているようで、日本のバブル崩壊後の経験と言えば、デフレが言及されるくらいの状態です。その意味で、ECB が不良債権額に注目して、その処理を促さんばかりのスタンスを取り始めたのは大いに評価できると思います。メディアの報道を見ている限り、ECB のリポートにある額が多いの小さいのと言ったことに終始しており、せいぜい、私が上に引用した日経新聞のように、ディスクロージャーのやや遅れた欧州金融市場の不安払拭くらいが関の山で、不良債権処理を重視する方向に ECB が舵を切るのかどうかに着目した報道は内外を問わずまったく見かけませんでした。誠に残念な限りです。
日本のバブル崩壊後の長期の経済低迷を最終的に払拭したのは地価の復活ではなく不良債権処理でした。これは専門的なエコノミストでなくても、日本人であれば誰でも知っていることです。今回の ECB の不良債権額の公表をきっかけに、銀行への公的資本注入に続く第2弾として、不良債権処理を重視する方向に米欧の政策当局の目が向くことを私は願っています。
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