« 2009年5月 | トップページ | 2009年7月 »

2009年6月30日 (火)

労働統計に見る経済活動の水準

本日、総務省統計局から5月の失業率などの労働力調査が、また、厚生労働省から同じく5月の有効求人倍率などの職業安定業務統計が、それぞれ発表されました。ヘッドラインの季節調整済みの月次系列で、失業率が5.2%、有効求人倍率が0.44倍と、それぞれ前月に比べて悪化しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインに関する記事を引用すると以下の通りです。

総務省が30日に発表した5月の完全失業率(季節調整値)は5.2%と前月から0.2ポイント悪化した。厚生労働省が同日発表した5月の有効求人倍率(同)も0.44倍と前月から0.02ポイント下がり、過去最悪を更新した。生産に持ち直しの兆しがみられる一方、雇用情勢は依然厳しい状況が続いている。厚労省は雇用判断を「さらに厳しさを増している」と5カ月ぶりに下方修正した。
失業率は15歳以上の働く意欲がある人のうち、職に就いていない人の割合。5.2%は2003年9月以来、5年8カ月ぶりの水準になる。完全失業者数は前年同月比77万人増の347万人で、増加幅は過去最大。就業者数は136万人減の6342万人だった。総務省は「生産は上向いているが、水準は低く、雇用の増加に結び付いていない」と分析する。

次に、いつもの労働統計のグラフは以下の通りです。いずれも月次の季節調整済み系列で、上のパネルは失業率、真ん中は有効求人倍率、下は新規求人数です。影を付けた部分は景気後退期なんですが、このところのグラフの例の通り、暫定的に今年3月を景気の谷としています。

労働統計の推移

まず、上のグラフを見て直感的に理解されるように、労働環境は総じて悪化を続けています。年初1月の失業率は4.1%だったんですが、アッと言う間に5%を超えました。就業者数が大きく減少している中で、労働市場から退出する部分も大きく、非労働力人口も増加しています。有効求人倍率は過去最低を記録しました。最近の動きでは求人が減る一方で、求職者は増加しており、厳しい就職情勢が浮き彫りになっています。新規求人数も増加の兆しすら見えません。昨日発表された鉱工業生産指数に見られる通り、生産が増勢を示していることは確かですが、昨夜のエントリーの繰返しで、資本係数や労働係数がまだ依然として高く、新規の雇用は増えていません。なお、新規求人数は別ですが、失業率や有効求人倍率については、現状では労働力人口が減る段階にあり、今しばらく景気回復が続いたとしても、今度は、非労働力化していた人が労働市場に再参入することにより労働力人口が増えますから、今しばらく悪化を続けることが予想されます。
他方、グラフや新聞記事の引用は取り上げませんでしたが、家計調査の消費は着実に増加しています。新型インフルエンザで外出が控えられたものの、昨年よりもゴールデンウィークのカレンダーがよかった効果に加え、定額給付金給付の支給開始やエコポイント導入期待もあって、お買い物は進んだようです。でも逆に、雇用情勢が厳しいままでの消費の盛り上がりが続くとサステイナビリティに欠けるとの見方もあり得ます。消費の活性化から労働環境の改善に結びつくのか、それとも、雇用の改善が遅れることが消費の足を引っ張るのか、少なくとも年内いっぱいくらい、私は後者の効果の方が強いと考えています。

何度も書きましたが、今週前半は強弱マチマチの統計が出ます。明日の日銀短観の業況判断DIはかなり上がるんでしょうが、設備投資計画も注目です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月29日 (月)

鉱工業生産指数に見る W 字型の景気回復パス

本日、経済産業省から5月の鉱工業生産指数が発表されました。ヘッドラインの季節調整済みの月次指数は前月比で5.9%増と3か月連続のプラスとなりました。プラス幅は4月と同じで、過去2番目の高さとなっています。経済産業省では基調判断を「持ち直しの動きが見られる」に据え置いています。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインに関する記事を引用すると以下の通りです。

経済産業省が29日発表した5月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は79.2となり、前月に比べて5.9%上昇した。上昇は3カ月連続で、伸び率は過去2番目だった今年4月と同水準。在庫調整の進展などで自動車や電子部品などの生産が持ち直しているのが背景。ただ生産の水準は昨秋の金融危機前の8割弱となお低い。需要の先行きも不透明で、経産省は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
鉱工業生産指数は昨秋以降に金融危機や世界的な景気後退の影響を受けて急速に低下。今年2月には69.5まで落ち込んだ。その後は主要国などによる需要喚起策などが徐々に浸透、在庫調整に一巡感も出て、3月以降は上向いている。

次に、いつもの鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。いずれも月次の季節調整済み系列で、上のパネルは生産指数、下のパネルは出荷指数と在庫指数です。影を付けた部分は景気後退期なんですが、暫定的に今年3月を景気の谷としています。

鉱工業生産指数の推移

今日の統計発表から読み取るべき点は以下の4点です。第1に、生産と出荷は回復基調にあるものの、相対的に在庫の調整がまだ進展していないことです。知り合いのエコノミストから送られて来たニューズレターに前年同月比で描いた在庫循環図がありましたが、いわゆる45度線はまだ越えていません。第2に、生産や出荷が回復しているとはいえ、まだ水準が低いことです。ですから、資本財出荷指数は5月も前月比でマイナスとなり8か月連続の前月割れです。資本係数や労働係数がまだ高い水準にあり、設備投資や雇用が増加する局面まで今しばらくタイムラグがありそうです。第3に、引用した記事にもある通り、先行きの増産幅が減速する見通しになっていることです。私は従来から今年年末から来年年始にかけて2番底を付けに行く W 字型の景気パスを想定していますが、実現する可能性が大きいんではないかと考えています。ただし、第4に、まだ6月が終わろうとしている段階ですが、4-6月期の経済活動は大幅に拡大し、GDP成長率も大きなプラスを記録する可能性が高いことです。潜在成長率が1%程度に低下した一方で、4-6月期の成長率は年率で3%を超えるものと想定しています。

先週土曜日のエントリーの最後でも触れましたが、今日の鉱工業生産は明るい話題と受け止めることが出来るものの、明日の労働統計は暗い展望を示すものとなり、さらに、明後日の日銀短観は大きく改善するものと私は考えています。ミッチェル的な景気拡大の初期はまだシュンペーター的な不況の末期に当たり、いろいろと混在する指標が現れる時期でもあります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月28日 (日)

交流戦明けは何とか横浜に勝ち越す!

  HE
横  浜010010000 250
阪  神000000003x 3111

実は長崎ではまったくテレビ中継がないので、阪神の選手が動いているところは見ていませんが、何とか、9回ウラに関本内野手の左中間サヨナラ打で勝ったことだけは知っています。交流戦明けは甲子園で横浜3連戦と聞いて、天敵の三浦投手が出て来るでしょうから3タテとは言わないまでも、せめて、勝ち越して欲しかったところ、今日の試合運びで暗い気分になっていたんですが、何とか2勝1敗で終わって借金を減らしてくれて安心しました。でも、火曜日からは鬼門のナゴヤドームが待っていたりします。

苦しいながらもAクラス目指して、
かんばタイガース!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ダン・ブラウン『天使と悪魔』(角川文庫)を読む

ダン・ブラウン『天使と悪魔』(角川文庫)を読みました。先月から同タイトルの映画が封切られています。主演のハーバード大学宗教象徴学者のラングドン教授役は「ダ・ヴィンチ・コード」と同じトム・ハンクス、007シリーズのボンド・ガールならぬラングドン教授のパートナーのヴィットリア役にはアイェレット・ゾラーが配されています。なお、小説の邦訳は越前敏弥さんです。私とほぼ同世代の翻訳家で、話題になった『ダ・ヴィンチ・コード』をはじめとするダン・ブラウン作品などを手がけていると記憶しています。小説としては『天使と悪魔』が『ダ・ヴィンチ・コード』に先立って発表されているんですが、映画化は逆の順ですから、ダン・ブラウン作品としては映画化第2弾として宣伝されています。
下の画像は小説や映画で登場するイルミナティの ambigram です。翻訳者も訳しようがなかったのか、「アンビグラム」とそのまんまです。上の4つの単語、すなわち、earth、air、fire、water は blogspot の「天使と悪魔」のファンサイトから、その下のイルミナティ・ダイヤモンド以下は New York Times のブログサイトから引用していますが、後者の正確なURLは失念しました。もうサイトがないのかもしれません。なお、いつものことながら、この先はネタバレ満載ですので、未読の方が読み進む際は十分ご注意ください。

Iluminaty Ambigram

全体を流れるテーマは「科学と宗教の対立」と言えますが、もっと狭く、「科学とカトリックの対立」と言うことも出来ます。あらすじは以下の通りです。欧州原子核研究機構、セルンに所属しカトックの司祭でもある研究者が養女のヴィットリアとともに反物質、anti-matter の開発と製造に成功したものの、イルミナティと考えられる反科学的な秘密結社に無残な殺され方をして、反物質が盗み出され、セルンの所長からラングドン教授が呼び出されてジュネーブで物語は始まります。盗み出された反物質は時あたかも教皇選出のためのコンクラーベが開催されていたヴァチカンに運び込まれて大爆発のカウントダウンが始まります。同時に、コンクラーベに参加していた教皇の有力候補、プレフェリーティ4人が誘拐されます。ラングドン教授とヴィットリアはジュネーブに移動し、教皇の秘書であり教皇の死後は実質的に教皇の職務を代行しているカメルレンゴやスイス衛兵隊とともに反物質の捜索とプレフェリーティの救出に努めますが、プレフェリーティはイルミナティを名乗る秘密結社の目論んだ通りに、土、空気、火、水を示唆する教会で殺されて行きます。BBCの取材チームがイルミナティを名乗る暗殺者から情報提供を受けて世界に画像とニュースを流したりします。発見された反物質はカメルレンゴの操縦するヘリコプターで空高くまで運ばれ大爆発します。ヘリコプターに乗っていたカメルレンゴとラングドン教授は飛び降りて助かります。最後は、イルミナティなる秘密結社はすでに存在などしておらず、カメルレンゴが反科学の立場から暗殺者を手引きしていたこと、死んだ教皇が純潔を守るために体外受精で設けた子供がカメルレンゴであり、前教皇は深く科学を信頼していたこと、などが明らかにされます。『ダ・ヴィンチ・コード』よりも短い20時間ほどのストーリーではないでしょうか。
『ダ・ヴィンチ・コード』の読書感想文を3年前の2006年5月28日付けでアップした時、私は5ツ星だと書きましたが、この『天使と悪魔』はその上を行きます。『ダ・ヴィンチ・コード』ではキリストの子孫を守る秘密結社が現存すると言うストーリーでしたが、『天使と悪魔』ではイルミナティなる秘密結社は消滅していて現存せず、カメルレンゴが名乗っていただけであるとされており、その点だけでも評価が高いような気がします。いずれにせよ、ミステリとしてはややプロットが荒っぽいと言え、途中でカメルレンゴが黒幕だということを発見する読者が多そうな気がしますが、それ以降の読ませどころは『天使と悪魔』の方が上ではないかと感じました。『ダ・ヴィンチ・コード』では次から次とラングドン教授にピンチが降りかかって来るだけで、それはそれでスピーディな展開だったんですが、『天使と悪魔』では小説らしく奇妙ながらもキチンとした論理的な展開がなされています。『ダ・ヴィンチ・コード』を4ツ星に格下げして、この『天使と悪魔』を5ツ星にしたい気がしないでもありません。もっとも、私は映画はどちらも見ていませんので、あくまで小説に対する評価です。
なお、私は仏教徒の一向門徒であるエコノミストですので、カトリックも素粒子物理学もまったくのシロートで、加えて、ヴァチカンの地理はまったく知りませんが、ペダントリーな内容満載ながら、この小説は楽しく読めました。ローマやヴァチカンの観光案内にもなるような気がしないでもありません。日本でも京都や金沢などの観光案内を盛り込んだミステリがあったような記憶があります。また、東大の早野教授が「物理学者とともに読む 『天使と悪魔』の虚と実 50のポイント」と題するサイトを開設しています。歴代セルン所長に車椅子の人はいないなど、実にしょうもない事実関係に関する内容も含まれていますが、物理学からの視点に興味あれば一読に値します。

天気予報が外れて、今日の長崎は昼過ぎまで雨が降らなかったので、テニスラケットのガットの張替えに行ったついでに、ショッピングモールの中にあるCD店をのぞいてみました。先週6月23日付けのエントリーで取り上げた辻井伸行さんのコーナーこそありましたが、『1Q84』の「シンフォニエッタ」やマイケル・ジャクソンには長崎の人は興味がないようです。もっとも、単に流行に遅れているだけかもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月27日 (土)

日銀短観はどこまで改善するか?

