本日、財務省から今年5月の貿易統計が発表されました。前年同月比で見た輸出額の減少幅が4月よりやや拡大しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。
財務省が24日発表した5月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額が前年同月比40.9%減の4兆209億円になった。自動車や鉄鋼の輸出が振るわなかった。下落率は前月よりも小幅ながら拡大。生産活動に下げ止まり傾向は出ているものの、外需の本格回復にはなお時間がかかっている。輸入額も42.4%減の3兆7211億円と、過去2番目の下落率になった結果、差し引きの貿易収支は2998億円の黒字と、1年前の水準まで回復した。
ゴールデンウイークの影響で今年の5月は昨年に比べて2営業日少ないことも輸出額を押し下げた。季節性を除いた輸出額の前月比は0.3%減とほぼ横ばいだった。海外景気に回復の兆しが出ているが、輸出を大きく押し上げるほどの動きにはなっていない。
いつものグラフは以下の通りです。上下のパネルとも季節調整していない月次の原系列で、上のパネルは輸出入と貿易収支、左軸の単位は兆円です。下のパネルは輸出額の前年同月比増減率を価格と数量で寄与度分解したものです。特に下のパネルで、前年同月比で見た輸出の減少率が今年2月で底を打って3-4月は縮小に転じていたのが、5月は再び拡大しているのが見て取れます。
貿易収支ベースで考えて、市場の事前コンセンサスが2000億円強の黒字でしたから、引用した記事にもある通り、3000億円近い黒字はこれを上回ったことになります。相変わらず、輸出入とも前年同月比で▲40%を超える下落となっている一方で、季節調整値で見た輸出は5月こそ▲0.3%減となり、一部に失望感を表明する向きもあるやに聞き及びますが、2月を底に輸出の回復基調が続いていると私は受け止めています。大雑把に、国別では中国向けの輸出がやや失速し、財別では素材の減少が続く中で加工品は増加を示しています。輸出がまずまずの数字でしたから、5月の鉱工業生産指数も順調に増加するものと私は予想しています。
さらに、本日、パリに本部のある経済開発協力機構 (OECD) から経済見通し OECD Economic Outlook No. 85, June 2009 が発表されました。OECD のサイトでは、いくつかの Preliminary edition が同時に公表されており、以下の表は Chapter 1 - General assessment of the Macroeconomic Situation と OECD Economic Outlook No. 85 - Country summaries, Japan から引用しています。
日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。
経済協力開発機構(OECD)は24日、エコノミック・アウトルック(経済見通し)を公表した。加盟30カ国の2009年の国内総生産(GDP)成長率をマイナス4.1%とし、前回3月調査から0.2ポイント上方修正した。上方修正は2年ぶり。OECDでは「在庫調整進展、非OECD諸国の経済回復、企業の信認回復、景気刺激策などで経済収縮が緩やかになっている」と指摘。10年は0.7%増とプラス成長に転換すると予測した。
ただ先行きについては「全体の景気底打ちは今年後半になる可能性が高く、その後の回復も弱い」とし、米欧の失業率上昇に懸念を示した。
全体の失業率は09年が8.5%。10年は9.8%。欧米が深刻でユーロ圏は10年に12.0%に達する見通し。日本の失業率は5%台で推移する予測だが、インフレ率(消費者物価総合指数)が両年ともマイナス1.4%で米欧を大きく下回る予測になった。