来週水曜日7月1日に6月調査の日銀短観が発表されます。3月調査の結果はこのブログでも4月1日付けのエントリーで取り上げ、ヘッドラインの大企業製造業の業況判断DIが▲58、大企業非製造業が▲31と過去最悪を記録しましたが、6月調査ではこれが2年半振りに改善すると見込まれています。まず、少し前ですが、日経新聞のサイトから日銀短観の予想に関する1週間ほど前の記事を引用すると以下の通りです。

日銀が7月1日に公表する6月の企業短期経済観測調査(短観)について民間調査機関の予測を集計したところ、大企業製造業の業況判断指数(DI)予測の中心値はマイナス41になった。過去最悪だった今年3月の短観から、17ポイント改善する見通しだ。2006年12月以来、2年半ぶりに改善するとの予測だが、先行きについては慎重な見方も多い。
日経グループのQUICKが25社の予測を集計した。業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。予測値によると、改善幅は02年6月の短観の20ポイント以来の大きさとなる。非製造業はマイナス26で、5ポイント改善する見通しになった。

この日銀短観について、GDP統計などでチェックしているシンクタンクや金融機関各社のリポートから下の表を取りまとめました。金融機関などでは顧客向けに出しているニューズレターでクローズに公表する形式の機関もありますし、私もメールなんかに添付してもらっているリポートもあるんですが、いつもの通り、ネットに PDF ファイルなどでオープンに公表している機関に限って取り上げています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。なお、詳細な情報にご興味ある方は左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールされてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
ヘッドライン
日本総研▲46
▲26
生産の持ち直しを背景に、企業マインドは2年半ぶりの上昇に
みずほ総研▲46
▲35
稼働水準が「つるべ落とし」的状況から脱出する中で業況感は底入れ
三菱UFJ証券▲39
▲23
業況判断DIが上昇に転じ、景況感の全般的かつ大幅な改善が確認されよう
第一生命経済研▲42
▲27
業況判断は半値戻しの範囲内
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲49
▲33
在庫調整の進展や中国向け需要の回復などを受けてこのところ生産が持ち直してきていることが背景
ニッセイ基礎研▲39
▲27
製造業は在庫調整に目処がつき、中国を中心に輸出の減少も止まりかけており生産増加の動き
三菱総研▲37
▲26
経営環境は依然厳しく足元のマインドの改善も限定的
富士通総研▲37
▲12
企業マインド面からも景気の底打ちが確認される内容
新光総研▲40
▲26
最悪期脱却で大企業・製造業の業況判断DIは大幅改善へ

業況判断DIに並んで注目度の高い設備投資計画については、規模別や産業別で区分に統一性がなかったり、ほとんどの機関がGDPベースの設備投資に整合性のない土地を含みソフトウェアを除くベースでの発表でしたので、上の表には取り上げませんでしたが、大雑把に本年度2009年度の設備投資計画は3月調査の時点とそんなに変わらないとの印象でした。設備投資や雇用などの要素需要は経済活動の水準に対応しますから、今しばらくは盛り上がりに欠ける可能性が高いのかもしれません。
経済活動の変化の方向を示す業況判断DIに着目すると、すべての機関の予測に通じて言えることは、2年半振りの企業マインドの改善は確実なんでしょうが、業況判断DIの水準としてマイナスのままであるということです。通常、DIは水準を論じることは意味がないとされていますが、符号をマイナスからプラスに、あるいは、プラスからマイナスに転ずる時点が転換点であることは教科書的な説明にもある通りです。今日のブログで取り上げたのは、あくまで日銀短観の予想ですが、これが正しいとすれば、企業マインドから見ても景気転換点を過ぎつつあることが読み取れる結果となるかもしれません。さらに、先行き見通しについては、強気の見方がある一方で、引き続き、本格的な景気回復までは時間がかかる可能性を指摘する機関が多かったような印象を持っています。

来週は月末から月が代わる週ですから、いろいろと重要な経済指標が公表されます。特に、景気の方向を敏感に示す鉱工業生産指数が月曜日に、経済活動の水準に対応する雇用指標が火曜日に、それぞれ発表されます。メディアの記事はジェットコースターのように上下するかもしれませんが、指標を分析するのがエコノミストのお仕事ですから、正確な分析に努めたいと考えています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月26日 (金)

消費者物価はどこまで下がるか?

本日、総務省統計局から5月の全国と6月の東京都区部の消費者物価指数 (CPI) が発表されました。生鮮食品を除く全国のコアCPIの前年同月比で見て、4月の▲0.1%の下落から5月は▲1.1%までマイナス幅が拡大しました。東京都区部の6月は▲1.3%ですから、さらに拡大する勢いなのかもしれません。まず、いつもの日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

総務省が26日発表した5月の全国消費者物価指数(CPI、2005年=100)は変動が激しい生鮮食品を除いたベースで100.5となり、前年同月比で1.1%下落した。マイナスは3カ月連続。比較可能な1971年以降では01年5月の1.0%下落を上回り、過去最大の落ち込みを記録した。昨年急騰したガソリン価格の反動が大きかった。
3、4月はマイナス0.1%で、5月に急落した。エネルギー価格などの影響を除いた物価指数も同0.5%下落しており、一般的な製品やサービスの価格低下も徐々に広がりつつある。

下のグラフは全国と東京都区部のコアCPI前年同月比上昇率の推移と全国コアCPIの寄与度を示しています。食料品とエネルギーを除くコアコアCPIが引用した記事にもある通り▲0.5%の下落に対して、コアCPIは▲1.1%です。詳しく見ると、食料品はまだ+0.3%くらいのプラス寄与度を示していますが、エネルギーの寄与度は▲1%を超えています。また、コアCPIが4月から5月にかけて下げ幅を一気に拡大したのは、昨年4月にガソリンの暫定税率が切れた影響による昨年4月のガソリン価格低下が主因です。

消費者物価指数の推移

消費者物価の先行き予想として、一昨夜にこのブログで取り上げた経済開発協力機構 (OECD) の経済見通し OECD Economic Outlook No. 85, June 2009 を見ると、第1章の Chapter 1 - General assessment of the Macroeconomic Situation の pp.73 に消費者物価の見通しの表があり以下の通りです。

Consumer prices, OECD Economic Outlook

これを見れば明らかなんですが、米国など今年2009年の平均で消費者物価が▲1%未満のデフレになる国がいくつかある一方で、今年も来年も豪快に▲1%を超えるデフレに陥る国は日本とアイルランドだけと見込まれています。昨年来の金融危機で最もダメージの大きかった国のひとつにアイスランドがありますが、通貨の減価により消費者物価はプラスとなる見込みです。我が日本は今年来年と続けて▲1.4%と見通されています。5月の全国が▲1.1%で、6月の東京都区部が▲1.3%でしたから、これよりもさらに下がるとの予測になっています。もちろん、平坦に▲1.4%が続くわけではなくメリハリがあるはずで、昨年8月が消費者物価上昇率のピークでしたから、逆に、原油価格などの商品市況に大きく左右されるというものの、今年の夏場がデフレのピークで、7-9月期には▲2%を軽く超えるマイナスを記録すると私は考えています。▲3%に達しても不思議ではありません。特に、需給を反映すると考えられている食料とエネルギーを除くコアコアCPIも下げ足を速めているのに注意が必要です。単に商品市況の下落に伴うデフレではありません。

5月25日付けのエントリーでは先行き景気のリスクについて、第1に為替、第2に在庫、第3にデフレと書きましたが、相変わらず、第1は為替のままなんですが、第2と第3は入れ替えて、デフレが為替に続く第2のリスクに上がって来たような気がします。日銀の金融政策に期待します。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月25日 (木)

羽生四冠の名人位防衛を祝す

愛知県豊田市のホテルフォレスタで一昨日から指し継がれて来た第67期名人戦7番勝負第7局最終局が昨夜7時半過ぎに終局し、羽生四冠が挑戦者の郷田九段に勝って名人位を防衛しました。誠におめでとうございます。以下の画像は朝日新聞のサイトから、2日目の指し手を引用しています。一番上が第1日目の指了図、以下順に、39手目まで、43手目まで、52手目まで、60手目まで、そして、81手目までの終了図です。

第67期名人戦第7局

下から2つ目の60手目の郷田九段の▽1九角成りに対して、羽生名人は61手目に▲4四銀成と応じました。このあたりが勝負手であったと目されています。残り時間が少なくなったのもあるんでしょうが、郷田九段のこの60手目から1時間ほどで20手進み、最後は一番下の81手目の▲6一角打ちで終局しました。指し手の画像と同じ朝日新聞のサイトから引用すると、副立会人兼解説の杉本昌隆七段によれば、「次の▲4三角成が厳しい。具体的には▽6二飛▲4三角成▽同銀▲同飛成で、後手が困る。かと言って、ここで▽2七馬と後手から飛車の取り合いを挑もうとする順も、▲4三角成▽4五馬▲3三銀▽同銀▲2一金▽1二玉▲3三馬で必死」、「▽4四香と打つと、時間はかかるが、勝ち目は万が一にも無い。大差になってしまった」とのことです。

私は将棋はカラッ下手なんですが、何となく、我が家の下の子と同じく、華やかさで心情的に羽生名人を応援してます。他方、郷田九段も2年前の当時の森内名人に挑戦した時と同じくフルセットでの熱戦を演じました。チャイルド・ブランドの戦いはまだまだ続きます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月24日 (水)

貿易統計と経済協力開発機構 (OECD) の経済見通し

本日、財務省から今年5月の貿易統計が発表されました。前年同月比で見た輸出額の減少幅が4月よりやや拡大しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。

財務省が24日発表した5月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額が前年同月比40.9%減の4兆209億円になった。自動車や鉄鋼の輸出が振るわなかった。下落率は前月よりも小幅ながら拡大。生産活動に下げ止まり傾向は出ているものの、外需の本格回復にはなお時間がかかっている。輸入額も42.4%減の3兆7211億円と、過去2番目の下落率になった結果、差し引きの貿易収支は2998億円の黒字と、1年前の水準まで回復した。
ゴールデンウイークの影響で今年の5月は昨年に比べて2営業日少ないことも輸出額を押し下げた。季節性を除いた輸出額の前月比は0.3%減とほぼ横ばいだった。海外景気に回復の兆しが出ているが、輸出を大きく押し上げるほどの動きにはなっていない。

いつものグラフは以下の通りです。上下のパネルとも季節調整していない月次の原系列で、上のパネルは輸出入と貿易収支、左軸の単位は兆円です。下のパネルは輸出額の前年同月比増減率を価格と数量で寄与度分解したものです。特に下のパネルで、前年同月比で見た輸出の減少率が今年2月で底を打って3-4月は縮小に転じていたのが、5月は再び拡大しているのが見て取れます。

貿易統計の推移

貿易収支ベースで考えて、市場の事前コンセンサスが2000億円強の黒字でしたから、引用した記事にもある通り、3000億円近い黒字はこれを上回ったことになります。相変わらず、輸出入とも前年同月比で▲40%を超える下落となっている一方で、季節調整値で見た輸出は5月こそ▲0.3%減となり、一部に失望感を表明する向きもあるやに聞き及びますが、2月を底に輸出の回復基調が続いていると私は受け止めています。大雑把に、国別では中国向けの輸出がやや失速し、財別では素材の減少が続く中で加工品は増加を示しています。輸出がまずまずの数字でしたから、5月の鉱工業生産指数も順調に増加するものと私は予想しています。

さらに、本日、パリに本部のある経済開発協力機構 (OECD) から経済見通し OECD Economic Outlook No. 85, June 2009 が発表されました。OECD のサイトでは、いくつかの Preliminary edition が同時に公表されており、以下の表は Chapter 1 - General assessment of the Macroeconomic SituationOECD Economic Outlook No. 85 - Country summaries, Japan から引用しています。

OECD Economic Outlook No. 85, June 2009

日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

経済協力開発機構(OECD)は24日、エコノミック・アウトルック(経済見通し)を公表した。加盟30カ国の2009年の国内総生産(GDP)成長率をマイナス4.1%とし、前回3月調査から0.2ポイント上方修正した。上方修正は2年ぶり。OECDでは「在庫調整進展、非OECD諸国の経済回復、企業の信認回復、景気刺激策などで経済収縮が緩やかになっている」と指摘。10年は0.7%増とプラス成長に転換すると予測した。
ただ先行きについては「全体の景気底打ちは今年後半になる可能性が高く、その後の回復も弱い」とし、米欧の失業率上昇に懸念を示した。
全体の失業率は09年が8.5%。10年は9.8%。欧米が深刻でユーロ圏は10年に12.0%に達する見通し。日本の失業率は5%台で推移する予測だが、インフレ率(消費者物価総合指数)が両年ともマイナス1.4%で米欧を大きく下回る予測になった。