記事の通りなんですが、今年1-3月期に世界的に見ても景気の最悪期を脱し、やや経済見通しが上向いているものの、OECD の表現を借りれば、"A weak recovery from widespread recession" ということになります。我が日本は2009年の成長率が▲6.8%と大きなマイナスになった後、2010年は+0.7%と予想されています。また、同じく Preliminary edition が公開されている Chapter 4 - Beyond the Crisis: Medium-Term Challenges Relating to Potential Output, Unemployment and Fiscal Positions では、タイトル通り、潜在成長率水準の引上げ、失業の緩和、財政再建などが中期的な目標として議論されています。Box 4.1. で日本の潜在成長率は日銀資料を引いて▲0.5%ポイントの低下と紹介されていて、別の Table 4.1. で明らかにされている OECD の試算によれば資本蓄積の低下の寄与が大きいと結論されています。財政再建については日本が最悪の財政状態にあることは誰の目にも明らかで、グロスの財政赤字のGDP比が2010年以降は200%を上回るとの試算を Table 4.4. で示しています。表番号が逆になりましたが、この結果、Table 4.3. に示された中期シナリオとして、日本の2010-17年の平均成長率は1.7%程度と試算されています。
誠についでながら、昨日、同じく OECD から Pension at a Grance 2009 が発表されました。副題は Retirement-Income Systems in OECD Countriesとなっています。リポートのタイトル通り、OECD加盟国の年金制度の概要を取りまとめています。日本のメディアで注目を集めたのが年金の所得代替率で、グロスで見た日本の所得代替率がかなり低くリポートされています。これも日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日本の公的年金の支給水準は現役時代の所得の3割強と、主要7カ国(G7)では英国に次いで2番目に低いことが、経済協力開発機構(OECD)が23日発表した「図表で見る年金2009」で分かった。
OECDは加盟30カ国の男性の単身世帯について、現役時の所得の何割を公的年金で受け取るかを示す「所得代替率」を集計。平均的な所得の場合、税・保険料控除前の日本の所得代替率は33.9%で、OECD平均(59.0%)を下回った。
ということで、まず、リポートから関連するグラフをいくつかピックアップしました。下のグラフのうち、上の2つのパネルは日本に関するCountry-specific highlights から、一番下の表は記者発表資料から、それぞれ引用しています。
一番上のパネルが平均所得の半分程度の所得階層、OECDの基準で言えば貧困層に当たる階層の所得代替比率で、ここでは日本が47.1%、ドイツが最も低くなっています。引用した日経新聞の記事では平均的な所得階層を取り上げていますので、日本は33.9%となり、英国が最も低い値を示しています。ちなみに、OECDの試算によれば、逆に、平均的な所得の1.5倍の富裕層では日本は29.4%となっています。これもG7の中では英国に次いで低い比率です。
私は従来から現在の日本の高齢層の年金は恵まれていると主張して来ましたが、一見すると、私の主張とOECDの試算の間には大きな隔たりがあるように見受けられます。どちらが信用されるかというと、圧倒的に私の方が不利なんですが、所得代替率の試算の前提にいくつかの違いがありそうです。まず、第1に、引用した日経新聞の記事にある通り、OECDは独身男性の場合を試算していますが、我が国では専業主婦のいる、いわゆるモデル世帯を前提にしています。私のこのブログの5月26日付けの「読売新聞の年金報道を読む」と題したエントリーでは、現時点2009年で65歳になる世代の所得代替率は独身男性43.9%に対して、モデル世帯では62.3%と1.5倍近い数字になっています。そして何よりも第2に、OECDの試算は2006年に20歳で労働市場に参入する前提となっていることです。そうです、実は、所得代替率が低いのは現在20歳代前半の若者なのです。長崎では、と言うか九州では夕刊がないので新聞でどのように報じられているかは私は現時点ではチェックしていませんが、現在、年金を受け取っている世代の所得代替率が低いのではなく、現時点で20歳代前半の若者の将来の所得代替率が低いことを正確に報じているメディアがどれだけあるかは、私自身でとっても心配です。しかも、上の図表の一番下のパネルにある通り、日本は年金改革を何も行っていません。リポートの全文に目を通したわけではありませんが、現在の高齢者の年金受給額を削減し、若者世代の将来の年金を増やす改革が必要だということを暗示しているのかもしれません。これは私の主張にぴったりマッチします。
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