記事の通りなんですが、今年1-3月期に世界的に見ても景気の最悪期を脱し、やや経済見通しが上向いているものの、OECD の表現を借りれば、"A weak recovery from widespread recession" ということになります。我が日本は2009年の成長率が▲6.8%と大きなマイナスになった後、2010年は+0.7%と予想されています。また、同じく Preliminary edition が公開されている Chapter 4 - Beyond the Crisis: Medium-Term Challenges Relating to Potential Output, Unemployment and Fiscal Positions では、タイトル通り、潜在成長率水準の引上げ、失業の緩和、財政再建などが中期的な目標として議論されています。Box 4.1. で日本の潜在成長率は日銀資料を引いて▲0.5%ポイントの低下と紹介されていて、別の Table 4.1. で明らかにされている OECD の試算によれば資本蓄積の低下の寄与が大きいと結論されています。財政再建については日本が最悪の財政状態にあることは誰の目にも明らかで、グロスの財政赤字のGDP比が2010年以降は200%を上回るとの試算を Table 4.4. で示しています。表番号が逆になりましたが、この結果、Table 4.3. に示された中期シナリオとして、日本の2010-17年の平均成長率は1.7%程度と試算されています。

誠についでながら、昨日、同じく OECD から Pension at a Grance 2009 が発表されました。副題は Retirement-Income Systems in OECD Countriesとなっています。リポートのタイトル通り、OECD加盟国の年金制度の概要を取りまとめています。日本のメディアで注目を集めたのが年金の所得代替率で、グロスで見た日本の所得代替率がかなり低くリポートされています。これも日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日本の公的年金の支給水準は現役時代の所得の3割強と、主要7カ国(G7)では英国に次いで2番目に低いことが、経済協力開発機構(OECD)が23日発表した「図表で見る年金2009」で分かった。
OECDは加盟30カ国の男性の単身世帯について、現役時の所得の何割を公的年金で受け取るかを示す「所得代替率」を集計。平均的な所得の場合、税・保険料控除前の日本の所得代替率は33.9%で、OECD平均(59.0%)を下回った。

ということで、まず、リポートから関連するグラフをいくつかピックアップしました。下のグラフのうち、上の2つのパネルは日本に関するCountry-specific highlights から、一番下の表は記者発表資料から、それぞれ引用しています。

OECD, Pensions at a Glance 2009

一番上のパネルが平均所得の半分程度の所得階層、OECDの基準で言えば貧困層に当たる階層の所得代替比率で、ここでは日本が47.1%、ドイツが最も低くなっています。引用した日経新聞の記事では平均的な所得階層を取り上げていますので、日本は33.9%となり、英国が最も低い値を示しています。ちなみに、OECDの試算によれば、逆に、平均的な所得の1.5倍の富裕層では日本は29.4%となっています。これもG7の中では英国に次いで低い比率です。
私は従来から現在の日本の高齢層の年金は恵まれていると主張して来ましたが、一見すると、私の主張とOECDの試算の間には大きな隔たりがあるように見受けられます。どちらが信用されるかというと、圧倒的に私の方が不利なんですが、所得代替率の試算の前提にいくつかの違いがありそうです。まず、第1に、引用した日経新聞の記事にある通り、OECDは独身男性の場合を試算していますが、我が国では専業主婦のいる、いわゆるモデル世帯を前提にしています。私のこのブログの5月26日付けの「読売新聞の年金報道を読む」と題したエントリーでは、現時点2009年で65歳になる世代の所得代替率は独身男性43.9%に対して、モデル世帯では62.3%と1.5倍近い数字になっています。そして何よりも第2に、OECDの試算は2006年に20歳で労働市場に参入する前提となっていることです。そうです、実は、所得代替率が低いのは現在20歳代前半の若者なのです。長崎では、と言うか九州では夕刊がないので新聞でどのように報じられているかは私は現時点ではチェックしていませんが、現在、年金を受け取っている世代の所得代替率が低いのではなく、現時点で20歳代前半の若者の将来の所得代替率が低いことを正確に報じているメディアがどれだけあるかは、私自身でとっても心配です。しかも、上の図表の一番下のパネルにある通り、日本は年金改革を何も行っていません。リポートの全文に目を通したわけではありませんが、現在の高齢者の年金受給額を削減し、若者世代の将来の年金を増やす改革が必要だということを暗示しているのかもしれません。これは私の主張にぴったりマッチします。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年6月23日 (火)

流行りのCD2枚

東京の青山にある家族と週末を過ごすのは、単に、親バカとして子供達に接するだけでなく、家族を別にしても、流行に敏感になる気がします。逆に考えると、長崎では流行に鈍感な生活を送っているのかもしれませんが、土地柄とともに、家族からの情報というものもあるんではないかと思います。確かに、私が長崎で自宅と大学を往復する暮らしをしていると、他の人とマトモな会話をせずに済んでしまう場合もあったりします。

流行のCD2枚

と言うことで、今夜は流行っているCDを取り上げたいと思います。東京だけでなく、長崎でも流行っているんではないかと想像しています。上の画像を見れば分かると思いますが、2枚ともアマゾンのそれぞれの商品のサイトから引用しています。上の方はピアニストの辻井伸行さんが昨年に出したCDです。佐渡裕さんが指揮するベルリン・フィルとの共演で「ラフマニノフのピアノ・コンチェルト2番」などが入っています。我が家の近くに本社ビルのある AVEX から出ています。辻井さんは言うまでもなく、全盲のピアニストであり、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで中国人ピアニストの張昊辰さんと同時に優勝をさらったことにより、日本のみならず世界の注目の的のピアニストです。渋谷のタワー・レコードでは辻井さんのコーナーが出来ていたりしました。
下のCDジャケットはクリーブランド管弦楽団が演奏する「シンフォニエッタ」です。そうです、私のこのブログの6月5日付けのエントリーで取り上げ、日本中でブームを巻き起こしている村上春樹さんの『1Q84』にしばしば登場する音楽です。チェコの作曲家ヤナーチェクの作品です。チェコの作曲家と言えばスメタナやドボルザークが有名なんですが、この2人は西部のボヘミア出身であるのに対して、ヤナーチェクは東部のモラビア出身です。リズム感のはっきりしたボヘミア音楽に対して、言葉の抑揚に任せて朗唱風になだらかなリズムとメロディで推移するのがモラビア音楽の特徴で、特に「シンフォニエッタ」はヤナーチェク最晩年の作品ですから、やや平板な印象を持つ人も少なくないと思います。なお、長崎交響楽団にはリズミカルなドボルザークがよくマッチしていることは、定期演奏会に行った5月23日付けのエントリーに書いた通りです。なお、『1Q84』では最初の青豆さんの章でタクシーの中で流れていたのがクリーブランド管弦楽団の演奏とありますので、現在入手できるCDではコレということになります。なお、小澤征爾さんの指揮になるシカゴ交響楽団の演奏でその名も『ヤナーチェク / シンフォニエッタ』というCDがあり、私もネットでそのCDジャケットを見かけたんですが、余りにも若い小澤さんの写真でしたので、とっても引用する気にはなれませんでした。ほかに、本場チェコのフィルハーモニー管弦楽団の演奏するCDなどもネットで見かけました。

私がCDを買うのは1950-60年代のモダン・ジャズが中心で、今までクラシック音楽のCDは女房が妊娠した時にカラヤン『アダージョ』を買ったくらいしか記憶にありません。でも、次の週末は、どこかのショッピング・モールにあるCD店でものぞいてみようかと考えています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月22日 (月)

世銀の "Global Development Finance" と朝日新聞調査による地域経済の景気判断

日本時間で今日の午後12時30分に世銀の「世界開発金融」 "Global Development Finance 2009" のエンバーゴが解け、特に、世銀の経済見通しなどについて各紙でいっせいに報道されています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

世界銀行は21日、2009年の世界経済の実質成長率がマイナス2.9%に落ち込むとの見通しをまとめた。10年はプラス2.0%、11年は同3.2%まで回復すると予測しているが、金融危機を伴う景気後退だけに回復力は弱いとみている。
09年の成長率は日米欧がそれぞれ、マイナス6.8%、同3.0%、同4.5%。10年にはそれぞれプラス1.0%、同1.8%、同0.5%まで回復する。
景気後退下で世界経済をけん引する新興国では、中国が09年の6.5%から10年に7.5%に、インドが5.1%から8.0%まで持ち直す。新興国を含む発展途上国全体の09年の成長率は1.2%。高めの成長率を維持する中印両国を除けばマイナス1.6%になる計算だ。

今どき当然ながら、このリポートは pdf ファイルでも提供されていますし、日本語のサマリーも同じく pdf ファイルでアップロードされています。pdf で提供されている英文のリポート全文は約150ページです。ここから、最も簡略化された世界経済見通しの表を引用すると以下の通りです。

A protracted recession

上に引用したのはリポートの pp.33 にある Table 1.10 なんですが、そのタイトルは "A protracted recession" だったりします。なお、日本の成長率見通しは pp.9 の Table 1.1 に見られます。引用した日経新聞の記事にもありますが、今年2009年▲6.8%の大幅なマイナス成長の後、2010年+1.0%、2011年+2.0%と順調に回復するシナリオが提示されています。日経新聞では+1%成長では「力強さを欠く」との表現になっていますが、人口減少社会に入った上に、今回の世界同時不況で資本蓄積のスピード、すなわち、設備投資も大幅に鈍化しましたから、1%成長はほぼ潜在成長率に見合った水準ではないかという気もします。

都道府県別の景気判断

次に、朝日新聞のサイトから引用した都道府県別の景気判断の地図は上の通りです。この画像は紙面では見かけませんでしたので、web だけの掲載かもしれません。朝日新聞社が独自に実施した47都道府県の商工会議所と地元金融機関のトップらを対象に行った地域経済アンケートの結果です。さすがに、「拡大・回復傾向」との回答なまだないようですが、ほとんどの都道府県が「下降・悪化傾向」との回答の中で、熊本県、大阪府、愛知県、富山県、群馬県とともに、我が長崎県は全国の中でもやや景気判断がいい部類に入っています。まさか、単に勘違いしているということはないでしょうから、資源高に支えられた造船業が景気を引っ張っているのかもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月21日 (日)

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮文庫)を読む

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮文庫)この週末に伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』(新潮文庫)を読みました。先週か先々週から、大学の生協で文庫本・新書の15%オフのセールをやっていて買い求めました。昨日、下の子をカブ隊の訓練キャンプまで連れて行った往復の電車の中で読み切りました。私が伊坂さんの小説をこのブログの読書感想文で取り上げるのは昨年2008年9月15日付けのエントリーで『ゴールデンスランバー』について、世間から1年近く遅れて取り上げて以来です。『ゴールデンスランバー』には見られなかった、伊坂ワールドに特有のカギカッコ付きの「変人」が『重力ピエロ』には現れます。そういう意味で、伊坂作品らしい小説だと私は受け止めています。ご存じの方も多いと思いますが、加瀬亮さん、岡田将生さん、小日向文世さんなどの出演により同名のタイトルで映画化され、今年5月に全国で封切られています。もっとも、私は見ていません。なお、どうでもいいことですが、左上の表紙の画像は新潮文庫のサイトから引用しているんですが、これに見られる英文タイトルは、なぜか、"A PIERROT" になっています。日本語タイトルの「重力」が抜けている気がしないでもないですし、英語なら pierrot よりも clown ではないかと思わないでもありませんが、そこは作者と編集者の趣味の問題かもしれません。それから、ミステリの要素もある小説ですから極力避けていますが、読み進む場合はネタバレがあるかもしれません。ご注意ください。

さて、小説は2歳違いの2人の兄弟、ともに20代後半から30歳前後の泉水と春を主人公にして、泉水の1人称で語られます。「春が二階から落ちてきた」で始まって、「春が二階から落ちてきた」で終わる小説です。遺伝子、あるいは、DNAとグラフィティアートと放火に関する小説です。泉水は遺伝子関係の会社の営業をしています。そして、私がカギカッコ付きの「変人」と目しているのは弟の春です。グラフィティアートと呼ばれる落書きを効率的に消す方法でもって自営業をしています。1973年4月8日のピカソの命日に生まれ、美術にたぐいまれな才能を持ち、抜群のルックスで女性にもてるにもかかわらず、ゲイでもないのに女性や性的なるものを避け、今どきガンジーを尊敬してジンクスに頼る、かなりの変わりものです。なお、私が知る限り、春は伊坂さんの死神シリーズの中の『死神の精度』に登場して、死神こと千葉と会話を交わすシーンがあるんではないかと記憶しています。ついでながら、泉水が調査を依頼する黒澤という探偵は『ラッシュライフ』にも登場していたような気がします。この2点は少し記憶が不確かです。
この兄弟は、というか、家族は過去に悲しい記憶を抱えています。母親がレイプされて出来た子供が春であり、従って、兄弟は半分しか血がつながっていません。この2人の母親はすでに死に、父親もガンで入院中です。最後に亡くなります。ストーリーとしては、仙台市内で放火事件が相次ぎ、現場近くに残されたグラフィティアートと遺伝子情報がリンクしているようで、泉水と春の兄弟に入院中の父親も加えた推理が始まります。時折、泉水と春の幼いころや高校生のころ、あるいは、母親が生きていたころのエピソードが挿入されます。そして、想像を絶する結末を迎えます。このあたりは伏せておきます。なお、最後の北上次郎さんの解説にある通り、伊坂さんは単行本を文庫にするに当って手を入れることで有名な作家であり、この小説でも文庫化の際に新たな部分の挿入があります。
私が興味を持ったきっかけは、何といっても、我が家にも2歳違いの男の子の兄弟がいることです。15年か20年ほどしたら、この泉水と春の兄弟にように育っているかもしれません。もっとも、我が家の子供達はフルで血がつながっていると私は信じています。もちろん、血のつながりと育った環境の対比としては、日本でも昔から「生みの親より育ての親」という言葉がありますし、この『重力ピエロ』の家族像に私は全面的に共感を寄せます。もちろん、育ての親のもとを去って血のつながった実の親を探し出して再会を果たすというストーリーも感動的なのかもしれませんが、DNAの一致とか血のつながりは家族として過ごした時間の重みに圧倒的にかないません。その点では、『重力ピエロ』の3年後に出版され、直木賞を受賞した三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』に一定の影響を与えた作品かもしれないと感じています。最後に、春に対する泉水の判断は、言うまでもなく、コナン・ドイル卿のホームズ・シリーズの中の「アベ農園」を下敷きにしたものだと私は受け止めています。これにも共感を寄せています。

この小説に出てくる言葉を引用すると、我が家も「最強の家族」を目指して、また、「最強の兄弟」を育てるべく努力したいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月20日 (土)

小学校の学校公開日の後、下の子をカブ・スカウトのキャンプ地に連れて行く

昨日今日と、下の子が通う小学校の学校公開日でした。今日は、女房がおにいちゃんの中学校の方の行事に行かねばならず、私が下の子の小学校に行きました。一応、「ゆとり教育」から少し脱却すべく、ということなんでしょうが、小学校でも今年度から月に何度か土曜日の授業も行われるようになり、その土曜日に学校公開日を設定するということは、父親も対象に含まれているという小学校からの強いメッセージですし、そうでなくとも、親バカの私は有給休暇を取得してでも、こういった学校行事には参加して来ましたから、この週末も小学校の学校公開日を楽しみに東京に戻って来ました。幸か不幸か、本学では土曜の授業はありません。
当たり前ですが、私が大学の大教室で講義をしているように、250人を超える学生が集まるわけでもなく、もちろん、先生がマイクを使うこともなく、黒板の板書も私なんかは後ろの席の学生にも見えるようにデカデカと書くんですが、すべてにおいてこじんまりとした印象でした。大学生と小学生の体格の違いはありますが、我が家の下の子なんかは私の授業に出て来る小柄な女学生並みの体格だったりします。少なくとも体重では上回っていそうな気がしないでもありません。それはともかく、4時間目は教室での授業の公開ではなく、体育館に保護者を集めて校長先生から学校説明会がありました。小学校でもパワーポイントを用いてのプレゼンが当たり前の時代になっているようです。

スペーシアに乗ってキャンプ地に向かう下の子

キャンプ地のログハウスに着いた下の子

午後からは東京-長崎の空路を除いて、久し振りに陸路で遠出しました。と言うのは、下の子が活動しているカブ隊からボーイ隊への上進に備えた訓練キャンプが予定されていて、午前中のうちに、隊長に率いられてクマ・スカウトの仲間は出発してしまったんですが、ウチの子は小学校があって午前中の出発は出来ませんでした。私は6月1日付けのエントリーに書いた通り、本学の大学生に対しては大人として扱い、授業への欠席や遅刻・早退などは自己責任で判断すればいいと考えているんですが、さすがに、義務教育ど真ん中の小学生はそうは行きません。何といっても、たとえスカウト活動でも小学校の授業が優先するのは当然です。他方で、我が家の下の子なんかはキャンプに行きたくてスカウトに入ったようなもんですから、せっかくのキャンプの機会をむざむざと逃すのも悔しい限りです。かと言って、片道3時間余りかかる道のりを小学生1人で行かせるのもムリがあります。結論として、私が下の子をキャンプ地まで連れて行くことになります。たとえ親バカでなくても、非常に論理的な結論だと受け止めています。小学校の授業が終わってから、東武線のスペーシアでカブ隊の仲間を追いかけ、夕方にはキャンプ地のログハウスに着きました。上の写真の通りです。下の子が最も重視するキャンプでの夕食には楽勝で間に合いました。しかし、片道3時間余りの道のりを1日のうちに往復した私は夜遅くの帰宅になって疲れ果ててしまいました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月19日 (金)

米国の金融規制改革法案をどう評価すべきか?

一昨日6月17日の発表から少しお時間をちょうだいしましたが、今夜は米国の金融規制改革法案について取り上げたいと思います。まず、米国の大統領府と財務省の記者発表へのリンクは以下の通りです。タイトルも中身もまったく同じだったりします。ある意味で当然かもしれません。

3番目のリンクはリポートの pdf ファイルです。表紙は以下の画像の通りです。

Financial Regulatory Reform

次に、これもまったく中身は同じなんですが、米国大統領府と財務省のプレスリリースによるポイントは以下の通りです。

  • Require that all financial firms that pose a significant risk to the financial system at large are subjected to strong consolidated supervision and regulation
  • Increase market discipline and transparency to make our markets strong enough to withstand system-wide stress and the potential failure of one or more large financial institutions
  • Rebuild trust in our markets by creating the Consumer Financial Protection Agency to focus exclusively on protecting consumers in credit, savings, and payment markets.
  • Provide the government with the tools needed to manage financial crises so it is not forced to choose between bailouts and financial collapse
  • Raise international regulatory standards and improve international coordination

続いて、内外各紙の報道へのリンクは以下の通りです。読売新聞の記事は発表前のもので、一部に発表されたものと相違ある可能性も排除できませんが、一見したところ、大きな違いはないように見受けられます。なお、自分でリンクを張っておきながらナンですが、ハッキリ言って、朝日新聞の記事はとっても的外れだったりします。また、New York Times のサイトは中央銀行たる連邦準備制度理事会 (FED) も含めた規制機関の再編を巨大なグラフィックに取りまとめています。

余りにも大雑把ながら、私の理解では、消費者金融監督庁 (Consumer Financial Protection Agency) といった機関を新設したりして、金融商品ごとの規制を強化しつつ、金融持ち株会社への規制や監督を含めて、システミック・リスクへの対応の権限と権能をほぼ FED に一元化しようとするもの、ということになります。加えて、各規制機関の連携を強化するために金融サービス監視協議会 (Financial Services Oversight Council) も新設されます。しかし、他方で、私が見落としているのかもしれませんが、格付け会社への規制はスッポリ抜け落ちているように見受けられますし、最後に、やや的外れながら朝日新聞が着目するように、国際的な観点から資本準備水準の引上げや規制の枠組みの改善の提案なども盛り込まれています。
事実関係に続いて評価なんですが、ハッキリ言って、現時点では評価は分かれるだろうと思います。例えば、慶応大学の小幡准教授が『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書) で指摘しているように、癌化した金融資本主義のネズミ算的な部分を効率的に規制出来ているようには私にはとても見えません。しかし、政府としてやるべきことは、投資家の損失を回避することではなく、回避すべきはシステミック・リスクですから、その点からは評価できる部分も多いにあるような気がします。例えば、昨年の今ごろ大いに読まれた白川日銀総裁の『現代の金融政策』(日経新聞) を引くまでもなく、バブルに関しては FED view と ECB view があり、後者の欧州的なアプローチは発生の時点からバブルを抑制しようとするのに対して、前者の米国的なアプローチはバブル崩壊がシステミック・リスクを引き起こさないように防止する点を重視します。必ずしも正確ではありませんが、バブルについての事前規制と事後規制とも言えます。今回のオバマ政権の法案は従来の FED view から少し踏み込んで ECB view に近づいた気はしますが、消費者保護という事後救済的な色彩も強く残っており、バブルをシステマティックに防止するのは容易でないことが見て取れます。もちろん、この先、議会との交渉によって法案の中身が変更される可能性も大いにあり得ます。

いずれにせよ、私のこのブログの一昨日のエントリーで、バブル崩壊後の重点として、銀行への公的資金の注入に続く政策は、バブルを発生・崩壊させた資産価格の分析ではなく不良債権処理であると指摘しましたが、さらにその先を見据えた政策を早くも打ち出している点はスゴイと感じてしまいました。日本なら5年はかかりそうな気がします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月18日 (木)

貿易における比較優位構造の変化

今週の授業シリーズは貿易について、特に、比較優位の理解とその構造の変化についてです。まず、私の使っている教科書の例について、2国2財モデルで以下のような単価が示してあります。

 自動車 (台)オレンジ (トン)
米国1万ドル0.1万ドル
日本200万円50万円

米国と日本における自動車1台とオレンジ1トンの相対価格は、オレンジ1トンを1として、米国で自動車1台が10、日本で4となります。相対的に米国ではオレンジが安くて、日本では自動車が安いことになります。そうすると、米国はオレンジに、日本は自動車に比較優位を持つことになります。関税はもちろんのこと、輸送費や保険料などのコストをゼロと仮定して、以下の通り、簡単に4つの貿易パターンを考えます。

  1. 日本で200万円持っている人は、自動車1台を買って米国に輸出し1万ドルを得て、オレンジを10トン買い日本に輸入すると500万円を得ます。200万円を元手に貿易をすると500万円に増えます。
  2. 米国で4000ドル持っている人は、オレンジを4トン買って日本に輸出し200万円を得て、自動車を1台買って米国に輸出すると1万ドルを得ます。4000ドルを元手に貿易すると1万ドルに増えます。
  3. 逆に、日本で500万円持っている人が、オレンジを10トン買って米国に輸出すると1万ドルを得られますが、これで自動車を買って日本に輸入しても200万円にしかなりません。500万円を元手に貿易しても200万円に減ってしまいます。
  4. 同様に、米国で1万ドル持っている人が、自動車を1台買って日本に輸入すると200万円を得られますが、これでオレンジ4トンを買って米国に輸出しても4000ドルにしかなりません。1万ドルを元手に貿易しても4000ドルに減ってしまいます。

上の2つの例は比較優位に従って貿易すると交易の利得が上げられるという例で、逆に、下の2つは比較優位に反して貿易しても交易の利得は得られないということを示しています。当然です。ここで注意しておきたいのは、為替レートを全く設定していないことです。すなわち、上の例は為替レートがどんな値を取っても成り立つことが明らかです。少し年輩で事情の分かっている人は、ミカンと塩鮭でこれをやって大もうけしたのが紀伊国屋文左衛門だと思いつくでしょう。でも、20歳前後の学生諸君は紀伊国屋文左衛門と聞かされてもピンと来なかったようです。ついでながら、就職活動のシーズンでもあり、本学の学生諸君は金融機関を目指す傾向が強いように私は感じていたので、貿易ももうかる業種だから商社も考えてはどうかと言ってみました。でも、反応のないのには慣れました。
しかし、ここで1点疑問が生じます。比較優位に基づく貿易は無限の富を生み出すものなのか、ということです。物理学が否定した無限機関を経済学は発見したのかというと、決して、そうではありません。貿易取引による希少性の変化に従って比較優位の構造、すなわち、国内相対価格が上下するからです。上の表の例に即して言うと、米国から日本にオレンジが輸出されることにより、米国内でオレンジが相対的な希少性を高めて価格が上昇し、逆に、日本ではオレンジが輸入されることにより希少性とともに価格も低下します。自動車はこの逆が起こります。そして、世界は一物一価に向かうと私は考えています。しかし、ここまで学部レベルの教科書で書いてくれているのは見当たりませんでしたから、私が適当に板書しながら補足します。 ヘクシャー・オリーン・サムエルソンの定理なんかも授業で取り上げましたが、今夜のブログでは割愛します。

前期もそろそろ中盤を過ぎて、学生諸君も期末試験を意識し始めていますので、少なくとも今週の授業ではかなり活発な参加意識が見られ、私もうれしく感じています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月17日 (水)

欧州中央銀行 (ECB) の "Financial Stability Review"

一昨日の6月15日、欧州中央銀行 (ECB) から半年に1度の "Financial Stability Review" が発表されました。ユーロ圏の銀行が2010年までに総額で2830億ドルの不良資産処理が必要になるとの試算を公表しています。国際通貨基金 (IMF) などはよくこういった試算を公表しているんですが、ECBでは異例の試算だと私は受け止めています。まず、日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。

欧州中央銀行(ECB)は15日、ユーロ圏の銀行が2010年までに総額で2830億ドル(約28兆円)の不良資産処理が必要になるとの試算を公表した。金融市場では欧州の銀行の財務内容に対する不信感が根強い。ECBとして異例の分析を示すことで、こうした金融市場の不安を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられる。
ECBは著しく価値が低下したり、回収の見込みが低い融資のうち、未処理のものを「将来の潜在的な損失」と位置付けた。金融危機の発生後に生じた6490億ドルの不良資産のうち、約4割が未処理となっている。
ただ、ユーロ圏の1カ国あたりでは200億ドル以下となる計算で、市場では「損失を過小評価している」との声が上がる可能性がある。

ECBのサイトからこの画像を引用すると以下の通りです。

ECB Financial Stability Review

もちろん、このリポートは pdf ファイルでも発表されていて、英文で200ページ余りの分量ですから、私もすべて読んだわけではないんですが、かなり、真剣に欧州の金融情勢を分析しています。引用した記事にもある通り、米国や日本と比較してディスクロージャーがそんなに進んでいるとは言えない欧州ですから、過小推計の可能性があるとすれば、現状の欧州レベルのディスクロージャーに基づくデータの不足の可能性があるかもしれません。もうひとつの可能性は、世界的に景気が回復に向かっているので、潜在的な損失額が最近の1-2か月で減少に転じているのかもしれません。かなり楽観的な見方だという気はしますが、可能性を排除することは出来ません。ただし、私がこのブログの4月22日付けのエントリーで貿易統計といっしょに取り上げた IMF の4月時点での見通しによれば、欧州の2007-10年の潜在的な損失が8880億ドルとされており、上の ECB の表ではこれに相当するのが6490億ドルですから、やや少ないとの印象は否めません。
最後に、私の独自の観点なんですが、今回のこの ECB のリポートでも最初のマクロ金融環境は経常収支や為替などとともに、相変わらず、米国の住宅価格の動向が分析されています。今週に入ってからも米国の住宅着工が増加したとのニュースがもてはやされたりもしました。日本の1990年代初頭のバブル崩壊後の経験でも、一所懸命に土地価格の分析をしているエコノミストもいましたが、我が国の経験からすれば、バブルを生じて崩壊させた資産価格の動向分析よりもその後の不良資産処理が最も重要な政策課題となることは明白です。現時点では、欧米の目はまだ米国の住宅価格に張り付いているようで、日本のバブル崩壊後の経験と言えば、デフレが言及されるくらいの状態です。その意味で、ECB が不良債権額に注目して、その処理を促さんばかりのスタンスを取り始めたのは大いに評価できると思います。メディアの報道を見ている限り、ECB のリポートにある額が多いの小さいのと言ったことに終始しており、せいぜい、私が上に引用した日経新聞のように、ディスクロージャーのやや遅れた欧州金融市場の不安払拭くらいが関の山で、不良債権処理を重視する方向に ECB が舵を切るのかどうかに着目した報道は内外を問わずまったく見かけませんでした。誠に残念な限りです。

日本のバブル崩壊後の長期の経済低迷を最終的に払拭したのは地価の復活ではなく不良債権処理でした。これは専門的なエコノミストでなくても、日本人であれば誰でも知っていることです。今回の ECB の不良債権額の公表をきっかけに、銀行への公的資本注入に続く第2弾として、不良債権処理を重視する方向に米欧の政策当局の目が向くことを私は願っています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月16日 (火)

第67期名人戦7番勝負第6局は羽生名人が勝って3たびタイに

京都市の東本願寺渉成園で昨日から指し継がれて来た将棋の第67期名人戦7番勝負第6局は、今夜の9時過ぎに終局し、羽生名人が131手までで競り勝ってカド番をしのぎ、3たび対戦成績をタイに戻しました。決着は6月23-24日に愛知県豊田市のホテルフォレスタで行われる最終第7局へ持ち越されることになりました。下の画像は朝日新聞のサイトから引用した終了図です。

名人戦第6局終了図

昨日の陽動振り飛車と呼ばれた郷田九段の戦法に対して、昨日から今朝にかけての序盤から中盤のかかりのころには羽生名人有利との声が聞かれたものの、中盤から郷田九段がやや盛り返し、検討室では「形勢が接近している」という評判に変わったんですが、結局、羽生名人が押し切った形になりました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月15日 (月)

時系列分析で地方研究をする限界

2週間ほど前の6月3日に「九州7県における人的資本の推計」なる新しいペーパーを書き上げましたが、引き続き、九州や長崎に関する地域研究に取り組もうとしています。でも、少しずつ限界が見えてきた気がしないでもありません。というのは、私の専門分野は時系列分析で、何かが何かの原因となるという意味での構造的なアプローチと違って、経済データそのものが確率的な過程を経て現れるのを分析するアプローチですから、何が何でも大量のデータを必要とします。そのデータに対してランダムウォークとか、VARのプロセスを当てはめて推計するわけですから、統計的に有意な結果を得ようとすれば大量の時系列データを必要とします。しかし、全国レベルでは経済データはかなり整備されていて、役所や日銀のホームページにExcelで読めるファイルが大量にアップされているんですが、地方レベルの経済データは地銀のシンクタンクや県庁・市役所の統計課を煩わせても、全国レベルと同等まで整備されているわけではありません。「九州7県における人的資本の推計」で使った高校生の上級学校への志願率に関するデータはシコシコと手入力を余儀なくされました。もしも、Excelで読めるファイルが利用可能であるなら、九州7県なんてケチなことを言わずに全国47都道府県をすべて対象に出来るんですが、この年齢に達して大量のデータを手入力するには体力的にも限界があります。東京に勤務していたころは、BloombergやDataStreamなどのデータサービスが充実している部署もありましたが、地方大学の予算の限界も同時にまざまざと見せつけられた気がします。でも、時系列分析を続ける以上、新しい手法で分析するか、人に知られていないデータで勝負するか、どちらかしかない一方で、私は計量的な難しい手法は能力的に及びもつかないわけですから、既存研究でエラい先生がやった手法を見かけないデータで分析するしか、研究者として生き残る道はないような気がしないでもありません。

九州や長崎に関する地域研究については、もう少し模索が続きます。国際派のエコノミストとして、思い切って、海外に目を転じようかと思わないでもありません。なお、経済について評論したわけではありませんので、今夜のエントリーは普通の日記に分類しておきます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月14日 (日)

NHK土曜ドラマ「風に舞いあがるビニールシート」を見る

5月30日から放映の始まったNHKの土曜ドラマ「風に舞いあがるビニールシート」を見ています。青山の我が家の近くにある国連大学ビルにオフィスを構える国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) を舞台にしていますので、見慣れた建物がよく登場します。5回シリーズで、昨夜は第3回目に当たり、エドの死亡が確認された中盤のクライマックスが放送されました。主演は吹石一恵さん、原作はいうまでもなく森絵都さんの同名の短編集『風に舞いあがるビニールシート』の最後に収められている同じタイトルの短編です。直木賞を授賞された作品で、私も2006年7月31日のエントリーで読書感想文をアップしています。ご参考まで、「表題作はベタベタの恋愛小説であることは間違いなく、私はこの表題作が短編の中では一番嫌い」との評価を下しています。念のため。なお、下の画像は4月にこの短編集が文庫化された時のものです。しっかり、NHKドラマのことも帯で宣伝されています。

「風に舞いあがるビニールシート」

私が短編集の中で表題作を評価しなかったのは「ベタベタの恋愛小説」であるとともに、UNHCR の活動の中でも広報や資金活動などよりフィールドでの体を張った活動を称賛しているような趣きが私には感じられたことで、極めて大袈裟に言えば、職業観に関するカギカッコ付きの「軍国主義」的な傾きを示唆しかねない見方まで含めて恋愛小説として表現しているような感覚をホンの少し感じたからです。もちろん、評価は人それぞれですから、要するに私には評価できないというだけであって、実は、私なんかが代表なんですが、紛争や難民とは無関係に平穏無事な日々を送っている大部分の日本人に対して、緊急ロスターでは遺書まで用意してフィールドに赴く UNHCR の活動を紹介するのは大いに意味があることだということは十分に評価しています。繰返しになりますが、カギカッコ付きの「軍国主義」的な職業観は別にしても、UNCHR の活動をドキュメンタリーではなく、例えば、昨夜放映されたドラマで出て来ましたが、エドが緊急連絡先リストのトップに離婚した妻であるヒロインを指定していたり、広報部門の上司がヒロインにエドの遺体の処理を聞きに来た時にヒロインの友人が激しく抗議するなど、恋愛小説にしてしまうことが私の好みに合わないということだと思います。いずれにせよ、文庫本で80ページほどの短編を1回当たり1時間近い5回シリーズのドラマにするんですから、当然ながら、小説にないエピソードがいっぱい盛り込まれています。原作者が執筆するに際して取材中に得たエピソードなのか、NHKが独自に取材して付け加えたものかは知りませんが、恋愛小説からドキュメンタリーに近くなっているんではないかと期待して見始めました。5回シリーズの3回目まで見て、期待は半分ほどかなえられた気がしないでもありません。
ついでながら、ノンフィクションのドキュメンタリーを映像化するのではなく、小説をドラマや映画にするのは難しいことだと思います。例えば、これも直木賞を受賞して、私も2006年1月31日付けのエントリーで読書感想文を書いた東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』が映画化されて昨年封切られたんですが、原作にはない女性刑事の役が付け加えられていると知った瞬間に、柴咲コウさんには申し訳ないながら、私は映画を見る気をなくしてしまいました。村上春樹さんの多くの小説や恩田陸さんのほとんどの作品は映像化になじまない気がしないでもありません。『ノルウェイの森』は映画化されるようですが、先週6月5日のエントリーで取り上げた『1Q84』は映画化されても見に行かないかもしれません。恩田陸さんの小説は実写よりもアニメの方が適していそうな気もします。海外の有名どころを例にすると、『ジュラシックパーク』や『ハリー・ポッター』のシリーズなども含めて、映像化しやすいファンタジーとそうでないのがあるように感じます。

最後に、NHKドラマともファンタジー小説とも何の関係もないことながら、阪神は今日も負けて5連敗となりました。先週の日曜日に4連勝の記事をアップしたのが2-3年前のことのようです。今年はもう虎ブロはアップしないかもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月13日 (土)

The Economist の報道に見る財政赤字への懸念

今週は、景気動向指数や1-3月期のGDP2次速報などの重要な経済指標の発表があったこともあり、月曜日から金曜日まで5日間経済評論の日記を書き続けましたが、今夜も財政赤字に関する The Economist の記事を取り上げたいと思います。私がこのブログの火曜日のエントリーで経済財政諮問会議の財政試算を取り上げたのに刺激されたのかもしれません。冗談は別にして、まず、 Leaders のしょっぱなの記事で "Public debt: The biggest bill in history" と題する記事を掲げて、赤ん坊が大きな鉄の足かせを付けてハイハイしている画像を掲載し、さらに、"Will they default, inflate or manage their way out?" との問いを投げかけています。もちろん、政府がデフォルトするわけにもいかないでしょうし、インフレを目指すとも言えませんから、我が国のようにまじめに出口を模索することになります。

Government debt

さらに、Briefing の欄で、 "Government debt: The big sweat" と題する記事でいくつかの統計を上げているのが上のグラフです。6月9日に発表されたと記してあるように、国際通貨基金 (IMF) のスタッフ・ポジション・ノート "Fiscal Implications of the Global Economic and Financial Crisis" を基にした記事です。ご興味ある方はこのリポートも大いに参考になりますのでリンクを張っておきます。記事では、昨年来、話題になったラインハート教授とロゴフ教授のエピソード分析も持ち出して、20世紀の14回の銀行危機で公的債務が実質で86%に上っていることも取り上げています。でも、上のグラフのうち、真ん中のグラフに示されているように、市場からの圧力はまだ大きくなっていません。財政赤字にのほほんと対応しているエコノミストは世界の中で私だけなのかもしれません。

もっとも、2月4日付けや今週火曜日のエントリーで紹介したように、「財政の持続可能性に関する考察」と題する研究ノートを大学の紀要の3月号に掲載したりして、それなりの関心は示しています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月12日 (金)

金融と金融政策のポイント

先週はお休みした授業シリーズに戻って、今夜は金融と金融政策です。
まず、私が大学の講義で使っているテキストは日本の金融や金融政策について1985年のプラザ合意のあたりから説き起こしています。これは秀逸な見解だと私は考えています。というのは、もちろん、1985年のずっと前から日銀も銀行もありましたし、金融活動は行われており、主として公定歩合の操作などにより金融政策も発動されていました。しかし、財政政策と金融政策が大きく異なるのは、金融政策は自由な市場を前提としていることです。すなわち、財政政策で減税や増税、あるいは、公共投資の増加や減少などの政策手段により、政府は国民のポケットに直接手を突っ込むことが出来て、そのポケットにお金を入れたり、あるいは、税金として徴収したり出来るんですが、中央銀行のアクションに対して金融機関が市場経済に基づく合理的な行動を取ってくれないと金融政策は無効になります。例えば、マーケットでのオペレーションで通貨供給を増やしても、政府の規制によって貸出金利が固定されていれば、このオペレーションには意味がありません。そういった意味で、1980年代半ばあたりというのは金融市場の自由化が進展し、金融政策の有効性が大きくなった時期に当たると私は考えています。欧米諸国では早くから金融市場の自由化に取り組んで来ましたから、日本よりずっと早くに金融政策がマクロ経済の安定化に割り当てられるようになっていました。日本では大雑把に前世紀いっぱい、小渕内閣から森内閣のころまで財政政策がマクロ経済の安定化を担って来ましたが、欧米諸国ではその時期にはとっくに金融政策が主役となっていました。
授業では、1980年代後半からのバブル経済とその後の1997年を頂点とする金融危機について話を進め、金融機関救済に議論が及びます。決して、10年以上前の日本での出来事ではなく、現在の経済学部3-4年生は昨年9月のリーマン・ブラザース証券の破綻を見ていますので、それなりに理解して欲しいところです。まず、経済には個別のショックとマクロのショックがあることを区別する必要があります。前者の個別のショックはリスクをプールして、典型的には保険によりリスクヘッジされるものです。健康保険や自動車保険などが想像できればオッケーです。後者のマクロのショックは国家が介入しなければ解決できないもので、金融においてはシステミック・リスクと呼ばれます。大規模銀行の破綻などにより決済機能がマヒすることなどがこれに当たります。理論的にあり得るだけでなく、我が国では昭和初期の金融恐慌の時に実際に体験しましたし、昨年は3月のベアスターンズ証券の破綻、9月のリーマン・ブラザース証券の破綻と、年に2回もシステミック・リスクの深淵をのぞいた気がします。
このシステミック・リスクを回避するには、国家、すなわち、政府と中央銀行が何らかの手段で金融機関を救済する必要があります。しかし、救済範囲が狭いとシステミック・リスクの可能性が高まる一方で、救済範囲が広過ぎるとモラルハザードを生じます。適当な放漫経営をしていても救済されるのであれば、金融機関の経営規律が緩んで社会的なコストを生じます。これを図示したのが以下の画像です。

システミック・リスクとモラルハザードの社会的コスト

昔からお絵描きはヘタなんですが、要するに、青いラインのシステミック・リスクの社会的コストと緑のモラルハザードのコストの和である赤のラインの総コストが最も低くなる範囲で救済がなされるべきということにあります。これも、実務的に救済範囲を決めることは難しいですが、例えば、公務員試験などでは適当なコスト関数を設定して、その微分係数がゼロとなる点を求めるような問題が出題されたりする可能性はあります。経済学部に学ぶ大学生として考え方は知っておいて欲しいところです。
ついでながら、金融機関を救済するに当たって、財政資金を投入するのであれば何らかの法的根拠が必要となります。日本はこの点では、1998年に金融安定化2法を成立させ、健全行に対しても公的資金を資本注入することが出来ますから、少なくとも、その時点では世界にも例を見ない先進的なシステムを構築しています。もっとも、当時の小渕内閣が野党民主党の案を「丸飲み」した、との報道もあったように記憶しています。米国ではこういった公的資金を金融機関に資本注入するスキームがなく、特に、昨年のリーマン・ブラザース証券破綻後に、下院が金融安定化法案を否決して世界の金融市場を大混乱に陥れたことは記憶に新しいと思います。
最後に、サブプライム問題からバブルを招いたと言われている証券化については、私はそれ自体としては先進的な金融技術だと評価しています。何らかのキャッシュフローに対してリスクとリターンを分析し、流行り言葉にもなった「トリプルA」の格付けを取得したりして、投資額に対するリスクとリターンを評価してその観点だけから証券化商品を組成して広く顧客に売りさばくというのが本質です。どこにだれがどんな家をいくらで建てたのかはまったく関係ありません。投資額とリスクとリターンという世界標準の数字に純化されているといえます。逆に、日本の金融機関がサブプライム・ローンを原資産にした証券を余り保有していなかったのは、実は金融に関する技術が遅れていて、それを評価することが出来なかったからに他なりません。決して、金融安定化のスキームが整備されていたからではなく、金融に関して証券の評価技術が遅れていたからであると理解すべきです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月11日 (木)

過去最大のマイナス成長を確認した1-3月期2次QEは過去の数字か?

本日、内閣府から1-3月期の四半期別GDP速報 (2次速報) が発表されました。エコノミストの業界で2次QEと呼ばれているものです。まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインに関する記事を引用すると以下の通りです。

内閣府が11日発表した1-3月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で、前期比3.8%減、年率換算で14.2%減だった。5月公表の速報値と比べて前期比が0.2ポイント、年率が1.0ポイントの上方修正だが、「戦後最悪」のマイナス成長に変わりはなかった。日本経済は4月以降、生産や輸出に持ち直しの兆しが見えており、4-6月期のGDPはプラス成長を回復するとの見方が多い。
改定値は速報値の発表後に判明した法人企業統計などのデータをもとに、GDPを推計し直したもの。家計の生活実感に近い名目値のGDPは前期比2.7%減、年率10.4%減。それぞれ0.2ポイント、0.5ポイント上方修正した。
今回の上方修正は民間企業の設備投資や在庫が、速報値の段階で想定していたほど急減していなかったのが主因。実質値でみると、設備投資は前期比8.9%減で、速報値より1.5ポイントの上方修正となった。ただ大幅マイナスに変わりはなく、企業の投資意欲の低調ぶりを改めて示した。

次に、いつものGDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者所得を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは名目ですし、GDPデフレータだけは伝統に従って原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と外需は前期比伸び率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、完全性は保証しません。正確な計数は最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2008/
1-3
2008/
4-6
2008/
7-9
2008/
10-12
2009/1-3
1次QE2次QE
国内総生産(GDP)+0.4▲0.6▲0.7▲3.7▲4.0▲3.8
民間消費+1.4▲1.0+0.1▲0.8▲1.1▲1.1
民間住宅+5.0▲2.0+3.1+5.3▲5.4▲5.5
民間設備+1.3▲2.9▲4.2▲6.4▲10.4▲8.9
民間在庫 *▲0.5+0.1▲0.2+0.7▲0.3▲0.2
公的需要▲1.3▲0.8▲0.0+1.3+0.2+0.0
外需 *+0.0+0.5▲0.1▲3.2▲1.4▲1.4
輸出+2.4▲0.8+1.0▲14.7▲26.0▲26.0
輸入+2.4▲4.2+1.5+3.1▲15.0▲15.0
国内総所得(GDI)+0.3▲1.8▲1.7▲1.1▲1.9▲1.6
名目GDP+1.0▲1.8▲1.7▲1.3▲2.9▲2.7
雇用者所得+0.4▲1.4▲0.2+0.5+0.0▲0.0
GDPデフレータ▲1.3▲1.5▲1.5+0.7▲0.3▲0.3

次に、2005年からの需要項目別の寄与度グラフは以下の通りです。上のテーブルにせよ、下のグラフにせよ、1次QEからの改定幅は小さいと受け止めています。

2次QE寄与度

今週月曜日の6月8日に経済企画協会の ESPフォーキャスト調査の結果が発表されていますが、民間エコノミストによる今年4-6月期の成長率見通しは、平均値で見て、先々月発表の時点では年率で▲1.46%のマイナス成長が予想されていたものの、先月の発表時点では+1.14%のプラスに転じ、今月は+1.64%までカギカッコ付きの「上昇」を見ました。年率1.5%を超える成長率見通しは、明らかに、現時点の我が国の潜在成長率を超えるものです。また、この調査では、私が早くから指摘していた通り、W字型の成長率パスが明確に読み取れます。要するに、今日発表された2次QEは過去の数字と受け止めるべきです。
しかし、1点だけ私が気にかけているのは、在庫調整の進展です。これについてはかなり慎重な検討が必要です。すなわち、昨年10-12月期の在庫は後ろ向きの売残りによる在庫の積み上がりがあって、GDP成長率への寄与度で見て+0.7%ありました。1次QEではこの在庫調整が同じくGDP成長率への寄与で見て▲0.3%しかなく、先月20日の1次QE発表の際のエントリーで在庫調整の遅れを指摘したんですが、この在庫調整の進展を表すマイナス寄与度が2次QEではさらにマイナス幅を小さくして▲0.2%となりました。これは在庫調整の遅れであろうと私は受け止めているんですが、ひょっとしたら、一部の業種では在庫の積増し局面に入っていて、相殺された結果である可能性は否定できません。マクロの統計だけでなく、ウワサ話の類も知りたいところですが、長崎というやや不利なロケーションのために、私には情報がありません。判断しがたいところです。

エコノミストの間で、今年1-3月期が景気の底で、この先の景気パスはW字型を描くとのコンセンサスが出来上がりつつあるように見受けられます。私が早くから主張して来た通りになって喜ばしい限りです。他方で、東証平均が10000円に近付きつつある株価についてはW字型の景気パスを考慮すれば、この先しばらくした時点で一時的な調整局面に入る可能性も見逃すべきではありません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月10日 (水)

財政再建はいかにして可能か?

昨夕、経済財政諮問会議が開催され、「骨太方針2009」の素案と2020年代初頭までの財政試算が提示されました。まず、会議の概要について、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

政府の経済財政諮問会議は9日の会合で、経済財政運営の基本方針「骨太方針2009」の素案と20年代初頭までの財政試算を提示した。素案では新しい財政再建目標の一つを「今後10年以内の国・地方の基礎的財政収支の黒字化」と設定。目標達成には消費税率の12%への引き上げが必要と試算している。諮問会議は23日に「骨太09」を正式決定する方針だが、与党との調整が難航する可能性もある。
基礎的財政収支は新たな借金をせずにその年度の政策経費を賄えるかをみる指標。政府は06年に11年度までの黒字化目標を掲げたものの、急速な景気悪化で達成はほぼ不可能になった。

私が興味あるのは「骨太方針」もさることながら、有識者議員が参考資料として提出した「経済財政の中長期試算」と題する2020年代初頭までの財政試算です。この資料の pp.5 を丸ごと引用したのが以下の3枚のグラフです。世界経済が順調に回復するとの前提の下で、ピンクの折れ線が消費税率を据え置く場合、緑が消費税率を2011年度から毎年1%ポイントずつ計3%ポイント引き上げる場合、赤が同じく5%ポイント引き上げる場合、青が同じく7%ポイント引き上げる場合を示しています。3枚のグラフは上のパネルが国・地方の基礎的財政収支すなわちプライマリー・バランス、真ん中のパネルが同じく財政収支、下が同じく公債等残高のそれぞれの名目GDP比です。なお、黒い折れ線は1月に消費税率を5%ポイント引き上げるとの前提で試算した際のものです。それ以降、景気浮揚のための財政出動により財政状況は大きく悪化しています。その他の諸前提については引用元を参照下さい。

経済財政の中長期試算

試算結果は見れば明らかなんですが、消費税率を10%まで引き上げると2021年度に、同じく12%まで引き上げると2018年度に基礎的財政収支、いわゆるプライマリー・バランスがプラスに転じる一方で、消費税率を据え置いたり、3%ポイントの引上げだったりしたら、試算期間中にはプライマリー・バランスは黒字化しませんが、着実に赤字幅は減少します。ややこじつけですが、今年2月4日付けのエントリーで紹介した「財政の持続可能性に関する考察」と題する3月号の大学の紀要に掲載した研究ノートでは、私の知る限りで、もっとも緩やかな財政サステイナビリティの検証として、UCSD のボーン教授の方法を紹介していて、この検定では直感的にプライマリー・バランスが赤字であっても赤字幅が縮小していれば財政はサステイナブルと判断されますから、消費税率を引き上げなくても日本の財政は緩やかに持ち直すように見えなくもありません。繰り返しますが、ボーン教授の検定を持ち出すのは、ほとんど知っている人がいないだけに、ややペダンティックなこじつけと言えるかもしれません。
いずれにせよ、5月11日付けのエントリーで強調した通り、政府債務残高の最適水準に関しては、控えめに言っても、エコノミストの間でコンセンサスはありません。ただし、先月からのちょっとした変化として、国債価格がジワジワと下落を始めており、逆に、長期金利が上昇して来ており、マクロ経済や金融市場の安定が損なわれる前兆と見なすエコノミストも中にはいるかもしれない可能性はあり得ます。しかしながら、これも5月11日付けのエントリーの繰返しになりますが、将来の増税にコミットしてリカード等価定理の成立を助長したり、あるいは、feed the government 政策を取ることは、私には賢明と思えません

最後に、ついでながら、本日、内閣府から発表された4月の機械受注統計のグラフだけ取り上げておきます。コア機械受注と呼ばれる船舶・電力を除く民需は前月比▲5.4%となり、ほぼゼロ近傍であった市場コンセンサスを下回りました。これで、4-6月期は先月発表された見通しの▲5%減に近い数字が出るものと私は考えています。4月統計の特徴は、政策によって支えられた電気機械や自動車工業が発注元として3月に続いて大きく伸び、4月には前月比で2ケタ増となった例外を除いて、他のセクターからの発注が逆に落ち込んでいることと、コア機械受注からは外れますが、外需が引き続き大きく落ちていて、海外の輸出先における在庫調整が今回の景気後退局面で重要な役割を果たしたとの私の推測を裏付けている点です。いずれにせよ、早くてもコア機械受注の底打ちは年央以降で、GDPベースの設備投資が持ち直すのは今年年末から来年年初になる可能性が高いと私は考えています。ついでながら、長崎ローカルで注目度の高い船舶も依然高水準ながら、今年に入ってから受注残高も手持ち月数もジワジワと落ち始めています。

機械受注統計

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 9日 (火)

やや強引ながら景気動向指数から今年3月を景気の谷と判定

本日午後、内閣府から4月の景気動向指数が発表されました。先行指数・一致指数ともに前月から1.0ポイント上昇して先行指数は76.5、一致指数も85.8となりました。先行指標は2月が底でしたので、3か月後方移動平均は0.10ポイントの上昇と、22か月ぶりの上昇に転じました。一致指数のうち現時点で公表されている9指標を見ると、マイナスを続けているのは投資財出荷指数と有効求人倍率だけとなっており、残る7指標は鉱工業生産指数をはじめとして大口電力使用量や所定外労働時間指数などがプラスとなっています。
いつものグラフは下の通りです。赤い折れ線が一致指数、青が先行指数です。なお、影を付けてある景気後退期は、暫定的に、今年3月を景気の谷としています。もう少し指標を見る必要があるのはいうまでもありませんが、あくまで暫定です。ですから、5月15日付けのエントリーで取り上げたミッチェル的な景気の2分法に従えば、景気は回復局面に入ったと考えています。

景気動向指数

1990年からのバブル崩壊後の景気後退から直近に終了した景気後退まで、4回の景気後退のエピソードを表に取りまとめると以下の通りです。

下落幅 (率)
<月当たり下落率>
1990年10月 104.31993年12月 79.9▲24.4 (▲23.4%)
<▲0.62%/月>
1997年5月 96.01998年12月 84.0▲12.0 (▲12.5%)
<▲0.66%/月>
2000年12月 95.62001年12月 84.0▲11.6 (▲12.1%)
<▲1.01%/月>
2007年8月 105.22009年3月 84.8▲20.4 (▲19.4%)
<▲1.02%/月>

今回の景気後退は、まず、深さという点からすれば1991年からのバブル崩壊後にかなり近く、調整のスピードという点からは今世紀初頭のITバブル崩壊後とほぼ同等のものでした。1991年からのバブル崩壊後の景気後退の83%に当たる調整をほぼ半分の期間で、すなわち、猛烈なスピードにより済ませてしまったのが、強烈な景気後退との印象を強くしたんではないかと思います。日本経済の景気後退だけについて言えば、深さという点からは100年に1度は誇張であるかもしれませんし、調整スピードという意味でも過去にほぼ同様の例がありますが、この猛烈なスピードで20か月近くに渡った景気後退局面という意味では100年に1度くらいなのかもしれません。国内から世界に目を転ずれば、ちょうど1週間前の6月2日付けのエントリーで取り上げたように、GMの経営破綻という歴史的なイベントもありましたし、この世界的な景気後退局面で、エコノミストとしては貴重な瞬間を目の当たりにしたような気がしないでもありません。

今日から九州も梅雨入りし、授業に行くのも傘が手放せなくなりました。まだ長崎で四季を通じて生活したわけではない私にとって、ある意味で、もっともツラい季節かもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 8日 (月)

かなり強気な景気ウォッチャー調査結果と2次QE予想の取りまとめ

本日午後、内閣府から5月の景気ウォッチャー調査結果が発表されました。現状判断DIは前月比2.5ポイント上昇の36.7となり、5か月連続の上昇でした。同じく、先行き判断DIも前月比3.6ポイント上昇の43.3でした。私はかなり強い数字であり、国民のマインドが大きく改善していると受け止めています。特に、家計部門については、新型インフルエンザの影響により、旅行・飲食関連を中心にキャンセルの急増や売上の減少があったものの、環境対応車の購入に係る減税・補助、グリーン家電の購入に係るエコポイント付与、定額給付金の給付やプレミアム付き商品券の発行、高速道路料金の引下げによる需要増などが寄与していると考えられています。企業部門は明らかに出荷や生産が下げ止まっています。これを裏付けるように、東京商工リサーチの企業倒産調査によれば、今年5月は1年振りに倒産件数、負債総額とも前年同月を下回りました。もっとも、帝国データバンクの倒産集計によれば、相変わらず、倒産件数、負債総額とも増え続けています。このあたりは、私はそんなに詳しくないんですが、いずれにせよ、景気後退期は1-3月期ですでに終了し、転換点を過ぎた可能性があります。
いつものグラフは以下の通りです。青い折れ線グラフが現状判断DI、赤が先行き判断DIです。いずれも昨年12月を底に上昇に転じています。なお、影を付けた景気後退期はそろそろ1-3月を底にヤメにしようかと考えないでもないんですが、明日発表の景気動向指数を見て判断したいと思います。

景気ウォッチャー調査

次に、以下の表は今週木曜日11日に発表予定の今年1-3月期のGDP速報改訂値、いわゆる2次QEの予想です。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめてあります。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。詳細な情報にご興味ある方は左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲3.9%
(▲14.8%)
在庫投資の下方修正を設備投資や公共投資の上方修正が上回る
みずほ総研▲4.1%
(▲15.5%)
設備投資や公共投資は上方修正される一方、在庫投資が下方修正されるため内需寄与度のマイナス幅が拡大
ニッセイ基礎研▲4.1%
(▲15.4%)
民間在庫の下方修正を設備投資、公的固定資本形成の上方修正が打ち消す形となるため、GDP全体の修正は小幅
三菱総研▲3.9%
(▲14.5%)
公的資本形成、民間設備投資は上方修正となる一方で、民間在庫品増加が下方修正
三菱UFJ証券▲4.1%
(▲15.4%)
設備投資が上方修正の一方、在庫投資は下方修正に
第一生命経済研▲3.9%
(▲14.8%)
上方修正だが、修正幅が小さいため、景気認識の変更をもたらすものにはならない
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲4.4%
(▲16.6%)
在庫投資の前期比寄与度は-0.9%へと大幅に下方修正

要するに、各機関とも在庫が下方修正される一方で、設備投資と公共投資が上方修正され、総合的に修正幅は小さいと見ています。第一生命経済研のヘッドラインの通り、景気認識に大きな変更がもたらされることはないであろう点も一致しています。次の4-6月期がプラス成長と考えられるだけに、今回の1-3月期の2次QEは過去の数字であり、そんなに注目度は高くないような気がします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 7日 (日)

今シーズン初の4連勝で阪神は調子の波に乗れるか?

交流戦ロゴ

  HE
ソフトバンク020001000 370
阪  神200000002x 4110

この週末はCATVで阪神戦をテレビ観戦し、しかも、しっかり勝ってくれたので大満足です。今日はアニキ金本外野手が逆転サヨナラで決めました。一応、念のためですが、スコアボードの上の画像は日本生命セ・パ交流戦のサイトから引用しています。
途中少し中抜けはありましたが、序盤を終盤をしっかりとテレビで楽しみました。まず、序盤で、1回ウラの攻撃では、私はブラゼル内野手が杉内投手を打てるとは思えず、「スカッと三振だろう」と得々とおにいちゃんに予言していたんですが、これは計算違いでした。ブラゼル効果という言葉がますます広まりそうな気がします。終盤では、9回ウラの鳥谷遊撃手にバントのサインが信じられませんでした。実に、監督の采配のセンスが悪い気がしてなりません。解説の岡田前監督も「今年の3番なんだから」みたいなことを言っていました。私も同感です。最後は言うまでもありません。舞台がそろって千両役者が決める、それが今日のようなパターンであることはすべての阪神ファンの認めるところだと思います。

昨日と同じですが、今年はAクラスとクライマックス・シリーズ目指して、
がんばれタイガース!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

フェデラーは全仏オープンを制してグランドスラムなるか?

Roland Garros - The 2009 French Open - Official Site by IBM

何となく、昨夕の阪神3連勝の虎ブロに続けてスポーツの話題ですが、スタッド・ローラン・ギャロスで開催されているテニスの全仏オープンが最終盤を迎えています。昨日は女子シングルスのファイナルでクズネツォワ選手がサフィナ選手を下して、2004年全米オープンに続いてグランドスラム・トーナメント2勝目、全仏は初優勝です。逆に、サフィナ選手はWTAランキング第1位にいながら、グランドスラム・トーナメントの優勝はまだありません。次に期待します。
男子に目を転ずると、今年はフェデラー選手に全仏で優勝させたい、優勝して欲しいという雰囲気が高まっているような気がします。とりわけ、ナダル選手が4回戦で敗退した後の記者会見で、「フェデラーに優勝して欲しい。彼は3度も決勝で負けて来たんだから。」と発言してから、フェデラー優勝待望論が盛り上がっているような気がします。朝日新聞のサイトにある記事がこの雰囲気をよく伝えています。この記事によれば、杉山愛選手も「みんな言ってますよ。『こうなったらフェデラーに勝ってほしい』って。私もそう思います。彼は誰よりもこれまで悔しい思いをしてきたから。ナダルがいなくなって、グッとチャンスが出てきましたからね。」と発言していたりします。
今日のファイナルの相手は4回戦でナダル選手を下したソデルリング選手ですが、ファイナルまで勝ち上がった相手選手に失礼と思いつつも、何となく私もこういった雰囲気は分からないでもありません。特に、フェデラー選手が勝てば、史上6人目の四大大会全制覇、いわゆる生涯グランドスラムを達成することになりますし、かつてのサンプラス選手の持つ14勝のグランドスラム・トーナメント最多優勝記録にも並びます。応援する方にも力が入るというものです。特に、今年の全仏オープンは日本選手の活躍がほとんど聞かれませんでしたから、応援のエネルギーも余っている気がしないでもなく、日本時間今夜の男子シシングルスのファイナルは注目かもしれません。

私も長崎に単身赴任して、そろそろ何かスポーツをと考えないでもないので、週末の日曜午後に軽くテニスの話題を取り上げてみました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 6日 (土)

久々の快勝の3連勝なので虎ブロなのだ!

阪神タイガース2009年ロゴ

  HE
オリックス000000000 050
阪  神00131200x 7131

いやあ、パリーグ最下位のオリックス相手とはいえ、順調に点を取って福原投手が完封して、久々に完璧なタイガースの勝利でした。ついつい、私もうれしくて、これまた久々の虎ブロのアップです。いつものお断りですが、スコアボードの上の2009年ロゴは阪神タイガースのホームページから引用しています。
3回裏の最初の1点こそ、狩野捕手がヒットの後、送りバントを決められず、盗塁の後の赤星外野手の渋い当たりのタイムリーで、いかにも阪神らしいヨタヨタした先制点でしたが、その後はかなり打ち勝った気がします。もちろん、福原投手の3打点はオマケとしか言いようがありませんが、最後には、鳥谷遊撃手の逆風をついたレフトオーバーの当たりが出たのは、打点も付いたことですし、いい兆候だという気がします。昨日から戦列に加わったブラゼル内野手の活躍も見逃せません。

すでに、私は今年のリーグ優勝は諦めましたが、Aクラスに入りクライマックス・シリーズ出場目指して、
がんばれタイガース!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

米国雇用統計のグラフィックス

昨夜、今年5月の米国雇用統計が米国労働省から発表されました。まず、統計のヘッドラインを報じた記事を New York Times のサイトから最初のパラだけ引用すると以下の通りです。

The American economy shed another 345,000 jobs in May as the unemployment rate spiked to 9.4 percent, but the losses were far smaller than economists expected, amplifying hopes of recovery.

要するに、家計を対象に調査している失業率は8.9%からさらに上昇して9.4%になりましたが、事業所を対象に調査している非農業部門雇用者数の減少幅は昨年11月から続いていた▲50万人超から▲30万人台半ばまで縮小しました。過去の景気循環日付を調べた経験的な観点から、そろそろ景気の底が見えて来たと言えます。日本は今年1-3月期が、米国は今年4-6月期が景気転換点と事後的に判断される可能性が高いと私は受け止めています。
ということで、米国雇用統計のヘッドラインのグラフは以下の通りです。上のパネルの赤い折れ線グラフは非農業部門雇用者数の前月差、下のパネルの青の折れ線は失業率です。どちらも季節調整済の月次データです。

米国雇用統計

加えて、New York Times のサイトにあるフラッシュは以下の通りです。いつものように、直リンしています。

さらに、Los Angels Times のサイトにあるフラッシュについても以下の通りです。これまた、直リンしています。

週末の土曜日ですので、米国の新聞サイトにあるフラッシュを引用して、お手軽に済ませておきます。それにしても、海外サイトではフラッシュをかなり見かけるようになりましたが、日本のメディアのサイトではいまだに jpeg 画像が主流で、gif ですらなく、フラッシュに至ってはほとんど見かけないのは、彼我の技術力の差だったりするんでしょうか?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 5日 (金)

村上春樹『1Q84』(新潮社) を読む

今週の日本経済論の授業シリーズは都合によりお休みとし、今夜は先週発売された村上春樹さんの『1Q84』(新潮社) を取り上げたいと思います。私も村上ファンの例に漏れず、発売と同時に買い求め、やや時間はかかりましたが、最近読み終えました。朝日新聞のサイトによれば、6月4日現在で BOOK 1 が51万部、BOOK 2 が45万部売れていて、次の入荷は6月10日ころとのことです。BOOK 1 とBOOK 2 をほぼセットで買っているとして、大雑把に、昨日までに『1Q84』を買ったのは日本人の0.5%ですから、私がその中に入るのは当然という気もします。なお、今夜のエントリーは敬称略で書き進めます。それから、ネタバレが含まれているかもしれません。ご容赦ください。

村上春樹『1Q84』(新潮社)

まず、形式は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『海辺のカフカ』と同じように奇数章と偶数章でパラレルに物語が進みます。ただし、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では「私」と「僕」が交互に1人称で登場し、また、『海辺のカフカ』では主人公の章は1人称、ナカタさんの章は3人称となっていましたが、『1Q84』ではどちらも3人称で書き進められています。なお、奇数章の主人公は青豆、偶数章は天吾となっています。天吾の章で要をなすのは宗教と「リトル・ピープル」だと私は考えています。明らかに「ヤマギシ会」をモデルにしたと考えられる「ミヤザキ塾」とか、ここから派生した「さきがけ」や、さらにその武装分派の「あけぼの」、あるいは「エホバの証人」をモデルにしたと思しき「証人会」などが宗教で、「リトル・ピープル」はよく分かりません。我が家で全巻そろえてある『ダレンシャン』のシリーズに同じ名称の「リトル・ピープル」が出て来ますが、全12話を読破した下の子に聞いても、少し特徴が違います。当然でしょう。『1Q84』の「リトル・ピープル」は「空気さなぎ」を作ります。人間世界に対するいろんな影響力を持っています。詳細は読者の解釈に任せられているような気がします。でも、キーポイントであることは確かです。なお、「証人会」は青豆の章でも底流をなしています。加えて、青豆の章でキーポイントとなるのは DV かも知れません。というのは、村上ワールドを象徴している天吾の章に比べて、青豆の章はより実務的で、ゴルゴ13とまでは言わないにせよ、プロの世界だからです。
次に、諸説あるものの、私はこの『1Q84』は村上春樹の最高傑作だとほぼ無条件で考えています。それほど、文体もストーリーも完成度が高いといえます。ただし、1点だけ、BOOK 2 の第4章で天吾が唐突に青豆を思い浮かべるのは少し違和感があります。でも、これは同じくBOOK 2の第23章で青豆が自殺する唐突感と通ずるものがあり、この『1Q84』を完結させるための一種の方便だと私は捉えています。上下ではなく、思わせ振りな BOOK 1 と 2 というネーミングからして、この『1Q84』の続編がある可能性の議論もなされているやに聞き及びますが、私は少なくとも現時点で村上春樹は完結を意図していると私は受け止めています。青豆の自殺が大きな理由です。エンディングに含みを持たせているものの、青豆を欠いて物語は続きようがありません。コナン・ドイル卿の「シャーロック・ホームズ」と同じというか、違うというか。

最後に、繰り返しになるものの、私はこれまで村上春樹の最高傑作といえば『ねじまき鳥クロニクル』と『海辺のカフカ』で悩んでいたんですが、これで文句なく『1Q84』が最高の村上作品だといえるようになりました。数年のうちにノーベル文学賞が授賞されるものと期待しています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 4日 (木)

第67期名人戦7番勝負第5局は郷田九段が先勝

このブログでいつも取り上げている第67期名人戦7番勝負は、一昨日の6月2日から昨夜にかけて秋田市の秋田キャッスルホテルで第5局が指し継がれ、昨夜、割合と早くに郷田九段が羽生名人に137手で勝って対戦成績を3勝2敗とし、名人位奪取にあと1勝と迫りました。今年の名人戦で先手が勝ったのは5局目にして初めてだそうです。下の画像は朝日新聞のサイトから引用した終了図です。

第67期名人戦7番勝負第5局終了図

第3局と同じように横歩取りから乱戦模様となり、1日目から控室なんかでは「郷田有利」との声も上がったそうです。2日目も郷田九段が攻め、羽生名人が耐える展開が続きました。郷田九段は馬を2枚作り、羽生名人の飛車を攻めつつ盤上を制圧しようとする一方で、羽生名人は陣形を低く構え、驚異的な粘りで逆転のチャンスを待ちます。一時は千日手で指し直しの可能性も取り沙汰されましたが、郷田九段が千日手の成立に必要な4手目に達する前に手を変えて攻め続け、馬2枚を効果的に生かして、さらに、羽生名人の飛車も手に入れ、最後は押し切った格好になりました。
さて、上の終了図ですが、5月22日のエントリーで取り上げた前回の第4局と違って、誰がどう見ても詰みまでほど遠いように見えます。しかし、新聞などの解説によれば、後手番の羽生名人は攻めの糸口さえ見出せず、攻防ともにまったく見込みのない状態で、こうなったら名人戦クラスでは投了なんだそうです。シロート将棋なら、まだまだ30手くらいは続きそうな気がしないでもありません。なお、まったくどうでもいいことですが、5月22日のエントリーで取り上げた第4局の終了図について、このブログで5手詰めと書きましたが、よくよく数えると7手詰めの間違いでした。2週間ほど遅れましたが、お詫びして訂正します。

郷田九段が名人位に王手をかけ、注目の第6局はさ来週の15-16日に京都市の東本願寺渉成園で行われる予定です。枳殻邸とも別称される見事な庭園で、江戸初期に第3代将軍徳川家光から寄進された土地に東本願寺第13代法主宣如上人の隠居場所として石川丈山が作庭したものです。京都出身者からの一口メモでした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 3日 (水)

新しいペーパー「九州7県における人的資本の推計」を書き上げる

今月も新しいペーパーを書き上げました。タイトルは「九州7県における人的資本の推計」です。内閣府が取りまとめている県民経済計算を用いて、1人当たりの雇用者所得から時系列的な確率過程を応用して人的資本を推計しています。具体的には AR(1) を当てはめて雇用者1人当たりの人的資本を推計した上で、県内市場の大きさの代理変数と大学志願率及び非正規労働者比率の質的な代理変数を用いてパネル推計を行っています。まず、九州7県の人的資本のうち、長崎県の推計結果は以下の通りです。水色の棒グラフは各年度の人的資本額で、左軸の単位は万円です。赤い折れ線は各年度の福岡県の人的資本額を100とした、いわば格差指標です。

長崎県における人的資本の推移

データが利用可能な直近の2006年度を見ると、雇用者1人当たり人的資本の九州7県における最高額は福岡県の7627.3万円、最低は長崎県の6337.0万円、長崎県の対福岡県格差指数は83.1パーセント、人口でウェイト付けしない九州7県の単純平均は6913.5万円となっています。長崎県の場合は、対福岡県の格差は大雑把に広がる一方のように見えます。もちろん、ペーパーには九州7県すべての人的資本が推計されています。

九州7県における人的資本の格差

次に、上のグラフは九州7県における人的資本の格差について、一般的な変動係数と第2のタイル指標を計算したものです。青い折れ線が変動係数で左軸、赤が第2のタイル指標で右軸に、それぞれ、対応しています。2000年度を底に、今世紀に入ってから格差が拡大しているのが見て取れます。特に、2002年度には跳ねています。小泉内閣の成立と何らかの関係があるのかどうか、興味あるところです。もちろん、この格差は各県の平均的な人的資本における県間のマクロ的な格差であって、県内のマイクロな格差ではありません。一般的には後者の方に興味が集まっているような気がしますが、今回のペーパーの分析対象は異なります。
最後に、九州7県における人的資本格差をパネルデータで推計しています。県内総生産の量的な代理変数は統計的に有意に正となり、質的な代理変数である大学志願率と非正規労働者比率は統計的に有意ではないものの、経済的に予想される符号、すなわち、大学志願率は正、非正規労働者比率は負となりました。要するに、大学志願率が高まれば人的資本は増加し、非正規労働者比率が上昇すれば人的資本は低下することがパネルデータ推計から確かめられました。当然です。

財政の持続可能性の研究ノートは別にして、推計モノのペーパーとしては3本目です。EViews を使った状態空間モデル、RATS を使ったマルコフ・スイッチング・モデル、そして、今回は STATA を使ったパネルデータ推計です。いろんなソフトを使って、いろんな推計を虫干ししています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 2日 (火)

連邦破産法11条にファイルした GM はどうなるのか?

大々的に報じられているように、GM が連邦破産法第11条にファイルしました。株式の過半を連邦政府が掌握して、事実上、国有化され再建を目指すとの報道です。やや私の専門のマクロ経済学とは毛色の違う分野ですし、制度的なことは詳しくないので、引用ばかりでブログを埋めるのは決して好きではないんですが、今日はネットにアップされている図表を中心に全国紙各紙の報道を見ておきたいと思います。もちろん、報道内容は大きく変わらないのはいうまでもありません。米国のみならず、日本を含めた世界経済へのネガティブな影響を回避するためにソフトランディングを期待しつつ、でも再建はそう容易ではないというトーンが支配的な気がします。各紙の引用元にはリンクを張ってあります。

まず、朝日新聞です。

GM に関する朝日新聞の報道から

次に、読売新聞です。

GM に関する読売新聞の報道から

最後に、毎日新聞です。

GM に関する毎日新聞の報道から

要するに、金額ベースで 2/3 超、人数ベースで過半数の債権者の同意を取り付けて、裁判所で再建計画が承認された後、部分的に清算した後の新生 GM は米加両国政府の管理下に置かれ、現在の生産体制からほぼ半減した生産台数にスリム化し、再上場を目指して米加両国政府は exit を果たすというものです。私はもっとも難しそうなのはこの最後の exit の段階ではないかと予想しています。さすがに、1-2年後には景気もかなり回復しているとの期待もありますが、大量に株式市場で売却を図れば希薄化による株価への影響が生ずる恐れもありますし、時期と放出量の兼合いが難しそうな気がします。しかし、日本が経験した銀行への資本注入などを考え合わせると、確たる根拠のない直感的な印象ながら、米加両国政府の GM ディールはかなり確度高くプラスのリターンを得られる取引であると私は受け止めています。少なくとも、財政的にロスを生じたとしても、社会的厚生関数の観点からは十分にバランスするんではないかと考えています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 1日 (月)

大学教育に関する読売新聞の報道から

いくつか、最近の読売新聞の報道で大学教育に関する記事を見かけました。基本的に、私は読売新聞についてはスポーツ面の報道がはなはだ不愉快に感じるので、決して購読することはしませんが、有益な画像を提供してくれたりするので、ネットではチェックしています。ということで、まず、見たのは以下の通りです。

上の各サイトから引用した画像が以下の通りです。上下で対応していますが、見れば分かると思います。

大学教育に関する読売新聞の報道から

まず、上の画像の代表的な「ダメ教員」の例なんですが、確実に私に当てはまるのが1項目あり、それは5項目めの「飲食や私語、化粧を注意しない」です。昨年度後期に夜学の講義を担当したこともあり、仕事で遅くなった勤労学生に夕食を我慢させたり、逆に、夕食のために授業に遅刻したりするよりは、まだ教室で飲食しつつ授業を聞いた方が効率的と判断し、少なくとも飲食については私の授業では自由と言い渡してあります。今年度前期も1コマ目の授業があり、同じ理由で、朝食を抜くより、あるいは、朝食のために授業に遅刻するより、食事しつつ授業を聞いた方がマシと考えて、同じく、飲食自由です。私語については程度問題ですが、私はリバタリアンですから、周囲に迷惑をかけなければ、基本的に、授業中に何をしても自由です。机に突っ伏して寝ている学生もいたりしますが、私はお構いなしです。私語やイビキはうるさい可能性がありますが、飲食や化粧なんかは、授業を受ける態度として適当かどうかを疑問視する意見はあり得るものの、少なくとも、周囲に迷惑をかけているとは私には見えません。ですから、オッケーです。他はやっていない気がするんですが、4項目めの「どうせわからないだろうと見下す」の反対で、ホントにわかっているかどうかを気にして「大丈夫か、分かるか」を連発することはあります。でも、ほとんど反応がないのは慣れました。
下の表の保護者への成績表の通知については、本学はどちらにも入っていません。それだけ注目度が低いんだろうと私は考えているんですが、少なくとも、私の母校の京都大学はやってない方を代表しているように記事では扱われています。当然です。また、読売新聞のこの記事の全体の論調も過保護とサービス過剰でやや批判的だという気がします。法的にも18歳成人が話題になっていることもあり、少なくとも私は周囲の本学の大学生は大人と見なすと言い渡してあります。もちろん、酒・たばこや選挙の投票などは法律に明記してあるので、私にはどうしようもありませんが、大学の勉学に関する基本的な判断は本学レベルの大学生ならできるんではないかと期待しています。その代わり、自己責任を強調することも忘れていないつもりです。少なくとも、授業への欠席や遅刻・早退などは自己責任で考えて判断すればいいと私は思っています。一応、嫌味も込めて、授業への出欠などについて、どうしても自己責任を取りたくない学生は挙手すれば私が指示すると言い渡すと、さすがに、挙手する学生はいませんでした。

前期の授業をほぼ半分終えて、そろそろ、試験問題を考え始めている今日このごろです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年5月 | トップページ | 2009年7月 »